ガルヴォルスMessiah 第26話「希望」

 

 

 正義と自由を賭けて、光輝と利矢は対峙していた。

 現在に至るまでヒーローへの憧れを抱き続けてきた光輝。ガルヴォルスに転化してからも、その力を世界と平和のために振るってきた。

 偽りの正義に人生を狂わされ、その復讐に全てを捧げてきた利矢。彼は光輝を正義の象徴として敵視し、世界を在るべき形にすべく戦ってきた。

 正義の中で戦いを続けてきた2人の青年。その2人が今、最後の戦いを始めようとしていた。

「吉川光輝、ここで決着を着けてくれる・・・!」

 力を込めた利矢がダークガルヴォルスに変身する。

「僕も負けるわけにいかない・・僕自身の正義のため、そして奈美ちゃんや、僕を支えてくれるたくさんの人たちのために・・・」

 利矢を眼の前にして、光輝は様々な思いを心の中に巡らせていた。その気持ちを集中して、彼は高らかに叫んだ。

「変身!」

 高らかに言い放った光輝が、シャインガルヴォルスへの変身を行う。彼の体からまばゆいばかりの光が放出される。

「勝負だ、利矢!」

 光輝が利矢に向かって飛びかかる。2人が同時に繰り出した拳が衝突し、激しく火花を散らす。

 その反動で弾かれる光輝と利矢。だが2人ともすぐに飛び出さず、相手の動きを伺う。

 ガムシャラに攻めるだけで勝てる相手ではない。光輝も利矢もそう思っていた。

(緊張が解けない・・何という凄まじい、殺気にも似た信念・・少しでも気を緩めたら、一気に串刺しにされてしまう・・・)

(さすがは光輝・・これほどまでに自分を貫こうとする意思だけは評価してやる・・・)

 光輝と利矢が互いの力を改めて痛感する。一瞬の油断が敗北を招く。2人ともそう思っていた。

(光輝・・利矢さん・・・)

 2人の戦いを見つめて、奈美は困惑を募らせていた。

 

 光輝と利矢の戦い。それをチャンスだと、ガルヴォルスたちが物陰から狙いを定めていた。

 彼らはこの戦いの決着に、総攻撃を仕掛けようとしていた。どちらが勝利を得たとしても、力を使い果たしていることに変わりはない。そこに付け入ろうとしていた。

「こんなチャンスに巡り会えるとはな・・」

「予想はしていなかったが、これでアイツらの命運もこれまでだ・・」

「いつでも仕掛けられるように準備しておくか・・・」

 ガルヴォルスたちが攻撃の出方を伺う。彼らはすぐにでも飛び出していきたいという気持ちを必死にこらえていた。

“2人の邪魔はさせない・・・”

 そのとき、ガルヴォルスたちの心に声が響いてきた。その声に彼らが余裕をなくして息を呑む。

「な、何だ、この声・・・!?

「どこから言ってきてる!?

 ガルヴォルスたちが声を荒げる。しかしその声の正体がどこにいるのか分からない。

“もしも邪魔してきたら、私が全員倒す・・・!”

 再び声が発せられた。その声に釘を刺されて、ガルヴォルスが畏怖を覚える。

「お、おい・・まずいんじゃないのか・・・?」

「とにかく、しばらく様子を見たほうがいいかもしれないな・・・」

 完全に滅入ってしまったガルヴォルスたちは、様子見に落ち着くしかなかった。

 

 光輝と利矢を狙うガルヴォルスの気配を、奈美は気付いていた。彼女はガルヴォルスに思念を送り、忠告したのである。

「どうしたの、奈美・・・?」

 そこへ麻子に声をかけられ、奈美が我に返る。

「う、ううん、何でもない・・」

 奈美が笑顔を作って答える。彼女はあえて、麻子と理子にガルヴォルスたちの接近を告げなかった。

(今は黙って見守るしかないよね・・光輝も利矢さんも、決心と覚悟を持っている・・その2人の邪魔をしたらいけないよね・・・)

 奈美はただ、光輝と利矢を雄姿を見守る一心だった。これを阻むものがあるなら、自らの力で退ける。それが彼女の決意だった。

 

 光輝と利矢の激闘は、さらに激しさを増していた。2人は組み合い、力比べに持ち込んでいた。

 光と闇が入り混じり、荒々しいエネルギーとなって周囲を揺るがしていく。

(これが利矢の力・・以前に戦ったときよりも、格段に力が上がっている・・・!)

(光輝も力を上げてきている・・1年も石にされていたとは思えない・・・!)

 増している相手の力に、光輝も利矢も驚きを感じていた。

(ヤツの心が、力の上昇をもたらしているというのか・・・)

 光輝の強さを理解する利矢。正義だけでなく、大切な人々との信頼関係が、光輝に力を呼び起こさせていることを。

(だが、オレの意思も、オレの力を限りなく上げていく!)

 利矢が力を上げて、光輝を押し付ける。突き飛ばされる光輝に、利矢が追撃の打撃を繰り出す。

 痛烈な攻撃を受けて、光輝が顔を歪める。しかし彼は踏みとどまり、向かってくる利矢を見据える。

「負けられない!」

 光輝も力を振り絞り、拳を繰り出す。2人の拳が衝突するが、利矢が光輝の力に押されて跳ね返された。

 再び距離を取る光輝と利矢。2人の戦いは一進一退の攻防となっていた。

「どうやら、心のどこかでお前を見くびっていたようだな・・ここまで力を上げられるとは・・」

「君もここまで力を上げていたなんて・・1年は、短いようで長かったわけね・・・」

 互いの力を賞賛する利矢と光輝。だが、だからこそ2人は負けられないと強く思っていた。

「オレは、それでもオレはお前を認められない・・お前が信じている正義も、お前がオレより強いことも!」

 眼を見開いた利矢が、光輝に向けて漆黒の刃を解き放つ。押し寄せる刃の群れを、光輝は素早く動いて回避していく。

「僕も君の過ちを認めたくない!誰だって悲しみを抱いている!理不尽に振り回されて、怒りを覚えることもある!だけど、だからって、人の命を奪うことが正しいとは、僕は絶対に認めない!」

「そんな偽善やきれいごとで、救いが生まれたりはしない!」

「偽善でもきれいごとでもない!大切なものを守る!それが僕の、僕たちの正義だ!」

 利矢の言葉に反発する光輝。飛び出してくる漆黒の刃をかき分けて、彼は利矢に向かっていく。

 だがその間にも、漆黒の刃は光輝の体を次々とかすめていっていた。その痛みにも光輝は耐えていく。

「ここまでやられながらも突っ込んでくるとは・・・!」

 利矢がさらに漆黒の刃を突き出す。だがそれさえも光輝は回避していく。

「必殺!シャイニングナックル!」

「くそっ!ダークブレイカー!」

 光輝と利矢が繰り出した光と闇の拳が衝突する。その爆発力に弾かれて、2人が突き飛ばされる。

 一進一退の攻防は続く。お互い拮抗したまま、時間と体力だけが消耗していった。

「オレが負ければ、世界が朽ちる・・・負けるわけにはいかないんだ・・・!」

 利矢が声を振り絞ると、全身から闇のオーラを放出させる。そのエネルギーを彼は自分の足へと集束させる。

「力を足に集めてる・・最強最後の技を使ってくる・・・!」

 光輝も意識を集中して、力を足に集めていく。

「ならば僕も、この一撃に全てを賭ける!」

 光輝の右足に光が灯る。光と闇が今、最後の衝突を迎えようとしていた。

(これで決着が着く・・光輝と利矢さん、2人の信念のどちらかが壊れる・・・)

 戦いを見守る奈美が息を呑む。最後の衝突は、もっとも荒々しいものとなる。

「もうちょっと離れたほうがいい・・2人の全力のぶつかり合いは、とてつもなく激しくなるから・・」

「奈美・・・それじゃ、ちょっとだけ離れようかな・・」

 奈美の呼びかけに麻子が苦笑を浮かべて頷く。理子も小さく頷いてから、2人とともに戦場から少し離れた。

「これで決着が着く・・どっちが勝つことになっても・・・」

 奈美は確信していた。次の瞬間に、光輝と利矢の宿命に終止符が打たれることを。

「ダークスマッシャー!」

「シャイニングシュート!」

 利矢と光輝が飛び出す。力を集束させた蹴りが、互いに向けて放たれた。

 その攻撃がぶつかった瞬間、光と闇が入り混じって爆発を巻き起こした。直後、その衝撃に入り混じりと拡散によって、この場のあらゆる音がかき消された。

 その無音の空間の中、光輝と利矢は互いを見据えていた。まるで時間がその瞬間で止まっているような感覚を、2人は感じていた。

(僕はかつての父さんのような非情な正義を振るわない・・弱きを助け、悪を叩く。それが僕の正義だ・・・)

(お前はいつも、そんなことを言い続けてきたな・・単純に見ても、馬鹿げてると思うくらいに・・・)

(だからずっと奈美ちゃんに文句を言われていたよ・・いつまでも子供みたいになってないで、シャキッとしなさいって・・・)

(だが今のオレには分かる・・今のお前は、その正義は単純なものではなくなっている・・そしてお前なら、この世界を変えられると・・・)

(この世界は、今もサターンの支配下だ・・この世界を、自由と平和にあふれた世界にしてみせる・・・僕の、僕たちの全てを賭けて・・・!)

(ならばやってみせろ・・お前の正義をどこまでも貫かせてみせろ・・・!)

 互いに心の声を通わせる光輝と利矢。互いの決意が交錯し、ひとつになって光輝に宿っていく。

(僕は行く・・みんなのところに・・みんなと一緒に・・・)

(行け、光輝・・・お前がどこまで行けるか、オレは見守ってやる・・・)

 この心の会話の直後、利矢の姿が光輝の前から姿を消した。彼の体が白んでいく光の中に消えていった。

(ありがとう、利矢・・・さようなら・・・)

 利矢に別れを告げて、光輝は意識を現実に戻した。

 

 白と黒の閃光が消失していく。その中から姿を現したのは光輝だけだった。

 利矢は光とともに消滅していた。光輝に全てを託して、その命を散らしたのである。

「利矢・・・君の心を、決してムダにしてはいけないよね・・・」

 利矢の意思を心に秘めて、光輝が深呼吸する。

「僕は戦う・・この世界の平和のため、僕たちは戦い続ける・・・」

 決意を告げた光輝が振り返る。そこへ奈美が麻子、理子とともに駆け込んできた。

「光輝・・・」

 奈美が沈痛の面持ちを光輝に見せてきた。

「利矢さん、消えてしまったのね・・・」

「ううん・・利矢は消えてはいない・・僕たちの中に、今も僕たちを見ている・・・」

 奈美が言いかけた問いかけに、光輝は首を横に振る。

「僕たちが利矢の気持ちを裏切るようなことをすれば、利矢は容赦なく僕たちを葬りに来る・・・もっとも、僕たちは絶対にこの気持ちをムダにしない・・・」

「私も信じる・・光輝に託した利矢さんの気持ちを・・・」

 気持ちを確かめ合った光輝と奈美が微笑み、握手を交わす。そこへ麻子と理子も手を差し伸べてきた。

「私たちがいることを忘れちゃ困るよ、2人とも。」

「力はないけど、私たちにできることが必ずある・・」

 麻子と理子に声をかけられて、光輝と奈美は戸惑いを覚える。しかし気持ちを落ち着けて、2人は再び微笑んだ。

「僕は行くよ・・まだこの世界は、サターンに支配されたままだ・・・」

「私も行く・・私も、私のできることをやる・・私の中にあるこの力を使って・・・」

 麻子と理子に決意を告げる光輝と奈美。2人は直後、周囲の木々に眼を向ける。

「向かってくるならやるだけよ・・」

「僕も消耗してるけど、みんなを傷つける悪者には負けない!」

 意識を集中する奈美と、木々に隠れているガルヴォルスたちを見据える光輝。2人の覇気に押されて、ガルヴォルスたちが畏怖を覚える。

「こ、このまま逃げ帰るなんてできねぇ・・・」

「こうなったらやけくそだ!やってやるぞ!」

 いきり立ったガルヴォルスたちが木々から飛び出してきた。

「一気に決めてやる・・・変身!」

 シャインガルヴォルスに変身した光輝が、向かってくるガルヴォルスたちを迎え撃った。

 

 世界から隔離された異空間。虚無といえるその空間に、メシアはいた。

 メシアが抱き寄せていたのはアイだった。2人は生死の分からないこの異空間の中で、世界の成り行きを見守っていた。

「光輝が利矢に勝ったみたいね、アイ・・・」

 メシアがアイに優しく語りかける。しかしアイには意識がなく、無表情のままだった。

「やっぱり私の眼に狂いはなかった・・光輝こそ、世界に優しさを与える希望の光・・私たちの心を癒す光だと・・」

 話を続けながら、メシアはアイが頷いてくれていると感じていた。

「私たちはその光を手にするために、必ず蘇ってみせる・・私はメシアだから・・・」

 揺るぎない決意を秘めて、メシアがアイを抱きしめた。

「そのときはあなたと一緒だからね、アイ・・・」

 必ず蘇ることを確信して、メシアはそのときまで時間を過ごすことにした。

 いつか自分たちが、新しい平和を揺るぎないものとしていく。そう考えているメシアは、アイを抱いたまま眠りについた。

 

 奇襲を狙っていたガルヴォルスたちは、光輝と奈美によって撃退された。気持ちを落ち着けた2人に、麻子と理子が駆け込んできた。

「光輝くん、奈美、大丈夫・・?」

「麻子ちゃん・・僕たちは大丈夫だよ・・・」

 麻子が声をかけると、光輝が笑顔を見せて答える。いつもの彼だと感じて、彼女が安堵を覚える。

「まずは帰るよ・・この後の戦いに備えてね・・・」

「こうなったら、私たちが食事の支度をしないとね、お姉ちゃん♪光輝さんと奈美さんが頑張れるように♪」

 光輝が言いかけると、理子が笑顔を見せる。

「それじゃ、今日は麻子ちゃんと理子ちゃんにお任せしちゃおうかな。」

 光輝が微笑んで、理子の言葉に甘えることにした。この荒野から立ち去ろうとしたとき、光輝はふと立ち止まって後ろに振り返る。

(利矢、僕は行くよ・・だから見ていてくれ・・僕の、僕たちの正義を・・・)

 利矢への思いを胸に秘めて、光輝は微笑む。彼の眼には真剣な面持ちを浮かべている利矢の姿が映っていた。

 偽りの正義に人生を狂わされ、全ての正義までも憎むようになってしまった利矢。このような悲劇の人間を、これ以上増やさないためにも、世界に平和をもたらさなければならない。光輝はそう思っていた。

「光輝、早くおいでよ!でないと置いてくよ!」

 そこへ奈美から声がかかり、光輝が振り返る。

「ゴメン、奈美ちゃん!今行くよー!」

 光輝は元気よく答えると、奈美たちに向かって駆け出していった。

 

 メシアが滅び、他のガルヴォルスたちの追撃をも退けられた。だが依然として、世界はサターンの支配下に置かれていた。

 その世界に平和を取り戻すため、光輝と奈美は旅立とうとしていた。

「それじゃ、行ってくるよ、麻子ちゃん、理子ちゃん・・・」

 光輝が麻子と理子に優しく微笑みかける。

「光輝さん、奈美さん、2人の帰る場所はここですからね。いつでも待ってるから、必ず帰ってきてね・・」

「今度は不安にならずに待っていられる・・あなたたちが希望になってるから・・」

 理子と麻子が光輝と奈美に笑顔を見せる。

「それじゃ行こうか、奈美ちゃん・・」

「うん・・私たちは必ず帰ってくる。ここが私たちの帰る場所だから・・・」

 光輝の呼びかけに奈美が言いかける。2人は別荘を出て、世界に向けて旅立っていく。

(自由と平和を守り、世界を脅かす悪と戦う。それがヒーローの使命・・僕は、そのヒーローになる・・・!)

 正義と決意を胸に秘めて、光輝は行く。自由と平和を守るために、吉川光輝は戦い続けるのだ。

 

 

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