ガルヴォルスLucifer
EPISODE3 –End of bonds-
第2章
ミナとユウマの前に現れたのはリオだった。リオはミナが秘めている強い力を感じ取っていた。
「あなた、もしかしてガルヴォルス・・?」
「・・そういうことになるのでしょうか・・・」
リオの問いかけに、ミナが弱々しく答える。
「私に危害を加えるつもりがないなら、2度と私の前に現れないことだ・・私は何も信じられなくなっている・・」
リオはミナとユウマに忠告を送ると、また歩き出そうとした。
「待って!」
そのとき、ミナが突然リオを呼び止めてきた。声をかけられたリオが足を止める。
「あの・・お姉ちゃんを・・天上ランって人を知りませんか・・・!?」
「天上ラン・・?」
ミナの問いかけにリオが眉をひそめる。
「お姉ちゃんを探しているんです・・知らないでしょうか・・・!?」
「聞かない・・あなたの姉に何かあったの・・・?」
「私のために世界を変えようとしているの・・私はそんなの望んではいないのに・・・信じられないことに思えるかもしれないですけど・・」
「世界を変えようとしている・・私と同じように、身勝手に振り回されて苦しんで、それを何とかしたいと思っている人がいるのね・・・」
ミナの話を聞いて、リオが言葉を返してきた。
「私も気になってきた・・私にとって味方なのか敵なのか・・・」
「敵・・アンタ、いったい・・・!?」
リオに疑念を見せてきたのはユウマだった。
「私は身勝手を振りかざす敵を許さない・・人間もガルヴォルスも関係ない・・」
リオがミナとユウマに自分の頑なな意思を示す。彼女の鋭い視線と語気に、ミナは緊張を募らせていく。
「もしも世界が今、私が願っている通りに変わっているなら、それを見届けるのもいいのかもしれない・・・」
「あなたも、世界の不条理に苦しめられて・・・」
リオが自分と同じ境遇と心境であると悟ったミナ。
「どうやらお前も・・・」
リオもミナが自分と同じであると判断する。
「あの・・もしよかったら、お姉ちゃんを探して・・・」
「おい、ミナ・・」
リオに頼んできたミナに、ユウマが不満の声を投げかける。2人の言動を見て、リオがひとつ吐息をついた。
「悪いが協力はできない・・私はもう、信じることそのものに疑念を感じている・・」
リオは冷たく言いかけると、ミナとユウマの前から去っていった。
「お姉ちゃん・・・」
「いつまでも気にしすぎていていいのかよ・・それとも他の連中みんなに迷惑をかけてまで、また闇雲に探しに行くつもりでいるのか・・・!?」
ランのことを気にするミナに、ユウマが言いとがめる。彼に問い詰められて、ミナは戸惑いを募らせていく。
「もう帰るぞ・・とんだ寄り道になっちまった・・・」
「うん・・・」
ユウマに呼びかけられて、ミナが小さく頷いた。
「ミナちゃん!ユウマくん!」
そこへ寧々が駆け込んできて、ミナとユウマに声をかけてきた。
「今、すごい気配を感じたんだけど・・ガルヴォルスだったよね・・・!?」
「うん・・ガルヴォルスは私が倒しました・・」
寧々が問いかけると、ミナが戸惑いを感じながら答える。
「そうか・・来るのが遅れてゴメンね、ミナちゃん・・」
「いいよ、寧々ちゃん・・私もユウマも無事だったから・・・」
謝る寧々にミナが微笑みかける。2人の会話を見て、ユウマは憮然とした態度を見せていた。
「寧々ちゃん・・あの・・その・・・」
「大丈夫だよ、寧々ちゃん・・あたしは大丈夫だから・・」
ミナが口ごもると、寧々が笑顔を見せて弁解する。それが作り笑顔であることを、ユウマは悟っていた。
「寧々ちゃん、よかったら夜ご飯どうかな・・?」
ミナが寧々に夕食の誘いを申し出てきた。すると寧々がミナに笑顔を見せてきた。
「ありがとう、ミナちゃん♪お言葉に甘えることにするね♪」
「いえ・・でもまだ買い物の途中で・・・」
「それじゃあたしも付き合うよ。ごちそうさせてもらうんだからね。」
ミナと寧々が笑顔を見せ合って、買い物のために歩き出していった。2人とも空元気を見せているだけだと、ユウマは思っていた。
夕食の買い出しを終えて、ミナとユウマは寧々と一緒に家に帰ってきた。早速彼らは夕食を作って、食事の時間を取った。
「ゴメン、寧々ちゃん・・あまりいい出来栄えじゃなくて・・」
「そんなことないって。すっごくおいしいよ〜。」
苦笑いを浮かべるミナに、寧々が笑顔で夕食を口にしていった。
「あたし、うまく作れる料理が少なくて・・ミナちゃんがうらやましいよ・・」
「そんな・・私なんて全然・・・」
「謙遜しなくても・・ユウマくんも幸せだろうね。ミナちゃんの作るごはんを食べられるんだから・・」
ミナと会話を弾ませて、寧々がユウマに目を向ける。
「オレも少しは作っている・・任せきりにはしていない・・」
「そ、そうなんだ・・アハハ・・」
憮然とした態度で答えるユウマに、寧々だけでなくミナも苦笑いを浮かべる。ユウマはそれから黙々と食事をしていった。
「ところで寧々ちゃん、早苗さんと佳苗さんは・・」
ミナが唐突に早苗と佳苗のことを切り出してきた。
「探してくれてるよ・・ランさんも、お姉ちゃんも・・でもまだ見つかってない・・」
「お姉ちゃん・・・どうして、紅葉さんを・・・」
寧々の話を受けて、ミナがランと紅葉の心配をする。ミナはランのしていることに、さらなる疑問を感じるようにもなっていた。
「ご飯は早く食べちまうもんだ・・でないと、冷めちまうだろ・・」
そこへユウマが声をかけてきた。夕食を食べ終えて、彼は自分の部屋に戻っていった。
「ユウマ・・・」
ユウマにまた心配をかけられたと思って、ミナは戸惑いを感じていた。
「さて・・ご飯を食べたらあたしは帰るね・・どうしてもお姉ちゃんやランさんのことを気にさせちゃうみたいだから・・」
「そんなことないよ、寧々ちゃん・・悪いのは、お姉ちゃんと、私・・・」
「違うって、寧々ちゃん・・寧々ちゃんは何も悪いことをしていない・・」
「ううん・・お姉ちゃんを止めなかった・・止められなかった・・・」
励ます寧々だが、ミナは自責の念を拭えずにいた。彼女の心境を改めて察して、寧々も困惑を募らせていた。
人間、ガルヴォルス問わず、自分の敵と認識した相手を次々に手にかけていったリオ。彼女は人気のない場所を選んで休息を取っていた。
休息の間も眠っているときも、リオは奇襲を仕掛けてくる敵に対して、反射的に動けるようになっていた。
このときも眠りについていたリオ。だが夜明けが近くなったところで、彼女は近づいてくるものに気付いて目を覚ます。
(この感じ・・強いレベルのガルヴォルスか・・・!)
リオはすぐに起き上がって、警戒を強めて身構える。
(いずれにしても・・今まで感じたことのない気配だ・・!)
同時にリオは気配の強さの大きさに緊張も感じていた。彼女の視界に1つの人影が入ってきた。
「強い気配・・あなた、ガルヴォルスね・・」
「そういうお前も・・それもただ者でなく・・」
現れたのはランだった。彼女とリオが目を向け合って、声を掛け合う。
「あなたが、剣崎リオさん・・・?」
「だとしたら・・お前は誰だ・・?」
「私は天上ラン・・世界を狂わせている敵を倒すために行動してる・・」
「世界を狂わせている敵・・お前もその敵と戦っているのか・・?」
ランの口にしてきた言葉に、リオが眉をひそめる。
「あなたは自分勝手な人を次々に手にかけてきた。あなたもおそらく、身勝手に振り回されて、それが許せなくて戦っているのでしょう・・?」
「勝手を言ってくれる・・だがその通りだ・・」
ランの投げかける言葉に、リオがため息混じりに答える。
「それで、私に何の用だ?・・私を目的に近づいてきたのだろう・・?」
リオがランに向けて冷徹に問いかける。ランは彼女に対して、表情を変えずに言葉をかける。
「よかったら、私と一緒に世界の敵を倒していってほしいの・・私が国会に飛び込んで、敵を一掃したことで世界はいい方向に傾いてきている・・でもまだ世界には、自分勝手に世界を書き換えようとする敵がいる・・」
「断る・・私は誰とも組むつもりはない・・」
ランからの誘いをリオが拒む。
「私はもう誰も信じることができない・・信じたために陥れられたこともあるから・・」
「不条理に打ちひしがれたあなたのその気持ち、分からなくもない・・裏切られ続けたら、信じられなくなるのもムリのないこと・・」
リオの心境に納得するラン。
「一緒に力を合わせられたら、世界をよくするのも早まるかもしれなかったけど・・仕方のないことかもしれない・・・」
「用はそれだけか?・・もうないなら私のそばに近づかないほうが面倒にならなくなる・・」
残念そうなランに、リオが冷徹に告げる。するとランがリオに悲しさを込めた視線を向けた。
「そうね・・あなたなら、私が救いをしなくてもよさそうね・・」
ランが口にした言葉に、リオが眉をひそめる。
「私たちが敵対することがないように、祈りたい・・・」
リオにそう告げると、ランは彼女の前から立ち去っていった。
(強い力を秘めていた・・もしかしたら、私よりも上だったかもしれない・・・)
ランの潜在能力を改めて感じて、リオは無意識に息をのんでいた。
リオとの対面を終えて、ハルは自分の部屋に戻ろうとしていた。朝日が昇り始めて、夜の闇を消していた。
(剣崎リオも世界の敵と戦っているけど、頼ることはできそうにない・・)
リオのことを考えながらも、ランは自分の手で不条理であふれている世界を変えようとしていた。
(私しかできない・・ムチャクチャだった世界をよくしていけるのも、ミナを守るのも・・・)
ミナのことを想って、ランは胸を締め付けられるような気分を覚える。
(ミナにさみしい思いをさせているのが辛い・・早く終わらせて、帰らないと・・・)
ミナのために力を使い、戦う。ランは改めて決意を固めていた。
「見つけた!アイツだよ!」
そこへ1人の少女が現れて、ランに向かって駆け込んできた。
「お前が・・お前が私のお父様を!」
怒鳴りかかってくる少女に対して、ランが目つきを鋭くする。
「あなたのお父さん?・・もしかして、国会議員・・?」
「そうよ!お父様は国のため、世界のために尽くしてきたのに・・それを・・それをアンタが!」
問いかけるランに少女がつかみかかる。だが少女はランに腕をつかみ返される。
「私は世界を自分勝手に動かしている敵を始末しているだけ。私や私の家族を虐げた敵を、私は許すつもりはない・・」
「お父様はみんなの味方よ!みんなだってお父様を慕っていた!そのお父様が、誰かを傷つけることは・・!」
「あった。私と家族がその犠牲者だからよ・・」
怒りを見せる少女の腕をつかんでいる手に、ランが力を込める。腕を締め付けられて、少女が痛みで顔を歪める。
「自分たちだけが正しいと思い上がり、自分のした間違いさえも正しいことにしようとする・・そんなやり方は絶対に認められない・・私が認めない・・」
「それはアンタじゃない・・自分のことばかりで、そのためにみんなを・・・!」
「敵の子供も敵ということになるのね・・・」
敵意を向けてくる少女に、ランは衝撃波を浴びせる。この一瞬で少女は気絶して倒れる。
「自分たちの目的のために他人を平気で傷つける敵・・それに味方しようとする人も、敵以外の何者でもない・・」
ランは冷徹に告げて、少女を抱える。
「間違いを強引にでも止めるべきだった・・それどころか、敵と考えを同じにするなんて、愚の骨頂・・」
少女を抱えたまま、ランは歩き出す。
「自分たちのことを棚に上げて、周りを間違いだと決めつけるのは、人として絶対にやってはいけないこと・・あなたも、それを思い知らないといけない・・」
少女に言いかけながら、ランは彼女を連れて姿を消した。
少女を自分の部屋に連れ込んだラン。暗闇の広がる部屋で、少女は目を覚ました。
「ここは・・どこ・・・!?」
「ここであなたは罰を受けることになるのよ・・永遠の罰を・・」
周りを見回す少女にランが声をかけてきた。
「罰!?・・罰を受けるべきなのはアンタじゃない!」
「この期に及んでも自分たちが犯した間違いに気付かない・・気付こうともしないなんて・・・」
怒鳴りかかる少女に、ランが肩を落とす。
「あなたの親から私たちが受けてきた苦しみを、あなたにも体感してもらう・・一方的に虐げられる不条理というものを・・」
ピキッ ピキッ
そのとき、少女の履いていた靴と靴下が突然吹き飛んだ。あらわになった彼女の素足は、石になって固くなっていた。
「な、何なの、コレ!?・・足が、動かない・・!?」
驚愕をあらわにする少女。彼女が動こうとするが、石化している両足は彼女の意思を受け付けない。
「ちょっと!これってどうなってるの!?私に何をしたの!?」
「見た通り、石化よ・・私がそうなるように念じたことで、あなたの体は石になった・・」
声を荒げる少女に、ランは冷徹に答える。
「石化だけじゃない・・私は強く念じたことを実現させる力を持っている・・私がそうなるように思うだけで、その通りになるの・・」
「そんなバカな・・あるはずないじゃない、そんな都合のいいの・・!」
語りかけるランに、少女が緊迫を募らせていく。
ピキッ パキッ パキッ
石化が進行して、一気に少女の体を石にした。彼女の着ていた衣服も引き裂かれて、石の肌があらわになる。
「私自身、そこまで望んではいなかった・・ただ私たちを虐げる不条理を打ち破りたい・・そう願ったら、私の中からこの力があふれてきたのよ・・」
「それで、神にでもなったつもり!?何でも思い通りになると、本気で思ってるの!?」
「そう思っていたのはあなたたちのほう・・そんなことは、私がさせない・・・!」
声を張り上げる少女に、ランは表情を変えずに答える。
「私たちを苦しめたあなたの家族は私が罰を与えた・・あなたにもこれから、永遠の罰を受けてもらうわ・・」
ピキキッ パキッ
石化が少女の手の先まで及んで、首や頬も石に変えていた。ほとんど石にされて、少女は力を入れることもできなくなっていた。
「あなたはオブジェとして、ずっとここにいる・・自由が全くない状態で・・・」
「やめて・・助けて・・もう恨まないから・・・」
低く告げるランに、少女が助けを請う。
ピキッ パキッ
しかし石化はさらに進み、少女は唇も石に変わり、声を出すこともできなくなった。
フッ
完全に石化に包まれた少女。彼女は一糸まとわぬ姿で、ランの前で立ち尽くしていた。
「そういった人たちに、あなたたちは何をしたのか、忘れたとは言わせないわよ・・・」
ランが石化した少女に言いかける。少女は全く反応を見せない。
「私は世界を正しい形にする・・自分勝手なことをして、誰かを傷つけて、それを正しいことだと思い込んでいる敵には、私が罰を与える・・・」
少女に冷たい視線を投げかけると、ランは振り返って歩き出していった。
(ミナ、もう少しだけ待っていて・・必ず私が、あなたが苦しまない世界にするから・・・)
ミナへの思いをさらに募らせて、ランは部屋を後にした。
ラン、紅葉、そしてリオの行方を探っていた早苗と佳苗。佳苗のいる会議室に、早苗が入ってきた。
「目撃情報が見つかったわ・・!」
「えっ!?」
早苗が口にした言葉に、佳苗が驚きの声を上げる。
「ランさんと思われる人を見たって・・」
「ランさんを・・!?」
驚きを見せる佳苗の前で、早苗が地図を広げてランの目撃情報の場所を指し示した。
「今朝にこの辺りで目撃されたそうよ。1人の女性に言い寄られていたそうで・・」
「その人って、まさか寧々ちゃん・・!?」
「ううん、違う・・その人は寧々さんとは違っていたそうよ・・」
「そう・・寧々ちゃんはまだこのことを知らないみたいね・・・」
早苗からの報告を聞いて、佳苗が安堵を覚える。
「それでランちゃんは?どこに行ったのかは分かったの・・?」
「そこまでは分からない・・少ししていなくなってしまったと・・」
「あぁ・・ランちゃん、ホントにどこにいるの・・・」
早苗も佳苗もランの居場所をつかめるには至らず、頭を抱えていた。
(私たちが先に見つけないと・・ミナさんや寧々さんよりも先に・・・)
ミナや寧々が暴走と危険にさらされないように、早苗は心の中で気持ちを強めていた。
「もう1度話を聞いてみよう。今度は私も行くわ。」
「お姉さん・・えぇ。行きましょう・・」
佳苗が呼びかけると、早苗が微笑んで頷いた。
そして早苗と佳苗はランが目撃された場所に向かった。2人は改めてランのことを聞いて回ったが、先ほどの目撃情報以外は何も手がかりは得られなかった。
「ハァ・・また空振りかぁ〜・・」
佳苗が肩を落として落ち込みを見せる。
「簡単に見つかるならこんなに苦労しないとは思っていたけど・・」
「でもこの辺りに出たという目撃は確かなんだから、もうしばらくこの辺りを調べてみよう・・」
ため息をつく早苗に佳苗が呼びかける。
「もちろん。ミナさんたちのためにもね。」
微笑んで頷く早苗。2人はこの小さな手がかりにすがるように、ランと紅葉の捜索を続けることにした。
リオとの出会いと会話で、ミナはランへの思いをさらに強めていた。その彼女をユウマは見守っていた。
「まだあの2人が探してくれてるだろ・・」
ユウマがおもむろにミナに声をかけてきた。
「分かっている・・分かっているけど・・・」
「ハァ・・理屈じゃないってことか・・オレもそんなところがあるからな・・・」
困惑を募らせるミナに、ユウマが肩を落としてきた。
「1回早苗たちのところに行って、聞いてみるか・・?」
「ユウマ・・・うん・・・」
ユウマに言われて、ミナが小さく頷く。
「でも1回連絡をしてみてからのほうが・・・」
ミナは言いかけて、早苗に電話をかけることにした。しかし彼女にはかからず、留守番電話につながった。
早苗自身につながらなかったため、ミナは携帯電話をしまった。
「つながらない・・・」
「だったら直接いくしかないな・・・」
肩を落とすミナにユウマが呼びかける。2人は早苗と佳苗に会いに外に出て行った。
さらにランと紅葉の捜索を続けた早苗と佳苗。それでもこれ以上の手がかりを見つけられず、彼女たちは肩を落としてた。
「もう帰るしかなさそうだね・・また1回情報を整理しよう・・」
「えぇ・・警視庁のほうにも情報が届いているかもしれないし・・」
佳苗の言葉に早苗が頷く。2人は1度警視庁に戻ろうとした。
「早苗さん、佳苗さん・・」
そこへ声をかけられて、早苗と佳苗が足を止めた。彼女たちの前にミナとユウマがやってきた。
「ミナさん・・!?」
「ユウマくん・・・!」
ミナとユウマの登場に早苗と佳苗が驚きを覚える。呼吸を整えてから、ミナが2人に顔を見せてきた。
「ミナさん、どうしてここに・・・!?」
「ごめんなさい、早苗さん・・本当は電話してから行こうと思ったんですけど、出なかったので・・」
動揺を覚える早苗に、ミナが戸惑いを見せながら答える。早苗が自分の携帯電話を取り出して、着信履歴を確かめた。
「お姉ちゃんや紅葉さんのことを聞きたくて・・・」
「ミナちゃん・・私たちも今も探しているんだけど、まだ・・・」
ミナが訊ねると、佳苗が質問に答える。彼女は目撃情報があったことは、ミナには打ち明けなかった。
「ゴメン、ミナちゃん・・早く見つけてあげたいのに・・」
「ううん、佳苗さんと早苗さんは、私とお姉ちゃんのためにやってくれているのに・・」
謝る佳苗にミナが弁解を入れる。
「お姉ちゃん・・本当にどこにいるんだろう・・私は、お姉ちゃんと一緒に過ごせればそれだけでいいのに・・・」
「ミナさん・・・」
ランへの思いを募らせて悲しい顔を浮かべるミナに、早苗は心を痛めていた。
「あ〜あ、いつまでも刑事がうろつきやがって・・」
そこへ1人の男が現れて、ミナたちに不満を見せてきた。
「もういいや・・みんなまとめて叩き潰すことにした・・・」
「あなたは誰?私たちに何か用?」
両手を握りしめる男に、早苗が声をかける。すると男の頬に異様な紋様が浮かび上がってきた。
「お前、まさか・・!?」
たまらず声を荒げるユウマ。彼らの前で男がワニの姿に似た怪物に変わった。
「ガルヴォルス!」
怪物、クロコダイルガルヴォルスの出現にミナたちが身構える。ミナたちを見て、クロコダイルガルヴォルスが不敵な笑みを浮かべる。
「ユウマ、早苗さん、佳苗さん、逃げて!」
ミナが飛び出して、背中から白と黒の翼を広げた。彼女がルシフェルガルヴォルスとなって、クロコダイルガルヴォルスに向かっていった。
「ミナちゃん!」
佳苗が声を上げる前で、ミナが両手を広げてクロコダイルガルヴォルスの行く手を阻む。
「ガルヴォルスもいたのか・・別にかまわない・・みんなまとめて始末してやるぜ!」
いきり立ったクロコダイルガルヴォルスがミナに飛びかかる。彼が繰り出してくる拳を、ミナは素早く動いてかわしていく。
「ミナさん・・姉さん、ここを離れるわよ!」
「う、うん!」
早苗と佳苗がこの場を離れようとする。しかしユウマはミナをじっと見守っていて、動こうとしない。
「ユウマくん、危ないわ!早く逃げなさい!」
早苗が腕をつかんで、ユウマを連れて行く。その間にクロコダイルガルヴォルスがミナに襲い掛かっていた。
「ガルヴォルスでも、叩きのめせるなら別にかまわない!」
「ユウマに手は出させない・・早苗さんも佳苗さんも傷つけさせない・・・!」
言い放つクロコダイルガルヴォルスにミナが言い返す。彼女が背中の翼をはばたかせてかまいたちを放つが、クロコダイルガルヴォルスの硬い体に弾かれた。
「そんなものでオレを仕留められると思ってたのか!」
あざ笑ってくるクロコダイルガルヴォルスが、ミナに飛びかかって大口を開けてきた。彼の噛み付きを、ミナは横に動いてかわす。
次の瞬間、クロコダイルガルヴォルスが振りかざしてきた拳が、ミナの体に叩き込まれた。
「うっ!」
痛烈な一撃を受けて、ミナがうめく。動きが鈍ったミナの左肩に、クロコダイルガルヴォルスが噛み付いてきた。
「うあっ!」
肩に激痛を覚えて、ミナが絶叫を上げる。クロコダイルガルヴォルスが彼女の肩にさらに噛み付いていく。
ミナがとっさに離れる思念を強めた。するとクロコダイルガルヴォルスが彼女から引き離された。
「どういうことだ・・いきなり突き飛ばされただと・・!?」
何が起こったのか分からず、クロコダイルガルヴォルスが驚きの声を上げる。噛み付かれて出血している肩を押さえて、ミナが息を乱す。
「もう1度・・もう1度噛み砕いてやる!」
クロコダイルガルヴォルスがミナに飛びかかってきた。
「近づかないで!」
ミナが言い放つと、衝撃波が巻き起こってクロコダイルガルヴォルスが押される。
「まただ・・何でアイツに近づけない!?・・あんな体に力があるってのか・・・!?」
ミナの能力が理解できず、困惑するクロコダイルガルヴォルス。彼にミナがゆっくりと近づいていく。
「私の力は、思ったことを現実にできること・・強く念じただけでその通りにできる・・」
「何だとっ!?」
ミナの言葉にクロコダイルガルヴォルスが声を荒げる。
「そんな反則技、あるわけないだろうが!そんなことでオレが負けるか!」
クロコダイルガルヴォルスがまた飛びかかる。が、ミナの力に押されて彼女に近づくことができない。
「それができてしまう・・その気になったら、簡単に皆殺しができてしまう・・それが、今の私・・・」
「ふざけるな・・ふざけるな!」
物悲しい笑みを浮かべるミナに、クロコダイルガルヴォルスがいきり立つ。次の瞬間、クロコダイルガルヴォルスの両腕に切り傷がつけられた。
「何っ!?」
鮮血をあふれさせる体に、クロコダイルガルヴォルスが驚愕する。
「オレの・・オレの硬い体が・・こんな、簡単に・・・!?」
「今すぐに私たちの前からいなくなるなら、もう何もしない・・」
愕然となるクロコダイルガルヴォルスに、ミナが低い声音で忠告を送る。しかしクロコダイルガルヴォルスは引き下がらない。
「このままやられたまま、尻尾巻いて逃げられるか!」
ミナに向かって飛びかかるクロコダイルガルヴォルス。
「お前を、お前を噛み砕いて!」
「聞けば何もしなかったのに・・」
叫ぶクロコダイルガルヴォルスの横をミナはすり抜ける。2人が互いに振り返った直後、クロコダイルガルヴォルスの体からさらに鮮血があふれ出した。
「ご、ごあっ!」
吐血したクロコダイルガルヴォルスが倒れていく。体をバラバラに切り刻まれた彼は、すぐに崩壊して消えていった。
「ちゃんと話を聞いてくれたら、私は一方的に傷つけることはなかった・・でも、ユウマやみんなを傷つけるなら、私は迷わない・・・」
人の姿に戻ったミナが、悲しさを込めた言葉を口にする。
「でも、迷いがないのは、お姉ちゃんのほう・・・」
ランのことを思い出して、ミナはまた悲しみを募らせていた。