ガルヴォルスLucifer

EPISODE3 End of bonds-

第3章

 

 

 クロコダイルガルヴォルスからユウマを連れて逃げていた早苗と佳苗。早苗たちは近くの広場で足を止めた。

「ミナさん、大丈夫でしょうか・・これ以上ないほどの力を持っているけど、その力に振り回されないとは言い切れないし・・」

 ミナの心配をする早苗が、彼女のいるほうに振り返った。

「私だけでも先に戻ったほうが・・」

「早苗、ユウマくんがいない!」

 ミナのところへ戻ろうと考えていた早苗に、佳苗が声を上げてきた。早苗が周りを見回して、ユウマがいなくなっていることに気付く。

「もしかしてユウマくん、ミナさんのところへ戻ったんじゃ・・!?

「大変!急いで戻らないと!」

 早苗と佳苗が声を荒げて、ユウマを追いかけてミナのいるところへ向かおうとした。

 そのとき、2人を周りを大勢の男たちが取り囲んできた。全員がスーツ、サングラスが全て黒で、無表情で2人に目を向けていた。

「何者ですか?私たちには行くところがあるのです・・」

 早苗が冷静さを見せて、男たちに声をかける。

「残念ですが、あなたたちは我々と一緒に来てもらいます。」

 男の1人が表情を変えずに呼びかけてくる。

「悪いけど、あなたたちの言うこと聞くことはできません。私たちにはやることが・・」

「いいえ、来てもらいます。拒否することはできません。」

「私たちは警察よ。強行するなら、あなたたちを逮捕することになるわ。」

「警察でも我々を拒否することはできません。ご同行いただきます。」

 男たちは早苗の言葉を聞くことなく、彼女たちを取り囲む。

「仕方がない・・・!」

 早苗はため息まじりに言いかけると、佳苗とアイコンタクトをしてから同時に走り出した。

「捕まえろ。」

 男たちが2人を捕まえようと迫ってきた。早苗と佳苗は男たちを振り払って前進しようとする。

 しかし大人数の男たちに取り押さえられて、早苗も佳苗も動きを止められてしまう。

「やめなさい!放しなさい!」

「このままじゃミナちゃんが、ユウマくんが!」

 早苗と佳苗が声を上げて、強引に男たちをかき分けようとする。しかし人数に押されて、彼女たちは男たちに取り押さえられた。

「放しなさい!でなければここで発砲しますよ!」

「やめなさい。」

 早苗が怒鳴ったところで声がかかった。すると男たちが早苗と佳苗を放して離れた。

 男たちが下がった先にいたのはランだった。

「ラン、さん・・・!?

「あなたたちにはお世話になりましたね・・早苗さん・・佳苗さん・・・」

 驚愕をあらわにする早苗に、ランが声をかける。

「手荒なことはしないで・・こういうやり方が、罪のない人を傷つけることになるのよ・・」

「し、しかし、それでは2人を連れ出すことは・・」

 声をかけるランに、男の1人が反論する。するとその男は体から鮮血をあふれさせて昏倒した。

「そのやり方が問題なの・・そんなことをするなら、私が許さない・・・」

 目つきを鋭くするランに、黒ずくめの男たちが恐怖を覚えて後ずさりする。

「ランさん・・ランさんなの・・・!?

「本当に心配させてしまいましたね・・特にミナには・・・」

 声を振り絞る早苗に、ランは呟くように言いかける。

「どこに行ってたの、ランちゃん!?ミナちゃんもみんな、心配してたんだから!」

「今、私たち、ミナちゃんとユウマくんのところへ行こうとしてたの!」

 早苗がランに怒鳴って、佳苗が呼びかける。佳苗のこの言葉を耳にして、ランが目を見開く。

「ミナと・・ユウマ、くん・・・!?

 ランが動揺を覚えて、ゆっくりと早苗と佳苗に近づいていく。

「ユウマって・・もしかして、ミナと同じ高校にいた、あの・・」

「そうよ・・あなたがいなくなってから、ユウマくんが、その後のミナさんの心の支えになっているのよ・・・!」

 困惑していくランに、早苗がミナとユウマのことを話していく。

「その人は、ミナを傷つけていたりしない・・・!?

「とんでもない!ガルヴォルスの力で暴走しそうになったミナちゃんを呼び止めたのは、ユウマくんなんだから!」

 問い詰めるランに、佳苗が感情を込めて答える。

「そう・・ならいつか、ミナと一緒に会ってあげないといけないね・・」

「待ちなさい、ランさん!今すぐミナさんに・・!」

 納得するランに早苗が呼びかける。

「でもその前に、あなたたちに救いの手を差し伸べてあげないと・・・」

 ランが早苗と佳苗に向かって近づいてくる。早苗たちが反射的に身構える。

「心配しないで・・紅葉さんもいるから・・」

「紅葉さん・・!?

 ランが口にした言葉に、早苗と佳苗が驚きを膨らませる。

「紅葉さんはどこにいるの!?教えて、ランさん!」

「私が連れて行くわ・・あなたたちを助けることも兼ねて・・・」

「今ここで教えなさい!それからは私たちが自力でその場所に向かうから!」

 早苗が呼びかけるが、ランは考えを変えずにさらに近づいてくる。

「ランさん・・あなたがミナさんのことを大事だと思っているなら、今すぐミナさんのところへ帰るべきよ・・それが、ミナさんが心から願っていること・・」

 早苗がミナの気持ちをランに伝えようとする。

「ミナさんの願いは、お姉さんであるあなたと一緒に過ごすこと・・世界を変えることではない・・・!」

「私とミナが安心して暮らしていくために、私は今、世界を正しい形に変えないといけないのよ・・・」

 早苗からミナの思いを聞かされても、ランは世界を正しく変えようとする考えを曲げない。

「もうあなたたちが辛い思いを背負うことはない・・私が守るから・・・」

 ランが意識を傾けると、彼女と早苗、佳苗がこの場から姿を消した。ランは早苗、佳苗を連れて瞬間移動を行った。

 

 早苗と佳苗から離れて、ミナのところへ戻っていくユウマ。彼が戻ったその場所では、もうミナは戦いを終えていた。

「ミナ・・終わったのか・・・」

「ユウマ・・・うん・・仕方なく手にかけた・・・」

 ユウマに声をかけられて、ミナが振り返って戸惑いを見せる。

「どうやら、暴走はしてないみたいだな・・・」

「うん・・大丈夫・・落ち着いているよ・・・」

 安堵を覚えるユウマに、ミナが微笑みかけた。

「早苗さんと佳苗さんは・・・?」

 ミナがユウマに聞いて周りを見回す。

「オレが勝手に戻っただけだ・・お前が暴走してるのかと思ったけど、気のせいだったみたいだ・・・」

「ユウマ・・ゴメン・・心配かけちゃって・・・」

「オレの取り越し苦労だっただけだ・・気にするな・・」

 戸惑いを膨らませるミナに、ユウマが憮然とした態度を見せる。彼の言葉を聞いて、ミナが微笑みかける。

「早苗さんと佳苗さんのところへ戻ろう・・心配かけるといけないから・・・」

 ミナは早苗たちのところへ戻っていく。ユウマはため息をひとつついてから彼女に続いていく。

 早苗と佳苗を探しながら歩いていくミナとユウマ。街中の広場まで来た2人だが、早苗と佳苗が見つからない。

「あれ?・・早苗さん・・佳苗さん・・・!?

 ミナが不安を感じて、早苗と佳苗を追い求めて目を凝らす。しかし2人を見つけ出すことができない。

「どこにいるの、早苗さんたち・・・!?

 ミナが携帯電話を取り出して、早苗に連絡を取ろうとする。しかし早苗は電話に出ない。

「もしかして、別のガルヴォルスがいたんじゃ・・・!?

「でも、早苗さんたちが簡単にやられるとは思えない・・絶対にどこかにいるか、私たちが気づく何かを残しているはずだよ・・・!」

 ユウマの問いかけにミナが必死に答える。

「探さないと・・早苗さんと佳苗さんが無事なうちに・・・!」

 ミナは意識を集中して五感を研ぎ澄ませる。彼女はかすかな気配も逃さないように、周囲に感覚を張り巡らせていく。

 しかしミナはガルヴォルスどころか、普通の人と違う気配を感じ取ることもできない。

「ダメ・・何も感じない・・・!」

「ちょっとは落ち着け・・2人を見つける前にお前が参っちまうぞ・・」

 焦りを募らせるミナに、ユウマが声をかける。彼の言葉を耳にして、ミナが我に返る。

「ユウマ・・・ゴメン・・・」

「謝るなら、ちょっとは落ち着けってんだ・・・」

 動揺を見せるミナに、ユウマはさらに憮然とした態度を見せる。

「そうだ・・寧々ちゃんに聞いてみよう・・・!」

 ミナは再び携帯電話を取り出して、寧々に連絡を取った。

“もしもし、ミナちゃん?どうしたの?”

「寧々ちゃん、大変なの・・早苗さんと佳苗さんがいなくなってしまったの・・・!」

 電話に出た寧々にミナが事情を話していく。

「もしかしたら、ガルヴォルスの仕業かもしれない・・でも気配が感じ取れなくて・・・!」

“うん・・分かったよ、ミナちゃん・・すぐにそっちに行くから待ってて・・”

 寧々に呼びかけられて、ミナは電話を切った。

「寧々ちゃんが来てくれる・・それまで待つことにするよ・・・」

「そうだな・・大人しくしたほうがいいみたいだ・・・」

 ミナが言いかけて、ユウマが小さく頷いた。しばらく広場で待っていると、寧々が走り込んできた。

「ハァ・・ハァ・・ミナちゃん、ユウマくん・・お待たせ・・!」

 寧々が呼吸を整えながら、ミナたちに声をかけてきた。

「あたしもこっちに気ながらガルヴォルスの気配を感じようとしたけど、何も感じなかったよ・・ガルヴォルスの中にも、気配を消せるヤツがいるからね・・」

「そうですか・・私もまだ何も感じないです・・・」

 事情を話し合う寧々とミナ。

「何かを落としたとも、何か手がかりを残したりもしてない・・連絡してもつながらない・・」

 ユウマも話を投げかけて、寧々が深刻さを募らせていく。

「1回警視庁に行ってみよう・・もしかしたら、戻っているかもしれない・・」

「でも、早苗さんと佳苗さんが、ミナちゃんたちに何も言わずに帰るとは思えないよ・・やっぱり、何かあったとしか・・・」

「でも、他にどこに行ったのか・・・」

 考えても言葉を交わしても、不安を募らせるばかりのミナたち。どうしたらいいのか分からなくなって、ミナたちは途方に暮れていた。

 

 ランによって彼女の部屋に連れ込まれた早苗と佳苗。部屋の光景をすぐに察知して、彼女たちは緊張を覚える。

「ここにいるのって・・まさか・・・!?

 佳苗がたまらず驚愕の声を上げる。彼女たちは全裸の女性の石像が立ち並んでいるのを目の当たりにした。

「これは私がもたらした罰と救い・・・」

 ランが低い声音で早苗と佳苗に言いかける。

「ランさん・・あなたが、みんなを・・・!?

「罪人には終わらない不自由と苦痛の罰を、その被害で辛い思いをしている人には、2度と傷つかない救いと解放を・・」

 問い詰めてくる早苗に、ランは表情を変えずに語りかけていく。

「これが救い?・・全くの束縛じゃない、こんなの!」

 早苗がランのしたことに憤りをあらわにする。

「ただ自由を奪って、自分の思い通りにしているだけ・・あなたのしているコレは、ただの自己満足よ!」

「違う・・これが、罰と救いの両方を行える力だと分かった・・私が考えと経験を繰り返して見出したもの・・・」

 早苗に呼びかけられても、ランは考えを変えようとしない。

「それは間違ったやり方よ・・これは相手を苦しめるだけのものでしかない・・」

「そんなことはない・・これで不条理に振り回されて傷つけられることもない・・その傷を抱えて苦しむこともない・・私が、みんなを・・罪のない人を守る・・世界を、誰もが安心できる場所に変える・・・」

「いいえ・・誰も安心できない・・辛さを増やすだけ・・・!」

 自分の考えを変えないランに、早苗が訴え続ける。

「少なくてもこれだけは断言できる・・こんなこと、ミナさんは望んでいない・・今のランさんのしていることをしたら、ミナさんは絶望を感じてしまうわ・・!」

「もうこれ以上、ミナや私のように、罪のない人が一方的に苦しめられる世界にはしておけないのよ!」

 早苗に言い返すランが目つきを鋭くする。次の瞬間、早苗は体を締め付けられるような圧力を覚える。

「動かない・・これが、ランさんの力・・・!」

「これは念力というわけじゃない・・押さえつけるように思っただけ・・・」

 うめく早苗にランが自分の能力を語りかける。

「私は思ったことを強く念じただけで、それを現実にすることができる・・今も私が動きを止めると思っただけで、あなたの動きを止めている・・」

「そんなことで・・・いくらガルヴォルスでも、そこまでの力を出せるなんて・・・!」

「私は人間はもちろん、ガルヴォルスさえも超えてしまった・・それだけの力が、私からあふれてきた・・・」

 ランが語った力に早苗が耳を疑う。

「ランちゃん!」

 そのとき、佳苗がランに呼びかけて、取り出した拳銃を構えてきた。

「早苗を放しなさい!あなたを心配している人を苦しめるのが、あなたの望みなの!?

「私はあなたたちを苦しめるつもりはない・・それに私は銃も、どんな兵器も通用しない・・」

 佳苗が呼びかけるが、ランは早苗を放さない。

「それどころか、あなたは引き金を引く前に解放されることになる・・・」

  ピキッ ピキッ ピキッ

 そのとき、佳苗が着ていた衣服が突然引き裂かれた。あらわになった彼女の体が石に変わっていた。

「お姉さん!?

 石化に蝕まれた佳苗に、早苗が驚愕の声を上げる。体が石になって力を入れられなくなって、佳苗が手から拳銃を落としてしまう。

「やめなさい、ランさん!ミナさんのためにも、こんなことをしてはいけないわ!」

 早苗が声を振り絞って、ランに呼びかける。

「あなたが1番しなければならないのは、ミナさんと話をすること・・きちんと話し合って、どうしていくのがいいのかを見つけていくこと・・・!」

「その答えは、もう見つけているのよ・・・」

「それはあなただけで出している答えじゃない・・ミナさんの意見は何も反映されていない・・・!」

「ううん・・これが、ミナが安心して暮らせる世界への道なの・・・」

 早苗の言葉を何度投げかけられても、ランは自分の考えを貫こうとする。

「私がみんなを助ける・・私がやらないと、ミナもみんなも助けられない・・・」

 ランが感情を込めて言いかけると、早苗を押さえていた圧力を解いた。呼吸を整えてから、早苗がランに視線を戻す。

「あなたたちも救う・・ミナも・・・」

 鋭い視線を投げかけるランに、早苗が詰め寄ろうとした。

  ピキッ ピキッ ピキッ

 しかし彼女の両足が石化に襲われた。あらわになった素足は、彼女の意思に反して動かなくなってしまった。

「私の足まで・・これも、ランさんが・・・!」

「これであなたたちは傷つかない・・私が守っていくから・・・」

 驚愕する早苗にランが微笑みかける。

「やめなさい、ランさん・・ミナさんと、ちゃんと話をして・・・!」

  ピキッ ピキキッ

 早苗がさらに呼びかけるが、佳苗共々石化に蝕まれていく。2人の石の素肌がさらけ出されていく。

「ダメ・・ランちゃん・・今のあなたを見たら、ミナちゃん、きっと悲しむ・・・!」

「そんなことはない・・これは、ミナのためにしているのが大きいから・・・」

 佳苗の呼びかけにもランは聞き入れようとしない。

  ピキキッ パキッ

 早苗と佳苗の石化がさらに進んで、髪や頬も石に変えていた。

「ミナちゃんの気持ちを・・ちゃんと・・・受け止めて・・・」

 佳苗が声と力を振り絞って、ランに呼びかける。

  ピキッ パキッ

 唇も石化して声を出すこともできなくなってしまった早苗と佳苗。

(ミナさん・・・お願い・・・ランさんを・・・止めて・・・)

 早苗が心の中で、ミナに自分の一途な願いを託す。

   フッ

 完全に石化に包まれた早苗と佳苗。2人もランの力に堕ちてしまった。

「あなたたちももう・・ムリして辛さを抱え込むことはないんです・・・」

 ランが早苗と佳苗に囁くように言いかける。ランは石化した早苗を抱えて、佳苗のそばに置いた。

「私があなたたちを守っていく・・もちろんミナも、私が守る・・・」

 ランは自分の意思を口にして、部屋を出て行った。

(ランさん・・・ミナさん・・・)

 完全に石化したものの意識は残っており、早苗はランとミナへの思いを感じていた。

 

 早苗と佳苗を見つけることができず、ミナ、ユウマは家に戻ることにした。寧々も2人についてきた。

「早苗さん、佳苗さん・・どこに行ってしまったの・・・!?

「早苗さんたちが簡単にやられたりしないって。すぐに連絡してくるって・・」

 不安を募らせるミナに、寧々が励ましの言葉を送る。しかしミナは不安を拭えないでいる。

「とりあえずメシ食って休め。いざってときに腹が減ってたら情けないだろ・・」

 ユウマがミナと寧々に呼びかけてきた。

「とりあえずオレが起きてるから、お前たちは休め・・」

「ううん、交代でみんな休もう・・」

 すると寧々がユウマに意見を持ちかけた。

「交代で休んでいけば、みんな負担をしないで休めるはずだから・・」

「オレはただの人間だ。オレが元気でいてもどうにもなんない・・ミナの姉さんはもちろん、ミナやアンタと比べたら非力だ・・」

「・・力があっても何もできないことばかりだよ・・お姉ちゃんを助けることもできなかったし・・・」

 ユウマの言葉を受けて、寧々が物悲しい笑みを浮かべる。彼女は紅葉をランに連れて行かれたことを思い出して、辛さを思い返していた。

「わ・・悪かった・・お前だって、イヤなことを抱えてるのに・・」

「いいって、いいって・・それはお互い様なんだから・・」

 気まずくなるユウマに、寧々が弁解をする。

「とりあえずご飯にしよう。ね、ミナちゃん、ユウマくん・・」

「寧々ちゃん・・・うん・・・」

 気を取り直した寧々の言葉に、ミナは小さく頷いた。

「最初に起きてるのはあたしね。1時間交代ね・・」

 ユウマに向けて寧々が呼びかける。彼らはご飯を済ませてから、束の間の休息を取りつつ、早苗たちの帰りを待つことにした。

 寧々が最初に見張りをして、次にミナが交代、そしてユウマが見張りをした。

 そしてユウマの見張りのまま、時間は過ぎていった。ユウマはミナも寧々も起こそうとしなかった。

「今のオレにできるのは、こんなもんか・・・」

 この役目を自分で抱え込もうとしていたユウマ。すると少しして、ミナが目を覚ましてきた。

「ユウマ・・交代するはずだったのに・・・」

 ミナが声をかけるが、ユウマは答えようとしない。

「ありがとうね、ユウマ・・気を遣ってくれて・・・」

「オレの勝手だ・・気にするな・・」

 お礼を言うミナに、ユウマが憮然とした態度を見せる。

「オレは自分じゃお前を最後の最後まで思った通りにさせてやることができない・・お前のほうが全然力があるし、しっかりしてるし・・」

「ううん・・しっかりしているのはユウマのほうだよ・・私なんて、ユウマやみんなに迷惑をかけて・・・」

「したいこと、やりたいことがハッキリしてるだろ・・オレなんてハッキリしてない・・」

「それでも、叶えたい方法が・・・」

 迷いを募らせるばかりのユウマとミナ。2人の口からはついにため息ばかりになっていく。

「本当にどうしたら、お姉ちゃんのところへ行けるのかな・・・?」

 ランに会いたい気持ちを大きくしていって、ミナはたまらず頭を抱える。

「お姉ちゃん・・・会いたいよ・・・世界を変えることなんてないよ・・・私は、お姉ちゃんが帰ってきてくれたら・・・」

「ミナ・・・これだけミナが会いたがってるのに・・アイツは・・・!」

 ミナのランへの気持ちを察して、ユウマが憤りを感じていく。

「これだけ待たせておいて、帰ってくるどころか連絡もよこさない・・それでもミナの姉なのか・・・!?

「ユウマ・・・でも、それはお姉ちゃんに何か・・・」

「妹に何も知らせないでか・・それはないだろうが・・・!」

 ランの肩を持とうとするミナだが、ユウマは今のランのミナに対する行動に不満を抱いていた。

「これだけ姉に会いたがってる妹の気持ち、分からない姉がいるわけないだろうが・・」

「そうね・・姉失格かもしれないわね、その理屈だと・・・」

 そこへ別の声が入ってきて、ユウマとミナが緊迫を覚える。

「そ・・その声・・・!」

 ミナがゆっくりと声のしたほうに振り返る。彼女とユウマの前に現れたのはランだった。

「お姉ちゃん・・・本当にお姉ちゃんなの・・・!?

「ゴメンね、ミナ・・こんなに心配させて・・ずっと帰ってきてあげられなくて・・・」

 問いかけるミナにランが微笑んで答える。ランは視線をミナからユウマに移す。

「ありがとうね、ユウマくん・・ミナを支えてくれて・・・」

「今までどこで何をしていた・・何で今までミナのところに帰ってこなかったんだ・・・!?

 続けて声をかけたランに、ユウマが不満を投げかける。

「ミナをここまで心配させて・・・それでもコイツの姉さんなのか!?

「ユウマ・・・」

 ランに憤りを見せてくるユウマに、ミナが戸惑いを覚える。そしてランが物悲しい笑みを浮かべてくる。

「こんなにミナを心配させて・・私は姉失格かもしれないわね・・・」

「お姉ちゃん・・・」

「それでも、ミナや罪のない人たちが安心して過ごす世界に変えないといけなかった・・本当はまだその途中だったけど・・・」

 さらに戸惑いを感じていくミナに、ランが語りかけていく。

「やっぱり私は、ミナのお姉ちゃんってことだね・・・」

「お姉ちゃん・・・私のこと、あのときから今までもずっと・・・」

「妹の、ミナの心配をせずにはいられなかった・・それは私がミナのお姉ちゃんだから・・それだけでまとまるのかな・・・」

 自分の本音を語るランから信じられていたことを、ミナは改めて感じ取っていた。

「お姉ちゃん・・お姉ちゃんが私のためにいろいろとやっているのは分かっているよ・・気持ちは私も嬉しくないわけじゃない・・・」

 ミナも自分の正直な気持ちをランに話す。

「でも、いくら私のためでも、みんなに迷惑をかけるようなことをしてほしくない・・・私は素直に喜べないし、お姉ちゃんのほうが辛くなるから・・・」

「ミナ・・何を言って・・・!?

 表情を曇らせたミナの言葉に、ランが当惑を覚える。

「お姉ちゃん・・・紅葉さんに、何をしたの・・・?」

 ミナが意を決して、ランに問い詰めてきた。

「寧々ちゃんが・・・お姉ちゃんが、紅葉さんを連れて行ったって・・・」

「・・・そうよ・・私が守ってあげたいと思ったから・・・」

 ミナに自分のしたことを打ち明けたラン。彼女の返事にミナが困惑する。

「辛い思いをさせたくない・・だから私が紅葉さんを連れて、守ることにしたの・・」

「でも、紅葉さんを連れて行かれた寧々ちゃんの気持ちは・・・!?

 語りかけていくランに、ミナがさらに問い詰める。

「そのうち寧々ちゃんも連れてくるつもりでいたの・・さびしい思いをさせるのはよくないから・・・」

「いい加減にしろ!」

 ランに怒鳴ってきたのはユウマだった。ユウマはランの言葉と行動に憤りを感じていた。

「アンタ、それでもミナの姉さんかよ・・ミナを利用して、何もかもを自分の思い通りにしようとしてるだけだろうが!」

「そんなことはない・・私が今までしてきたことは、みんなミナのため・・」

「だったら・・ミナの言うことにちゃんと耳を傾けろよ!」

 ミナのためと訴えるランに、ユウマが声を張り上げる。2人の会話と感情に、ミナはさらに戸惑いを膨らませる。

「ミナは心の底で、安心して暮らしていたいと願っている・・私はその願いを叶えないといけないの・・・」

「それはアンタと一緒にってことだ!違うというなら、ミナに直接聞いてみろ!」

 ユウマに怒鳴られて、ランがミナに視線を戻す。ランに目を向けられて、ミナが動揺を見せる。

「お姉ちゃん・・私は本当に、お姉ちゃんと一緒に、今までみたいに暮らしていければいいの・・世界を変えたいとまでは思っていない・・」

「でもミナ・・世界を正しく変えていかないと、そんな時間を送ることもできなくなってしまうの・・あのときみたいに、敵は身勝手と不条理を押し付けて、力や権力を使って正しいことにしてしまう・・」

「私、もうそんなことにはならないと思う・・だって、私・・・」

 ランに物悲しい笑みを浮かべたミナの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼女の変化にランは目を疑った。

 ミナの背中から白と黒の翼が広がった。彼女はランの目の前でルシフェルガルヴォルスとなった。

「ミナ・・あなたも・・・!?

「私もガルヴォルスになった・・それも、とんでもない力を持ったガルヴォルスに・・・」

 驚きを見せるランに、ミナが低い声音で言いかける。

「思ったことを強く念じただけで、現実でもその通りになってしまう・・それが私の能力・・まるで神様みたい・・・」

「それって・・私と同じ力・・・!?

 ランが口にした言葉に、今度はミナが驚きを覚える。

「私の力も・・思ったことをその通りにできることなの・・それで私は、たくさんの敵を裁いてきた・・・」

 ランが言いかけて右手を掲げる。彼女に威圧されて、ミナが緊張を隠せなくなった。

 

 

 

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