ガルヴォルスMessiah 第3話「暗躍」
街中にあるレストラン。とはいえ、扱っているのはケーキやデザートなどが主流だった。
制服はメイド服と同等であるものの、店側は「メイド喫茶」と銘打っておらず、そのような振る舞いも見せていなかった。
そこで働く2人の少女が、その日の仕事を終えて店から出てきた。
「ふぅ・・今日も終わったわね・・・」
「ケーキはともかく、メイドは確実にエロ店長の趣味入ってるよね・・」
「まぁ、自給がいいからやってるんだけどね。でなかったこっちからお断りよ。」
少女2人が帰路を進みながら、会話をたしなむ。2人は街の大通りから、静寂な小道に差し掛かった。
そのとき、少女の1人が道の先で奇妙なものを見つけて足を止める。
「ん?どうしたの?」
「今、あそこで何か動いたような・・・」
彼女が指差したほうに、もう1人の少女も眼を凝らす。小道の暗闇の中で、何かが蠢いていた。
「アレ、何かおかしくない・・・?」
少女の1人が不安を口にしたときだった。
その物体が突如近づき、少女の1人に飛びかかってきた。物体は液状の固まりで、逃げようとする少女を取り込んだ。
必死にもがく少女だが、物体から脱出することができない。
しばらくすると、少女の着ていた衣服が崩壊を始めた。液体の効力で、衣服が溶け出したのだ。
(ど、どうなってるの!?・・私、裸に・・・!?)
恐怖と恥じらいを感じて、少女は困惑する。もう1人の少女が何とか助けないとと思いながらも、手を出すことができなかった。
やがて全ての衣服を溶かされ、少女は生まれたままの姿をさらけ出すこととなった。
「ケッケッケッケ。そうさ、全てをさらけ出せ。オレの中で何もかもさらけ出されるかわいい子の姿は、ホントにたまらないぜ・・」
その場に不気味な声が響き渡る。その声は少女を取り込んでいる液体から発せられていた。
「さぁ!存分に楽しませてもらうぜ!その柔肌の全てを感じ取ってやるぞ!ケッケッケッケ!」
高らかに叫ぶ液体。その液体が一糸まとわぬ姿の少女の中に入り込んできた。
胸を撫でるような感触、口や耳、秘所から入り込もうとする脈動が、少女に奇妙な高揚感を与える。その恍惚にさいなまれて、彼女は液体の中で意識を失った。
「ケッケッケッケ。もう1人は逃がすと思っていたのか?」
逃げ出そうとするもう1人の少女も、液体に捕まって取り込まれてしまう。瞬く間に自由を奪われ、衣服を溶かされて全裸にされてしまう。
それがここ最近多発する奇怪な事件の一部だった。
ある日、奈美と麻子は突然、クラスメイトのリサに声をかけられた。内容は彼女が働いているレストランの手伝いをしてほしいというものだった。
「お願い、奈美、麻子。うちのレストラン、バイトがみんな辞めて人手不足なのよ。」
「うーん・・本当は聞き入れてあげたいけど、接客に自信ないし、それに・・」
頭を下げるリサに、奈美は困り顔を見せる。奈美はメイド服のようなレストランの制服に抵抗を感じていた。
「お願い!みんな辞めちゃって、店長も頭抱えちゃってるのよ・・せめて接客がムリでも、ボディーガードでもいいから!」
「ボディーガード?どうしてみんな急に辞めちゃうの?」
頼み込むリサに、麻子が疑問を投げかける。するとリサが困惑気味に説明する。
「実はここ最近、変質者が出てきてるのよ・・その犯人、かわいい子ばかりを狙って裸にして、わいせつ行為をしているのよ・・」
「わいせつ行為・・それは許せないわね・・こういうときこそ奈美の出番じゃない♪・・って・・」
リサから事情を聞いて意気込む麻子だったが、奈美の視線は別のほうに向けられていた。その視線の先で、光輝が赤面して意識を失っていた。
「あ、そういえば光輝、エッチな話は全然ダメだったんだよね・・」
「“裸”と効いた途端に意識を失うくらいだから、相当ね・・」
麻子が苦笑いを浮かべ、奈美が呆れていた。
「そういえば吉川くん、奈美の家に住んでるんだよね?」
「えっ?・・うん、まぁ・・」
リサが訊ねると、光輝が照れながら答える。
「奈美とひとつ屋根の下だなんて、いろいろと妄想できちゃうわねぇ、ウフフフフ。親が何て思ってるやら・・」
「悪いけど、親の話はしないでくれないか・・・」
リサが言いかけたところで、光輝が暗い顔を見せる。そして思い気持ちを抱えたまま、彼は教室を出た。
「吉川くん、どうしちゃったの・・?」
「リサ、光輝に親の話はしないであげて・・」
戸惑いを見せるリサに、奈美が言いとがめる。
「光輝は父親とケンカして、それで家を飛び出してきちゃったらしいのよ・・」
「なるほど。それで奈美の家に居候しているってわけか・・」
「私の親が勝手にOKサイン出しちゃったんだけど・・その親も道場を世界に広めるんだって言って家を飛び出しちゃって・・」
麻子の説明を聞いてリサが納得し、その傍らで奈美が呆れて肩を落とす。
「とにかくお願い、2人とも!店長も給料奮発するって!」
「給料奮発!?奈美、これはやりがいあるって!一緒に頑張ろうよ♪」
リサの言葉を耳にした途端、麻子が眼の色を変える。
「もう、しょうがないんから、麻子まで・・」
もはや呆れ果てることしかできず、奈美は渋々リサの申し出を受けることにした。
その夜、奈美と麻子はリサに導かれて、そのレストランにやってきた。静けさな店内で、店長が大喜びで3人を出迎えた。
「いやぁ、君たちがリサちゃんのお友達かい?よく来てくれたねぇ♪」
上機嫌な店長に、奈美と麻子は唖然となる。
「リサちゃんから聞いてるよ。きれいなだけじゃなくて強いんだってね。」
「えっ!?・・リサったら、余計なこと話さなくていいって・・・」
リサの話に奈美が呆れ果てる。
「それじゃまずは合う制服の確認をしないといけないね。リサちゃん、手伝ってあげて。」
「えっ!?いや、私、アルバイトで来たわけじゃ・・!?」
店長に促されて、奈美は反論を聞き入れられないまま、試着室に連れて行かれることとなった。
同じ頃、光輝は理子に引っ張られて、そのレストランに向かっていた。
「どうして僕が行かなくちゃいけないんだい・・!?」
「決まってるでしょ!おかしなことになっていないか、直接チェックしに行くのよ!」
困り顔を見せる光輝に、理子が切羽詰った心境で答える。
「奈美ちゃんと麻子ちゃんなんだから、心配することなんてないって・・」
「何言ってるの!?お姉ちゃんだから心配なの!」
理子に言いとがめられて、光輝は反論する言葉を失ってしまう。2人はそのレストランを訪れ、店内に入る。
「おかえりなさいませ、ご主人様♪」
2人を迎えてくれたのは、メイド服を身につけた奈美、麻子、リサだった。様変わりした3人を見て、光輝と理子が唖然となる。
「お客様、2名ですね。私がご案内しますので、どうぞこちらへ・・」
奈美が光輝と理子を案内する。だが彼女の顔は笑っているが、眼は笑っていなかった。
「どうしてここに来たのよ、2人とも・・・!?」
「いやぁ、お姉ちゃんのことが心配になっちゃって・・」
小声で鋭く言いかける奈美に、理子が苦笑いを見せながら答える。それを聞いて奈美が小さくため息をつく。
「ご注文をどうぞ。食事が済み次第、お引取りください。」
奈美は冷淡に告げると、そそくさに光輝と理子の前から去っていった。
(よっぽど気に障ったんだね・・・)
光輝が内心、奈美への心配を呟くのだった。
光輝と理子が帰り、しばらく仕事をしたところで、店長が奈美たちに声をかけた。
「リサちゃん、みんな、今日はもう上がっていいよー♪」
その声を受けて、奈美たちが安堵の吐息をつく。
「ふぅ・・やっと終わった・・・」
「ゴメンね、奈美ちゃん・・うちの店長、すぐに有頂天になるところがあるから・・」
肩を落とす奈美に、リサが苦笑いを浮かべる。
「それでは店長、失礼します。」
リサが店長に声をかけて一礼すると、奈美と麻子とともにレストランを後にした。
「ふぅ・・もうこんなのイヤ・・給料が高くてもやりたくない・・・」
「それ、実は私も同感・・給料が安かったら、メイド喫茶やあのレストランなんてやってないよ・・」
呟きかけて肩を落とす奈美とリサ。
「でもああいう仕事も楽しくていいかも。しかも給料が高いならなおのことOK♪」
それとは対照的に、麻子は上機嫌で有頂天だった。様々な様子を見せながら、3人は帰路に着いていた。
その途中、奈美は奇妙な感覚を覚えて足を止める。その様子に、麻子とリサも足を止める。
「どうしたの、奈美?」
「あの陰で、何かがいるような気がして・・」
麻子が声をかけると、奈美が低く告げる。彼女たちが見つめる先の物陰で、何かが蠢いていた。
次の瞬間、その物体が突如飛び出してきた。麻子とリサが悲鳴を上げる中、奈美が身構える。
だが液状の物体は動きが早く、奈美を一瞬にして取り込んでしまった。
「奈美!」
声を荒げる麻子。液体の中でもがく奈美だが、抜け出すことができない。
「ケッケッケッケ。勇ましいものだな。見かけによらず大胆だな。」
液体から声が発せられる。その液体の中で、奈美の衣服が溶け出していく。
「ふ、服が・・アンタ、まさか・・・!?」
「ケッケッケッケ!お前の素肌、存分に楽しませてもらうぜ!」
驚愕する奈美と、不気味な哄笑をもらす液体。彼女が衣服を全て溶かされて、裸身をさらけ出される。
「奈美!このっ!」
奈美を助けようと勇み立つ麻子。だが彼女もなす術なく液体に取り込まれてしまう。
「麻子ちゃん!奈美ちゃん!」
悲鳴を上げるリサ。同じく衣服を溶かされていく麻子と、体を侵されていく奈美。液体の猛威が、彼女たちを蝕もうとしていた。
帰る途中、光輝は何かの気配を感じ取り、足を止める。その様子に理子も足を止める。
「どうしたの、光輝さん?」
「・・ゴメン、理子ちゃん・・先に帰ってて・・」
疑問を投げかける理子を背に、光輝は元来た道を駆け出していった。彼は奈美の声を耳にしていた。常人を超えたガルヴォルスとしての鋭く聴覚が、彼女の声を捉えたのだ。
(もしかして、奈美ちゃんたちが怪人に・・!?)
光輝の脳裏に一抹の不安がよぎる。
(そんなこと・・そんなこと絶対にさせない!)
「変身!」
いきり立つ光輝がシャインガルヴォルスへと変身する。彼はさらに加速して、奈美たちのところに向かう。
そして光輝は、地面に横たわる奈美たちを発見する。
「奈美ちゃん!」
たまらず叫ぶ光輝。奈美も麻子もリサも、液体によって全裸にされ、さらに体を蝕まれていた。
「おっ!いろいろと楽しんでいたら、オレの同士が現れたぞ!」
不気味な声を発しながら液体は集束し、人の姿へと変貌していく。その姿に光輝は眼を見開いた。
それはリサの通っているレストランの店長だった。店長はスライムガルヴォルスであり、夜な夜な美女を襲ってその体を弄んでいたのだ。
「メイド風レストランを開けば、かわいい子がどんどんバイトしたいと寄ってくる!その体を堪能できて、オレは幸せ者だ!」
「ふざけるな!」
歓喜をあらわにする店長に、光輝が怒りを爆発させる。その感情に呼応するかのように、閃光が彼の体からほとばしる。
「自分の私利私欲のために、周りの人間を襲うなんて許せない!お前の身勝手な企みは、このオレが粉砕するぞ!」
光輝は言い放つと、店長に向かって飛びかかる。すると不敵な笑みを浮かべた店長が再び液状化する。
光輝が繰り出した拳は、液化したスライムガルヴォルスには通用しなかった。
「ケッケッケッケ。ムダだ、ムダだ。オレの体は液体になる。たとえ同じガルヴォルスでも、パンチやキックじゃオレにダメージは与えられないぞ。」
哄笑を浮かべるスライムガルヴォルス。その体質に、光輝は思考を巡らせていた。
(パンチやキックが通用しない。それじゃシャイニングシュートも通じないだろう・・相手は液体。凍らせれば何とかなるかも・・)
光輝はおもむろに周囲を見回した。だがこの周辺には、液体を凍らせるようなものもなく、それほどの寒さもない。
「ケッケッケッケ。オレを凍らせようと思ってるようだが、その手には乗らないぞ。うまくオレをおびき寄せようとしても、オレはその間にこの子たちでもう1度楽しむだけだから・・」
スライムガルヴォルスが不気味な笑みを浮かべる。その卑劣な考えに、光輝がさらなる怒りを覚える。
そのとき、光輝の背後から突如スライムが広がってきた。
「しまっ・・うわっ!」
虚を突かれた光輝がスライムの中に取り込まれる。息苦しさを覚えて、光輝が顔を歪める。
「苦しいだろう!かわいい子には快感を与えたが、男のお前には苦しみを与えてやる!」
哄笑を浮かべて言い放つスライムガルヴォルス。もがく光輝だが、液体から抜け出すことができない。
「苦しめ!もっと苦しめ!そういう絶望感もオレの楽しみの範疇だ!」
喜びを隠し切れなくなる、高らかに笑うスライムガルヴォルス。
(こんなところで負けてたまるか・・僕が負けたら、奈美ちゃんたちを助けることはできないんだ・・・!)
胸中で呟く光輝の中に、正義感が膨らんでいく。
(僕にもっと力を・・光を!)
決意を強めた瞬間、光輝の体から光があふれ出していく。その光が一気に強まり、彼を包んでいる液体を吹き飛ばし、蒸発させる。
「何っ!?」
突然のことにスライムガルヴォルスが驚愕する。光輝の体からまばゆいばかりの光があふれてきていた。
「何だ、あの光は!?・・お前はいったい・・!?」
「この世に光がある限り、オレは何度でも蘇る!お前の企みもここまでだ!」
声を荒げるスライムガルヴォルスに、光輝が鋭く言い放つ。
「シャイニングエナジー!」
光輝がまとっている光を放出する。
「か、体が・・オレの体がぁぁぁーーー!!!」
その閃光に包まれたスライムガルヴォルスが、絶叫を上げながら消滅した。力を抑えた光輝がひとつ吐息をつく。
(やった・・何とか倒すことができた・・・)
安堵を覚える光輝は、そのままこの場を後にした。今の自分は変身しているため、直接奈美たちを助けることができないと思っていた。
だが、去っていく光輝の姿を、奈美はもうろうとする意識の中で眼にしていた。だがすぐに意識を失い、警察が保護するまで眠り続けていた。
スライムガルヴォルスの敗北。その知らせはサターンのブリットの耳にも入った。
「とんでもない底力を秘めているようだな、あのガルヴォルスは・・」
戦闘の映像に眼を通して、ブリットは呟きかける。
「あまり悠長にしているのも、得策とはいえませんよ。」
そこへオーリスが現れ、ブリットに声をかける。
「だが攻を焦るのも、得策とはいえないぞ。」
「そう?ならここは私があのガルヴォルスの遊び相手になってあげますよ。彼の力、私も直に確かめておかないと。」
「そうか・・だが油断するな。かなりの力を持っていることは明らかだ。」
ブリットと言葉を交わすと、オーリスはその場を後にした。彼女もまた、光輝への攻撃を目論もうとしていた。
次回予告
奈美が巻き込まれてしまった。
その深刻さに、光輝は苦悩を覚えていく。
そんな彼が眼にしたのは、非情の正義を振りかざす父だった。
そして、光輝と利矢が、運命の出会いを果たす・・・