ガルヴォルスMessiah 第7話「潜入」

 

 

 光輝打倒のため、行動を行っていた利矢。森の中にある岩場に差し掛かったところで、彼はふと足を止めた。

「僕を監視しているのは分かっているぞ。姿を現したらどうだ?」

 利矢が声をかけると、前後からそれぞれ男女が姿を現した。ヴィオスとオーリスである。

「私たちの後をつけて、何をしようとしているのですか?」

「お前の報告は聞いている。速水利矢。お前もガルヴォルスだったな?」

 オーリスが淡々と、ヴィオスが不敵な笑みを浮かべて言いかける。

「あなたの力も相当のものです。いかがでしょう?我々と行動をともにしてみては?」

「お前はこの世界の法や正義に疑念を持っている。オレたちと手を組まない理由はないはずだ。」

 オーリスとヴィオスの言葉に、利矢が思考を巡らせる。

「よろしければ、私たちの研究施設に案内いたしますよ。」

「・・・いいだろう。その場所に案内してもらえるか?」

 オーリスが声をかけると、利矢がその誘いに乗ってきた。

「付いて来い。ともに世界を塗り替えよう。」

 ヴィオスが不敵な笑みを見せる。利矢はオーリス、ヴィオスの後をつけて、サターンの研究施設に向かうこととなった。

 

 部活を終えて帰宅した奈美。彼女は家の中に光輝がいないことに気付くも、寄り道しているのではないかと思い、捜索しなかった。

 部活でかいた汗を流そうと、奈美はバスルームに入った。一糸まとわぬ彼女の肌に、暖かいシャワーが降り注ぐ。

 だが、奈美の表情には陰りがあった。光輝が全く心配していないわけではなかった。

(光輝、最近何かおかしい・・もしかして、とんでもないことに巻き込まれてるんじゃないの・・・)

 奈美の脳裏に、光輝の顔が浮かび上がってくる。

(アイツは正義感が強くて、曲がったことが嫌い・・強いわけでもないのに、弱いものいじめを見ると黙っていられず、すぐに止めに入ろうとする・・私が通りがかって助かったことも多い・・・)

 光輝の正義感に呆れる奈美。彼女はシャワーを止めると、再びうつむきかける。

(今まではちょっとやそっとだったからそんなに追求しなかったけど、今回ばかりは違う・・ホントに話を聞かないと・・)

 意を決した奈美はバスルームから出る。休息を取った後、彼女は服を着て、光輝の捜索に乗り出した。

 

 サターンに拉致され、カプセルの中に閉じ込められた光輝。脱出を試みようとするが、カプセルに設置された脱出防止の装置に阻まれていた。

「ここまで抵抗が続くと、往生際が悪いとしか思えんな。返って見苦しい・・」

「何度も言っている・・お前たちの思い通りにはならないと!」

 あざ笑うブリットに、光輝はさらに抗議する。

「もう足掻くな。お前は我々の僕になるしかない。仮に今のこの状況を打破できたとしても、我らサターンの力の前では、お前であろうと無力に等しい・・」

「そんなすごいのか、お前たちは!?・・お前たち以上のヤツがいるのか・・・!?

「それは愚問だ。我らサターンを束ねるお方、メシアは、我らですらはるかに凌駕する。お前などでは手に届かない存在なのだ。」

 高らかに告げるブリットの言葉に、光輝は緊迫を覚える。

「今はまだ表立った動きは見せていないが、我々サターンは強大な力を持つ者たちの集まりだ。その頂点に立たれるメシアは、他のメンバーをさらに上回る、絶対的な存在なのだ。」

「たとえ誰だろうと、世界を支配するなんて許されるものか!」

「それがメシアには許される。なぜならメシアだから。それだけの力をお持ちだから!」

 落ち着きを振り払い、哄笑を上げるブリット。光輝は反論する言葉が見つからず、押し黙ってしまう。

「この場で我らの洗礼を受けられる。それこそ至福の喜びといえるものだ。」

 次第に興奮を膨らませていくブリット。そこへ足音が響き渡り、ブリットが笑みを消して冷静さを取り戻す。

 姿を現したのは、オーリス、ヴィオスに招かれた利矢だった。

「利矢、くん・・・!?

 利矢の登場に光輝は眼を疑った。利矢が光輝に向けて、冷たい視線を向ける。

「本当に捕まっていたとは・・正義が聞いて呆れるぞ・・」

「利矢くん・・君がどうして・・・!?

「この2人に誘われてな。お言葉に甘えることにしたまでだ。」

 愕然となる光輝に、利矢が冷徹に告げる。

「お前が正義と呼ぶ概念など所詮その程度。すぐに簡単に潰される。」

「そんなことはない!守ろうとする気持ちは、どんな敵にも負けたりはしない!」

「その姿では説得力がない。だが僕はこの世界を塗り替える。偽りの正義などに振り回されることとのない、平穏な世界にしてみせる。」

 必死に呼びかける光輝の言葉をはねつける利矢。そこへオーリスが口を挟んできた。

「お話はそのくらいでお願いします。これから吉川光輝にマインドコントロールをかけたいと思います。」

「待て。光輝はオレの獲物だ。オレが始末する。」

「残念だがそうはいかない。この男はガルヴォルスの中でも高いレベルの持ち主だ。このまま始末してしまうにはもったいない。洗脳し、オレたちの僕になるのだ。」

 利矢が止めに入ると、ヴィオスが不敵な笑みを浮かべる。

「ふざけるな。光輝を倒さなければ、オレはこの先へは進めない。たとえお前たちであろうと、オレの邪魔は・・」

 利矢が言いかけたところで、ヴィオスが彼の首をつかんできた。突然首を締め付けられて、利矢が顔を歪める。

「思い上がるな。お前も吉川光輝と同じく高いレベルのガルヴォルスであるが、オレたちに敵うほどではない。身の程知らずの態度は、そんな優遇も通らなくなるぞ・・・!」

 鋭く言い放つヴィオス。しばらくつかんだところで、ヴィオスは利矢を放す。

「そのくらいにしておけ、ヴィオス。せっかくの逸材を壊すことになるぞ。」

「心配するな、ブリット。殺してはいけないことは分かっている。ただ、身の程知らずも困ると思ったからな・・」

 ブリットが口を挟むと、ヴィオスは笑みをこぼして答える。

「速水利矢、お前は別命あるまで別室にて待機だ。気持ちを落ち着けるのだ。」

 ブリットが言いかけると、利矢はオーリスとヴィオスに連れられてこの場を後にした。

「準備が済み次第、お前にマインドコントロールをかけるぞ、吉川光輝。それまで後悔を消しておくことだな・・」

 困惑を隠せないままでいる光輝に呼びかけると、ブリットもこの場を後にした。

 

 光輝を探しに外に飛び出した奈美。しかし心当たりのある場所を探し回ったが、彼女は彼を見つけることにはできなかった。

(光輝・・いったいどこに行ったのよ・・こんな遅くまで帰ってこないなんて・・きっと何かあったに違いない・・・)

 一抹の不安を抱えたまま、奈美は捜索を続ける。その最中、彼女は麻子に連絡を入れていた。

“もしもし、奈美?どうしたの?”

「もしもし、麻子!光輝、そっちに行ってない!?

“光輝?来てないけど・・光輝がどうかしたの?”

 疑問を投げかける麻子に、奈美は事情を説明する。すると麻子がおもむろに笑みをこぼした。

“光輝のことだから、きっと悪い人でも追いかけてるんじゃないの?正義のためならどこまでも突っ走っちゃうから・・”

「そうなんだけど・・今回ばかりは何だか不安で・・・」

“奈美も案外心配性ね。いいよ。私の知り合いに連絡して回ってみるから。奈美もあんまりムチャしないで。”

「ありがとう、麻子・・・」

“気にしないで。お友達同士なんだから。奈美との付き合いが長いから。私も理子も。”

 感謝を覚えて笑みをこぼして、奈美は麻子との電話を切る。携帯電話をしまうと、奈美は光輝の捜索を続けた。

 その中で奈美は、昔のことを思い返していた。

 数人の子供たちにいじめられる光輝。その彼を、奈美はいつも助けていた。

 幼い頃から鍛えられていた奈美は、光輝から子供たちを引き離した。ケガをさせてはいけないと押し倒すに留めたが、それでもケガをさせてしまうこともあり、その子供の親から怒られることもあった。

 それでも奈美は自分を曲げなかった。いじめられて泣いている光輝を放っておくことができなかった。

 男なのに情けない光輝に呆れながらも、奈美はいつも守っていた。同時に彼に、勇気を持って強くなってほしいと願っていた。

 その願いが叶ったのか、光輝は心身ともに強くなり、怖がらずに立ち向かっていくようになった。だが正義感も人一倍となり、なりふり構わず飛び出していってしまうことも多くなってしまった。

(光輝らしいというか何というか・・だからこそ余計に放っておけないのよね・・)

 思わず物悲しい笑みを浮かべる奈美。光輝を見つけられることを信じて、彼女はさらに走り続けた。

(見つけたら思いっきり説教してやるんだから・・・)

 

 カプセルから何とか脱出しようと試みる光輝。だがカプセルは固く、さらにガルヴォルスの力も封じられているため、抜け出ることができないでいた。

「何とかしないと・・このままでは利矢くんが・・みんなが・・・!」

「そこまでオレの心配をするとは、おめでたいことだな・・」

 自分に言い聞かせる光輝の前に、利矢が姿を現した。

「利矢くん・・・!」

「なぜオレにこだわる?オレはお前が信じ切っている正義を敵視している。お前がどれほど正義を貫こうと、オレに届くことはない。」

 当惑を見せる光輝に、利矢が冷徹に告げる。

「だが、今のオレの目的は、光輝、お前をこの手で倒すこと。他の誰にも邪魔はさせない・・」

 利矢の頬に紋様が走る。ガルヴォルスに変身しようとしていた。

「たとえサターンであろうとも!」

 いきり立った利矢がダークガルヴォルスに変貌を遂げる。彼はすぐさま黒いオーラを刃に変えて、研究室のコンピューターに突き立てる。

 突然の破壊行為に、研究員たちが畏怖して逃げ出す。コンピューターの破壊により、カプセルに備わっている逃走防止システムが機能を失う。

 そしてカプセルも割れて、光輝はようやく解放された。

「利矢くん!?・・どうして僕を・・・!?

「勘違いするな。言ったはずだ。オレの目的は、自らの手でお前を倒すことだと。」

 眼を見開く光輝に、利矢が鋭く言い放つ。この騒動を聞きつけて、ヴィオスが研究室に駆け込んできた。

「これは!?・・・貴様、何をしているのだ!?

 ヴィオスが怒り、ガルヴォルスとなっている利矢に問い詰める。利矢は冷徹な態度を変えずに、ヴィオスに振り返る。

「光輝はオレの獲物だ。あの程度のことで、オレが考えを変えると思っていたのか?」

「貴様・・・オレたちサターンに敵対しようというのか!?

「敵?味方になったなどとは、一言も言った覚えはないが?それにオレの敵は世界だ。お前たちが世界の正義に取って代わろうとするなら、お前たちもオレの敵となる。」

 ヴィオスの言葉をあざける利矢。敵意をむき出しにしたヴィオスがフレイムガルヴォルスに変身し、利矢に飛びかかる。

「お前ではオレを止めることはできない!」

 利矢が言い放つと、彼の前方から漆黒の刃が飛び出す。気付いたヴィオスが踏みとどまり、その刃をかわす。

 だが利矢はヴィオスの懐に飛び込んでいた。漆黒のオーラを発する利矢が衝撃波を放ち、ヴィオスを突き飛ばす。

「ぐっ!・・これほどの力を秘めているとは・・・!」

「お前たち、光輝と戦ったときは3人がかりだったな。もしかして、3人寄ってたからなければ戦えないのか?」

 うめくヴィオスを利矢があざける。その態度にヴィオスが苛立ちを覚える。

「ふざけるな!オレはサターン3幹部の1人、ヴィオス!オレを弄べるのは、メシア以外にいない!」

「その驕りが、お前が俺に勝てない理由だ。」

 叫ぶヴィオスに告げると、利矢が再び衝撃波を放つ。だがその衝撃波が、飛び込んできた稲妻に阻まれて相殺される。

「1人で下手に突っかかっていくな、ヴィオス。お前の悪い癖だぞ。」

 そこへブリットがサンダーガルヴォルスとしての姿を現した。つづいてオーリスもウォーターガルヴォルスとなって現れる。

「やはり3人がかりでなければ相手にできないか。見下げ果てたことだな。」

「生憎だが、我々はお前から見れば悪人だろう?ならば我々が正々堂々と相手にするとは思っていないのだろう?」

「見込みがあると思っていたのですが、どうやら見立て違いだったようですね・・」

 冷徹に告げる利矢に、ブリットとオーリスも鋭く言いかける。サターン3幹部が利矢を取り囲み、迫ろうとしていた。

「オレは光輝のようにはいかない。オレはこの世界に、本当の正義をもたらす・・・!」

 利矢が言い放つと、漆黒のオーラを刃に変えて突き出す。ブリットたちが飛び上がり、その刃をかわす。

「似た言葉を変えそう。同じ攻撃が何度も通じると思うな!」

 ブリットが眼を見開いて言い放ち、稲妻を放出する。利矢の刃と稲妻が衝突し、相殺して破裂する。

 その直後、利矢は全身にオーラをまとう。突如降り注いだ冷気を、彼はオーラを噴出させることで吹き飛ばした。

「言ったはずだ。オレは光輝のようにはいかないと。」

 利矢がオーリスに鋭い視線を向ける。彼は彼女が凍結を仕掛けてきたことに気付いていた。

 そこへヴィオスが飛びかかり、炎を帯びた拳を利矢に叩き込んできた。奇襲を受けた利矢が、その打撃を受けてうめく。

「よくもやってくれたな!だが今までの威勢もこれまでだ!」

 ヴィオスが叫ぶと、利矢を思い切り蹴り上げる。跳ね上げられた利矢に向けて、ブリットが稲妻を放つ。

 その直撃を受けて、利矢が声にならない悲鳴を上げる。体に電気を帯びたまま、利矢が床に落下する。

「さっき言ったな?3人寄ってたからなければ戦えないと・・それがどうした!?

 近づいてきたヴィオスが言い放つと、倒れている利矢を踏みつける。重みのある踏み付けを受けて、利矢が絶叫を上げる。

「どうした!?反撃してみせろ!それとももう体力が尽きたか!?

 ヴィオスが叫ぶが、利矢は痛みに顔を歪めてうめくばかりだった。

「もう容赦しないぞ。ここまで刃向かったお前を、2度と仲間とは思わん・・・!」

 ヴィオスが利矢から足を離し、とどめを刺そうとする。彼の腕に紅い炎が灯る。

「これで終わりだ、速水利矢!」

 ヴィオスが利矢に向けて拳を振り下ろそうとした。

 そのとき、ヴィオスが顔面に衝撃を受けて、突き飛ばされる。不意を突かれた彼が痛みに顔を歪める。

 その眼の前には、シャインガルヴォルスに変身した光輝がいた。利矢を助けるため、彼も戦いに身を投じたのだった。

「吉川光輝!」

「お前たちの好きにはさせないぞ、サターン!」

 苛立つヴィオスに向けて、光輝が言い放つ。痛みに耐えながら、利矢がゆっくりと立ち上がる。

「お前・・なぜオレを助ける!?・・オレはお前の敵だぞ・・・!」

「それでも、傷ついている人を守る・・それが僕の正義だから・・・!」

 問い詰める利矢に答えて、光輝が力を振り絞る。彼らのサターンに対する攻撃が再開されようとしていた。

 

 

次回予告

 

2人の青年とサターン3幹部との激闘。

正義と悪の衝突の中、脱出と奮闘を続ける光輝と利矢。

そして、2人の信念は、やがてさらなる衝突を巻き起こす。

その戦いの果てに待つものとは・・・?

 

次回・「激突」

 

 

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