ガルヴォルスLucifer

EPISODE3 End of bonds-

第6章

 

 

 ミナたちを追い求めて、寧々は走り続けていた。ついに彼女は、ランの気配を感じ取ることに成功した。

「ちゃんと方向を覚えた・・この先にランさんがいる・・そしてお姉ちゃんが、ミナちゃんたちが・・・!」

 思い立った寧々がドッグガルヴォルスになって速度を上げる。彼女は夜空の下を駆け抜けて、ランのところへ急ぐ。

(あたしはもう迷わない・・お姉ちゃんを助けるためなら、ランさんを・・・それで、ミナちゃんたちを悲しませることになっても・・・)

 寧々は自分自身の決意を固めていた。迷いを振り切った彼女が出した答えは、姉である紅葉を助けること。

 そのためならランを傷つけることもいとわない。寧々はそう考えていた。

 そして寧々は街外れの森林の中にある邸宅の前にたどり着いた。

「ここにランさんが・・もしかしたら、お姉ちゃんたちもここに・・・」

 改めて気を引き締めた寧々が、邸宅のドアを開いて中に入っていった。

 

 ランに体を束縛されて性交をさせられるミナとユウマ。激しい恍惚に襲われて、2人があえぎ声を上げていく。

「イヤなのでも苦しいのでもない・・気持ちよくなっているのが、私にも伝わってきているよ・・」

 呼吸を乱していくミナとユウマを見て、ランが微笑みかける。

「お姉ちゃん・・どうして、こんなこと・・・!?

 ミナがランに目を向けて声を振り絞る。

「これが・・辛さや苦しさを忘れさせてくれる・・あなたたちは、こうして気持ちを確かめ合ったんでしょう・・?」

「それは・・でも、これは私たちが考えをひとつにしてから・・・」

「もう気持ちや理屈じゃなくなっている・・だからこそ、あなたたちは一緒に・・・」

 ランが投げかける言葉に言い返そうとするミナだが、強まっていく恍惚に耐えきれなくなって、彼女もユウマも息を絶え絶えにする。

「このまま、イヤなことを忘れて、2人だけの時間を過ごしていって・・あなたたちが安心してくれるのが、私の幸せになる・・」

「うあぁぁ・・ぁあああぁぁ・・・!」

 ランが見つめる前で、ミナとユウマがさらにあえいでいく。ユウマが恍惚に突き動かされて、ミナの胸に手を当てて揉んでいく。

「ユウマ・・もしかして・・この気分に・・・!?

 ミナが動揺を募らせながら、ユウマを見つめる。ユウマは目が虚ろになって、抗うことができなくなっていた。

「ユウマ・・・お姉ちゃん・・ユウマをこれ以上追い込まないで・・・!」

「追い込んでいない・・ユウマくんは、気持ちよさの中にいるの・・」

 呼びかけるミナに、ランが微笑みかけてユウマに目を向ける。

「ミナ・・あなたも気分をよくしていけば、イヤなことを忘れられる・・・」

「私は・・・私は・・・!」

 囁くランに言い返そうとするミナだが、ユウマと口づけを交わされた瞬間に恍惚に耐えられなくなってしまう。虚ろになった彼女の目から涙があふれた。

「そう・・それでいい・・・」

 ランが微笑んで、無意識に抱擁を続けていくミナとユウマを見つめていく。

「このまま2人だけの時間を過ごしていて・・あなたたちのことは、これからは私が守っていくから・・」

 ランが呼びかけて、ミナとユウマから離れていく。

「もう辛いことを抱えなくていい・・私がみんなを守るから・・・」

 2人に想いを伝えてから、ランは彼らの心から離れていった。

 

 ミナとユウマの心から意識を戻したラン。ミナとユウマが安らいでいると感じて、ランは喜びを感じていた。

「これであなたたちは、本当に心から安心していられる・・自分たちだけの時間の中で、辛さや苦しさを感じることのない、終わりのない幸せを過ごすことができる・・・」

 ランが改めてミナの石の頬に手を添える。

「これからはあなたたちは私が守る・・紅葉さんも早苗さんも佳苗さんもいる・・みんないるから、さびしい思いをすることもない・・・」

 部屋を見回していくラン。紅葉も早苗も佳苗も石化したまま立ち尽くしていて、今も彼女とミナたちの様子を耳に入れるだけとなっていた。

「もう寧々ちゃんも連れてこないと・・寧々ちゃんにも紅葉さんにも、これ以上さびしい思いをさせたくは・・」

 ランが寧々のことを気にしたときだった。彼女は誰かが近づいてくるのを感じ取った。

「もしかして・・寧々ちゃん・・・?」

 寧々が近づいてきたと思って、ランは振り返った。

「もう少し待っていて、ミナ、ユウマくん・・紅葉さん・・・」

 ミナたちに優しく声をかけると、ランは歩き出して部屋を後にした。

 

 森林の中で見つけた邸宅の中に飛び込んだ寧々。彼女は明かりのない廊下を走り続けていた。

(お姉ちゃん・・ここにいるんだよね!?・・どこにいるの・・・!?

 紅葉を追い求めて、寧々が感覚を研ぎ澄ませていく。ドッグガルヴォルスとなっている彼女の感覚は、最大限に研ぎ澄まされていた。

「そろそろ連れてこようと思っていたけど、わざわざここまで来てくれたのね、寧々ちゃん・・」

 そこへ声が飛び込んできて、寧々が一気に緊迫を募らせる。振り返った彼女の前に、ランが姿を現した。

「ランさん・・・!」

「久しぶりね、寧々ちゃん・・ずっとさびしい思いをさせて、ゴメンね・・」

 息をのむ寧々に、ランが妖しく微笑みかける。

「お姉ちゃんはどこ・・どこにいるの!?

 寧々が声を張り上げて、ランを問い詰める。

「こっちに来て・・みんないるから・・・」

「今ここで教えて!あたしが1人で行くから!」

「これから紅葉さんとずっといることになるのだから、ついてくれば会えるわ・・」

「言いなさいよ!」

 手招きしてくるランに寧々が怒鳴りかかる。

「言わないなら、ここであなたの息の根を止める・・そうすれば石化が解けて、お姉ちゃんを助けることができる・・・!」

「そうはいかない・・ミナたちがこれからも安心できるように・・私は負けない・・・」

 敵意を向けてくる寧々に対して、ランが笑みを消す。

「寧々ちゃん・・すぐに紅葉さんのところへ連れて行くから・・・」

「連れて行ってもらう必要はない・・お姉ちゃんを連れて行ったあなたを、あたしは許さない・・・!」

「ミナを、悲しませるわけにいかない・・辛さや苦しさをこれ以上味わわせたくない・・・!」

 ランが寧々に対して念力を仕掛けようとした。だがその瞬間に寧々の姿が彼女の視界から消えた。

 次の瞬間、ランが体に激痛を覚えた。一瞬にして懐に飛び込んだ寧々が、彼女の体に拳を叩き込んだ。

「押さえつけさせない・・その前にあなたを・・!」

 声と力を振り絞る寧々。彼女は再びランに向けて拳を繰り出した。

 だが寧々の拳は空を貫いた。ランが一瞬にして寧々の目の前から消えた。

(自分の力で自分を移動させたってこと・・・!)

 寧々が感覚を研ぎ澄ませて、ランの行方を追う。彼女は気配を感じ取って振り返ると、その先にランはいた。

「感じ取るのも早いね、寧々ちゃん・・」

「あたしは今、ものすっごく怒ってる・・たとえミナちゃんを悲しませることになっても・・あたしはアンタを倒して、お姉ちゃんを助ける!」

 微笑みかけるランに、寧々が感情をあらわにしていく。

「ミナたちを悲しませたりしない・・もちろん、あなたたち姉妹も・・・」

 ランが言いかけた瞬間、今度は寧々の姿が彼女の視界から消えた。次の瞬間に寧々の左手がランの右腕をつかんだ。

「今度は確実に息の根を止める・・・!」

 寧々が右手を構えて爪を研ぎ澄ませる。彼女はランの体を貫こうとした。

 だが、寧々は突き出そうとした右手を突然動かせなくなる。

「えっ・・!?

 寧々が力を込めるが、右腕だけでなく、足も体も動かせなくなる。

「分かっているはずよ・・私は思っただけでその通りにできると・・」

 ランが寧々に向けて妖しく微笑む。彼女の思念が寧々の動きを止めていた。

「あたしの力でも・・全然、抜け出せない・・・!」

 寧々が強引にランの仕掛けた束縛から抜け出そうとするが、どんなに力を込めても脱することができない。

「心配しなくていいよ・・このまま紅葉さんのところへ連れて行くから・・・」

「放して・・放して!」

 声を張り上げる寧々だが、束縛に囚われたままランに連れて行かれた。彼女たちはミナたちのいる部屋に来た。

「ここに、みんないるよ・・・」

 ランが言いかけると、寧々が視線を巡らせる。石化された大勢の人たちの姿に、彼女は目を疑う。

「お姉ちゃん・・・!」

 石化した紅葉の姿を見て、寧々が緊張を募らせていく。

「早苗さん・・佳苗さん・・・ミナちゃん、ユウマくんまで・・・!?

 ミナたちも石化されていたことに、寧々は愕然となる。

「どうして・・・妹のミナちゃんまで、こんなこと!?

「こうすれば、ミナを守ることができる・・ユウマくんも、みんなを守れる・・・」

 問い詰める寧々にランが微笑みかける。

「石にして裸にして、思いのままにしている・・それのどこが守ってることになるっていうの!?

「絶対に壊れないし傷つかない・・終わりのない解放感に浸っていられる・・これこそが安心できる形なのよ・・」

「これでみんな安心できてるの!?こんな一方的なので!」

 妖しく微笑むランの言葉。しかし寧々は彼女の言葉が信じられなかった。

「もしもランさんがこんな一方的なことをされたら、どう思うの!?そういうことが許せなかったんじゃなかったの!?

「一方的でも身勝手でもない・・これは救い・・・」

 寧々にさらに問い詰められると、ランが表情を曇らせる。

「罪人への終わりのない罰と、罪のない人への永遠の安心・・それが私の見つけた力・・その力を受けたのがみんな・・・」

「違う・・こんなの、誰も望んでない・・望んでないことを押し付けても・・」

「押し付けでも一方的でもない・・これが救いになると・・・」

「みんなはそう思っているの?・・ミナちゃんもそう思っていたの・・・!?

 問い詰め続ける寧々だが、ランは自分の意思と解釈を頑なにするだけだった。

「実際に救われて守られている・・寧々ちゃん、あなたも、私に・・」

 ランが思念を強めて、束縛を強めていく。体を締め付けられて、寧々はガルヴォルスの姿を維持できなくなる。

「力が出ない・・このままじゃ・・・!

「寧々ちゃん、もうあなたにもさびしい思いも辛さも感じさせない・・紅葉さんといつまでも一緒・・」

 ランは囁くように言いかけて、うめく寧々を紅葉の前に連れて行く。寧々が床に足を付けたときだった。

  ピキッ ピキッ

 寧々の両足が石化に襲われた。靴も靴下も吹き飛んで、石になった彼女の素足があらわになった。

「石に・・ランさんがあたしまで・・・!」

 石化をかけられたことに、寧々が絶望を感じていく。動こうとする彼女だが、石になった両足は動かない。

「これであなたも解放される・・紅葉さんと一緒にいられる・・」

「こんな形で一緒にいられたって、あたしもお姉ちゃんも嬉しくない・・結局アンタの手の中じゃない・・・!」

 微笑みかけるランに寧々が鋭い視線を向ける。

「私は支配とかそういうのをするつもりはない・・これで安心させられるなら・・・」

  ピキッ パキッ パキッ

 石化が進行して、寧々のズボンが引き裂かれる。さらに身動きが取れなくなって、彼女が焦りを募らせていく。

「もう大丈夫・・もうあなたたちは、離れ離れになることはない・・・」

「ランさん・・もう、あなたには、みんなの気持ちを受け止めようって心がなくなっちゃったの・・・!?

 喜びと安心を感じていくランに、寧々は絶望を感じていた。彼女は困惑したまま、紅葉に目を向けた。

「ゴメンね、お姉ちゃん・・助けに来たのに・・・」

 寧々が紅葉に悲しさを見せる。石化している紅葉は何の反応も見せなかったが、彼女の意識は寧々の悲しさを感じ取っていた。

“寧々・・私・・寧々のこと、守れなかった・・寧々を悲しませて、今もこんな思いをさせて・・・”

 寧々への謝意を募らせていく紅葉。彼女の石の体を、寧々が優しく抱きしめる。

「結果的に・・ランさんの言う通り・・これでもう離れ離れにならなくなるのかな・・・」

 紅葉に言いかけて、物悲しい笑みを浮かべる寧々。

  ピキキッ パキッ

 石化がさらに進行して、寧々は紅葉との抱擁を外すことができなくなる。

「お姉ちゃん・・・ミナちゃん・・・ゴメン・・・」

 紅葉だけでなく、ミナたちにも謝る寧々。彼女は力なく紅葉に寄り添った。

  ピキッ パキッ

 髪や顔も石に変わって、寧々は紅葉を見つけることしかできなくなる。

(助けることが・・できなくて・・・ゴメンね・・・)

    フッ

 悲しさを抱えたまま、寧々も完全に石化に包まれた。目からあふれていた彼女の涙も途切れた。

「これで寧々ちゃんも安心できる・・みんなが安心していられる・・・」

 ランが喜びを感じながら、寧々と紅葉に近づいていく。

「寧々ちゃん、あなたももうさびしい思いをすることはないわ・・紅葉さんと、ずっと一緒にいられる・・・」

 ランが寧々の石の頬に優しく手を添える。石化した寧々は何の反応も示さない。

「やっと再会できたあなたたちの気持ちを、私も見届けたいと思う・・・」

 ランが意識を寧々と紅葉に傾ける。彼女は2人の心の中に意識を入り込ませた。

 

 ランによって石化された寧々は、心の中で紅葉と再会していた。

「寧々・・・」

「お姉ちゃん・・・ゴメン・・・」

 戸惑いを浮かべる紅葉に、寧々が悲しい顔を見せて謝る。

「お姉ちゃんを助けられなかったし・・ミナちゃんたちも守れなかった・・・あたし・・あたし・・・」

「いいよ、寧々・・何もできなかったのは私のほう・・」

 自分を責める寧々に紅葉が言いかける。

「寧々を守れなくて、辛い思いをさせて・・今も寧々がこんなことになったのに、何もできなくて・・・」

「お姉ちゃん・・・ゴメン・・ゴメンね・・・!」

 互いに謝る紅葉と寧々が、寄り添い合って抱きしめ合う。2人は互いに悲しみを噛みしめ合っていた。

「寧々ちゃん・・紅葉さん・・・」

 その2人の前にランが現れた。ランは寧々たちを見て妖しく微笑む。

「ランさん・・ここまで来るなんて・・・!」

 寧々がランに対して身構えて、紅葉とともに離れようとする。しかしランが傾けた思念で、2人とも動きを止められてしまう。

「また、ランさんの力で、体が言うことを・・・!」

「そう構えないで・・あなたたちを安心させたいだけ・・・」

 うめく寧々にランが囁くように言いかける。ランが近寄ってきて、寧々と紅葉を抱きしめさせる。

「胸と胸が触れ合って、腕も触れ合って、足も触れ合っていく・・こうして体も心も一緒でいられるのよ・・」

「ランさん・・いい加減に目を覚まして・・これ以上ミナちゃんを追い込まないで・・・!」

 寧々がランに向かって呼びかける。しかしランは妖しい微笑みを消さない。

「ミナたちは安心しているよ・・2人だけの時間を過ごしている・・」

「ランさん・・・!」

「2人の邪魔は誰にもできない・・私が2人を・・ううん、あなたたちも、みんな守るから・・・」

 自分の気持ちを告げるランに、紅葉も寧々も困惑を向けるしかなかった。

「紅葉さんも寧々ちゃんも、2人だけの時間を過ごしていけばいい・・あなたたちの邪魔をするものもないから・・」

「ランさん・・ミナちゃんを守っているつもりで、そのミナちゃんを困らせてるのに、いい加減に気づきなさいって・・!」

「私はミナを困らせてなんていな・・」

「困らせてるじゃない!」

 頑ななランに、寧々が腹を立てて声を張り上げる。

「私はこれからはミナたちを守っていく・・それが私のやるべき・・」

「守っていない!守っていない!困らせてる!困らせてる!」

 ランが口にする言葉を、寧々が意固地になって叫んでさえぎる。

「私がこれからはみんなを守る・・私がみんなを・・・」

「ランさん・・・!」

「あなたたちは、あなたたちの時間を過ごすといいよ・・ミナとユウマくんみたいに・・これからも、ずっと・・・」

 緊張を募らせる紅葉に、ランが自分自身の気持ちを伝える。ランは寧々と紅葉から離れていく。

「ランさん!・・・お姉ちゃん・・あたし・・・!」

 ランを呼び止めるも伝わらず、寧々は紅葉に悲しみと辛さを浮かべる。

「寧々・・もう私たちは、こうして抱きしめていることしかできないのかな・・・」

 紅葉に抱きしめられて、寧々が戸惑いを感じていく。彼女は様々な感情とともに、恍惚も込み上げてくる。

「お姉ちゃん・・ミナちゃん・・・ゴメン・・ホントにゴメン・・・」

 紅葉、ミナたちに謝る寧々。心を完全に揺さぶられた寧々は、感情のままに紅葉に寄り添った。

 

 寧々と紅葉の心から意識を戻したランが、ミナとユウマに目を向けた。

「あなたたちを守るために、私は世界を正しくする・・世界の敵は、絶対に世界にいてもいけない・・・」

 ミナたちを守るため、世界を乱す敵を一掃しようとするラン。

「また待たせることになるけど・・心配しなくていいよ・・・」

 ミナたちに告げてから、ランは部屋を出た。再び行動を起こそうとした彼女の前に、大勢の議員たちと警官たちが立ちふさがってきた。

「天上ラン、貴様の行動はもはや暴挙の域を確実に超えている。」

「たとえどれほどの力を有していようと、我々は貴様をこれ以上野放しにするわけにはいかない。」

「貴様の言動は、確実に国や世界を乱すことになる。」

 議員たちがランに敵対の意思を示す。するとランがため息をついてから、冷たい視線を彼らに向けてきた。

「これまで散々この国や世界を無茶苦茶にしてきたあなたたちが・・自分たちの身勝手を棚に上げて、私を世界の敵だと言ってくるとは・・」

「そういって貴様は我々の議論や決定を、力で押さえつけてきた。」

「そしてその暴挙は国民にまで及ぼそうとしている・・!」

 ランの言葉に対して、議員たちが慄然とした態度で言いかけてくる。

「国や国民を脅かすマネをさせるわけにはいかん・・!」

「もはや拘束さえも意味をなさない・・ここで貴様を処分する!」

 議員たちが言い放つと、警官たちがランに向けて銃を構えてきた。しかしランは態度を変えない。

「国や人々を守るなどと言っておいて、自分たちの身勝手を正当化させようとする・・あなたたちも、世界を乱す敵になっている・・・」

 ランが目つきを鋭くして、議員たちに向かって歩き出す。

「あなたたちも、世界を正しくするために処罰されないといけない・・・」

 彼女に向かって警官たちが発砲する。だが弾丸はランに命中する前に弾け飛んだ。

「き、効かな・・!」

 驚愕を見せた瞬間に、警官たちが次々に体を引き裂かれて、鮮血をまき散らした。ランの思念が彼らの体と命を吹き飛ばしたのである。

「お前たちは結局は理解していなかった・・たくさんの人やものを利用して言い訳にして、自分たちの思い通りに何もかも好き勝手にしていた・・・」

「違う!我々は本当に国や国民のための行動と対応を・・!」

「そう言い張っても思い込んでも、お前たちはねじ曲げている・・事実も、この世界も・・・」

 議員たちの言葉に憤りを感じて、ランが思念を送り込む。

「ぐあっ!」

 彼女の思念によって、警官も議員たちも体をバラバラに引き裂かれていく。

「でも私たちをねじ曲げることはできない・・何でも思い通りにできると思うのは、滑稽以外の何でもない・・」

 冷徹に告げたランが、生き残った議員の1人に歩み寄っていく。

「そうやって我々を虐殺して、本当に平和が訪れると思っているのか・・・!?

 声を振り絞る議員に、ランが冷たい視線を送る。

「今は感情と恐怖に振り回されて流されることがあったとしても、最終的に誰も貴様を受け入れない・・結果、貴様はさらなる虐殺を繰り返して、貴様は確実に地獄に堕ち・・!」

 目を見開いて叫ぶように言い放つ議員も、体をバラバラにされて昏倒した。返り血のしぶきを受けながらも、ランは冷たい表情を変えない。

「地獄に堕ちるのはお前たちのほう・・みんなを虐待するのも、誰も受け入れてもらえないのも・・・」

 ランは目を閉じて、さらなる思念を送る。彼女にかかっていた血が全て吹き飛んで消えた。

「誰も何も、不条理や世界の敵を裁こうとしない・・法もヤツらに操作される始末・・」

 ランが自分やミナが受けてきた不条理を思い返して、憤りを募らせていく。

「だから私が何とかするしかない・・私が世界を正しくしていく・・・」

 目を開いたランが歩き出していく。彼女が去ったこの場には、一面に広がる血だまりと地獄絵が残っていた。

 もはや世界を正しくするために、自分が手を出すしかない。ランの決意は迷いがなく、さらに強まっていた。

 

 ランの力と言動は、確実に世界を動かしていた。これまでいじめや不条理を強いられてきた人たちは、ランに知らせようと脅しをかけて、いじめをしてきた人たちはおとなしく、そして怯えて過ごすことを余儀なくされていった。

 ランの断罪は老若男女、職業や地位の差別なく行われていた。子供を処罰されたことに激高した親も、子供がいじめをしていたことを理解していなかったとして一蹴された。

 ランが願っていた形に、世界は変えられていった。戦争も犯罪も激減して、人々は平穏な日常を送るようになっていった。

 自分たちも安らげる世界になったはずにもかかわらず、ランは完全に納得することができないでいた。

「これで世界はよくなった・・よくなっているはずなのに・・・」

 気持ちがスッキリしなくて、ランが気落ちしていく。

「これが私たちが願っていたことなのに・・私自身の手で実現させたことなのに・・・」

 心から納得することができず、ランが苦悩を感じていく。

「ううん、私がしたことが間違ったことじゃない・・間違っていると思ってしまったら、私がここにいる意味がなくなる・・・」

 自分に言い聞かせて迷いを振り切るラン。

「しっかりしないと・・でないとミナたちが安心できなくなってしまう・・・」

 気持ちを落ち着かせて、ランが目つきを鋭くする。

「私がやらないと・・私が・・・」

「ここまで世界を変えてしまうなんて・・・」

 そのとき、ランに向けて声がかけられた。彼女が振り返った先にいたのはリオだった。

「あなたは、この前の・・・」

「これで世界にある不条理は大きく減った・・私としても安心できる方向に向かっている・・・」

 戸惑いを見せるランに、リオが冷たい眼差しを送ってくる。

「でも、あなたは心から納得できているの・・・?」

 リオが投げかけた言葉に、ランが眉をひそめる。

「自分が思い描いていた理想郷が現実になってきている・・それなのに心の底で納得ができていないと思っている・・」

「そんなことはない・・そんなことは・・・」

「気のせいということもある・・どっちにしても、迷いがあるなら振り切るしかない・・自分の中にある意思を貫くしかない・・」

 言葉を返そうとするランに、リオがさらに言葉を投げかける。するとランがリオのように落ち着きを取り戻していく。

「そう・・この願いと決意を貫く・・私は、今までそうしてきた・・ミナを、ミナたちを守るために・・・」

「私には力があっても、守るものは何もない・・でもあなたには守れるものがある・・それだけの力も・・・」

「そうね・・その力と決意で、私は世界の敵を処罰してきた・・」

「お前は私に対して何をするのか?・・何もしないのか・・・?」

「今は何もしない・・あなたが世界の敵になったり、私たちに危害を加えようとしない限りは・・・」

 対峙していないものの、互いに警戒を見せ合うリオとラン。2人はそれぞれの頑なな意思を貫こうとしていた。

「ここにいたか、天上ラン・・・!」

 その2人の前に男たちが大勢現れた。

「剣崎リオもいるぞ・・好都合というところか・・」

「この際だ。2人まとめてここで始末してやる・・!」

 男たちがランとリオに対して敵意を向けてくる。

「私に牙を向けるのは、命を落とすことと同じ・・まだそのことが分からない敵がいたとは・・」

「ただの人間と同じだと思ったら大間違いだぞ・・」

 呟くランに言い返す男たちの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。男たちは全員ガルヴォルスだった。

「ガルヴォルス・・また私を狙ってきたのか・・・!」

 いきり立つリオの頬にも紋様が走る。彼女は右手の甲から刃を出すソードガルヴォルスとなった。

「これだけの数のガルヴォルスが相手だ!いくら貴様でも無事で済むものか!」

 ガルヴォルスたちが言い放って、ランとリオに飛びかかる。だが彼らの大半が次の瞬間にバラバラにされた。

「なっ・・!?

 生き残ったガルヴォルスたちが驚愕をあらわにする。

「ただの人もガルヴォルスも関係ない・・不条理を振りかざす敵は、私が始末する・・」

「バカな!?・・これだけのガルヴォルスでも、手も足も出ない、だと!?・・ありえない・・こんな反則、ありえない!」

 冷徹に告げるランの力が信じられず、ガルヴォルスたちが困惑する。

「私の意思が力となって、敵を確実に断罪する・・」

 ランが再び思念を放って、残ったガルヴォルスたちを一掃した。

「ありがとう、と言っておくわね、あなたには・・私から迷いを消してくれた・・・」

「私はお前に何もしていない・・私は私の意思と決意のために・・・」

 礼を言うランに、人の姿に戻ったリオが慄然としたまま言葉を返す。リオはきびすを返して、1人歩き出していった。

「そう・・私も、ミナのために、私たちが願っていた世界のために、この力を使う・・今までも・・これからも・・・」

 ランも続いてこの場から去っていった。彼女は無意識に小さな涙をあふれさせていた。

 

 

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