ガルヴォルスMessiah 第20話「包囲」

 

 

 サターンの支配から平和を取り戻すため、光輝と奈美は街に繰り出していた。

 世界はいつもとかわらない平穏な日常に見えた。だがその内では、サターンへの畏敬やガルヴォルスへの願望などが見え隠れしていた。

「普通に見ていると、何も変わっていないように見えるんだけど・・」

「僕には分かる・・もう、今まで過ごしてきた街ではなくなっている・・・」

 流れていく雑踏を見つめて、奈美と光輝が呟きかける。2人には分かっていた。この雑踏の人々の多くが、普通の人間ではなく、ガルヴォルスであることを。

「サターンが、メシアが変えてしまった・・私たちの全てを、世界の全てを・・」

「それを元に戻すのは簡単なことじゃない・・でもやらなくちゃいけない。今のこの光景が、世界の日常になっていてはいけないんだ・・・!」

 奈美が口にした言葉に、光輝も深刻な面持ちで言いかける。

「まずは学校に行こう。みんながいるはずだから・・・」

「1年も休んでいたから、先生、カンカンになってるわね・・」

 光輝が言いかけた言葉に、奈美がため息混じりに答える。それを受けて、光輝が苦笑いを浮かべる。

「不可抗力とはいえ、休んでいたことには変わりがない。1回謝りに行くつもりで・・」

 光輝の言葉に呆れる奈美。2人は一路、通っている学校へと向かうのだった。

 

 理子は1人別荘に残っていた。彼女は麻子のことが気がかりになって仕方がなくなっていた。

 メシアの手にかかり、物言わぬ全裸の石像にされてしまった麻子。変わり果てた姉に、理子は心を落ち着かせることができなかった。

「お姉ちゃん・・もうずっと、石のままなのかな・・・」

 理子が麻子に歩み寄り、石の胸に手を当てる。

「あたしが子供のときに、よく一緒にお風呂入ってたよね・・お姉ちゃんの体、柔らかかったね・・・」

 麻子との思い出を思い返していく理子。

「今はこんなに固くなって・・・お姉ちゃん・・お姉ちゃん・・・」

 どんなに呼びかけても何も答えない姉に、理子は悲しみを膨らませていた。

「もう離れたくない・・どんなことがあっても、あたし、お姉ちゃんのそばにいるから・・」

 理子が麻子に寄り添ったまま、そこから動こうとしない。もはや彼女の心は、姉に完全に傾いていた。

 

 光輝と奈美が街に現れたことを、サターンは既に感知していた。所属するガルヴォルスたちが、2人の討伐に赴こうとしていた。

「まさかあの吉川光輝が生きていたとは・・」

「だがもはや世界は、ヤツの手に負えないほどの状況に置かれている。」

「この手でヤツをねじ伏せ、もう1度メシアへ捧げて・・」

 ガルヴォルスたちが光輝打倒に躍起になっていた。

「待て。」

 その彼に向けて声をかけてきたのはブリットだった。

「ブリット様・・どういうことなのですか?」

「お前たちの力では、吉川光輝を倒すことはできない。ムダに命を落とすだけだ。」

 ガルヴォルスたちを制止するブリット。腑に落ちないながらも、ガルヴォルスたちは光輝の力量を思い返していた。

「それにもう既に手は打っている。我々が直接手を出さずとも、吉川光輝は地獄の苦しみを味わいながら朽ち果てるだろう。」

 ブリットは言いかけて、不敵な笑みを浮かべる。彼の企てた策略が、光輝と奈美を追い詰めようとしていた。

 

 かつて楽しい時間を過ごしてきた学校。その正門の前に光輝と奈美は立っていた。

「今の時間だとまだ授業ね・・久しぶりの登校が遅刻だなんて、私たち、ホントにダメね・・」

「だからそれは仕方がないことだって・・とにかく行ってみよう。みんながいるから・・」

 時計を見る奈美に、光輝が気さくに言いかける。2人は休み時間になるのを見計らって、学校に足を踏み入れた。

 授業中の静寂から休み時間のにぎやかさに向かう廊下。光輝と奈美がその変化を実感しながら、その廊下を歩いていく。

 しばらく歩いて、2人は見知った顔を発見した。

「あっ!雄太(ゆうた)じゃないか!雄太!」

 光輝が高らかに男子、雄太に呼びかける。雄太は光輝たちのクラスメイトで、男友達としては光輝のかけがえのない親友である。

「えっ!?光輝!?ホントに光輝なのか!?

 雄太が光輝の登場に驚きを見せる。2人は再会の喜びを浮かべたまま、あつい握手を交わす。

「どうしたんだよ、光輝!?今までどこに行ってたんだよー!?

「ゴメン!ちょっといろいろあって!でももう大丈夫だから!」

 声高らかに話をする雄太と光輝。2人のやり取りに奈美が呆れる。

「奈美ちゃんもいなくなっちゃってたからさ・・もしかして2人駆け落ちして、愛の逃避行に走っちゃったとか?」

 雄太が口にした言葉に、光輝と奈美は赤面しながらも反論できなかった。当たらずも遠からずだったからだ。

 しばらく続いた沈黙を破って、光輝が真剣な面持ちを見せて言葉を切り出した。

「雄太、また僕たちは出かけなくちゃいけないんだ。他のみんなに、心配は要らないって言っておいて。」

「えっ?どこに行こうとしているんだよ、光輝・・?」

 光輝の言葉を受けて、雄太が不安を浮かべる。

「悪いんだけど言えない・・だけどホントに大丈夫だから・・」

「メシアのところに行こうとしているの?」

 弁解をしようとした光輝に、雄太が問いかける。突然冷淡に告げた彼の言葉に、光輝と奈美の表情が一気に凍りついた。

「何を言ってるんだ、雄太・・・!?

「ダメだよ、光輝・・メシアに逆らうなんて、1番いけないことじゃない・・」

 驚愕する光輝に、雄太がさらに言いかける。その言葉と態度が冗談でないことを、光輝も奈美も痛感せざるを得なかった。

 そのとき、2人は周囲に生徒たちが集まり、取り囲んでいることに気付く。生徒たちの全員が、2人に冷たい視線を向けてきた。

 そして奈美はさらに気がついた。生徒たちは、女子よりも男子の人数が極端に多かった。

「どういうことなんだ、これは・・・!?

「全てはメシアが導いた世界なんだよ・・」

 声を振り絞って問いかける光輝に、雄太が鋭く言いかける。

「君たちが反逆者であることは、僕たちにも明白なんだよ・・」

「もうお前らはオレたちの敵でしかないんだよ・・」

「敵は始末しなきゃなんない。そうでなきゃあたしたちが始末されるから・・」

 生徒たちも光輝と奈美に言いかける。その空気に2人は息を詰まらせる。

「どういうつもりなのよ・・みんな、眼を覚まして!私たちの敵はメシア!サターンなのよ!」

 奈美もたまらず雄太たちに呼びかける。しかし彼らは態度を変えない。

「大人しくメシアに従ったほうがいい・・そうすることで、光輝は救われるんだから・・・!」

 語気を強める雄太の頬に異様な紋様が浮かび上がる。その変化に光輝と奈美が眼を疑う。

「そんな・・・!?

「まさか・・・!?

 2人の眼前で、雄太の姿が怪物へと変貌する。人間の進化であるガルヴォルスに。

「雄太、お前・・・!?

 雄太の姿に愕然となる光輝。周囲にいた生徒たちも、次々とガルヴォルスへ変化していく。

「どうなってるの・・どうしてみんな、ガルヴォルスに!?

 奈美がまたらず声を張り上げる。生徒たちが光輝と奈美に鋭い視線を向ける。

「全てはメシアのお導きだよ・・」

「メシアは人間をガルヴォルスに転化させる力があるのよ・・」

「今、学校にいるみんなは全員、ガルヴォルスなのよ・・」

 生徒たちが低い声音で告げる。殺気に満ちたこの場の空気に、光輝も奈美も冷静さを保てなかった。

「それじゃ、早速始末させてもらうよ、光輝・・・!」

 バッファローガルヴォルスとなった雄太が言い放つと、光輝に向かって飛びかかる。光輝はよけるのもままならず突き倒される。

「光輝!」

 光輝に駆け寄ろうとする奈美だが、生徒たちに行く手を阻まれる。雄太にのしかかられ、光輝は起き上がることができなくなる。

「どうした!?早くガルヴォルスにならないと死んじゃうぞ!」

 雄太が眼を見開いて、光輝に言い放つ。

(雄太やみんながこんなことになるなんて・・こんなことになっているなんて・・・!)

 光輝は胸中で、眼の前で起こっている非情な現実を呪う。

(雄太とは戦えない・・戦いたくない・・・だけどこのまま、奈美ちゃんを見捨てるわけにはいかない・・・!)

「変身!」

 迷いを払拭しようとする光輝が、シャインガルヴォルスに変身する。

「シャイニングエナジー!」

 光輝は閃光を放出して、雄太を跳ね飛ばす。光輝が力を加減したため、雄太はさほどダメージを負ってはいなかった。

 光輝が奈美たちを取り囲んでいる生徒たちを払いのける。

「奈美ちゃん、大丈夫!?

「光輝・・・」

 声をかける光輝に、奈美が戸惑いを覚える。2人の前に、ガルヴォルスとなった生徒たちが立ちはだかる。

「戦えない・・だってオレの友達だ・・オレたちのクラスメイトなんだ・・・!」

 攻撃に踏み切れずにいる光輝。ガルヴォルスになってしまったとはいえ、親友やクラスメイトを手にかけることはできなかった。

「光輝、私も戦う。私もガルヴォルスの力を使えば、みんなを大人しくさせることが・・」

 そこへ奈美が光輝に言いかける。

「ダメだ。奈美ちゃんの力は、大きなリスクがありすぎる。どうしても使わなくちゃいけないときまで使わないほうがいい。」

「でも、それだと光輝ばかりに負担が・・!」

「大丈夫。奈美ちゃんも助け、みんなも傷つけないようにする・・」

 さらに呼びかける奈美を、光輝は制する。そして光輝は奈美を抱えて、窓を突き破って外に飛び出した。

 校庭に着地して、光輝は奈美を抱えたまま、間髪置かずに駆け出す。彼はこの場は極力戦闘を避けようと考えていた。

 だが正門では既に多くのガルヴォルスたちが待ち伏せていた。

「残念だったな。お前たちの行動は筒抜けだ!」

「お前たちの動きは、正門に差し掛かったところから既にキャッチしているぞ!」

 ガルヴォルスたちが光輝と奈美に言い放ち、哄笑を上げる。

「ここまで策を練り上げてくるなんて・・・サターン・・・!」

 狡猾な策略を企てるサターンに、光輝は怒りを膨らませていく。その間に生徒たちが2人に追いついてきた。

「諦めろ、光輝。お前にもう逃げ道はないぞ。」

「オレたち、友達だよな?友達を攻撃するなんてないよな?」

「友達なら、いうことを聞くのが筋ってものよね?」

 生徒たちが口々に呼びかける。その冷徹な言葉が、光輝と奈美の心に深く突き刺さる。

「ダメだよ、光輝!やっぱり私も・・!」

「ダメだ!雄太たちを傷つけたらいけない!」

 呼びかける奈美に、光輝が語気を強めて言い放つ。

「さぁ、大人しくメシアのところに行くんだ。世界はメシアの導きのままだ!」

「そう考えるのが浅はかということだ。」

 哄笑を上げる雄太に、鋭い声が飛び込んできた。次の瞬間、雄太の体が上半身と下半身に両断される。

「なっ・・・!?

 驚愕する雄太が事切れ、その場に倒れ込む。その瞬間に光輝も眼を疑った。

 さらに周囲のガルヴォルスたちに次々と漆黒の刃が貫いていった。

「この技は・・!」

 光輝が眼つきを鋭くして周囲を見回す。朽ち果てるガルヴォルスたちをかき分けて現れたのは、ダークガルヴォルス、利矢だった。

「利矢!」

「吉川光輝が手を出せなくても、オレは手を出すぞ。容赦なく・・」

 声を上げる光輝と、低く告げる利矢。乱入者の出現にガルヴォルスたちが畏怖する。

「あれは、速水利矢!・・こんなところに・・・!」

「これはまずい!全員、撤退するぞ!」

 危機を感じたガルヴォルスたちが逃げ出す。だがこれを見逃す利矢ではなかった。

「呪うなら、オレの倒すべき相手である光輝に手を出した、自分の愚かさを呪うんだな。」

「利矢、やめろ!みんなは・・!」

 鋭く言い放つ利矢に、光輝が呼び止める。だが利矢はその制止を聞かずに力を発揮し、ガルヴォルスたちに向けて漆黒の刃を解き放った。

 その刃の群れに次々と串刺しにされるガルヴォルスたち。彼らは抵抗も逃亡もままならず、命を奪われた。

「利矢・・・」

 光輝は全滅したガルヴォルスたちの姿に眼を疑う。死亡したガルヴォルスたちの体が崩壊し、砂煙のように霧散していく。

「相変わらず浅はかなものだ。偽善者も、世界そのものも・・」

 利矢が冷徹な態度を見せて、光輝に振り返ったときだった。光輝が拳を繰り出し、利矢を殴り飛ばした。

 不意を突かれた利矢だが、倒れることなく踏みとどまった。殴られた頬を拭って、彼が光輝に視線を戻す。

「どういうつもりだ、光輝!?・・ヤツらはオレだけでなく、お前たちの敵でもあるんだぞ・・・!」

「雄太は敵じゃない!みんなは敵じゃなかったんだぞ!それなのにお前は!」

 鋭く言いかける利矢に、光輝が怒鳴る。光輝は元々人間だった人々を容赦なく手にかけた利矢の行為が許せなかったのだ。

「昔は敵ではなかったかもしれない。だが現に敵として、お前たちに襲い掛かったではないか。」

「それは・・・!」

「それともお前はその情のために、自分がどうなっても構わなかったのか?神崎奈美が傷ついてもよかったのか?」

 利矢が告げた言葉に、光輝は言葉を詰まらせる。奈美と雄太たち。両方を守りたくても、どちらかを切り捨てなくてはならない。その板ばさみにあい、光輝は苦悩にさいなまれた。

「ヤツらに慈悲を与えるならば、余計なことを考えず、ひと思いに葬り去るべきだ。」

「そんな・・そんな簡単に割り切れるわけが・・・!」

 利矢が言いかける言葉に納得していないものの、光輝はその言葉に反論できないでいた。

「本来ならばお前とここで決着を着けたいところだが、サターンや他のガルヴォルスたちに邪魔をされるのも癪に障る。まずはメシアを倒し、サターンを滅ぼす。」

「利矢・・・」

「オレは、オレを滅ぼす全てのものを滅ぼす。その象徴が偽りの正義。その正義の象徴であるお前を倒すことが、オレの最大の目的だ。」

 利矢は光輝に言い放つと、人間の姿に戻り、この場から立ち去ろうとする。

「待ってくれ、利矢。」

 そこへ光輝が呼びかけ、人間の姿に戻る。利矢が足を止めて、彼に振り返る。

「僕もサターンを倒さなくちゃいけないと考えている。だがそのために、関係のない人を傷つけることも許さない。利矢、君がそうしないためにも、君は僕と行動をともにしてもらう。」

「勝手なことを・・本当ならお前と一緒にいることは不快だが、メシアを倒すためにはお前の力も必要となってくる。」

 自分の心境を語り合う光輝と利矢。

「いいだろう。今回だけはお前と行動をともにしてやる。」

「利矢・・ありがとう。多分サターンは、僕たちが力を合わせないと敵わない相手だからね・・」

 協力の意思を見せた利矢を、光輝は微笑んで受け入れた。

「とりあえず麻子ちゃんと理子ちゃんのところに戻ろう。もう1度話し合ってから出直したほうがいい・・」

 光輝の言葉に奈美が頷く。表には出さなかったが、利矢も光輝の案に同意していた。

 メシアへの挑戦のため、光輝たちは麻子と理子のいる別荘に戻るのだった。

 

 

次回予告

 

光輝と奈美を狙うメシア。

その魔手は彼らではなく、理子に伸びようとしていた。

姉と離れたくない。

どんなことがあっても一緒にいたい。

その気持ちを秘めた、理子の決意とは?

 

次回・「石化」

 

 

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