ガルヴォルスLucifer
EPISODE3 –End of bonds-
第4章
再会を果たし、互いにガルヴォルスであることとその力を打ち明けたミナとラン。ミナはランに威圧されて、緊張の色を隠せなくなっていた。
「私とミナの日常を壊そうとする敵を、私は許さない・・私がこの力で、どんどん罰を与えていく・・」
「お姉ちゃん・・そんなことをする必要はないよ・・もう帰ろう・・家に・・」
自分の意思を口にするランに、ミナが手を差し伸べる。
「お姉ちゃんが辛いことを抱えていくのも、私は辛くなるよ・・・」
「帰れない・・私が何とかしないと・・世界を正しい形にしないといけない・・・」
「もう、お姉ちゃんが辛い思いを抱えなくていいんだよ・・私も、自分のことは自分で何とかできる・・お姉ちゃんを守ることもできるから・・・」
互いに自分の意思を口にしていくランとミナ。ランはミナが力も心も強くなっていることを実感していた。
「いた・・ランさん・・・!」
そこへ声がかかり、ミナたちが振り返った。ミナたちの前に現れたのは寧々だった。
「寧々ちゃん・・・!」
「返して・・お姉ちゃんを返して、ランさん!」
驚きを覚えるミナの前で、寧々が怒りをあらわにしてランに飛びかかった。ランはとっさに後ろに動いて、寧々の突撃をかわす。
「待って、寧々ちゃん!お姉ちゃんと話をさせて!」
「話を聞かないで、一方的にお姉ちゃんを石にして連れてった・・許せないよ・・・!」
呼び止めるミナに言い返す寧々の頬に紋様が走る。
「あたしにも・・ミナちゃんと同じ思いをさせたいの!?」
ドッグガルヴォルスとなった寧々が再びランに飛びかかる。ランは意思を強めて瞬間移動して、寧々の後ろに回り込んだ。
「寧々ちゃんにもさみしい思いをさせたね・・でも大丈夫・・紅葉さんのところへ連れて行くから・・・」
「ふざけないで!すぐにお姉ちゃんを返して!元に戻して!」
手招きをしてくるランだが、寧々の感情を逆撫でするだけだった。
「寧々ちゃん、お姉ちゃん、やめて!」
ミナが寧々とランの間に入って、呼び止めてきた。
「寧々ちゃん、落ち着いて・・こんなの、寧々ちゃんらしくないよ・・お姉ちゃんも寧々ちゃんにひどいことしないで・・・!」
ミナが気持ちを込めて声を振り絞る。彼女の呼びかけに寧々もランも戸惑いを覚える。
「ミナ・・私は寧々ちゃんを紅葉さんのところへ連れて行こうと・・」
「あたしは、お姉ちゃんを返してほしいの!・・お姉ちゃんがいないままだなんて・・あたし、イヤだよ・・・!」
ランも寧々も引き下がろうとせず、また対峙しようとする。
「やめてって!」
ミナが悲鳴を上げて、背中の翼をはばたかせた。寧々とランの眼前の地面に亀裂が入った。
「お姉ちゃんと寧々ちゃんが争うのは見たくないよ・・・!」
「ミナ・・・」
「ミナちゃん・・・」
必死に呼びかけるミナに、ランと寧々が戸惑いを覚える。ミナの目からは涙があふれてきていた。
「お姉ちゃん・・紅葉さんを返して・・寧々ちゃんにこれ以上、私が感じている寂しさを与えないで・・・!」
「ミナ・・でも、これで紅葉さんは、辛い思いを背負わなくて済むのよ・・・」
ミナが呼びかけるが、ランは自分の考えを変えようとしない。
「かけがえのない人たちは、これからも私が守っていく・・紅葉さんも・・寧々ちゃんも、ミナも・・・!」
ランが目を見開いて、背中の黒と白の翼をはばたかせる。彼女は驚異の力を発動させようとした。
「お姉ちゃん!」
そのとき、ミナも驚異の力を発揮した。2人の力はぶつかり合って、衝撃さえも相殺された。
「ミナ・・・!?」
「無理やりなやり方は、私やお姉ちゃんが嫌っていたことじゃない!・・それをお姉ちゃんがやるなんて・・・!」
困惑を浮かべるランに、ミナが涙ながらに呼びかける。
「いくらお姉ちゃんでも・・こんな無理やり、許せないよ!」
「ミナ・・私は、無理やりになんて・・ただこうしたほうが、助けることになるから・・」
怒りを向けてきたミナに、ランが言い返そうとする。しかしミナはランの前に立ちふさがってきた。
「もういいよ・・もうお姉ちゃんが、何もかも背負うことはないよ・・・」
「ミナ・・・でも、私は・・・!」
作り笑顔を見せてくるミナに、ランは困惑を募らせていく。どうしたらいいのか分からなくなったランは、ミナたちの前から突然姿を消した。
「お姉ちゃん!」
ミナが駆け出すが、ランはもうこの場にはいなかった。
「お姉ちゃん・・・」
またランと離れ離れになってしまい、ミナが辛さを覚える。
「ミナ・・・」
落ち込むミナにユウマが戸惑いを覚える。彼のそばで、寧々はランに対する歯がゆさを抱えていた。
ミナに行動を阻まれて、やむなく引き返してきたラン。彼女はミナに反対されたことにひどく動揺していた。
「ミナが、私のしてきたことを否定してきたなんて・・ミナが・・・!?」
ミナに気持ちが伝わらないと思って、ランが苦悩を深めていく。
「私のしてきたことが間違い・・そうだとは思いたくない・・思ったら、私が今までしたことは・・・!?」
ランは自分のしてきたことを否定したくなかった。否定すればミナを失ってしまうと思っていた。
「・・・助けないと・・世界を正しい形にしないと、ミナは救われなくなってしまう・・・」
ランは自分に言い行かせて、ミナを救うことを改めて決意する。
「そう・・紅葉さんや早苗さん、佳苗さんのように守ってあげないと・・・」
迷いを振り切ろうとするランが、石化して立ち尽くしている紅葉に歩み寄る。
「寧々ちゃんも連れてくるからね・・寧々ちゃんも、私が守るから・・・」
紅葉の意思の頬に手を添えて、ランが微笑みかける。
「ミナも・・ここに連れてくるつもり・・ミナが望むなら、彼も、ユウマくんも・・・」
紅葉から手を放して、ランが微笑みかける。彼女は部屋から出て、世界の敵と認識した者の断罪を再開するのだった。
ランと再会したものの、すぐに離れ離れになってしまい、ミナは辛さを抱えていた。ユウマも寧々も深刻さを募らせていた。
「ランさん、ミナちゃんの言うことも素直に聞いてくれなかった・・ミナちゃんのために、世界を相手にしてきたはずなのに・・・」
寧々がランのミナに対する思いに疑問を抱いていた。彼女はランに対する憤りをある程度抑えていた。
「あれだけ面と向かい合ってたのに、妹の気持ちを受け止めないなんて、それでも姉なのか・・・!?」
ユウマは逆にランに対する憤りを募らせていた。
「お姉ちゃん・・私・・私・・・」
ミナがランのことを気にして、不安を募らせていく。
「ミナ・・今のうちに覚悟を決めたほうがいいかもしれないぞ・・」
ユウマがそんなミナに向けて声をかけてきた。
「ユウマ・・覚悟って・・・?」
「アイツと戦うことになるかもしれないって覚悟だ・・どうしても連れて帰りたいなら、無理やりにでも連れ戻すことにならないと言い切れなくなってきたぞ・・」
「でも、私・・お姉ちゃんと戦うなんてできないよ・・・」
「それが本音だろうな・・けど向こうもそのつもりだったら、さっきで仲直りできてたはずだろ・・」
「それは・・・」
ユウマの投げかける言葉に、ミナは言葉を返せなくなる。
「戦わずに解決するのが1番平和なんだろうけど、そうばかりとはいかない・・むしろそんな解決ができる数のほうが減ってきてるぐらいだ・・」
近年の不条理を思い返していくユウマ。不条理の数々に、彼は何度も憤りを感じてきた。
「オレも・・やっぱり力があれば・・・!」
「ユウマ・・ユウマまでガルヴォルスになることはないよ・・」
力を求めるユウマをミナが呼び止める。
「ミナ・・・」
「ユウマに戦わせたり、イヤな思いをさせるくらいなら・・迷っている場合じゃないよね・・・」
戸惑いを見せるユウマと、目に浮かべていた涙を拭うミナ。
「もう1度、お姉ちゃんと向き合ってみる・・やっとお姉ちゃんに会えたんだから、今度は一緒に家に帰るんだから・・・」
「その意気のほうが悪い気がしない・・」
気を引き締めていくミナに、ユウマが笑みをこぼした。
「ミナちゃん・・・ユウマくん・・・」
2人のやり取りを見て、寧々も微笑みかけていた。しかし紅葉のことを気にして、寧々は素直にミナとユウマの立ち直りを喜べなかった。
「・・ミナちゃん、ユウマくん、今は2人は休んでて。あたしが起きてるから。」
寧々がミナとユウマに声をかけてきた。
「でも、それだと寧々ちゃんが・・」
「2人が1番満足していってほしいから・・あたしは大丈夫だから・・」
心配の声を上げるミナに、寧々が笑顔を見せて答える。彼女は作り笑顔を見せているのだと、ユウマは気づいていた。
「とりあえず家に戻ろう・・そこまで言うなら、アンタの言葉に甘えることにする・・オレとミナは一緒にいる・・」
「ユウマ・・・」
寧々に呼びかけるユウマに、ミナが戸惑いを感じていく。
「分かった・・ミナちゃんをお願いね・・」
「あぁ・・・」
寧々に言われてユウマは小さく頷く。彼はミナと一緒に家に戻っていった。
(ランさんを止められるのは、ミナちゃんかもしれないね・・・)
寧々はミナに、ランを救い出せる希望があると悟っていた。
「でも、あたしはお姉ちゃんを連れ戻したい・・ミナちゃんが希望だって分かってるからこそ、あたしがランさんからお姉ちゃんを連れ戻さないと・・・」
寧々も自分なりの決心を固めていく。次にランに会ったときに、彼女は備えるのだった。
寧々が見張りを引き受けて、ミナは自分の部屋に戻った。ユウマも部屋に連れてきていた。
「ありがとう、ユウマ・・私とお姉ちゃんのために・・・」
「オレはオレが納得するためにやっているだけだ・・」
感謝するミナに、ユウマが憮然とした態度を見せる。
「ユウマ・・一緒にいてもらうのは・・ダメかな・・・?」
ミナが切実にユウマにお願いをしてきた。するとユウマが1回ため息をついてから答える。
「ダメじゃない・・オレもミナと一緒にいたいと思っていた・・・」
「ユウマ・・・ありがとう・・・」
「だから、オレが納得するためだって・・」
「それでも・・ありがとう・・・」
あくまで感謝を送るミナに、ユウマは肩を落としてから笑みをこぼした。2人はベッドに横たわって抱擁を交わす。
ミナとユウマは衣服を脱いで、肌と肌を触れ合わせる。この接触に2人は心地よさを感じていく。
(本当にどうかしちゃったのかもしれない・・お姉ちゃんと一緒にいるときよりも、ユウマと一緒にいるときのほうが安心している・・・)
ミナがユウマとの抱擁による恍惚とともに、自分の本当の気持ちを実感していく。
(今はお姉ちゃんよりも、ユウマのほうが私を受け止めてくれている・・)
ユウマに胸を撫でられて、ミナがあえいでいく。
(もうお姉ちゃんは、私を助けようとする気持ちに突き動かされて、逆にその私の言うことも聞いてくれない・・ユウマは素直な態度は見せないけど、私を気遣ってくれている・・・)
自分とユウマの心境を察していくミナ。ユウマとの性交で、ミナはさらに恍惚を感じていく。
(お姉ちゃん、ゴメン・・私は、ユウマとこれからも一緒に・・・)
自分の本当の気持ちを噛みしめていくミナ。彼女はユウマとの抱擁を交わしながら、ゆっくりと眠りについた。
ミナたちがランと再会してから一夜が明けた。寧々が夜通し起きていたところへ、ミナとユウマがやってきた。
「ミナちゃん・・ユウマくん・・・調子はどう・・・?」
「うん・・今は落ち着いているよ・・」
寧々が問いかけると、ミナが微笑んで答える。
「あれからは全然何もなかったよ・・早苗さんも佳苗さんも帰ってこなかった・・・」
寧々も状況を説明すると、物悲しい笑みを浮かべてきた。紅葉が連れて行かれただけでなく、早苗と佳苗もいなくなったことを、寧々は辛く感じていた。
「寧々ちゃん・・私たち、お姉ちゃんに会いに行くよ・・・」
「ミナちゃん・・ランさんの居場所が分かるの・・・!?」
「ううん・・でも、きっとどこかにいる・・お姉ちゃんを感じ取れれば・・・」
ミナの決心を聞いて、寧々は動揺を感じながら吐息をつく。
「あたしはお姉ちゃんを助けるために・・ミナちゃんはランさんを連れ戻すために・・・」
「うん・・もう、お姉ちゃんを止めるためなら、戦うことも迷わない・・・」
それぞれの決意を口にして、寧々とミナが握手を交わす。
「行くなら早く行くぞ・・ムダにここで待っていてもしょうがないだろ・・」
そこへユウマが憮然とした態度で声をかけてきた。
「ユウマ・・うん・・そろそろ行かないとね・・」
「一緒に行こう。離れ離れになると、ガルヴォルスが1人ずつ狙ってくるかもしれないし・・」
ミナが頷くと、寧々が2人に呼びかけてきた。
「まずは警察に行って、早苗さんたちが戻ってきていないか直接確かめに行く。それからは感覚を頼りに早苗さんたちとランさんを探す・・」
「うん・・そうしてみよう、寧々ちゃん・・・」
寧々とミナが警察に向かって歩き出していった。ユウマも2人を追いかける形で歩き出していった。
警視庁に足を運んだミナ、ユウマ、寧々だが、早苗も佳苗も戻ってきていなかった。
「私たちとしても、警部たちの行方を心配しているのです・・もしも見つかりましたら、連絡をしますので・・」
「分かりました・・ありがとうございます・・」
刑事と声を掛け合って、ミナがお辞儀をする。
「こうなったらもう、感覚頼りしかないね・・」
「うん・・早苗さん、佳苗さん、紅葉さん・・お姉ちゃん・・・きっと・・」
寧々が声をかけると、ミナは自分の決意を口にしていく。
「また心当たりのある場所に行ってみようか・・その場所で感じ取れるかもしれない・・」
ユウマがミナに提案を持ちかける。
「心当たりのある場所・・もう1度、1からやり直してみる感じになるね・・・」
「何でもいい・・行ってみるぞ・・」
微笑みかけるミナに、ユウマが憮然とした態度を見せる。
彼らは警視庁を後にして、街中を進んでいった。そして彼らはある場所にたどり着いた。
「ここは・・・私たちが通っていた学校・・・」
ミナはその場所、かつて自分やユウマが通っていた学校を目の当たりにして、戸惑いを覚える。
「私が通っていた場所・・ユウマと出会った場所・・私が不条理を受けてきた場所・・・」
ミナが学校の校舎を見つめて、胸を痛める。
学校は今、警察や一部の学校関係者が何度か出入りしているだけで、授業や行事は行われていない。
自分やミナを陥れた学校に憤り、ランはそこの生徒や教師たちを手にかけた。通っていた人々はほとんど惨殺されて、学校には悲惨な光景が残った。
ミナとユウマはそのときは学校を離れていた。ランによる不条理の断罪はこのときに行われた。
「確かに私はこの学校でいじめを受けてきた・・お姉ちゃんを一方的に悪者にしたのは、どうしても許せなかった・・・」
ミナが学校での記憶を思い返して呟いていく。
「でも・・死んでほしい・・殺したいとは思っていなかった・・・お姉ちゃんは、私を助けようとして・・・」
「ミナちゃん・・・」
胸を締め付けられるような心境に襲われるミナに、寧々が困惑を感じていく。
「もう私がここで楽しい時間を過ごすことはできない・・お姉ちゃんの罪は、私の罪でもあると思うから・・」
「ミナちゃん・・ミナちゃんは何も悪くないよ・・・」
自分を責めるミナを寧々が励ますが、ミナは自責の念を拭おうとしない。
「気にしているなら、早く姉さんを見つけないとな・・・」
「ユウマ・・うん・・」
ユウマに声をかけられて、ミナが小さく頷いた。
「ここは閉鎖されているんだったな・・」
そこへ声がかかって、ミナたちが振り返った。3人の男たちがやってきて、不敵な笑みを見せてきた。
「ここなら派手にやらかしてもばれることはねぇ・・」
「思い切り暴れてやるぜ!」
男たちの頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼らの姿がワシ、タカ、カラスに似た怪物、イーグルガルヴォルス、ホークガルヴォルス、クロウガルヴォルスになった。
「ガルヴォルスたち・・!」
「獲物を狩る時間だぜ!ヒャッホー!」
寧々が声を上げると、クロウガルヴォルスが先に飛びかかってきた。
「ミナちゃんはユウマくんのそばにいて!」
ミナとユウマに呼びかけてから、寧々がドッグガルヴォルスになってクロウガルヴォルスを迎え撃つ。
「空飛ぶカラスに犬っころが勝てると思ってんのか!?」
「バカにしてると痛い目見るよ!今のあたしたちはものすっごく気持ちが張りつめてるんだから!」
あざ笑ってくるクロウガルヴォルスに、寧々が憤りを込めて言い放つ。
「さて、あの2人の相手はオレたちだな・・!」
「かわい子ちゃんはオレが遊ばせてもらうぜ・・!」
イーグルガルヴォルスとホークガルヴォルスがミナとユウマに迫る。
「ユウマに近づかないで・・でないと容赦できなくなるよ・・・!」
目つきを鋭くするミナの頬に紋様が走る。彼女はルシフェルガルヴォルスになって、イーグルガルヴォルスとホークガルヴォルスに敵意を向ける。
「コイツもガルヴォルスだったか!」
「けど2人がかりならやられることはねぇ!」
イーグルガルヴォルスとホークガルヴォルスがいきり立って、ミナに襲い掛かる。イーグルガルヴォルスが振りかざした爪を、ミナは横に動いてかわす。
「どうして聞いてくれないの・・・!?」
ミナが憤りを覚えて、意識を集中する。次の瞬間、イーグルガルヴォルスの体が突然切り刻まれた。
「がはっ!」
イーグルガルヴォルスが鮮血をまき散らして昏倒する。
「お、おい!・・テメェ、何しやがった!?」
ホークガルヴォルスが驚愕の声を上げる。が、ミナに鋭い視線を向けられて、ホークガルヴォルスが息をのむ。
「く、くそっ!」
ホークガルヴォルスがイーグルガルヴォルスを抱えて飛翔して、ミナとユウマから離れていく。
「ユウマ、大丈夫・・・!?」
「あぁ・・・」
ミナの心配の声にユウマが答える。ミナは寧々と戦っているクロウガルヴォルスに向かっていく。
「寧々ちゃん、離れて!」
「ミナちゃん!」
ミナに声をかけられて、寧々がクロウガルヴォルスから離れる。ミナが意識を傾けると、クロウガルヴォルスが大きく突き飛ばされる。
「寧々ちゃんも無事でよかった・・・!」
「ミナちゃんに助けられちゃったね・・」
安堵の笑みを見せるミナに、寧々が苦笑いを浮かべた。
「おとなしくしろ!」
そのとき、離れていたホークガルヴォルスが再び現れて、ユウマを捕まえてきた。
「ユウマ!」
「おっと!何もすんな!ちょっとでも何かしようとしてきたら、コイツの首をはねてやるぞ!」
駆け寄ろうとしたミナに、ホークガルヴォルスが脅しをかける。ユウマが憤ってホークガルヴォルスの手を振り払おうとする。
「おとなしくしてろ!そんなに死に急ぎたいか!?」
「いい気になるな!そんなことをしたら、死んでもお前を殺してやる!」
脅しをかけるホークガルヴォルスだが、ユウマはさらに抵抗しようとする。
「そんなに死にたいって言うなら、望みどおりに・・!」
「ユウマ!」
ユウマに手をかけようとしたとき、ミナが感情を一気に膨らませた。彼女の意思の力がホークガルヴォルスの両手を止めた。
「ぐっ!・・このまま手放すものか・・!」
ホークガルヴォルスが腕でユウマを押さえる。そのため、ユウマがホークガルヴォルスと一緒に突き飛ばされてしまう。
「ユウマ!」
ミナが慌ててユウマとホークガルヴォルスを追いかけていく。
「ミナちゃん!」
寧々も追いかけようとしたが、突き飛ばされていたクロウガルヴォルスが舞い戻ってきた。
「まだオレの相手は終わっちゃいないぞ!」
「しつこいって、アンタ!」
突っ込んできたクロウガルヴォルスに対して、寧々が右手を握りしめて力を込める。彼女が繰り出した拳がクロウガルヴォルスに命中した。
「今あたしは、アンタなんかの相手をしてる暇はないの!」
寧々が左手を突き出して、その爪をクロウガルヴォルスに突き立てる。
「ぐはっ!」
激痛を覚えて吐血するクロウガルヴォルス。寧々が彼に拳を上から叩きつけて、地面に落とす。
「ミナちゃん!ユウマくん!」
ミナたちを探しに寧々もう学校の校舎の中に飛び込んだ。
ミナの力によって学校の敷地内に吹き飛ばされるも、ユウマも連れ込んでいたホークガルヴォルス。ホークガルヴォルスは激痛を抱えたまま、ユウマを連れて校舎の中に身を潜めた。
「くっ!・・体が言うことを聞きやがらねぇ・・・!」
両腕に激痛が走っていて、体を思うように動かすことができないでいるホークガルヴォルス。
「早くコイツを始末しねぇと、あの小娘が追いついてきちまう・・!」
ホークガルヴォルスが力を込めて、強引にユウマを切り刻もうとする。
「ユウマ!」
そこへミナがユウマとホークガルヴォルスに追いついてきた。
「アイツ・・・!」
いら立ったホークガルヴォルスが無理やり体を動かして、ユウマを狙う。
「ユウマを傷つけないで!」
ミナが叫ぶと、ホークガルヴォルスが大きく突き飛ばされた。
「ぐおっ!」
校舎の廊下の壁に叩きつけられて、ホークガルヴォルスが吐血する。体を起こす彼に、ミナが近づいてくる。
「もうあなたは許さない・・ここで私が・・・!」
「や、やめてくれ!命だけは勘弁してくれ!」
冷徹に告げてくるミナに、ホークガルヴォルスが命乞いをする。
「頼む!もう何もしないから!」
「今そういうことをいうくらいなら、最初から何もしなければよかったのに・・・」
完全に怯えるホークガルヴォルスに対して、ミナが殺意を傾ける。次の瞬間、ホークガルヴォルスの体がバラバラに切り刻まれた。
肩を落とすミナが人の姿に戻る。彼女は振り返ってユウマに近寄った。
「ユウマ・・大丈夫・・・!?」
「ミナ・・・オレは平気だ・・・!」
ミナの心配の声にユウマが答える。それが強がりであると、ミナは気づいていた。
「急いで寧々ちゃんのところへ戻らないと・・私たちのこと、心配している・・」
ミナがユウマに肩を貸して、寧々と合流しようとした。
そのとき、ミナは自分たちのいる場所の空間が突然歪んだ。
「これって・・!?」
空間の歪みに巻き込まれて、ミナが声を荒げる。
「ミナちゃん!ユウマくん!」
そこへ寧々が駆けつけてきて、ミナとユウマを見つけた。走り込んでいく彼女だが、ミナとユウマは空間の歪みの中に引き込まれてしまった。
「そんな・・ミナちゃん・・ユウマくん・・・!」
ミナとユウマまでいなくなったことに、寧々は絶望感を膨らませていった。
空間の歪みに巻き込まれて、意識を失っていたミナとユウマ。暗い部屋の中、ミナが意識を取り戻して起き上がった。
「ここは・・学校じゃない・・・」
ミナが周りを見回して呟く。暗闇のために最初は周りが見えなかった彼女だが、すぐに夜目が効くようになった。
「これって・・・」
部屋の中で見えてきた光景に、ミナが目を凝らす。それが全裸の女性の石像ということに気付いて、彼女が驚愕する。
「えっ・・!?」
たまらず声を荒げるミナ。彼女の声を耳にして、ユウマも目を覚ました。
「ど・・どうなった・・・!?」
「ユウマ・・・!」
声をかけてきたユウマに、ミナがゆっくりと振り返る。
「分からない・・私もさっき気が付いたから・・・」
「そうか・・ホントにどこなんだ、ここは・・・?」
「それよりも・・ここにいるのは・・・」
周りを見回すユウマに、ミナが石像に目を向けて言いかける。
「これは・・まさか全員・・・!?」
「そう・・あなたの思った通りよ・・」
息をのんだユウマに答えたのはミナではなかった。2人の前にランが現れた。
「お姉ちゃん・・・!」
ランの登場にミナが緊迫を募らせ、ユウマが身構える。
「これが、罰と救いを同時に行うことのできる力・・罪人には永遠の罰を、罪がないのに苦しめられている人には思考の安息を・・」
ミナとユウマに語りかけて、ランがゆっくりと移動していく。その先には紅葉の姿があった。
「紅葉さん・・!?」
「紅葉さんも、もう辛い思いをしなくて済む・・私が守るから・・・」
目を疑うミナの前で、ランが紅葉の頬に手を添える。しかし石化した紅葉は何も反応せず、ただ立ち尽くしているだけだった。
「紅葉さん・・お姉ちゃん、紅葉さんを元に戻して・・・!」
ミナがランに対して憤りを感じていく。しかしランは紅葉から手を離さない。
「戻すことはないよ・・これが、安心できる最高の形なんだから・・」
「違う!お姉ちゃんの思い通りにしようとしてるだけじゃない!」
微笑みかけるランに、ミナがたまらず声を張り上げる。
「早苗さんも佳苗さんも、もう悲劇を受けることもなくなった・・・」
「まさか・・早苗さんと佳苗さんも・・・!?」
ランが口にした言葉に、ミナは耳を疑う。彼女とユウマも、部屋に早苗と佳苗もいたことに気付く。
「そんな・・早苗さんと佳苗さんまで・・・!?」
2人まで手にかかっていたことに、ミナは絶望感を隠せなくなっていた。