ガルヴォルスMessiah 第10話「連鎖」

 

 

 光輝のシャインガルヴォルスとしての姿を目の当たりにした奈美。しかし彼女は恐れることなく、しっかりと事実を受け止めようとしていた。

 光輝は奈美に、これまで自分が経験してきたことを打ち明けた。

 自分がガルヴォルスと呼ばれる怪人になってしまったこと。その力を使って、サターンのガルヴォルスたちと戦い続けてきたことを。

 何とか驚く様子を見せずにいた奈美。だがそれは話が突飛過ぎて、驚きを通り越してのことだった。

「光輝・・あなた、ホントにとんでもないことに首を突っ込んでいたのね・・今までのが子供の遊びの思えるくらいの・・」

「僕もどうしたらいいのか、正直ハッキリしてこない・・奈美ちゃんも巻き込んじゃったのもあるから・・」

「もう、私をお荷物みたいに言わないでよ、光輝・・」

 困惑する光輝がもらした言葉に、奈美が不満を口にする。気まずくなる光輝だが、すぐに深刻な面持ちに戻る。

「サターンは奈美ちゃんも狙ってくるかもしれない・・もしかしたら、麻子ちゃんや理子ちゃんも・・・」

「それで、光輝はどうしたいと考えてるの?」

 奈美が問いかけると、光輝が戸惑いを見せる。

「光輝は悪いことが許せない。みんなを守るために、悪い人と戦う。今まではずっとそうだったじゃない。今は違うの?」

 奈美に言いかけられて、光輝は奮起を覚える。彼はこれまでの自分を思い返していく。

「私の知っている光輝は、そんな正義感の強い人だったわ。行き当たりばったりでもあるけど・・」

「そんな言い方しなくたって・・・」

 奈美の言葉に気落ちして肩を落とす。

「それで光輝、もしサターンが近くにやってきたら、それを感じることはできるの?」

「うん・・近くまで来ていて、気配を消していなかったら・・」

 奈美の質問に光輝が頷く。そこで彼はひとつの不安を覚えた。

「サターンが家を見張っているかもしれない・・帰るなら慎重にいかないと・・」

「自分の家に帰るだけなのに緊張するなんて・・門限破って怒られるみたいな・・・」

 光輝が言いかけた言葉に、奈美が半ば呆れる。2人は気持ちの整理をつけるために、ひとまず家に戻ることにした。

 

 家へと戻っていった光輝と奈美。家の付近にはサターンのガルヴォルスの気配は感じられず、光輝は安堵を感じていた。

 それから気持ちを落ち着けようと、光輝も奈美も模索していた。そして彼女はいつしか、麻子に電話をかけていた。

“もしもし、奈美?どうしたの?”

「麻子・・ちょっといろいろあって、気分が落ち着かなくなって・・・」

 麻子が声をかけると、奈美は苦笑気味に答える。

“まぁ、奈美のことだから、すぐに気持ちを切り替えちゃうんだけど・・そうだ♪奈美、いいものが手に入ったんだけど。”

「いいもの?」

“遊園地のチケットが手に入ったんだけど、2枚余っちゃったんだよね。よかったら上げるから、光輝くんと一緒に行ってきちゃったら?”

「遊園地?ダメダメ。光輝が遊園地に行ったら、真っ先にヒーローショーを見に行っちゃうわよ・・」

“アハハ、それもそうか・・でもいいじゃない、たまには。せっかくの休みということで。”

「でも、それだと麻子と理子ちゃんに悪いじゃない・・」

“気にしないで。私たちは別の日に行ってきちゃったから・・”

「そう・・それじゃ、お言葉に甘えることにするわね・・・ありがとうね、麻子・・」

“いいって、いいって♪あなたと私の仲じゃない♪・・それじゃ♪”

 こうして奈美は麻子との電話を切った。その後、奈美は落ち着かない様子のまま、光輝に眼を向けた。

「麻子ちゃんから?・・もしかして麻子ちゃんたちに・・」

「話してないわよ。ただ麻子が遊園地のチケットをくれるって・・」

 訊ねてきた光輝に奈美が答える。しかし普通なら遊園地と聞いて子供のように大喜びするはずの光輝が、素直に喜べずにいた。

「麻子だったら多分、こういうときは楽しいことを考えたほうがいいって言うと思う・・楽しい時間を過ごせば、モヤモヤしたものが和らぐって・・」

「そう・・そうかもしれないね・・・麻子ちゃんの優しさに甘えるとしようね・・」

 言いかけると奈美と光輝は微笑みあった。2人は混沌としている気持ちを払拭しようと、屈託のない時間に身を投じていくことにした。

 

 それから次の休日、光輝と奈美は遊園地へと繰り出した。いつもの振る舞いに戻った光輝が真っ先に向かったのは、ヒーローショーだった。

 怪人を倒していくヒーローを見て感激する光輝に、奈美は呆れ果てていた。

 それから光輝と奈美は様々なアトラクションを巡っていった。ジェットコースター、コーヒーカップ、お化け屋敷。いろいろなところを体験し、奈美は喜びを膨らませ、光輝が勢いに追いつけずに息を絶え絶えにしていた。

 そして2人は落ち着けるものとして、観覧車に乗った。この観覧車は頂上まで到達すると、街を一望することができるのである。

 2人の乗る観覧車が頂上に差し掛かる少し前に、奈美が光輝に声をかけた。

「麻子たちの言ってたとおり・・街の景色が丸見えね・・」

「そうだね・・こんな景色、テレビでしか見たことがないよ・・」

 奈美も光輝も街の景色に感動を覚えていた。そして奈美が再び言葉を切り出した。

「やっぱり光輝は、いつもと同じね・・」

「そうかな・・」

「そうよ。あんな姿になっていても、光輝のままだった。今日を過ごして再確認したわ。」

 戸惑いを見せる光輝に、奈美が頷いてみせる。

「私、ちょっと自分が許せなくなっている・・こんなときに何かできるのか分からないでいる・・」

「奈美ちゃん・・・」

「確かに私は空手とか柔道とか、いろんな格闘技をこなしている・・でも光輝が相手にしているのは、人の力を上回っているんでしょう?」

 深刻な面持ちを浮かべる奈美に、光輝は戸惑いを覚える。だが彼はすぐに気持ちを落ち着けて、彼女に言いかける。

「そんなことはない・・奈美ちゃんは、僕なんかよりもずっとしっかりしてるんだから・・」

「光輝・・・でも、私は・・・」

「どんなことがあっても諦めないっていう気持ちがあれば、絶対に負けたりしない。力が全てじゃない。心の強さが、本当の強さなんだよ・・」

 切実に言いかける光輝の言葉に励まされて、奈美も気持ちを落ち着けて微笑みかける。

「前だったら呆れてたけど、今なら真っ直ぐに受け止められるよ、光輝・・・」

「そう言われると照れちゃうよ・・」

 奈美の言葉を受けて、光輝がたまらず笑みをこぼす。

「私のできることを全力でやっていく・・私もあんなのに、みんなのいるこの場所をムチャクチャにされたくないもの・・」

「奈美ちゃん・・・ありがとう・・君がいてくれて、とても心強くなった気がするよ・・」

 奈美の決心を受けて、光輝が感謝を覚える。サターンにたった1人で立ち向かっていた彼にとって、彼女の励ましは実に心強かった。

「あっ!頂上に着いたよ!」

 光輝が外を指差し、奈美がそこに眼を向ける。外には街の風景が広がっていた。

「すごい・・ホントにすごい・・こんなにきれいだったんだ、街って・・」

「うん・・僕もきれいって思うよ・・」

 感嘆の声を上げる奈美に、光輝も同意する。だが彼の表情が真剣なものへと変わる。

「この街と、そこに住んでいる人々を、あんな悪いヤツなんかのいいようにさせたらいけない・・僕が、ううん、僕たちが守っていくんだ・・・」

「ホントにその気になって、光輝ったら・・」

 子供のように街を見入る光輝に、奈美は呆れていた。だがそのやり取りが安らぎのあるものだと思い、彼女はすぐに微笑をこぼした。

 

 それから観覧車を降りた光輝と奈美は、近くのベンチで休憩を取っていた。

「少し何か食べたくなったわね・・」

「だったら僕が買いに行ってくるよ。何がいいの?」

「ううん。私が買いに行くよ。」

 立ち上がる光輝を制して、奈美が言いかける。

「こういうのもたまにはいいよね?」

「そう・・・それじゃお任せしようかな・・」

 奈美に言いかけられて、光輝が照れ笑いを浮かべる。彼女は出店を探しに飛び出していった。

「えっと、この辺りのお店といったら・・」

 奈美が周囲を見回して出店を探す。しかし適当な店を見つけることができず、彼女は歩き回っていた。

 そのとき、奈美は眼前に立つ青年に気付いた。青年は彼女をじっと見つめていた。

「お前、吉川光輝と一緒にいたな・・今朝、お前と光輝が出かけていくのを目撃した・・」

「あなた、誰ですか?光輝の知り合いですか・・?」

 低い声音で告げる青年、利矢に奈美が眉をひそめる。

「オレは速水利矢。吉川光輝はどこだ?ここにいることは分かっている・・」

「もしかしてあなた、光輝を狙っている人・・・!?

 問いかける利矢に、奈美が逆に問い返す。

「質問しているのはオレだ。光輝はどこだと聞いている。」

「光輝を狙う人にそれを教えるわけがないでしょう!力ずくで行くなら、私が相手になるわよ!」

「相手に?笑わせるな。たとえお前がどんな格闘技を身につけていようと、普通の人間ではオレには勝てない。」

 不敵な笑みを浮かべる利矢に、奈美が眉をひそめる。

「やっぱりあなたも、光輝が戦っているヤツらの仲間なんじゃ・・!」

「勘違いするな。オレはヤツらのような私利私欲の連中とは違う。オレはこの世界に広がっている偽りの正義を壊し、安らぎを取り戻そうとしているだけだ。」

「そんな人が、どうして光輝を!?・・光輝は正義感が強くて、悪いことが許せない真っ直ぐなヤツよ!」

「だからだ。吉川光輝が正義の象徴であるからこそ、オレはヤツを倒し、真の正義を取り戻すことが必要なのだ。」

 呼びかける奈美に対し、利矢は冷徹な態度を崩さない。

「吉川光輝をおびき寄せるためだ。お前には悪いが、人質になってもらうぞ。」

 利矢は言いかけると、ダークガルヴォルスへの変身を遂げる。異形の姿へと変貌した彼に、奈美が身構える。

「やめておけ。ガルヴォルスは人間の進化。人間を殺すことなど簡単にできる。」

「たとえそれだけの力を持っていても、私はそう簡単にはやられたりしないわよ!」

 低く告げる利矢に言い放つ奈美。だが利矢に素早く懐に飛び掛られ、彼女は打撃を受けて気絶してしまう。

「弱いことは罪ではない。罪なのは、心までが腐ってしまうことだ・・」

 利矢は言いかけると、倒れかかった奈美を抱えた。

「奈美ちゃん!」

 そこへ光輝が利矢の前に駆け込んできた。奈美が戻ってこないことを心配してきたのだ。

「利矢くん!?・・・君がどうして・・・!?

「ようやく来たか、吉川光輝・・・」

 眼を見開く光輝に、利矢が冷たく告げる。

「奈美ちゃん・・・奈美ちゃんに何をしたんだ!?

「安心しろ。気絶させただけだ。お前をおびき出すために利用しようとしたが、その必要はなかったようだ。」

「僕のためにこんなこと・・奈美ちゃんは関係ないだろ!僕に用なら直接来たらどうなんだ!?

「この混雑した中で、ガルヴォルスの力を使っていないお前を見つけることは難しかったからな。できればオレもこんな手を使いたくはなかった・・

 声を荒げる光輝に、利矢が肩を落としながら答える。彼は脱力して、人間の姿へと戻る。

「オレの今の最大の目的は、吉川光輝、お前を倒すことだ。もしもこの手でしか、オレに押し寄せる理不尽を跳ね除けることができないならば、オレは迷わずに、お前の嫌う卑怯な手を使わせてもらう。」

「オレを倒したいなら相手になってやる!奈美ちゃんに手を出すな!」

「もちろん。この女がオレの邪魔をしなければ、オレはこれ以上の危害を加えるつもりはない。吉川光輝、オレと戦え・・・!」

 怒鳴る光輝に向けて、利矢が鋭い視線を向ける。2人の頬に異様な紋様が浮かび上がり、戦意が膨らんでいく。

 そのとき、光輝と利矢の周囲に白い霧が立ち込めてきた。この異変に眉をひそめる2人が、霧に込められている冷気を感じ取る。

「この霧・・もしかしてサターン・・・!?

「ギャラリーがいるようですね。これは好都合です・・」

 光輝が声を荒げると、微笑が霧に紛れて響いてきた。霧の中からオーリスが姿を現した。

「オーリス!」

「吉川光輝、速水利矢、久しぶりですね・・」

 呼びかける光輝に、オーリスが妖しい笑みを向ける。

「光輝、私はあなたを倒すことに専念します。そのためならば、いかなる手段も行使しますよ。あなたや利矢が嫌悪している卑劣な手段も・・」

「そうはさせない!奈美ちゃんには手を出させないぞ!」

 言いかけるオーリスに光輝が言い返し、奈美を守ろうとする。

「この冷気、あなたや利矢には何でもなくとも、普通の人間である彼女には応えるようですね。」

「奈美ちゃん!」

 オーリスの言葉を受けて、光輝が奈美を抱える。オーリスが本気になっていない冷気であっても、普通の人間を凍えさせるには十分だった。

「あなたは彼女を守りながら戦わなければなりません。そうなれば、あなたは十分に力を発揮することができません・・」

 オーリスが淡々と言いかけるが、光輝はそれを聞かずにシャインガルヴォルスに変身する。そして光輝は力を振り絞り、この場から駆け出していく。

「このまま逃がす私だと・・」

 オーリスが言いかけて光輝を狙おうとしたときだった。背後からの攻撃に気付き、彼女は跳躍してこれをかわした。

「光輝はオレが倒す。お前たちに邪魔はさせないぞ。」

 ダークガルヴォルスに変身して攻撃を仕掛けた利矢が鋭く言い放つ。

「あなたこそ邪魔をしないでください、速水利矢。反逆者であり、ヴィオスの仇が・・・!」

 オーリスが鋭く言い返すと、利矢に向けて氷の刃を放つ。利矢が漆黒の刃を突き出して、その氷を粉砕する。

(逃がしてしまったですね・・やはり吉川光輝と神埼奈美の2人だけのときを狙う必要がありますね・・・)

「今回は私が手を引きましょう。私の標的は吉川光輝ですので・・」

 決断をしたオーリスが冷気の霧の中に姿を消した。追撃しようとする利矢だが、彼女はいなかった。

(吉川光輝、お前は必ずオレが倒す。サターンや他のヤツらに邪魔はさせない・・・!)

 光輝妥当に燃える利矢も、この場から姿を消す。光輝、利矢、サターン、三つ巴の戦いは過激化の一途を辿っていた。

 

 奈美を連れてオーリスの襲撃から脱した光輝。人間の姿に戻った彼は、安堵の吐息をつく。

「まさか奈美ちゃんまで狙ってくるなんて・・・サターンは、僕の身近な人を狙うようになってきた・・最終的に僕を倒すために・・・」

 光輝が呟きかけて、横たわる奈美に眼を向ける。

「でも僕は負けない・・必ずヤツらからこの世界を守ってみせる・・・!」

 決意を胸に秘める光輝。気持ちを落ち着けたところで、彼は奈美を起こす。

「奈美ちゃん、しっかりして!奈美ちゃん!」

「ん・・こ、光輝・・・」

 眼を覚ました奈美に、光輝が再び安堵の吐息をつく。

「光輝、あの人は?あの怪人は・・?」

「怪人・・利矢くんのことだね・・・」

 周囲を見回す奈美に、光輝が沈痛の面持ちで答える。彼は利矢に関することを彼女に告げることにした。

 

 

次回予告

 

混沌と化していく現状。

サターンの魔手から奈美を守ろうと、光輝は苦悩する。

利矢、そしてサターン。

大切な人を守るため、光輝は激しさを増す戦いに身を投じていく。

 

次回・「極寒」

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system