ガルヴォルスMessiah 第19話「復活」

 

 

 大切な人たちを守るため、奈美は人の殻を打ち破り、ガルヴォルスとして覚醒した。その力が、メシアにかけられていた石化を打ち破ったのである。

 彼女の背中から蝶のような羽が生えていた。その姿は妖精を思わせるものだった。

「奈美ちゃん・・・」

 変わり行く奈美に光輝は愕然となっていた。彼女には人のままでいてほしかったからである。

 だが奈美は選んだ。光輝、麻子、理子、たくさんの大切な人たちを守るため、彼女は力を得ることを。

 あたたかな光の中で、奈美が光輝を優しく抱きとめる。彼女の腕の中で、光輝は意識を失った。

 

 メシアの眼前で石化を打ち破った奈美。彼女は光輝とともに生身の体を取り戻し、メシアに眼を向けた。

「麻子は返してもらう・・お前なんかの勝手にはさせない・・・!」

「そんな・・・私の力が破られるなんて・・・!?

 鋭く言い放つ奈美と、自分の力が打ち破られたことに驚愕するメシア。奈美が光輝を抱えたまま、石化された麻子に手を伸ばす。

「ここから出すわけにはいかない!」

 激情をあらわにしたメシアが奈美を妨害しようとする。だが気持ちが真っ直ぐになっていた奈美の力は、差し出したメシアの手を払いのけた。

「もうあなたの力には屈しない・・・!」

 奈美はメシアの横をすり抜けて、麻子を抱き寄せた。

(お願い・・私たちを理子ちゃんのところへ・・・!)

 奈美は理子へ意識を強く傾けた。すると彼女の体が、光輝と麻子とともに光り輝く。

「もう1度オブジェに変えて・・!」

 メシアが奈美に向けて石化の光線を放つ。だが奈美たちの姿が消失し、光線が標的を外して壁に当たって弾ける。

「メシア!」

 その騒動をかぎつけて、アイが部屋に飛び込んできた。彼女は愕然となっているメシアを目の当たりにして、眼を見開く。

「メシア・・・いかがなされたのですか・・・!?

 アイが体の震えを抑えて、メシアに歩み寄る。

「すぐに追いかけるわよ・・光輝たちを逃がすわけにはいかない・・・!」

 メシアがアイに鋭い視線を送る。その視線が殺気に満ちていて、アイは思わず息を呑んだ。

 その瞬間、アイは現状を理解した。光輝、奈美、麻子がメシアの手から逃れたことを。

「分かりました・・すぐに捜索を開始します・・・」

 アイは振り絞るように言いかけると、即座に部屋を飛び出した。メシアもゆっくりと立ち上がり、光輝たちを追うべく動き出した。

(私の石化が打ち破られるなんて・・神崎奈美、あなたは私の想像を大きく超えるガルヴォルスになってしまったようね・・)

 奈美に脅威を感じながら、メシアも部屋を飛び出した。

 

 麻子と別れた理子は、1人で桧山家の別荘にたどり着いていた。だが麻子と離れ離れになってしまい、彼女は悲しみに暮れていた。

「お姉ちゃん・・・早くここに来て・・1人でいるのは辛いよ・・・」

 孤独にさいなまれて、理子が涙を浮かべる。

「光輝さんも奈美さんも、どこにいるの・・・?」

 さらに寂しさを募らせる理子。

「お願い・・みんな、帰ってきて・・・」

 ひたすら願い続ける理子。

 そのとき、薄明かりしかつけていなかった部屋に、突如まばゆい光が現れた。その光に理子が驚きを覚える。

「何、この光・・・!?

 恐る恐るその光に手を伸ばす理子。その光の中から現れたのは、光輝、奈美、麻子だった。

「えっ!?

 理子は一瞬眼を疑った。だがそこにいる光輝たちは紛れもなく本物だった。

「光輝さん・・奈美さん・・・おねえ・・・」

 理子は一瞬喜びを感じたときだった。麻子は物言わぬ石像へと変わり果てていた。

「お姉ちゃん!?・・どうしちゃったの、お姉ちゃん・・・!?

 理子が愕然となりながら麻子に近づく。そのとき、意識を取り戻した光輝が体を起こしてきた。

「理子ちゃん・・理子ちゃんなのか・・・」

「光輝さん!・・奈美さんも・・2人は無事だったんですね・・・」

 声を振り絞る光輝に、理子が再び喜びを覚える。

「う、うん・・僕と奈美ちゃんは何とか助かったけど・・・」

 光輝は困惑気味に言いかけると、麻子に視線を移す。麻子はメシアの手にかかり、石化されてしまった。

「ゴメン、理子ちゃん・・麻子ちゃんを守れなくて・・・」

「ううん、いいよ・・光輝さんと奈美さんは・・・」

 謝罪する光輝に、理子が弁解を入れる。

「詳しいことを話すよ・・でも今は少し休ませて・・・」

 光輝が言いかけて、奈美に眼を向けたときだった。そこで彼は、奈美がうずくまっているのに気付く。

「奈美ちゃん・・!?

 光輝が血相を変えて奈美を抱き寄せる。

「どうしたんだ、奈美ちゃん!?しっかりするんだ!」

 光輝が呼びかけるが、奈美はあえぎ続けていた。そして奈美は光輝にすがり付いてきた。

「ち、ちょっと奈美ちゃん!?・・うわっ!」

 光輝が奈美に寄りかかられて倒れ込む。起き上がろうとしたとき、光輝は奈美の荒い息遣いを感じ取る。

「奈美ちゃん・・・まさか、これは・・!?

 光輝が不安を覚えると、奈美が弱々しく微笑んで小さく頷いた。

「どうしてかな・・何だか・・我慢ができなくなってきたよ・・・」

「奈美ちゃん・・・」

 奈美の異常がどういうものなのかを察して、光輝は困惑する。だが彼女を救うため、彼は意を決した。

「理子ちゃん、部屋を借りるよ・・麻子ちゃんをお願い・・」

「でも光輝さん、奈美さん、苦しそうですよ!そんな状態で何を・・!?

「僕に任せてくれ・・大丈夫・・大丈夫だから・・・」

 問い詰めてくる理子を制すると、光輝は奈美を連れて隣の部屋に移動した。

「光輝さん・・奈美さん・・・」

 部屋に閉じこもった2人に困惑する理子。そして彼女は、物言わぬ石像へと変わり果てた姉、麻子を眼にして愕然となる。

「お姉ちゃん・・・こんな・・こんなことって・・・」

 涙ながらに麻子に呼びかける理子。だが石化した麻子は何も答えなかった。

 

 理子のいたリビングの隣にある部屋になだれ込んだ光輝と奈美。光輝は息を荒げている奈美をじっと見つめていた。

「奈美ちゃん・・もしかして、メシアがしてきたことを・・・!?

 光輝が問いかけると、奈美は小さく頷いた。

「どうしてこんなことになったのかは分かんない・・多分、ガルヴォルスの力の副作用だと思う・・・」

「副作用・・そんなものが・・・」

 奈美の言葉に光輝が困惑を覚える。

「お願い、光輝・・・いけないことだとは分かってるけど・・・」

「ち、ちょっと奈美ちゃん・・・!」

 奈美にさらに寄りかかられ、光輝が戸惑いを覚える。彼は彼女に手をつかまれ、ふくらみのある胸に押し当てられる。

「ダメだよ、奈美ちゃん・・そんなことしたら奈美ちゃんが・・・!」

「構わない・・私が頼れるのは光輝しかいないから・・・」

 声を荒げる光輝に奈美が言いかける。奈美は光輝の顔を自分の胸の谷間に押し当てる。

「ゴメン、光輝・・許してもらわなくてもいいから・・・」

 光輝の息遣いを感じて、奈美があえぎ声を上げる。

 奈美は完全に性欲にさいなまれていた。彼女が転化したフェアリーガルヴォルスは、驚異的な力を発揮できる代わりに、性欲の暴走という代償が伴ってしまう。

 奈美はガルヴォルスの力を放出して、光輝とともにメシアにかけられた石化を打ち破り、さらに麻子と連れて理子の待つ桧山家の別荘にテレポートした。だがその直後、彼女はそのリスクである性欲に犯されることになってしまった。

(確かに私は、力が手に入ればどうなってもいいと思っていた・・力を手に入れる代償がこれでも、私は構わない・・・)

 胸中で呟きながら、奈美は恍惚を痛感する。彼女の秘所から愛液があふれ出て、床に流れ落ちていく。

(ゴメン、光輝・・でも私は嬉しいの・・・)

 奈美は息を絶え絶えにしながら、胸から離した光輝の顔を見つめる。光輝も奈美の行為に完全に困惑してしまっていた。

(私の力で、光輝を守ることができたのだから・・・)

 奈美は心の中で安堵を感じていた。自分の手で光輝を助けることができたのだから。

(いつまでも守られてばかりじゃないよ、光輝・・これからは私が、あなたを守っていくから・・・)

 光輝への想いを募らせる奈美。彼女はその気持ちの赴くまま、光輝と口付けを交わした。

 光輝も奈美と心を通わせていた。1年間感じてきた彼女のぬくもりを、彼は改めて感じ取っていた。

(僕もこの1年の間に、どうかしてしまったみたいだ・・奈美ちゃんとこうしていることに、喜びを感じている・・・)

 光輝の恍惚のままに、奈美の体に触れていく。2人の抱擁はこの夜、しばらく続くことになった。

 

 それから、光輝と奈美はいつしか眠っていた。2人が眼を覚ましたときには、既に外から日の光が差し込んできていた。

「も、もうこんな時間になってしまったのか・・・」

 もうろうとする意識の中、光輝は体を起こす。だが奈美は自分の体を抱きしめたまま、起き上がろうとしなかった。

「ゴメンね、光輝・・いきなりこんなことして・・・」

「気にしないで・・今回は奈美ちゃんに助けられちゃったんだから・・・」

 謝る奈美に光輝が弁解を入れる。

「でも、奈美ちゃんまでガルヴォルスにさせて・・奈美ちゃんを完全に戦いに巻き込んでしまった・・・」

「もうそれは言わないで・・サターンは世界を征服してしまっている・・その時点で、私たちは十分に戦いに巻き込まれてるわ・・」

 罪の意識を感じる光輝に対し、奈美は歯がゆさを覚えて自分の体を強く抱きしめる。

「みんなを守りたい・・それはもう、光輝だけの願いじゃないのよ・・・私も光輝を守りたい・・そのために私はガルヴォルスになったのよ・・」

「だけど、僕は奈美ちゃんには、ガルヴォルスになってほしくなかった・・・」

「ありがとう、光輝。心配してくれて・・いつもあなたには勇気付けられるわね・・」

 深刻さを込めて告げる光輝に、奈美が物悲しい笑みを浮かべる。

「ここまで来たなら、僕は奈美ちゃんを止められない・・奈美ちゃんも覚悟を決めてガルヴォルスになったんだから・・・」

 落ち着きを取り戻した光輝が、奈美に手を差し伸べる。

「一緒に戦っていこう、奈美ちゃん・・」

「光輝・・・うん・・・」

 奈美は頷いて、光輝の手を取って握手を交わす。2人は今、切っても切り離せない深い関係となっていた。

「そうだ。理子ちゃんはどうしてるんだろうか・・」

 思い出した光輝が部屋を出ようとするが、奈美にいきなり腕をつかまれて止められる。

「そんな格好、理子ちゃんにいつまでも見せておく気・・・!?

 奈美に鋭く睨みつけられて、光輝が気まずさを浮かべて思いとどまる。代わりに奈美が部屋を出て、理子と麻子の様子を確かめようとした。

 理子は麻子の前で横たわっていた。悲しみで泣きつかれて、そのまま眠ってしまっていた。

「理子ちゃん、ちょっといいかな・・・?」

 奈美が声をかけると、理子が眼を覚ました。だがまだ悲しさから抜け出せていなかった。

「大丈夫?・・といっても、大丈夫でいられるはずがないよね・・」

「ううん、大丈夫・・ただ、お話を聞かせてはもらえないでしょうか・・どうしてこんなことになったのか・・・」

 奈美の心配に答えつつ、理子が質問を投げかける。

「その前に、何か着るものをもらえるかな?私も光輝も、いつまでも裸でいるわけにはいかないから・・」

 奈美が頬を赤らめながら口にした申し出に、理子が戸惑いを覚えながら頷いた。

 

 この別荘にはいろいろなものが取り揃えられていた。光輝と奈美はそこから私服を着用することになった。

「ありがとう、理子ちゃん・・ホントに一時はどうなるかと思ったよ・・」

 理子への感謝を口にして、光輝が安堵を浮かべる。

「それで、今まで何があったんですか?・・もしかして、お姉ちゃんと同じように・・・」

「その通り。私と光輝もメシアに石にされて、そのまま1年を過ごしてきたのよ・・」

 理子の質問に奈美が気恥ずかしさを込めて答える。理子も想像して一瞬赤面するが、すぐに光輝にいやらしい表情を浮かべてきた。

「いいですね、光輝さんは。奈美さんとあんな付き合いをするなんて。昔だったらちょっとしたことでもすぐに気絶してたのに・・」

「からかわないでよ、理子ちゃん・・僕も奈美ちゃんも大変だったんだから・・」

「そうよ、理子ちゃん。今の麻子のような状態で、1年も過ごしてたんだから・・」

 からかってくる理子に、光輝と奈美が弁解する。その言葉を受けて、理子が沈痛の面持ちを浮かべる。

「ゴメンなさい・・お姉ちゃんも石にされて、裸のまま動けないんだよね・・光輝さんと奈美さんも、そんな状態のまま、メシアに好き放題にされてたんだから・・・」

「いいのよ、理子ちゃん・・もうこれ以上、メシアやサターンの好きなようにさせちゃいけないよね・・」

 謝る理子を励ます奈美。2人も光輝も真剣な面持ちを見せて、決意を募らせる。

「今、この世界はサターンに支配されている。そしてサターンは、メシアによって動かされている・・」

「私たちの目標はメシア、ただ1人・・メシアを倒しても、サターンを壊滅させても、世界が元通りになるわけじゃないけど・・」

「世界の平和を取り戻すために、僕たちは戦う・・・!」

 奈美とともに決意を口にして、光輝が拳を強く握り締める。

「行くよ、僕は・・一刻も早く、世界をサターンの支配から解き放たないと・・」

「でもその前に、世界がどういうことになっているのかを確かめないと・・今の人々が、私たちにとってどういう対応をしてくるのかを確かめないと・・」

 戦いに乗り出す光輝に奈美が言いかける。だが光輝は深刻に考えない。

「大丈夫だよ。1年の時間がたってるけど、僕たちの近所の人たちや学校のみんなが僕たちを疑うなんてことはないよ。」

「そうだといいんだけど・・サターンの支配で、考えが180度変わってるってことも考えられるし・・」

「そんなことないって。僕はみんなを信じてるんだから・・明日にでも、ちょっと様子を見に行ってくるよ。」

「もう、いい加減なのは変わらないんだから、光輝は・・仕方がない。私も一緒に行くわ。」

 すっかり行く気になっている光輝に呆れながら、奈美も行くことを決める。

「ありがとう、奈美ちゃん・・感謝するよ・・」

 光輝が手を差し伸べ、奈美も微笑んでその手を取って握手を交わした。

「あの、光輝さん、奈美さん・・私はここに残ります・・」

 そこへ理子が声をかけ、光輝と奈美が戸惑いを浮かべる。

「お姉ちゃんのそばにいたいから・・・ゴメンなさい、私だけこんなわがまま・・」

「いや、いいよ理子ちゃん・・今まで辛い思いをしてきたんだから・・・」

 謝る理子に光輝が励ましの言葉を返す。

「じゃ、少し休んでから行くよ。麻子ちゃんのこと、頼んだよ・・」

「はい・・ありがとうございます・・」

 麻子を託された理子が笑顔を取り戻す。自由と平和を取り戻すため、光輝と奈美は新たな戦いに身を投じるのだった。

 

 

次回予告

 

メシアの支配から脱した光輝と奈美。

世界に平和を取り戻させるため、2人は街に繰り出す。

だが、そこで彼らを待ち受けていたのは、サターンの支配がもたらした悲劇の謀略だった。

絶望へいざなう魔手が、光輝に伸びる。

 

次回・「包囲」

 

 

作品集

 

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