ガルヴォルスMessiah 第5話「正義」

 

 

 警察に向けて漆黒の刃を振りかざす利矢。それを見かねた光輝は、ついにシャインガルヴォルスへ変身した。

「やめるんだ、利矢くん!人殺しをしてはいけない!」

「邪魔をするな!そこにいるのは人間ではない!人の皮を被った悪魔だ!」

 止めに入る光輝だが、利矢は反発するばかりだった。

「オレは偽物の正義を認めない!心のない冷たい正義など、オレが壊してやる!」

「だからって殺すことはない!そんなのでも正義とはいえないじゃないか!」

「誰だろうと邪魔は許さない!光輝、たとえお前であっても!」

 いきり立った利矢が、ついに光輝に攻撃を仕掛けてきた。身構えた光輝が光を帯びながら、跳躍して漆黒の刃をかわす。

「オレは偽りの正義を壊す!邪魔をする者も、容赦なく潰す!」

「やめてくれ、利矢くん!君はこんなことをする人じゃないはずだ!」

 突っ込んできた利矢の拳を、光輝が受け止める。白と黒の稲妻が入り混じり、激しく火花を散らす。

 そのとき、零夜が銃を撃ち、光輝と利矢が攻撃の手を止める。零夜が2人に鋭い視線を向けていた。

「法は、お前たちのような存在を認めることはできない・・法の下に、お前たちを断罪する!」

「父さん!?

 叫ぶ零夜に光輝が声を荒げる。銃でガルヴォルスを仕留めることは不可能だったが、父が実の子に向けて銃を向けることは、光輝にとって絶望でしかなかった。

(このままじゃ状況が悪くなるばかりだ・・ここは退くしかない・・・!)

「シャイニングエナジー!」

 思い立った光輝が全身から閃光を解き放つ。そのまぶしさに視界を奪われる零夜。利矢も攻撃を出せなくなり、この場を離れるしかなかった。

 光が治まり、零夜が視線を戻したときには、光輝も利矢もいなくなっていた。

「逃がしたか・・・引き続き捜索を続ける。速水利矢に加えて、吉川光輝も。」

 零夜の呼びかけに、生き残った警官たちが行動を起こす。銃をしまった零夜が、ひとつため息をもらす。

「まさか私の血を継ぐ者が、法を侵す怪物に変わり果てるとは・・愚の骨頂だ・・」

 憤りをあらわにする零夜が、拳を強く握り締める。法を脅かす敵を野放しにしてはならない。たとえ自分の友や家族であろうと。それが零夜の考えだった。

 

 閃光を解き放った光輝は、辛くも退くことに成功する。だが彼は利矢と離れ離れになってしまった。

「ここは逃げるだけで精一杯だった・・でもこのままじゃまた、利矢くんが警察を襲うかもしれない・・」

 思考を巡らせた光輝は、周囲への配慮のため、1度人間の姿に戻る。

「父さんたちより先に、利矢くんを見つけ出さないと・・」

 利矢の行方を追うべく、光輝は再び駆け出していった。

 

 病院での一夜を過ごし、退院の準備をしている奈美と麻子。その病室に理子がやってきた。

「お姉ちゃん、奈美さん、来ちゃいました♪」

「理子・・別に来なくても大丈夫だって、昨日言ったはずなんだけど・・」

 笑顔を見せる理子に、麻子がため息混じりに言いかける。

「ありがとう、理子ちゃん・・でも私は本当に大丈夫だから・・」

 奈美が言いかけると、理子は微笑んで頷く。だがその笑みがすぐに消える。

「光輝さん、まだ来ていないんですね・・・」

「うん・・アイツ、朝は弱いから・・・」

「でも、こういうときこそしっかりしてほしいものなんだけど・・」

「それは同感。でも、昔からそうだった・・ヒーローに憧れてるのに、運動は苦手で弱虫泣き虫で・・」

 理子と語り合う中で、奈美は昔を思い返していた。

 光輝は弱虫だった。すぐに近所の子供たちからすぐにいじめられていた。そんな彼を助けていたのが奈美だった。

 奈美は光輝がいじめられているのを放っておくことが我慢ならなかったが、同時に弱い彼が許せなかった。男なのに意気地のない彼に、彼女は腹が立って仕方がなかった。

 今では快活でたくましくなったものの、放っておけない部分がある。奈美はそう思っていた。

「今でも放っておけないんだから、光輝は・・・」

 光輝の行動を気にかける奈美。

「落ち着いたら、きちんと話してもらうからね・・・」

 奈美は呟きかけると、おもむろに笑みをこぼしていた。

 

 利矢を追って町の中を駆け回る光輝。しかし利矢の行方をまだ発見できないでいた。

「利矢くん・・・本当に、どこに行ったんだろう・・・」

 心配を募らせながらも、光輝はさらに捜索を続ける。彼は再び公園を訪れた。

 そこで遭遇したのは、利矢ではなく零夜だった。

「光輝・・・」

「父さん・・・」

 眼つきを鋭くする零夜と、当惑を見せる光輝。

「速水利矢はどこにいる?話してもらうぞ。」

 零夜は低く告げると、光輝に向けて銃を構える。光輝は非情な父親を歯がゆく感じていた。

「僕もどこにいるのか分からないままだよ・・もし分かっていても、彼に手荒なことをするあなたに教える気はないよ・・・」

「それほどまでに罪に毒されたか、貴様・・・!」

「法で縛る正義なんて、偽善でしかないよ・・その正義を貫いて、母さんの死に目にもあわなかったじゃないか・・・!」

「そんなことをしている間にも、罪は法を蝕んでいく。それを防ぐためにも私は・・」

「そのためなら、母さんのことはどうでもよかったのか!?

 淡々と言いかける零夜に、光輝が怒りをあらわにする。それでも零夜は顔色を一切変えない。

「心冷たい正義で、救われるものなんてないんだ!」

「感情で得られるものなど、脆弱なものでしかない。平和を求めるならば、心を切り捨てるべきだ。」

「これだけ言っても分からないのか、あなたは・・・!?

「本当の正しさを理解しようとしない相手と話をしても、意味がない・・・!」

 互いに自分の正義を貫こうとする光輝と零夜。銃を構えたままの零夜だが、彼も光輝もにらみ合うばかりだった。

 そのとき、2人は公園内から悲鳴が上がったのを耳にする。2人が振り向いた先には、事切れた刑事をつかんだ利矢がいた。

「利矢くん・・・!?

 驚愕を覚えた光輝が声と体を震わせる。利矢は冷たく鋭い視線を、零夜に向けていた。

「貴様の部下は全員片付けた。残るは貴様だけだ。」

「どこまで罪を重ねれば気が済むのだ、貴様は・・・!?

 低く告げる利矢に、零夜が鋭く言い放つ。だが零夜は部下が殺されたことを全く意に介していなかった。

「貴様がいなければ、オレは今も平和に暮らしていけたはずだったんだ・・それを正義だと言って、一方的に濡れ衣を着せて陥れて・・・!」

「自分の罪を棚に上げて、その責任を他人に押し付けるとは・・愚の骨頂だな・・」

 怒りを口にする利矢だが、零夜はそれでも非情の言葉を口にする。

「もはや何を言ってもムダ・・貴様の息の根を止めるしかないということだな!」

 いきり立った利矢が、零夜に向かって飛びかかる。その間に光輝が割って入り、利矢が攻撃の手を止める。

「やめるんだ!いくら許せないからって、人殺しが正しいことにはならないんだ!」

「邪魔をするな!この男を始末しなければ、悲劇が繰り返されるぞ!」

「それでもダメだ!君を大切に思っている人が、君が殺人をやってほしくないと思っているはずだ!」

 利矢に必死に呼びかける光輝。苛立った利矢が一蹴を繰り出し、光輝を突き飛ばす。

「うっ!」

 うめく光輝が横転する。踏みとどまったところで意識を高まらせたことで、彼の頬に紋様が走る。

「どうしても自分を貫くために人を殺そうとするなら、僕は全力で君を止める・・・変身!」

 言い放つ光輝がシャインガルヴォルスへ変身する。光と闇、2人のガルヴォルスが対峙しようとしていた。

「貴様たち、これ以上勝手なマネはさせんぞ!この場で2人とも粛清する!」

 そこへ零夜が言い放ち、発砲を開始する。だがガルヴォルスとしての強度のある体には通用しなかった。

「くっ・・・!」

 毒づくほかなかった零夜。それを気に留めず、光輝も利矢も飛び出し、攻撃を開始していた。

 2人は一進一退の互角の戦いを繰り広げているように見えた。だが光輝は利矢と戦うことに対して、無意識に迷いを感じていた。

 その隙は、徐々に2人の間に差を広げていった。

「ぐはっ!」

 利矢が繰り出した打撃の連続が、光輝の体に叩き込まれる。

「オレに罪はない!罪なのは偽りの正義だ!」

 叫ぶ利矢が構え、右足に意識を傾ける。その足に黒いオーラが蠢き始めた。

「こうなったらあの技を使うしかないか・・・」

 光輝も身構えて、足に力を込めていく。彼と利矢が同時に飛び出し、光を帯びた脚を突き出す。

「ダークスマッシャー!」

「シャイニングシュート!」

 利矢と光輝が繰り出した蹴りがぶつかり合い、閃光と稲妻、轟音が一気に広がっていった。

 その衝撃で零夜はたまらずこの場を離れる。

 やがて光が治まり、白んでいた風景が元に戻る。直後、1人の体が落下し、地面に叩きつけられた。

 倒れたのは光輝だった。利矢のパワーに敗れ、痛恨のダメージを受けていた。

「ぐっ!・・シャイニングシュートが、効かない・・・!?

「ここまでやるとは・・だがそれでも、オレの邪魔をすることはできない・・・!」

 うめく光輝を見下ろして、利矢が冷淡に告げる。

「お前が見せるような純粋な正義が、本当の正義であってほしかった。だが現実はそうではない・・オレやお前が思い描いている正義とは違ったんだ・・・」

 物悲しく告げる利矢が、銃を構える零夜に視線を移す。

「だからオレは、この偽りの正義を壊す・・それ以外に道はない・・・!」

「あらあら。勇ましい子がまた出てきたわね。」

 そこへゴールドが姿を現した。光輝と利矢を追ってきたゴールドは、妖しい笑みを浮かべてきていた。

「まさかあなたもガルヴォルスだったなんてね。しかもまた強力な・・楽しみが増えていいわね・・」

「お前は誰だ?オレに興味を示したのか?」

 語りかけるゴールドに、利矢が問いかける。

「ダメだ、利矢くん・・その人は、悪いヤツだ・・・!」

 そこへ光輝が立ち上がり、利矢に声をかける。

「そいつは人々を襲う怪人・・そんなヤツに味方したら、とんでもないことになってしまう・・・!」

「悪いヤツか・・果たしてどちらが悪いといえるのか・・・」

 呼びかける光輝に対し、利矢はそれをあざ笑う。

「もしかしたら、オレの思い描く正義など、この世界ではちっぽけなものとされているかもしれない・・」

「何を言っているんだ、利矢くん・・そいつはこの世界を・・・!」

「あなたこそ何を言っているの?」

 利矢に呼びかける光輝に口を挟んできたのはゴールドだった。

「何も知らないというのに、私たちのことを・・」

「だったら何者だというんだ!?・・悪の組織の怪人じゃないのか・・・!?

「悪の組織ねぇ・・見方によったら、そう思えても仕方がないかもね・・」

 愕然さを見せる光輝に、ゴールドは淡々と答える。

「あなたも私についてくれば、いろいろと教えてあげてもいいわよ・・あなたなら、かなり上の地位までいけると思うのだけれど?」

「冗談じゃない!お前たちに従うくらいなら、死んだほうがマシだ!」

「そう・・だったらせめて私の相手でもしてもらえるかな?久しぶりに楽しいことになりそうね!」

 眼を見開いたゴールドが光輝に飛びかかる。反応した光輝は後退し、ゴールドの伸ばしてきた右手をかわす。

「動きは速いわね。でもそれだけじゃ・・!」

 笑みを強めたゴールドが、光輝に向かってさらに飛びかかる。利矢と零夜からかなり離れたところで、光輝は立ち止まり、ゴールドを迎え撃つ。

「たとえお前たちのことが分からないままだとしても、お前たちの企みを許さないことは変わらない!」

「そういうがむしゃらな考えも嫌いじゃないわよ。」

 言い放つ光輝の言葉に、ゴールドも笑みをこぼして返事する。

「でもあなたは私の眼から逃げられない。大人しく高価できれいな金になりなさい・・」

 ゴールドは言いかけると、眼を金色に輝かせる。光輝を金色にしようとしていた。

(仕掛けてくる!逃げ回ってばかりじゃ勝ち目がない!・・真っ向勝負!)

「シャイニングエナジー!」

 ゴールドが放った金色の眼光に対し、光輝の閃光を解き放つ。強烈な閃光は眼光を跳ね返し、さらにゴールドの眼をつぶした。

「ギャアッ!」

 激痛を覚えたゴールドが眼を押さえる。光輝はこのチャンスを活かそうと駆け出し、右手に力を込める。

「必殺!シャイニングナックル!」

 光を宿した右の拳を繰り出す光輝。その一撃がゴールドの体に叩き込まれる。

 ゴールドは体の崩壊を引き起こし、ひび割れて崩れ去る。力を使い果たした光輝が人間の姿に戻り、その場にひざを付く。

「ハァ・・ハァ・・ちょっと頑張りすぎた・・・」

 呼吸を整えながらも、光輝は歩き出す。利矢と零夜の対立を止めようとしていた。

 

 疲弊した体に鞭を入れて、利矢と零夜のいる場所に戻る光輝。2人は互いを睨んだままの硬直状態を続けていた。

「水を差された・・本当はすぐにでも息の根を止めたいところだが、気が乗らない・・命拾いしたな・・」

「ふざけるな・・お前をこのまま逃がすと思っているのか?ここで制裁を下してやる。」

「それができないことは、お前が最も分かっているはずだ。死に急ぎたいならそれでもいいが・・」

 利矢に言いとがめられて、零夜が毒づく。攻撃の気が揺らぎ、零夜は手にしていた銃を下ろしてしまう。

「次までに首を洗っておけ。今度会うときが、お前の最後だ。」

 利矢は低く告げると、大きく飛び上がり、そのまま姿を消してしまった。

「利矢くん・・・」

 利矢を気にかけて、光輝が困惑を覚える。だが彼はすぐに真剣な面持ちになり、零夜に振り返る。

「僕は父さんの考えを信じない・・法律のために、みんなのことを考えないやり方なんて、僕は受け入れない!」

「それが国を乱すのだ。お前も裁かなければならない罪人となってしまった。親として恥じる。」

「親を語るな!母さんのそばにいなかった夫が!みんなの呼びかけに耳を貸さなかった人が!」

「法が揺らげば国が揺らぐ。私は法を守るために、決して動かされてはならないのだ。」

 感情をあらわにして呼びかける光輝だが、零夜は聞き入れようとしない。歯がゆさを抱えたまま、光輝は零夜に背を向けて歩き出す。

「お前も罪人だ。このまま見逃すと思っているのか?」

「僕はみんなのところに帰る・・止めてきても、殺そうとしても僕は止まらない・・・!」

 鋭く言いかける零夜だが、光輝は止まろうとしない。苛立った零夜が発砲するが、光輝から発せられた光に阻まれ、弾丸が弾け飛ぶ。

 毒づく零夜を背にしたまま、光輝は重苦しい空気を漂わせたまま歩いていった。

 

 心を重く沈めたまま病院を訪れた光輝。その正面玄関で、彼は病院から出てきた奈美、麻子、理子を発見する。

「あれ?奈美ちゃん!?もう大丈夫なの!?

「うん。いつまでも入院しているわけにはいかないからね。」

 驚きの声を上げる光輝に、奈美が微笑んで答える。

「それにしてもギリギリだったね。ちょっとでも遅かったら、すれ違いになってたよ。」

「ゴメン・・・いろいろあって・・・」

 麻子がやや不満げに言いかけると、光輝は沈痛の面持ちを浮かべる。すると奈美が光輝の肩に手を添えてきた。

「近いうちに話してもらうわよ。今はちょっとバタバタしてるから・・」

「うん・・・」

 奈美の言葉に光輝が頷く。ガルヴォルスの戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。

 

 

次回予告

 

ついに光輝打倒のために、本格的な攻撃に踏み切ろうとしていたサターン。

ブリット、オーリス、ヴィオス。

3幹部の猛威が、光輝に迫る。

強力な3種の攻撃に、光輝は打ち勝つことができるだろうか?

 

次回・「強襲」

 

 

作品集

 

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