ガルヴォルスMessiah 第17話「永遠」
「光輝・・・光輝・・・」
もうろうとしている意識の中、光輝は声を耳にする。
「光輝・・・光輝・・・」
その声に呼びかけられて、光輝は意識を現実に引き戻していく。
「光輝・・・」
その瞳を開いた先には、奈美の姿があった。何も身につけていない全裸の姿で。
「えっ!?奈美ちゃん!?」
一気に動揺を覚えた光輝がたまらず後ずさる。そこで彼は自分も全裸であることに気付く。
「ま、待って、奈美ちゃん!僕にも、何が何だか・・・!」
「もう、ちょっとは落ち着いたら・・」
慌てる光輝に、奈美が呆れてため息をつく。彼女の言葉を受けて、光輝は周囲を見回す。
2人がいたのは漆黒の闇。何もない暗闇の空間だった。
「そうか・・・僕たちはあのとき・・・」
「うん・・私たちはメシアに石にされて、ずっとこのまま・・・もう1年になるかな・・」
自分たちの身に起こったことを思い返し、光輝と奈美が沈痛の面持ちを浮かべる。
メシアに石化され、全裸の石像にされた光輝と奈美は、そのままメシアの私室へと連れて行かれた。その後2人は抱き合って口付けを交わしたままその場を動けず、1年の月日を過ごしてきたのである。
2人はこの1年の変化を知っていた。サターンの支配を止めることができず、2人とも歯がゆさを感じていた。
「どうすることもできなかった・・僕たちは石にされて、指一本動かすことができなかった・・・」
「私に・・私に力がなかったから・・・ゴメン、光輝・・・」
「謝るのは僕のほうだよ・・僕にもっと力があったなら、奈美ちゃんまでこんなことになることはなかったのに・・・」
互いに自分に責任を感じて謝る奈美と光輝。そのとき、光輝はふと奈美の胸元に眼が行ってしまう。
「ちょっと、どこ見てるのよ・・・!?」
「あ、ゴメン!・・でも仕方ないじゃない・・僕たちは今もあの格好のまま・・」
不満を口にする奈美に、光輝が弁解を入れる。すると奈美は思わずため息をつく。
「そうね・・私もあなたも、こうなるのは不本意だったわけだし・・・それにしても・・」
「えっ?」
「あなたもこの1年で何気に変わったわね・・前だったらちょっとでもハレンチなところを見ただけで気絶してたのに・・今は裸を見ても気絶しなくなった。」
「1年中ずっと裸の君と一緒にいるんだ。イヤでも慣れちゃうって・・」
笑みをこぼす奈美に、光輝が肩を落とす。すると奈美が光輝におもむろに寄り添ってきた。
「うん・・1年前、私たちはメシアに石にされた・・その効果で、身につけていたものを全部引き裂かれた・・あのリボンも・・」
「リボン・・もしかして、子供のときに僕が奈美ちゃんにあげた・・・」
「覚えていてくれたんだね・・・」
光輝の返事を聞いて、奈美が物悲しい笑みを浮かべる。メシアに石化された際、衣服とともにリボンも引き裂かれてしまったのである。
「子供の頃の私は、今よりもずっと男勝りだった・・そんな私に女の子らしくしたほうがいいって言ってくれたのが光輝だった・・そのときのあなたの言葉と、あのリボンがとても嬉しかった・・・あれから私は、運動するときと入浴など以外は、いつもつけるようにしていた・・」
「僕は忘れていたわけじゃない・・ただ、いつも奈美ちゃんが着けているから、それが当たり前だって思っていて・・」
「当たり前か・・・その当たり前が、ホントはすごく大切だったんだね・・・」
大切なものの重みを痛感する光輝と奈美。
「だ、大丈夫だって!今思えば安物だったし、また買ってあげるって!アハハハ・・」
「こんなときにこういうこと言ってもしょうがないじゃない・・」
弁解をする光輝に、奈美が呆れてため息をつく。直後、彼女が沈痛の面持ちを浮かべる。
「このまま私たち、どうなるのかな・・これからもずっと石になったままなのかな・・・」
「何を言ってるんだ、奈美ちゃん!?そんなことない!僕たちは必ず助かる!」
諦めそうになった奈美に、光輝が呼びかける。
「このままメシアやサターンのいいようにさせたらいけない!必ずここから脱出して・・!」
「だからどうやって!?今までずっと考えてきたけど、石化を自力で解くことなんてできなかったじゃない!」
励ます光輝に奈美が悲観する。この1年、2人はメシアにかけられた石化を解けないままでいた。光輝に関しては、ガルヴォルスとしての力が使えなくなっていた。
「だからって諦めたら、それこそ何もかもおしまいだよ・・奈美ちゃんも分かっているはずだよ。僕たちと同じように石にされて、長い時間を過ごしてきた人たちのことを・・」
深刻な面持ちを浮かべる光輝の言葉に、奈美が息を呑んだ。石化されて長い時間を費やしている人は、助かるという希望を見失い、自分は石像であることを認識してしまっていた。
奈美も何度もそのような絶望感に陥りそうになった。だが光輝に励まされて、彼女はその度に立ち直ってきた。
「分かってる・・分かってるよ・・・でも・・・」
「あなたたちの心の強さには、私も頭が上がらないわ・・」
そこへ声がかかり、奈美と光輝が眼を見開く。2人が振り返った先にはメシアの姿があった。
「メシア・・・!?」
「驚くことはないわ。あなたたちは私のもの。その心に入り込むなんて簡単なことなのよ。」
驚愕の声を上げる光輝に、メシアが妖しく微笑む。
「それに私は前にもあなたたちの心に入り込んでいるのよ。あなたたちが眠りについている間に・・」
「何っ!?・・僕たちに何を・・・!?」
「全てをさらけ出しているあなたたちにすることは決まっているわ・・あなたたちの素肌に触れていくこと・・」
メシアが告げた言葉に、光輝と奈美は驚愕する。2人は体を弄ばれていた。
「たとえそれを私が教えていてもムダよ。あなたたちには一切の抵抗ができないのだから・・」
「ふざけるな!人間を何だと思っているんだ!?」
哄笑をもらすメシアに、光輝が怒りをあらわにする。しかしメシアは笑みを消さない。
「あなたがそれを言えるの?私もあなたもガルヴォルス。そしてガルヴォルスは、元々は人間だったんだから・・」
「だからって、人を弄ぶことが許されると思ってるのか!?人の体と心をムチャクチャにして、何が楽しいんだ!?」
「これは救いなのよ。悲劇に苦しめられている人に対してね・・」
怒号を放つ光輝に対し、メシアが笑みを消す。
「あなたたちは多分、世界の本当の悲劇を知らないのね・・世界の裏では、あなたが考えているような正義なんて、欠片も存在しなかった・・」
メシアが自分の生い立ちを語り始める。
「私は渇望した。そんな悲劇のない世界を作りたいと・・その気持ちが爆発しそうになったとき、私はガルヴォルスとして覚醒した。そしてその力は日に日に増して行き、私たちを虐げてきた敵を討ち滅ぼしても留まることはなかった・・」
「あなたに、そんなことが・・・」
メシアの過去を知って、奈美が困惑する。
「それに同じ悲劇に虐げられている人は、私の他にも大勢いたのよ・・そんな人たちが、これからも悲劇に見舞われるのは耐えられなかった・・だから私は決意したの。世界から悲劇を消すための、救世主であろうと・・」
メシアが言いかけると、光輝と奈美に一気に詰め寄ってきた。2人が彼女の接近にとっさに身構えようとした。
「えっ・・・!?」
光輝は違和感を覚えた。体が彼自身の意思に反して動こうとしない。メシアに抵抗することを拒絶されたかのように。
「だからムダだと言ったじゃない。あなたたちは私のもの。私にどう振り回されそうと、あなたたちは抗うことはできない・・」
メシアが妖しく言いかけると、光輝の手をつかんできた。振り払おうとする光輝だが、メシアの手を振り払うことができない。
「どういうことなんだ!?・・・手を振り払うことができない・・いや、僕の手が、振り払おうとしない・・・!」
「振り払おうとしないって・・どういうことよ・・・!?」
声を荒げる光輝に、奈美も驚きをあらわにする。
「何度も言わせないで。あなたたちは、私には抵抗できないって・・」
メシアは言いかけると、つかんでいた光輝の手を奈美の胸に押し当てた。
「こ、光輝・・・!?」
動揺を覚える奈美が後ろに下がろうとする。だが体が彼女の意思に反して動こうとしない。
「か、体が動かない・・どうして・・・!?」
さらに動揺する奈美。光輝を手を使ってメシアに胸をもまれて、奈美は頬を赤らめる。
「抵抗はできないって・・あなたたちは私の思うがまま。光輝が奈美の胸をもませることに、あなたたちはどんなに嫌がっても逆らうことはできない・・」
「やめろ・・やめてくれ・・これじゃ奈美ちゃんが・・奈美ちゃんが・・・!」
不本意であるとはいえ奈美の体を弄んでいることに、光輝は困惑と罪悪感を感じていた。それでもメシアに逆らえず、なおも奈美の胸を撫で回してく。
「光輝、あなたはとても幸せなのよ。こんなきれいな子と、裸の付き合いができるのだから・・」
「違う・・僕はこんなこと、望んで・・・!」
「人はスキンシップによって、お互いの気持ちを理解できるものなのよ。その喜びを、あなたたちはこれからも堪能していけるのだから・・」
動揺を膨らませる光輝に、メシアが囁きかける。
「あなたたちも必ず、オブジェになったことを喜んでくれるわ。なぜならあなたたちは、最高の美しさと永遠の命を持ったのだから・・」
「最高の美しさ・・・」
「永遠の命・・・」
メシアの言葉に、光輝と奈美が戸惑いを見せる。
「私に石化された人は、絶対に壊れることはない。石だから形が変わることはなく、年老いて死ぬこともない。つまりオブジェになった人は、人が求め続けてきた不老不死も可能としているのよ・・」
メシアは説明すると、光輝と奈美を引き寄せる。2人の顔が彼女の胸に谷間に入り込む。
「私のコレクションに加わることができた人は幸せ者よ。しかもあなたたちは、その中でも最高のオブジェなのよ。」
「最高のって・・どういうことなのよ・・・!?」
「1年前のあのとき、あなたたちは本当に勇ましかった・・奈美、あなたは敵わないと知りながら私に挑み、一矢報いた。そして光輝、あなたは身を呈して奈美を守ろうとした。結果こうしてオブジェになったけど、あなたたちの心の強さは、オブジェとしての輝きを引き起こしたのよ・・」
奈美が問いかけると、メシアが神妙な心境で答える。その雰囲気に飲まれて、光輝と奈美が言葉を失う。
「そしてあなたたちはその心の強さで、オブジェという自覚を頑なに拒んでいる。たとえ事実は変わらなくても、その強さには惚れ込んでいるのよ、私は・・」
「ふざけるな!その気持ちのために、僕たちやみんなを!」
「あなたたちもオブジェとして不老不死を得た。しかもあなたたちは、お互いの心がつながっている。だから決して寂しくなることはない・・」
光輝の怒号にも動じないメシア。彼女は奈美の秘所に、光輝の性器を挿入した。
「イヤッ!ダメッ!そんなこと・・!」
「やめろ!奈美ちゃんが、奈美ちゃんが・・!」
刺激が一気に膨れ上がり、奈美と光輝があえぐ。2人の様子を見て、メシアがさらに笑みをこぼす。
「あなたたちの邪魔をするものは何もない・・これからもこのすばらしい永遠を堪能していってね・・・」
メシアはそう囁きかけると、光輝と奈美から離れ出した。
「また楽しませてもらうわ。フフフフフ・・」
妖しい微笑をもらしながら、メシアは闇の中に姿を消した。押し寄せる刺激からようやく解放されて、光輝と奈美が息を絶え絶えにする。
「ハァ・・ハァ・・・ゴメン、奈美ちゃん・・こんなつもりじゃ・・・」
「ハァ・・ハァ・・・分かってる・・分かってるけど、私・・・」
弁解する光輝に、奈美がおもむろに寄り添ってきた。どうしたらいいのか分からず、光輝は気持ちの赴くままに彼女を優しく抱きとめる。
「こんなことが、これからもずっと続くの?・・これからもずっと、メシアに弄ばれていくの・・・!?」
「そんなことない・・絶対にそんなこと、させてたまるか・・・!」
奈美の悲痛さを込めた問いかけに、光輝が声を振り絞るように答える。
「でも、どうしたらいいの!?光輝も力が使えない!どんなに願っても元に戻れない。元に戻る力も手に入らない!もうどうにもならないっていうの!?」
「奈美ちゃん・・・」
「私は!・・ただ今までのように、普通の日常を過ごしたいだけ・・・永遠なんて、ほしくないのに・・・」
戸惑いを浮かべる光輝に声を張り上げる奈美。彼女の眼から大粒の涙がこぼれてきていた。
この悲しみを痛感した光輝が、奈美を強く抱きしめた。
「光輝・・・!?」
突然の抱擁に、今度は奈美が戸惑いを浮かべる。
「そんなことさせるもんか・・こんな絶望だらけの時間を過ごす人を、これ以上増やしてたまるものか・・・!」
「光輝・・・」
「たとえどんなことをしても抜け出せないピンチだとしても、僕は絶対にこのピンチを切り抜ける!そして戻るんだ!今まで過ごしてきた、僕たちの日常に!」
光輝に励まされて、奈美は涙ながらに小さく頷いた。しかし未だ、メシアの石化を打ち破る術は見つかっていなかった。
(必ず助けるんだ・・・奈美ちゃんを・・この世界を・・・!)
それでも、光輝の中にある希望と正義は潰えていなかった。
光輝と奈美との接触を終えたメシアは、自分の部屋を出て廊下を歩いていた。この間も、彼女は2人のことを考えていた。
(あくまで希望は捨てないのね・・でもこれだけはいえる。あなたたちは絶対に、私の石化から逃れることはできない・・)
メシアの心に確信が膨らんできていた。
(私がこれまでオブジェにしてきた人の中にはガルヴォルスもいるの。でもガルヴォルスの力は私の力で封じ込められ、その人も含めて石化を破ることは誰もできていない。誰もが最高の美しさと永遠の命に酔いしれているのよ・・)
自分の欲情を改めて痛感するメシア。そのとき、その彼女の前にアイが姿を現した。
「どうしたの、アイ?傷を負っているわね?」
「申し訳ありません、メシア・・速水利矢の招待に失敗しました・・」
メシアが問いかけると、アイが沈痛の面持ちで答える。処罰されるものと彼女は痛感していた。
「アイ・・ご苦労様。手当てをして少し休んで。最近働き詰めだからね・・」
「そんな・・私はメシアに全てを捧げた身・・私への気遣いは無用です・・」
「いいのよ・・あなたは私の支えになっているのだから・・せめてこのくらいのことはさせてほしいわ・・」
「・・・私には、もったいないお言葉です・・・」
メシアに励まされて、アイが喜びに打ち震えた。2人は互いが心の支えとなっていたのである。
「さてと、そろそろ動き出さないといけないわね。もう居場所は分かってるの?」
「もちろんです。現在も監視を続けています。」
メシアの問いかけに、落ち着きを取り戻したアイが答える。
「休養を取ってからでいいわ。あの2人を、檜山麻子と檜山理子を連れてきて・・」
「メシアがお望みであるなら・・」
メシアの言葉にアイが頷く。麻子と理子がサターンの標的になろうとしていた。
次回予告
ついにサターンの猛威が、麻子と理子に向けられた。
塗り替えられた世界を、2人の姉妹が駆け抜ける。
だが、2人に救いの手を差し伸べる者は、1人もいなかった。
この最大の危機の中、光輝と奈美は・・・