ガルヴォルスMessiah 第11話「極寒」

 

 

 利矢について自分の知る限りのことを奈美に話した光輝。すると奈美は話の重さに沈痛さを覚えた。

「なるほど・・利矢さん、法律が非情なものって感じて、それで・・・」

「僕もそういう正義は嫌いだよ・・思いやりがない正義なんて、正義として嘘っぱちだよ・・」

 光輝もその非情の正義に憤りを感じていた。

「僕の父さんもそうだった・・利矢くんもその被害者なんだ・・・」

「光輝のお父さん、今も警察に・・・私、あまり会っていないけど、光輝のお父さん、とても厳しそうに感じられた・・」

 光輝の言葉を受けて、奈美も困惑を覚える。彼女の彼の父、零夜と面識がある。

 厳しいというよりも冷たい。奈美も零夜に対してそんな印象を受けた。

「正直、私はあの人を好きになれない・・人間味が感じられないから・・」

「うん・・お母さんが死んだときも、父さんは涙を流さなかった・・お母さんの死を全く悲しまず、仕事を優先した父さんを、僕は受け入れることができない・・」

 沈痛の面持ちを浮かべる奈美と光輝。2人は利矢の心境を察していた。

「利矢くんはお父さんの非情さに絶望して、“正義”を憎むようになってしまったんだ・・その責任を取るためにも、僕が利矢くんと向き合わなくちゃいけないと思う・・」

「光輝・・・」

「ゴメン、奈美ちゃん・・・やっぱり僕は利矢くんを放っておくことができない・・」

「もう、相変わらず、かわいそうな人を放っておけないんだから・・・でも、利矢さんは私も何とかしたいと思ってる・・」

「ありがとう、奈美ちゃん・・・今日はいろいろと疲れたから、もう帰ろう・・」

 光輝の呼びかけに奈美が頷く。2人は一路、自宅へと戻ることにした。

 

 奈美を巻き込んで光輝を倒そうとするも、利矢の介入もあって失敗に至ったオーリス。この結果にブリットは憮然さを隠せないでいた。

「これがお前の求めていた結果なのか?」

「まさか。ただあのときは不確定要素があっただけです。」

 ブリットが言いかけるが、オーリスは気負ってはいなかった。

「次こそはその要素を全てつかんだ上で、吉川光輝を追い詰めます。すぐにチェックメイトに達することでしょう。」

「任せてもいいのか?私が手を貸してもいいのだぞ?」

「気持ちだけ受け取っておきますね。ですがこれは私のやり方でやらせてもらいます。」

 ブリットに対して、オーリスが眼つきを鋭くする。

「ヴィオスの恨みを晴らすため、吉川光輝、そして速水利矢は私のこの手で葬り去ります・・・!」

 オーリスは鋭く言い放つと、ブリットの前から姿を消した。

「お前にも意地があるのだな、オーリス・・・」

 オーリスの一線を画した行動に苦笑を浮かべ、ブリットもこの場を後にした。

 

 自宅へと戻ってきた光輝と奈美。気持ちの整理がついていなかった奈美は、誰もいない夜の道場にいた。

 自分を落ち着けたり緊張を和らげたりするときに、彼女はいつもこの夜の道場に足を踏み入れていた。彼女は道場の真ん中に立って眼を閉じて、精神統一をする。

(利矢さんは正義に裏切られて、それを払拭しようとしている・・でも怪人になってしまった利矢さんは、壊すことしか手段が分からなくなっている・・)

 利矢の心境を察して、奈美が思考を巡らせる。

(確かに思いやりのない正義なんて、私も受け入れられない。だからといって、それを塗り替えるために、誰かを傷つけたり何かを壊したりしていいことにもならない・・)

 自分の決意と覚悟を胸に秘めて、奈美が気を引き締める。

(私は光輝や利矢さんのような力は持っていない・・それでも、こんな私にも何かできることがきっとある・・)

「はっ!」

 奈美が構えを取り、拳を前に突き出す。

(必ず見つけてみせる・・利矢さんを救う方法を・・光輝と一緒に・・・)

 ひと呼吸置いて、奈美が気持ちを落ち着ける。彼女が振り返ると、道場の扉の前には光輝がいた。

「奈美ちゃん・・・」

「光輝・・・私、決めたから・・光輝でも反対意見は聞かないから・・」

 戸惑いを見せる光輝に、奈美が真剣な面持ちで言いかける。

「危ないのは分かってる・・でも多分、私が避けようとしても、向こうが私を放っておかないから・・・一緒に戦うよ、光輝。私のできる精一杯のことを、私はやるから・・」

「奈美ちゃん・・・ありがとう・・奈美ちゃんがいれば勇気100倍だよ!」

 奈美の言葉を受けて、光輝が笑顔を見せる。その無邪気さに呆れるも、奈美も喜びを感じていた。

 

 その翌日、授業を終えた光輝はその足で利矢を探しに向かった。奈美は空手部の部員に引っ張られて、部活に参加させられていた。

「仕方ないかな・・奈美ちゃん、後から追いかけるって言ってたし・・・」

 奈美の気持ちを尊重しつつ、光輝は利矢の行方を追った。

 しかし明確な手がかりがあるわけではなく、光輝は途方に暮れることになってしまった。

「困っちゃったよ・・怪人の力も使っていないみたいだし・・どうしたらいいのかな・・・」

「本当・・あなたはいつも考えなしなんだから・・」

 そのとき、光輝に向けて声がかけられた。部活を終えた奈美が追いついてきたのである。

「その様子だと、まだ見つけていないみたいね・・」

「うん・・面目ない・・・」

「いいわ・・一緒に探そう、利矢さんを・・」

 照れ笑いを浮かべる光輝に呆れながらも、奈美も利矢捜索に乗り出した。

 だが手がかりがほとんどないことは否めなく、結局利矢を見つけられないままだった。

 そんな中、光輝が奈美に唐突に声をかけてきた。

「奈美ちゃん、どうして利矢くんのことを気にかけているの?」

「えっ?何よ、突然・・?」

 光輝が切り出した質問に、奈美が眉をひそめる。

「いや、奈美ちゃんがそんなに知り合いでもない利矢くんに、そこまで入れ込むなんて・・意外というか、何というか・・」

「何言ってるのよ、光輝・・私はそんな白状じゃないわよ・・」

 光輝の口にした言葉に、奈美がため息混じりに答える。

「私は理不尽が嫌いなの。あなたからしたら悪いこと。その理不尽で苦しんでいる利矢さんを放っておけないのは当然のこと。」

「そうだったんだ・・ありがとう、奈美ちゃん・・・」

「ほ、褒めたって、何にもならないんだからね・・・」

 感謝の言葉をかける光輝に、奈美が頬を赤らめて突っ張ってみせる。それが喜びの裏返しであることを、光輝は理解していた。

「相変わらず仲がいいですね、2人とも。」

 そのとき、光輝と奈美に向けて声がかかってきた。聞き覚えのある声に、2人は身構えて周囲を伺う。

「その声・・オーリス!」

 思い立った光輝が振り返った瞬間だった。奈美が突然氷の中に閉じ込められてしまった。

「奈美ちゃん!?

 驚愕する光輝が、奈美を閉じ込めている氷塊に手を打ちつける。しかし氷はビクともせず、奈美は呆然となったまま微動だにしなくなっていた。

「私の氷はとても頑丈です。簡単には壊せませんし、溶かせません。」

 光輝に向けて声をかけてから、オーリスが姿を現した。

「オーリス・・奈美ちゃんをこの氷から出せ!」

「残念だけどそうはいきませんよ。あなたを倒すためなら、あなたのガールフレンドを利用することに何の躊躇もしませんよ。」

 叫ぶ光輝に、オーリスが妖しい笑みを浮かべる。

「彼女を助ける方法は2つ。力ずくで氷を破るか、私を倒すこと。しかし、どちらの方法であろうと、あなたにできますでしょうか?」

「やってやる・・それしか方法がないというなら・・・!」

 淡々と言いかけるオーリスと対峙する光輝の頬に紋様が走る。

「変身!」

 光輝がシャインガルヴォルスへと変身する。その姿を眼にして、オーリスが眼を見開く。

「いいでしょう。ヴィオスの仇、この場で討たせていただきましょう・・・!」

 言い放つオーリスがウォーターガルヴォルスへの変貌を遂げる。彼女の体から白い冷気があふれてきていた。

「私の冷気は、たとえガルヴォルスであっても耐えられるものではありませんよ。私たちのような上位なら話は別ですが・・」

 オーリスは鋭く言い放つと、光輝に向けて氷の刃を放つ。光輝は跳躍してその氷をかわしていく。

「俊敏ですね。ですがその動きには感情がこもっていますよ。」

 冷静沈着に光輝の心境を分析するオーリス。奈美を凍らされたことで怒りをあらわにしたため、彼は感情をむき出しにしていた。

「確かに力は強いです。ですがそのように直線的な動きでは、見抜くのは簡単です。」

 オーリスが微笑んだ瞬間、彼女が放った氷の刃が光輝の左足に突き刺さる。

「ぐっ!」

 激痛を覚えて光輝が顔を歪める。体勢を崩し、彼はその場に倒れ込む。

「どうしました?この程度の攻撃で音を上げるのですか?」

 オーリスが苦しんでいる光輝をあざ笑う。彼女が氷の刃で追撃するが、光輝はとっさに駆け出して回避する。

「本当にどうしたのですか?あのとき私たちと戦ったときは、こんなものではなかったでしょう。」

 オーリスが哄笑を上げながら、今度は吹雪を放つ。周囲に冷気が覆い、光輝は回避できずに吹き飛ばされる。

 倒れて転がる光輝に、さらに吹雪が襲い掛かる。彼の体に徐々に氷がまとわり付いていく。

「このままあなたも、彼女と同じ氷付けにしてあげますよ。」

 オーリスが言いかけて、吹雪の威力を強めていく。光輝の体が氷に閉じ込められて、動けなくなってしまう。

「弱点を突くと、意外と簡単に仕留められるものですね。」

 オーリスが嘆息混じりに言いかけて、光輝が封じられていく氷塊に近づく。

「安心なさい。あなたを粉々にした後、彼女もすぐに後を追わせてあげるわ。それが私のせめてもの慈悲というものよ。」

 オーリスが妖しく微笑むと、右手に力を込める。

「シャイニングエナジー!」

 そのとき、その氷塊から光が放出された。その影響で氷のヒビが入っていく。

「まさか、氷付けにされて、まだそんな力が出せるというのですか!?

 驚愕を浮かべるオーリス。光が一気に強まり、氷が打ち破られる。

 氷付けから脱出した光輝が、後ずさりするオーリスを見据える。

「お前だけは絶対に許さない・・オレを倒すために、奈美ちゃんに手を出すなんて・・・!」

 鋭く言いかける光輝の右手に光が集束していく。

「受けてみろ・・シャイニングナックル!」

 その拳を繰り出し、オーリスを突き飛ばす。強烈な一撃を受けて、彼女が顔を歪める。

「行くぞ!シャイニングシュート!」

 光輝が続けて駆け出し、オーリスに向けて一蹴を繰り出す。その光の蹴りを受けて、オーリスが突き飛ばされ、横転する。

「ぐっ!・・この私の氷が、ここまで破られるとは・・・!」

 ふらつきながらも、オーリスがゆっくりと立ち上がる。その彼女に光輝が身構える。

「吉川光輝、これで勝ったと思わないことです・・私が倒されても、あなたたちはサターンから逃れることはできない・・あなたたちに残されているのは、破滅だけですよ・・・」

 オーリスが光輝に言いかけると、空に向かって哄笑を上げた。その彼女の動きが止まり、体が崩壊して霧散した。

(僕は絶対に負けない・・お前たちが平和を脅かそうとするなら、オレは戦い続ける・・・)

 決意と正義感を胸に秘める光輝。彼は右手の力を集めて、氷付けになっている奈美に光を照射する。

 光輝の力を受けて氷が砕け、奈美が凍結の呪縛から解放される。

「奈美ちゃん!」

 人間の姿に戻った光輝が、落下する奈美を受け止める。

「奈美ちゃん、しっかりして!奈美ちゃん!」

「光輝・・・私・・どうしてたの・・・?」

 光輝が呼びかけると、奈美が弱々しく声をかける。その様子を見て、光輝が安堵を浮かべる。

「サターンに氷付けにされてたんだけど、僕が助けたんだ・・」

「光輝が・・また私、光輝に助けられたのね・・・」

 光輝が事情を説明すると、奈美が物悲しい笑みを浮かべる。

「奈美ちゃん・・?」

「私、全然役に立ってない・・光輝の足手まといになってる・・・」

「そんなことない!奈美ちゃんがそばにいたから、僕は戦えたんだ!奈美ちゃんを助けたいっていう気持ちが、僕の背中を押してくれたんだよ・・!」

「それでも・・それでも私は・・・」

 呼びかける光輝だが、奈美は沈痛さを募らせるばかりだった。何を言っても通じないと痛感し、光輝も困惑を浮かべた。

 

 オーリスの死を耳にして、ブリットの心は揺れていた。サターン3幹部のうち、2人までもが命を落としたことを、彼は受け止められないでいた。

「まさかオーリスまでもが・・・吉川光輝、速水利矢・・このまま2人を野放しにするわけには・・・!」

 仲間たちを殺されたことに、ブリットは怒りを感じていた。だが同時に彼は焦りを覚えていた。

「もうすぐメシアがこちらに赴かれる・・メシアに、この失態をさらすわけには・・・!」

 危機感をあらわにしたブリットが試行錯誤を行おうとしたときだった。

 突如、強烈な気配と威圧感を感じ取り、ブリットは息を呑んだ。

(この畏敬・・メシアがここに・・・!?

 眼を見開いたブリットが背後に振り返る。その先にいた存在に対し、彼は即座にひざまずいた。

「あ、あなたは・・メシア・・・!」

「久しぶりね、ブリット・・・ヴィオスとオーリスの姿が見えないわね・・」

 怯えた様子を見せるブリットに、メシアが淡々と言いかける。

「実は、2人は・・」

「メシアは全て承知です。現在起きている出来事も全て・・」

 ブリットの言葉をさえぎったのはメシアではなかった。メシアの隣にいた1人の女性であった。

「アイ、いいのよ。ブリット、よくやってくれたわ。もちろんヴィオスもオーリスも・・」

「しかし、メシア・・・」

「そろそろ心の充実をしておこうと思ってね。ブリット、今は休みなさい。」

 自分を責めるブリットに、メシアが言いかける。

「アイ、いいわね?あのことをあなたに任せてもらえる?」

「メシアのご所望であるならば、いかなることにも手を染めましょう。」

 メシアの呼びかけに答えると、アイは闇に溶け込むように姿を消した。

「何をお考えなのか分かりかねますが、吉川光輝が必ず妨害してきますよ・・」

「そうかもしれないわね。もしそうしてきたら、少し相手をしてあげてもいいけれど。」

「メシア自ら、あの男の相手をなさると・・・!?

「言ったはずよ。心の充実をしておきたいって。サターンをここまで揺さぶる人が誰なのか。いろいろと拝見しておきたいからね・・」

 息を呑むブリットの前で、メシアが妖しい笑みを浮かべる。その考えが飲み込めず、ブリットはこれ以上言葉をかけることができなかった。

「部屋に戻るわ。別命あるまで、休息を取っていなさい・・」

 メシアは声色を変えてブリットに呼びかけると、音もなく姿を消した。その威圧感から解放されて、ブリットは押し殺していた呼吸の乱れをあらわにする。

(メシアが・・メシアがついに、この本部に赴かれた・・・)

 冷静さを取り戻せないでいたブリット。メシアの登場により、サターンに激震が走っていた。

 

 

次回予告

 

次々と狙われる警察官。

それは、偽りの正義を憎悪する利矢の暗躍だった。

非情の正義と、それを塗り替えようとする復讐心。

2つの因果を止めるため、光輝が利矢と零夜の前に立つ。

 

次回・「制裁」

 

 

作品集

 

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