ガルヴォルスMessiah 第2話「変身」

 

 

 世界の裏で暗躍する暗黒結社、サターン。サターンは多くのガルヴォルスたちを束ね、世界を新たな色に塗り替えようと企んでいた。

「何?スパイダーが新種のガルヴォルスにやられた?」

 サターンの3幹部の1人、ヴィオスが、部下からの報告に眉をひそめる。3幹部の中で最も力があり、体格もある。

「はい。自由行動をしていたところ、そのガルヴォルスと遭遇。その脅威に押されて、撤退を余儀なくされた模様。」

「そうか・・スノーを送り出せ。それと偵察員を何人か調査をさせろ。くれぐれも巻き添えを食うなと肝に銘じておけ。」

「かしこまりました。」

 ヴィオスの命令を受けて、部下が動き出した。

「そのガルヴォルスのことを試すつもりですか?」

 そこへ1人の女性が現れ、ヴィオスに声をかけた。青く長い髪と際どい服装の女性。サターン3幹部の1人、オーリスである。

「まだ相手の能力を把握し切れていないのでな。戯れとしても退屈はしないだろう。」

「相変わらずお遊びが好きですね。でもあまりやりすぎると、遊びでは済まなくなりますよ。」

 不敵な笑みを浮かべるヴィオスに、オーリスが憮然とした態度で注意を促す。

「いや、私もヴィオスの判断が完全に間違っているとは思わん。」

 そこへ1人の男が姿を現した。逆立った金髪をした長身の男。サターン3幹部の1人、ブリットである。

「1人のガルヴォルスに焦る必要はない。まずは様子見でもさせてもらおう。」

「仕方がないわね・・」

 ブリットの言葉を受けて、オーリスは渋々受け入れた。

 

 奇怪な事件と遭遇したとき、変貌を遂げた光輝。自分の身に起きた異変に疑問を覚えることなく、彼は帰宅した途端、疲労感で意識を失った。

 その後奈美に介抱され、その翌日を迎えた。

 光輝はまた体調が万全ではなかった。多少の不調でも平気だと思ってしまう彼でも、体の重さを痛感していた。

「珍しいこともあるのね。光輝が体調崩すなんて・・」

 おかゆを持ってきた奈美が、光輝に声をかけてきた。

「今日は雨ね。もしかしたら雪かも。」

「もう、からかわないでよ・・こっちは本気で辛いっていうのに・・」

 からかってくる奈美に、光輝が気落ちする。

「これ食べてゆっくり休んでなさい。光輝のことだから、1日休めばまたいつもの子供っぽいアンタに戻ってるわ・・」

「またそういう意地悪を・・・」

 奈美にまたからかわれて、ますます気落ちする光輝。彼女が部屋を出ると、光輝は出されたおかゆを口にする。

「おいしい・・武道に精通してて、それでいて料理がうまいんだから・・奈美ちゃんはホントにすごい・・」

 喜びを感じて笑みを見せる光輝。だが彼の脳裏に、昨日の不可思議な出来事が蘇ってきた。

 奇怪な事件を引き起こしていた怪人。その同種の怪人となってしまった自分。何もかもが常軌を逸したものだった。

 だがそんな疑問も、光輝はすぐに正義感から来る興奮へと変えてしまった。

「もしかして、昨日現れたのは悪の組織の怪人で、僕はその組織と戦うヒーローになったんじゃ・・」

 次第に興奮を膨らませていく光輝は、その勢いのままにおかゆをかっ込む。

「こうなったら、僕が世界を守っていくぞー!悪いヤツの好きには、僕がさせないぞー!」

 妙な意気込みを見せる光輝は、体調万全を目指して就寝するのだった。

 

 下校時刻となり、生徒たちが帰路に着く。とある2人の女子も家に帰ろうとしていた。

「ふぅ・・やっと授業が終わったよー・・」

「今日の授業は特に難しかったよ・・参った、参った・・」

 青のショートヘアの女子の言葉に、黒のツインテールの女子が相槌を打つ。

「ねぇ、どこかで食べていかない?鬱憤晴らしの意味を込めて。」

「賛成♪こうなったらとことん食べちゃうから♪」

 ショートヘアの申し出に、ツインテールが機嫌をよくする。2人はレストランを目指して街に繰り出そうとする。

 そのとき、2人は突如寒気を覚えて立ち止まる。

「ちょっと、何でこんなに寒いの・・・!?

「こんな寒くなる季節でもないのに・・・」

 季節はずれの寒さに、女子2人は体を震わせる。

「仕事に向かおうとしたところで、かわいい子を見つけるなんてね・・」

 そこへ1人の女性が2人の前に現れた。青のドレス調の服に身を包んだ白髪の女性である。

「心配しないで・・すぐにその寒さから解放してあげるから・・」

 妖しく言いかける女性の頬に紋様が走る。直後、彼女の姿が氷の怪物へと変貌を遂げる。

「か、怪物になった!?

「ゆ、夢でしょ!?こんなの!?

 現実離れした出来事に、女子たちが悲鳴を上げる。怪物、スノーガルヴォルスが不気味な笑みを浮かべる。

「夢ね。いいわよ。あなたたちに永遠の夢を見させてあげるわ・・・」

 スノーガルヴォルスはそう告げると、全身から白い風を巻き起こした。その風に吹かれて、女子たちが身構える。

 その女子たちの体が氷が張り付き、徐々に広がっていく。

「何、コレ!?

「体が、凍り付いてく!?

 驚愕の声を上げる女子たち。だがその悲鳴は、彼女たちを完全に凍りつかせた氷によって完全にさえぎられた。

「またいい感じに凍ったわね。気分がよくなってくる・・」

 氷塊に閉じ込められた女子たちを見つめて、スノーガルヴォルスが哄笑をもらす。

「でも寄り道になってしまったわね・・本当の標的を探さないと・・」

 人間の姿に戻ったスノーが、立ち込めている霧の中に姿を消した。その場には凍りついた女子たちだけが取り残されていた。

 

 正義のための力を手に入れたと舞い上がる光輝。彼は先日戦ったガルヴォルスの仲間を探るため、外に繰り出していた。

(あんな怪人がいるなら、あれ1人ということはない。必ず仲間がどこかにいるはずだ。)

 思い立った光輝が急ぎ足になる。馳せる気持ちを抑えきれず、彼は進む道の周囲をくまなく探した。

 その創作を続けていくうち、光輝は街外れの岩場に行き着いていた。

「ふう・・こんなところまで来ちゃったよ・・」

 歩きすぎたと感じた光輝が、大きく息を吐く。

「そろそろ戻ろうかな。黙って家を出てきているんだ。早く帰らないと、また奈美ちゃんに怒られちゃう・・」

 捜索を断念した光輝が、家に戻ろうとした。

 そのとき、この岩場に白く冷たい霧が立ち込めてきた。その冷たさに、光輝がたまらず体を震わせる。

「ど、どうしたんだ・・急に寒くなってきた・・・!?

「こんなところにいたのね・・探すのに苦労したわ・・」

 そこへ声がかかり、光輝がゆっくりと振り返る。その先にいたのは白髪の女性、スノーだった。

「あなたは誰ですか?・・こんな寒いのに、あなたは平気なんですか・・・!?

「寒い?私としてはまだあったかいくらいだけど・・」

 体を震わせながら問いかける光輝に、スノーは余裕を見せて答える。

「あなたがスパイダーを退けたガルヴォルスね。情報はちゃんと届いているわよ。」

「スパイダー?この前現れた怪人のことか・・!?

 スノーの言葉を聞いて、光輝が真剣な面持ちを見せる。

「私、上の人から2つのことを頼まれているの。ひとつはあなたを連れて帰ること・・」

「残念だけど、僕はお前たちのいうことには従わないぞ!世界の平和を守るため、僕は悪いヤツの暴挙を許さない!」

 スノーの言葉を拒む光輝。それを聞いたスノーが、ため息混じりに話を続ける。

「そう。それでもうひとつは・・」

 言いかけるスノーの頬に紋様が走る。

「連れて帰れないときは、その場で始末すること・・」

 口調が冷淡になったスノーの姿が氷の怪物へと変化する。その異形に光輝が緊迫を覚える。

「お前も怪人だったのか!?

「とりあえず凍らせてから、お持ち帰りさせてもらおうかな・・」

 声を荒げる光輝に、スノーが妖しく微笑みかける。彼女の体から白い吹雪が解き放たれる。

 その吹雪にあおられて、光輝の両足が氷に包まれる。

「あ、足が動かない・・・!?

「フフフフ。私の氷はちょっとやそっとじゃ割ることも溶かすこともできないわよ・・」

 うめく光輝を見つめて、スノーが笑みを浮かべる。彼の体を、凍結が徐々に蝕んでいく。

「さて、じっくり凍らせてあげるわ。そうすれば辛いのもなくなるから・・」

 スノーが言いかけると、吹雪を強める。身構える光輝の中で、強い意思が湧き上がってくる。

(負けられない・・僕は世界の平和のために、眼の前の敵と戦わなくちゃいけないんだ・・・!)

 光輝が力を入れると、彼の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「僕は、お前たちの企みを止める!」

 叫ぶ光輝から光が放出し、体を凍てつかせていた氷を打ち破る。

「ウソッ!?私の氷を、こんな簡単に・・!?

「変身!」

 驚愕の声を上げるスノー。光輝が掛け声を上げるとともに、異質の存在、シャインガルヴォルスへと変身する。

「フフフフ。けっこう強そうじゃないの・・もう少し楽しめそうね・・・!」

 おもむろに笑みを見せたスノーが、光輝に向けて吹雪を巻き起こす。だが光を放つ光輝に触れることすらなく、吹雪は拡散されていく。

「凍らせるのは簡単じゃないみたいね・・残念だけど、少し痛い目にあわせてからじゃないといけないね・・」

 スノーは再び笑みを見せると、氷の刃を出現させ、右手で握る。そして彼女は飛びかかり、光輝に向けて刃を振り下ろす。

 光輝は反応して、その刃をかわす。だがスノーは吹雪を放って、光輝を吹き飛ばして反撃を封じていく。

「どうしたの?私が本気になったらたいしたことないじゃないの。」

 悠然と言い放つスノーに対し、光輝は打開の糸口を探っていた。

(何か思いつくんだ・・この怪人を倒す何か・・作戦とか、技とか・・技?)

 思考を巡らせた光輝の脳裏に、普段見ているヒーロー番組のシーンが映し出される。ヒーローの醍醐味、必殺技。

「これが、僕の必殺技だ!」

 思い立った光輝がスノーとの距離を取る。彼女を見据えて、彼は右足に意識を集中する。

 その右足にまばゆいばかりの光が宿る。そして光輝はスノーに向かって駆け出し、その勢いのまま飛び上がる。

「必殺!シャイニングシュート!」

 高らかに叫んで、光輝が光を宿した右足を振りかざす。その飛び蹴りが、スノーの体に叩き込まれる。

「ぐっ!」

 強烈な一撃を受けてうめくスノーが、大きく突き飛ばされる。横転した彼女が立ち上がろうとしたとき、攻撃を受けた部分から光が体に広がり出す。

「か・・体が・・うああぁぁーー!!!

 絶叫を上げるスノーが、爆発するかのようにその光に包まれて消滅する。着地した光輝が力を抜くと、人間の姿に戻る。

「やった・・何とか勝てた・・・」

 安堵を見せた光輝がその場に座り込む。

「だけど、悪の組織というのはまだまだこんなもんじゃない・・何としてでも本拠地を見つけて悪事を止めないと・・」

 気を引き締めた光輝が立ち上がり、家へと戻っていった。謎の組織、サターンの暗躍を止めるため、彼は気持ちを新たにするのだった。

 

 痴漢の濡れ衣を着せられ、取調べを受けさせられた利矢。だがその取調べも一方的な尋問と同列で、利矢は弁解を入れることもできなかった。

 冷たい牢獄の中で、利矢は心身ともに疲弊しきっていた。

(どうして・・どうして僕がこんなことに・・・)

 自分の身に降りかかった不条理を強く呪う利矢。

(どうして警察は、僕の言うことを聞いてくれないんだ・・・僕は今まで、罪に該当する行為はした覚えはない・・痴漢なんて、僕がやるわけが・・)

 利矢の心の中に、どす黒い感情が芽生えつつあった。

(認めない・・こんなの僕は、絶対に認めない・・・!)

「出してくれ!僕はやっていない!ここから出してくれ!」

 利矢が叫んで鉄格子を殴りつける。その騒ぎを聞きつけて、見張りの警官たちが駆け込んできた。

「おい、静かにしろ!」

「出してくれ!僕は無実だ!なのにどうして僕の言葉を誰も聞いてくれないんだ!」

「黙れと言っているんだ!」

 叫び続ける利矢に、警官が警棒を叩きつけてきた。警棒は鉄格子に衝撃を与え、利矢がその衝動にあおられて突き飛ばされる。

「往生際が悪いぞ、貴様!自分の犯した罪を悔い改めろ!」

「ふざけるな!・・こんなの・・こんなの認めるものか・・・!」

 怒鳴りかける警官に、利矢が鋭く言い放つ。

「何が罪だ・・何が正義だ・・こんな間違った正義・・・」

 振り絞るように言い放つ利矢の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。

「オレがぶち壊してやる!」

 叫ぶ利矢の体から漆黒のオーラがあふれ出す。同時に彼の体が異質の怪物へと変貌する。

「な、何だ、これは!?

「バ、バケモノ!?

 その姿を目の当たりにした警官たちが驚愕する。利矢から放たれる衝撃波で、牢屋の鉄格子が吹き飛ばされる。

「許さない・・お前たちは、絶対に許すものか!」

 感情をむき出しにして叫ぶ利矢。警官たちがたならず銃を手にして発砲する。

 だが放たれた弾丸は、放出している黒いオーラに接触した途端、弾けるように蒸発し、消滅する

「な、何っ!?

「効かない!?

 弾丸をかき消されたことに、警官たちがさらなる驚愕を見せる。

「そんなことで、オレを止められると思っているのか!?

 咆哮を上げる利矢からあふれ出ている黒いオーラが動きを見せる。影のように床を這い、突き出て警官たちの体を貫いた。

「ぐはっ!」

 吐血する警官たち。影のような動きを見せたオーラは、刃となって彼らを刺したのだ。

 事切れた警官たちの体が石のように固まり、そして砂のように崩れて崩壊を引き起こした。

 力を抑える利矢が、刑務所の外を目指して歩き出す。その彼に向けて、牢屋にいる罪人たちが声を上げてきた。

「お願いだ!オレを助けてくれ!」

「アンタのようなすごいヤツなら、殺人も強盗もやり放題だぜ!」

 歓喜の声を張り上げる罪人たち。だがその直後、利矢から放たれたオーラの刃が、罪人たちの体を貫いた。

「なっ!?

「何で・・!?

 思わぬ出来事に愕然となる罪人たち。彼らの体からも鮮血がほとばしる。

「正義は許せないが・・悪を許したつもりもない・・・」

 冷徹に告げると、利矢は再び歩き出していった。牢獄から出てきた彼を待っていたのは、警備していた警官たちの迎撃だった。

 次々と発砲をする警官たち。だがそれらの弾丸も全て、利矢から放たれるオーラにかき消されていく。

「こ、こんなバカなこと・・・!?

 恐怖と絶望に打ちひしがれる警官たち。利矢はオーラを解き放ち、警官たちを情け容赦なく惨殺していった。

 

 利矢は1人歩いていった。静寂に満たされた林道を。

 刑務所は地獄絵のような光景へと変わり果てていた。警官、罪人が全て惨殺され、地面や建物は血みどろになっていた。

 利矢の心から正義は失われていた。今まで信じてきた正義が非情なものでしかないと悟り、彼はそれに対する憎悪に駆り立てられていた。

(偽りの正義など、オレが壊してやる・・・)

 正義への反逆を強く誓い、利矢は林道を進んでいった。

 

 

次回予告

 

サターンのガルヴォルスの暗躍。

闇に紛れての奇怪な事件が多発する。

その陰謀を暴くべく、疾走する光輝。

ガルヴォルスの魔手が、奈美に迫る。

 

次回・「暗躍」

 

 

作品集

 

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