ガルヴォルスMessiah 第21話「石化」

 

 

 光輝と奈美が学校に向かっている間、理子は麻子のそばにいた。麻子は依然として石化したままだった。

 麻子を助けるには、メシアを倒すしかない。だが理子にはそれだけの力すらなかった。

「お姉ちゃん・・もうあたしには、お姉ちゃんのそばにいることしかできないのかな・・?」

 理子が麻子に向けて物悲しい笑みを浮かべる。

「光輝さんは、石になっている間も意識は残っているって言ってた・・あたしの今の情けない顔、お姉ちゃんも見てるってことだよね・・」

 必死に笑顔を作ろうとする理子。だが彼女の意思に反して、涙が次々にあふれてくる。

「もう信じるしかないね・・光輝さんと奈美さんが、メシアもサターンもやっつけてくれるんだから・・」

「そんなに2人を信じているのね、あなたは・・」

 笑顔を取り戻そうとしたとき、理子は背後から声をかけられた。緊迫を膨らませる彼女の後ろにいたのは、サターンの統治者、メシアだった。

「メ、メシア!?どうしてここに・・!?

 理子がメシアの姿を見て驚愕する。今やメシアは世界に通じる顔となっていた。

「あなたのお姉さんは今は私のもの。たとえ私のそばから離れていても、どこにいるのかすぐに分かるのよ。」

 メシアが理子に向けて妖しい笑みを見せる。

「それで何の用よ!?またお姉ちゃんをさらいに来たの!?

「そう怖がらないで。私はあなたも救いに来たのよ。あなたのお姉さんのようにね・・」

 問い詰める理子に対し、メシアが淡々と言いかける。

「これのどこが救いなのよ!?人を裸にして石にして、恥ずかしいことこの上ないじゃない!」

「それが救われてることじゃない。永遠の命、最高の美しさ。これ以上のすばらしさはないわ・・」

 憤りを見せる理子だが、メシアは哄笑を上げる。

「お姉ちゃんは渡さない!ずっとあたしはそばにいるんだから!」

 いきり立った理子がメシアに飛びかかる。だがその間にアイが割って入り、理子はたまらずしりもちをつく。

「メシアを傷つけようとする者は、誰であろうと容赦はしません。」

 アイが理子に向けて鋭く言いかける。自分の手に負えない危機であると痛感し、理子はたまらず麻子に駆け寄る。

「お姉ちゃんに近づかないで!お姉ちゃんにこれ以上手を出すなら、あたしはどんなことをしてでも、あなたたちを許さない!」

「貴様!メシアに何ということを!」

 鋭く言い放つ理子に、アイが憤慨する。だがそのアイをメシアが手を差し出して制する。

「別に気にしていないからいいわ。だからつかみかからないで。」

「しかし、メシア・・!」

 言いかけるメシアに、アイが抗議の声を上げる。しかしメシアは首を横に振る。

「いいのよ・・・それよりあなた、本当にお姉さんのことを大切にしているのね。」

 メシアが口にした言葉に、理子が疑問を覚える。

「私に全てを委ねなさい。それならあなたは、お姉さんとずっと一緒にいられるのよ。」

「あたしと、お姉ちゃんが一緒に・・・」

 メシアが告げた言葉に、理子は心を揺さぶられる。

「もしもあなたとお姉さんが、どんなものにも揺すぶられることなく、ずっと一緒にいられるとしたら・・ずっと、永遠に・・・」

「ダメだよ・・いくらなんでも、お姉ちゃんがこんなこと・・・」

 メシアに言いくるめられないよう、必死に耐える理子。そのとき、理子はメシアに両肩をつかまれる。

「あなたも解放してあげる・・あなたとお姉さん、姉妹が心と心の触れ合いをするのよ・・」

 妖しく囁きかけるメシアから、理子は眼をそらすことができなくなる。

「お互いの心を通わせるのよ、2人とも・・私が、あなたたち姉妹を幸せに導いてあげる・・」

 メシアは言いかけると、理子の胸元に指を当てる。その指先から光が放たれ、理子の胸を貫いた。

 

   ドクンッ

 

 理子が強い胸の高鳴りを覚えて、眼を見開いたまま言葉が出なくなる。

「これであなたも救われる・・お姉さんのように・・」

  ピキッ ピキッ ピキッ

 メシアが妖しく微笑んだ瞬間、理子の両足が石に変わった。靴下が引き裂かれ、石化した素足がさらけ出される。

「あ、足が動かない・・これが・・!?

「そう。これであなたもお姉さんと同じになれる・・でもこのままだと、お姉さんのそばにいながら、触れることができないわね・・」

 驚愕する理子の前で、メシアが言いかける。彼女は理子を抱えると、麻子の前に立たせる。

「これで十分に、あなたはお姉さんに触れられるわね・・」

 メシアに言いかけられる前で、理子が麻子を眼の前にして動揺を膨らませていく。

  ピキッ パキッ パキッ

 石化が一気に理子の体を駆け巡っていく。衣服が引き裂かれ、彼女の裸身があらわになっていく。

「こんな・・こんなことって・・・お姉ちゃん!」

 感情を高まらせた理子が、たまらず麻子を抱きしめた。理子の眼からは涙があふれ、今にもこぼれ落ちそうになっていた。

「それでいい・・そうして姉妹が抱き合えば、これほどすばらしいことはないわ・・終わることのない姉妹の時間を楽しむといいわ・・」

 2人の姿を見つめて、メシアが笑みをこぼす。理子が麻子に対して戸惑いを見せる。

(理子・・・)

「お姉ちゃん・・・!?

 そのとき、理子の耳に麻子の声が入ってきた。

(理子・・ゴメン・・・あなたまでこんなことになって・・・)

「お姉ちゃん・・・ホントにお姉ちゃんだ・・・」

 再び麻子の声が伝わり、理子はその声が空耳でないと確信する。

「ホントに、まだお姉ちゃんの心は消えてなかった・・・お姉ちゃん・・・」

 姉の意識が残っていたことを喜ぶ理子。だが自分も石に変わろうとしていることに、彼女は困惑する。

「お姉ちゃん、ゴメンね・・あたしも、こんな姿にされちゃって・・・でも大丈夫だよね・・光輝さんと奈美さんがいるから・・・」

  パキッ ピキッ

 囁きながら麻子を抱きしめたまま、理子の両手が石に変わる。髪も頬も石化が及び、彼女には声を上げることもままならなくなっていた。

「お姉ちゃん・・・おねえ・・ちゃ・・・ん・・・」

  ピキッ パキッ

 声を振り絞っていた唇も石に変わり、理子は声を発することもできなくなる。彼女はひたすら麻子を見つめていた。

(理子・・・)

 そのとき、麻子の声が理子に伝わってきた。理子の眼には麻子が彼女を迎えてくれているように見えた。

(お姉ちゃん・・・)

 麻子に寄り添い、そのあたたかさを感じ取る理子。彼女は姉との抱擁に安らぎを覚えていた。

(ゴメンね・・お姉ちゃん・・・ありがとうね・・・)

 姉への謝罪と感謝を募らせる理子。

    フッ

 瞳にヒビが入り、理子は完全に石化に包まれた。彼女も麻子と同様に全裸の石像にされ、メシアの手中に堕ちてしまった。

「これであなたも、私に救われたわね・・」

 麻子に抱きついたまま、微動だにしなくなった理子を見つめて、メシアが感嘆の声を上げる。

「この姿こそ、姉妹にとって1番幸せな姿・・誰にも邪魔されず、絶対に離れることはない・・今のあなたたちは、幸せに満ちているわ・・」

 哄笑を上げるメシアが、麻子と理子に歩み寄り、石の肌に触れる。

「今は石化されたショックで意識を失ったけど、時期に意識が蘇る。そのときあなたは、姉妹の永遠の幸せを堪能することになるのよ、理子・・」

 理子の石の頬を撫でて、メシアが囁きかける。

「それまであなたが、理子を見守っていてね、麻子・・」

 メシアは麻子にも言いかけると、理子から手を離し、きびすを返す。

「行くわよ、アイ。もうここには用はないわ・・」

「よろしいのですか?このまま2人もコレクションとして持ち帰らなくては・・」

 呼びかけるメシアに、アイが当惑を見せる。

「いいのよ。せっかく姉妹が厚い抱擁の中で、永遠の命と最高の美を楽しんでるのだから。それに水を差すわけにはいかない・・ここに置いていくわ・・」

「メシア・・・分かりました。ですが光輝と奈美はいかがいたしましょう?」

「多分2人はこの光景を見て、ひとつの決断をするでしょうね・・私を倒すという、ひとつの決断を・・」

 アイの言葉に答えながら、メシアは期待に胸を躍らせる。彼女は光輝と奈美が、迷いを捨てて真っ直ぐに自分を狙いに来ることを確信していた。

「待っているわ、光輝、奈美・・もう1度、あなたたちに幸せを与えてあげるから・・私の救いから抜け出したら、あなたたちは不幸になっていくのだから・・」

 メシアは囁きかけると、アイとともに別荘を後にした。そこには石化されて抱擁したまま立ち尽くす麻子と理子だけが取り残されていた。

 

 考えを練り上げるため、利矢とともに一路別荘に戻ろうとしていた光輝と奈美。それまでにもガルヴォルスたちの襲撃にあいながらも、彼らは全て撃退していた。

「どうして・・どうしてみんな、ガルヴォルスになってしまったんだ・・・!?

 変わり果てた世界に光輝が愕然となる。すると利矢が冷淡な態度で言いかける。

「これが世界というものだ。世界は強大な力を恐れ、あるいは力に惹かれていく。その変動こそが、人の心の歪みなのだ。」

「そんな・・そんなバカなことが・・・」

「お前の信じている正義など、単純なことですぐに揺らいでしまう・・お前のようにどこまでも貫き通せるのは、実に稀なことだったのだ・・」

 歯がゆさを膨らませる光輝に、利矢が冷淡に告げる。その言葉に光輝は腑に落ちなかった。

「そんなことはない・・僕たちが希望を捨てない限り、正義は何度でも蘇るんだ・・」

「だがそれも、メシアの前では儚いものでしかない・・」

 光輝が抗議の声を上げたとき、別の声が飛び込んできた。

「お前は・・・!」

 光輝と利矢には聞き覚えのある声だった。2人が振り返った先には、不敵な笑みを浮かべたブリットの姿があった。

「久しぶりだな、吉川光輝。もっとも、お前はメシアのおそばにいたのだから、久しいことはないか・・」

「ブリット・・こんなところにまで・・・!」

 言い放つブリットに、光輝が身構える。

「私はお前をこの手で倒したいという願望を捨てきれないでいた。だが今、この願望を叶えるときが来るとはな・・・覚悟するがいい、吉川光輝、速水利矢!」

 言い放ったブリットの姿がサンダーガルヴォルスへと変身する。

「以前の私だと思うな。この1年で力をつけたのは、お前たちだけではないのだぞ・・・!」

「奈美ちゃん、下がってて!」

 光輝が奈美に呼びかけ、利矢がダークガルヴォルスに変身する。

「変身!」

 光輝もシャインガルヴォルスに変身し、利矢とともにブリットに立ち向かう。ブリットが全身から電撃を放出する。

「威力を上げていたとしても、同じ攻撃では・・!」

 利矢が言い放ったときだった。突如彼は電撃に襲われた。

「何っ!?

 虚を突かれた利矢が地面に倒れる。立ち上がろうとする彼を、ブリットが不敵な笑みを浮かべる。

「どういうことだ・・なぜ放たれていないのに電撃が・・!?

「簡単なことだ。空気には微弱だが静電気が散りばめられている。私はその電気を火薬のように破裂させたに過ぎない。もっとも、威力はかなり上げているがな。」

 うめく利矢に、ブリットが淡々と答える。彼は静電気にエネルギーを注ぎ、一気に電力を上げて攻撃に変えたのである。

「どれほど強くなったかは知らんが、回避不可能のこの攻撃には敵わん。速水利矢、そして吉川光輝、お前たちの最後だ。」

 ブリットが利矢に右手をかざし、利矢に追撃を加えようとした。

「シャイニングナックル!」

 そこへ光輝が飛びかかり、光を帯びた打撃を繰り出す。だがブリットはその一撃を、電撃を帯びた右手で受け止める。

「なっ!?

「攻撃パターンと弱点。分析するには1年は長すぎた・・」

 驚愕の声を上げる光輝に、ブリットが低く告げる。彼の右手から稲妻がほとばしり、光輝にショックを与える。

「ぐあぁっ!」

 絶叫を上げる光輝を、容赦なく稲妻が襲う。ブリットの力も、この1年で格段に上がっていた。

「くそっ!シャイニングエナ・・!」

「そうはさせるか!」

 光のエネルギーを放出しようとした光輝だが、ブリットが強めた電撃に襲われる。激痛のあまりに、光輝はエネルギーの集中ができなくなる。

「今度こそ最後だ。華々しく散るがいい!」

「やめなさい!」

 光輝にとどめを刺そうとしたブリットに、奈美が呼びかける。彼女の背中から、光を帯びた蝶の羽が生えてきていた。

「ガルヴォルスに転化したというのは本当だったか、神崎奈美。だがお前でも私は倒せんぞ。」

「ダメだ、奈美ちゃん・・君の力は・・!」

 奈美に不敵な笑みを浮かべるブリットと、声を振り絞る光輝。奈美はブリットを鋭く見据えて、意識を集中する。

「光輝を解放しないなら、私はお前を倒す・・・!」

「大きく出たな。だがこの静電気から発動される電撃の包囲網は、お前でも破れはしないぞ。」

 低く告げる奈美だが、ブリットは不敵な笑みを消さない。

「これは試合でも勝負でもなく戦い・・だから私は、手段を選ばない・・・」

 奈美は言いかけると、両手に力を集束させる。力は光の弓矢となり、彼女はそれを構える。

「そんなものでは私の電撃を打ち破ることはできないと・・」

 ブリットが自信を見せながら、静電気を媒介にして電撃を放とうとした。だが一瞬破裂した電撃が、奈美の羽から放出された光にかき消された。

「何っ!?

 攻撃をかき消されたことに驚愕するブリット。そこへ奈美が光の矢を解き放つ。

 その一矢がブリットの体に突き刺さった。そして矢は光を強め、膨張をしていく。

「バカな!?・・お前に、これほどの力が・・・!」

 絶叫を上げるブリットが力なく倒れる。事切れた彼の肉体が崩壊を引き起こし、霧散していく。

「光輝、大丈夫!?・・うぐっ・・・」

 光輝に駆け寄ろうとしたとき、奈美が苦悶を覚える。ガルヴォルスの力を使った影響で、彼女は性欲に襲われたのだ。

 人間の姿に戻った光輝が、うずくまる奈美に駆け寄る。

「奈美ちゃん!しっかりして、奈美ちゃん!」

 光輝が呼びかけると、奈美が弱々しく微笑みかけてきた。彼女の様子に利矢が眉をひそめる。

「どういうことだ・・何が起こっている・・・?」

「これが僕が、奈美ちゃんに力を使わせたくなかった理由だよ・・」

 利矢が問いかけると、光輝は深刻な面持ちのまま答える。

「奈美ちゃんはガルヴォルスの中でも高い力を得たけど、性欲の暴走という代償も払うことにもなるんだ・・」

「そうだったのか・・いきなりあのような力、何のリスクもなく使えるはずがない・・」

 光輝の説明で、利矢は奈美に起きている事情を理解した。奈美が性欲の赴くままに光輝にすがりつき、光輝も奈美を力強く抱きしめる。

「急いで戻ろう・・奈美ちゃんを落ち着かせたい・・・」

「・・・いいだろう。ブリットが倒されたことで、他のガルヴォルスによる包囲が仕掛けられる可能性は低くなっただろう・・」

 光輝の呼びかけに利矢が頷く。光輝は奈美を抱えて、利矢とともに別荘へと向かっていった。

 麻子だけでなく、理子までもがメシアの手にかかったことも知らないまま。

 

 

次回予告

 

メシアの手に落ちていく仲間たち。

戦うほどに、絶望へと堕ちていく。

自分の力と戦う理由に困惑する奈美。

揺れ動く彼女に向けて、光輝が打ち明けた決意とは?

 

次回・「告白」

 

 

作品集

 

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