ガルヴォルスLucifer
EPISODE2 –Mixture of nightmare-
第8章
ミナとユウマを助けるため、2人を追い込むものを排除しようと決断したユウジ。彼は街中の高層ビル群の前に来ていた。
(ここだね・・ここにいる人たちが、ミナちゃんとユウマくんを追い込んでいる・・・)
ユウジが高層ビルを見つめて、目つきを鋭くする。
(僕は知っている・・自分たちのために他の人を平気で犠牲にする人は、兄さんだけでないことを・・)
ユウジがレンジから受けた非道の行いを思い返していた。
自己中心的な性格の兄、レンジ。彼の傍若無人な態度に対して、ユウジは悠然とした対応と笑顔を崩さなかった。
しかしユウジは心の奥底でレンジの言動への不満を感じていた。自分たちが正しいと思って全く疑わないレンジが、ユウジはどうしても許せなかった。
それでもユウジはその不満を表に出すことはなかった。不満を見せることが効果的にならないと思っていたからである。
ユウジのそうした心構えや言動が、彼の好感度を上げることにもなった。
(僕は兄さんとは違う・・そうありたいと思って、僕はみんなに親切にしてきたのかもしれない・・)
これまでの自分が過ごしてきた時間を思い返して、ユウジが笑みをこぼす。
(でも、ミナちゃんが心身ともにあそこまで追い込まれてしまったことには我慢ができなかった・・あの状態、確実に心に傷を残している、死ぬかもしれないと思った・・)
ミナへの心配をして、ユウジが表情を曇らせる。
(だから、ミナちゃんたちへの暴挙を平然と行う兄さんに、僕は我慢の限界を迎えた・・実の兄を手にかけてでも、ミナちゃんたちを助けたかった・・・)
レンジを殺めた自分の手を見つめて、ユウジは苦悩を感じていく。
(ミナちゃんの辛い姿を見るのはもう耐えられない・・僕の手を汚してでも、ミナちゃんたちが心から笑顔になれる世界にする・・)
ミナたちを守るため、ユウジは高層ビルに向かって再び歩き出す。
(ミナちゃんが、心から笑顔になってくれるなら、僕は・・・)
「ユウジさん!」
そのとき、ユウジは聞き覚えのある声を耳にして、目を見開いた。足を止めて振り返った彼が見たのは、息を乱しながらも見つめてくるミナの姿だった。
「ミナちゃん・・・!?」
ユウジはミナに対して驚きを隠せなかった。彼が結晶化したはずのミナが、結晶から脱していた。
「僕の力から、抜け出したの・・・!?」
「はい・・私の力が、私とユウマをあなたの力を打ち破ったんです・・私自身、その力に驚いていますが・・」
驚きの声を上げるユウジに、ミナが戸惑いを感じながら答える。
「いくら君もすごい力を宿していると言っても、僕の力から抜けられるなんて・・」
「私も、自分の力が神様みたいだって思っています・・・」
ユウジが投げかけた言葉を受けて、ミナが自分の胸に手を当てた。そこでユウマが遅れて到着した。
「私の思って念じたことが、本当になるんです・・抜け出したい、助けたいと願ったことで、あなたの力を破ることができたんです・・」
「そうだったのか・・だから君たちはここに来れたんだね・・・」
ミナの話を聞いて納得して、ユウジが笑みをこぼす。
「ユウジさん・・これからやろうとしていることをやめてください・・ユウジさんが手を汚すことはないんです・・・」
ミナがユウジに向けて説得の言葉を投げかける。
「私は大丈夫です・・私はもう自分を見失っていませんし、私がお姉ちゃんを見つけ出して、連れて帰らないといけないって分かったから・・・」
「ミナちゃん・・だけど、それだとミナちゃんが・・・」
「ありがとうございます、ユウジさん・・私に心配をかけてくれて・・・でも、傷つくかもしれないのも覚悟しています・・・」
ユウジが心配するが、ミナは微笑んだまま首を横に振る。
「でもお姉ちゃんは、もっと辛い思いをしているんです・・それも私のために・・そのお姉ちゃんを助けられるのは、妹の私なんです・・・」
「ミナちゃん・・・ミナちゃんの気持ちは分かるけど・・それでもミナちゃんが傷ついていいということにはならないよ・・・」
「お姉ちゃんが辛い思いをしてもいいってことにもならないです・・」
ユウジが不安を見せていくが、ミナの決意は固くなっていた。
「今の私の気持ちは、ユウジさんを止めること・・ユウジさんを悪者にしたくないんです・・・」
「僕は別に・・ミナちゃんたちのためなら、悪者になっても・・・」
「そうなってしまうのがイヤなんです・・ユウジさんは、心から優しい人でないとダメなんです・・・!」
気遣ってくるユウジの言葉を、ミナは否定する。
「そうやって、自分が納得するために他人を踏みにじるようなこと、オレとミナが喜ぶと思ってるのか、アンタは・・・!?」
ユウマがユウジに向けて怒りの声を上げてきた。
「オレたちの考えを勝手に決めるな・・アンタでもそんなことを許さないぞ・・・!」
「・・・僕は・・君たちの気持ちを分かっていると思い込んでいて、何も分かっていなかったってことなのかな・・・」
ユウマに睨まれて、ユウジは自分の考え方に間違いがあったと思い、思わず苦笑いを浮かべた。
「それでも僕は、君たちだけに危ない目にあわせて、自分だけ安全でいようなんてできないよ・・僕も君たちに負けないくらい、ガンコだからね・・・」
ユウジは笑みを消して、ミナとユウマに右手をかざす。
「君たちの気持ちを踏みにじることになってでも、僕は君たちを守る・・・!」
ユウジが右手から結晶の弾を放つ。するとミナが意識を集中する。
次の瞬間、ユウジの放った結晶の弾が全て弾け飛んだ。ミナの意思が現実となって、結晶の弾を打ち砕いたのである。
「それが、君のガルヴォルスとしての力・・・!」
ミナの出した力を直接目にして、ユウジが息をのむ。
「私がその気になれば、ユウジさんをどうにでもできてしまんです・・でも何でもできるからって、何をしてもいいということじゃない・・お姉ちゃんを追い込んだ人たちと同じ・・・」
ミナがユウジに向けて悲しい眼差しを送る。
「お願いです、ユウジさん・・このまま帰ってきてください・・今までみたいな優しいユウジさんに・・・」
ミナがユウジに向けて忠告を投げかける。ユウジに帰ってきてほしいというのが、ミナの本音である。
「お願いです・・ユウジさん・・私は、あなたに力ずくはしたくないんです・・・」
「ミナちゃん・・ユウマくん・・・ゴメン・・・僕は・・・」
ミナの最後の忠告も、ユウジは聞き入れようとしない。
「君たちが安心して暮らせる世界を作りたいんだ!」
ユウジが再びミナとユウマに向かって、結晶の弾を放つ。ミナは同じように意識を傾けて、結晶の弾を打ち砕いた。
同時にユウジは結晶の刃を作り出して、右手で握る。彼はミナの動きを見据えてから、高層ビルに向かって走り出した。
「ユウジさん!」
ミナが慌ててユウジを追いかける。ユウマも後に続く。
ユウジが高層ビルの1つに飛び込もうとする。その彼の前にミナが回り込んできた。
「行かせない!」
「ミナちゃん、どいて!このままだと君は!君たちは!」
立ちふさがるミナに、ユウジが感情を込めて言い放つ。しかしミナは退かない。
「私たちの未来は、私たち自身で切り開く!ユウジさんが肩代わりすることはないんです!」
言い放つミナの背中から白と黒の翼が広がる。彼女はユウジに対して力を解き放つ。
「私は守りたい・・お姉ちゃんを・・ユウジさんを・・ユウマを・・・!」
「ミナ・・・アイツ・・・!」
ミナが口にした決意にユウマが戸惑いを覚える。
「本当なら分かり合えるのが1番いいんだけど・・戦って、手にかけてしまう覚悟も、今の私にはある・・・!」
ミナは目つきを鋭くして、ユウジに向かって歩き出す。ユウジがとっさに右手を出して、結晶の弾を放つ。
ミナは意識を傾けて、結晶の弾を弾き飛ばしていく。彼女はさらにユウジに向かって前進する。
だがミナが足に違和感を覚える。彼女の両足が、地面の上に敷かれていた結晶に捕まっていた。
「こういう卑怯なやり方は僕のやり方じゃないけど・・ミナちゃんたちを安心させられるなら・・・!」
ミナをおとなしくさせるために、ユウジは手段を選ばなくなった。結晶の弾で注意を引き付けた間に、彼は地面に液状の結晶を流して、ミナが踏み入れたところで動きを止めたのである。
「少しだけ我慢していて・・その間に僕がここでの決着を・・」
「ダメです!」
ユウジが高層ビルの1つに行こうとしたとき、ミナが叫んで両足を止めていた結晶を吹き飛ばした。彼女は即座に飛びかかり、ユウジを横から突き倒した。
「行かせない!言ったらユウジさん、戻って来れなくなってしまう!」
「放して!僕がやらないと、ミナちゃんたちが!」
互いに声を張り上げるミナとユウジ。ユウジはつかみかかるミナを引き離そうとする。
そのとき、ユウジの持っていた結晶の刃が、彼自身の体を貫いた。
「うっ・・・!」
「えっ・・・!?」
うめくユウジと、この一瞬に目を疑うミナ。彼女に寄り掛かるようにユウジが倒れていく。
「ユウジさん!」
倒れたユウジにミナが悲鳴を上げる。ユウマも驚愕を感じて2人に駆け寄る。
「ユウジさん、しっかりしてください!ユウジさん!」
「ミナちゃん・・・ユウマくん・・・」
悲痛の声を投げかけるミナに、ユウジが声を振り絞る。
「ユウジさん、すぐに治しますから・・元に戻るように意識を集中させれば・・・!」
「ミナちゃん・・いいんだ・・僕をこのままにしていけば、きっとあそこにいる人たちに危害が及ぶことはなくなる・・・」
治すイメージを膨らませようとするミナを、ユウジが微笑んで呼び止めてきた。
「どうやら僕はもう・・ミナちゃんたちを守ってあげることはできないみたいだ・・・」
「ユウジさん・・・!」
声を振り絞るユウジに、ミナが悲しみを募らせていく。彼女の目に涙があふれてくる。
「僕はどうしても君たちを守りたかった・・君たちみたいに、優しい心を持っている人は少なくなってしまったから・・・」
「そんな・・私、そんないい子じゃないですよ・・自分の気持ちのままに動いて、寧々ちゃんやユウマを困らせてしまった・・・!」
ユウジが投げかける言葉に対して、ミナが悲痛さを見せて首を横に振る。
「こうしてユウジさんを傷つけてしまった・・その私が、優しいなんてこと・・・!」
「僕のことでここまで悲しんでいるのは、優しい心の持ち主の証拠だよ・・・」
ユウジが口にした言葉に、ミナが戸惑いを覚える。
「きれいごとをいうな、こんなときに・・お前だって自分を押し付けていただろうが!」
するとユウマがユウジに不満の声を上げてきた。
「それでも・・誰かを守ろうとするのは間違いじゃないよね・・・」
「だからって・・こんなの・・・!」
ユウジが投げかけてきた言葉に反論できず、ユウマは歯がゆさを浮かべていた。
「ミナちゃん・・ユウマくん・・その優しさを・・君たちらしいところを・・絶対になくさないで・・・」
「ユウジさん・・・!」
「僕は・・君たちを・・・信じることにするよ・・・信じているよ・・ミナちゃん・・・ユウマくん・・・」
大粒の涙を流すミナに笑顔を見せるユウマ。彼が彼女の頬を伝う涙を手の指で拭う。
次の瞬間、ユウジのその手が力なく地面に落ちた。
「ユウジさん・・・!?」
完全に倒れたユウジにミナが目を疑う。彼女の目の前で、ユウジの体が崩壊を引き起こした。
「ユウジさん!」
最期を遂げたユウジに、ミナが悲痛の叫びをあげた。ユウマも命を落としたユウジに憤りを募らせていた。
「ユウジ・・・最後の最後まで、オレたちに勝手なマネを・・・!」
「ユウジさんはユウジさんらしさを失っていなかった・・でもそれが気持ちのままに暴走してしまっただけ・・・」
体を震わせるユウマの言葉に、ミナが泣きながら声を振り絞る。
「お姉ちゃんもきっと・・そんな状況に置かれてるはず・・・」
ミナがランのことを考えて、さらに不安と悲しみを膨らませていく。
「お姉ちゃんをこんなにまで追い込んだ人は許せないけど・・それ以上に、お姉ちゃんを連れて帰りたいって気持ちがある・・・」
「ミナ・・・」
ランへの想いを募らせていくミナに、ユウマが戸惑いを感じていく。
「今の私の力が、お姉ちゃんを助けるためになるのなら、私はもう迷わない・・お姉ちゃんを・・みんなを助けたい・・・!」
「ミナ・・・だったらその通りにさせないとな・・・」
気持ちを口にするミナに、ユウマが手を差し伸べてきた。
「オレのほうができないことが多すぎるが・・オレもとことん付き合わせてもらうぞ・・」
「ユウマ・・・」
戸惑いを感じていくミナが、ユウマの手を取って立ち上がった。
「行くのか・・お姉さんのところへ・・・?」
「そうしたいけど・・今は寧々ちゃんや早苗さんたちを安心させてあげないと・・会って、ちゃんと謝らないと・・・」
ユウマの問いかけに、ミナが落ち着きを取り戻して答える。
「なら戻るぞ・・余計な心配をかけるのはゴメンだからな・・オレもお前も・・」
「ユウマ・・・うん・・・」
ユウマに呼びかけられてミナが頷く。2人は1度ユウジの邸宅、早苗が待っている部屋へ戻ることにした。
ユウジが命を落としたことで、結晶に閉じ込められていた人々が解放された。
「みんなが元に戻った・・ユウジさんが解いたの・・・?」
周りを見回したり動揺を見せたりしている人々を見て、早苗が戸惑いを覚える。
(ミナさん、やったのですね・・・)
ミナがユウジを止められたと思い、早苗は安堵を感じていた。しかし彼女はすぐに気持ちを切り替えた。
「みなさん、すぐにここから出ましょう!私たちが誘導します!」
早苗がこの場にいる人たちに避難を呼びかけた。人々は困惑を抱えたまま、部屋を、邸宅を飛び出した。
「ここにいるのは私だけね・・私も外に出よう・・」
部屋に誰もいないのを確かめてから、早苗も外に出た。
(ここは姉さんと連絡を取って、みんなと合流しないと・・状況をちゃんと把握しておかないといけないし・・)
早苗は佳苗との連絡を取ろうと、携帯電話を取り出した。そこには既に佳苗からの着信があった。
(お姉さん・・・?)
早苗は疑問を感じながらも、携帯電話で佳苗との連絡を取った。
“もしもし!?やっとつながったよ〜!”
早苗の耳に佳苗の喜びと安堵の声が入ってきた。
「姉さん、ごめんなさい。少し出られない状況になっていて・・・ミナさんとユウマくんが解決してくれたわ。」
“ミナちゃん、見つかったんだね!よかった〜・・”
早苗の話を聞いて、佳苗がまた安心の声を上げる。
「私はこれから2人と合流するわ。寧々さんは?」
“寧々ちゃんも・・ミナちゃんや紅葉ちゃんを探しに飛び出したの・・”
「寧々さんも・・・分かったわ・・寧々さんと紅葉さんには、私が連絡するわ・・」
“ありがとうね・・私もそっちに行くわ。合流しましょう。”
佳苗と話を終えて、早苗は寧々に連絡をした。しかし寧々が電話に出ない。
(寧々さん!?・・・紅葉さん・・・!)
今度は早苗は紅葉への連絡を試みた。しかし紅葉も電話に出ない。
(2人に、何かあったというの・・・!?)
寧々、紅葉との連絡が取れないことに、早苗は不安を感じ出していた。
ユウジとの別れを経て、ミナとユウマは彼の邸宅に向かっていた。
「ミナ・・大丈夫か・・・?」
「うん・・大丈夫・・・というとウソになっちゃうね・・・」
ユウマからの心配の声に、ミナが物悲しい笑みを浮かべて答える。
「今はもう何も考えるな・・いろいろ考えると、イヤなことが浮かんで嫌気がさしてくるようになる・・」
ユウマが投げかける言葉に、ミナはただただ頷くだけだった。
複雑な気分を抱えたまま、ミナとユウマは早苗の待つユウマの邸宅の前に到着した。
「ミナさん!ユウマくん!」
早苗が駆け寄ってきて、ミナとユウマを支える。
「2人とも大丈夫!?ケガとはない・・!?」
「体のほうは大丈夫だ・・だけどアイツは・・ユウジは・・・」
早苗の問いかけにユウジが答えて、歯がゆさを浮かべる。ミナは頭に何も思い浮かべないように必死になっていた。
「ミナさん・・・2人は家に戻っていて・・姉さんと寧々さんたちと合流したら、そっちへ行くから・・」
「あぁ・・・」
早苗の呼びかけにユウマが答える。2人はゆっくりと家の中へと入っていった。
(ミナさん・・・ユウマくん・・・)
「早苗!」
ミナとユウマの心配をしていた早苗に、佳苗が駆けつけてきた。
「姉さん・・」
「ミナちゃんたちは帰ってきたんだね・・寧々ちゃんと紅葉ちゃんは、まだ・・・」
早苗に笑顔を見せるも、佳苗は寧々と紅葉を気にして表情を曇らせた。
「もう1回2人に連絡してみるわ。出られなかったというだけのはず・・」
早苗が改めて寧々たちへの連絡を試みる。それでも寧々とも紅葉ともつながらない。
「寧々さんたち、本当に何かあったんじゃ・・・!?」
「私が探しに行くから、早苗はミナちゃんとユウマの保護を・・!」
不安を浮かべる早苗に佳苗が声をかけたときだった。
「寧々さん・・・!」
早苗が寧々がやってきたのを目撃した。寧々は力のない足取りで早苗たちのいるほうに向かってきていた。
「寧々さん、どうしたの!?大丈夫なの!?・・紅葉さんは・・!?」
早苗が声をかけるが、寧々は声を出さない。
「紅葉さんに何かあったの・・・!?」
早苗は紅葉に何かあったのだと確信する。佳苗も寧々の様子を見て、困惑を隠せなくなる。
「お姉ちゃんが・・・お姉ちゃんが・・・」
ここで寧々がようやく声を出してきた。
「寧々さん・・紅葉さんは・・・!?」
「お姉ちゃんが・・・ランに連れて行かれた・・・!」
早苗が改めて問いかけると、寧々が声を振り絞って答えた。
「紅葉さんが・・ランさんに・・!?」
彼女の言葉に早苗が耳を疑った。ランが紅葉を連れ去ったことを、早苗も佳苗も信じられなかった。
「ランさんが、お姉ちゃんを石にして・・あたし、ランさんを止められなかった・・お姉ちゃんを助けられなかった・・・」
寧々が絶望に襲われて、この場に膝をついた。倒れそうになった彼女を、早苗と佳苗が慌てて支える。
心の支えとしていた紅葉を奪われた絶望に包まれていた寧々。彼女の目に光はなく、虚ろになっていた。
早苗に促されて、ユウマはミナを連れて家の自分の部屋に来た。心身とも疲れ果てた2人は、ベッドではなく床に仰向けに倒れた。
「お姉ちゃんに会えなかった・・ユウジさんを助けられなかった・・私の手に入れた力は、何のためにあるの・・・?」
ミナが天井を見つめながら自分に問いかける。
「そんなこと、自分が決めればいいだろうが・・アイツは助けられなかったが、お前の姉さんはまだどっかにいるだろう・・」
するとユウマが憮然とした態度で声をかけてきた。彼の言葉を聞いて、ミナが戸惑いを覚える。
「それからしらみつぶしに探せばいいだけのこと・・オレと違って、今のお前にはそれだけの力があるはずだから・・」
「ユウマ・・そうだね・・たとえ世界の裏に行っていたとしても、私、いつか必ずお姉ちゃんを見つけてみせる・・・」
ユウマに励まされて、ミナが自分の気持ちを口にする。彼女はランを見つけたいという思いを膨らませていた。
「でも、今はいろいろあって・・どうしても気持ちの整理がつかない・・考えれば考えるほど、イヤなことばかり浮かんできてしまう・・・」
しかしミナはその思いに一途になることができないでいた。考えるほどに不安を感じてしまい、彼女は辛くなっていた。
「だったら何も考えるな。今は休んで、探す備えをすることだ・・」
「でも、そうしようとしても、頭の中に浮かんできてしまう・・・」
「・・・だったら、他のことを考えられないようにする・・・」
不安を見せているミナの上に、ユウマが乗っかってきた。突然のことにミナが動揺を見せる。
「一方的にこんなことをするのは気が滅入る・・だけど、それでお前がイヤなことを考えずに済むなら、オレは遠慮なくやる・・・」
「ユウマ・・・それって、私を・・私の体を・・・!?」
ユウマが投げかける言葉にミナが困惑する。不安や辛さが頭の中に入り込んでくる彼女は、誰か心を寄せられる人にすがらないと落ち着けなくなっていた。
「いいよ、ユウマ・・今の私は何でもできてしまう・・だから、ユウマなら私に何でもしていいよ・・・」
「それでいいのか?・・後戻りできなくなるぞ・・・」
「うん・・ここまで来たら、もう戻れないよ・・・」
忠告を投げかけるユウマに、ミナが物悲しい笑みを浮かべる。彼女は自分の着ている服を脱ぎ始めた。
「ユウマになら、私は受け入れられる・・・」
「そうか・・・ならオレも、お前を受け入れる・・・」
ミナの想いを受け入れたユウマ。2人は顔を近づけて、口づけを交わした。
そのままミナとユウマはベッドの上に横たわった。2人は込み上げてくる感情のままに、体を寄せ合った。
それからミナとユウマは互いへの触れ合いをした。2人とも互いの肌に触れ合うことで、今まで感じたことのない気分を感じていた。
(私はこのことをされるのを受け入れた・・ユウマが注意を呼び掛けたのを、私が許した・・・)
ミナが心の中で自分の気持ちを整理していく。彼女の胸をユウマの手が撫でていく。
(すごくいけないことのはずだと分かっていたはずなのに・・それなのに・・・)
ユウマは触れているミナの胸をもんでいって、さらに口を付ける。この接触にミナが呼吸を乱していく。
(気持ちがよくなってくる・・どんどん気分がよくなっていく・・・)
ユウマにさらに体を触れられて、ミナがあえぎ声を上げる。ユウマはさらにミナの腕や足を撫でまわしていく。
(私はいつもいじめられて、イヤな思いをしてきた・・そんな私を、お姉ちゃんやユウマが助けてくれた・・・今のこれはいじめじゃない・・ユウマは事前にやっていいか聞いてきたし、私は強要されることなく受け入れた・・だからこれは、いじめでも無理やりでもない・・・)
ユウマがミナの胸に顔をうずめてきた。彼の吐息が胸に当たったことで恍惚を覚えて、ミナがさらにあえぎ声を上げる。
「ユウマが・・・私の・・中に・・・!」
「これが・・女の体ってヤツか・・・オレも、ミナがオレの中に入ってくるような気分を感じてくる・・・」
ユウマもミナの体に触れる心地よさを募らせていく。
「そこも・・男とは違うんだろ・・・」
ユウマがミナの下腹部に手を伸ばした。
「ユウマ・・・そこに触れられたら・・・」
ユウマに秘所を触れられて、ミナが動揺を膨らませていく。さらに快感を覚えて、ミナがあえいで息を乱していく。
「ミナ・・オレは、もっとお前の中に・・お前と1つに・・・」
ユウマがミナを強く抱きしめる。その瞬間、ユウマの性器がミナの秘所に入っていく。
「うああぁぁぁ・・ぁぁぁ・・ぁはぁぁ・・・!」
性器が入っていく刺激と快感に、ミナは叫ばずにいられなかった。ユウマも快感を感じて大きく息を乱していく。
押し寄せてくる快感が一気に強まって、ミナもユウマもこの心地よさ以外のことは考えられなくなっていた。
(私は受け入れる・・ユウマを・・ユウマの考えも気持ちも、全部・・・)
ミナは心の中でユウマの全てを受け入れようとしていた。彼女は彼がイヤなことを忘れさせようとしてくれたことに、心から感謝していた。
早苗と佳苗に自分が思い知らされた絶望を口にしてから、寧々は意識を失った。彼女はそれから早苗たちに介抱されることになった。
「寧々さん・・ランさん、紅葉さんを・・・」
「どうして・・どうして紅葉ちゃんを・・ランちゃん・・・」
早苗も佳苗も、なぜランが紅葉を石化して連れ去ってしまったのか、苦悩を感じていた。
「ランさん、本当に何を考えているの!?・・・こんなこと、ミナさんが知ったら・・・」
一抹の不安を覚える早苗。ランの今の行動に対して、ミナがどうしたらいいのかを、早苗は不安に感じていた。
「とにかく、今は寧々さんが目を覚ますのと、ミナさんたちが落ち着くのを待つしかないわね・・」
「うん・・私たちも、その先のために体を休めておかないと・・」
声を掛け合って頷き合う早苗と佳苗。寧々、ミナ、ユウマの心配をしながら、2人も体を休めることにした。
紅葉を石化して自分が住んでいる別荘の地下の部屋に連れ込んだラン。彼女は紅葉の石の裸身を見つめて微笑んでいた。
「ここなら、あなたが苦しさや辛さに襲われることはもうない・・これからは私が守る・・・」
ランが紅葉に向けて、囁くように自分の決意を口にしていく。
「私はついに、心のある人を救い、愚か者に永遠の罰を与える術ともなる力を見つけた・・もう今の愚かな世界が続くことはない・・私が終わらせる・・」
ランはさらに語りかけて、紅葉に寄り添って抱擁する。
「あなたの妹、寧々ちゃんもすぐにここに来るわ・・そしてミナは、私が守るわ・・・」
紅葉の顔のそばで微笑みかけるラン。彼女に抱かれても、石化した紅葉は全く反応をしなかった。
自分自身の力とユウマの心を受け入れる意思を固めたミナ。
ミナを守るため、世界に本当の平穏をもたらすため、自身の力を使う決意を固めたラン。
紅葉を連れ去ったのを機に、ランは終わりなき罰と永遠の安息を本格化させようとしていた。
ミナは自らの決意で、ランを連れ戻して、今までどおりの生活を過ごそうと心に決めていた。
ミナとラン。神の領域に達した力を得た姉妹が、それぞれの決意を胸に歩き出していった。