ガルヴォルスLucifer
EPISODE3 –End of bonds-
第5章
ミナとユウマまでいなくなって、寧々はいてもたってもいられなくなっていた。
「ミナちゃん・・どこにいるの!?・・ミナちゃん・・・!」
ミナたちへの心配を膨らませて、寧々が携帯電話を取り出して電話をかける。
「ミナちゃん・・ユウマくん・・お願い、出て・・・!」
焦りを募らせながら、寧々はミナたちが電話に出てくるのを願う。しかしつながらない。
(ミナちゃんの強い気配は覚えてる・・あんまり遠くじゃなければ、強く力を出してくれたら、あたしでも感じ取れると思う・・・!)
ミナのガルヴォルスとしての力を記憶して、寧々がさらにミナ、ユウマと連絡を取ろうとする。
(ミナちゃん・・ユウマくん・・出てったら・・・!)
ミナたちが電話に出てくれることを懇願する寧々。すると寧々の携帯電話がつながった。
「ミナちゃん!ユウマくん!今どこに・・!?」
呼びかける寧々だが、携帯電話を通じて耳に入ってくる言葉と音に、彼女は耳を澄ました。
紅葉だけでなく、早苗も佳苗もランによって石化されたことに、ミナは驚愕と絶望感を隠せなくなっていた。
「お姉ちゃん・・どうして、そこまで・・・!?」
「もう起こさせたくないのよ・・悲劇を・・世界を勝手に振り回す敵の暴挙も・・・」
声を振り絞るミナに、ランが自分の意思を告げる。
「敵が何もできず、罪のない人が絶対に辛い思いをしない・・それが1番安心できることになる・・」
「違う・・これこそが、1番辛いことじゃない・・・!」
ランの言葉にミナが言い返そうとする。
「本人の気持ちが全然反映されていない・・自由もない・・それが、救っていることになるの・・守っていることになるの・・!?」
「これでみんなが辛い思いをしなくて済むのなら・・・」
「救えない・・逆にみんなを辛くさせてる・・お姉ちゃん、目を覚まして!」
頑なな意思を示すランに向かって声を張り上げて、ミナが前に出てくる。
「ミナ・・これからは私があなたを守る・・あなたが辛い思いを背負うことはない・・」
「いい加減にしろよ、お前・・・!」
妖しく微笑むランに憤りを投げかけてきたのはユウマだった。
「お前はもうミナの姉さんじゃない・・自分が満足したいだけの最低なヤツだ・・・!」
「違う!」
敵意を向けてくるユウマに、ランが殺意を向けてくる。直後にミナが殺気を放って、互いの力が相殺される。
「お姉ちゃん・・・今・・ユウマを殺そうとした・・・!?」
ランに問い詰めるミナは、目を見開かせていた。
「その人は・・ミナのことを・・・!」
「いくらお姉ちゃんでも・・ユウマを傷つけようとするなら、許せない!」
声を振り絞るランに向けて、ミナが力と感情をぶつける。ランが衝撃に襲われて、突き飛ばされて天井に叩きつけられる。
「ユウマ、大丈夫!?」
ミナがユウマに駆け寄って声をかける。
「オレは何とも・・アイツが何かしてきたのか・・・!?」
ユウマが答えると、ミナが小さく頷いた。
「ユウマは私を支えてくれている・・今ユウマがいなくなったら私、どうなってしまうか分からない・・・」
ミナが自分の気持ちを正直に告げる。今の彼女はランではなく、ユウマを守ることを優先していた。
「いくらお姉ちゃんでも、私の大切な人を奪っていい権利なんてない・・・!」
「権利・・そんなものは散々奪われて、踏みにじられてきた・・・」
睨みつけてくるミナに、ランが歯がゆさを見せる。
「権力というのはね、本当は紙くずの価値もないものなの・・そんな自分勝手と不条理の塊は、簡単に吹いて飛ぶ・・」
「そんなことは十分分かっているよ・・私も、ユウマも・・・」
ランが投げかける言葉に、ミナが物悲しい笑みを浮かべる。
「お姉ちゃんはその敵が許せなくて、世界から消せないと気が済まないと思っているみたいだけど・・私はただ、ユウマやお姉ちゃんと一緒に暮らしていきたかっただけ・・・」
「それを叶えるために、私が世界を変えないといけないの・・・」
「そんなことをする必要なんてない・・したいとも思っていない・・関係ない・・」
安息のひと時のために、一途に平穏に過ごそうとするミナと、それを壊そうとするものを一掃しようとするラン。2人の気持ちのすれ違いは大きくなっていた。
「認めたくないけど・・もうお姉ちゃんとは、一緒に過ごせそうにないみたい・・・」
ミナはランに言いかけて、ユウマに寄り添った。
「私はユウマと、これからを生きていく・・邪魔してくるなら、お姉ちゃんでも容赦しない・・・!」
ランに向けて鋭い視線を向けてくるミナ。彼女は姉であるランとたもとを分かつ覚悟を決めていた。
「ミナ・・そこまでユウマくんのことを・・・」
ランがミナとユウマを見て困惑を感じていく。
「ミナ・・もう迷わないってことだな・・」
「うん・・ユウマと一緒にいる・・・!」
ユウマが投げかけた言葉に頷くと、ミナがさらに彼に寄り添う。2人の姿を見て、ランが意を決した。
「そこまで2人一緒にいたいなら・・・」
ランがミナとユウマに向けて意識を傾ける。2人がとっさに身構える。
ピキッ ピキッ ピキッ
次の瞬間、ミナとユウマの着ていた服が突然引き裂かれた。2人の上半身が石化に襲われた。
「体が石に!?・・お姉ちゃん!」
ミナが驚愕して声を荒げる。ランが彼女とユウマが石化するように念じたのである。
「こうすればあなたたちは一緒にいられる・・その上傷つくこともなく、辛い思いをすることもなくなる・・」
「お前・・どこまで思い通りにしようとするつもりだ!?」
微笑みかけるランに、ユウマが激高する。しかし体が石になっているため、ミナとユウマは思うように動くことができない。
「あなたたちが幸せになれるなら、私はどんなことでもする・・絶対に不幸や絶望という形のままにしておかない・・・」
「認めない・・こんなのが幸せな形でなんて・・・!」
笑みを消すランに言い返して、ミナが意識を集中して石化を解こうとする。
ピキッ ピキキッ
しかし石化が解かれるどころか、さらに進行した。ミナとユウマのはいていたスカートやジーンズが引き裂かれて、下半身もさらけ出された。
「力が・・使えない・・・!?」
自分の力で石化を解除できないことに、ミナがさらに驚愕する。
「石化がかかっていると、ガルヴォルスになることができなくなる・・人の姿でも使えるものも含めて、力も使えなくなる・・」
「それじゃ、私たちはもう・・・!?」
ランが投げかけた言葉に、ミナは絶望を痛感させられる。
「体が、言うことを聞かない・・・くっ・・・!」
ユウマが抗おうとするが、体が石になっていて動くことができない。
「このまま・・このままアイツのいいようになってしまうのかよ・・・!?」
「イヤ・・私も、このまま石になんてなりたくない・・・!」
身動きが取れないまま、ユウマとミナが声を荒げる。
「これであなたたちを守ることができる・・あなたたちだって、もう辛い思いをしなくなる・・あなたたちだけの時間を過ごすこともできる・・・」
ピキキッ パキッ
石化がミナとユウマの手足の先まで及ぶ。2人は互いを抱きしめ合ったまま、ただただ見つめ合っていた。
「ゴメン、ユウマ・・ユウマを守ることもできなくて・・・」
「オレを守ることなんかないのに・・お前ってヤツは・・・」
謝るミナにユウマが憮然とした態度を見せる。2人は目を合わせたまま顔を近づけて、唇を重ねた。
(何でもできてしまう力・・私は心から望んでいたわけじゃない・・・)
ミナが心の中で自分の力のことを思っていく。
(それなのに・・どうしても何とかしたいと思ったときにどうにもならない・・・)
パキッ ピキッ
石化がさらに進んで、ミナとユウマの頬や髪も石に変えていく。
(ユウマを守りたい・・ユウマとお姉ちゃんと一緒に暮らしたい・・・その願いも叶わないなんて・・・)
ピキッ パキッ
口づけを交わしている2人の唇も石に変わる。ミナとユウマはただただ互いを見つめるだけとなっていた。
(どうして・・こんなに現実は非情なんだろう・・・)
フッ
瞳にもヒビが入り、ミナとユウマが完全に石化に包まれた。
「やった・・これでやっと・・ミナを・・・」
ランが2人を見つめて喜びを感じていく。
「これが、私が心から望んでいた世界・・ミナを守ることができる世界・・ミナがどんな不条理や辛さからも傷つくことはない世界・・・」
彼女は石化して立ち尽くしているミナとユウマを抱きしめる。ミナもユウマも何の反応も示さない。
「しかもミナ、あなたが愛しているユウマといつまでも一緒にいられる・・もう離れ離れになることはない・・・」
ランがミナの石の頬に優しく手を添える。そしてランはユウマに視線を移す。
「あなたのことを傷つけようとしてごめんなさい、ユウマくん・・今のミナにとって、あなたが1番の心の支えになっている・・・」
ランがユウマの頬に、そして体を触れていく。
「これからもミナを守りましょう・・ミナを傷つけたくないって気持ちは、同じのはずだから・・・」
ユウマに囁いて、ランが微笑みかける。しかしユウマも何の反応も見せない。
「これでもう私に、失うものは何もない・・あなたたちも、もう絶対に失うことはないのだから・・・」
ランはミナとユウマから離れて、改めて2人を見つめる。ミナとユウマは抱擁して口づけを交わしたまま、ずっと立ち尽くしていた。
「このまま一気に・・世界から不条理を消す・・・」
世界を正しい形にする決意を改めてして、ランが笑みを消す。
「もうちょっとだけ待っていてね・・ミナ・・ユウマくん・・みんな・・・」
ミナたちに告げると、ランは部屋を後にした。彼女に石化されたミナとユウマも、部屋の中に取り残された。
今まで人々の前から姿を見せていなかったランだったが、ついに公に姿を現した。彼女の登場に、人々は動揺や喜びなど、様々な反応を見せていた。
「私は世界の不条理を許さない・・いじめ、強権、自己中心的。自分たちがよければそれでいいという敵は、私が断罪する・・」
ランが自分の考えを口にする。
「一般人であっても、誰かをいじめたり陥れようとしたりする行為は万死に値するものと覚えてもらう・・私はすぐにその身勝手を見つけ、断罪する・・」
ランが自分が見出した答えを告げていく。
「世界の敵は、私が全て排除する・・それを邪魔するなら、それも世界の敵となる・・」
ランは言い終わると、人の行き交う街の広場に降り立った。しかし人々は彼女に対して好意を見せておらず、中には睨んでくる人もいた。
「何ワケの分かんねぇこと言ってんだか・・」
「犯罪者以外で誰が世界の敵になるってんだよ?」
「コイツ、頭どうかしてんじゃないの?アッハハ・・」
男女がランを見てあざ笑ってくる。彼らは危機感もランへの信頼も感じていなかった。
次の瞬間、男の1人の体が突然バラバラになった。飛び散る鮮血と肉片がこの広場に広がった。
「なっ・・!?」
「キャアッ!」
男たちが言葉を失い、女性たちが悲鳴を上げる。ランが彼らに対して冷たい視線を向ける。
「あなたたちは自分たちがよければそれでいいと思っている人間・・あなたたちも排除されないといけない・・」
「ひ、人殺し!そんなことして、何が排除だ!?」
低く告げるランに、男が声を荒げる。
「世界の敵はお前のほうだ!すぐに警察に知らせて・・!」
「警察も軍も政治家も、敵になるなら倒すだけ・・今まで私はそうしてきた・・・」
男たちが呼びかけても、ランは態度も考えも変えようとしない。
「もう法律だけでは世界を正しくできない・・身勝手な敵が、その法律をも変えてしまうのだから・・・」
「そんなムチャクチャな・・・!」
「自分以外の誰かのために尽力する・・みんなのために必死になれる・・そんな人が、世界を正しくできる・・・」
困惑するばかりになる人々に、ランは忠告を投げかける。
「最低でも、自分たちのために誰かを傷つけて、それを正しいことにしないこと・・正しいことだと思うことは、まさに自己満足というもの・・」
「そんなこと言われたって・・・!」
「困っていたり辛い思いをしている人に対して親切にすること・・力がないとか自分の手に負えないとか関係ない・・救いの手を差し伸べようとする意思が大切なのよ・・」
すっかり困惑する人々に言いかけて、ランが右手を伸ばす。
「何かするなら自分たちだけでやって・・自分たち以外の誰かを傷つけるようなことはしないで・・・」
ランは振り返って人々の前から立ち去っていく。人々の中で苛立ちを募らせていた男たち数人が、いきり立ってランに飛びかかってきた。
だが次の瞬間、その男たちが1人を除いてバラバラに切り刻まれた。鮮血がまき散らされる中、生き残った1人の男が恐怖を感じて後ずさりする。
「私を止めようとしてもダメよ・・私の敵に回るなら、断罪されるしかない・・」
「ゆ、許してください!やるように脅されただけです!」
冷たい眼差しを送ってくるランに、男が命乞いをする。しかしランは冷徹な表情を変えない。
「それで自分がしたことが許されると?・・そんな言い訳が通用すると・・・?」
ランが告げた直後、その男の体もバラバラに切り刻まれた。
「そういうやり方も考え方も、身勝手のうち・・自分たちさえよければそれでいいという滑稽・・・」
鮮血にまみれた広場を見渡してから、ランはきびすを返して歩き出していった。
「あの人が・・世界を正しくしている・・・」
人々がランの後ろ姿を見つめて、ただただ愕然となる。彼らは逃げようとも従おうともせずに、しばらく動くことができなかった。
ミナたちを探していた寧々は、夜の街での騒ぎを聞きつけてきた。そこでの血だまりを目の当たりにして、彼女は息をのんだ。
(これ・・・もしかして、ガルヴォルスが・・・!?)
「ここで何があったの・・・!?」
緊張を感じながら、寧々が近くの人に訊ねる。
「1人の女性が世界を正しくするって言って、敵に回った人たちが・・・」
「女性・・女性がこんなことって・・・」
答えを聞いた寧々がさらに緊張を募らせる。
(まさか、ランさん・・!?)
ランがこの広場に現れたことに気付いて、寧々が周りを見回す。が、広場はまだ人々が行き交っていて、人1人を見つけ出すのは簡単ではなかった。
(ランさん、どこに行ったっていうの・・!?)
寧々は1度人込みから離れてから、感覚を研ぎ澄ませてランの気配を探る。
(もしもランさんが力を使ってみんなを殺したっていうなら、あたしにも感じ取れるはず・・もしかしたら、もうここからいなくなってるかもしれないけど・・)
思考を巡らせながら、ランを探していく寧々。彼女は近くのビルに入って、エレベーターで上に上がって屋上まで出た。
(ランさん、どこ!?・・お姉ちゃんを、ミナちゃんを、みんなを返して・・・!)
思いと悲しみを膨らませて、寧々は屋上の真ん中で膝をついて涙を流していた。
ランが本格的に、世界の不条理の排除を開始した。彼女の発言で国民はもちろん、世界中にも動揺が広まっていた。
各国はランの言動に対して物議を醸した。しかし迂闊に出れば返り討ちは必至だとも痛感していた。
各国ともランに賛同する意思を示さなかったが、彼女に対する何らかの行動に出ることもなかった。
国々が傍観者となっていく中、ランは不条理を押し付ける世界の敵の断罪を続けた。
舞い込んでくる情報を細心の注意を払って分析して、それが事実であるかでたらめであるかを見定めた。事実ならばそのまま断罪を遂行し、事実無根を持ち込んだ相手にも断罪を行った。
また自分や誰かを陥れようとする不特定多数の行為に対しても、ランはその行為を行った全員を断定して、問答無用に処断した。
ランの行動に対して、人々は不安を感じずにはいられなかった。罪のない人はいつしかランを信じるようになっていって、罪を犯した人は彼女に殺されてしまうのではないかと怯えるようになっていった。
(これで、世界がよくなっていけばいいけど・・・)
世界が正しく安心できる形になっていくことを、ランは心の中で願っていた。
(そろそろミナたちのところへ戻らないと・・みんなを安心させてあげないと、守っていることにならない・・)
ランは自分の部屋に戻ることにした。部屋には彼女が石化した美女たちが立ち並んでいた。その中で、ミナとユウマは抱擁したまま立ち尽くしていた。
「ただいま・・さびしい思いをさせてしまったね・・・」
ランがミナとユウマを優しく抱いて囁きかける。
「私もこれからそっちに行くからね・・・」
ランはミナとユウマに意識を傾けて、2人の心の中に入り込んだ。
ランによって石化されたミナとユウマ。2人の意識は心の中で寄り添い合っていた。
「ユウマ・・大丈夫・・・?」
「この状況で大丈夫と言えるのか・・・?」
ミナが声をかけると、ユウマが憮然とした態度を見せる。
「そうだね・・石にされて、全然動けないままずっといることになるんだからね・・」
ミナが物悲しい笑みを浮かべると、ユウマが気まずさを感じて肩を落とす。
「ゴメン、ユウマ・・守ることができなくて・・・」
「守ってもらっているっていうのはいい気がしない・・自分は弱いって認めてしまっているような気になってくる・・・」
「気にしなくていいよ・・私がそうしたいだけだから・・・」
「だったら謝るな・・」
さらに憮然とするユウマに、ミナが苦笑いを見せた。
「私たちはもう・・このまま、私たちだけの時間を過ごしていけばいいのかな?・・もう私たちは、実際には動くことができないから・・・」
「それでオレが違うとかイヤだとか言って変われるのか?・・今のオレたちにできるのは・・・」
悲しさを込めた言葉を口にするミナを、ユウマが抱きしめてきた。突然の抱擁にミナが戸惑いを覚える。
「声をかけたり、こうして触ることぐらいだ・・・」
「ユウマ・・・私もこうして・・ユウマと一緒にいたいと思っている・・こうしていると、落ち着いてくるよ・・・」
ユウマの投げかけた言葉を聞いて戸惑いを募らせて、ミナが安らぎを感じていく。ユウマが心の支えになっていると、ミナは改めて実感した。
「ユウマ、もしもあなたが納得できるなら、私のことを好きにしていいよ・・私はユウマを受け入れるって、心に決めているから・・」
「お前・・お前も何気にガンコだからな・・勝手にしろとしか言いようがなくなるだろうが・・・」
「エヘヘ・・・ゴメン・・わがままばかり言って・・・」
「別にいい・・本当にわがままヤツよりはマシだから・・・」
笑みをこぼしているミナと、肩を落とすユウマ。2人が込み上げてくる感情に駆られるように、顔を近づけて口づけを交わそうとした。
「ゴメンね、ミナ、ユウマくん・・」
そこへ声がかかってきて、ミナとユウマが緊張を覚える。2人の前にランが姿を現した。
「お姉ちゃん・・・!」
「何で・・ここは、オレたちの心の中だぞ・・・!」
声を荒げるミナとユウマにランが微笑みかける。
「私は思った通りにできる・・心の中に自分の意識を入れることも・・・」
「それでオレたちの中に入ってきたっていうのか・・!」
ランの言葉を聞いて、ユウマが息をのむ。
「どうして・・どうしてそこまで私たちに・・・!?」
ミナがランに不安をあらわにする。
「今までさびしい思いをさせた分、あなたたちとの時間を作らないとって思って・・」
「お姉ちゃん・・・」
近づいてくるランに、ミナが困惑を募らせていく。
「どこまでオレたちを弄べば気が済むんだ!?どこまでミナを困らせるつもりなんだ!?」
ユウマがランに向かって怒鳴りかかってきた。
「やっぱりお前は何も分かっていない!ミナを自分の思い通りにしたいだけだ!」
「それでも、ミナにこれ以上辛い思いをさせたくない!」
怒りをあらわにするユウマに、ランも感情をあらわにする。彼女がミナとユウマを抱きしめてきた。
「お、おい!」
突然のランからの抱擁に、ミナだけでなくユウマも動揺を覚える。
「は・・離れられない・・・!?」
ランの腕を振り払おうとしたユウマだが、力を入れることができない。
「どうなってるんだ!?・・体が、言うことを・・・!?」
「・・・まさか、お姉ちゃんが・・・!?」
うめくユウマと、束縛の理由に気付いて驚愕するミナ。
「そう・・私が押さえているの・・これでおとなしくできる・・・」
「お姉ちゃんが念じて・・私たちの自由を・・・!?」
さらに微笑んでくるランに、ミナが愕然となる。ガルヴォルスの力で、ランはミナとユウマの自由を抑えていた。
「あなたたちには、本当に安心してほしいから・・・」
ランは言いかけて、ユウマの右手をつかんでミナの胸に当てさせる。
「おい、何をさせるんだ・・!?」
「分かっているの・・あなたたち、こうして触れ合っていきたいと思っている・・・」
声を荒げるユウマに、ランが囁くように言いかける。ユウマの手に胸を触られて、ミナが気分を揺さぶられる。
「ミナはユウマくんを受け入れて、ユウマくんと一緒にいたいと願った・・私がその橋渡しになれれば・・」
「そんなこと・・お姉ちゃんには求めていないよ・・・!」
自分の気持ちを語りかけるランに、ミナが声を振り絞る。
「私たちのことは私たちだけでやっていく・・他のみんなに迷惑をかけるつもりもないよ・・」
「私になら迷惑をかけていいよ・・私がミナに散々迷惑をかけてしまったんだから・・」
「それでも・・私たちは・・私たちで・・・」
気持ちを伝えようとするランに感情をあらわにして、ミナが目から涙をあふれさせる。
「これだけ妹が言っているのに、姉のお前が全然聞こうとしない・・・!」
ユウマが口を挟んで、ランにさらなる怒りをぶつけていく。
「結局お前は自分の思い通りにしたいだけになったんだよ・・姉妹っていうのを言い訳にしてな・・・!」
「違う・・私たちの気持ちを勝手に決めないで・・・!」
「勝手に決めてるのはお前だろうが!」
感情をむき出しにして声を張り上げるランとユウマ。
「やめて!」
ミナが悲痛の叫びを上げると、ユウマとランが我に返る。ユウマが歯がゆさを浮かべて、ランが辛さを浮かべていく。
「ゴメン、お姉ちゃん・・私とユウマの言うことに全然耳を傾けてくれない・・聞いてくれないのに分かったように思い込んでいくお姉ちゃんとは、もう一緒に過ごすことはできないよ・・・」
「ちゃんと分かっているよ・・ユウマと一緒にいたいって・・・」
「そう言うんだったら、私たちの言葉をどうして聞こうともしないの・・・?」
「聞いているじゃない・・こうしてちゃんと聞いている・・・」
「そう・・あくまで聞いているって思い込みたいんだね・・・」
あくまでミナのために尽力していると言い張るランに、ミナが物悲しい笑みを浮かべる。
「だったら、力で私たちを思い通りにすることもできるはずだよね・・・?」
ミナが口にした指摘を聞いて、ランが言葉を詰まらせた。
「念じただけで人や物をどうにでもできる・・違うものに変えてしまうこともできる・・それなのに、人の心を思い通りにすることはできない・・・」
ミナが自分とランの力のことで問い詰めていく。彼女は自分たちの力のことを熟知していた。
「私とあなたは同じ力・・神の力と言ってもいいもの・・・」
ランが観念して物悲しい笑みを浮かべてきた。
「私たちの力は、思ったことを実現できる力・・だからできないことは何もないと勘違いしてしまうかもしれない・・・」
ランが自分たちの持つ力のことを話してきた。
「でもこの力でも思い通りにならないものがあるの・・」
彼女は語りかけて、ミナの頬に優しく手を添えてきた。ランに触れられて、ミナが戸惑いを覚える。
「それは、心・・心を変えることまでは、力を使ってもできないことなの・・・」
「心を変えられない・・そういえば、確かにミナもオレも、心がおかしくなったと感じたことはなかった・・・」
ランの話を聞いてユウマが自覚を持つ。彼は自分が心をねじ曲げられた実感を感じていなかった。
「考えや気持ちを思い通りにしたかったら、操るしかない・・でもそれは心を壊したり記憶を書き換えるなど、いじくることになってしまう・・」
ランがさらに話を続けて、辛さを募らせていく。
「それは、一方的な押し付け・・自分勝手な敵と同じになってしまう・・それは、あるべき世界じゃない・・」
「お姉ちゃん・・・だから、私たちにこんな形で・・・」
「私は身勝手な押し付けで誰かを傷つけたりしない・・ミナもそう・・・」
ミナが戸惑いを募らせていくと、ランが彼女とユウマをさらに強く抱きしめる。
「だから・・あなたたちには、あなたたちが心から安心できる時間を過ごしていってほしいの・・」
「お、おい、やめ・・!」
ランが言いかけると、ユウマの性器をつかんでミナの秘所に入れてきた。
「イヤアッ!」
強い恍惚に襲われて、ミナが悲鳴を上げる。ユウマも恍惚を受けて顔を歪める。
「これであなたたちは、本当の意味で一緒でいられる・・・」
微笑むランの前で、ミナとユウマが恍惚に駆り立てられていく。
「ユウマ・・・私・・私・・・!」
ユウマとともに恍惚に心を蝕まれていくミナ。激情に揺さぶられて、彼女は目から涙をあふれさせていた。