ガルヴォルスMessiah 第8話「激突」

 

 

 サターン3幹部の前に立ちはだかる光輝と利矢。だがブリットたちは臆してはいなかった。

「2人がかりなら、我々に対抗できると思っているのか?」

「ふざけるな。オレは手を組んだつもりはない。勝手に協定を結ぶな。」

 ブリットが言いかけると、利矢が跳ね付けるように言葉を返す。

「いずれにしろ、オレはお前たちを倒してここを出る。その点ではお前と同じだ、光輝。」

「素直に一緒に頑張ろうって気持ちでいればいいのに・・・何でもいい!やろう、利矢くん!」

 憮然とした態度を見せる利矢に眼を向けてから、光輝はブリットたちに眼を向けて構える。

「そうまでして我らに逆らおうとは・・身の程知らずが!」

 眼を見開いたブリットが電撃を放つ。光輝と利矢が同時に飛び上がり、電撃をかわす。

「同じ手にはかからない!」

「何度も言わせるな!」

 光輝と利矢が叫ぶと、全身からエネルギーを放出する。彼らを背後から攻撃しようとしていたオーリスとヴィオスが、その迎撃を受けて撃墜される。

「どういうことです!?2人とも力が上がっています!」

「ヤツらの力を見誤ったとでもいうのか!?

 オーリスとヴィオスがたまらず毒づく。

「怯むな!3人で攻め立てればいいだけのことだ!」

 その2人に向けて、ブリットが檄を飛ばす。

「同時に攻めるぞ!2人の動きを見逃すな!」

 呼びかけると同時に稲妻を放つブリット。オーリスも冷気を、ヴィオスも炎を放つ。

「シャイニングエナジー!」

 光輝が叫び、利矢とともにエネルギーを放出する。稲妻、冷気、炎が押されてかき消される。

(利矢くんと力を合わせれば、ブリットたちを倒せるかもしれない。しかし、ここで戦っても、もし勝ったとしても無事に出られる保障があるわけじゃない。)

 戦いの最中、光輝は現状打破の策を考える。そして彼の行き着いた結論は、

「ここから出る!」

 思い立った光輝が光を抑えると、研究室の出入り口に向かって駆け出した。

「逃がさんぞ!」

 ヴィオスも彼を追って駆け出す。利矢には依然としてブリットとオーリスが対峙している。

「ヴィオス、また頭に血を上らせて・・」

「構わん。追って捕まえるなら、ヴィオスとこの研究室のセキュリティに任せておけばいい。」

 毒づくオーリスに呼びかけるブリット。

「いいのか?お前たちは、光輝とオレの力が上がっていると言っていた。そのヤツに、あの男だけに任せていいのか?」

「見くびるな。仮にも3幹部の1人。寝首をかかれることはしない。」

 利矢が言いかけると、ブリットが不敵な笑みを浮かべる。続けてオーリスも淡々と声をかけてきた。

「そういうあなたも、自分の心配をしたらどうですか?」

「余計なお世話だ。お前たちなど束になろうが、オレに勝つことはできない!」

 利矢が漆黒のオーラを放出し、ブリットとオーリスに衝撃を与える。2人だけでなく、この研究室に置かれている機械にも衝撃が襲い、爆発を引き起こす。

 ついに研究施設の内部が限界を向かえ、崩壊を始めた。

「おのれ!ついに崩れ出したか!」

「残念だけど、すぐに脱出したほうがよさそうね・・・!」

 毒づくブリットとオーリス。2人が利矢への攻撃を放棄してこの場を離れようとする。

「逃がすか!」

 利矢が2人を追って駆け出していった。研究施設は崩落と爆発に見舞われていた。

 

 出口を求めて施設内の道を駆け抜けていく光輝。しかし連れ込まれたときに意識を失っていたため、彼は出口の場所を知らなかった。

(まっすぐ前に上に進めば、きっと外に出られるはず!今はそれを信じて走るしかない!)

 自分の信念を貫き通して、光輝はさらに駆け抜けていく。その間も崩落と爆発は多発していた。

 だが進んだ末、彼は行き止まりに突き当たってしまった。

「行き止まり・・・早くでなくちゃいけないのに・・・!」

 焦りを覚える光輝。脱出を図ろうとしている自分に、追っ手がかからないはずがない。彼はそう思っていた。

「とうとう追いついたぞ、吉川光輝・・・!」

 そこへヴィオスが駆け込んできた。とっさに振り返った光輝が、飛び込んできた火の玉を回避する。

「ここから逃げることはできないぞ。ましてやオレたちサターンからは決して・・」

「ヴィオス・・・!」

「大人しくオレたちに従え、吉川光輝。お前たち人間に残されているのは、服従が死か、それだけだ。」

「違う!お前たちに地球は渡さない!このオレがいる限り、お前たちの好きにはさせないぞ!」

 不敵な笑みを浮かべるヴィオスに、光輝が言い返す。

「ほざくな、小僧が!たとえ強力なガルヴォルスであろうと、お前だけではサターンの相手ではない!」

「たとえこの身が砕けようとも、オレはこの世界を守る!」

 ヴィオスと光輝が叫び、飛びかかって殴りかかる。2人が突き出した拳がぶつかり合い、炎と光が入り混じって火花を散らす。

「まだだ!シャイニングナックルの威力は、こんなものじゃない!」

 光輝がさらに力を込めると、その拳に宿る光が強まる。その勢いに押されて、ヴィオスが突き飛ばされる。

「まただ!・・パワーがどんどん増してきている・・・!」

 光輝の脅威にヴィオスが毒づく。しかし易々と引き下がる彼ではなかった。

「オレはサターン3幹部のヴィオスだ!こんな小僧にやられるわけがない!」

「それが驕りだということに気付かないとは、上位に立っても無能ということか。」

 怒号を上げたところで背後から声をかけられ、ヴィオスが眼を見開く。利矢が彼に冷徹な眼差しを向けてきていた。

「速水利矢・・お前、いつの間に・・・ブリットたちはどうした!?

「あの2人を相手にするには時間がかかるからな。まかせてもらった。」

 問い詰めるヴィオスに、利矢が淡々と答える。それを聞いて、ヴィオスが憤りを募らせる。

「これ以上お前たちにコケにされてたまるか!このヴィオスの力、存分に味わわせてくれる!」

 叫ぶヴィオスの体から炎が吹き荒れる。その紅蓮に、光輝と利矢がとっさに身構える。

「オレの炎は地獄の業火!お前たちを骨も残さずに焼き尽くしてくれる!」

 ヴィオスが光輝と利矢に向けて炎を解き放つ。その炎に囲まれて、2人が苦悶の表情を浮かべる。

「ぐっ・・・!」

「何という炎だ・・こんな隠し玉を持っていたとは・・・!」

 何とか炎を振り払おうとする光輝と利矢。だが手で払おうとするほど、炎は2人を取り巻いていく。

「ムダだ!オレの炎はお前たちを灰にするまで消えはしない!」

 哄笑を上げるヴィオス。利矢がそんなヴィオスに鋭い視線を向ける。

「お前などに、オレの行く手を阻めると思うな!」

 利矢が言い放つと、漆黒のオーラを操り、床から刃を突き出す。だがそれを見抜いていたヴィオスにかわされる。

「何度もそんな手を食うか!」

 高らかに言い放つヴィオス。だが天井からも利矢の刃が突き出してきていた。

「小賢しいマネを!」

 毒づくヴィオスが身を翻し、その刃も回避する。

(僕は負けられない!奈美ちゃんが、みんなが待ってるんだから!)

「シャイニングエナジー!」

 決意を強める光輝が光のエネルギーを放出する。そのまばゆい光が、彼らを取り囲む炎を吹き飛ばす。

「バカな!?オレの炎が、こうも容易くかき消されるなど!」

 驚愕の声を上げるヴィオス。その隙を、利矢の漆黒の刃が突いた。

「ぐおっ!」

 全身を貫かれて、ヴィオスが吐血する。倒れた彼から鮮血があふれ、床に広がる。

「余計なマネをしてくれる・・このようなヤツ、オレ1人で十分だった。」

「そんなことを言っている場合じゃない!僕たちは急いで脱出しなくちゃならないんだぞ!」

 苛立つ利矢に反論する光輝。利矢はその言葉に素直に従わず、ヴィオスを見据える。

「オレ1人で十分と言っている。お前は引っ込んでいろ!」

 利矢は光輝に言い放つと、ヴィオスに近づく。その手には漆黒の刃が握られていた。

「オレは光輝のように甘くはない!」

 利矢は言い放つと、刃を振り下ろす。刃がヴィオスの体に突き刺さり、その息の根を止めた。

 そこへ光輝を追ってきたブリットとオーリスが駆けつけてきた。2人は事切れたヴィオスを目の当たりにして、2人は驚愕を覚える。

「ヴィオス・・・お前がやられるとは・・・!?

「まさか、私たち3幹部が脅かされるとは・・・!?

 ヴィオスの死に直面して、ブリットとオーリスが怒りをあらわにする。

「許さん・・許さんぞ、貴様ら!」

 ブリットが叫び、全身から稲妻を放出する。その電撃が集束し、光輝と利矢を狙って飛んでいく。

「危ない!」

 身構えた利矢に、光輝が飛びついてきた。その弾みで利矢が倒される。

 標的を外れた稲妻が壁に直撃し、さらにその場の天井や床も破壊して崩落を引き起こす。

「離れるのです、ブリット!私たちも巻き込まれますよ!」

 オーリスに呼びかけられて、ブリットが後退する。光輝と利矢は巻き起こる爆発と煙の中へと姿を消した。

「ヴィオス・・・我々も脱出するぞ、オーリス!」

 ヴィオスの死を悔やむブリットが、オーリスとともに脱出を開始した。

 その後、サターンの研究施設は崩壊を引き起こした。研究員の大半は、逃げ切れずに施設と運命をともにした。

 

 サターンの研究施設の崩壊に巻き込まれた光輝は、意識を失っていた。眼を覚ましたとき、彼は自分が無事であることを実感して、驚きを見せる。

「あ、あれ!?・・僕、生きてる・・・!?

「気が付いたようだな。」

 当惑していたところで声をかけられ、光輝が振り向く。そこには利矢が立っていた。

「利矢くん!?・・・君が、僕を助けてくれたの・・・!?

「勘違いするな。お前はオレの標的だ。オレが倒すまでに死なれては困る。それだけだ。」

 問いかける光輝に、利矢は冷淡な態度で答える。そして利矢はそれだけを告げると、そのまま立ち去ろうとする。

「待って、利矢くん!」

 だが光輝が呼び止め、利矢が足を止める。

「僕たちは、分かり合うことができないのか・・同じ正義を大切に思う人間同士、絶対に分かり合えるはずだ!」

「それはお前の勝手な考えだ。オレは正義を敵視している。その正義の象徴であるお前を倒すことで、オレは安らぎのある世界に足を踏み込める。」

 光輝が切実に呼びかけるが、利矢は冷徹に返すだけだった。

「今回は引き下がるが、次こそは必ずお前を倒す。それまでに首を洗っておくことだ。」

 利矢はそう告げると、改めて光輝の前から立ち去っていった。

「利矢くん・・・」

 利矢が気がかりになるも追うことができず、光輝は戸惑いを見せるばかりだった。

「そうだ。僕も帰らないと・・奈美ちゃん、きっと怒ってるだろうなぁ・・」

 光輝が奈美のことを思い出し、不安を覚える。彼もまた、そそくさにその場を後にした。

 

 光輝を探し回り、奈美はひたすら道を駆け回っていた。しかしそれでも光輝を見つけることができず、奈美は途方に暮れていた。

「光輝・・本当にどこに行ったっていうのよ・・」

 思わず愚痴をこぼす奈美。彼女はいつしか神崎家に戻ってきていた。

 しかしそこにも光輝の姿はなかった。

 希望が失われたと痛感し、奈美は玄関の前で座り込む。自分で抑え付けてきた感情があふれ、彼女は涙を浮かべていた。

「光輝・・・そういえば、あのときも、アンタが見つけてくれたんだよね・・・」

 奈美は昔の出来事を思い返していた。それは彼女が着けているリボンに関係していることでもあった。

 奈美はかつて親とケンカして家を飛び出したことがあった。家族が総出で探したがなかなか見つからなかったが、光輝が奈美を見つけたのだった。

 光輝は奈美のつけていたリボンが目印になったと言った。そのリボンの大切さが、奈美にはとても嬉しいことだった。

「このリボンが、光輝を、私のところに導いてくれたんだよね・・・光輝・・・」

 微笑んで囁きかける奈美。彼女が気持ちを引き締めて、改めて光輝を探そうと立ち上がり、振り返った。

 そこに光輝の姿があった。奈美はその彼が幻ではないかと思ってしまった。

「まさか・・・いたっ!」

 奈美は夢であることを確かめようと、自分の頬をつねった。だが眼の前にいる光輝が幻ではなかった。

「奈美ちゃん・・・ゴメン・・こんな時間に帰ってきて・・・」

「光輝・・・」

 光輝が苦笑いを浮かべて声をかけると、奈美が戸惑いを浮かべる。

「光輝・・何やってたのよ、アンタ!・・私がどれだけ探し回ったと思ってるのよ!」

「うわぁっ!ゴ、ゴメン!ゴメンなさい!急いで帰らないととは思ってたけど・・!」

「アンタはいつもそう!正義のためならどこまでも行っちゃうんだから!」

「ホントにゴメン!奈美ちゃんに迷惑かけて・・・!」

 叱責する奈美にひたすら謝る光輝。

 そのとき、光輝が突然その場に倒れた。サターンとの激闘での疲労で、彼は意識を保てなくなった。

「光輝!?

 突然のことに奈美が声を荒げ、光輝に駆け寄る。

「光輝!しっかりして、光輝!」

 奈美に呼びかけられる光輝。彼は翌日の昼間まで、眠り続けることとなった。

 

 サターン研究施設の崩落。ヴィオスの死。ブリットとオーリスは、この事態に深刻さを痛感していた。

「まさか、我々サターンがこれほどまでの被害を被ることになるとは・・・」

「私としても、とても楽観視できない状況ではないです・・すぐに体勢の立て直しを行わなくては・・」

 ブリットとオーリスが歯がゆさを噛み締めながら呟きかける。

「これ以上、吉川光輝と速水利矢を野放しにしてはならない。我々の侵略の大きな障害となる。」

「ですが、速水利矢は隙を見せることはないでしょう。策略を付け込むのでしたら・・」

 オーリスが言いかけると、ブリットは小さく頷いた。

「吉川光輝に関するデータを細大漏らさず収集する。身体能力だけでなく、家族、性格、ありとあらゆる全てを入手する。」

 ブリットとオーリスが光輝に対する本格的な攻撃を開始しようとしていた。

(急がなければ、メシアに失態をさらすことになる・・・!)

 ブリットは危機感を募らせていた。彼はメシアの登場を、心の奥底で予感していた。

 

 壮絶な戦いから一夜が明けた。ベットで眠り続けている光輝を、奈美はずっと見守っていた。

 その朝、奈美の携帯電話が鳴り出した。彼女が慌しく電話に出る。

“もしもし、奈美?光輝、見つかった?”

「麻子・・うん。やっと帰ってきた・・」

“そう・・ホントにしょうがないわね、あのヒーローマニアは。”

「私も同意見・・でも、無事で何よりよ・・」

 麻子が呆れて、奈美も苦笑いをこぼす。

「それじゃ、私は光輝を診てるね・・本当にありがとうね、麻子・・」

“いいよ、気にしなくて。私と奈美の仲じゃない・・それじゃまたね。”

 麻子との電話を終えると、奈美は光輝に視線を戻した。

(光輝、今度こそ話を聞かせてもらうからね・・・)

 奈美は光輝に対して、強い決心を抱いていた。

 

 

次回予告

 

サターンとの激闘を終え、家に戻ってきた光輝。

問い詰めてくる奈美だが、光輝は答えることをためらう。

そこへ現れるサターンの刺客。

奈美に迫る脅威を、光輝は打ち破ることができるのか?

 

次回・「暴露」

 

 

作品集

 

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