ガルヴォルスMessiah 第22話「告白」

 

 

 理子を石化させたメシアは、彼女と麻子を連れ帰ることをあえてせず、そのまま戻ってきていた。

「本当によろしかったのですか、メシア?あの場に2人を残せば、吉川光輝の感情を逆撫ですることになりますよ。」

 アイがメシアに疑問を投げかける。だがメシアは悠然さを崩さない。

「仮に2人をここに連れてきたとしても同じことよ。私たちの仕業で、2人ともオブジェになった。そのことに光輝たちも気付く。同じことよ。」

 メシアが語りかけるが、アイは腑に落ちない面持ちを見せていた。

「後は2人にとってどういう形にするのが幸せなのかが鍵になる。ああするのが1番いいと私は思ったの。」

「そうでしたか・・私は問題視していません。私はメシアのためだけに存在しているのですから・・」

 メシアの言葉に納得すると、アイは一礼する。

「そこまで言ってもらえて、私は嬉しいわ・・」

「そんなもったいないお言葉・・私には身に余ります・・」

 互いに微笑みあうメシアとアイ。

「もしもメシアが望むなら、私はどんなことにも甘んじて受ける所存です・・命を散らすことも、あなたのコレクションに加わることも・・」

「ならその体を私に委ねられるようにしておきなさい・・あなたは、私の肌を普通の接し方で触れられる存在なのだから・・」

 アイが言いかけると、メシアは微笑んで呼びかける。その言葉に対し、アイは了解の意を込めて頭を下げた。

 

 別荘に戻ってきた光輝と奈美は愕然となった。理子が麻子を抱きしめたまま、一糸まとわぬ石像となっていた。

「そんな・・そんなことって・・・!?

「理子ちゃんまで、メシアにやられるなんて・・・!」

 変わり果てた麻子と理子に、奈美が恐る恐る歩み寄る。2人の石の肌に触れるが、2人は全く反応を示さない。

「この2人も、メシアにやられたのか・・」

 利矢が声をかけると、光輝は深刻な面持ちのまま頷く。

「僕と奈美ちゃんと同じように、麻子ちゃんと奈美ちゃんも、メシアに全てを奪われてしまったんだ・・」

「メシア・・サターン・・・どこまで身勝手な・・・!」

 光輝の言葉を受けて、利矢も憤りを覚える。

「だけど、麻子ちゃんも理子ちゃんも、まだ心は残っているはずだ。僕たちも石にされている間、心が残っていたんだから・・」

 光輝のこの言葉に奈美が戸惑いを浮かべる。彼女は麻子と理子に意識を傾ける。

(奈美・・そこにいるんでしょ、奈美・・?)

「麻子・・・!」

 麻子の心の声を感じ取り、奈美が声を上げる。

「麻子・・理子ちゃんも無事だよね・・・!?

(奈美さん・・・うん、聞こえてる!大丈夫だよ・・・!)

 奈美の呼びかけに、理子も返事をしてきた。2人の声を聞いて、奈美が安堵を浮かべる。

(エヘへ・・やっぱり、石になるのって不自由だよね・・裸なのに指一本動かせない・・こんな恥ずかしいことはないよね・・・)

(何言ってるのよ、理子・・私を守ろうとして、自分から石になろうとしたくせに・・)

 理子がもらした言葉に麻子が呆れる。石化されているにもかかわらず、普段と変わらないやり取りを見せている姉妹に、奈美は思わず笑みをこぼしていた。

「2人とも、気持ちの面では何ともないみたい・・でもその元気がいつまで持つか・・」

 奈美が口にした言葉に、光輝は一抹の不安を覚える。

 メシアに石化され、長い時間石になっていた女性たちは、人としての自覚を失い、自分は石であると思い込んでしまう。麻子と理子がいつまでも自分を保っていられるとは限らない。

「利矢、今日はここで休んでくれ・・勝負は、明日だ・・」

「いいだろう。だがオレは外で休ませてもらう。サターンが奇襲を仕掛けてくるかもしれない。それに・・」

 呼びかける光輝に、利矢が低く告げる。彼は外に向かおうとして途中で止まり、光輝に振り向く。

「オレは外で過ごすほうが性に合っている・・・」

 利矢は言いかけると、改めて外に向かっていった。そのとき彼が笑みを見せたことに、光輝は戸惑いを覚えた。

 

 その後、光輝と奈美は休息を取り、利矢も別荘の外で待機していた。光輝は一室の外から夜の空を見つめていた。

(メシア、僕はお前たちを許さない・・このまま世界をお前の勝手にはさせない・・・!)

 新たな決意を胸に宿して、光輝が外を見据える。いつか必ず、世界に本当の平和を取り戻せると信じて。

 そのとき、光輝のいる部屋のドアがノックされた。彼が振り返るとそのドアが開かれ、奈美が部屋に入ってきた。

「奈美ちゃん・・・」

 奈美の登場に光輝が戸惑いを浮かべる。そんな彼に奈美が沈痛さを浮かべたまま、すがり付いてきた。

「私の力って、何のためにあるの・・私の力じゃ、みんなを守れないの・・・?」

 奈美が口にした言葉に、光輝が困惑を覚える。彼女は自分の無力さを痛感していた。

「確かに私はガルヴォルスになって、力を手に入れた・・それでも私は、麻子を助けられないでいるし、理子ちゃんまで守れなかった・・こんなことってないよ・・・」

「そんなことないよ・・これだけの決意をしてきた奈美ちゃんが、弱いなんて絶対にないよ・・・!」

 自分を責める奈美に光輝が呼びかける。しかし彼女の気持ちが痛いほど分かっていたため、強く呼びかけることができなかった。

「もうこれ以上、大切な人を失いたくない・・光輝、私はあなたを失いたくない・・・!」

「僕だって失いたくない!・・僕と君は、もう一心同体も同然だ・・・!」

「でも私は、まだ自分が強いとは思えない・・強くなりたいと思っていても・・・守りたいという気持ちだけが、私の中で膨らんでいく・・・」

 呼びかける光輝だが、奈美は自分を責め続けるばかりだった。

(どうしたらいいんだ・・どうしたら、奈美ちゃんに勇気を取り戻させることができるんだろうか・・・)

 光輝が必死に考えを巡らせる。どんな言葉をかけるのがいいのか。彼は考えようとしても答えを見出すことができないでいた。

(しっかりするんだ・・あくまで気持ちなんだ・・僕がしっかりしなくちゃ、奈美ちゃんも落ち込んだままになっちゃう・・・!)

 自分に言い聞かせる光輝。適切な言葉が見出せなかった彼が取った行動は、奈美を抱きしめることだった。

「光輝・・・光輝・・・」

「奈美ちゃん、ゴメン・・・でも僕には、これしか思い浮かばなかったから・・・」

 戸惑いを覚える奈美に、光輝が言いかける。

「こんなことをするのは間違っているのは分かってる・・それでも僕にはもう、こうするしか思いつかない・・・どうしてバカなんだろうか、僕は・・・!」

「光輝・・・」

「奈美ちゃん、頼みを聞いてもらえないかな・・・?」

 光輝が言いかけると、奈美は小さく頷く。

「今夜、僕に全てを預けてくれないか・・僕の気持ちの全てを、君に伝えたい・・・」

「石にされてた1年の中で伝えていないことがあったの・・・?」

「ダメかな・・やっぱりダメだよね・・・」

 後悔を感じて物悲しい笑みを浮かべる光輝。すると奈美が光輝に寄り添ってきた。

「いいよ・・今夜はあなたに全てを預ける・・・好きにしていいよ・・・」

「奈美ちゃん・・・ありがとう・・そして、ゴメン・・・」

 全てを預けてきた奈美に、光輝は感謝の言葉を口にする。彼は彼女のぬくもりを確かめていった。

 

 それから光輝と奈美はベットに横になった。2人は着ているものを全て脱ぎ捨てて、肌と肌の触れあいをしていた。

「それじゃ行くよ、奈美ちゃん・・・」

 光輝が呼びかけると、奈美は小さく頷いた。すると光輝は奈美の胸に手を当てた。

「う・・うく・・・」

 高揚感を覚えて奈美がうめく。込み上げてくる気持ちに駆り立てられて、光輝が奈美の胸に谷間に顔をうずめる。

 奈美の胸のぬくもりを頬で確かめる光輝。彼はそのまま、その胸の乳房に口をつける。

「く・・ぅぅぅ・・・うあぁっ・・・!」

 さらなる恍惚を覚えて、奈美があえぎ声を上げる。彼女は快感に導かれるまま、光輝を抱きしめる。

「入ってくる・・光輝が、私の中に・・・!」

 光輝との接触と想いを心に刻む奈美。恍惚にさいなまれて、彼女の秘所から愛液があふれてきた。

(これが光輝の気持ち・・・私と一緒にいたい・・ひたすらに、そう思ってるのね・・・)

 奈美は光輝の想いを受け止めた。言葉では言い表せない彼の気持ちを。

(奈美ちゃん、ゴメン・・これは僕にとっても君にとっても、人生を大きく変えてしまうことだって分かってる・・・)

 光輝も奈美に向けて気持ちを巡らせていた。

(僕自身の正義に反することも分かっている・・でもこうすることで、僕の気持ちを奈美ちゃんに伝えられるなら・・・僕はこの罪を、喜んで背負うよ・・・)

 光輝は奈美の秘所に顔を近づけ、舌で舐める。その感触で、奈美がさらなる快感を覚える。

(僕たち、お互いを求めてる・・石にされていたときよりも・・石にされていたときでは感じられなかった、お互いのあたたかさを感じる・・・)

 そして光輝はそのまま、奈美と口付けを交わす。互いの舌が絡み合い、2人は恍惚の海へと身を委ねていく。

(もう、私たちは一心同体ね・・ううん、メシアに石にされたときから、私たちは離れられなくなっていたのかもしれないわね・・)

 奈美も光輝への気持ちを膨らませていた。

(もうあなたの正義は、私の正義でもあるのね・・光輝、私はあなたを守り、この世界を守ってみせる・・もう私は迷わない・・・)

(僕ももう迷わないよ・・この世界を、以前のような平和な世界にするために、僕は戦う・・・)

 互いに自身の決意を募らせていく奈美と光輝。2人の口付けは長く続いた。まるで2人がひとつに溶けていくかのように。

 そのあたたかなぬくもりを堪能したまま、光輝と奈美はこの夜を過ごした。

 

 朝日が昇る直前。光輝と奈美は眼を覚まし、互いを見つめていた。

「何だがムチャクチャになっちゃったね・・私が私でなくなったみたい・・・」

「ゴメン、奈美ちゃん・・君にこんなことをして・・・」

 ベットに横たわったまま、言葉を交わす奈美と光輝。

「いいよ、もう・・ここまで来たなら、もうどんなことが起きても怖くない・・光輝が私に勇気をくれたから・・」

「ううん・・勇気が持てたのは、奈美ちゃん自身の力だよ・・」

「そうだとしても、光輝がいたからよ・・これで私はもう、迷いに負けたりしない・・・」

「僕も君と一緒なら、どんな敵にも負ける気がしない・・」

 声を掛け合うと、光輝が奈美を抱き寄せる。その抱擁に奈美が動揺を浮かべる。

「君を失いたくない・・君を守ることが、世界を守ることにつながるんだ・・・」

「それは私も同じ気持ちだよ、光輝・・・一緒に戦っていこう・・・」

 光輝と気持ちを通わせて、奈美は自分の気持ちを確かめる。

(ありがとう、光輝・・あなたがいたから、私は強くなれた・・・あなたが私を救ってくれた・・・)

 奈美が心の中で光輝に感謝する。

(救世主は、いるのかどうかも分からないと思っていた・・でもそうじゃなかった・・・)

 心の奥底に秘めていた気持ちを、思い返していく奈美。

(救世主はそこにいた・・・私の、すぐそばに・・・)

 光輝を見つめる奈美が、彼が世界を救う救世主であると確信していた。

「光輝・・私、光輝のことが、好きだよ・・・」

「僕もだよ・・奈美ちゃん・・・」

 自分の想いを告げる奈美と光輝。2人は互いを抱き寄せ、そのぬくもりを確かめ合った。

 

 しばらくして、光輝と奈美は本格的に眼を覚まし、リビングに来た。そこでは外で一夜を過ごした利矢が待っていた。

「眼が覚めたようだな、光輝・・」

 利矢が声をかけると、光輝は小さく頷いた。

「戦いに赴く前に、お前に言っておくことがある・・お前の父、零夜のことだ。」

「父さん!?・・この1年、父さんはどうなってしまったのかと気にはなっていた・・父さんを知っているのか!?

 利矢が切り出した言葉に、光輝が血相を変えて問いかける。

「見るに耐えない有様になっていた。オレにとっても、お前にとっても・・それでも会おうと考えているなら、教えてやる・・」

 利矢が忠告を送るが、光輝は真剣な面持ちで頷く。

「ヤツはまだ生きている。ただしサターンの制圧に敗北し、自暴自棄になってしまっている・・」

「あの父さんが・・・そこまで追い詰められているのか・・・」

 父の現状を聞いて、光輝が歯がゆさを覚える。

「とにかくおじさんに会いに行ってみよう・・このまま放っておくことなんて・・」

 そこへ奈美が呼びかけ、光輝が頷く。

「1度父さんに会いに行こう・・もう1度、けじめをつけるんだ・・・」

「相変わらずお前は・・どこまでも甘いことだな・・」

 光輝の言葉に利矢が呆れる。

「案内してもらえないかな、利矢?・・父さんとの決着を着けたいんだ・・」

「・・・いいだろう。今のヤツなど、仕留める価値すらないからな・・」

 光輝の申し出を、利矢が憮然さを浮かべながらも受け入れた。すると光輝と奈美が笑みをこぼした。

 安堵したところで、奈美が麻子と理子に眼を向ける。

(麻子・・理子ちゃん・・ちょっとだけ寄り道するけど、すぐに元に戻すからね・・・)

 2人の救出を誓う奈美。彼女は麻子と理子がその気持ちを受け取ってくれたと思った。

 

 零夜の消息をつかんだ光輝と奈美は、利矢の案内で街外れの森に来ていた。

「こんなところにいるというのか、父さんは・・」

 周囲を見回しながら、光輝が呟く。周囲は木々が広がっており、人の気配は感じられない。

 やがて3人が森を抜けると、そこには1件の家があった。1人暮らしできるほどの大きさの家だった。

「ここだ・・」

 利矢の指摘に光輝と奈美が息を呑む。2人は緊張を抱えたまま、利矢とともに家へと向かった。

 家のドアには呼び鈴は一切ついていない。光輝は恐る恐るドアをノックした。

 だが中からの応答は一切なかった。光輝がさらにノックしても、全く反応がない。

 不安を覚えた光輝がついにドアを開けた。家の中には明かりが一切つけられておらず、日の光が窓から差し込むだけだった。

「ここに本当にいるの?誰かいるようには思えないけど・・・?」

 奈美が周囲を見回しながら、奈美が呟きかける。すると利矢が前に進めていた足を止める。

「ここにいたか・・・」

 利矢が呟きかけると、光輝と奈美が彼に示すほうに振り向く。そこに確かに零夜の姿があった。

 しかしかつての零夜ではなくなっていた。冷徹な態度は完全に消え失せ、無気力となって機敏さも欠片もなくなっていた。まさに生きながら死んでいるようだった。

「父さん・・・」

 変わり果てた父の姿を目の当たりにして、光輝は困惑の色を隠せなくなった。

 

 

次回予告

 

変わり果ててしまった零夜。

サターンの支配によって、彼の正義は心とともに崩壊を喫してしまった。

長年の時を経て紡がれる親子の心。

零夜が告げる過去に、光輝は?

 

次回・「正義」

 

 

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