ガルヴォルスMessiah 第15話「敗北」
利矢との壮絶な戦いを終えた光輝の前に、突如現れたメシア。メシアは光輝と奈美に眼を向けて、妖しく微笑みかけてきていた。
「あなたね、私たちサターンと戦いを繰り広げてきたガルヴォルスというのは?」
「ガルヴォルス・・この怪人のことか・・・だって、お前たちは世界支配を企んでいるじゃないか!」
訊ねてくるメシアに、光輝が鋭く言い放つ。
「人々を傷つける怪人たちの好きにさせない!そのために僕は、この力を使ってお前たちと戦っているんだ!」
高らかに言い放つ光輝。そこへアイが衝撃波を放ち、光輝の眼前の地面が爆発を起こす。
「何という言葉遣い!メシアに対して無礼ではないか!」
「気にしなくていいわ、アイ。彼のような反乱分子に敬意を求めても叶わないわ。」
激昂するアイをメシアが制する。光輝に対する苛立ちを抑えられなかったが、アイはメシアに従って黙り込んだ。
「なるほど。あなたの考えでは、自分は正義、そして私たちは悪者ということになるわね。でも、そんな勧善懲悪、正しいものなのかな?」
メシアが口にした言葉に、光輝が眉をひそめる。
「もしかしたら、あなたたちが実は悪者であるかもしれないわよ。」
「ふざけるな!人間を弄ぶことが、いいことだというのか!?」
「それは人それぞれよ。私は私の機嫌を損ねようとする相手にしか、殺すようなことはしないのだけれど。」
淡々と言いかけるメシアに、光輝が困惑を覚える。彼は彼女も、目的のためならいかなることにも手を染める人であると認識していた。
「さて、そろそろおしゃべりは終わりにしましょうか。サターンをここまで追い込んだあなたの力、確かめさせてもらうわよ。」
メシアが言いかけて手を差し出すと、光輝がとっさに身構える。
「ひとつ聞いておくわ。本当にサターンに加わる気はないのね?」
「冗談じゃない!僕はお前たちの仲間には絶対にならない!」
「そう・・あなたのような人に頑張ってもらいたかったのだけれど・・」
光輝が拒否すると、メシアは残念そうな面持ちを浮かべた。
「奈美ちゃん、ここは危険だ。すぐにここから逃げたほうがいい。」
「でも、それじゃ光輝が・・・!
「今度の相手は今までとは何かが違う。力だけじゃない。力とは違うとんでもないものを持っている。そんな気がしてならない・・」
奈美に呼びかける光輝が焦りを見せる。彼の様子を目の当たりにして、彼女も困惑していた。
「どうやら君を守りながら戦うことはできそうにない・・だから奈美ちゃん、すぐにここから離れるんだ・・」
「でもそれじゃ光輝が危ないじゃない!放っておけないって!」
「僕は、君に傷ついてほしくないんだ!だから・・・!」
「光輝・・・分かった・・・!」
光輝の呼びかけに、奈美は渋々頷いた。彼女はきびすを返して、この場から離れようとした。
「このまま逃げられると思っているのですか・・・」
アイは言いかけると、全身から白い霧を放出した。霧は一気に広がり、周囲を覆っていく。
「な、何だ、この煙は・・・!?」
光輝がこの霧を警戒して身構える。しかし霧に触れても、光輝は何の影響も感じなかった。
だが次の瞬間、この場から駆け出していたはずの奈美が、霧に包まれたこの場に戻ってきた。
「えっ!?」
光輝と奈美が同時に驚きの声を上げる。2人は顔を合わせ、疑問をあらわにする。
「な、奈美ちゃん!?どうして戻って・・!?」
「私にも分かんないよ!確かにここから街のほうに向かって真っ直ぐ走ったはずなのに・・・!?」
声を荒げるも、光輝も奈美も疑問を拭えなかった。
「まさか、お前の仕業なのか・・・!?」
光輝が問い詰めると、アイが不敵な笑みを浮かべてきた。
「その通りです。この霧は空間遮断の効果を備えています。この霧に包まれたあなたたちは、私とメシアの意思なく外に出ることはできません。」
「ここを出るには、お前たちを倒す以外に方法がないということか・・・!?」
「その手もありますが、あなたたちなど、本来ならばメシアの手を煩わせることもないのですがね・・」
焦りを募らせる光輝に、アイが哄笑をもらす。
「アイ、あなたはこのまま霧を出していて。私はじっくりと楽しませてもらうから・・」
「あまりお戯れが過ぎませんようお願いします。私の力は無限ではありませんので。」
「分かってるわ・・さて、久しぶりに運動するかな・・」
真剣に言いかけるアイに答えると、メシアは光輝をじっと見つめる。迫ってくる彼女に、光輝は危機感を募らせていた。
(僕が奈美ちゃんを守らないと・・ここで諦めたら何もかも終わりだ・・たとえ敵わない相手であっても、僕は戦う・・・!)
意を決した光輝の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「変身!」
叫ぶ光輝がシャインガルヴォルスに変身する。満身創痍であるにもかかわらず、彼はメシアに立ち向かおうとしていた。
「先手は譲ってあげる。どこから攻撃してきてもいいわよ。」
メシアが妖しく微笑んで余裕を見せる。だが光輝は真正面から飛び込んできた。
利矢との戦いでの消耗を感じさせない攻撃を繰り出していく光輝。だがその攻撃の全てを軽々と回避、防御されていた。
「こ、攻撃が命中しない・・・!?」
眼を見開く光輝に、メシアがさらに笑みをこぼす。
「他にもっと力があるはずよ。その全てを私にぶつけてきて。」
メシアが手を差し伸べて挑発する。光輝が飛び上がり、メシアに向けて蹴りを繰り出す。
だがこの一蹴もメシアに平然と受け止められてしまう。
「まだよ。まだまだ出せるはずよ。」
メシアは言いかけると、全身から衝撃波を放出する。その圧力に押されて、光輝が突き飛ばされて横転する。
両手を地面に突きつけて踏みとどまる光輝。だが彼はメシアの力に脅威を感じていた。
「もっと力を見せてきなさい。利矢と戦ったときは、こんなものではなかったはずよ。」
メシアがさらに呼びかけてくる。その言葉に触発されるように、光輝が意識を集中する。
(まさかここまで攻撃が効かないなんて・・・こうなったら全力を出し切るしかない。エネルギーの消耗を考えている場合じゃない・・・!)
思い立った光輝が、再びメシアに向かって飛びかかる。飛び上がった彼の右足に光が灯る。
「必殺!シャイニングシュート!」
光輝がメシアに向けて必殺キックを繰り出す。これまで多くのガルヴォルスを退けてきた必殺技である。
だがメシアは右手をかざしてエネルギーを放出する。その手で光輝の一蹴を受け止める。
「何っ!?このっ!」
光輝がさらに力を込める。たとえ足が砕けようとも、この眼前の敵だけは倒さなければならない。その意思が彼を駆り立てていた。
「なかなかのものね。ここまですごいのは本当に久しぶりね。」
笑みをこぼしたメシアが、光輝の攻撃を受け止めている右手に力を込める。そこから衝撃波が放たれ、光輝が吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
「光輝!」
うめく光輝に奈美が悲鳴を上げる。力を使い果たした光輝が人間の姿に戻る。
「でも残念。上には上がいることも理解しておいてね。」
メシアが光輝を見下ろして微笑みかける。疲れ果てた彼は、立ち上がることもままならなくなっていた。
「まぁ、それなりに楽しめたからよしとするわね。アイ、よければあなたも相手してあげて。」
「メシアの仰せのままに。神崎奈美の相手をなさるのですね?」
呼びかけるメシアにアイが会釈する。メシアに代わって、アイが光輝の前に立つ。
「今度は私が相手をします。あなたが望むなら、苦しまずに息の根を止めてあげましょう。」
アイが言いかけると、光輝に衝撃波を放つ。吹き飛ばされた光輝が横転し、激痛のあまりに吐血する。
「光輝!」
たまらず光輝に駆け寄ろうとする奈美。だがその彼女の前にメシアが立ちはだかる。
「さて、今度はあなたの番よ、お嬢さん。あなたもそれなりに楽しめそうね。」
奈美に向けて妖しく微笑むメシア。だが奈美は諦めようとしなかった。
「光輝が命懸けで戦ってるのに、私が逃げたり諦めたりするわけにはいかない・・・!」
光輝の戦いに触発された奈美が、メシアに向けて飛びかかる。敵うはずもないことは、奈美も十分に理解していた。それでも諦めたくないのが彼女の本心だった。
鍛錬を重ねてきた格闘技を駆使して、奈美がメシアに攻撃を繰り出す。だが彼女の攻撃は軽々とメシアにかわされていく。
「人間にしては強いほうかしらね。でも人間とガルヴォルスの差は、やはり埋めようがないということね。」
妖しい笑みを浮かべると、メシアが奈美の腕をつかんできた。捕まえた奈美を見つめて、メシアがさらに微笑む。
「こうして間近で見ると、本当にきれいね。ますますあなたをほしくなってきた・・」
「放して・・女のくせに変態みたいなことを!」
メシアの態度に苛立ちを見せる奈美が左手で叩こうとするが、その手も受け止められる。
「このっ!」
いきり立った奈美がとっさに頭突きを繰り出す。虚を突かれたメシアがその頭突きを受ける。
怯んだメシアが奈美の手を放す。奈美が後退してメシアとの距離を取る。
「メシア!?」
そのメシアの様子にアイが血相を変えて、光輝への攻撃を中断する。激昂した彼女が、奈美に向けて衝撃波を放つ。
「メシアの顔に傷をつけるとは何事だ!?」
「いいのよ、アイ。そのくらいのほうがものにする意欲が湧くというものよ。」
怒号を放つアイをメシアがいさめる。苛立ちを隠せずとも、アイはメシアの言葉を受け入れて押し黙った。
「ただ、また噛み付かれたら敵わないわね。仕方ないけど、ここでやらせてもらうわ・・」
メシアが淡々と言いかけると、指先に漆黒の光を灯した。
「この光・・まさかここでアレをやるつもりなのですか・・・!?」
彼女のこの行為にアイが眼を見開く。その行為をアイは何度も目の当たりにしてきた。
「それでは行かせてもらうわ。」
メシアが言いかけると、その指先から光線を放つ。奈美がとっさに動いてその光線をかわす。
「何なのよ、今の光!?何だか危険な感じが強いんだけど・・!」
焦りのあまりにたまらず声を上げる奈美。
「相変わらず高い反射神経をみせてくれるわね。でもいつまで続くかしら?」
メシアは楽しそうにしながら、さらに光線を放つ。奈美がその射撃を次々とかわしていく。
「奈美ちゃん・・このままじゃ、奈美ちゃんが・・・!」
光輝は力を振り絞って立ち上がる。全身に激痛が駆け巡っていたが、彼はそれを必死に耐える。奈美を助けたい。その一心だった。
何とかメシアの力を回避してきた奈美だが、疲労がたまり息を上げていた。
「そろそろ終わりのようね。仕上げることにするわ。」
メシアが奈美に向けて右手の指を向ける。その指先に漆黒の光が宿る。
(助けるんだ・・奈美ちゃんを何としてでも助けるんだ・・・!)
光輝が必死に奈美に向かって駆け出していく。メシアの指から奈美に向けて光線が放たれる。
「奈美ちゃんは、僕が助ける!」
全ての力を振り絞り、光輝が前に出る。奈美を抱きしめ、彼女を光線から庇おうとした。
「ぐっ!」
光線が背中に当たり、光輝がうめく。
「まさかあなたが飛び込んでくるなんてね・・・でも残念。」
メシアが妖しく微笑んだときだった。光輝に命中していた光線が彼の体から抜け、奈美の体を貫いた。
「えっ・・・!?」
光輝も奈美も一瞬何が起こったのか理解できなかった。直後光輝は、自分だけでなく奈美にも光線が及んでいることを痛感し、愕然となる。
「そんな・・・奈美ちゃんまで・・・!?」
「これで、あなたたちは私のものになったわけね・・」
困惑する光輝と奈美に向けて、メシアが妖しく微笑みかけたときだった。
ピキッ ピキッ ピキッ
突如2人の着ていた衣服が引き裂かれた。あらわになった上半身が、人のものでないものに変質していた。
「な、何、コレ・・・!?」
「えっ!?・・は、裸!?」
驚愕する奈美と、彼女の胸が眼に入り赤面する光輝。
「この質感・・これって石!?私たち、石になってるの!?」
「その通りよ。今、私があなたたちにかけたのは石化の力。身に付けているものを全て引き剥がして、美しいオブジェへと仕上げていくのよ。」
声を上げる奈美に、メシアが淡々と言いかける。奈美と光輝の体は白く冷たく固まり、ところどころにヒビが入っていた。
「まさか私たち、このまま裸にされるってこと!?冗談じゃない!これじゃアンタたちの思い通りになっちゃうじゃない!」
「もう私の思い通りなんだけど。石化の開始部分や進行速度まで、全て私の思うがまま。もうあなたたちはどうすることもできない・・」
頬を赤らめる奈美に、メシアがさらに笑みをこぼす。石化された体は、2人の意思を受け付けず、思うように動かなくなっていた。
「光輝、しっかりして!恥ずかしがってる場合じゃないよ!」
奈美に呼びかけられて、光輝はようやく我に返った。
「な、奈美ちゃん・・僕・・・」
「もしかしたら、あなたの力で何とかなるかもしれない!早くしないと、私たちに石になっちゃう!」
奈美に呼びかけられて、光輝は自分たちの身に起きていることを実感する。
「そうだ!この力で石化を跳ね除けることができるかもしれない!」
思い立った光輝が力を込める。ガルヴォルスの力で石化を跳ね除けようとした。
「えっ・・・!?」
そのとき、光輝は違和感を覚えた。ガルヴォルスの力が徐々に体から抜け落ちていた。
「どうしたの、光輝!?」
「どうなってるんだ!?・・力が吸い取られていくみたいだ・・変身できない・・・!」
奈美が声をかけると、光輝が苦悶の表情を浮かべて答える。彼はガルヴォルスの力を石化の効力に奪われてしまっていた。
「だから言ったでしょう。もうあなたたちはどうすることもできないって。このままあなたたちは、美しいオブジェへと変わるだけ・・」
ピキッ ピキキッ
メシアが言いかけた直後、光輝と奈美にかれられた石化が進行した。下半身が石に変わり、2人は裸身をあらわにする。
「くっ!・・こんな・・力が使えなくなるなんて・・・!」
打破できない事態に光輝が歯がゆさを覚える。彼の前に奈美が沈痛の面持ちを浮かべる。
「ゴメン、光輝・・私のせいで、こんな・・・」
「奈美ちゃん・・・!?」
謝る奈美に光輝が戸惑いを見せる。
「そんな!奈美ちゃんのせいじゃない!これは僕の力が足りないせいで・・!」
「ううん・・これは私のせい・・私が足を引っ張らなければ、光輝がこんなことにならずに済んだのに・・・」
「そんなことないよ・・そんなこと・・・」
互いに弁解を入れる光輝と奈美。自分を責めるばかりで、2人が気持ちを受け止められないでいた。
「光輝・・こういうときにこんなことを言うのはおかしいと思うんだけど・・・」
「えっ・・・?」
「私のわがままを聞いてほしいの・・私自身がわがままだと思う、最初で最後のわがまま・・・」
戸惑いを見せる光輝に奈美が弱々しい口調で言いかける。彼女の言葉に光輝が返事ができなくなる。
すると奈美が突然、光輝に口付けをしてきた。突然のことに光輝が困惑する。
(お願い・・どうせこのまま石になっちゃうなら、このまま・・・)
奈美は心の中でそう呟いた。ここに来て彼女は、光輝に対する想いを募らせていた。
2人の口付けを交わしたのを眼にしたメシアが、さらに意識を集中する。
ピキキッ パキッ
石化がさらに進行し、2人の靴を壊して素足をさらけ出す。さらに互いを抱きしめている両腕も、石へと変わり動かなくなる。
(手足が動かない・・これが、石になるってことなんだね・・・このまま裸に・・・それじゃ・・・)
奈美は不安を覚えた。自分の髪につけているリボンも、石化に巻き込まれてしまうことに。
パキッ ピキッ
その石化が髪に及び、そのリボンが無常にも引き裂かれた。
(リボンが・・・)
困惑を痛感する奈美の脳裏に、幼い頃の思い出が蘇ってきた。
奈美は幼い頃から強気な性格だった。男勝りなところがあった彼女は、いつも光輝を助けていた。
光輝は勇気のない泣き虫で、奈美に助けられるまでいじめられてばかりだった。
「もう、男なのに弱虫なんだから、光輝は・・」
「でもありがとう・・いつもいつも僕を助けてくれて・・」
呆れる奈美に、光輝が笑顔を見せる。
「そうだ。奈美ちゃん、いいものをあげるね。」
「えっ!?あ、ちょっと!」
光輝を呼び止めるも、奈美は引っ張られていく。2人が来たのは、女性がよく入るファッションショップだった。
「こんなところに来てどうするのよ?恥ずかしいじゃない・・」
奈美が頬を赤らめるが、光輝は気にせずに笑顔を見せる。彼はひとつのリボンを奈美に見せてきた。
「やっぱり奈美ちゃんはこういうのをしたほうがいいって♪」
「ちょっと光輝、私は別にそんなのいらないわよ・・」
「ダメだよ、奈美ちゃん。奈美ちゃんは僕を助けようとしてくれてるけど、そのせいで女の子らしくないなんていわれてるんだから。せめてこんな感じでも、女の子らしくしないと。」
奈美が拒むのを聞かずに、光輝が真剣に言いかける。
「もう、しょうがないんだから・・」
観念した奈美が渋々そのリボンを髪につけた。その自分を、彼女は鏡で確かめる。
「うわぁ♪似合う♪似合ってるよー♪」
「そうかな・・・うん、悪くはないね・・」
舞い上がる光輝を背に、奈美は照れ隠しに言いかける。
「これで奈美ちゃんも女の子っぽく見えるね♪」
「うん・・・ってちょっと!私は女の子よ!」
褒め称える光輝に、奈美が不満の声を上げる。だがこのリボンが2人の絆を紡ぐ大切なものとなったことは間違いなかった。
大切なものとなっていたリボンが、メシアの石化に巻き込まれて引き裂かれた。思い出が砕かれたと痛感して、奈美が動揺を膨らませていた。
(ゴメン、光輝・・あなたからもらったリボン、破られたよ・・・ゴメン・・・)
ピキッ パキッ
奈美が光輝に罪の意識を感じたとき、石化が2人が重ねている唇を固めた。2人は声を発することができなくなり、ただ互いの顔を見つめ合っていた。
(光輝・・・本当に・・ゴメン・・・)
(奈美ちゃん・・・奈美ちゃん・・・)
フッ
互いを思いやる奈美と光輝の瞳にヒビが入った。同時に2人の意識が途切れた。
メシアのもたらした力を受けて、光輝と奈美は抱きしめあったまま、一糸まとわぬ石像と化した。
「やったわ・・これで完全に、あなたたちは美しいオブジェになった・・・」
その2人を見つめて、メシアが歓喜の笑みをこぼす。
「ですがよろしいのですか、メシア?これまでのコレクションは美女のみ。ですが今回は、神崎奈美だけでなく、吉川光輝まで一緒に・・」
「本当なら切り捨てたいところだけど、彼は特別にコレクションに加えてあげる。それも2人とも、私の最高傑作としてね・・」
アイが訊ねると、メシアは笑顔を崩さずに答える。
「まさか、メシアの部屋に直接置くというのですか・・・!?」
「それほどのことを、2人はやったということよ・・」
声を荒げるアイに、メシアが淡々と言いかける。
「彼女は圧倒的な格差があるにもかかわらず、私に果敢に挑んできた。そして彼も、自分が傷つくことも構わずに、彼女を身を呈して守ろうとした。結果的に2人ともオブジェになったけど、その心は極上の輝きへと昇華している・・」
メシアは言いかけて、石化した光輝と奈美に歩み寄る。
「本当の美しさは心で表されるもの。この2人の強い心は、自分の体に磨きをかけた。私は今、その美しさをものにした・・・」
奈美の石の頬に触れて、メシアが喜びを募らせていく。
「この心地よさを、もっと確かめたい・・あなたたちはもう、私のものなのよ・・」
「メシア、そろそろ撤退の時間です。霧を解除しなければなりません・・」
そこへアイが声をかけると、メシアは笑みを浮かべたまま頷く。
「しばらくすれば意識が戻ることになる・・オブジェになった自分を、これから堪能することになる。私と一緒に・・」
メシアは語りかけると、光輝と奈美を抱える。
「行くわよ、アイ。これから忙しくなるわよ・・」
「メシアの仰せのままに・・・」
メシアの言葉にアイが一礼する。2人は光輝と奈美を連れて、この場から姿を消した。
これが、世界の変革の幕開けだった。
次回予告
光輝の敗北。
それが世界の変革の引き金となった。
サターンの策略により、世界はこれまでの日常から一変したものへと変わり果てていた。
その世界の中で、麻子と理子は異変を痛感していた。