ガルヴォルスLucifer

EPISODE3 End of bonds-

第7章

 

 

 体を石にされ、心さえも恍惚で満たされたミナとユウマ。このときもミナたちは恍惚の赴くままに、抱擁を続けていた。

「もう、あのときからかなりたっている・・石になって動けず、このままエッチをしていくのか・・・」

 ユウマが自分たちの行く末に絶望感を募らせていく。

「このまま何もできないままなのか・・こうしてミナといるのが幸せなのか・・・」

 ユウマが目が虚ろになっているミナを抱き寄せていく。

「確かにこうして、オレたちはオレたちの時間を過ごしていられる・・邪魔してくるヤツはアイツだけ・・・」

 寄り添ってくるミナのぬくもりを感じながら、ユウマがランのことを考えていく。

「このままでいれば、オレたちは安心していられるのか・・・」

「私がそれで納得できても・・・」

 するとミナがユウマに向けて声をかけてきた。

「ユウマは納得できないよね・・・」

「ミナ・・・」

 物悲しい笑みを浮かべてくるミナに、ユウマが戸惑いを覚える。

「誰の身勝手にも振り回されたくないのが、ユウマが考えていたこと・・たとえそれがどんなに優しくて安心できる形だったとしても・・・」

「身勝手に振り回されているなら、それだけで安心できないことになる・・納得できるわけないだろ・・」

「そうだよね・・ユウマだったら耐えられないよね・・こんな状態・・・」

 ユウマの気持ちと考えを確認して、ミナが苦笑をこぼす。

「でも、もうどうにもならない・・力が使えなくなった私には、石化を解くことができない・・・」

「それで諦めるのか?・・妥協してしまうのかよ・・・!?

「したくないよ・・でもどうしたらいいのか、全然思い浮かばない・・・」

「くっ・・本当に、何か方法が分かれば・・・」

 石化から脱する方法が分からず、ミナは苦悩を募らせ、ユウマは歯がゆさを感じていた。

「とにかく、元に戻ることを願ってみたら・・・でも・・・」

「でも・・・?」

「元に戻ったらきっと、私はお姉ちゃんと争うことになる・・お姉ちゃんを傷つけたくない・・でも、ユウマのことも大切で・・・」

「ここまで来たら、もうどっちかしか選べないぞ・・・」

 思いつめるミナに、ユウマが真剣な面持ちで言いかける。

「ここまで来たなら、ミナ自身が答えを決めてしまえよ・・別にオレは、オレを認めてほしいとか選んでほしいとか、そんなわがままを押し付けるつもりはない・・そんなやり方、オレの嫌いなものだ・・」

「ユウマ・・・」

「オレを選ばないで姉さんを選ぶんだったら、オレは文句は言わない・・」

 考えを口にしてくるユウマに、ミナが戸惑いを感じていく。

「分かっているのは、オレとアイツ、どちらかしか選べないということだ・・」

「ユウマと、お姉ちゃん・・・」

「もうはっきりさせないとダメだ・・・」

 ユウマが投げかける忠告に、ミナは困惑を感じていく。考えを巡らせてから、ミナは覚悟と決意を決めた。

「もう、私は迷わない・・覚悟を決めた・・だから・・」

 ミナは真剣な面持ちを見せて、ユウマを優しく抱きしめた。

「私は念じる・・石から元に戻ることを・・・」

 ミナは目を閉じて意識を集中する。彼女は石化から抜け出そうとしていた。

「力が出なくても使う・・私は元に戻る・・・!」

 ひたすら石化から抜け出すことを念じていくミナ。

 そのとき、ミナの体から淡い光があふれ出してきた。光は徐々にユウマにも伝わっていく。

「ミナ・・力が、戻ったのか・・・!?

 ユウマもミナが力を発揮しているのを確信した。ミナからあふれてくる光は輝きを増していって、2人の心の中に広がっていった。

 

 ランによって石化されていたミナとユウマ。しかしミナの思念が光になってあふれ出してきた。

 光は一気にあふれてきて、ミナとユウマが元に戻った。2人は石化から解放されて、思わず倒れて床に横たわった。

「戻ってる・・元に戻れた・・・」

 ミナが自分の両手や体、ユウマを見て、自分たちが元に戻ったことを確かめる。

「よかった・・まだ力が使えた・・・」

「だけど、着ていたものは元に戻ってないみたいだけど・・」

「えっ・・・!?

 安堵を覚えたところでユウマに声をかけられて、ミナが動揺を覚える。彼女は改めて、自分たちが裸のままであることに気付く。

「・・・でももう、あそこまで裸で一緒にいたら・・」

「イヤでも慣れてしまう、か・・・」

 互いに苦笑いを見せ合うミナとユウマ。

「それでミナ・・お前の、答えは・・・?」

 ユウマが問いかけると、ミナが微笑んで顔を近づけてきた。突然の口づけに一瞬驚くも、ユウマはこの感覚に気持ちを委ねていく。

 ユウマから唇を離して、ミナが真剣な面持ちを見せた。

「これが、お前の答えか、ミナ・・」

 ユウマの声にミナが小さく頷いた。

「もう、私は迷わないよ・・ユウマ・・・」

 ミナがまたユウマを抱き寄せて、彼の顔を自分の胸の谷間に押し当てた。2人は再び抱擁と恍惚を堪能していった。

(失ったときに傷つくほうはどっちなのか、本当は考えたくなかったのに考えてしまった・・)

 ユウマとの抱擁の中、ミナは心の中で呟いていた。彼女のこの声はユウマには伝わっていない。

(もしかしたら、これが直感なのかもしれない・・私自身でも下し切れていなかった、私の本当の気持ちと決断だったのかもしれない・・・)

 ユウマの性器が秘所に入ってきて、ミナが一気に恍惚を膨らませていく。

(私が選んだのはユウマ・・ユウマがいれば、私が迷うことはもうない・・・)

 迷いを振り切ったミナが、快楽に心を揺さぶられながらも安らぎの笑みをこぼしていた。

 

 リオと別れて屋敷に戻っていくラン。その途中、彼女は突然違和感を感じて足を止めた。

(この感じ・・私の力に何かが起こった感じ・・・)

 ランが異変を察して、感覚を研ぎ澄ませる。

(石化が解かれた・・・それはない・・私に石化されたら、ガルヴォルスの力も封じ込められる・・ガルヴォルスでも、自力で石化を破ることはできない・・・)

 ランが石化が解かれたのかという疑念にも気付く。

(まさか、ミナが・・でも、いくらミナが私と同じ力を持っていても・・・)

 ミナのことを思い出して、ランが苦悩を感じていく。

(戻ったほうがいいかもしれない・・またミナたちを心配させるのはよくないし・・・)

 ランは改めて屋敷に戻ることを心に決めた。彼女は意識を集中させて、屋敷へと自分を移動させた。

 ランがたどり着いたのは、屋敷の中、ミナたちがいるはずの部屋だった。

(ここで、何があったの・・・!?

 ランは感覚を研ぎ澄ませたまま、部屋の中を見回していく。

(ミナ・・・!?

 そしてランはミナとユウマがいないことに気付いた。

「ミナ!?どこなの、ミナ!?

 ランが慌ててミナを探すが、彼女とユウマの姿は部屋のどこにもない。

「まさか、本当に自力で・・・ありえない!」

 押し寄せてくる不安を拒絶しようとして、ランが首を横に大きく振る。

「誰かが連れて行ったなら、今の私ならすぐに気づける・・・!」

 ランが部屋の中だけでなく、部屋の前も見回ったが、それでもミナとユウマを見つけられない。

「・・・聞くしかない・・ミナがどこにいるのか・・・」

 ランが振り返って、寧々と紅葉に目を向けた。彼女は2人に近寄って、意識を傾けた。

 

 心の中で2人だけの時間を過ごしていた寧々と紅葉。寄り添い合っていた2人の前に、心の中に入ってきたランが現れた。

「ランさん・・・!」

「ミナはどこ・・どこに行ったの・・・!?

 緊張を覚える寧々と紅葉に、ランが問い詰めてくる。

「ミナはあなたたちと同じ状態にあった・・石化を解かない限り、自分で動けるはずがない・・・!」

「それをやったんだよ・・ミナちゃんが、自分の力で・・・」

 寧々が口にした答えに、ランは一瞬耳を疑った。

「あなたも知ってるんでしょ・・ミナちゃんも、あなたと同じ力を持ってることを・・・」

「それじゃ・・ミナが本当に、自力で石化を・・・!?

 寧々の言葉を聞いて、ランが愕然となる。

「ありえない・・いくら私と同じ力を持っていても、石化されていたのではその力も使えない・・・!」

「でも元に戻ったわ・・ミナちゃんが、ユウマくんと一緒に・・・」

 事実を否定しようとするランに、紅葉も深刻な面持ちで言いかける。

「違うと言い張るんだったら、確かめに行けばいい・・イヤでも会うことになると思うよ・・ミナちゃんだったら、あなたをそのままにしてはいかないから・・」

「ミナ・・・ミナ・・ミナ!」

 寧々に促される形で、ランは慌ただしく彼女と紅葉の心から出て行った。

「ミナちゃん、ユウマくん、大丈夫かな・・・?」

「こうなったら信じるしかないよ・・ミナちゃんなら、ランさんを何とかしてくれるって・・」

 不安の言葉を口にする紅葉に、寧々がミナへの信頼の言葉を言う。

「ミナちゃんには、とっても辛いことになるけど・・でも、ミナちゃんなら・・・」

 寧々が自分の胸に手を当てて、ミナへの思いを募らせる。

「ミナちゃんならきっと・・・」

 寧々の思いに紅葉が小さく頷く。2人は戸惑いを抑えようと、互いを抱きしめ合った。

 

 寧々と紅葉の心から意識を戻したラン。彼女はすぐにミナの気配を感じ取ろうと、感覚を研ぎ澄ました。

(ミナ・・どこにいるの、ミナ・・・!?

 ひたすらミナを追い求めるラン。

(ミナを守りたい・・そのために私は世界を変えてきた・・ミナがいなくなったら・・ミナが離れていってしまったら・・私・・・!)

 ミナを失う絶望に沈まないように、ランは意思を強く持とうとする。彼女の感覚がついにミナの気配を捉えた。

「いた!・・間違いない・・ミナ・・・!」

 ミナへの想いを募らせて、ランは部屋を出て、屋敷の外に出た。

(ミナ、ユウマくんと一緒に移動している・・この方向は・・・)

 ミナたちの居場所を探りながら、ランは次々に転移していく。移動を続けていくうちに、ランは1つの確信を覚える。

「もしかしてミナたち・・私たちの家に向かっているんじゃ・・・!?

 ランは込み上げてきた確信に突き動かされるように、自分たちの家に向かっていった。

 

 ランにかけられた石化から抜け出したミナとユウマ。2人は彼女とランがかつて過ごしていた家にたどり着いた。

「ここは・・お前と姉さんが暮らしていたときの家・・・」

「うん・・ここは、私とお姉ちゃんをつなげている原点でもあるから・・・」

 呟きかけるユウマに、ミナが家の中、部屋を見回していく。

「私とお姉ちゃんは、ずっとここで暮らしてきた・・いじめや権力に振り回されてなかったら、私もお姉ちゃんも何も辛い思いをすることなく、ずっと平和に、安心して暮らしていたはずだった・・」

「けど、ミナはいじめに、姉さんは権力に振り回された・・それで、アイツもお前も力を求めて、力にも振り回されて・・」

「私とお姉ちゃんの大きな違いは、世界をいいように振り回している敵を滅ぼそうとしたことと、矛盾だらけの世界であっても安心して暮らそうとしたこと・・」

「それが、お前たちの大きな分かれ道になったわけか・・・」

「ユウマがいたからだよ・・ユウマが止めてくれなかったら、多分、私もお姉ちゃんみたいになっていたと思う・・・」

 戸惑いを感じていくユウマに微笑みかけて、ミナが寄り添った。

「今はお姉ちゃんじゃない・・ユウマが私の心の支えになっている・・」

「ミナ・・・」

「わがままだと思ってくれていい・・私、ユウマがいないと、どうかなってしまいそう・・・」

 ユウマを抱きしめて感情を見せてくるミナ。悲しさを込み上げてくる彼女を、ユウマも抱きしめてきた。

「オレが思っていること、お前に先に言われてしまったな・・・」

「ユウマ・・・」

「オレも、お前がいないとどうかなってしまう・・オレのほうがわがままだな・・」

「そんなことない・・そうだとしても、お互い様だよ・・・」

 肩を落とすユウマに、ミナが苦笑いを見せた。

「やっぱり、ここにいたのね・・・」

 そこへ声をかけられて、ミナとユウマが振り返る。ランも家にたどり着いて、2人の前に現れた。

「やっぱり・・お姉ちゃんに気付かれていたね・・」

 ミナがランに向けて物悲しい笑みを浮かべる。

「お姉ちゃんも分かっているよね?・・私とお姉ちゃんが暮らしてきたここは・・・」

「私とミナの思い出の場所・・そして私たちのつながりの原点・・・」

 自分たちの平穏な日常の記憶を思い返していくミナとラン。

 不条理によってミナたちの日常は壊された。その日常を取り戻そうと願っていた2人だが、ランは不条理を世界から徹底的に排除しようとして、ミナは不条理の残る世界の中でただただ日常を取り戻すことだけを願い続けていた。

 そしてもうすぐ自分たちの平穏な日常を取り戻せると確信していたランに対し、ミナはもう2度とランとの時間を過ごせないことを痛感していた。

「もう1度一緒に過ごそう、ミナ・・ユウマくんも一緒に・・これからは私が、あなたたちを守るから・・・」

 ランが手を差し伸べるが、ミナが首を横に振る。

「もうダメだよ・・私はもう、どちらかしか選べない選択を選んだから・・・」

「どちらかしか選べない選択・・・?」

「お姉ちゃんか、ユウマか・・・」

 困惑を募らせるランに言いかけて、ミナがユウマに寄り添う。

「そして私は・・ユウマを選んだ・・・」

「ミナ・・・!?

「もう、ユウマがいないと私、自分を保てなくなってしまう・・・」

 目を見開くランの前で、ミナがユウマへの想いを告げる。

「私はもうお姉ちゃんとは一緒にいない・・これからもユウマと、一緒の時間を過ごしていく・・・」

「イヤ・・私は・・ミナがいないと・・自分を保てない・・・!」

 決心を告げるミナに、ランが感情をあらわにする。

「私たち、戦わないといけないみたい・・・」

「・・・外に出よう・・ここでやったらいけないから・・・」

 覚悟を見せるミナにランが呼びかける。ミナが頷いてから、ユウマに声をかけた。

「ユウマはここで待っていて・・多分すぐに終わるから・・」

「いや、オレも行く・・お前たちだけで勝手に終わらせてたまるか・・」

 ミナに声をかけられても、ユウマは頑なな意思を見せる。

「ミナ・・・うん・・どこまでも一緒だね・・・」

 ミナはユウマに微笑んでから、ランに視線を戻して真剣な面持ちを見せた。

「行こう、お姉ちゃん・・誰もいなくて、何もないところのほうがいいよね・・・」

「うん・・ミナが納得するところでいいよ・・・」

 ミナとランが声を掛け合って、ユウマと一緒に家を出た。3人は人気のない草原にやってきた。

「ここならいいよね・・周りにもガルヴォルスもいないし・・」

「うん・・ここでいいよ、お姉ちゃん・・・」

 ランが投げかけた言葉にミナが頷いた。

「私は守るよ・・ユウマを・・私たち自身の居場所と安心を・・・」

「ミナ・・そこまで、自分たちのことを・・・」

 困惑を見せるランの前で、ミナが背中から白と黒の翼を広げた。

「たとえお姉ちゃんでも・・私たちのこれからを奪わせない・・壊させない・・・!」

 ミナが意思を強くして、ランに向けて衝撃波を放つ。ランも思念を送って、ミナの衝撃波を拒絶して打ち消した。

「私とあなたは同じ力・・」

「思っただけでその通りにしてしまう力・・・」

 ランとミナが自分たちの力のことを口にしていく。

「でもこの力を使っても、心だけは変えることができない・・」

「だから私もユウマも、お姉ちゃんの思い通りには完全にはならなかった・・・」

「今度こそ、あなたたちは私が守る・・もう辛い思いはさせたくない・・・!」

「私たちは私たちの手と思いで、これからを過ごしていく・・邪魔してくるなら、誰だろうと容赦しない・・・!」

 それぞれの意思と決意を貫こうとするランとミナ。2人がまた思念を送っていくが、ことごとくぶつかり合って相殺されていく。

(取り押さえられない・・ミナには私がどうしようとしているのかが分かっていて、それを打ち消してきている・・)

 思念を思念で打ち破られていることに、ランは当惑を感じていく。

(もう1回で石化でも何でもしないと・・でも、それでも拒絶されたら・・・)

 ミナを取り押さえるための打開の糸口を、ランは探っていく。しかし思考を巡らせるほどに、彼女は不安を募らせていく。

(私はミナを守るために全てを賭けてきた・・そのためにどんなことでもしてきた・・何でも変えようともしてきた・・・)

 ランの心にこれまで自分がしてきたことがよみがえってきていた。

(不条理を徹底的に消して、世界の敵に処罰を下して、世界を正しい形にした・・それはみんな、ミナが安心して暮らしていけるようにするため・・)

 ミナが一方的に虐げられるのを、ランは我慢することができなかった。誰かに理不尽を与えて、それが正当化されるのは絶対に許せなかった。

 ミナを守るため、ランはかつての世界を敵に回して、世界を正しくすることを選び、実行してきた。

(だから、私がミナを守れなくなったら・・私は私でいられなくなる・・・!)

 自分に言い聞かせて、ランが続けてミナに束縛の思念を送っていく。

 破壊や苦痛の思念を送ることもできるが、それはミナを傷つけることになり、それこそランのミナへの思いを裏切り踏みにじることになる。

「お願い、ミナ!止まって!私の気持ちよ、届いて!」

 ランがひたすらミナに思念を送り続ける。

「拒絶して・・お姉ちゃんの力を拒絶して・・・!」

 ミナが研ぎ澄ませていく思念が、ランが送り続ける思念を打ち消していく。

「その形じゃ、私もユウマも押さえられないよ・・私が押さえさせないけど・・・」

 ミナがランに向けて言いかける。

「私はユウマと平穏な時間を過ごしたい・・世界がどうなろうと、私たちを陥れようとしてこなければどうでもいい・・」

 ミナが自分とユウマの思いを口にしていく。

「お願い、お姉ちゃん・・できることなら、お姉ちゃんを手にかけたくない・・・」

「退けない・・私がミナを守ってあげないと・・・」

 忠告を送るミナだが、ランは頑なに想いを貫こうとするばかりだった。

「お姉ちゃんは私を守るために押さえつけようとしているみたいだけど・・私は、私とユウマを守るためなら、命を奪うことも迷わない・・・」

 ミナがランに対して目つきを鋭くする。本当にミナは迷いを捨てていた。

「どうして・・どうしてあなたは私を・・・!?

 ミナから拒絶されたことに、ランが心を揺さぶられていく。

「お姉ちゃんの言いなりになってしまったら、私もユウマも自分らしさを失ってしまうから・・・」

「私のしていることが、ミナを追い込んでいる・・・」

 ミナが投げかけてくる言葉に、ランが心を揺さぶられていく。

「そんなことない・・私がミナを傷つけてはいない!」

 さらに自分に言い聞かせて、ランが感情に任せてミナに思念を放つ。

「止まって!ミナを止める!」

 感情をむき出しにして、ランがミナに強い思念を送っていく。

「止まらない!私たちは止まらない!」

 ミナが言い放つと、ランが投げかけた思念がかき消された。ミナはラン以上の意思の強さを秘めていた。

「止める・・止めてみせる・・・私が守ってあげないと、ミナは・・ミナは・・・!」

 呼吸と感情を落ち着かせて、冷静さを取り戻そうとする。彼女は深呼吸をしてから、ミナに真剣な眼差しを送る。

「そう・・私がいなかったら、ミナはずっと不条理に苦しめられることになる・・・」

「不条理が襲ってきたら、私が全部跳ね返す・・ユウマも守ってみせる・・・」

「そうしたら・・ミナに負担がかかることになる・・それじゃダメなの・・・!」

「いいんだよ、それで・・私、いつまでも守られてばかりのままの私でいたくない・・・」

 互いの意思を投げかけ合うランとミナ。ランがゆっくりとミナに近づいていく。

「たとえミナでも・・ううん、私自身でも、この思いは変えられない・・私の願い・・」

 自分自身の揺るがない思いを抱えて、ランはミナの眼前で足を止めた。

「私はミナを守る・・・絶対に・・・!」

 ランは声を振り絞って、ミナに石化の思念を送った。しかしミナの体が石にならない。

(えっ・・・!?

 自分の全てを賭けた思いを込めた力がはねのけられたことに、ランは目を疑う。

(私の気持ちは・・本当にミナには伝わらないっていうの・・・!?

 一気に絶望感に襲われて、ランがミナの目の前で地面に膝をついた。

 ランはなぜ自分が倒れたのか理解できなかった。ミナが思念を送って危害を加えたのではないことを、ランは分かっていた。

(どうして!?・・私はミナから何もされていないはず・・・!?

 自分が倒れた理由を必死に考えるラン。動けないでいる彼女を、ミナが悲しい眼差しを向けてきていた。

「お姉ちゃん・・・そこまで私を、思い通りにしたかったんだね・・・」

 ミナが悲しみを込めた言葉を口にする。彼女のこの言葉を耳にして、ランは愕然となった。

(違う・・私が倒れたのは・・ミナを守れないことに、私自身が絶望したから・・・)

 ランがここで、自分が倒れて力尽きた理由を痛感した。自分が抱えていた希望が打ち砕かれたと無意識に思ったことで、ランは力が出なくなってしまった。

「私は・・・私はまだ・・ミナを守れていない・・・私は・・ミナを・・・」

「もういいよ・・お姉ちゃん・・・」

 声と力を振り絞るランに声をかけるミナ。ミナの目からうっすらと涙がこぼれ落ちてきていた。

「もう、お姉ちゃんと私の願いは・・違うんだよ・・違っていなかったら・・こうしてすれ違うことも、傷つけ合ったりすることも、最初からなかった・・・」

「ミナ・・・」

「私はユウマと一緒に過ごす・・もう、お姉ちゃんとの時間は、叶わない願いになってしまった・・・」

 絶望から抜け出せずにいるランに、ミナが物悲しい笑みを見せた。

「さようなら・・・お姉ちゃん・・・」

 ミナはランに背を向けて、ゆっくりと歩き出していった。

「待って・・待って、ミナ・・行かないで・・・!」

 ランが手を伸ばすが、ミナは立ち止まろうとしなかった。ミナはランの前から姿を消してしまった。

 しかしランの目には、ミナが立ち止まって振り返ってきたように見えていた。

「ミナ・・あなたは私が守る・・・これからはもう絶対に離れ離れにならない・・・」

 見えてくるミナに向かって、ランが喜びを感じて微笑みかけていく。彼女は完全に現実を拒絶して、自分が望んで、思い描いた世界に完全に入り込んでしまっていた。

「ミナ・・もう離れないよ・・ミナ・・・」

 ミナの幻に語りかけていくラン。彼女の目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。

 物悲しい笑みを浮かべているラン。それはミナを守れると思い込んでいる喜びなのか、1番の希望を打ち砕かれた絶望なのか。その答えはラン自身にも分からなくなっていた。

「ミナ・・・ミナ・・・」

 ミナへの想いにとらわれたまま、ランは倒れて動かなくなった。そして彼女の姿は音もなく消えていった。

 

 ランとの戦いと決別を経て、ミナはユウマの前まで戻ってきた。

「終わったみたいだな・・・ミナ・・?」

 声をかけたユウマが、ミナが体を震わせていることに気付く。

「ミナ・・・お前・・・」

「ゴメン、ユウマ・・分かっている、つもりでいたんだけど・・・やっぱり・・どうしても・・・」

 戸惑いを覚えるユウマに言いかけて、ミナが体を震わせる。こらえようとしていた彼女の涙が、流れて地面に落ちていった。

「やっぱり、私のお姉ちゃんだから・・・!」

「ミナ・・分かっている・・分かっている・・・!」

 ユウマが言いかけて、ミナを抱き寄せた。突然の抱擁にミナは一気に心を揺さぶられた。

「ユウマ・・・ユウマ!」

 抑えていた感情をあらわにして、ミナがユウマに泣きじゃくった。姉、ランを失った悲しみを、ミナは泣き叫んで発していく。

「私・・お姉ちゃんを・・お姉ちゃんを・・・!」

「もう言うな・・お前が覚悟を決めてやったことだろ・・・」

「でも・・・!」

「それでも辛いとか悲しいとか思えてならないなら、思いっきり泣けばいい・・悲しめばいいだろうが・・・」

 困惑しているミナに、ユウマも歯がゆさを感じながら言いかける。それからミナはユウマに抱かれたまま、ひたすら泣き続けた。

「オレも・・オレが大事にしているヤツに何かあったらイヤになる・・ミナ、もちろんお前に何かあってもだ・・」

「ユウマ・・・ありがとう・・・」

 自分の気持ちを正直に言うユウマに、ミナが感謝の言葉を口にした。

「もう、あそこには帰れない・・お姉ちゃんと、完全に別れたから・・・」

「そうか・・・そうだな・・・」

 ミナが涙を拭って呼びかけると、ユウマが小さく頷いた。

「私はユウマを選んだ・・私自身がユウマを選んだ・・・」

「オレもミナを選んだ・・オレにできることはないのと同じだけど・・」

「そんなことない・・ユウマがいたから、今の私がいる・・・」

 抱擁を終えて、ユウマとミナは歩き出していく。2人はこの後も手を握ったまま、今住んでいる家に戻っていった。

 

 

 

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