ガルヴォルスMessiah 第12話「制裁」
ガルヴォルスに変身し、その凶暴性で数人の刑事、警官を殺害した利矢に、零夜は苛立ちを募らせていた。その不快感を煽るかのように、新たな事件が巻き起こっていた。
刑事や警官ばかりが次々と襲われ、殺害されるものだった。被害者の傷口や周囲への損傷など、犯人は明らかに人間離れした力を発揮していた。
(明らかにあの怪物の仕業だ。しかも我々警察を集中的に狙っているところから、もはや速水利矢以外にない。)
零夜が思考を巡らせて、利矢への憎悪をたぎらせる。
(どこまで法を脅かそうとすれば気が済むのだ・・法は世界における絶対の存在。それに逆らおうなど、愚の骨頂に他ならないというのに・・)
利矢の言動に呆れ果てる零夜。
(今こそ鉄槌を下さねばならない・・法に逆らおうとする罪人は、万死に値する・・)
「速水利矢の捜査を厳重にしろ。特殊武装の使用も行え。あの罪人を断罪しなければ、世界は混乱に満たされてしまう・・!」
思い立った零夜が部下に呼びかける。自身も利矢の断罪のため、現場に赴くのだった。
警察が次々と襲われる事件は、世間を震撼させていた。そのニュースは、光輝と奈美の耳にも入っていた。
「警察ばかりが狙われる・・もしかして、またサターンが・・」
「それとも利矢さんが・・信じたくないけど、可能性がないわけじゃ・・」
光輝と奈美がそのニュースを記載した新聞を見ながら呟きかける。
「急いで利矢くんを探したほうがいい・・ただでさえ、父さんに眼をつけられているのだから・・」
「そうね・・少し急いだほうがいいかもしれないわね・・」
光輝と奈美が意見をまとめて頷きあったときだった。
「何の話をしてるの?」
そこへ麻子が2人の間に顔をのぞかせてきた。彼女が突然現れたことに驚き、光輝と奈美が赤面する。
「ま、麻子ちゃん!?」
「お、驚かさないでよ!」
「あぁ、ゴメンゴメン・・これって、警官が襲われてるって事件だよね?」
麻子が苦笑いを浮かべてから、新聞に眼を向ける。
「まさか警官が狙われるなんて・・困ったことになったね・・」
「何だかのん気そうにいうわね、麻子・・」
淡々と言いかける麻子に、奈美が肩を落とす。
「光輝のことだから、きっとその犯人を追いかけていきそうね・・奈美、ちゃんと見張ってないと、この前みたいにどこまでも突っ走ってっちゃうよ。」
「そうね・・ちゃんと見張ってないといけないね・・」
上機嫌に言いかける麻子だが、奈美は沈痛さを込めて言いかける。
「どうしたの、奈美?元気ないみたいだけど?」
「えっ?・・な、何言ってるのよ!私はいつも元気よ!ま、光輝や麻子、理子ちゃんには負けるけどね・・」
麻子が訊ねると奈美が笑顔を作り、元気を見せる。その言葉に麻子も苦笑いを浮かべた。
光輝と奈美の不安は的中していた。追ってきた警察を、利矢はガルヴォルスの力で返り討ちにしていた。
零夜に眼をつけられていた利矢は、警察からの追跡が途絶えなかった。しかし利矢は逃亡や投降をしようとせず、非情の正義への反逆として次々と殺害していっていた。
利矢には罪の意識や後悔は感じていなかった。今の自分の行為が、邪となっている世界を塗り替えるものと、彼は信じていた。
(光輝、オレはオレのやり方で、この世界の本当の正義を取り戻す・・あの男の偽物の正義など、オレが打ち砕いてやる・・!)
光輝に対する因果を募らせる利矢。彼は今も、光輝を倒すことが正義への最大の報復であると考えていた。
「ちょっと君、いいかな?」
そこへ2人の警官が利矢を呼び止めてきた。
「どこかで見た顔だね?ちょっとお話を聞かせてもらえるかな?」
「・・もはやお前たち警察に、交わす言葉など存在しない・・・」
穏和に振舞う警官に対し、利矢が冷徹に告げる。次の瞬間、突如地面から出現した漆黒の刃に、2人の警官の体が貫かれた。
「ぬおっ!」
絶叫を上げた警官の体から鮮血が飛び散る。事切れた警官に視線を向けると、利矢は無言で歩き出した。漆黒の刃が消失し、警官たちが鮮血がたまる地面に落ちて動かなくなった。
周囲から響き渡る悲鳴にも聞く耳を持たず、利矢は歩いていく。しばらく進んだところで、彼の周囲に拳銃を手にした警官たちが取り囲んできた。
「速水利矢、貴様は完全に包囲されていく。大人しく投降するなら、命の保障をする!」
「フン。そんな戯言に耳を貸すと思っているのか?それにそんなやり方でオレを止められると思っているのか?」
呼びかける警官に冷徹に告げる利矢の頬に、異様な文様が浮かび上がる。その変化に警官たちがたまらず身構える。
「ダメだ、利矢くん!」
そこへ光輝が声を張り上げて、利矢に向かって飛び込んできた。彼の突然の登場に、利矢が眼を見開く。
「光輝!」
「ダメだ、利矢くん!いくら警察が許せなくても、人を殺すなんて絶対にダメだ!」
声を上げる利矢に、光輝がさらに呼びかける。しかし利矢はその声さえも受け入れようとしない。
「オレは正義への復讐を行う!光輝、お前の正義に対しても!」
「利矢くん!」
いきり立った利矢が、光輝の呼びかけを振り払い、ダークガルヴォルスへ変身する。
「バケモノめ!」
「撃て!好きにさせるな!」
その異形の姿を警戒した警官たちがとっさに発砲する。しかしその弾丸は利矢の体には通用せず、弾き返されていく。
利矢が漆黒の霧を刃に変えて、地面から突き立てて警官たちを貫いていく。
「利矢くん!・・変身!」
利矢の凶行に耐えかねて、光輝もシャインガルヴォルスに変身する。利矢の放つ漆黒の刃を、光輝は光の力で食い止める。
「あくまで邪魔をするつもりなのか、光輝!?」
「オレは人間を守る!平和を愛し生きている人々を、この力で守り抜く!」
叫ぶ利矢に言い放つ光輝。光と闇、2つの力が相殺されて弾け飛び、2人は距離を取る。
「そこまでだ!」
そのとき、光輝と利矢のそばで銃声が響き渡った。2人が振り返った先には、銃を構えた零夜の姿があった。
「父さん!」
「お前たちはここで断罪する。異形の存在は認められないが、このまま放置しておくわけにはいかない。」
声を荒げる光輝の前で、零夜が冷淡に言い放つ。直後、機動隊の兵士たちが駆け込み、銃を構えて光輝と利矢に狙いを定める。
「拳銃の弾丸では通用しないようだが、この強度のある銃と弾ならば無事では済まない。」
「やめるんだ、父さん!父さんには人間の心がないのか!?」
「心ならある。だが法のためには感情を表に出すようなことがあってはならないのだ。」
「父さん!」
「法は世界のために存在する。お前たち2人は、その姿だけでも、法の道から外れた忌むべき罪人であることを指し示しているのだ。」
光輝の言葉に耳を貸そうとしない零夜。非情の父親に愕然としながら、光輝は変わらない非情さに苛立ちを感じていた。
「あの2人に向けて発砲開始。相手は怪物だ。油断も容赦もするな。」
零夜が合図を出すと、兵士たちが発砲を開始する。利矢は跳躍して回避したが、光輝はその弾丸を1発左肩に受けてしまう。
「うっ!」
激痛を覚えた光輝が顔を歪める。だが次々と放たれる兵士の弾を、彼は身を翻して回避する。
「どこまでもオレを悪に仕立てたいというのか、お前たちは・・・!」
零夜に対する憎悪を募らせる利矢が、全身から力を放出する。
「地面から攻撃してくるぞ。気をつけろ。」
零夜の呼びかけを聞いて警戒する兵士たち。しかし刃の動きは速く、兵士たちの多くは反応しきれずに体を貫かれる。
「やめろ!」
それを見かねた光輝が利矢に飛びかかる。
「シャイニングシュート!」
光を帯びた蹴りを繰り出す光輝。不意を突かれた利矢が、その一蹴を食らう。
怯んだ利矢がふらつき、攻撃の手を止めてしまう。着地した光輝が利矢を見据える。
「やめてくれ、利矢くん!あんなのでも、僕の父さんなんだ!」
「矛盾だらけだぞ、光輝。お前の正義は、あの男とは違うのではなかったのか?」
光輝が呼びかける言葉を利矢があざける。その返事に光輝が困惑を覚える。
「受け入れられないなら、徹底的に反抗するものだ。オレも、あの男も。」
「しかし・・・!」
冷徹に告げる利矢に対し、光輝は言葉を詰まらせる。彼もその意見に同意しながらも、様々な気持ちからそれを貫けないでいた。
「オレには迷いはない。あの男の振りかざす偽りの正義を打ち砕き、世界を本来あるべき姿へと導く!」
「世迷言を。お前のような愚かな考えが世界を狂わせる。私はそれを食い止めるため、罪人であるお前に鉄槌を下す。」
互いに鋭く言い放つ利矢と零夜。利矢が零夜に振り返ると、右手に力を込める。
「たとえどれほど自分の意思を貫こうとしても、力がなければ貫けない・・確かにあのときのオレは無力だった。だからお前に抗うことができなかった・・だが今は違う。」
言いかける利矢の右手に漆黒の光があふれてくる。
「オレはこの力でお前を、偽りの正義を打ち砕く!ダークブレイカー!」
「ダメだ、利矢くん!」
零夜に向けて拳を繰り出す利矢の前に、光輝が立ちはだかる。利矢の攻撃が光輝の体に叩き込まれる。
「ぐあっ!」
絶叫を上げた光輝が突き飛ばされる。痛みに耐えかねた光輝が人間の姿に戻る。
「やめるんだ、利矢くん・・こんなことをしても、利矢くんの心は晴れない・・・!」
必死に説得の言葉をかける光輝だが、利矢は考えを改めない。力を振り絞って立ち上がった光輝に、零夜が声をかけてきた。
「これで罪が償えると思ったら大間違いだ。お前たちの大罪は万死に値する。」
「父さん・・・!」
「大きかろうと、無粋な力には何の意味もない。法を覆すことなど断じてできない。」
非情さを見せる零夜に、光輝は愕然となる。どんなに呼びかけても止まらない2人に、彼は歯がゆさを感じていた。
「今度こそ終わりだ。たとえこの場で私の命を奪ったところで、法はお前たちを必ず断罪する。」
「何度も言わせるな。お前の偽りの正義で、オレの意思を阻むことなど決してできない!」
言いかける零夜に怒号をぶつける利矢が力を振り絞り、漆黒のオーラを刃に変える。その1本が零夜の左足を切りつける。
「ぐっ!」
「父さん!」
顔を歪める零夜と、たまらず声を上げる光輝。利矢の攻撃で足を傷を付けられ、零夜が転倒する。
「光輝!」
そこへ奈美が駆け込んできた。彼女に眼を向けた利矢が舌打ちをする。
「今回はここまでにしておく。次に会ったとき、お前を確実に始末する。」
利矢は零夜に告げると、飛び上がってこの場を去っていった。
「利矢くん、待って!・・ぐっ!」
利矢を追いかけようとした光輝だが、肩の痛みに動きを止められる。その彼に奈美が駆け寄ってきた。
「光輝、大丈夫!?」
「奈美ちゃん・・うん、僕は平気・・」
心配の声をかける奈美に、光輝が微笑みかける。
「すぐに手当てをしたほうがいい!早く家に戻ろう!」
奈美が呼びかけて光輝を連れて行こうとしたときだった。突如銃声が響き、彼女は足を止める。
零夜が傷ついた体に鞭を入れて、光輝と奈美に向けて発砲したのだ。狙いが定まっていなかったため、弾丸は2人から外れていた。
「どこに連れて行くつもりだ・・その男は、光輝は法から外れた罪人なのだぞ・・・!」
「あなたの子供でしょう!?父親のあなたが、子供を罪人扱いして、恥ずかしいと思わないの!?」
声を振り絞る零夜に、奈美が強く言い放つ。しかし零夜は冷徹な態度を崩さない。
「お前こそ恥ずかしいと思わないのか?罪人に手を差し伸べれば、世界の歪みを助長することになる・・それもまた許されざる大罪・・お前もその罪人になろうというのか・・・!?」
「何が罪よ・・あなた、自分に間違いがないと全然考えないの・・・!?」
「己の罪を認めず、挙句に法に準じている私を罪人呼ばわりとは・・・愚の骨頂!」
苛立ちを噛み締める奈美に、鋭く言い放つ零夜が銃の引き金を引こうとした。だが左足に痛みを覚えて、彼は発砲することができなかった。
その間に奈美は光輝を連れて、この場から離れていった。増援の警官たちに零夜が助けられたのは、2人の姿が見えなくなってからのことだった。
奈美に連れられて家に戻ってきた光輝。左肩の傷を懸念した奈美が病院に連れて行こうとしたが、光輝はそれを拒んだ。
「僕なら大丈夫だよ・・このくらいなら自然に治るよ・・」
「何言ってるのよ、光輝!これじゃ完治まで1週間は軽くかかるわよ!」
「本当に大丈夫だって。包帯を巻きつけておけば、しばらくすれば治るから・・」
笑顔を見せる光輝に、ついに奈美は心配を引っ込めてしまう。しばらくして彼女が容態をうかがうと、彼の傷は最初からなかったかのようにきれいに消えていた。
「信じられない・・あんなのひどかった傷が・・・」
「これが怪人の力みたいなんだ・・どんなひどいケガでも、すぐに治るんだ・・」
驚きを見せる奈美に、光輝が落ち着きを見せて説明する。
「本当にすごいわね・・何でもやれてしまいそう・・」
「そんなことないよ・・こんなすごい力って思っていても、何もできないことが多いくらいだよ・・」
奈美が感心の言葉をかけると、光輝が物悲しい笑みを浮かべる。
「力があっても、気持ちがあっても、誰の気持ちも変えられない・・父さんも、利矢くんも・・・」
「これが信念というものよ・・誰にだって持っている・・光輝、あなたの正義みたいにね・・」
「でも、どんな理由があったって、人の心を傷つけていいことにはならない・・僕はその手段に訴えようとしている利矢くんを止めなくちゃいけない・・」
真剣な面持ちになった光輝に、奈美も小さく頷いた。
「サターンとの全面対決の前に、利矢くんとの対決をすることになりそうだよ・・生死を賭けた本気の戦いが・・」
光輝が口にした言葉に、奈美が深刻な面持ちを浮かべる。光輝と利矢の身を案じて、彼女は不安を感じていた。
「何とかしたいよ・・光輝と利矢さんが、そんな戦いをすることをやめさせたい・・」
「僕だってやりたくない・・だけどこうでもしないと、利矢くんを止められない・・そんな気がしてならない・・・」
たまらず奈美が感情を込めて言いかけるが、光輝は素直に受け止めることができなかった。
「たとえこの戦いが避けられないものだとしても、僕は利矢くんを救いたい・・奈美ちゃんの気持ちも、ちゃんと届けてみせる・・」
光輝が切実に言いかけたこの言葉に、奈美が戸惑いを覚える。彼女は光輝の純粋な気持ちを、改めて理解していた。
「ありがとう、光輝・・私も、あなたみたいな信念を持ちたい・・」
「奈美ちゃんのほうが、僕よりすごいものを持ってるよ・・」
互いに微笑みかけて、言葉を交わす光輝と奈美。2人の中にある決意が徐々に強まっていった。
次回予告
利矢の正義に対する憎悪は、零夜の言動で決定的なものとなった。
その矛先は、息子である光輝にも向けられた。
もはや回避することのできない戦い。
2人の対峙の火蓋が今、まさに切られようとしていた。