ガルヴォルスMessiah 第9話「暴露」

 

 

 サターン研究施設での激闘の翌日。その昼間に、光輝はようやく眼を覚ました。

「あ、あれ?・・・僕、また気絶してた・・・?」

「やっと眼が覚めたみたいね・・」

 当惑する光輝に、奈美が声をかけてきた。彼女はずっと彼を診ていたのだ。

「奈美ちゃん!?・・ここは僕の部屋・・・」

「そうよ。光輝は家に帰ってきた途端に倒れて、私がここまで運んで介抱してたわけ。」

「そうだったの・・・ゴメン、奈美ちゃん・・・これだけ君に迷惑をかけて、その上面倒まで・・・」

 事情を聞いた光輝が、奈美に頭を下げる。すると奈美は肩を落としてため息をつく。

「どこまでアンタは・・・いいわ。こうやって迷惑かけられるのには慣れちゃったし・・・」

 光輝の行動に呆れ果てる奈美。彼女は気持ちを落ち着けて、光輝に真剣な眼差しを向ける。

「いい加減に話してもらうわよ、光輝・・あなた、何に関わってるの・・・?」

 奈美に問い詰められて、光輝が口ごもる。

「最近何をやっているの?これだけ大変なことになってるのに、黙ってられるなんて思わないでよ。」

「僕が話したら、きっと奈美ちゃんも巻き込まれることになる。だから・・」

「ここまで来たらとんでもないことだってのは十分分かるわよ。巻き込まれるのも覚悟しているわ。」

 光輝が忠告するが、奈美は退く様子を見せない。

「光輝、あなたが正義感が強くて、何かあるのを放っておけない。それは私が1番よく分かってる。だから私はあなたが何かに巻き込まれているのを放っておけないの。」

 奈美が言いかけるが、光輝は黙り込むばかりだった。奈美はこの沈黙も、再びため息をつくしかなかった。

 

 ついに光輝と利矢の打倒に狙いを絞ってきたブリットとオーリス。2人はまず、光輝の攻略について考えを巡らせていた。

「吉川光輝。シャインガルヴォルス。我々サターンの侵略を阻む大敵の1人。その息の根を止めるべく、我々はヤツのウィークポイントを探る必要がある。」

「彼は光の力を自在に操り、サターンのガルヴォルスの力をことごとく阻んできた。あの力を真っ向から打ち破るのは、私たち幹部でも至難の技です。」

 光輝の戦いを映した映像を見ながら、ブリットとオーリスが言いかける。

「能力的な弱点を見つけるよりも、他の弱点を探っていきましょう。」

「他の弱点とは、どういうことだ?」

 オーリスが切り出した言葉に、ブリットが眉をひそめる。

「吉川光輝はガルヴォルスでありながら極めて人間に近い。彼と関係を築いている人間もいるでしょう。」

「なるほど。その関係に牙を向ければ、吉川光輝はそれを守ろうとする。そうなればヤツの力は最大限に発揮されることはなく、分散される。」

 オーリスの言葉を汲み取って、ブリットが不敵な笑みを浮かべる。

「その情報収集は私が行います。必ず吉川光輝を追い詰めてみせます。」

「だが1人尖兵を送り出す。ヤツの動きを細大漏らさず監視させる。」

 情報収集に乗り出すオーリスに、ブリットが言いかける。その言葉にオーリスも同意して頷いた。

「早くしなければ、時期にメシアが姿を現す。無様な姿をメシアにさらすわけにはいかない・・」

 ブリットが口にした言葉に、オーリスも緊迫を覚える。2人をはじめ、サターンのメンバーはメシアの出現の接近により、追い詰められつつあった。

 

 昼間に眼を覚ましてからも、光輝は奈美に事情を打ち明けることをためらっていた。しかし奈美は諦めようとしなかった。

 光輝が外に出ると、奈美も付いてきた。彼女は何が何でも光輝から事情を聞きだそうとしていた。

「本気の本気みたいだね、奈美ちゃん・・」

「当然。これ以上黙り込むなら、力ずくで聞き出す手段もいくつかあるんだからね。」

 強気な態度を崩さない奈美に、光輝は肩を落とすしかなかった。

「誰にも言わないって約束してくれる?できることなら、他の人に打ち明けたくないのが本音だから・・」

「光輝・・・」

 観念した光輝に、奈美が吐息をつく。

「多分麻子に話しても、悪ふざけされるか信じられないかだよ・・」

「分かってるから。他の誰にも話さないから、私にはちゃんと話してよ。」

 呟きかける光輝に奈美が食って掛かる。彼は気持ちを落ち着けてから、話を切り出そうとした。

「おいおい。コイツを見張ってたら、かわいい子が現れてくれたよ。」

 そのとき、突如声をかけられて、光輝が眼を見開く。彼が振り返った先には、不気味な笑みを浮かべる薄汚れた男がいた。

「何よ、あなた・・私たちに何の用なの!?

 奈美が声をかけるが、男は不気味な笑みを消さない。

「吉川光輝、お前には借りがあった。その借りを返してやるよ。そこのかわいこちゃんを糸巻きにしてからね!」

 眼を見開く男の顔に紋様が走る。直後、男の姿が蜘蛛の怪物、スパイダーガルヴォルスへと変化する。

「この前の蜘蛛の怪人!」

 声を荒げる光輝に、スパイダーがさらに笑みをこぼす。

「覚えていてくれて光栄だよ。とにかくまずは、そこのかわいこちゃんから楽しませてもらうよ。」

「やめろ!奈美ちゃんに手を出すな!」

 光輝がスパイダーの前に立ちはだかり、奈美を守ろうとする。

「いいのか、その姿のままで?それだとオレに勝てるわけがない。」

 スパイダーがたまらずあざ笑う。その言葉に光輝は焦りを感じていた。

(変身できない・・奈美ちゃんのいる前で変身するわけには・・・!)

「逃げるんだ、奈美ちゃん!」

 光輝が奈美の腕をつかみ、この場から駆け出した。

「オレが狙った獲物は絶対に逃げられないよ。」

 逃げていく2人の背中を見つめたまま、スパイダーが不気味な笑みを浮かべていた。

 

「スパイダーが吉川光輝と接触した!?

 スパイダーの動向を耳にしたブリットが声を荒げる。しかしオーリスは冷静だった。

「愚か者が!監視だけだと言っておいたのに・・すぐに止めなければ!」

「いえ。このまま任せてみましょう。」

 出て行こうとしたブリットに、オーリスが淡々と言いかける。その言葉にブリットが眉をひそめる。

「今、吉川光輝は神崎奈美というガールフレンドと一緒にいます。どうやら吉川光輝は、彼女に正体を見られたくないようで、戦闘を行おうとしていません。」

「どういうつもりだ?そんなことに何の意味があるというのだ?」

「人間の心は移ろいやすいものです。自分の正体を知られて、恐怖され敬遠されることを逆に恐れているのではないのでしょうか。」

「理解できないな。人間の考えることはつくづく理解できない。」

「それが人間というものです。いずれにしろ、そこに付け込まない手はありませんよ。」

 人間をあざけるブリットと、笑みをこぼすオーリス。事態はサターンの思惑通りに進みつつあった。

 

 突如現れたスパイダーから逃げ出した光輝と奈美。光輝は通りの途中で立ち止まり、スパイダーが追ってきていないことを確かめる。

「ふぅ・・何とか逃げ切ったみたいだ・・」

「ちょっと光輝!今の何なの!?あの怪物とどういう関係なの!?

 安堵の吐息をつく光輝に、奈美が再び問いかける。光輝は深刻な面持ちを浮かべ、改めて話す決心をする。

「うん・・あれが、僕が関わっていること・・世界支配を企んでいる怪人たちと戦っているんだ・・・」

「何を言ってるのよ、光輝!?・・テレビのヒーローみたいなこと、現実にあるなんて・・!?

「信じられないけど本当のことなんだよ・・それで僕も・・」

 困惑する奈美に、光輝が自分の正体を打ち明けようとしたときだった。

 突如糸が飛び出し、光輝と奈美を縛りつけた。糸はさらに巻きつき、2人を拘束する。

「しまった!」

「ケッケッケッケ。捕まえたぞ、2人とも。」

 光輝が声を荒げると、2人の前にスパイダーが現れる。スパイダーは気配を消して、2人を追跡していたのだ。

「さて。これから糸巻きを始めるとしようか。大サービスだ。2人仲良く巻かれるがいい。」

 哄笑をもらすスパイダーが、さらに糸を吐き出していく。光輝が必死にもがくが、糸を振りほどくことができない。

 綿状に降り注がれる糸が、光輝と奈美を徐々に包み込んでいく。やがて2人が完全に糸に包まれてしまう。

「ど、どうなってるの、これ!?

「ダメだ・・体中に糸がまとわり付いて、全然動けない・・抜け出せない・・・!」

 声を荒げる奈美と光輝。糸は硬質化し、像のように微動だにしなくなってしまった。

「やった。これで2人とも動けない。オレの思うがままになった。」

 スパイダーが歓喜の笑みを浮かべて、光輝と奈美に歩み寄る。

「それじゃショーでも始めようか。オレの糸は頑丈だけど、燃えやすくもあるんだよ。」

 スパイダーは言いかけると、ライターを取り出した。

「糸巻きされてるお前たちに火をつけたら、確実に骨も残らずに燃え尽きるだろうね。」

 眼を見開いて笑みを強めるスパイダー。その哄笑を耳にした光輝と奈美に緊迫が走る。

(まずい!このままだと丸焼けになっておしまいだ!だけど、変身しないと抜け出せそうにない!・・しかし、それだと奈美ちゃんに・・・!)

 一気に危機感を膨らませる光輝。この危機を打開するにはガルヴォルスになるしかない。だが自分の正体を奈美に明かすことになる。

「光輝・・・」

 そのとき、奈美が光輝に向けて声をかけてきた。その声に光輝が戸惑いを覚える。

「何を考えているのか分かんないけど、躊躇はしないほうがいい。どうしても諦めるほうに気持ちが向いちゃうから・・」

「奈美ちゃん・・・」

「そういうのは光輝らしくないからね・・どんなときでも迷わずに進む。曲がったことが大嫌い。それが光輝じゃない・・」

 奈美に励まされて、光輝は気持ちを引き締める。彼の心から迷いが消えていく。

「奈美ちゃん・・・これから何が起こっても、眼を背けないで、しっかりと受け止めて・・・」

 光輝が切り出した言葉に、奈美が当惑を見せる。彼の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「光輝、何を・・・!?

「変身!」

 困惑する奈美の前で、光輝がシャインガルヴォルスへの変身を敢行した。

 

 光輝と奈美を焼き払おうと迫るスパイダー。彼は喜びと興奮のあまりに、哄笑を上げていた。

「いい感じに燃えてよね。オレの喜びを祝福するように・・・ん?」

 そのとき、スパイダーが異変を感じて笑みを消す。光輝と奈美を包み込んでいる糸の中から、光が宿ってきた。

 光は一気に強まり、スパイダーは眼をくらまされる。その拍子で彼はライターを手放し、後ずさりする。

「何だ、この光は!?・・・まさか!?

 驚愕の声を上げるスパイダー。硬質化していた糸が粉砕され、中から奈美を抱えた、シャインガルヴォルスとなった光輝が姿を現した。

「光輝、その姿・・・!?

 異形の怪物へと変貌した光輝に、奈美が驚愕を覚える。光輝は落ち着きを保ったまま、奈美を降ろす。

「詳しい話は後でする。だから奈美ちゃん、安全なところまで離れていて・・」

 奈美に言いかけると、光輝はスパイダーに向かって駆け出す。戦慄を覚えたスパイダーがとっさに跳躍し、光輝から離れる。

「お前だけは許さないぞ!お前たちの企みは、オレが粉砕する!」

 光輝が言い放つと、スパイダーに攻撃を繰り出す。彼が放った拳が、スパイダーの体に叩き込まれる。

「ぐおっ!」

 強烈な一撃を受けて、スパイダーがうめく。光輝は手を休めずに、さらなる打撃を加えていく。

「もうっ!いつまでも攻撃ばかりでずるいじゃないか!」

 不満を叫ぶスパイダーが口から糸を吐き出す。粘着質の糸に巻きつかれて、光輝の動きが鈍る。

「今度はこっちの番だ。やられた分、たっぷりと痛めつけてやるからさ!」

 眼を見開いたスパイダーが、光輝目がけて爪を振り下ろす。

「シャイニングエナジー!」

 そのとき、光輝がエネルギーを放出した。閃光が煌き、スパイダーが眼をくらまされる。

 光のエネルギーが光輝に絡み付いていた糸を弾き飛ばす。同時にスパイダーの体に熱と衝撃を与えていく。

「ぐあっ!・・まさか、オレの糸で全然捕まえられないなんて・・・!」

 激痛に顔を歪め、地面にひざを付くスパイダー。その眼前に光輝が立ちはだかった。

「これで終わりだ。今のうちにここから離れろ!」

 言い放つ光輝に、スパイダーが毒づく。このまま戻っても任務失敗で処罰されるのは眼に見えている。そう考えていたスパイダーは、光輝を倒す打開の糸口を探る。

「こうなったら、あの子だけでも!」

 いきり立ったスパイダーが、奈美に向けて糸を吐き出す。だがその糸は光輝が伸ばした腕に絡みつく。

「えっ!?

「やはり、お前は許してはいけないようだ・・・ここで貴様を倒す!」

 驚愕するスパイダーに、光輝が鋭く言い放ち、腕に巻きついた糸を引きちぎる。

「必殺!シャイニングシュート!」

 光のエネルギーを集束させた光輝の一蹴が、スパイダーの体に叩き込まれた。その衝撃で肉体の崩壊を引き起こし、スパイダーが崩れて消滅した。

 卑劣かつ欲情的なスパイダーの策略は、光輝によって打ち砕かれた。

 

 スパイダーの死亡は、すぐにブリットとオーリスの耳に入った。

「スパイダーのヤツめ!勝手な行動を取って自滅するとは!」

「ですが、これで吉川光輝のウィークポイントに一歩近づくことができました。」

 苛立ちをあらわにするブリットだが、オーリスは冷静だった。

「この戦いを見る限り、吉川光輝のガールフレンドである女、神崎奈美を狙っていくのが妥当。でもそのガードが固いのも事実。」

「ならばどうするつもりだ?何か策があるのか?吉川光輝を追い詰める策が・・」

「今はまだ立案していませんが、時期に妙案を練り上げて実行に移します。」

 疑問を投げかけるブリットに、オーリスが笑みを見せて答える。彼女が滅多に見せない、揺るぎない勝利を確信しているときに見せる笑みだった。

 サターンの魔手が、徐々に光輝の首を締め付けつつあった。

 

 スパイダーを倒し、窮地を脱した光輝。だが奈美に自分のガルヴォルスとしての姿をさらすこととなった。

「光輝・・あなた・・・」

 困惑を浮かべる奈美に、光輝がゆっくりと振り返る。彼は肩の力を抜き、人間の姿に戻る。

「ゴメン、奈美ちゃん・・・今まで隠していて・・・」

 光輝は奈美に謝ると、真剣な面持ちを見せる。

「この姿に変身できるようになったのは、数週間前のことなんだ・・僕もまだ、この力やあの怪人たちのことを理解しているわけじゃない・・」

「とにかく、何なのか話して・・知っていることだけでいいから・・・」

 光輝の言葉に奈美が呼びかける。

「怖くないの?・・僕のあの姿、怪人なんだよ・・・」

「だから何?怖くなって逃げなさいとでもいうの?どんな姿でも、光輝は光輝でしょ。」

 光輝が不安を口にするが、奈美は臆する様子を見せない。彼女の強い意思を受けて、光輝は気持ちを落ち着ける。

「分かった・・もうためらわない・・・奈美ちゃんに、僕が知っていることを全部話すよ・・・」

 光輝は奈美に全てを打ち明けることにした。

 

 

次回予告

 

ついに打ち明けられた正体。

光輝から語られる事実を聞いて、奈美も戦いへと巻き込まれていく。

気持ちの整理をつけようとする2人。

激化する戦いと運命に対するために。

そんな彼らの前に、利矢が姿を現す。

 

次回・「連鎖」

 

 

作品集

 

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