ガルヴォルスMessiah 第14話「対決」

 

 

 人気のない荒野。岩場と谷が囲むその場所に光輝と奈美は訪れた。

 その場にはまだ利矢の姿は見られなかった。

「ここなら無関係な人を巻き込むことはない・・・奈美ちゃん、巻き添えを食わないように、遠くに離れていて・・」

「光輝・・・」

「多分、うまく加減して何とかなる状況じゃないから・・・」

 戸惑いを見せる奈美に、光輝が真剣な面持ちで言いかける。

「ここに来ていたのか・・巻き添えを出したくないお前らしいというべきか・・」

 そこへ声がかかり、光輝と奈美が振り返る。利矢が現れ、2人に近づいてきていた。

「利矢くん・・・」

「今日こそ、お前との決着を着けてやるぞ、吉川光輝・・・」

 戸惑いを見せる光輝に、利矢が鋭く言い放つ。

「オレは正義を打ち倒す。それ以外に、オレが生き残る術はない。そのためにオレは、お前を倒す・・・!」

「そのために奈美ちゃんや関係のない人まで・・世界と平和を守るために、僕は君を倒す・・・!」

 互いに決意を告げる利矢と光輝。対峙する2人を見つめたまま、奈美は声をかけることができなかった。

「覚悟はできているのだろう・・・オレがお前を・・」

 鋭く言い放つ利矢の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「必ず倒してやる!」

 利矢の姿がダークガルヴォルスへと変貌する。漆黒のオーラを放ちながら、利矢が光輝を見据える。

「戦え、光輝!全力のお前を倒すことに意味があるのだ!」

「そこまで僕と決着を着けたいというのか、利矢くん・・・」

 言い放つ利矢を見据える光輝の頬に紋様が走る。

「なら僕ももう迷わない・・全てを賭けて、君を止めてみせる!・・変身!」

 言い放つ光輝もシャインガルヴォルスへと変身を遂げる。光と闇。2人のガルヴォルスがついに対峙する。

(光輝・・利矢さん・・・)

 奈美はその2人を見つめて、戸惑いを覚える。世の中を大切に思っている2人が戦うことに、彼女は困惑していた。

(こうして戦うことでしか、止められないこともあるんだね・・・私はこうして、見守ることしかできない・・・)

 自分が無力であると思い、奈美が辛さを覚える。

(今の私はもう、光輝に頼るしか手段が見つからない・・・お願い光輝・・利矢さんを止めて・・・)

 光輝に全てを託す奈美。光輝が身構えて、利矢の出方を伺う。

(利矢くんの力は相当なものだ。ほんの少しの油断が命取りになる・・)

 自分に気を引き締めるように言いかける光輝。一方、利矢は全身からあふれ出ているオーラを集束させていた。

 その漆黒のオーラが形状を形成し、2本の剣へと変化した。

(来る!)

 光輝が後退して、同時に利矢が剣を構えて飛び出す。振り下ろされる刃が空を切り、地面に叩きつけられる。

 利矢がさらに漆黒の剣を振りかざしてくる。その一閃が光輝の左の二の腕をかすめる。

「どうした!?逃げてばかりで勝てるはずがないだろう!」

 利矢が言い放ち、さらに剣を振りかざす。

(負けられない・・こんなところで負けるわけにはいかない・・・!)

 いきり立った光輝が右手に力を集束させる。強度を増した腕で、利矢が振り下ろした剣を受け止める。

 だが利矢はもう1本の剣を光輝に向けて突き出してきた。

「シャイニングエナジー!」

 光輝が光の力を放出して、利矢を吹き飛ばす。利矢は2本の剣を地面に突きたてて踏みとどまる。

 閃光の放出を抑えて、光輝が吐息をひとつつく。彼が視線を向けると、利矢が持っていた剣の刀身が折れ、消失する。

「やはり相当な実力を備えているようだ。力は決して侮ってはいけないということか。」

 光輝の力を高いものと痛感する利矢。だが彼は思いとどまろうとはしなかった。

「だが、たとえオレを上回る力であろうと、立ち止まるわけにはいかない!」

 利矢が両手に漆黒の光を灯して、光輝に向かって駆け出していく。光輝も両手に光を灯して、利矢を迎え撃つ。

 2人が繰り出す打撃が衝突し、その威力を相殺していく。しかし2人とも、一瞬たりとも油断できない戦況であることを痛感していた。

 この打撃戦がしばらく続いた頃、2人が同時に繰り出した拳が、互いの体に叩き込まれた。

「ぐっ!」

「がっ!」

 利矢と光輝が突き飛ばされ、激しく横転する。だがすぐに体勢を整えて、攻撃を再開する。

 2人が同時に蹴りを繰り出す。その衝撃が反動となって、再び2人を突き飛ばした。

 荒々しく激化していく攻防。その行方を奈美がじっと見守っていた。

(これが光輝と利矢さんの戦い・・眼を背けてしまいそうな勢い・・・)

 気持ちが押しつぶされてしまいそうになるのを、奈美は必死にこらえていた。

(ちゃんと見てなくちゃいけない・・光輝が私の気持ちを受け取って戦ってるのに、その私が逃げ出したらダメじゃない・・)

 自分に言い聞かせる奈美が、光輝と利矢の戦いに視線を戻す。2人は互いの動きを伺おうと、じっと見据えていた。

「オレは目的のために手段を選ばない人間にはならない・・心ある限り、オレは戦い続ける!」

 決意を言い放つ光輝が、利矢に向かって攻撃を仕掛ける。彼が繰り出す拳を、利矢はうまくさばいていく。

「速い・・だがオレがかわせない速さではない!」

 利矢が言いかけると反撃に転じ、光輝に打撃を見舞う。突き飛ばされるも、光輝は体勢を整えて着地する。

「こんなものなのか?これではオレを止めることはできないぞ。」

 利矢が光輝に向けて鋭く言い放つ。追い詰められながらも、光輝は傷ついた体に鞭を入れて立ち上がる。

「ここで倒れてしまったら、もう2度と利矢くんを救えなくなる・・だからここで倒れるわけにいかない・・・」

 声と同時に力を振り絞り、光輝が拳を握り締める。

「オレは、オレは利矢、お前を絶対に止める!」

 その力を右手に集中させる光輝。利矢も同様に右手に力を込める。

「行くぞ!シャイニングナックル!」

「くらえ!ダークブレイカー!」

 光輝と利矢が同時に飛び出す。力を集束させた拳が繰り出され、激しく衝突する。

 爆発するような衝撃に弾き飛ばされる2人。拳に響く痛みに耐えて、2人は互いを見据える。

(諦めるな・・ここで諦めるのは、奈美ちゃんやみんなのためにならない・・・!)

 光輝が駆け出して、左の拳を突き出す。利矢が痛みを訴える右手で、その拳を受け止め、同時に左の拳を返す。

 光輝もその拳を右手で受け止める。傷ついた手にさらに痛みが走りながらも、光輝も利矢もこらえて力を振り絞る。

「負けられないのはオレも同じだ!オレが倒れれば、世界は腐っていく!」

「違う!世界は腐ってなどいない!心がある限り、世界の平和は保たれる!」

「それが偽善でしかないことに、なぜ気付かない!」

 いきり立った利矢が光輝に頭突きを入れる。怯んだ光輝に利矢が追撃の蹴り飛ばしを見舞う。

 横転しながらも、すぐに体勢を整える光輝。彼は利矢を見据えながら、右足に力を込める。

「もうこの一撃に、全てを賭けるしかない・・利矢、オレはお前を止めてやる!凍てついた心がもたらすお前の悲劇を!」

 言い放つと同時に光輝が飛びかかる。

「オレは止まるわけにはいかない!お前を倒して、世界を取り戻す!」

 利矢も飛び出し、右足に力を込める。2人の両足に光が宿る。

「シャイニングシュート!」

「ダークスマッシャー!」

 渾身の力を込めた光輝と利矢の蹴りが放たれる。その攻撃が衝突し、稲妻のような衝撃がほとばしった。

 その衝撃とまぶしさに、奈美がたまらず眼をそらす。轟音が轟き、周囲にも影響を及ぼした。

 やがて閃光と衝撃が治まり、奈美が視線を戻す。荒野は煙で包まれていて、様子をうかがうことができないでいた。

「光輝・・利矢さん・・・」

 不安を抱えながら、奈美が眼を凝らす。2人に何事もないことを祈りながら。

 その煙も風に流れて薄らいでいく。その中から、立ち尽くしている光輝と利矢が姿を現した。

 2人とも消耗しており、立っているのもやっとという様子だった。

 沈黙が続いた。2人とも互いを見据えたまま動こうとしない。その様子に奈美も不安を募らせるばかりだった。

 だがその沈黙が過ぎたときだった。

 利矢が突如人間の姿に戻った。そして彼は激痛に顔を歪めて、その場にひざを付く。

「なぜだ・・なぜ、オレが・・・!?

 驚愕を感じて利矢が声を振り絞る。光輝も人間の姿に戻り、沈痛の面持ちを見せる。

「利矢くんの力は確かに強かった・・正直、負けるのではないかとも思った・・・だけど、僕は1人じゃなかった・・」

 光輝は利矢に言いかけて、奈美に視線を向ける。

「奈美ちゃんが僕のことを信じてくれたから、僕は戦えた・・ここまで自分を貫くことができた・・・」

「これが、オレとお前の差だというのか・・こんなことで、オレが倒れるなど・・・!」

「利矢くん、正義を許せない君の気持ちは分かる・・父さんのあの考えは、僕も受け入れることはできない・・だけど誰1人、君を心から信じようとしている人の声まで信じないのはよくない・・目的のためなら何をやっても許されるなんてことはないんだ・・」

「お前には決して理解できない・・ずっと信じてきたものに裏切られる気持ちが・・どれだけ言葉を重ねても、受け入れてもらえないことの苦しみを・・・!」

 自分の気持ちを切実に語る光輝だが、利矢は頑なに拒絶する。

「分かるよ・・僕の言葉と正義は、父さんには受け入れられなかった・・・悔しくないわけがないよ・・」

「ならばなぜ反抗しない!?反抗しなければ、自分の正義を貫くことなどできはしない!お前も分かっているのではないのか!?

「そんな力任せなやり方をした時点で、もうそれは正義じゃないんだよ・・・」

 怒鳴る利矢に、光輝が物悲しい笑みを浮かべる。

「たとえ何があっても、人の心を守り、希望の光を照らし続ける。それが正義のヒーロー・・僕はそんなヒーローに、ずっと憧れてきたんだ・・」

「もはや世界は、そんな純粋な世界ではなくなっているのだぞ・・今変えなければ、世界は終わる・・お前はそれでもいいというのか・・・!?

「信じることも、ひとつの優しさだよ・・君を信じている僕や奈美ちゃん、たくさんの気持ちを、もう1度信じてくれないかな・・・?」

「信じられない・・今まで信じてきたものに、完全に裏切られたのだ・・それを信じたところで、決して報われることなどないのだ・・・」

 どんなに光輝が呼びかけても、利矢は受け入れようとしない。そこへ奈美が深刻な面持ちを浮かべて歩み寄ってきた。

「そうやって全部否定して、自分が間違っていないと言い張って・・そんな子供染みたやり方じゃ、結局あなたの嫌う自己満足になるじゃない・・」

「何が子供染みているというのだ・・子供染みているのは、オレたちの声に耳を貸さない偽りの正義ではないか・・!」

 奈美の言葉でも、利矢は自分の考えを曲げようとしない。その態度に彼女は苛立ちを覚える。

「どうしてそんなに人を信じようとしないの!?これこそ子供みたいなわがままじゃない!」

「もういいよ、奈美ちゃん・・」

 そこへ光輝が手を差し出して、奈美を呼び止める。

「でも、光輝・・!」

「僕も融通の効かないところはある。今回みたいに、自分の考えを曲げようとしなかった・・でもそれは自分だけの独りよがりな考えじゃない。自分以外の人の気持ちを汲み取ってのものだよ・・」

 光輝に言いかけられて、奈美は言葉を詰まらせて反論できなくなる。

「今の利矢くんは、その気持ちに欠けていた・・でもその気持ちを持っていたはずだよ・・」

「確かにオレにもあった・・だが正義を見限った瞬間に、その気持ちも捨てた・・・」

「ウソだ。捨てたんじゃなくて、心の奥に封じ込めているだけだ・・最初優しかったんだから、信じる心があるはずだ。1度覚えれば、人は絶対に失うことはないのだから・・」

 さらに呼びかける光輝だが、利矢はそれでも自分の考えを変えようとしない。

 これ以上とがめては父と同じになってしまうと思い、光輝は利矢に声をかけようとしなかった。

「行こう、奈美ちゃん・・これ以上言っても、利矢くんは変わらない・・かえって逆効果になるよ・・」

「でも光輝、このまま利矢さんを放っておくなんて・・・!」

「もしまた利矢くんが、誰かを傷つけようとするなら、僕もまた全力で止めるだけだよ・・」

 反論しかける奈美に、光輝が笑顔を見せた。それは普段見せる無邪気な笑顔だった。

 その笑顔を目の当たりにして、奈美が呆れてため息をつく。

「分かったわ。でも何かあったら、光輝が責任取りなさいよね。」

「うん。ありがとう、奈美ちゃん・・・」

 言いかける奈美に、光輝が感謝の言葉をかける。

「それじゃ奈美ちゃん、今日のところは帰ろう・・」

「ま、待て・・このままオレに何もせずに行くというのか・・・!?

 この場を去ろうとした光輝に、利矢が声を振り絞る。

「何もって、何もしないよ。僕が君と戦ったのは、君を止めるため。君が心のために誰かを傷つけようとしているのを、全力で止めただけ。」

「ふざけるな!・・オレが何度も諦めずに攻め立てることは、もう理解できているはずだ・・・!」

「僕は父さんとは違う・・父さんのように、頭ごなしに周りの意見を否定するやり方はしない・・・」

 光輝は利矢にそう言いかけると、改めてこの場を離れようとした。

「仲間内の争いは終わりましたか?」

 そのとき、突如一条の閃光が飛び込んできた。閃光は荒野に爆発を巻き起こし、その衝撃で利矢が吹き飛ばされる。

「ぐっ!」

「利矢くん!」

 うめく利矢と、声を上げる光輝。巻き上がる煙の中から、1人の長身の女性が姿を現した。

「あなたが吉川光輝と速水利矢ですね?私はアイ。メシアに仕える者です。」

「メシア!?・・・もしかしてサターンの怪人!?

 自己紹介をするアイに、光輝が身構える。

「私を怪人という低俗なものと見るとは・・私は上位のガルヴォルス。メシアのお世話役なのです。」

「お世話役・・・それよりも、どういうことなんだ!?いきなり僕たちに攻撃するなんて!」

「どういうことというのも何も。あなたたちは私たちの敵。その敵を排除するに決まっているではないですか。」

 声を荒げる光輝に、アイがたまらず笑みをこぼす。そして傷つき倒れている利矢に向けて、彼女は再び閃光を放った。

「ぐあっ!」

 絶叫を上げた利矢が荒野から投げ出され、その先の海へと落ちていった。

「利矢くん!」

 光輝が声を張り上げる。その眼前でアイが微笑みかける。

「お前、利矢くんになんてことを!」

「あなたも彼もメシアに逆らう敵。排除にかかるのは当然のことです。」

 憤りを膨らませる光輝に対し、アイは淡々と答える。

「それにあなたには特別に、メシア直々にお相手なさるようです。」

「何っ!?

 アイが口にした言葉に光輝が眼を見開く。次の瞬間、荒野に漂っていた灰色の煙が、突如発せられた旋風によって吹き飛ばされた。

 その風の中心には、長い白髪の女性が立っていた。女性は妖しい笑みを浮かべて、光輝と奈美を見つめていた。

「光栄に思いなさい。メシアに直接手を下されることを・・」

 アイが落ち着きを保ったまま言いかける。姿を現したメシアに、光輝は危機感を募らせてい。

 

 

次回予告

 

ついに姿を現したメシア。

その特殊かつ絶対的な力が、奈美を追い込み、光輝を追い詰める。

絶体絶命のピンチの中、不屈に立ち上がる光輝。

そんな2人に、メシアの魔性の力が襲い掛かる。

 

次回・「敗北」

 

 

作品集

 

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