ガルヴォルスLucifer

EPISODE2 Mixture of nightmare-

第6章

 

 

 ユウマを抱えて病院に向かっていた早苗。痛みが走る体に鞭を入れて、彼女は足を止めずに走り続ける。

「もう少しで・・もう少しで病院に・・・!」

 早苗はユウマを連れて、ひたすら病院に向かう。

 そのとき、早苗たちの前にレンジが飛び込んできた。

「あなた!」

「こうなったら、お前たちを人質にして、アイツを大人しくさせてやる!お前たちを危険の矢面に出せば、アイツは攻撃できなくなる!」

 驚愕を見せる早苗に、レンジが不敵な笑みを見せる。

「アイツはそのガキに妙に入れ込んでいるみたいだからな。そいつをオレによこせ。」

「ふざけないで!あなたのやっていることはもう、正義でも法でもないわ!」

 手招きをするレンジに早苗が怒りの声を上げる。彼女の言葉にレンジがいら立ちを浮かべる。

「正義と法を見誤るな・・世界を守るために、我々はその敵を倒さなければならない・・・!」

「見誤っているのはあなたたちのほうよ!どうすることが世界のためになるのか、はき違えないで!」

「お前も、滑稽なヤツの1人ということか・・・!」

 ユウマを守る早苗にいら立つレンジが、ライオンガルヴォルスとなる。彼が飛びかかり、早苗とユウマが突き飛ばされる。

 激しく横転して倒れる早苗とユウマ。動けないでいる2人にレンジが迫る。

「今すぐ小僧を渡せ。それとも処罰されたいとでもいうのか?」

 レンジが冷徹に告げて、早苗に対して右手を構える。早苗はユウマを何としてでも守ろうと体を張る。

 そのとき、レンジはミナが近づいてきていることに気付いて、目つきを鋭くした。

「来るのが早いじゃないか・・だったら2人とも・・・!」

 レンジは毒づきながら、早苗とユウマを一緒に捕まえた。その彼らの前にミナが駆けつけてきた。

「早苗さん!ユウマ!」

「動くな!この2人の命がなくなるぞ!」

 駆け寄ろうとしたミナに、レンジが呼びかける。彼はユウマと早苗を人質を取った。

「2人を放して!放しなさい!」

「放してほしいならまずはその鬱陶しい翼を消せ。そいつがある限りは臨戦態勢の表れだからな。」

 呼びかけるミナにレンジが脅しをかける。

「愚かしき世界の敵は、コイツらを見殺しにしてでも私を殺そうとするのだろうが、どちらにしてもお前に待っているのは破滅だけだ。」

「分かった・・力を抑えるから、2人を放して・・・!」

 あざ笑ってくるレンジに対し、ミナは背中の翼を消した。

「私、消したよ・・2人を放して・・・!」

 ミナが声をかけると、レンジが不敵な笑みを見せて、早苗とユウマを捕まえたまま近づいてきた。

「早苗さんとユウマを放してよ・・・!」

「放すさ・・天上ミナ、お前を処罰してからな・・」

 さらに呼びかけるミナに、レンジが右手を構える。彼はユウマと早苗を人質にしたまま、ミナを始末しようとしていた。

「お前さえ始末すれば、あとはどうにでもなる!世界の敵は、世界から消えなければならないんだよ!」

「それはお前のことか・・・!」

 言い放つレンジに向けて言い返してきたのは、意識を取り戻したユウマだった。

「ユウマ・・・!」

「起きたか。だが力のないお前は、天上ミナを処罰するための人質だ。」

 声を上げるミナの前で、レンジがユウマをあざ笑う。

「人質?・・オレがそれで納得すると思っているのか・・・!?

 するとユウマがレンジの腕から抜け出そうとする。

「逆らうつもりか?だがお前は私に逆らえないし、逆らうことも許されない。」

「許されないのはお前のほうだ・・自分が正しいと思い上がっているヤツが・・・!」

 目つきを鋭くするレンジから、ユウマが力ずくで抜け出そうとする。しかしガルヴォルスであるレンジに押さえつけられてしまう。

「私は世界のために尽力している。守られているのを棚に上げてその私たちに不満をぶつけることのほうが、思い上がっていることだ。」

「お前のようなヤツがいるから、世界は!」

 あざけるレンジに怒号を放つユウマ。するとレンジがユウマの首をつかんできた。

「ぐっ・・!」

「お前も愚かなヤツの1人・・世界の敵になろうとしているのか・・・!?

 うめくユウマをにらむレンジ。彼が力を込めて、ユウマの首をさらに絞める。

「ユウマを放して!放すって約束だったじゃない!」

 ミナが目を見開いて、レンジに呼びかける。

「コイツが世界を守っている我々に反旗を翻した。もうコイツも処罰は確定だ!」

「あなた!」

 ユウマに爪を向けるレンジに、ミナが怒りを爆発させた。彼女の背中から白と黒の翼が広がった。

「どいつもこいつも世界を敵に回す!」

 激高したレンジがユウマに対して爪を構える。それでもユウマはレンジへの反抗の意思を消さない。

 次の瞬間、ユウマと早苗を捕まえていたレンジの腕に強い衝撃が押し寄せた。

「ぐっ!」

 突然の激痛にうめくレンジが、2人を捕まえることができなくなる。レンジから離れたユウマと早苗の姿が、次の瞬間にレンジの眼前から消える。

「何っ!?・・あの2人、どこに行った!?

 レンジが声を荒げながら周りを見回す。

「こっちだよ・・・!」

 声をかけられてレンジが振り返る。彼が向けた視線の先に、ユウマと早苗を抱えたミナの姿があった。

「お前、いつの間に!?

「もう我慢できない・・お前の話を聞くのも、お前のすることを見せられるのも・・・!」

 声を荒げるレンジに、ミナが冷徹に告げてきた。

「もう何も聞かない・・今ここであなたを殺す・・・!」

「私を殺す?やはり世界の敵は敵だったってことか!」

 敵意と殺意を向けるミナを、レンジがあざ笑う。

「もうお前たちは存在することすら許されない・・今ここで鉄槌を・・!」

 ミナたちを始末しようと迫るレンジ。

 次の瞬間、レンジが突然大きく突き飛ばされた。

「のわっ!」

 激しく壁に叩きつけられてレンジがうめく。ミナが放った衝撃波で、彼は突き飛ばされたのである。

「オレが反応することもできない速さと力だと!?・・バカな!?

 驚愕を募らせるレンジ。ミナがユウマと早苗を下ろして、レンジに視線を戻す。

「そんなことが・・こんなことがあるはずがない・・私は誰よりも、この世界を守るために力を注いできたんだぞ!」

「自分たちが満足するためだけにね・・そんなので私たちを押さえ込んで正当化させようとしても、私たちは絶対に屈しない・・・!」

 怒号を放つレンジに、ミナが怒りをあらわにする。彼女は翼を広げてレンジに詰め寄る。

「なめるな!」

 向かってきたミナにレンジが爪を振りかざす。だが彼が切り裂いたのはミナの残像だった。

「どこだ!?小賢しマネをしてないで、我々の処罰を受けろ!」

 周りを見回して叫ぶレンジ。彼はミナの姿を見つけられない。

「罰を受けないといけないのはお前のほう・・・!」

 次の瞬間、レンジの背後からミナの声が伝わってきた。その直後、レンジが背中に強い衝撃を受けて、全身に激痛を覚える。

「ぐふっ!」

 吐血したレンジが前のめりに倒れる。全身に痛みが駆け巡っていた彼は、起き上がることもままならなくなる。

「軽い・・私とお姉ちゃん、ユウマたちが受けた痛さに比べたら、お前のは痛みにもならない・・・!」

 ミナが倒れているレンジにさらに冷徹に告げる。

「私がいなくなれば、世界はどうなる!?世界は愚かな連中のために乱れ、腐りきっていくことになるんだぞ!」

「お前がいるほうが、世界がムチャクチャになる・・・!」

 言い放つレンジだが、ミナは聞く耳を持たない。

「やはり・・やはりお前は世界を乱す罪人・・!」

 激高したレンジが、ミナが放った衝撃波で空中に大きく跳ね上げられた。

「お前・・本当に救えないよ・・・!」

 低く告げるミナの視界の中で、レンジが地上に落ちる。1度肩の力を抜いてから、ミナはユウマと早苗のそばに駆け寄った。

「ユウマ、早苗さん、しっかりして・・・!」

「ミナ・・・ミナ・・なのか・・・!?

 心配の声をかけるミナの白と黒の翼を生やした姿を見て、ユウマが声を上げる。

「治って・・みんなの傷、治って・・・!」

 ミナが声と力を振り絞って意識を集中する。すると彼女の意思と願いに呼応するかのように、2人の傷が一瞬にして消えた。

「えっ・・・!?

 突然のことに早苗が驚きの声を上げる。彼女もユウマも自分たちが受けた傷や痛みがなくなっていることを感じる。

「まさか、ミナ・・お前がオレを・・・!?

「分からない・・そう願ったら、治していたみたい・・・」

 声を上げるユウマに、ミナが正直に説明する。

「早苗さん、ごめんなさい・・私、どうしてもあの人をこのままにしておくことはできません・・・」

「ミナさん・・・今のあなたは、自分自身を見失ってはいないみたいだけど・・それは人殺しになってしまうのでは・・・」

 レンジへの怒りを募らせるミナを、早苗が呼び止めようとする。

「人殺しじゃないですよ・・だってもう、人じゃないんですから・・・!」

 しかしミナの意思は頑なだった。彼女は地上に落とされたレンジに視線を向ける。

「た・・倒れんぞ・・私は、倒れるわけにはいかない・・・!」

 レンジが声と力を振り絞ってくる。

「私が倒れれば・・この世界は乱れる・・私が世界を守っていかなければならない・・・!」

「お前・・まだそんなことを・・・!」

 レンジが口にした言葉にミナが憤りを見せる。

「お前たちのような世界の敵を排除することで・・世界に平和をもたらす・・だから、私はここで倒れるわけには・・・!」

「見苦しいですよ、兄さん・・」

 そのとき、レンジの体に1本の刃が突き刺さった。レンジが目を見開いて吐血する。

「お、お前は・・・!?

 驚愕の声を上げるレンジの前に現れたのはユウジだった。

「ユウジさん!?・・・これって・・・!?

 ミナもユウジの登場に目を疑っていた。ユウジは結晶の刃を振り下ろして、レンジの体に突き立てていた。

「兄さんには本当に呆れさせられるよ・・自分たちのことしか考えないで、周りがどうなろうと知ったことじゃない・・・」

「ユウジ・・その力・・お前もガルヴォルスだったのか・・・!?

「驚くのもムリないよ。だって僕、誰にもガルヴォルスだってことを知らせていなかったんだから・・」

 声を荒げるレンジに、ユウジが悠然と語りかけていく。

「能ある鷹は爪を隠す、ということさ・・兄さんのわがままにはいつも耐えてきたけど、ミナちゃんやユウマくんをここまで苦しめたことには、さすがに我慢ができなかった・・」

「ユウジ、貴様・・私に牙を向くのか!?・・貴様も、世界の敵になろうというのか・・・!?

「世界の敵になってしまったのは兄さんのほうだよ・・兄さんのことだから、無自覚どころか自覚しようというつもりもないみたいだけど・・」

 目を見開くレンジに、ユウジがため息をつく。

「この際だからハッキリ言うことにするよ・・兄さん、あなたはあまりにも知性が足りなさすぎた・・単に権力を振りかざして大きな態度を見せていただけの、お山の大将気取りにすぎなかったんだよ・・」

「ユウジ、貴様・・・どいつもこいつも、この世界を乱して・・自分のことを棚に上げて、私たちを愚弄して・・!」

 淡々と語りかけるユウジに、レンジがいら立ちを見せた。次の瞬間、ユウジがレンジから結晶の刃を引き抜いた。

「ぐあっ」

 激痛に襲われてレンジがさらに吐血する。貫かれた体からも鮮血があふれてきていた。

「もう兄さんの自分勝手を押し付けられるのにはうんざりだよ・・・」

 ユウジは冷徹に告げると、結晶の刃をレンジの頭に刺した。頭を刺されたことでレンジは事切れ、体が崩壊を起こした。

「ユウジさん・・あなたも、ガルヴォルスだったとは・・・!」

 早苗が驚きを見せたまま、ユウジに声をかけた。ミナとユウマはユウジの正体に愕然となっていて、言葉を口にすることもできなくなってた。

「ビックリさせてしまってすまなかったね、ミナちゃん・・こんなに大変な思いをしていたのに何もしてあげられなかったのは、僕の悪さだよ・・・」

 ユウジがミナに励ましの言葉を送る。しかしミナは体を震わせるばかりとなっていた。

「ゴメン、ミナちゃん・・もうこれ以上、君が絶望していくのを見ていられない・・・」

「ユウジさん・・・!?

 ユウジが口にした言葉を聞いて、早苗は違和感と疑念を抱いた。

「ミナさん、ユウマくん、気をしっかり持って!」

 早苗が2人に向かって呼びかけた。その瞬間、ユウジが右手を振りかざして、液状の弾を放った。

「うっ!」

 早苗が弾を体に受けてうめく。液状の弾が彼女の体や服に付着した。

「悪いですけど、おとなしくしていてください。ミナちゃんを追い込むようなことはしたくないのです・・」

 ユウジが言いかけると、早苗に付着していた液が広がりだした。

「これは・・!?

「なっ・・!?

 早苗だけでなく、我に返ったユウマも驚愕の声を上げた。液状の結晶が早苗の体を包み込んでいく。

「ユウマくん・・ミナさんを連れて逃げなさい・・・!」

「アンタ・・・!」

「早く!」

 早苗に呼びかけられて、ユウマがミナを連れて行く。その瞬間、彼はユウジに鋭い視線を向けた。

 結晶に体を包まれていって、手足の先まで固められていく早苗。

「そう・・2人とも・・無事に・・・」

 ミナとユウマの無事を願う早苗が完全に結晶に包まれて動かなくなった。

「逃げられてしまったか・・怖がらせるつもりは全然なかったんだけど・・・」

 ユウジは肩を落としてから、結晶化している早苗に歩み寄った。

「まずはあなたを送ることにします。あなたは警察ですから、口外されると面倒になってしまいますので・・」

 ユウジは結晶に手を当てて意識を傾ける。すると早苗の姿が消えた。彼は彼女を自分の邸宅の奥に送ったのである。

「これで彼女は大丈夫・・さて、ミナちゃんたちを追いかけないと・・・」

 ユウジがミナとユウマを追いかけていく。彼は本格的にガルヴォルスの力を扱おうとしていた。

 

 早苗に呼びかけられて、ユウマはミナを連れてユウジから離れていた。ユウジがガルヴォルスだったことにショックを受けて、愕然となったままだった。

「おい、しっかりしろ、ミナ・・いつまでもオレに甘えるな・・・!」

 ユウマが声と力を振り絞って、ミナに呼びかける。

「まさか、アイツもガルヴォルスで、自分の目的のために力を使ってくるとは・・・!」

 ユウマがユウジに対して憤りを感じていく。

「オレが心から信じることができるヤツは、ホントにいないのか・・・!?

 絶望や疑心暗鬼を感じるようになるユウマ。ミナを連れていく彼が、徐々に力を抜いていく。

「オレに・・オレに気分がよくなることはないのかよ・・・!?

「それなら僕がよくしてあげるよ・・」

 そこへ声をかけられて、ユウマが緊迫を覚える。彼らの前にユウジが現れた。

「お前・・オレたちを捕まえに来たのか・・・!?

「捕まえるなんて、そんな悪いことはしないよ・・僕は君たちがこれ以上苦しまないようにしたいだけなんだ・・」

 警戒を見せるユウマに、ユウジが切実に呼びかけてきた。しかしユウマはユウジを信用しない。

「僕としては無理やりなことはしたくないんだけど・・こうなったら仕方がないね・・・」

 ユウジが意を決して、ミナとユウマに結晶の球を放とうとする。

「待って・・ください・・・!」

 そのとき、ミナが我に返って、ユウジに向けて声を振り絞ってきた。

「ミナ・・・!」

「ミナちゃん・・・」

 ユウマがミナに向けて声を上げ、ユウジも戸惑いを見せる。

「ユウジさん・・・ユウマくんは、私を助けてくれました・・ユウマくんのおかげで、私は絶望しないで済みました・・・」

「ミナ・・・!」

 ユウジに向けて真剣に語りかけるミナに、ユウマが戸惑いを覚える。

「だからユウジさん、ユウジさんが私たちのために力を使うことはないです・・心配してくれて感謝しています・・それなのにわがままを言ってしまって、すみません・・・」

「ミナちゃん・・・そうやって辛いのを抱えていくのも、僕には辛いことなんだ・・・」

 自分の気持ちを正直に伝えたミナだが、ユウジは自分の考えを変えない。

「2人一緒に見守っていて・・ミナちゃん・・ユウマくん・・・僕が、君たちがもう苦しまなくて済む形に、世界を変えていくから・・・」

「ユウジさん、違うんです!私、世界を変えたいとは思っていないです!」

 声を上げるミナに向けて、ユウジが結晶の球を放った。ミナが背中から白と黒の翼を生やして、ユウマを抱えて横に飛んだ。

「やめて、ユウジさん!こんなこと、いつものユウジさんがやることじゃないです!」

「ゴメン、ミナちゃん・・これをする僕は、今まで誰にも知らせていなかったんだ・・・」

 悲鳴を上げるミナにユウジが謝る。彼が2人にさらに結晶の球を放つ。

「僕に任せて、ミナちゃん・・これからは僕が、君たちを守るから・・・!」

「違う!こんなこと、私たちは望んでいない!」

 切実に呼び掛けてくるユウジに、ミナが言い返す。彼女の目からは涙があふれてきていた。

「もうよせ、ミナ・・・!」

 その彼女をユウマが声をかけてきた。

「もうアイツは、今までのアイツじゃない・・自分自身の気持ちと力に溺れてしまってるんだ・・・!」

「そんなことはない!ユウジさんがそんなこと・・!」

「だったら何でオレたちを襲ってくる!?違うならお前の声をちゃんと聞くはずだろ!」

 ユウマの言葉を否定することができず、ミナがさらに困惑を募らせていく。

「アンタ・・ミナを追い込んでまで、守りたいなんて言うのか!?・・そんなの、全然守ってることにならないだろうが!」

「それでも・・それでも君たちを守ることになるのなら・・・」

 怒鳴りかかるユウマに、ユウジが自分の気持ちを口にする。彼の言動がユウマの怒りを逆撫でした。

「アンタも・・アンタも自己満足なヤツだったのかよ!?

 我慢の限界となったユウマが、ユウジに向かおうとする。しかしミナに捕まれて止められる。

「やめて・・ユウジさんが傷つくなんて・・ユウマと傷つけあうなんて・・・!」

「放せ・・もうアイツは、オレたちを心の底から怒らせている・・・!」

 ミナの呼びかけを聞こうとせず、ユウマがユウジに詰め寄ろうとする。

「アイツは自分が守っていると思い上がって、自分のことを押し付けてる!それなのに信じるなんてこと、オレにはできない!」

「ユウマ・・・ユウジさん・・・」

 ユウジを完全に敵視しているユウマに、ミナは困惑するばかりとなっていた。

「力がないとか力の差があるとか関係ない・・オレは絶対に、押し付けがましいヤツには絶対に屈しない!」

 ユウマが言い放ち、ユウジに向かっていく。ユウジが彼に向けて結晶の弾を放った。

「ダメだよ、ユウマ・・ユウジさんを傷つけるなんて、できない・・・」

 ミナがユウマを抱きしめて止めた。彼女に抱きしめられて、ユウマが目を見開いた。

 ミナに止められたユウマが、彼女と一緒にユウジの結晶の弾を受けた。結晶の弾は2人の体に付着して、広がりだしていく。

「ミナ・・どうしてそこまでアイツを・・・!」

「だってユウジさんが、私たちを助けてくれたことは確かだから・・・」

 愕然となるユウマに、ミナが悲しい顔を浮かべて答える。2人の体を結晶が包み込んでいき、抱擁している彼らの手足の先まで包んだ。

「バカ・・ホントバカだ・・お前は・・・」

「ゴメン・・・ゴメンね・・・ユウマ・・・」

 呆れるユウマにミナが謝る。2人は寄り添い合ったまま、完全に結晶に包まれた。

「これで2人とも安心できるね・・これからは僕が君たちを守っていくよ・・・」

 ユウジが結晶に包まれたミナとユウマを見つめて、喜びを感じていく。

「そして、君たちのような人たちが苦しむことがない世界に、僕は変えていきたいと思っている・・だからミナちゃん、ユウマくん、見守っていて・・・」

 ユウジがミナとユウマに触れると、瞬間移動を行った。

 

 紅葉の前に現れたのはランだった。紅葉はランの登場に緊張を感じていた。

「ランさん・・・どこにいたの、ランさん・・・!?

 紅葉がランに向けて声を振り絞った。

「ミナちゃん、とっても心配していたんだよ!・・心配して、自分でもどうしようもなくなって、自分の気持ちと力に逆に振り回されていた・・・!」

「ミナ・・・そう・・ミナを守るため、そしてミナを苦しませるものを世界から排除するために、私はこの力を手にした・・・」

 紅葉の呼びかけに対し、ランが物悲しい笑みを浮かべる。

「それを最高の形で実現させることに、私は成功した・・ううん、試していないから、まだ成功したとは言えないわね・・・」

 ランに視線を向けられて、紅葉が一気に緊迫を募らせた。

「ランさん、どうしたの!?・・帰りましょう・・ミナちゃんたちが待っているよ・・・!」

「ううん・・まだ帰れない・・ミナを助けるために、私はまだやらないといけないことがある・・・」

「どうして!?・・ミナちゃんはあなたに会いたくて、とても辛い思いをしたんだよ・・その気持ちが暴走して、見境をなくしていた・・・ミナちゃんに会ってあげるのが、あなたにとっても大事なことじゃないの!?

「ミナを助けてあげるのが、私の1番の願い・・だから、私にはやらなくちゃいけないことがある・・・」

 紅葉の呼び声を聞き入れようとしないラン。ミナを助けたい気持ちに突き動かされていたランは、紅葉に向けて右手を掲げた。

「まずはあなたで試させてもらうわ・・」

「ランさん!」

 ランが目つきを鋭くした瞬間、紅葉がとっさにヘッジホッグガルヴォルスとなって後退した。

「ガルヴォルスになってしまったら・・・」

 ランは笑みを消して、出そうとしていたものと違う力を浮かべた。彼女が掲げていた右手からは衝撃波が放たれた。

「うっ!」

 重みのある衝撃波を受けて、紅葉が地上に叩き落とされる。1度右手を下ろしてから、ランが紅葉に近づいていく。

「ゴメン・・ガルヴォルスの姿のときに、私の求めていた力を使いたくないの・・・」

 ランが言いかけて、紅葉に再び右手を掲げる。

「すぐに人の姿に戻って・・でないと力ずくになってしまう・・・」

「ランさん・・・どうしてこんなことになってしまうの・・・!?

 言いかけるランに、紅葉が声と力を振り絞る。

「こんなこと、ミナちゃんが見たらどんな気分になるか・・・ランさんなら分からないことはないはずだよ・・・!」

「ミナを苦しめているのは、自分勝手な連中のせい・・私はそんな連中を、世界から完全に排除して、思い知らせる・・・!」

 紅葉の言葉を受けて、ランがミナへの想いを募らせて、感情を浮かべる。

「私が見つけた新しい力には2つの意味がある・・1つは自分勝手な人に自分の愚かさを永遠に思い知らせること・・・」

 ランは語りかけながら、右手を強く下ろす。すると紅葉の体に重みがのしかかってきた。

「うっ!」

 紅葉が再び倒されて地面に突っ伏す。彼女はランの放った念力をはねのけられず、立ち上がることができない。

「ランさん・・やめて・・・こんなことをしても、ミナちゃんを悲しませるだけ・・・ミナちゃんに会って安心させてあげるのが、ミナちゃんのお姉さんであるあなたがしなくちゃいけないこと・・・!」

 紅葉が全身に力を込めて、ランの重力に抗う。体の棘を尖らせた紅葉が、重力を打ち破って立ち上がった。

「私の力は、誰にも打ち破らせない・・・!」

 ランが目つきを鋭くすると、紅葉の体に衝撃が押し寄せた。

「うっ!」

 先ほど以上の衝撃に体が襲われて、紅葉が口から血をあふれさせる。一気に力を消耗させられて、彼女が人の姿に戻る。

「力が・・入らない・・今の衝撃で、本当に押さえつけられたみたい・・・」

 声をもらす紅葉。彼女は自分で思うように動くこともままならなくなっていた。

「私が意識を傾けただけで、力を押さえつけることができた・・本当に力ずくになってしまったけど・・これで人の姿に戻すことができた・・・」

 ランが紅葉を見つめて妖しい笑みを浮かべる。彼女の接近に気付いた紅葉が、必死に動いてランから離れようとする。

(今のランさんは、誰の声にも耳を傾けない・・きっともう、ミナちゃんの声も・・・!)

 最悪の状況を痛感していた紅葉。彼女は何とかしてランから逃げ延びようとする。

「今度こそ・・今度こそ私の力を・・・!」

 ランが改めて自分の力を行使しようとする。

「お姉ちゃん、ランさん!」

 そのとき、紅葉とランに向けて声が飛び込んできた。2人の前に現れたのは、ドッグガルヴォルスとなっている寧々だった。

「寧々・・・!」

 駆けつけてきた寧々に、紅葉が声を上げる。一抹の緊張を抱えたまま、寧々がランに視線を向けていた。

 

 

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