ガルヴォルスMessiah 第13話「宿命」

 

 

 光輝の乱入で零夜抹殺において拍子抜けしてしまった利矢。雑踏の中、彼は歩きながら思考を巡らせていた。

(零夜を狙おうとしても、光輝が必ず介入してくる。やはりお前とは、早いうちに決着を着けなければいけないようだ・・)

 光輝への敵意を膨らませていく利矢。

(オレにはもはや正義に対する懇意など存在しない。その正義の象徴である光輝、お前を倒すことが、今のオレがやらなければならないことなのだ・・)

 込み上げてくる感情を抑えきれず、利矢が拳を握り締める。

 そんな彼の眼に、美少女に絡んできていた2人の男が飛び込んできた。2人のやり取りが、利矢に苛立ちを与えていた。

「馬鹿者が・・」

 利矢は呟くと力を発現し、地面から漆黒の刃を出して、男たちを貫いた。その前にいた美少女だけでなく、周囲にいた人々も悲鳴を上げる。

 利矢はその騒然を全く気に留めず、その場から去っていった。もはや彼は、愚行を行ったと感じ取った人を抹殺する殺人者となっていた。

 

 ついにメシアが降臨し、サターン本部は騒然となっていた。しかしメシアは悠然とした振る舞いを見せていた。

 その様子に1番困惑していたのはブリットだった。

(どういうことなのでしょうか、メシアは?・・メシアのことですから問題はないのでしょうが、吉川光輝や速水利矢を軽視するのは・・)

 ブリットのメシアに対する不安は、今の始まったことではなかった。

 メシアはブリットが出会ったときからも、自由気ままな行動をしていた。だがサターンの中で絶対的な力を持っていることは確実で、その行動からメシアに疑念を持った者が、簡単に葬り去られるのを、彼は何度か目撃している。

(メシアの戯れごとはいつものことではないか・・今度も必ず、この世界の救世主として奮闘してくださる・・・)

 メシアへの信頼を募らせるブリット。だが彼にもひとつの疑問を抱いていた。

(メシアはアイを使って何かをさせている。私が探りを入れても問題はないが、それはメシアを裏切ることにつながりかねない・・メシアは絶対の存在。私とでいつでも切り捨てることができる・・・)

 ブリットはメシアに対して畏敬し、同時に畏怖していた。メシアと他のサターンのガルヴォルスたちとの間には、埋めようのない雲泥の差が存在しているのだ。

(とにかく、今は沈黙を持って応える他なしか・・メシアの意向、見守らせていただきます・・・)

 改めてメシアへの信頼を寄せるブリット。

 そのとき、ブリットがメシアのいる部屋に向かう男たち3人を目撃する。

「お前たち、何をしている?」

「ブリット様、メシアの意向を直に聞こうと思いまして・・」

 ブリットが問いかけると、男たちが不敵に答える。ブリットは彼らが野心を持ってメシアの前に赴こうとしていることを見抜いた。

「やめておけ。お前たちでは、メシアの素顔を拝見することすらおこがましい。メシアと我々とでは天と地ほどの差があるのだぞ。」

「お言葉ですがブリット様、メシアは気まぐれな方です。救世主として我々をお導きになられてるのは確かですが、いつまでも有意義に過ごせるものでもありません。」

「一刻も早く、メシアに腰を上げていただきたいのです。過ぎたこととは存じますが、ここはひとつ・・」

 ブリットが言いかけるが、男たちの考えは変わらない。

「お気になさらず、ブリット様。メシアのご機嫌を損ねるようなことはいたしません。」

 男はそう言いかけると、ブリットの前から去っていった。

(愚か者どもが・・この程度のことで命を散らすとは・・)

 男たちの動向を愚の骨頂と思い、ブリットもまたこの場を去った。それから間もなくして、男たちの断末魔の叫びが、サターン本部に響き渡った。

 

 光輝との治療を終えた奈美は、休息のために入浴していた。しかし彼女は安らぎを取り戻すことができず、様々な思惑が脳裏をよぎってきていた。

(このまま、何もしないわけにいかないよね・・・私も、利矢さんがあのまま暴走していてもらいたくないから・・)

 決意を秘める奈美が、風呂の湯で顔を拭う。

(光輝と利矢さんは、このまま戦うことになる・・その前に私が止めないと・・・)

 決意を秘めた奈美が、風呂から出る。しかし浴槽の前で立ち止まり、彼女は天井を見上げた。

(私にも力があるんだから・・今まで鍛えてきたんだから・・)

 自分の胸に手を当てる奈美。彼女の中にある意思が固まった。

「奈美ちゃん、そろそろ僕も入りたいんだけど?」

 そこへ光輝の声がかかってきた。その声に奈美が笑みを消して、

「さっきまで怪我してたんだから、今日は我慢しなさいよ!見た目では治ってるように見えても、用心したほうがいいんだから!」

 奈美が呼びかけると、光輝が沈痛さを募らせていった。そんな彼を無邪気に感じて、奈美はため息をついた。

 

 その翌日の放課後、光輝と奈美は利矢の行方を追った。今回は捜索範囲を広げるため、2手に別れて探すこととなった。

 これは奈美の提案だった。光輝ははじめはこの案に消極的だったが、奈美が最終的に押し切った。

 奈美は街外れの通りの捜索を行った。その近辺には警察の要所があり、利矢がそこを狙ってくるのではないかと思ったのである。

(私もやれる・・あの光輝だってやれるって言ってくれたんだから・・たとて人間と怪人の大きな力の差があっても、全く何とかできないなんてことはない・・)

 ひたすら自分に言い聞かせる奈美。彼女はさらに利矢の捜索を続けていった。

「キャアッ!」

 そのとき、奈美が響いてきた悲鳴を耳にした。その声のしたほうに、彼女は駆けつけた。

 そこには人だかりができていた。その人込みをかき分けて奈美が覗き込むと、そこには血だらけになって事切れた警官2人がいた。

(これも体を深々と刺さって貫通している・・普通の人にこんなことはできない・・)

 事件の状況を分析する奈美。彼女は近くに利矢がいることを予感していた。

(また警官が殺された・・正義を恨んでいる利矢さんなら、動機は十分にある・・・)

 人込みから外れた奈美が周囲を見回す。そして彼女は、見覚えのある後ろ姿を目撃する。

「利矢さん!」

 奈美がその後ろ姿を追いかけていく奈美。2人は人気のない小道に差し掛かった。

「ここまで来れば話をしやすいか?」

 立ち止まった利矢に突然声をかけられて、奈美が驚きを覚える。彼は彼女が追いかけてきていることに気付いていた。

「オレに何の用だ?オレを止めようと考えているなら、無駄な行為であると言っておこう。」

「ムダって何よ・・どんな理由でも、人を殺していい理由にはならないわよ・・・!」

 冷徹に告げる利矢だが、奈美は退こうとしない。

「確かに私には力がない・・それでも私にだって、誰かを止めることができるはずよ・・・!」

「ムダだと言っている。お前はオレに対してなす術がなかった。普通の人間でいる限り、それは絶対に覆せない。」

「ならどうしてあなたは、警察に反抗しているの!?正義が許せなくて、覆したくてやっているのでしょう!?

「それは力があればこそだ。もはや事態は言葉だけではどうにもならないほどにまで悪化してしまっている。無理矢理にでも覆さなければ、非情なアイツらを理解させることなどできはしない。もっとも、死んでも理解しないのかもしれないがな。」

 奈美に言い返す利矢が、世界の法をあざ笑う。

「言葉で理解しない相手に、言葉だけで説き伏せようとしてもムダだ。馬鹿げた戯言とののしり、聞く耳を持たないのが関の山だ。」

「ムダかどうかはやる前から決めることじゃない。やりもしないことのいいわけよ。」

「もはやムダであると明白であることをやることこそ愚かなことだ。お前はそれを性懲りもなくやるというのか?」

「やってやるわよ!私もだけど、光輝はもっと本気でやるわよ!呆れるくらいにね!」

「光輝か・・オレもヤツの行動には呆れている。お前といい、なぜオレにこだわる?オレが警察に抗うのを、本気で止められると思っているのか・・・!?

 奈美の呼びかけに利矢が苛立ちを募らせていく。近づいてくる利矢に、奈美が身構える。

 そのとき、地面から漆黒の縄が飛び出し、奈美の体を縛りつけた。その縄に締め付けられて、彼女があえぎ声を上げる。

「ぐっ!体が、動かない・・・!」

「これで理解できるだろう。この程度を破れないのに、オレを止められるわけがないだろう。」

 うめく奈美に、利矢が冷淡に告げていく。

「これでもお前はオレを止められると考えるのか?これ以上そんなことを口にするなら、オレも容赦はしない・・・!」

 眼つきを鋭くした利矢が、奈美に歩み寄る。しかし奈美はそれでも考えを変えない。

「たとえ私が大人しくなっても、光輝は考えを変えないから・・・!」

「お前も愚かな存在でしかないのか・・・滑稽だな・・・!」

 奈美の態度に我慢の限界を感じた利矢が、彼女に刃を突き立てようとした。

「やめろ!」

 そのとき、利矢が突如横からの攻撃を受けて突き飛ばされる。シャインガルヴォルスとなった光輝が放った蹴りが、利矢に命中したのである。

「光輝!」

 漆黒の縄の呪縛が解かれ、奈美が光輝に声をかける。彼女に一瞬視線を向けた後、光輝は利矢に眼を向ける。

「何をやってるんだ、利矢くん!?奈美ちゃんにこんなこと・・!」

 光輝が怒鳴りかけるが、利矢は冷淡な態度を崩さない。

「再三の忠告にも耳を貸さず、オレを止めようとした彼女の責任だ。ここで始末されても仕方のないことだ。」

「仕方がないって・・・利矢くん、君の求めているものは何なんだ・・たくさんのものを壊して、君は何を求めているんだ!?

「何度も言っているだろう?オレはこの世界にはびこっている正義を壊す。その正義の象徴であるお前も、この手で葬り去る・・!」

「だったら僕を狙えばいいじゃないか!奈美ちゃんは関係ない!」

「人の話を聞かないからだ。そこまで反発するなら、命を落とすことも覚悟しているはずだ。」

 光輝が呼びかけるが、利矢は考えを変えない。

「もはや他の声に耳を貸すつもりはない。オレの声に、誰も耳を傾けなかったからな・・だからオレはオレの意思を貫き通す。他がどうなろうと、オレには関係ない。」

「そのために、人の心を傷つけても構わないというのか!?・・目的のためなら何でもしていいなんて、悪者の考えじゃないか!」

 冷徹に振舞う利矢に、光輝はついに怒りをあらわにした。震える体から力があふれ、周囲にも衝撃を与える。

「悪者とはまた・・そういった絶対正義が、世界に混乱をもたらすことが分からないのか!?

「僕は父さんとは違う!正義のために、人の心を傷つけるなんてことはしない!利矢くん、君も救いたい!」

「どこまでもお前は・・・やはり、お前はオレの手で倒すしかない!」

「利矢くん!」

 いきり立った利矢が、光輝の声を一蹴して飛びかかる。戦うことを躊躇していた光輝は、利矢の攻撃をかわして奈美に駆け寄る。

「逃げよう、奈美ちゃん!」

「で、でも・・!」

 光輝の声に奈美が戸惑いを見せる。だが光輝に抱えられて、この場から離れていく。

 振り返り、2人に眼を向ける利矢。だが彼は追おうとせず、人間の姿に戻る。

「近いうちに戦うときが来る・・そのときに決着を付けてやるぞ、光輝・・・!」

 光輝への因縁を心に宿して、利矢は戦意を強めていった。

 

 奈美を連れて利矢から逃げてきた光輝。利矢が追いかけてきていないと分かった光輝は、人間の姿に戻る。

「奈美ちゃん、大丈夫!?

「うん、私は平気・・でも・・・」

 光輝がかけた心配の声に頷くも、奈美は沈痛の面持ちを浮かべていた。その様子に光輝も深刻になる。

「利矢くんが・・まさか、奈美ちゃんを手にかけようとするなんて・・・」

「利矢さんのことも気になるけど・・辛いのは、私自身に対して・・・」

「えっ・・・?」

「私、何もできなかった・・何度も呼びかけたけど、利矢さんには届かなかった・・・利矢さんを止められなかった・・・」

 悲痛さをこらえることができず、奈美が眼に涙を浮かべる。

「何とかしたい・・その気持ちだけじゃダメなの!?・・普通の人の力じゃ、どうすることもできないの・・・!?

「そんなことはない!奈美ちゃんにそんなこと・・・!」

「でも、現に何もできなかった・・利矢さんを止めることができなかった・・・!」

 ついに涙をあふれさせる奈美に、光輝はいたたまれない気持ちに駆り立てられた。

(奈美ちゃんがここまでやったんだ・・それが報われないなんてこと、あっていいはずがない・・・!)

「奈美ちゃん、もう大丈夫だから・・後は僕に任せて・・・」

「光輝・・・でも・・・」

 言葉を切り出す光輝に、奈美が涙ながらに言葉を返す。

「奈美ちゃんは、僕に勇気を与えてくれた・・いつもいつも、僕を励ましてくれた・・・その気持ちが、僕を揺り動かしてくれた・・・」

 光輝は奈美に向けて笑みを見せる。普段見せているような子供のように無邪気な笑顔だった。

「ここからは僕の戦いだ・・利矢くんとの戦い。それはもうすぐそこまで来ている・・・!」

「光輝、やめて!利矢さんと戦うなんて・・!」

「いや、ここから先は力と力のぶつかり合いだ・・利矢くんは、僕が止める・・・!」

 奈美の呼び止めに対しても、光輝の決意が変わることはなかった。

(奈美ちゃんのこの気持ちを、絶対にムダにしちゃいけない・・人間の心を守るため、利矢くん、僕は君を倒す・・・!)

 ついに利矢打倒を心に決めた光輝。2人の青年の宿命が、直接対決を呼び込んだ。

 

 翌日、光輝は1人で利矢との戦いに向かおうとした。だが玄関を出たところで、彼の前に奈美が現れた。

「奈美ちゃん・・・」

「私も一緒に行く・・最後まで、あなたと利矢さんを見守る・・・」

 戸惑いを見せる光輝に、奈美が真剣な面持ちで言いかける。

「でもとても危険になるんだよ・・危ないって・・・」

「危険なのは分かってる。それでも見守んなくちゃいけないと思う・・これが私にできる、最大限のことだと思うから・・・」

 奈美の口にする言葉と気持ちに困惑する光輝。だが彼女の気持ちを尊重した彼は、真剣な面持ちで言葉を返した。

「分かった・・・でも、危なくなったら。僕に構わずに逃げて・・奈美ちゃんが僕や利矢くんを心配しているように、僕も奈美ちゃんや利矢くんを心配しているんだから・・・」

「光輝・・・うん・・・」

 光輝の言葉に奈美が頷く。2人は気を引き締めて、戦いの場に赴くのだった。

 

 同じ頃、利矢も光輝との戦いに備えていた。彼の中にある感性が、光輝との対決を予感していた。

(光輝・・正義の象徴として、お前はオレが倒す・・この手で・・・)

 光輝を倒すことに専念した利矢。

(もはや叩き潰す以外に、オレの、世界の未来は切り開かれない・・自分だけが絶対の存在と思い込んで切る正義を壊せるのは、もはやオレしかいない・・・!)

 憎悪をたぎらせた利矢が歩き出す。光輝と利矢、2人の対決の火蓋が切られようとしていた。

 

 

次回予告

 

どこですれ違ってしまったのだろうか。

絶対に分かりあうことはできないのだろうか。

ついに運命の対決に臨む光輝と利矢。

その戦いの果てに待つものは?

奈美が眼にするものは何か?

 

次回・「対決」

 

 

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