ガルヴォルスLucifer

EPISODE2 Mixture of nightmare-

第7章

 

 

 ガルヴォルスの力を明かしたユウジに、ミナとユウマは結晶に閉じ込められてしまった。ユウジは2人を自分の邸宅の奥底の部屋に連れていった。

「これでもう安心だよ、ミナちゃん、ユウマくん・・・」

 ミナとユウマを下ろして、ユウジが2人に向けて囁きかける。

「こうしていれば、君たちが辛い思いをすることはない・・それにこの状態・・2人だけの時間が過ごせるね・・・」

 ユウジが呟いていって笑みをこぼした。普段ミナたちに見せているような笑顔を、彼は見せていた。

「ここなら君たちを邪魔するものはない・・安心して過ごしていってほしい・・・」

 ミナとユウマに言いかけると、ユウジは2人に背を向けた。悠然としていた彼の表情が曇る。

「できることならこんなことを君たちにしたくはなかった・・君たちには、君たちらしいいつもの姿を見せていてほしかったから・・でもこうしないと、君たちの笑顔や安らぎが永遠になくなってしまうと思ったから・・・」

 自分の気持ちを切実に口にしていくユウジ。嫌われることになっても、彼はミナとユウマを守りたいと思っていた。

「こうすることが君たちのためにならないことは分かっていた・・だからずっと隠し続けてきた・・・もう行動するしかないと思い知らされたから、僕は正体を打ち明けた・・・」

 ユウジは言いかけて、振り返って再びミナとユウマに目を向けた。

「でももう隠し事はやめたよ・・それは君たちのためにならないと分かったからね・・・これからは君たちが安心して暮らせる世界を、僕の手で作り出してみせる・・2度と悲劇が起きないように・・・」

 決意を口にして、ユウジは歩き出した。彼は静寂に包まれた部屋を後にした。

 部屋にはミナとユウマ、早苗が結晶に包まれた状態で取り残されていた。

 

 ランの単独行動と暴走は、国会でも知れ渡っていた。議員たちは彼女への対処を議論していた。

「天上ランは明らかに判断を見誤っている。このままヤツの一存に任せるのは、我が国だけでなく、世界各国の混乱を招くことになる。」

「すぐに処罰せねば!アイツのために我々はどれほどの議員を失ったことか!」

「しかし、天上ランは人知を超えた力を使うそうではないか・・下手に手を出して、我々が抹消されては・・」

「やらなければ、我々は何のために存在しているのだ!?これ以上ヤツのいいようにさせてたまるか!」

 議員たちが激しく議論を交わしていく。彼らはランの完全な排除を目論んでいた。

「でも国民の支持は、天上ランに集まっている・・彼女を排除すれば、我々は非難を浴びることに・・!」

「ヤツの味方をする人間は馬鹿者でしかない!ヤツらの言葉など聞く必要はない!」

 不安を口にする者、一方的にランを始末しようとする者、議員たちの意見はなかなかまとまりを見せない。

 そのとき、議員たちのいる会議室のドアの1つが突然破壊された。

「んっ!?

 この出来事に議員たちが緊迫を痛感する。彼らのいる会議室に入ってきたのは、ハルとアキだった。

「お前・・!」

「自分たちの勝手をまたオレたちに押し付けたいのか、お前たちは・・・!?

 声を荒げる議員たちに、ファングガルヴォルスとなっているハルが鋭い視線を向ける。

「勝手を押し付ける!?それは貴様たちのほうだろう!何が正しいのか見誤っているバケモノが!」

 議員たちがハルに向けて怒号を言い放つ。するとハルが右足を振り上げ、その衝撃で議員の数人が吹き飛ばされた。

「自分たちが正しい、間違っているのは他の人、考えを変えない、反省しない・・お前たちの思い上がりを押し付けられるのには飽きているんだよ・・・!」

「すぐに始末しろ!バケモノをこのまま野放しにするのは危険だ!」

 ハルの憤りに耳を貸さず、議員たちが警備員たちに呼びかけた。警備員たちが拳銃と警棒を持って、ハルを止めようとする。

「身勝手なヤツの言いなりになって死んで、それで満足なのか・・・!?

 ハルが憤りを募らせて、全身から衝撃波を放つ。強い力に押されて、会議場にいた議員や警備員の多くが即死に陥る。

「自分が間違っていると思おうともせず、他はそんなヤツに尻尾を振っている・・もう救いようがない・・・!」

 ハルは殺気と狂気を発揮して、体から刃を引き抜いて手にする。彼は刃を振りかざして、議員を手にかけた。

「自分たちが正しいと思い込んでいるから、何もかもがムチャクチャになるんだ・・オレたちも、みんなも・・・」

 自己満足を改めない人への憤りを噛みしめるハル。人の姿に戻ってから、彼はアキに振り返った。

「ハル・・・うん・・私たちの他にも、私たちのように苦しんでいる人たちがいる・・あの子のように・・あの人のように・・・」

 アキがハルに頷いて、ミナとランのことを思い出す。彼女たちが辛さと平和への渇望を抱えながら戦い続けていることを、アキもハルも察していた。

「悲劇を止める・・オレたちが止めないと、いつまでたっても安心できない・・・」

「うん・・ハルが安心できる場所が、私の安心できる場所になれる・・・」

 決意を口にしてから人の姿に戻ったハルに、アキが頷く。

「行こう・・そろそろ落ち着ける場所で休みを取ろう・・・」

「私も・・ハルと一緒の時間・・久しぶりに過ごしたい・・・」

 破損した会議場を後にするハルとアキ。武装した兵士が駆けつけたときには、2人は会議場を後にした。

 

 力を発揮して紅葉を追い込んでいくラン。紅葉に右手をかざすランの前に、ドッグガルヴォルスとなった寧々が現れた。

「ランさん・・お姉ちゃんに何をやってるの!?

 寧々がランに向けて声を荒げる。

「お姉ちゃんを傷つけるなんて・・いくらランさんでも、こんなこと、許せないよ・・・!」

「私はこの世界を正しい形に変える・・そのために世界の敵に自分の愚かさを分からせて、苦しみに絶望している人を守る・・そのための力を、完成させて、実現させないと・・・」

 憤りを感じていく寧々に、ランが無表情で語りかけていく。

「紅葉さんにやろうとしているのは、守ること、救いよ・・・」

「救い!?・・お姉ちゃんもあたしも、救われたいとは思ってないよ!」

 ランが投げかける言葉に、寧々が声を張り上げて言い返す。

「あたしもお姉ちゃんも自分の力で何とかしたいって思ってる!たとえガルヴォルスにならなかったとしても、その気持ちは変わらなかったと思う!だからランさん、あなたが全部背負い込むことはないんだよ!」

「私がやらないと、もう世界は変わらない・・ミナも、あなたたちも、みんなも助けられない・・・」

「ミナちゃんも、それを望んでいると思ってるの!?

 言いかけるランに寧々がさらに呼び掛ける。しかしそれでもランは考えを変えない。

「ミナを助けるために、私が世界を変えないといけない・・・」

 ランが言いかけて右手を紅葉に向ける。すると寧々が人間の姿に戻ってから、ランに詰め寄って顔を叩いた。

「いい加減にしてよ・・ミナちゃんの気持ちを勝手に決めつけないで!」

 寧々がランへの怒りをあらわにする。彼女の目からは涙があふれてきていた。

「その目でちゃんと見て・・その耳でちゃんと聞いて・・直接会って、ミナちゃんの気持ちを確かめて・・ミナちゃんのホントの願いを受け止めてあげてよ・・・!」

「私はミナを助けるために、世界を変えないと・・」

「駄々っ子みたいになんないでよ!そんなんじゃ、ミナちゃんのほうが全然しっかりしてるよ!」

「駄々っ子・・・?」

「ミナちゃんに会って話をすればいいだけなのにそれをしない・・それを駄々じゃなくて何だっていうの!?

 不満を込めて呼びかけてくる寧々に、ランは困惑を浮かべていく。彼女は混乱を覚えて顔を歪めていく。

「ミナを助けることの何が悪いの!?・・・みんなを守ることの何がいけないの・・・!?

「ミナちゃんを助けるために、ミナちゃんに会えばいいって言ってるんだよ!」

「そのために世界を変えないと・・・!」

 自分の考えを変えようとしないランに、寧々の我慢は限界に達した。

「もういいよ・・こうなったら無理やりにでも、ミナちゃんに会わせる・・ミナちゃんと面と向かって、ちゃんと話をさせるんだから!」

 激高した寧々がドッグガルヴォルスとなった。彼女は一気にスピードを上げて、ランの後ろを取った。

「速いね、あなた・・ガルヴォルスでもこんなに速いのは少ないほうかも・・・」

 言いかけるランを、寧々が後ろから捕まえた。

「速いだけじゃなくて力もあるよ・・このままミナちゃんを探して、そこまで連れて行って・・・!」

 寧々が力を込めて、ランを無理やり連れて行こうとした。

「だから私は、今はミナに会うわけにいかないと何度も言っているじゃない・・・」

 ランがため息をついてから、目つきを鋭くした。次の瞬間、寧々の体から血があふれ出した。

「うっ!」

 突然のことに寧々がうめく。全身が衝撃に襲われて、彼女は力が入らなくなってランから手を離してしまう。

「寧々!」

 傷つき倒れた寧々に紅葉が悲鳴を上げる。激痛に襲われて立ち上がれなくなっている寧々に、ランが冷たい視線を送る。

「私はミナを助ける・・みんなを守る・・それを邪魔されるわけにはいかない・・・!」

「何で・・あたし、何かされたの・・・!?

「私はダメージを与えるように念じただけ。私は強く念じただけで、その通りにする力を持っているの・・私にできないことは何もない・・だから私は思うように世界を変えられる・・」

 声を振り絞る寧々に語りかけて、ランが右手を構える。

「私が押しつぶそうと思えば、それを強く念じるだけで・・・」

 ランが意識を集中して右手を下ろすと、寧々の体に重みが上からのしかかってきた。

「押しつぶすこともできる・・あなたはガルヴォルスだから、簡単にはうまくいかないけど・・・」

 ランが語りかける前で、寧々が重力に押しつぶされていく。彼女は激痛に襲われて、人の姿に戻ってしまう。

「寧々!」

 紅葉が叫ぶ先で、寧々が苦痛の表情を浮かべる。思うように動くことができないでいる彼女を、ランが見下ろす。

「私はこの力で世界を変える・・世界の敵を排除して、苦しんでいる人たちを救う・・もちろんミナも・・・」

 ランが言いかけて、寧々に右手をかざす。

「寧々!」

 そこへ紅葉がヘッジホッグガルヴォルスとなって飛び込んで、ランを横から突き飛ばした。不意を突かれて横転するも、ランはすぐに起き上がる。

「寧々にはこれ以上手出しさせない!妹を大事にしているあなたに、寧々を傷つけることはできないはずよ!」

「ミナと他の妹を一緒にしないで・・ミナは何も悪いことはしていないんだから・・・!」

 怒りの声を上げる紅葉に、ランが憤りをあらわにする。

「でも、寧々ちゃんじゃなくあなたからにさせてもらうわ・・救いの手を差し伸べるのは・・・」

 ランは寧々に向けていた右手を紅葉に向ける。紅葉が体の棘をランに向けて放つ。

「ムダよ・・・」

 だがランが念じただけで、放たれた棘が一瞬にして全て弾け飛んだ。同時に紅葉が強い衝撃に襲われる。

「うっ!」

「お姉ちゃん!」

 うめく紅葉に寧々が悲鳴を上げる。激痛に襲われた紅葉が人の姿に戻る。

「もうあなたは、ガルヴォルスとなって戦いに身を投じることはない・・・」

 何とか立っている紅葉に、ランが近づいていく。

「私は何でも思い通りにできる・・苦しんでいる人を苦しさから解放してあげることも・・・」

 ランが紅葉に向けて意識を傾けた。

  ピキッ ピキッ ピキッ

 そのとき、紅葉の着ていた衣服が突然引き裂かれた。彼女の素肌がさらけ出され、左腕、左胸、お尻、下腹部は固く冷たくなり、ところどころにヒビが入っていた。

「これって、石化!?・・体が石になって、服が・・・!」

 紅葉が自分の身に起こった異変に驚愕する。寧々も紅葉の姿に目を疑う。

「どうなってるの!?お姉ちゃん、元に戻ってから何もされてないのに・・!?

 寧々が紅葉が石化されたことが信じられなかった。紅葉はダメージや傷を負わされる以外に何かをされた様子はなかった。石化と思しき力をかけられた様子もなかった。

「言ったはずよ・・何でも思い通りにできるって・・思っただけで相手の体を石にすることも・・」

「そんな!?・・それじゃ、私を石にすると思っただけで、その通りに・・・!?

 ランが口にした話に、紅葉がさらに驚愕する。体が石になっていて、紅葉は思うように動けない。

「やめて!お姉ちゃんにひどいことしないで!」

 寧々がランに向けて悲痛の声を上げる。

  ピキッ ピキッ

 するとランが意識を傾けて、紅葉にかけた石化を進める。彼女の体が石になり、その影響で衣服がさらに破けていく。

「確かに世界の敵に対してはひどいことになる・・全てを見られて、自由を奪われて、されるがままとなり、それが永遠に続くのだから・・・」

「だったら、何でお姉ちゃんを・・・!?

「紅葉さんは何も悪くない・・私がこの力を使ったのは、紅葉さんを助けたい、守りたいと思ったから・・」

 疑問を投げかける寧々に、ランは淡々と話を続けていく。

「この力を受ければ、苦しみを感じることもなくなる・・何もかもから解放されて、さらに破滅することもない・・・」

「破滅することもないって・・どういう・・・!?

「この力を受ければ、もう絶対に壊れることはない・・どんなことをしても、永久不滅でいられるのよ・・」

 ランが投げかける言葉に、寧々は愕然して反論できなくなってしまう。

  ピキッ パキッ パキッ

 石化がさらに進行して、紅葉の右腕と両足を脅かしていく。

「これからはあなたは苦しむことはない・・私が守っていくから・・・」

「ランさん・・こんなことしても、誰も救われたりしない・・ミナちゃんだって・・・!」

「私が救う・・私にしか救えないと思い知らされているから・・・」

「ミナちゃんの気持ちを聞かないまま勝手に決めてでも・・・!?

「私はずっとミナと一緒に暮らしてきた・・ミナをどうしたら守れるのか、私が1番分かっている・・力を手にする前よりも、ずっと・・・!」

 紅葉が声を振り絞るが、ランはそれでも考えを変えない。

「お姉ちゃん・・・!」

 石に、裸にされていく紅葉に寧々が困惑を募らせていく。震えも見せている彼女に、紅葉が目を向ける。

「寧々・・私のことは気にしないで・・ミナちゃんを守って・・・」

「お姉ちゃん・・・!」

 声を振り絞ってくる紅葉に、寧々が戸惑いを覚える。

「このランさんに・・ミナちゃんを会わせるわけにはいかなくなった・・ミナちゃん、きっと悲しむから・・・」

 紅葉が寧々にミナのことを頼んでいく。

  パキッ ピキッ

 石化がさらに進行して、紅葉の手足の先まで達する。彼女が完全に裸にされて、石化も首元や髪にまで及んできた。

「ミナちゃんとユウマくんを・・助けて・・・あ・・げ・・・て・・・」

  ピキッ パキッ

 寧々に呼びかける紅葉だが、唇も石に変わり、声も出せなくなる。彼女はただただ、困惑している寧々を見つめている。

   フッ

 瞳も石に変わり、紅葉は完全に石化に包まれた。彼女は衣服を全て引き剥がされて、石の裸身をあらわにして立ち尽くしていた。

「お姉ちゃん・・・お姉ちゃん!」

 石化した紅葉に寧々が悲痛の叫びを上げる。紅葉に駆け寄ろうとした寧々だが、体の痛みに阻まれて倒れてしまう。

 それでも必死に手を伸ばしたり前に行こうとしたりする寧々。するとランが紅葉のそばに寄ってきた。

「紅葉さんは連れて行く・・私が守っていく・・・」

「ふざけないで・・・お姉ちゃんを返して!」

「守るためにも返すことはできない・・でもすぐに、あなたもこっちに招くから・・・」

 怒りを込めた叫びをランに放つ寧々だが、ランは紅葉を返さない。

「すぐにあなたも救ってみせる・・あなたも、ミナを助けようとしてくれた人だから・・・」

「待って!お姉ちゃんを放して!」

「もう少しだけ待っていて・・寧々ちゃん・・ミナ・・・」

 必死に手を伸ばす寧々に、ランが妖しく微笑む。彼女は石化した紅葉を優しく抱き寄せたまま、音もなく姿を消した。

「ランさん・・・お姉ちゃん!」

 寧々が目を見開いて悲痛の叫びを上げる。彼女は完全に絶望に包まれていた。

 

 ユウジによって結晶の中に閉じ込められたミナとユウマ。体の自由を奪われていた2人だが、ミナは意識を取り戻していた。

(ユウジさんも・・ガルヴォルスだったなんて・・・)

 ミナがユウジの正体を知って悲痛さを感じていく。

(それでも私、ユウジさんが傷ついてほしくなかった・・だって、どんなことになっても、ユウジさんはユウジさんだから・・・)

 結晶に閉じ込められてもユウジを信じようとするミナ。

(ユウジさんはユウジさん・・・私は・・私・・・)

 気持ちを巡らせていくうちに、ミナは自分がどういうものなのかを分かった気がした。

(私がどうなっても、私は私・・忘れていたこのことを、ユウマも寧々ちゃんたちも分かっていた・・・)

 ユウマたちの思いを感じ取って、戸惑いを覚えるミナ。固まっている彼女の目にかすかに涙があふれてきた。

(ユウマは信じてくれていた・・お姉ちゃんが恋しくなって、暴走していた私を、寧々ちゃんも早苗さんも、ユウマも止めようとしてくれた・・)

 みんなの気持ちを汲み取って、ミナが戸惑いを募らせていく。そのみんなの思いをないがしろにしてランへの感情だけに突き動かされた自分に、ミナは辛さを感じていた。

(お姉ちゃんに会いたい気持ちは今でもある・・でもみんなの気持ちを踏みにじってまでやることじゃない・・むしろ大切にしないといけない・・・!)

 ミナの心でユウマたちに応えたいという願いが強まっていく。

(ユウジさんの気持ちを受け止めないといけないところだけど・・今はユウジさん、あなたを止めないと・・・!)

 ユウジの暴走を止めようと考えるミナ。結晶に閉じ込められている彼女の体に光が淡くあふれる。

(私は今までみんなに助けられてきた・・今度は私が、みんなを助けたい・・・!)

 ミナからあふれている光がだんだんと強まっていく。

(ユウジさんを、お姉ちゃんを・・ユウマを!)

 ミナが意思と決意を強めた。彼女の心に呼応するように、2人を閉じ込めていた結晶が砕けた。

 結晶から脱したミナとユウマ。ミナが倒れる前にユウマを抱き寄せる。

「ユウマ・・ユウマ、大丈夫!?

 ミナが声をかけると、ユウマも意識を取り戻した。

「く・・・ぅ・・・」

「ユウマ・・よかった・・無事だったみたい・・・」

 声をもらすユウマを見て、ミナが安心を覚える。

「ミナ・・・オレ・・ユウジにおかしなことをされて・・・」

「うん・・私の力が、私たちを助けたみたい・・・」

 記憶を呼び起こさせるユウマにミナが答える。

「お前の力・・・!?

「よくは分からない・・ユウマやみんなを助けたい、ユウジさんを止めたいって強く思ったら、外に出ることができた・・まさか、思ったことがその通りに起こるなんてこと・・・」

「偶然なのか・・たまたま力が出たのか・・・」

 ミナの話を聞いて戸惑いを感じて、ユウマが自分の両手を見つけて無事を確かめる。

「それにしてもユウジのヤツ・・このまま許すつもりはない・・・!」

「待って・・ユウジさんを憎まないで・・ただ止めるだけでいい・・・!」

 ユウジへの怒りを見せるユウマを、ミナが呼び止める。

「ミナ、お前はアイツのいいようにされて、我慢ができるのか・・・!?

 ユウマがミナへの不満を口にする。

「オレは我慢がならない・・オレはアイツを信用することができない・・・!」

「それでも信じよう・・だってユウジさん、私たちを助けてくれたのは間違いないんだから・・・!」

「それでオレたちをいいようにしていいことにはならないだろうが・・・!」

「それでも、まずは説得して止めるためにユウジさんと向かい合いたい・・ユウジさんへの恩を仇で返すなんて、どうしてもできない・・・」

 ユウジへの怒りを募らせるユウマと、ユウジに思いを伝えようとするミナ。2人はそれぞれ頑なな意思を抱いていた。

「まずは話を聞いてもらう・・どうしてもユウジさんが元に戻らないのなら、私も覚悟を決めないといけない・・・」

「ミナ・・・!」

 自分の決心と覚悟を口にしてきたミナに、ユウマが戸惑いを覚える。

「本当にお前、ユウジを止められるのか・・・!?

「止められる・・私のこの力を、ユウジさんを助けるために使いたい・・・!」

 ユウマが投げかける問いかけを聞いて、ミナが自分の気持ちを口にした。

「それでたとえユウジさんの心に傷をつけてしまうことになるとしても、私は私たちの気持ちを正直に伝える・・私と、ユウマの気持ちを・・・」

「ミナ・・・お前・・・!」

「ユウジさんなら、あの優しいユウジさんなら、きっと分かってくれる・・・」

 ユウジを助けることを強く誓う。

「どうしてもユウマがユウジさんを許せないっていうなら、最後の最後のときに、私がその怒りをぶつけるから・・・」

「そうして、オレが甘えてばかりだと思うな・・・!」

 言いかけるミナに、ユウマが不満を込めて言い返す。

「これはオレの怒りだ・・ぶつけるかどうかはオレが決めることだ・・お前が勝手に決めるな・・・!」

「ユウマ・・・ゴメン・・勝手なことをして・・・」

 ユウマの言葉を受けて、ミナが悲しい顔を浮かべて謝る。

「勝手なことをして謝るぐらいなら、最初から勝手なことをするな・・・」

 ユウマからさらに注意されて、ミナは言葉が出なくなってしまう。するとユウマがミナの背中に軽く手を当てた。

「口先ばかりなのも腹が立つ・・言ったことも責任を取れ・・・」

「ユウマ・・・うん・・・」

 ユウマの投げかける言葉にミナは小さく頷く。彼女はユウマが触れてきた手に勇気づけられた気がした。

「ユウマ・・1回聞くよ・・・私も怪物の1人・・それも普通の怪物よりとんでもないかもしれない・・そんな私を、ユウマはどう思う・・・?」

「オレは人間もバケモノも関係ない・・人間でもバカなヤツはいるし、体がバケモノになってもまともな考えをしてるヤツもいる・・」

 ミナが投げかけた問いかけに、ユウマが自分の考えを正直に告げる。

「お前はどうなんだ?・・体も心もバケモノなのか?それとも、まともなヤツとして生きようとしているのか・・・!?

「ユウマ・・・何がまともなのか分からない・・ただ、私の大切な人を守りたい・・そのために、私の中にあるこの力を使いたい・・それが、みんなへの恩返しにもなると思うし・・・」

「そうか・・なら守ってみせろよ・・オレが見届けてやる・・・」

「ユウマ・・・」

 決意を言ったところでユウマに声をかけられて、ミナが戸惑いを覚える。

「オレはお前のことが、放っておけないだけなんだよ・・・悪いのか・・・?」

「ううん・・悪くない・・むしろすばらしいことだよ・・・」

 ユウマがユウマなりの励ましを送ると、ミナが笑顔を見せた。

「ユウマ、ちょっと待って・・早苗さんを助けないと・・・」

 ミナがユウマを呼び止めると、結晶に閉じ込められている早苗に歩み寄った。

「もしも私の力が、私が強く念じたことを現実にするものなら・・私が早苗さんを助けようと思えば・・・」

 ミナは言いかけて、早苗を閉じ込めている結晶に手を当てた。

(お願い・・私とユウマが自力で出てこれたのが、私自身の力なのなら、早苗さんを助けて・・・!)

 ミナが触れている手に意識を集中させる。すると早苗を閉じ込めている結晶にひび割れが起きて、砕け散った。

 砕けた結晶の中から早苗が出てきた。

「早苗さん!」

 ミナが倒れそうになった早苗を受け止める。

「早苗さん、大丈夫ですか!?早苗さん!」

「ぅぅ・・・ミナさん・・・」

 ミナに呼びかけられて、早苗が意識を取り戻す。

「早苗さんも無事だったんですね・・よかった・・私の力、うまく伝わった・・・」

「伝わったって・・・ミナさんが助けてくれたの・・・!?

 安堵の笑みをこぼすミナの言葉を聞いて、早苗が驚きながら問いかける。

「はい・・気づいたのは今かもしれないですけど・・・」

「ミナが念じればその通りになるってことだけど、オレもまだ信じ切れないところがある・・」

 ミナに続いてユウマも早苗に答える。

「念じただけでその通りに・・思った通りにできてしまうってこと・・・!?

 ミナの力のことを聞いて、早苗も驚愕を感じていた。

「思っただけでその通りになってしまう・・そんなのもう、神の技じゃない・・・!」

「神の技・・それだけの力を、私は・・・」

 早苗が口にした言葉を受けて、ミナが戸惑いを感じていく。

「私は・・その力を、大切な人を助けるために使いたい・・傷つけるためには使いたくない・・・」

 自分自身の想いと願いを口にしていくミナに、早苗もユウマも戸惑いを感じていく。

「私、ユウジさんを止めに行きます・・ユウジさん、私たちを助けようとして暴走しようとしているんです・・」

「オレも行く・・アイツは許せないし、ミナを放っておけない・・・」

 ミナとユウジが自分たちの決意を口にする。すると早苗が部屋の周りを見回していく。

「分かったわ・・私があなたたちにしてやれることはもう、ここで待っていることしかないようね・・そしてここにいる人たちが元に戻ったときに、私が誘導する・・」

「早苗さん・・・ありがとうございます・・ここはお願いします・・・」

 部屋の中で帰りを待つことにした早苗に、ミナが笑顔を見せて感謝の言葉を送った。

「必ず戻ってきて・・必ず無事に・・・」

「早苗さん・・・はい。」

 早苗の言葉に真剣に答えて、ミナは歩き出す。ユウマも彼女を追うように歩き出していった。

 決意を秘めた2人を、早苗は真剣な面持ちを浮かべて見送った。

 

 

 

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