ガルヴォルスMessiah 第4話「邂逅」

 

 

 ガルヴォルスの巻き起こす事件に、ついに奈美も巻き込まれてしまった。スライムガルヴォルスに襲われた奈美、麻子、リサは病院で療養することとなった。

 その病室に、光輝と理子がやってきた。

「お姉ちゃん!・・お姉ちゃん、大丈夫・・!?

「理子、大丈夫よ。ただちょっと服をやられちゃったけどね・・」

 心配する理子に、麻子が照れ笑いを浮かべて答える。

「もう・・私やみんながどれだけ心配したと思ってるの・・・」

「ゴメンゴメン、もう大丈夫だって。お医者さんもそう言ってくれたから・・」

 不満を浮かべる理子と、弁解を入れる麻子。その姉妹の会話のそばで、光輝は奈美をじっと見つめていた。

「ゴメン、奈美ちゃん・・僕がそばにいたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに・・」

「気にしなくていいわよ。私が躍起になって、逆にやられただけなんだから・・」

 謝る光輝に、奈美は突っ張った態度を見せる。

「ただ、とても普通じゃなかったことは確か・・犯人は液体だったし・・その犯人を、別の怪物がやっつけていたのを見たの・・」

「別の怪物・・・!?

 奈美が語りかけた言葉に、光輝は驚きの声を上げる。

「多分、私の見間違いだと思う・・あんなおかしなこと、現実にあるはずがない・・きっと気を張り詰めすぎて、ありもしないものを見ただけなのよ・・」

「奈美ちゃん・・・」

 物悲しい笑みを浮かべながら必死に自分に言い聞かせる奈美に、光輝はいたたまれない気持ちを覚えていた。恐怖と混乱を見せている彼女を、彼は初めて目の当たりにしたのだった。

「もう休んだほうがいいよ、奈美さん・・お姉ちゃんも・・」

 そこへ理子が声をかけ、奈美と麻子は小さく頷く。

「僕は帰るよ・・理子ちゃんはどうする・・?」

「あたしはちょっとだけここにいるよ・・光輝さんは先に帰っても大丈夫だよ。帰るときはささって帰るから♪」

 光輝が声をかけると、理子は笑顔を見せて答える。すると光輝は微笑んで、1人病室を去っていった。

「光輝さん・・・」

 光輝の後ろ姿が寂しく感じて、理子は沈痛な面持ちを浮かべていた。

 

 夜の道を1人歩く光輝。彼は奈美を事件に巻き込んだことに、深い罪悪感を感じていた。

 自分の中で湧き上がったガルヴォルスの力が、正義のため、みんなを守るためのものであると光輝は信じていた。にもかかわらず、奈美たちを守ることができなかった。

 後悔から抜け出すことができずにいる光輝。その念は、彼が押し隠していた父との確執を呼び起こしていた。

 吉川零夜(よしかわれいや)。光輝の父親であり、多くの事件解決と犯人逮捕をこなしてきた刑事でもある。

 だが零夜は非情な人間だった。決して情に流されることなく、法に基づいて鉄槌を下してきた。

 光輝は零夜のその非情の正義に反感を覚えた。それが光輝が家を出て行った理由だった。

 思いやりのない正義など本当の正義ではない。そう感じた光輝と、法に基づいた非情の正義を振りかざす零夜との間に溝をつけたのだった。

「いくらこんな状況でも、あんなものになりたくはない・・・」

 非情な父親を必死に突き放そうとする光輝が、首を大きく横に振った。

 そのとき、自分に近づいてくる足音を耳にして、光輝は我に返る。振り返った彼の前に、黒髪の青年が姿を現した。

「ん?こんな時間に、1人だけで・・」

 光輝の様子を気にかけた青年が、唐突に声をかけてきた。

「いや・・ちょっと友達が事件に巻き込まれちゃって・・僕がちゃんと守ってあげてればって・・」

「そうか・・でもそうやって友人に親身になれるのは、本当にすごいと思うよ・・」

「そんな大げさなことじゃないよ・・ただ、悪いヤツからみんなを守りたいって・・」

 青年に褒められて、光輝が思わず照れ笑いを浮かべる。

「おかしいかな・・ヒーローみたいに振舞って、子供みたいで・・」

「ううん。悪くないんじゃないかな?真っ直ぐで、前向きで・・」

 笑みをこぼす光輝に、青年も微笑みかける。落ち着きを取り戻した光輝が、青年に手を差し伸べる。

「僕は吉川光輝。あなたの名前は?」

「僕は速水利矢。ワケあってここを訪れてきたんだ・・」

 互いに自己紹介をして、利矢が光輝の手を取って握手を交わした。

「利矢くんは1人かな?よかったら泊まっていったら?・・というものの、僕も居候の身なんだけど・・」

「ありがとう、光輝くん・・でも君に迷惑をかけるわけにいかない。気持ちだけ受け取っておくよ・・」

 互いに声を掛け合うと、利矢は光輝から離れていった。光輝も利矢に向けて大きく手を振って見送った。

 これが2人の宿命の始まりであることを、2人自身も知らずにいた。

 

 賑わいを見せる街中のカラオケボックス。女子大生たちが真夜中にも熱唱を続けていた。

「ねぇ、次は誰だっけ?」

「あたし、あたし♪」

 さらに続く女子たちの熱唱。だがその賑わいが突如断ち切られた。

 彼女たちのいる部屋に、1人の金髪の女性がやってきた。女性の登場に、熱唱が中断される。

「あなた、誰?店の人じゃないよね・・?」

 女子たちが疑問符を浮かべると、女性の眼から突如金色の光が放たれた。その光で、驚きを見せた女子たちの体に異変が起きた。

 眼光の色と同じ金へと変化し、女子たちは全員動かなくなってしまった。

 金の像になった女子たちを見つめて、女性は笑みを浮かべていた。

「やっぱり金はいいわね・・見ているだけでも心が洗われるわね・・」

 高揚感を覚えた女性が笑みをこぼす。女子たちを金に変える前に、彼女は既にこのカラオケにいる客や店員たちも襲っていた。

「いくらなんでもやりすぎですよ、ゴールド・・」

 そこへオーリスが現れる。声をかけられた女性、ゴールドが彼女に振り返る。

「金はすばらしいですよ。価値も高いし、外見も煌いていて・・あなたにとっての水と氷も、同じすばらしさと思えますが?」

「それは否定できないですね。ですが今は茶番のときではありません・・ゴールド、あなたに任務です。」

 オーリスのこの言葉に、ゴールドは笑みを消す。

「標的は誰です?面白い相手ですか?」

「光を使うガルヴォルスです。強靭なパワーを備えています。油断していると命を落とします。」

 ゴールドが訊ねると、オーリスが1枚の写真を手渡した。そこには光輝が映されていた。

「この子が私の次のターゲット?かわいらしい男の子じゃないの・・」

「外見に囚われてはいけません。彼、吉川光輝は底知れぬガルヴォルスの1人です。」

 笑みをこぼすゴールドに、オーリスが低い声音で言いかける。

「分かった。久しぶりに大物を相手にしたいと思っていたところだった・・」

 絶えることがなかったゴールドの笑みが、突如として消えた。

 

 多発している奇怪な事件。その防止と解決、犯人逮捕の任務が、ある人物に委ねられた。

 光輝の父、零夜だった。

「怪物・・奇怪な事件ではあるが、そんな非現実的なものが存在するはずがない。」

 異形の存在を全く受け入れない零夜。現実主義である彼は、真っ向から犯人逮捕に乗り出そうとしていた。

「いいか。犯人はこの近辺に潜んでいる可能性が高い。複数犯である可能性もある。決して油断するな。」

「了解!」

 零夜の命令を受けて、警官や刑事たちが答え、行動を起こす。

(法を犯す罪人よ、法が人を律するこの国の中では、お前たちに未来はない。)

 零夜も犯人捜索のため、会議室を後にした。

 

 孤独の朝を過ごすこととなった光輝。奈美たちのお見舞いに向かおうと考えていた彼だが、気が重く、行動を起こせずにいた。

「参っちゃったなぁ・・こんなことで参っちゃったら、ヒーロー失格だよ・・」

 自分なりの気落ちを見せる光輝。彼はヒーロー番組を見た後、TVのチャンネルを変えてニュースを見ていた。

 TVや新聞でも、ガルヴォルスの事件の報道が目立っていた。しかし事件の犯人も解決の兆しも見えないのが現状だった。

「僕のほうでも調べたほうがいいかもしれないね・・・」

 気を紛らわせる意味を込めて、光輝は家を出た。

 町は事件が多発しているのがウソであるかのような、平穏な時間が過ぎていた。その日常を眼にして、光輝は笑みをこぼした。

 そんな気分を抱えたまま、光輝は町中の公園を訪れた。そこで彼は見知った人物を発見する。

「君、昨日の・・・?」

「君は・・・まさかまた会えるとは・・」

 光輝と青年、利矢が戸惑いを見せるが、すぐに笑顔を見せる。

「どうしたの、こんなところで?もしかしてお散歩?」

「そんなところだね・・光輝くんは?」

「僕も似たようなものかな・・本当は友達のお見舞いに行かなくちゃいけないんだけど・・」

 言葉を掛け合う光輝と利矢。だが利矢の顔が徐々に曇っていく。

「実は少し前にイヤなことがあって・・どうしたらいいのか分からなくなっていたところだったんだ・・」

「利矢くんも・・みんな悩みがあるってことかな・・」

 利矢の心境を理解して、光輝も物悲しい笑みを浮かべる。

「実は僕、ヒーローが好きで、ヒーローに憧れているんだ・・近くにいる人の悩みを理解して、解決していける・・そんなヒーローに・・」

「ヒーローか・・僕は最近、ヒーローが持っているような正義が信じられなくなっている・・・」

「えっ・・・?」

 利矢が切り出した言葉に、光輝が戸惑いを見せる。

「僕は濡れ衣を着せられた。しかし警察は僕の言葉を信じず、耳を傾けようともしなかった・・勝手な理屈を正義と偽り、心を壊そうとするなどと・・・!」

「そんなことが・・・確かにそれはよくないよね・・・僕も、君の言う、正義でない正義を抱えている人を知っている・・・」

 利矢が切り出した言葉を受けて、光輝が深刻な面持ちを見せる。その様子に利矢が眉をひそめる。

「僕は家出したんだ・・お父さんの正義感の違いでケンカになって・・」

「そうだったのか・・考えは人それぞれだけど、全部が間違っていないというわけではない・・」

「思いやりのない正義は、本当の正義じゃない・・だから、みんなを優しく守って上げられるヒーローになりたいと思っているんだ・・」

 自分の気持ちを素直に告げる光輝と利矢。抱えているものを吐き出して、2人とも安堵を覚えていた。

「あらあら。こんなところにいたのね。力を抑えているから、探すのに苦労したわ・・」

 そこへ1人の金髪の女性が現れた。声をかけられた光輝と利矢が彼女に振り返る。

「誰ですか、あなたは?僕たちに何か用ですか?」

「そう。というより、用があるのはそこの男の子のほう。」

 利矢が訊ねると、女性、ゴールドが光輝を指差した。直後、ゴールドの眼に金色の光が宿る。

「危ない!離れるんだ、利矢くん!」

「えっ!?

 光輝の呼びかけに利矢が身構える。2人が横に飛んだ直後、ゴールドが眼光を放ち、2人がいた場所を金に変えた。

「よく分かったわね。さすがは高いレベルのガルヴォルスね。」

「ガルヴォルス・・お前も怪人か!?

 笑みをこぼすゴールドに、光輝が言い放つ。2人のやり取りに、利矢が困惑する。

「もしかして、僕と同じじゃ・・つまり僕も、ガルヴォルスというものになったのでは・・・!?

 驚きを感じながら呟きかける利矢。そのとき、光輝が利矢の腕をつかみ、その場から駆け出していった。

「逃げるんだ、利矢くん!」

「光輝くん!?

 呼びかける光輝に、利矢が声を荒げる。2人の後ろ姿を見つめて、ゴールドが妖しく微笑む。

「鬼ごっこも悪くないね・・・」

 

 ゴールドから逃げ延びた光輝と利矢。2人は公園の外に飛び出していた。

(どうしよう・・そばに利矢くんがいる・・ガルヴォルスに変身するわけにはいかない・・・)

 胸中で焦りを募らせる光輝。利矢はゴールドが追ってきていないか、後ろに眼を向けていた。

「ここは僕に任せて、利矢くんは逃げてくれ・・・!」

「何を言っているんだ、光輝くん!?君を置いて逃げられるわけないだろう!」

 呼びかける光輝だが、利矢は聞き入れようとしない。

「逃げられないというなら、僕は抗う!たとえ相手が・・」

 利矢が言いかけたときだった。

 突如何人もの警官が取り囲んできた。彼らは銃を構え、光輝と利矢を逃がさないようにしていた。

「えっ・・・!?

 何事か分からず、光輝は言葉を失う。警官たちが間違いなく、彼らを狙っていた。

「まさかこんなところにいたとは。運がよかったというべきか。」

 そこへかけられた声に、利矢、そして光輝が緊迫を覚えていた。その声、そして警官や刑事たちの間から現れた姿に、2人とも覚えがあった。

「それに、お前がここにいたとは、正直想定もしていなかった・・久しいな、光輝・・」

「馴れ馴れしく僕を呼ばないでよ・・お父さん・・・!」

 男、零夜に鋭く言い放つ光輝。そのやり取りに、利矢はさらなる驚愕を覚える。

「この男・・光輝くんの父親だったのか・・・!?

「血はつながっている。最も、その親子の縁も完全に断ち切れているが。」

 光輝に向けて問い詰める利矢に、零夜があざ笑いながら答える。

「己の罪を償うどころか、脱走し罪を重ねるとは愚の骨頂。もはや断罪もやむなし。」

 零夜は言いかけると銃を取り出し、利矢に銃口を向ける。すると光輝が2人の間に割って入る。

「やめろ!・・利矢くんが何をしたんだ!?相手も言葉に耳を傾けようとせず、法で束縛する・・・あなたは前からそうだった。今になっても全然変わっていない!」

「何を言っている、光輝。私は今の私が、私のあるべき姿であると確信している。変える必要はない。変わるべきなのは、法から外れた罪人のほうだ。」

 怒鳴る光輝だが、零夜は顔色を一切変えずに淡々と答えるだけだった。

「警告は1度だけだ。速水利矢を庇うなら、お前も罪人として裁くことになる。」

「それが、貴様の正義だというのか・・・!?

 零夜に向けて鋭く言い放ってきたのは利矢だった。

「人の心が報われない正義などあるものか・・貴様のやり方など、決して正義と認めるか!」

 憎悪をたぎらせる利矢の頬に異様な紋様が浮かび上がる。その変動に光輝が眼を見開く。

「利矢くん・・・!?

 声を振り絞る光輝の前で、利矢が変貌を遂げる。不気味なオーラを発する黒い体色の怪物、ダークガルヴォルスに。

「怪物!?・・バカな!?怪物が現実に現れるなど!?

 利矢の変化に、零夜が驚愕する。だがすぐに冷静さを取り戻し、警官たちに指示を出す。

「撃て!この異形の存在を攻撃しろ!」

 警官たちが利矢に向けて発砲を開始する。だがその弾丸は、利矢からあふれている漆黒のオーラにかき消されていく。

「バ、バケモノだ・・本物のバケモノだ!」

 警官の1人が悲鳴を上げる。利矢がそのオーラを解き放ち、刃に変えて振りかざす。

 刃は警官や刑事の体を切り裂き、鮮血をまき散らす。毒づいた零夜が後退し、利矢を警戒する。

「やめろ・・やめるんだ・・・」

 光輝が体を震わせ、利矢を呼び止めようとする。彼の頬にも紋様が浮かび上がってきていた。

「やめるんだ、利矢!」

 激昂した光輝もシャインガルヴォルスへと変身する。利矢を止めるべく、光輝も修羅場の真っ只中に飛び込んだ。

 

 

次回予告

 

すれ違う心と信念。

光輝と利矢の心は交錯し、ついには宿命へと発展していく。

正義とは何か。

思いとは何か。

光輝の心が、光となって解き放たれる。

 

次回・「正義」

 

 

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