ガルヴォルスLucifer

EPISODE3 End of bonds-

第8章

 

 

 ランの命が消えたことで、彼女に石化されていた人々が元に戻った。寧々と紅葉、早苗と佳苗も石化から解放された。

「私たち、元に戻った・・・」

「私たち、助かったんだね・・あのままだったら本当にどうしようかと・・」

 紅葉と佳苗が声を上げて、周りを見回す。同じく石化されていた人々も、動揺の色を隠せなくなっていた。

「私たちが元に戻ったということは・・・」

 早苗がランのことを思い出して、一抹の不安を覚える。彼女が口にした言葉を聞いて、紅葉と佳苗も不安を感じていく。

「ランさんに何かがあったんだよ・・きっと、ミナちゃんが・・・」

 寧々がランのことを思って、深刻さを募らせていく。

「でも、ランさんが解いたってことも・・」

「それはないよ・・世界の敵を排除して、ミナちゃんや、苦しさや辛さを抱えてる人を守るのがランさんの信念で希望だから・・・」

 佳苗が言いかけるが、寧々は首を横に振る。

「ミナちゃん・・・ユウマくん・・・」

 ミナとユウマのことも気にして、寧々が困惑していく。

「とにかく、今はみんなをここから無事に出すことが先決よ。外と連絡を取って、事情を説明しないと・・」

「うん・・・すぐに、ミナちゃんたちと会えればいいんだけど・・・」

 早苗が言いかけると、寧々が不安と戸惑いを募らせていく。

 早苗は先に部屋を出て、近くの別の部屋でシーツを手に入れて、自分の体に巻きつけた。屋敷には外と連絡するものが全く置いていなかった。

「何もない・・ランさんに石にされたときに、服も携帯もみんな壊れてしまったから・・・」

 早苗は肩を落としてから、外に出て連絡を取ろうとした。しかし続いて部屋から出てきた寧々に呼び止められる。

「ここはあたしが行くよ。何もないのに外の森を抜けるのは危ないよ・・」

「でも寧々さん、あなたが行ってもそれは・・」

「あたしはガルヴォルスだよ。抜けることぐらい全然平気だよ。」

 早苗が言いかける前で、寧々がドッグガルヴォルスになる。

「それじゃ行ってくるよ。うまく連絡して戻ってくるから・・」

 寧々は早苗に言いかけると、屋敷の外へ飛び出していった。

(ここでも、あなたに頼るしかないなんて・・・)

 自分の無力を感じて、早苗は物悲しい笑みを浮かべていた。

 

 寧々が連絡に向かったことで、警察は屋敷に向かって動き出した。ランに石化されてときに裸にされた女性たちは、警察に保護されることになった。

 紅葉、早苗、佳苗も寧々と合流して、替えの服を着ることができた。それから彼女たちはミナとユウマを探しに出た。

 少し捜索したところで、寧々たちはミナとユウマの居場所を見つけた。

「やっぱり家に戻ってたんだね・・でも・・」

「今はそっとしておいたほうがいいかもしれないわね・・」

「はい・・すぐにここから出ていくってことはないと思うから・・明日にでも会いに行けば・・・」

 寧々、早苗、紅葉が家の前で声を掛け合う。

「とりあえず手紙だけ残しておこう。私たちのことは、とりあえず知らせておかないとね・・」

 佳苗はメモを書き残して、家のポストに入れた。

(ミナちゃん、ユウマくん、明日また来るからね・・・)

 心の中でミナたちへの言葉を呟いて、寧々は家を離れた。紅葉たちも1度家を後にした。

 

 寧々たちが家の前まで来ていたのを、ミナは気付いていた。しかしミナは寧々たちを呼び止めようとしなかった。

「寧々ちゃん・・みんな、無事でよかった・・・でも、今は会う決心がつかない・・」

「今はそれでもいいだろ・・向こうも気を遣ったみたいだし・・」

 戸惑いを浮かべて言いかけるミナに、ユウマが憮然とした態度を見せる。

「ところで、もう落ち着いたのか・・・?」

 ユウマが問いかけると、ミナが首を横に振る。

「お姉ちゃんだから・・・どうしても割り切るには時間がかかってしまうかな・・・」

「オレもだ・・今は強がるしかない・・そうしないとおかしくなりそうだから・・・」

「私は・・強がりもできない気分だけど・・・」

 自分の気持ちを口にするユウマに、ミナが苦笑いを浮かべた。しかしすぐに2人の表情が曇る。

「今日はこのまま・・ユウマと一緒にいたい・・・」

「オレもだ・・今日はもう、このままお前と・・・!」

 互いに気持ちを言い合うと、ユウマがミナを抱きしめて、そのままベッドに飛び込んだ。2人は一糸まとわぬ姿で、互いのぬくもりを感じ合っていた。

 ミナとユウマは今抱えている悲しみに囚われてしまわないように、ひたすら抱擁とふれあいに身を委ねていった。2人は口づけを交わして、感触と恍惚を確かめていく。

(これで、よかったのかな?・・・私もお姉ちゃんも、満足だったのかな・・・?)

 ミナが心の中でランへの思いと悲しみを感じていく。

(ユウマを選んだのは私・・お姉ちゃんを拒絶したのも私・・・後悔しないはずなのに・・・)

 ユウマに触れられていって、ミナがあえいでいく。

(後悔するのは今日だけ・・これからは私は、ユウマとの日常を過ごしていく・・・)

 ミナは割り切ろうとして、ユウマとの抱擁と快楽に心を浸していこうとする。

(私はもう迷わない・・ユウマと一緒にいられるなら、私はどんなことだってやるよ・・・)

 ユウマとのふれあいを続けながら、ミナはだんだんと決意を固めていく。

「ユウマ・・もっと・・もっと入ってきて・・・!」

「伝わってくる・・ミナの気持ちが・・・!」

 さらにあえいでいくミナとユウマが、交わりを深めていく。2人は心身ともに恍惚に身を委ねていった。

 

 ランが亡くなってから一夜が明けた。ミナもユウマも落ち着きを取り戻しつつあった。

 朝になって目を覚まして、ミナが体を起こして窓越しに外を見つめていた。

 今までが夢であってほしかったという願いと、現実を受け入れようとする覚悟が、ミナの中で錯綜していた。

(認めたくないと思うけど・・今は、私が選んだ未来になっているんだよね・・・)

 ユウマとの日常を選んだことを、ミナは改めて実感していた。

(ユウマとどれだけ一緒に過ごしたかな・・そしてこれから、どれだけ過ごすことになるんだろう・・いつまでもどこまでもずっと一緒にいたいと、私は思っているけど・・・)

 願いと戸惑いを感じていくミナ。彼女が視線を向けると、ユウマも目を開いてきた。

「起きていたのか・・」

「今起きたところ・・今までが夢じゃなかったのかなって思ってしまっていて・・」

 ユウマが声をかけると、ミナが微笑んで頷いた。

「オレはとりあえずは気分は落ち着いてきている・・絶対にどうかならないって確信もないけど・・・」

「私もそんなところかな・・」

「これからどうなるのか分からない・・オレたちも、世界も・・」

「もしかしたら、私たちも世界から狙われるかもしれない・・でも、そのときは私たちは・・」

 戸惑いを感じながら、ユウマもミナも決心を貫こうとしていた。

「オレはお前に比べたら、できることは全然少ない・・こんなオレと、いつまでもいてくれるか・・・?」

「もちろんだよ・・・ユウマがいるから、私は私でいられるんだから・・・」

 ユウマの問いかけにミナが微笑んで頷く。2人はまた抱擁を交わして、ぬくもりと決心を確かめ合った。

「今度こそ寧々ちゃんたちに会いに行かないとね・・」

「あぁ・そうだな・・・」

 ミナが声をかけて、ユウマが憮然とした態度を見せる。2人はベッドから起きて、服を着て部屋を出た。

 そのとき、家のインターホンが鳴り出した。

「寧々ちゃんたちだよ・・」

 寧々がユウマに笑みを見せてから、玄関に向かった。彼女がドアを開けると、寧々、紅葉、早苗、佳苗がいた。

「ミナちゃん、ユウマくん・・落ち着いてきたかな・・?」

「うん、何とか・・・迷惑をかけて、ゴメン・・・」

 心配の声をかける寧々に、ミナが物悲しい笑みを浮かべて謝る。

「いいよ、ミナちゃん。ミナちゃんのほうがずっと辛い思いを抱えてきたんだから・・」

「いえ・・これはお姉ちゃんと、私が起こしたことですから・・・」

 紅葉も励ましの言葉を投げかけるが、ミナは首を横に振る。

「でもこれは私が選んだこと・・私がユウマを選んで、お姉ちゃんと別れることを選んだ・・」

「それは、あなたが悩んで考えて、たくさんのことを経験して導き出した答え・・誰もあなたたちを責めることはできないわ・・」

「そうだよ、ミナちゃん。私たちはミナちゃんを信じてるよ。」

 物悲しい笑みを浮かべるミナに、早苗と佳苗も励ましの言葉を送る。

「ありがとうございます・・早苗さん・・佳苗さん・・・」

「みんな・・本当にすまない・・オレたちのために・・ミナの姉さんのために・・本当に・・・」

 ミナに続いてユウマも寧々たちに謝意を見せた。彼も謝意を示したことに、寧々たちは心の中で驚きを感じていた。

(これまでのことで、ユウマくんも変わったということね・・・)

 早苗が心の中でユウマの心境の変化を喜んで微笑みかけていた。

「私たちは私たちの時間を過ごしていく・・この先どうなるか分からないけど・・・」

 ミナが自分たちの決心を寧々たちに告げる。

「できるならもうこの力を使いたくない・・でももし誰かが、私たちのこれからを邪魔しようとしてくるなら、そのときは・・・」

「ミナさん・・どんな理由であっても、人殺しは罪になるの・・そうなったらあなたたちは・・」

「でもそれは、向こうが人殺しや、それ以上の罪を私たちに犯してきたときの最後の手段・・もう私たちは、不条理に屈するつもりもないです・・」

 早苗が苦言を呈するが、ミナたちの決心は頑なだった。

「私たちは私たちを守るために生きます・・これからも・・・」

「ミナちゃん・・ミナちゃんもガンコってことだね・・」

 ミナの固い決心に、寧々が苦笑いを浮かべた。

「ミナちゃん、何かあったらミナちゃんたちだけで抱えないで、あたしたちにも声かけてね。遠慮はなしだからね。」

「寧々ちゃん・・でも・・」

「ミナちゃんたちに何かあってたまんないのは、あたしたちも同じなんだから、それは忘れないでね・・」

「寧々ちゃん・・紅葉さん、早苗さん、佳苗さん、ありがとうございます・・・」

 寧々に励まされて、ミナが改めてお礼を言った。

「オレたちは今まで通り、ここで暮らしていく・・」

 ユウマが寧々たちにもう1度告げてきた。

「本当に決意と覚悟はできているみたいね、あなたたち・・」

 早苗はひとつ吐息をついてから、ミナとユウマの肩に優しく手を添えてきた。

「寧々さんが言ったように、自分たちで抱え込まないで、私たちを頼りにして・・」

「はい・・そうします・・」

 早苗に励まされて、ミナは笑顔を見せた。

「今夜はみんなで食事にしましょう。私たちの知り合いに、久々に挨拶しに行きたいし。」

「そうですね、早苗さん。連絡は私たちでします。」

 早苗の提案に紅葉が微笑んで答える。

「いろいろドタバタしちゃったけど、あたしたちの知り合いを紹介するね。と言っても、あたしたちもしばらく会ってなかったんだけど・・」

 ミナとユウマに紹介をして、寧々が照れ笑いを見せる。彼女たちはその知り合いとしばらく会っておらず、連絡も会わなくなってからの長い時間、数えるほどしかやり取りをしていなかった。

「会いに行こう、ユウマ・・知り合いが増えていくのはいいことだから・・」

「オレはあまり騒がしくなるのはイヤだけどな・・」

 ミナが言いかけると、ユウマは憮然とした態度を見せた。彼の反応を見て、ミナは笑みをこぼしていた。

 

 ランが命を落としたという知らせは、世界中の政府や自治体に広まった。日本でも今後の情勢の判断について、会議を行っていた。

「天上ランはこれまで力で我々や世界を押さえつけ、混乱を招いてきた。」

「今やその脅威は去った。情勢を立て直すのは今だ。」

「不安要素を一気に解消しよう。」

 議員たちが次々に意見を交わしていく。

「改悪された情勢を全て元に戻す。」

「そして天上ランの妹、天上ミナを排除する。ヤツもまた世界を混乱に導くことになる。」

「しかし天上ミナにも、天上ランのような力を持っていると聞く。」

「ならばなおさら放置するわけにはいかん。今のうちに対策と排除を。」

「しかし天上ランのときのように、瞬く間に殺されることに・・!」

「これは天上ランでも取りざたされていた問題だ!排除しなければ世界は乱れたままだぞ!」

「逆らえば死あるのみのあの力・・我々にどのような手立てが・・!?

 議員たちの議論は過激化するばかりで結論が出ず、混迷を極めていく。

「天上ミナは天上ランと違い、国や世界の情勢には精通していない。」

「このままこちらが手を出さなければ、向こうも何もしてこないのでは・・?」

「あの危険人物を野放しなどできるか!」

「すぐに排除に出るべきだ!そのためには手段は選ばん!」

 議員たちはいきり立って、ミナの排除を決定しようとしていた。

 そのとき、会議場の扉が吹き飛ばされた。扉の前にいた警備員たちが、血しぶきを上げながら吹き飛ばされてきた。

「何事だ!?

 議員たちが声を荒げる。会議場にソードガルヴォルスとなっているリオが入ってきた。

「ガルヴォルス・・ここに乗り込んできたのか・・!」

「お前たち・・本当に性懲りもなく、不条理を振りまいているようだな・・」

 身構える議員たちにリオが冷徹に告げる。

「お前たちは死ななければ分からない・・いや、死んでも理解しようとすらしないのだろうな・・お前たち自身の傲慢が、自分たちだけでなく全ての首を絞めつけていることを・・」

「バケモノがふざけたことを!我々は国や世界を正しい形に戻して・・!」

 リオの言葉に議員たちが反発する。するとリオが刃を振りかざして、議員たちを斬りつけた。

「もはやお前たちと会話することは無意味だ・・ここで全員葬って、愚かさを分からせる・・・」

「おのれ、ガルヴォルス・・ヤツをすぐに始末しろ!」

 冷徹に告げるリオに対して議員たちがいきり立つ。だがソードガルヴォルスであるリオに敵うはずもなかった。

 会議場にいた議員や警備員たちは、リオによって全滅させられた。

 

 寧々たちとの再会を果たしたミナとユウマ。その時間から数日がたって、寧々から2人に連絡が届いた。

「お店の近くで待ち合わせしようって、寧々ちゃんが・・」

「ここから割と近かったとはな・・すっかり通り過ぎていたわけか・・」

 声をかけるミナに、ユウマが肩を落とす。

「私たちは私たちの新しい時間を過ごす・・そして、新しい出会いを経験していく・・」

「それがいいものになればいいけどな・・」

「それは私も同じ願い・・いい方向になってくれたらって、いつも思う・・」

「そうだな・・ならないとしてもオレたちがする・・オレたちの生き方だ・・・」

 ミナとユウマが言葉を交わして笑みを見せ合う。2人は徐々に落ち着きを取り戻して、安心した日常を送ろうとしていた。

「そろそろ行こう・・みんなを待たせたらいけないし・・」

「あぁ・・そうだな・・」

 ミナが声をかけてユウマが答える。2人は家を出て、寧々たちと待ち合わせている場所に向かった。

「本当に落ち着いている感じ・・今までの何もかもが夢だったみたい・・」

「だけど、オレたちの見えていないところで、勝手な連中がまだ何か企んでいるかもしれない・・」

「それでも、私たちは私たちの日常を送る・・・」

 ユウマと会話を交わして、正直な気持ちを口にしていくミナ。

「もうこの力を使うつもりはない・・でももし、私たちを追い込もうとするものが出てきたら、そのときは迷わない・・・」

「ミナ・・・」

 真剣な面持ちを浮かべるミナに、ユウマは戸惑いを感じていた。

 そのとき、ミナが唐突に足を止めてきた。

「ミナ、どうした?・・誰か来たのか・・・!?

「うん・・寧々ちゃんたちじゃない・・これはガルヴォルスだよ・・・」

 問いかけるユウマに、ミナは真剣な面持ちを崩さずに答える。次の瞬間、2人の周りをガルヴォルスたちが取り囲んできた。

「いたいた・・天上ランの妹だ・・」

「天上ランがいなくなった今、コイツもやっつけちまえばオレたちの思い通りになるってもんだ・・」

「妹のほうもとんでもねぇ力を使うんだろうが、もうビビったりしねぇぞ・・」

 ガルヴォルスたちがミナとユウマに迫っていく。しかしミナもユウマも動じた様子を見せていなかった。

「私たちの邪魔をしないで・・私たちを追い込むようなことをしなければ、何もしてこない・・」

「フン。そんなんでオレらが尻尾巻いて逃げると思ってんのかよ!」

 ミナが忠告を送るが、ガルヴォルスはいきり立って飛びかかってきた。

「聞き入れてくれたら、何もないままだったのに・・・」

 ミナが背中から白と黒の翼を広げる。次の瞬間、飛びかかってきたガルヴォルスたちが突然動きを止められた。

「何っ!?・・体が、動かない・・!?

「ちくしょう!放せ!放しやがれ!」

「やめてくれ!助けてくれ・・うわあっ!」

 うめくガルヴォルスたちがミナとユウマから遠ざかっていく。ミナが目つきを鋭くすると、ガルヴォルスたちは空中で粉々に吹き飛ばされた。

「私とユウマの日常を壊させない・・そのためなら、私は・・・」

「ミナ・・・」

 低く呟くミナに、ユウマが戸惑いを浮かべる。するとミナが振り返って、笑顔を見せてきた。

「行こう、ユウマ・・寧々ちゃんたちを待たせたらいけないからね・・」

「ミナ・・大丈夫なのか・・・?」

「私は大丈夫だよ、ユウマ・・これも、私が選んだことだから・・・」

 ユウマの問いかけにミナが微笑んだまま答える。

「よく考えたら間違っていることかもしれない・・それでも・・それでも私はユウマとこれからも・・・」

「ミナ・・・そうだな・・もしもオレがミナみたいな力を持っていたら、同じ気持ちでいるかもな・・」

「ユウマ・・この力で辛い思いをするのは、私とお姉ちゃんだけで十分だよ・・ユウマまで背負うことはないよ・・」

「ミナ・・・」

 戸惑いを募らせるユウマにミナが抱き着いてきた。その彼女をユウマも抱きしめてきた。

「ホントにしょうがないヤツだ、お前は・・」

「エヘヘ・・自分でもそう思うよ・・自分でもどうしようもないくらいに・・」

 ユウマが言いかけると、ミナが照れ笑いを浮かべた。

 世界がどのように動いてきても、自分たちに害が及ばない限りは一向に構わない。ミナはそう思っていた。

「行こう・・私たちの、安心して暮らす日常へ・・」

「あぁ・・」

 安息を感じながら、ミナとユウマは歩き出した。2人は歩いていった先で、寧々、紅葉、早苗、佳苗が待っていた。

「寧々ちゃん、紅葉さん、早苗さん、佳苗さん!」

「寧々ちゃん、ユウマくん!」

 ミナと寧々が手を振って、駆け寄って握手を交わした。

「だいぶ落ち着いてきたみたいだね、ミナちゃんもユウマくんも。」

「うん、まぁ・・時に1度何もかも忘れて、羽を伸ばすこともいいことなのかもしれない・・」

「大丈夫だよ、もう・・これ以上ミナちゃんたちに悪いことが起こるなんてないって・・」

「そうだといいんだけど・・そうあってほしいって、私もユウマも願っているよ・・・」

 寧々とミナが会話をして、ユウマと紅葉たちに目を向けた。

「本当に大丈夫みたいね、ミナちゃんとユウマくん・・」

「そうね。2人ともしっかり者になったからね・・」

 ミナとユウマを見て、佳苗と早苗が微笑みかける。

「2人ももう大丈夫・・たくみくんたちやガクトくんたちのように、たくさんのことを経験して答えを出していったのだから・・」

 自分たちの知り合いの姿を思い返して、早苗はミナとユウマにその姿を重ねていた。

「そろそろ行きましょう。みんなが待っているわ。」

「うん。パーティーの準備はできているって。」

 早苗と紅葉が声をかけると、寧々が笑顔で頷いた。ユウマも歩いていくが、戸惑いを浮かべて立ち止まっているミナに気づいて足を止めた。

「ミナ・・・?」

 ユウマがミナに振り返って声をかける。戸惑いを募らせながら、ミナが顔を上げてユウマに視線を戻した。

「行くぞ、ミナ・・」

「ユウマ・・・うん。」

 ユウマに呼ばれて、ミナが笑顔で頷いて歩き出していった。

 

 

世界の不条理によって運命を狂わされた姉妹。

姉は世界から不条理を一掃して、大切な妹を守ろうとした。

妹は不条理をはねのけつつも、平穏な日常を送ろうとしていた。

姉妹はすれ違い、そして袂を分かった。

 

そして妹は平穏な日常を過ごしている。

新しい心の支えとなった、大切な人と一緒に。

 

 

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