ガルヴォルスMessiah 第24話「運命」

 

 

 神妙な面持ちで語りかけてくるメシアに、光輝は当惑を覚える。奈美も彼女の言葉に返事ができないでいた。

「どういうことなんだ・・何が言いたいんだ・・・!?

「自分では正しいと思っていても、周りからは間違っていると思われている・・世界中の誰もがいえることよ・・」

 問い詰める光輝に、メシアが淡々と言いかける。

「それでも自分がよければそれでいい。周りの声を聞き入れることはない・・みんながそういう結論に出てしまっている・・無自覚なのも含めて・・」

「そんなことはない!そんな考えを持っているのは、お前たちサターンだ!」

「そんな考えは、実はあなた自身に当てはまるのかもしれないわ・・」

 反論する光輝だが、メシアは笑みを消さない。

「誰もあなたを求めていない・・私もあなたも、1人よがりよ・・」

「いいえ、違う・・」

 メシアの言葉に反論してきたのは奈美だった。奈美は真剣な面持ちで、メシアを見据えていた。

「光輝の正義は、光輝だけのものじゃない・・私の中にも、しっかりと光輝の正義と思いは宿っている・・」

「奈美ちゃん・・そうだ!僕の正義は、僕だけのものじゃないんだ!」

 奈美に続いて光輝も呼びかける。するとメシアがおもむろに笑みをこぼした。

「何がおかしいんだ!?

「まさかあなたたちの否定に再認識されるなんてね・・・」

 声を荒げる光輝に、メシアがさらに微笑んで呟きかける。

「あなたたち2人が互いを信頼し合い、ひとつの正義を共有しているように、私にもアイがいる・・」

「アイ・・・」

 メシアが切り出してきた言葉に、光輝と奈美が当惑する。

「アイは昔は心を壊していた。身勝手な連中のために絶望していた・・はじめはその連中を葬るためだけに動いていたけど、結果的に彼女を助けることになったの・・」

 メシアは語りかけながら、アイとの交流を思い返していた。

 

 庭園の前で利矢と対峙したアイ。旋風で利矢を取り囲み、アイは勝利を確信していた。

「もうチェックメイトです。あなたに待ち受けているのは敗北のみです。」

 アイは言いかけると、振り返って庭園に戻ろうとする。その瞬間、球状の旋風が爆発を起こすように吹き飛ばされた。

「何!?

 足を止めるアイが眼つきを鋭くする。着地した利矢が彼女を見据えていた。

「この程度でオレを仕留められると思っていたのか?・・どこまでもオレを甘く見るとは・・・」

「私のかまいたちの牢獄を打ち破るとは・・だが私は、あなたをこの場で仕留めないわけにはいきません!」

 鋭く言い放つ利矢に、アイが感情をあらわにする。

「私は負けられない!私を救っていただいたメシアへの恩に報いるために!」

「それほどまでに他人に尽くしているお前が、なぜ偽善を図るメシアに加担するというのだ・・・!?

「偽善・・・メシアは時折、自分のもたらす救済が偽善かもしれないと申されていた・・しかし私は否定しました・・メシアのもたらす救済こそが、乱れた世界に真の安寧をもたらすことができると信じていました・・・」

 アイが利矢に対して物悲しい笑みを浮かべる。

「私はあなたが憎む偽善者の被害者でした。メシアが救いの手を差し伸べてくださらなければ、私はこうして生きてはいなかったでしょう・・この世界を救えるのはメシアのみ。それが私の揺るがない考えです・・・!」

「そうか・・お前のような者が、メシアのためだけに生きているのは残念だ・・・!」

 メシアへの想いを語りかけるアイに、利矢が歯がゆさを覚える。

「誰もが心を通わせられる。それが世界の本当の在り方だ・・そこに偽善者、支配者など存在しない!」

「本当の平和は、救世主による導きが必要なのです!それがメシアなのです!メシア以外に、世界を救う者は存在しません!」

 互いに言い放つ利矢とアイ。利矢の体から漆黒のオーラがあふれてくる。

「オレは倒れるわけにはいかない・・メシアを倒し、真の正義を取り戻す!」

「来なさい!あなた1人だけの考えでは、世界を動かすことはできません!」

 飛び出してきた利矢と、これを迎え撃つアイ。漆黒の刃と旋風の刃が、激しくぶつかり合う。

「この戦いの先には、まだ倒すべき相手がいるのだ!」

 強い意思を見せつける利矢が、力をも強める。その威力にアイが押されだす。

「わ、私は、お前などに負けられない・・負けるわけにはいかないのです!」

 必死にこらえようとするアイ。しかし利矢の力はさらに増し、ついに旋風の刃がかき消され、彼女は漆黒の刃に体を貫かれる。

「うっ!」

 強烈な痛みにうめくアイ。彼女の体から鮮血が飛び散る。

「お前など、オレの意思をくじくことすらできない・・・」

 倒れ行くアイに向けて、低く告げる利矢の声がかかる。

(わ・・私は・・私はまだ・・・!)

 だがアイはメシアへの想いを強めて、倒れそうになっていたところを踏みとどまる。しかし彼女は息を絶え絶えにして、体から血をあふれさせていた。

「私は倒れない・・メシアを守ることが、私の生きる唯一の理由・・・」

「そこまでメシアのために尽くすか・・・ならばその命、メシアとともに果てろ・・・!」

 なおも立ちはだかるアイに、利矢が漆黒の刃を突き立てる。眼を見開いたアイが意識を失っていく。

「メシア・・・」

 メシアへの想いを募らせたまま、アイは崩壊に陥った。朽ち果てた彼女を見据えて、利矢は人間の姿に戻った。

「他者のために尽力を注げる・・世界にそれだけは広めてもらいたいものだ・・・そしてオレにも、その気持ちが宿ってほしかった・・・」

 アイと自分自身への哀れみを覚える利矢。彼は庭園の中に向かって歩き出す。

(光輝、必ず生きていろ・・オレの最大の目的はお前なのだから・・・)

 光輝への意思を胸に秘めて、利矢もメシアの元へ向かうのだった。

 

 メシアの口から語られたアイの心境に、光輝も奈美も困惑を覚えていた。

「それほどまでに、お前のことを信じていたのか・・・」

「しかもあなたは、あの人の気持ちを理解して・・・」

 光輝と奈美が呟きかけると、メシアは小さく頷いた。

「アイとの出会いは、私の運命さえも変えたわ。それは私を確信させた。私は人を、世界を救うことができると・・」

「それが、世界を支配することなのか!?

 光輝が反論するが、メシアは笑みを消さない。

「これは支配ではなく解放・・荒んだ世界を解放したのよ。あなたたちにかけた石化と同じようにね・・」

「あんなのが解放であるわけがない!自分の私利私欲を救済と混同するな!」

「私利私欲とは人聞きが悪いわね・・でもね、今ではあなたのほうが私利私欲でしかないのかもしれないのよ。」

 メシアに言葉を投げかけられて、光輝が困惑する。今では自分が抱いてきた平和が、メシアとサターンの支配下で成り立っているのだ。

「確かに今の世界は、みんなが納得するものになっているのかもしれない・・だけど僕たちは、以前のような日常こそが、本当の平和であると信じている!」

「・・・私たちはもしかしたら似ているのかもしれないわね・・だからこそこうして反発しているのかも・・」

「もう大切なものを失いたくない・・その悲しみを、僕もお前も知っている・・だからこそこうして僕は、お前と対峙している・・・」

 メシアに言い放つ光輝の頬に紋様が走る。

「僕は戦う・・奈美ちゃんがいることが、僕の本当の平和・・僕は、そう思っている・・・」

 拳を強く握り締める光輝が、メシアを鋭く見据える。

「変身!」

 言い放つ光輝がシャインガルヴォルスに変身する。身構える彼を眼にして、メシアが笑みを消す。

「なら、今度こそあなたたちをものにさせてもらう・・私がもたらした平和のためにも・・・!」

 メシアは低く言いかけると、光輝と奈美に向けて石化の光線を放つ。しかし2人はこれを難なくかわす。

「そう何度も同じ攻撃が通用すると思うな!」

「そう。それでも私は、あなたたちをものにする・・あなたたちに、私が求め続けてきた希望の光が宿っているから!」

 言い放つ光輝に、メシアも感情をあらわにした。

「暴力というのは好きではないけど・・仕方がないわね!」

 メシアが全身から光を放出する。その力が砲弾のように飛び込み、光輝が突き飛ばされる。

「ぐっ!」

 うめく光輝が壁に叩きつけられる。

「光輝!」

 奈美がたまらずメシアに向かって駆け出す。

(私はもう迷わない・・私のこの力を使うときは、光輝を守る今・・・!)

 迷いを振り切った奈美が、背中から蝶の羽を生やす。彼女は両手を突き出して、光を集束させる。

「それがあなたの力なのね、奈美・・私の石化を打ち破ったあなたの力・・・」

 メシアが妖しく微笑むと、奈美に向けて手を突き出す。

「その力は、この世界の平和にはいらない!」

 言い放つメシアが、奈美と同時に閃光を放つ。2つの光は衝突すると、激しい火花を散らして相殺、消滅する。

「私と互角・・私の石化を破ったくらいだから、やわじゃないとは想像していたけど・・」

「通じない・・今の私の力でも、メシアには勝てないの・・・!?

 苦笑をもらすメシアと、歯がゆさを覚える奈美。光輝が立ち上がり、奈美に歩み寄る。

「このまま戦いが長引けば、石化の力を持ってるメシアが有利になる・・しかも奈美ちゃんにのしかかるリスクも高くなる・・」

「早く決着を着けないといけないわけね・・・こうなったら・・」

 光輝の言葉に言いかけると、奈美が彼に寄り添う。

「な、奈美ちゃん・・・!?

「光輝、私の力の全てを、あなたに渡す・・私たちの力を掛け合わせれば、メシアを倒せるかもしれない・・・」

 当惑する光輝に奈美が囁くように言いかける。その言葉に、光輝の動揺は一気に膨らむ。

「そ、そんなことをしたら、奈美ちゃんがどうなっちゃうか分からないよ・・・!」

「私もどうなるか分からない・・でもこれ以外に、メシアに勝てる方法がない・・・」

「奈美ちゃん・・・」

「私たちはもう一心同体・・どんなときも、私はあなたとともにある・・・」

 困惑する光輝に、奈美が真剣な面持ちで語りかける。彼女の決心を垣間見て、光輝も意を決した。

「分かった・・奈美ちゃん、僕と一緒に、この正義を貫いてくれ・・・」

 光輝は微笑んで言いかけると、奈美を抱き寄せる。そして奈美も光輝に意識を傾ける。

(光輝、私は戦う・・あなたと一緒に・・あなたとひとつになって・・・!)

 光輝に力を注いでいく奈美が光に包まれていく。光は形を変えて、光輝さえも飲み込んでいく。

「これは・・・!?

 その光景にメシアが眼を見開く。光は光輝と奈美を包み込んで、神々しさを宿していく。

「今度こそ・・今度こそ私のものに!」

 メシアが言い放つと、光に向けて石化の光線を放つ。だが2人の光にぶつかった瞬間、光線は鏡に反射するように弾かれた。

「えっ!?

 力が通じなかったことに驚愕するメシア。その光の中から、神々しさをまとった1人のガルヴォルスが現れた。

 形状は光輝の変身するシャインガルヴォルスだった。しかし従来の彼以上の輝きをまとっていた。

「あなた、光輝なの・・・!?

「僕は1人じゃない・・僕たちは2人・・一心同体だ!」

 問いかけるメシアに光輝が言い放つ。

「そう・・僕の中に、奈美ちゃんがいる・・・!」

 光輝が自分の胸に手を当てる。彼の体の中に、人間としての姿の光輝自身と奈美が映されていた。

「私は今、光輝とともにある・・・!」

 光輝の中にいる奈美が声をかける。今まさに、2人は一心同体となっていたのである。

「たとえひとつになっていても、あなたたちは私のもの・・あなたたちを救えるのは、私しかいない!」

 メシアがさらに言い放つと、両手を突き出して閃光を放つ。だがこれも光輝の宿す光にかき消される。

「そんなことって・・私の力が・・救済の力が消されるなんて・・・!?

「お前の力は、誰かを救う力なんかじゃない・・自分の気持ちを一方的に押し付ける力でしかない・・・」

 愕然となるメシアに、光輝が落ち着きを見せながら語りかける。

「僕は罪のない人に無理強いするようなことはしない・・最後まで諦めずに、人々に幸せと自由をもたらす・・それがヒーロー・・僕の、僕たちの正義だ!」

 光輝は言い放つと、両手を大きく広げる。

「シャイニングエナジー!」

 光輝からまばゆいばかりの光が放出される。この光は、彼が今まで発揮した光の中で1番の輝きを発揮していた。

 その光を受けて、メシアが電気のような衝撃に襲われる。体から蒸気を発しながら、彼女はその場にひざを付く。

「バカな・・私の力が完全にかき消されるなんて・・・!?

 全身への激痛に襲われるメシア。だが彼女には力が通じない愕然のほうが強かった。

「かき消されて当然よ・・今の私たちの力は、あなたの力とは正反対の性質だから・・・」

 光輝の中にいる奈美が語りかけてくる。しかしメシアはその言葉を認めたくなかった。

「そんなことで・・私の力が消されるはずがない・・私は世界を救う存在、メシアなのだから!」

 メシアが眼を見開いて、光輝に飛びかかる。

「あなたたちは、私のものだから!」

「シャイニングナックル!」

 だが光輝の放った光の拳を受けて、メシアが突き飛ばされる。痛烈な衝撃にさいなまれて、彼女が吐血する。

(ありえない・・私の力が及ばないなんて・・・)

 自分の身に起きている事実を受け入れられないでいるメシア。

 そのとき、メシアはアイの命が絶たれたことを感じ取った。

「アイ!?

 さらなる驚愕にさいなまれて、メシアが光輝から視線を外す。

「そんな!?・・アイが死ぬはずはない!アイは私に約束してくれた!必ず生きて帰ってくると・・・!」

 冷静さを失い、迷走するメシア。彼女の様子に光輝も戸惑いを覚える。

「どういうことなの!?・・メシアが、こんなに取り乱してる・・・!」

「僕は分かってる・・アイが死んだ・・利矢が倒したんだ・・・」

 奈美が疑問を投げかけると、光輝が深刻さを込めて答える。

「アイがメシアに全てを捧げていたと同時に、メシアもアイに想いを寄せていたんだ・・これは主従関係以上のつながり・・」

「お互いが心のよりどころになっていたのね・・」

 絶望感を膨らませるメシアを見つめて、光輝も奈美も動揺の色を隠せなくなっていた。

「そんな2人を、離れ離れにするのはよくないよね・・・僕たちが、背中を押してあげないと・・・」

 光輝が言いかけると、奈美が小さく頷く。彼はメシアに向かってゆっくりと歩き出す。

「光輝・・・奈美・・・」

「悲しいのは辛いよね・・・これが、僕たちにできる最善手・・・!」

 涙を流すメシアに、光輝が加速して飛び上がる。

(メシア・・・)

「シャイニングシュート!」

 同じく眼から涙をあふれさせる光輝が、光の一蹴を繰り出す。その光がメシアの体を包み込んでいった。

(アイ・・私はもう、全てをやり遂げたのかな・・・)

 光の中で、メシアが心の声を上げる。そのとき、彼女の視界にアイの姿が現れる。

(アイ・・・!?

「メシアの赴くまま・・私はどこまでも、あなたとともにあります・・・」

 困惑するメシアに、アイが優しく語りかける。彼女の姿を確かめて、メシアも安らぎを覚えた。

(ありがとう、アイ・・・これからも、私のそばにいてくれる・・・?)

「もちろんです・・私はメシアとともにあるのですから・・・」

 メシアの言葉にアイが頷く。心からの喜びを胸に宿して、メシアは光に抱かれた。

 

 

次回予告

 

メシアとの戦いの決着。

しかしその後も、サターンの制圧が払拭されることはなかった。

光輝、奈美、利矢。

彼らの歩んでいく道とは?

再び、戦いと集約の幕が開かれようとしていた。

 

次回・「自由」

 

 

作品集

 

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