ガルヴォルスMessiah 第23話「正義」

 

 

 完全に落ちぶれてしまった零夜。1年前までの冷徹な態度は面影もなく、完全に無気力となっていた。

「父さん・・・本当に父さんなのか・・・!?

 光輝が声をもらすと、零夜がようやく反応を見せた。

「光輝・・・光輝なのか・・・?」

「父さん・・気がついたのか・・・!」

 声を発した零夜に、光輝が声をかける。非情な刑事とは思えないほどの弱々しい声だった。

「わざわざ何しに来た・・不様な私を見下しに来たのか・・・?」

「ふざけてる場合か!?今まで何があったんだ!?

 低く告げる零夜に光輝が問い詰める。沈黙を置いてから、零夜は再び口を開いた。

「見下げ果てたものだ・・サターンなどという罪人に敗北するなど・・」

「やむを得ないことだよ・・サターンは強大だ。その力に、僕も1度負けた・・・」

 光輝が告げた言葉に零夜が眉をひそめる。

「でも僕は、ううん、僕たちはまだ諦めていない・・サターンを倒さない限り、この世界に平和は訪れない・・・」

「言ってくれるな・・私ですら敵わなかった相手に、お前などに何ができる・・・?」

「やってやるさ・・できないと決め付けられても、僕は絶対に諦めない・・・!」

 あざ笑う零夜に、光輝が自分の決意を告げる。奈美も同意して無言で頷いた。

「それでお前はなぜここに来た・・私に何の用だ・・・?」

「父さん・・・どうしてそこまで法を守ろうとしたんだ・・何が父さんをあそこまで駆り立てたんだ・・・?」

 問いかける零夜に、光輝が逆に問い返す。すると零夜は沈黙を置いてから語り始める。

「母さんが死んだのを覚えているか・・・?」

「母さん?・・うん・・」

 零夜の言葉に光輝が戸惑いを見せながら頷く。

「母さんには兄がいた・・だが兄は犯罪グループのリーダーだった・・その事実を知った母さんは、兄を止めるために説得を試みた・・だが母さんは殺され、事故死に見せかけられた・・」

「母さんに、そんなことが・・・」

「私はその兄を断罪した。そこから私は、法に友の絆や家族の情など存在しない。無意味なものでしかないと悟った・・」

「父さんの気持ちは分かるよ・・だからって、あそこまで冷徹になっていい理由にはならない!母さんだって、父さんがあそこまで冷たくなってほしいとは・・!」

「ならばお前は情で誰かを救えたのか?・・そこの男も、世界も、お前自身もすくえなかったではないか・・」

 零夜が言い放った言葉に反論できなくなり、光輝は言葉を詰まらせる。

「確かに僕はサターンから世界を守れなかった・・だけどまだ終わりじゃない!僕はまだ諦めてはいない!それに僕には、絶対に負けられない理由がある・・!」

 光輝は零夜に決意を告げると、奈美に視線を向ける。奈美も真剣な面持ちで頷く。

「私もこの世界の平和をサターンから取り戻すために戦います・・光輝の気持ちだけでなく、私自身の気持ちでもあります・・」

「分かってもらおうなんて思っていない・・それでもみんなの笑顔を取り戻すために、全てを賭けて戦っていきたい・・それが僕の、僕たちの正義です・・・!」

 奈美に続いて光輝も言いかける。2人の揺るがない決意を目の当たりにして、零夜は眼を閉じた。

「もはやお前たちは、私の法を大きく超えてしまったのだな・・」

「・・・行くよ、父さん・・・だから父さんも生きて・・・」

 笑みを浮かべる零夜を眼にして、光輝は振り返った。

「行こう、奈美ちゃん・・今度こそ、サターンとの決着を付けるんだ・・」

「でも、おじさんは・・・?」

 呼びかける光輝に、奈美が当惑を見せる。

「いいんだ・・これ以上は僕がどうこういうことじゃない・・後は父さん次第だ・・」

「光輝・・・」

「ここから先の僕たちは、自分たちのことに向かって歩いていくだけだ・・」

 光輝は奈美に言いかけると、改めて歩き出し、家を出た。

「・・・おじさん、私も行きます・・そしてみんな、生きて帰ってきます・・・」

「そうか・・私が言えた義理ではないが・・光輝を頼む・・・」

 言いかける奈美に零夜が呼びかける。その言葉に頷いてから、奈美も家を出た。

「オレは今でもお前を許してはいない。だが今のお前を葬ったところで、オレにとって何の意味もない。それだけだ・・」

 利矢は零夜に言いかけると、そのまま家を出て行った。零夜も利矢に何も言うことはなかった。

 零夜は自分に、利矢に対する罪悪感は感じていなかった。ここで自分が悪いと認めれば、自分の法が間違っていることになると思った体。

(どこまでも自分ありきだな・・貴様も、私も・・・)

 自分たちの行動への皮肉を考えて、零夜が思わず笑みを浮かべていた。

(自分の考えがそこまで正しいというならば貫き通せ、光輝・・お前は私と比べて強さがある・・力だけでなく、正義、信念の力も・・・)

 零夜は光輝に対して、久方ぶりに信頼を送った。刑事、正義を振りかざす者としてではなく、父親として。

 

 零夜との別れを終えた光輝、奈美、利矢。3人はサターンの本部、メシアのいる場所のある方向を見つめていた。

「・・・行こう、奈美ちゃん、利矢・・・」

「うん・・・」

 光輝の言葉に奈美が頷く。利矢も憮然さを見せながらも、彼の呼びかけに同意していた。

 彼らは歩き出した。世界に自由と平和を取り戻すために。サターンとの宿命を断ち切るために。己自身の正義のために。

(僕は行くぞ、メシア・・今度こそ決着を付けてやる・・・!)

 メシアへの意思を胸に秘めて、光輝はサターンの本部へと向かうのだった。

 

 光輝たちの接近に、メシアとアイは気付いていた。

「ようやくこっちに向かってきたわね・・」

 メシアが光輝たちの接近に喜びを浮かべる。

「すぐに迎撃体勢を敷きましょうか?それとも・・」

「このまま私のところに案内して。今度こそ光輝と奈美を私のものに・・・」

「分かりました。ですが速水利矢は私に始末させていただけますでしょうか?」

「速水利矢・・いいわ。あなたに任せるわ。その代わり、必ず生きて戻ってくるのよ・・」

「メシアがお望みになるのでしたら・・」

 メシアの言葉に答えて、アイが一礼する。

「アイ・・あなたが私に全てを捧げてくれていることは分かっているわ・・でもね、あなたの命は私のものじゃない。ましてやあなただけのものじゃない。そのどちらもよ・・」

「分かっています・・あなたに尽くすことがあなたのためであり、私自身のためでもあります・・私はそう考えています・・・」

 メシアの言葉にアイは答え、改めて出撃に赴く。メシアに見えないように、アイは一瞬微笑みかけた。

 

 メシアのいるサターン本部に向かって、光輝、奈美、利矢は前進していた。だがこれだけ進んでもガルヴォルスの攻撃がないことに、光輝たちは疑念を感じていた。

「どういうことなの?・・これだけ私たちが進んできているのに、全然攻撃が来ない・・」

「何らかの罠か・・どちらにしろ警戒すべきだろう・・」

 奈美と利矢が低く告げる。光輝も周囲に注意を向けるが、敵意を向けてきている人の気配を感じていなかった。

「たとえ罠が仕掛けられていても、僕たちは行くしかない・・僕たちがサターンを、メシアを倒すんだ・・・」

 光輝が言いかけた言葉に奈美が頷く。

「どちらにしろ急いだほうがいい。メシアに行き着く前に体力を消耗するわけにいかない。」

「それは僕も思っている。メシアのところまで一直線。ここからは寄り道は一切なしだ。」

 利矢の言葉に光輝が答える。彼らはさらに前進していく。

 そしてついに光輝たちは、広大に広がる庭園の前へとたどり着いた。

「ここだ・・外見上は人間世界の豪邸と大差ないが、本当の本拠地はその地下に広がっている・・」

 利矢が言いかけると、光輝と奈美は庭園を見渡す。庭や邸宅が広がるだけでなく、その下にさらなる広がりが続いていることに、光輝と奈美は驚きを感じていた。

「僕たちを待ち受けているなら、もうこの先しかない・・・行こう!」

「残念ですが、そうはいきませんよ。」

 さらに進もうとしたところで、光輝は声をかけられる。彼らの前に現れたのはアイだった。」

「お前は・・!?

 光輝たちがとっさに身構える。だがアイの視線は利矢に向けられていた。

「あなたが教えたのですね・・いずれにしても、あなたたちはここに行き着くことに変わりはありませんでしたが・・」

 利矢に淡々と言いかけると、アイは光輝に視線を移す。

「久しぶりですね、吉川光輝さん、神崎奈美さん。メシアがお待ちかねですよ。」

「そうか・・だったら僕たちも好都合というべきかな・・」

 言いかけるアイに光輝が真剣な面持ちで答える。

「あなたたちお二方を止めるつもりはありません。私が相手にしたいのは、速水利矢さん、あなたです。」

「オレだと?・・この前の決着を着けたいとでもいうのか?」

 アイの言葉に利矢が眉をひそめる。

「そうです。私にも意地があります。このままあなたに敗北したままにしておくのは汚点です。」

「そうか・・ならば今度こそ、オレの手でお前を葬ってやる・・」

 敵意を向けてくるアイに、利矢が鋭い視線を向ける。

「光輝、お前は先に行け。ヤツの相手はオレがする。」

「利矢・・だけど利矢1人だけじゃ・・」

 呼びかける利矢に、光輝が反論する。

「見くびるな。オレの力、お前も十分に理解しているはずだ。それにオレはあのときのオレではない。」

「利矢・・・」

 投げかけられる利矢の言葉に、光輝が困惑する。だがその意思を汲み取り、彼は頷いた。

「分かった。利矢、ここは任せたよ・・」

「勘違いするな。お前はオレの最大の標的。次はお前の番だということを忘れるな。」

 呼びかける光輝に、利矢が鋭く言いかける。

「行こう、奈美ちゃん。ここは利矢に任せるんだ。」

「でも光輝、それだと利矢が・・・」

「利矢は僕と互角の力を持っていた。しかも今はあのとき以上だから・・」

 心配の声をかける奈美に、光輝が微笑んで頷く。それを受けて、奈美も不安を拭う。

「分かった、光輝。一緒に行こう・・利矢さん、気をつけて・・・」

 光輝の言葉を受け入れた奈美は、利矢に呼びかける。光輝と奈美は利矢とアイを背にして、庭園の中へと入り込んだ。

「これで存分に戦えますね・・今度こそ、あなたの息の根を止めさせていただきます・・・!」

 アイが利矢に鋭く言い放つと、ブレイドガルヴォルスへと変身する。

「そこまでオレを始末しようとするなら、それでもいいだろう・・光輝の前に、お前を葬ってやる・・・!」

 いきり立った利矢もダークガルヴォルスへと変身する。彼が放った漆黒の刃を、アイは跳躍と、全身から具現化させた刃で回避していく。

「あなたの戦闘力と能力は分析してあります。あなたの攻撃は、もはや私には通じませんよ。」

「そうやって決めてかかることが、自らの命を縮めることになるぞ・・・」

 互いに声を掛け合うアイと利矢。

「あなたは地上での戦いには慣れているようですが、空中での対処はどうでしょうか・・・」

 アイは言いかけると、両手を大きく振り上げる。すると旋風が舞い上がり、利矢を包み込んだ。

「何っ!?おわっ!」

 風に巻かれた利矢が空中に跳ね上げられる。さらに旋風はかまいたちとなり、利矢の体に傷をつけていく。

「これこそ風の包囲網。あなたは取り囲むその風の刃で、逃げることもできずに刻まれていくのです。」

 球状に取り巻いている風を見据えて、アイが冷静に語りかける。

「今度こそ終わりです、速水利矢さん。あなたが命を絶たれ、吉川光輝さんと神埼奈美さんは改めてメシアの手中に落ちる。そのときこそ、サターンの制圧は完全なものとなるのです・・・!」

 語気を強めるアイが、利矢に向けて鋭く言い放った。

 

 メシアのところに向かって、光輝と奈美は急いでいた。しかし幾度進んでも、林道と庭が続くばかりだった。

「もう!何て広い庭なのよ!」

「これじゃ、メシアのところに着く前に、僕たちの体力がなくなりそうだ・・」

 不満を口にする奈美と、息を絶え絶えにする光輝。

「こうなったら、メシアの気配を頼りにして、私の力で瞬間移動して・・」

「いや、それはダメだ・・リスクが高すぎるのは、奈美ちゃん自身が分かってるはずだよ・・使うのは今じゃない・・」

 力を使おうとする奈美を光輝が制する。

「今、力を使うのは僕のほうだよ・・」

 言いかける光輝の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「光輝、まさか・・!?

「これじゃ探すだけでらちが明かなくなる。強行突破で下まで、メシアのところまで突き進む・・・変身!」

 言い放つ光輝がシャインガルヴォルスに変身する。

「シャイニングナックル!」

 そして光のエネルギーを込めた拳を地面に叩きつける光輝。地面は崩落を起こし、彼と奈美を地下に落下させる。

「もう!相変わらずムチャクチャなんだから、光輝は!」

「こうしたほうが早いし、こうする以外に思いつかなかったから・・」

 不満を口にする奈美に、光輝が苦笑いを浮かべる。2人は地下の通路の真ん中に落下していた。

「さすがにここまで来られて、ガルヴォルスたちが追ってこないはずがない・・・!」

「私も付き合うわよ!もう、あなたと私は、2人でひとつなんだから!」

 声を掛け合う光輝と奈美。2人はメシアの気配を頼りに、真っ直ぐに廊下を進んでいった。

 だがこれだけの騒動が起きているにもかかわらず、誰も迎撃に出てこようとはしなかった。

「ホントにおかしい・・やっぱり罠なんじゃ・・・」

 さらに警戒心を強める奈美。2人は廊下を抜けて、巨大な扉の前にたどり着いた。

「ここからメシアの気配がする・・ここにメシアが・・・」

 光輝が低く告げると、その扉に手を伸ばす。

 次の瞬間、扉から光線が飛び出してきた。

 

 光輝と奈美の接近にメシアは気付いていた。彼らが扉を開けようとしたところへ、彼女は石化の光線を放ったのである。

「おかえり、光輝、奈美・・もう1度、私のものに・・・」

 改めて2人を掌握できたと思い、メシアが妖しく微笑む。彼女は椅子から腰を上げて、2人の姿を確かめようとする。

 だが行きかけて、メシアは足を止めた。

「そう簡単にいかないのね・・」

 メシアが呟きかけた瞬間、眼前の扉が破られた。そこに光輝と奈美は立っており、石化もしていなかった。

「気付いて、とっさにかわしたのね・・」

「もう2度と、お前の手に落ちるわけにはいかないんだ・・・!」

 微笑みかけるメシアに、光輝が真剣な面持ちで言いかける。

「今さら僕たちが何をしようと、サターンがもたらした世界が変わることはないのかもしれない・・それでも、真の平和を取り戻すために、僕は、僕たちは戦う!」

「真の平和・・それが果たして、みんなが望んでいることなの・・・?」

 決意を言い放つ光輝に、メシアは物悲しい笑みを浮かべる。

「正義も平和も、結局は独善的でしかないのよ・・私もあなたも、この世界の全ても・・・」

「メシア・・・?」

 メシアの言葉に光輝が眉をひそめる。彼女は押し隠していた過去を紐解こうとしていた。

 

 

次回予告

 

正義とは、平和とは何か?

メシアと対する光輝は、戦う理由を問われる。

迷いを捨て、大切なものの守る。

数々の想いを背に受けて、光輝は激闘に赴く。

 

次回・「運命」

 

 

作品集

 

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