ガルヴォルスMessiah 第6話「強襲」
光輝に続き、ダークガルヴォルス、利矢の登場。ブリット、オーリス、ヴィオスは、2人に対してついに警戒心を強めつつあった。
「高いレベルのガルヴォルスが2人も登場するとは・・」
「今はまだ拮抗状態にありますが、手を組まれでもしたら私たちにも脅威であるといえるでしょう。」
ヴィオス、オーリスが2人に対する妙案を講じていた。
「ならばうち1人を押さえればいいだけのことだ。」
そこへブリットが声をかけると、ヴィオスとオーリスが小さく頷く。
「そろそろ我々も、本腰を入れて戦いに臨む必要があるということだ。」
「オレたち3人が力を合わせれば、強力なガルヴォルスであろうと太刀打ちできん。」
「私たちは人間を超えた存在。そして世界を塗り替える存在でもあります。」
ブリット、ヴィオス、オーリスが淡々と言いかけると、野心を込めた不敵な笑みを浮かべる。3幹部の猛威が、光輝に迫ろうとしていた。
奈美、麻子が退院してからの翌日。先日までの出来事がまるでなかったかのように、光輝はTVヒーローに夢中になっていた。
「相変わらずなんだから、光輝は。いい加減卒業できないの?」
「ヒーローを見ていて何が悪い!ヒーローは人の見本なのである!それは子供に対して語りかけているに留まらない!」
呆れる奈美に、光輝は熱烈に語りかける。彼女に全く受け入れてもらえていないことに気付かないまま。
「今日は私、部活があるから。ちゃんと寄り道しないで、1人で帰るのよ、光輝。」
「はーい。心配は要りません。」
奈美が言いかけると、光輝は気のない返事をした。
(1人か・・・)
1人で帰宅することとなり、光輝は胸中で当惑を覚えていた。
その放課後、光輝は1人で下校することとなった。その帰路の中で、彼は利矢と零夜のことを思い返していた。
未だに非情の正義を振りかざしている父、零夜。その非情さに心身ともに傷つき、正義に対して憎悪を抱いている利矢。
正義という概念から悲劇が生まれていることに、光輝は心苦しさを感じていた。
(どうしてこんなことになるんだ・・正義は、みんなを守るために、みんなを幸せにするためにあるんじゃないの・・・?)
歯がゆさを抱えたまま、1人歩く光輝。彼は家の近くの通りに差し掛かろうとしていた。
「1人で威風堂々と歩いているとは、ずい分と無用心ですね。」
そのとき、突如声をかけられて、光輝は足を止める。彼の背後に青い髪の女性が立っていた。
「それとも、オレたちなんか警戒する必要もないということか。それもそれでなめられた気分がしてよくない。」
さらに赤い髪の男も現れて、光輝に声をかける。
「誰ですか、あなたたち?僕に何の用ですか?」
「お互い騒ぎになっては困りますから、場所を変えましょうか。」
「ここでは話ができないんですか?」
「もしも賛同できないのでしたら、周囲にいる人間を襲っても構わないのですよ?」
女性のこの言葉に、光輝が息を呑む。彼はこの2人がガルヴォルスであることを察した。
「仕方がない・・誰もいないところにしてもらいたい・・」
「心配はいらん。その点はお前の希望に添ってやる。」
光輝が言いかけると、男が不敵な笑みを浮かべて答えた。
同じ頃、奈美は空手部の練習のために、更衣室での着替えをしていた。そこで彼女は、普段からつけているリボンを外していた。
その赤いリボンは、幼い頃に光輝からもらったものである。昔から男勝りだった奈美に、女の子らしくしたほうがいいと、光輝がそのリボンを頭につけてくれた。
奈美はその出来事とリボンを大切にしていた。それ以来彼女は、運動と入浴以外は常にそのリボンをつけているようにしていた。
レストランで仕事をしていた日は、ボディーガードのつもりでいたため、リボンは外していた。そのため、スライムガルヴォルスに襲われたとき、リボンを溶かされずに済んだのである。
「女の子らしく、か・・光輝らしい言葉というか何というか・・・」
物思いにふけって、奈美が思わず笑みをこぼす。彼女も光輝のことを気にかけていた。
「神崎さーん、そろそろ時間ですよー。」
「あ、うん、すぐ行く。」
そこへ後輩からの声がかかり、奈美が答える。彼女はリボンをロッカーにしまって鍵をかけ、更衣室を出た。
光輝と男女が訪れたのは、人気のない草原だった。そこにはもう1人、金髪の男が待っていた。
「来たようだな、吉川光輝。」
「お前たちは何者だ!?僕が戦ってきた怪人たちの仲間か!?」
不敵な笑みを浮かべる男に、光輝が問いかける。
「仲間・・正確には部下と言ってもらいたいですね。」
女性が半ば呆れながら言いかける。
「自己紹介しておこう。私はサターン3幹部の1人、ブリット。」
「同じくヴィオスだ。」
「同じくオーリスです。よろしく。」
光輝に向けて、ブリット、ヴィオス、オーリスが自己紹介をする。
「サターン・・幹部・・・幹部が自ら出てくるなんて・・・!」
3幹部の登場に、光輝はかつてない危機感と緊迫を覚える。
「吉川光輝、お前の潜在能力はすばらしい。我ら3幹部を舞台に上がらせたほどとは・・」
「そこで、あなたには是非、我々とともに働いてほしいのです。あなたほどの力の持ち主を葬ってしまうのは惜しいですから・・」
「ガルヴォルスとしての力を存分に振るえる。楽しいとは思わないか?」
ブリット、オーリス、ヴィオスが光輝にサターンに入るように誘う。だが光輝の心は決まっていた。
「思わない。僕はお前たちの悪巧みに加わるつもりはない。」
光輝のこの言葉に、ブリットたちが笑みを消す。
「確かに僕もお前たちと同じ怪人だ。それでも僕は人間だと思っている。その人間を滅ぼそうとしているお前たちの誘いに、僕は乗らない!」
「・・・どうやら相当ガンコな考えをしているようですね・・」
自分の考えを率直に言い放つ光輝に、オーリスが呆れてため息をつく。
「交渉決裂か・・では実力行使しかないな!」
いきり立ったヴィオスの頬に異様な紋様が浮かび上がる。戦意をあらわにしたブリットとオーリスの頬にも、紋様が走る。
「力ずくでも思い通りにする・・悪の組織のパターンだよ!」
言いかける光輝もガルヴォルスへの変身を行おうとする。
「変身!」
光輝が叫ぶと同時に、シャインガルヴォルスに変身する。同時にブリットたちもガルヴォルスへと変化する。
サンダーガルヴォルスのブリット、ウォーターガルヴォルスのオーリス、フレイムガルヴォルスのヴィオス。
3人の強大なガルヴォルスが、光輝に迫ろうとしていた。
「覚悟を決めろ、吉川光輝。もはやお前たちには、服従と死、いずれかしか選択肢はない。」
ブリットが言い放つが、光輝は怖気づくどころか、おもむろに笑みを浮かべてきていた。
「選択肢はそれだけじゃない。僕たちが生き残る、という選択肢も残っている!」
光輝は言い放つと、ブリットに向かって飛びかかっていく。光輝が繰り出した拳を、ブリットは軽い身のこなしでかわしていく。
「確かにいい動きだ。並みのガルヴォルスなら、かわしきれずに決定打を受けるところだろう・・だが!」
ブリットは言いかけながら、光輝が振りかざした蹴りを叩き落とす。
「なっ!?」
「上には上がいることを忘れるな・・・!」
声を荒げる光輝の頭をつかみ、ブリットが地面に叩きつける。強烈な攻撃に光輝がたまらずうめく。
「おいおい、独り占めは困るぜ、ブリット!」
そこへヴィオスが飛びかかり、ブリットが光輝を投げつける。ヴィオスがその光輝を、拳で力強く跳ね上げる。
「次は私の番ですよ。除け者にしないでください。」
オーリスが言いかけると、ヴィオスが落下してきた光輝を殴りつける。激しく横転する光輝を、オーリスが両手で受け止める。
「寝るにはまだ早すぎます。ガルヴォルスとなった私は、人間の姿でいるときほど優しくありませんよ・・・!」
オーリスは鋭く言い放つと、光輝の顔を叩く。さらに彼女は彼の体に殴打を繰り出し、一蹴で突き飛ばす。
「おやすみの時間にはまだ早いですよ。」
「ガルヴォルスとしてのあなたの力、見せていただこう。」
「でなければ面白くないというものだ。」
オーリスに続いて、ブリット、ヴィオスが光輝に言い放つ。傷ついた体に鞭を入れて、光輝はゆっくりと立ち上がる。
「これだけすごい力を持ってるなんて・・だけれど、オレはここで負けるわけにはいかないんだ!」
「その気迫と勇気には敬服する。見せるがいい。貴様の持てる力の全てを!」
言い放つ光輝に、ブリットが眼を見開く。光輝はブリットに飛びかかり、打撃を繰り出す。今度は相手の動きを見逃さないように警戒心を強め、的確に攻撃を当てようとしていた。
その一撃が、ついにブリットの体に叩き込まれた。
「くっ!」
ブリットが思わずうめく。光輝は決定打を与えようと、右の拳に力を宿す。
そこへヴィオスが飛びかかり、それに気付いた光輝がその拳を繰り出す。
「シャイニングナックル!」
光の拳がヴィオスの体に叩き込まれる。その打撃に突き飛ばされたヴィオスが、激痛を覚えて吐血する。
「ヴィオス!」
声を荒げるオーリス。踏みとどまったヴィオスだが、完全に痛みをこらえることはできなかった。
「今のは効いたぞ・・こんな攻撃を食らったのは久しぶりだ・・・!」
ヴィオスが笑みをこぼして、光輝に眼を向ける。
「我々が思っていた以上の力のようだ・・そろそろ本気で相手をしたほうがよさそうだ。」
ブリットも笑みを浮かべると、全身に力を込める。すると彼の体から金色の電撃がほとばしってきた。
「雷・・・!?」
「そうだ。私は電撃を操る。その気になれば雷をも匹敵する電撃を放つこともできる。」
息を呑む光輝に、ブリットが眼を見開いて電撃を放つ。飛び上がって回避しようとする光輝だが、地を這うように迫ってきた電撃が上空に跳ね上がり、光輝に直撃する。
「ぐあっ!」
稲妻の衝撃に弾かれて、光輝が声を上げて落下する。体に痺れを覚えて、彼はなかなか立ち上がることができない。
「ほう?ブリットの電撃を受けて立ち上がれるとは、本当に大したヤツだ。」
そこへヴィオスが光輝の前に立ちはだかる。ヴィオスの体から赤い炎が巻き起こり、光輝に降りかかる。
熱さと痛みを覚えて、光輝がたまらず後退する。しかし炎は光輝に取り巻き、容赦なく焼き尽くしていく。
「シャイニングエナジー!」
光輝が全身から閃光を解き放つ。閃光は迫ってくる炎を吹き飛ばし、ヴィオスの体を蝕む。
「ぐおっ!・・こんな技もあったか・・迂闊に攻めるのは危ないな。」
うめくヴィオスがすぐに笑みを浮かべる。光輝は強大なガルヴォルスに危機感を覚えていた。
(とんでもない相手だ・・このまま戦っていても、やられるだけだ・・・ここは一気に決めるしかない・・体力の消耗なんて、考えている場合じゃない・・・!)
思い立った光輝が意識を集中する。彼の右足に光が宿り、徐々に強まっていく。
「行くぞ!必殺!シャイニングシュート!」
光輝は高らかに叫ぶと、大きく飛び上がる。構えるヴィオスに向けて、光輝が降下しながら蹴りを繰り出す。
「つくづく甘いですね・・」
次の瞬間、光輝が突如氷塊の中に閉じ込められた。強烈な冷気が、彼を胃シュンにして凍りつかせたのだ。
オーリスの仕業だった。彼女の放った冷気が光輝を凍てつかせたのである。
「横槍されたのは気に食わないが、これでこの小僧も終わりだ。」
「そうですね。私の氷は強力です。私たちほどの力の持ち主でなければ、私の氷を打ち破ることは不可能でしょう。」
ヴィオスが言いかけると、オーリスは落ち着きを払いながら、光輝を閉じ込めた氷塊に手を当てる。光輝は凍りついたまま、微動だにしない。
「施設に運んで洗脳し、我々サターンの最強の尖兵ととしてくれるぞ。」
ブリットが光輝を見据えて、不敵な笑みを浮かべる。ヴィオスが光輝を閉じ込めた氷塊を持ち上げる。
「注意しておいてください。落として壊れることはないですが、意識を取り戻さないとはいえませんから・・」
「お前にしては弱気なセリフだな、オーリス。お前の氷の呪縛は完璧のはずだろう。」
言いかけるオーリスに、ヴィオスが憮然とした態度を見せる。
「油断や慢心は寿命を縮めることになります。私は油断したくない。それだけです。」
「そうだな・・完全に掌握するまで油断はするな。これまで我らのガルヴォルスをことごとく始末してきた男だ。最後まで気を抜くな。」
ブリットが言いかけると、オーリスとヴィオスが頷く。氷付けにされたまま、光輝はサターンに連れて行かれてしまった。
その顛末の一部始終を見ていた人物がいた。利矢だった。
(サターン・・所謂悪の組織というものか・・・)
去っていくブリットたちを見据えて、利矢が思考を巡らせる。
(今の僕は、正義など信じない・・その正義の象徴を、僕は光輝だと思っている・・・)
戦意を膨らませる利矢が、拳を強く握り締める。
(このままサターンに落ちても構わないが、僕の手で始末しなければ、僕の未来は切り開かれない・・・!)
抱えている戦意を募らせていく利矢も、この場から歩き出していった。彼は偽りの正義の破壊を、光輝打倒と重ねていた。
暗闇に包まれた部屋。その中央で光輝は眼を覚ました。だが両手を錠で拘束されており、思うように動けなくなっていた。
「ここは・・・あてっ!」
自分の居場所を確かめようとした光輝が、壁のようなものに当たってうめく。手を縛られているため、彼は痛めた頭に手を当てることができずにいた。
「壁・・じゃない・・ガラス・・・?」
光輝が呟きかけたところで、突如部屋に明かりが灯った。その周囲は機械とモニター画面が点在しており、光輝は筒状のガラスの牢獄に閉じ込められていた。
「眼が覚めたようだな、吉川光輝・・」
そこへ声がかかり、光輝が身構える。ブリットが姿を現し、光輝を見据えていた。
「ブリット・・・ここはどこだ・・!?」
「ここはサターンの研究施設だ。ここでサターンに属するガルヴォルスの研究や改造を行うのだ。」
光輝が問いかけると、ブリットは淡々と語りかける。
「吉川光輝、お前は我々サターンにとって貴重な逸材。それを容易く始末してしまうのは惜しい。」
「何度も誘ってもムダだ!僕はお前たちの思い通りにはならない!」
「そういうと思っていた。お前は正義感が強く、それが起因した頑固者でもあるからな。だがお前は、我々の尖兵となる以外に道はない。」
頑なに拒否する光輝だが、ブリットは笑みを消さない。
「吉川光輝、お前の精神を破壊させてもらう。洗脳し支配すれば、お前の力を我々のものとすることができる。」
「何っ!?冗談じゃない!お前の思い通りになってたまるか!」
ブリットの言葉に抗議すると、光輝がガルヴォルスに変身しようとする。だがカプセルに電撃がほとばしり、光輝の変身を阻む。
「ムダだ。そこはガルヴォルスのエネルギーに反応して、攻撃を行う。ガルヴォルスに変身して脱出することはできない。」
「そんな・・・!?」
「諦めろ。もはやお前は、サターンでの戦いの日々以外の人生はない・・」
不敵な笑みを浮かべるブリットに、光輝は戦慄を覚えていた。
次回予告
サターン3幹部に敗れ、囚われの身となってしまった光輝。
自由を奪われた彼に、ブリットたちの魔手が迫る。
そのとき、サターンの研究施設に現れた破壊者。
光輝、利矢、サターン。
運命の糸がさらに絡み付いていく。