ガルヴォルスLucifer
EPISODE2 –Mixture of nightmare-
第5章
ミナとの対決の敗北やランへの忠告に、レンジは苛立ちを膨らませる一方となっていた。
(あの小娘ども・・このままにはしておかないぞ・・必ず思い知らせてやるからな・・・!)
ミナとランへの逆襲を誓うレンジ。そこへ部下の黒ずくめの男がやってきて、彼に声をかけてきた。
「天上ミナを発見しました。先ほどまで天上ランと一緒でした。」
「そうか・・少し早ければ好都合だったが、まずは天上ミナを始末して、ランを精神的に追い詰めてから叩きのめしてやる・・・」
男の報告を聞いて、レンジが逆襲と野心を募らせていく。
「天上ミナを見張れ。絶対に見失うな。」
「しかし、天上ミナは力を無差別に放出しています。我々に気付かないとは言えません。」
「それでもやれ。見張るぐらいできるだろう。」
「分かりました。さらに天上ミナの監視を強化いたします。」
レンジの言葉を受けて、男たちは行動を起こした。レンジも遅れてミナの打倒のための企みを再開した。
早苗との連絡を取った紅葉。彼女はミナとユウマを探しながら、早苗と合流した。
「紅葉さん・・ミナさんとユウマくんは、まだ見つかっていないわ・・・」
「私も見つかってないです・・感覚を高めても、2人がどこにいるのか・・・」
早苗と紅葉が声を掛け合って、ミナとユウマへの心配を感じていく。
そのとき、紅葉は強い気配を感じて緊張を募らせた。
「もしかして、ミナさん・・!?」
「うん・・ミナちゃんの、暴走させている力と同じ・・・!」
早苗が問いかけると、紅葉が気配の感じるほうを確かめながら答える。
「今のミナさんにユウマくんが接触したら・・ミナさん、何をするか分からないわ・・・!」
「私が止めます・・寧々が必死に止めようとしたんだから・・・!」
不安を口にする早苗と、ミナのいるところへ向かおうとする。
「本当に気を付けて、紅葉さん・・あなたに何かあったら、寧々さんが辛くなるから・・・」
「分かっています・・危なくなったら離れます・・・」
早苗からの注意を聞き入れてから、紅葉がヘッジホッグガルヴォルスとなって駆け出していった。
「私も追いかけないと・・紅葉さんを見失わないようにしないと・・・!」
早苗も紅葉を追って車を走らせた。
ランへの思いに駆り立てられて暴走するミナ。彼女はその暴走のあまり、思いを向けているランの制止をも振り切った。
夢遊病者のように前進していくミナの前に、ユウマが現れた。彼の登場にミナが戸惑いを覚える。
「ミナ・・お前は何をやろうとしてるんだ!?・・勝手なことをされて、勝手におかしなことになっていたら、こっちが迷惑するんだよ・・・!」
「ユウマ・・・でも、私・・お姉ちゃんを助けないと・・・」
「お姉ちゃん・・・どこにいるのか分かってるのか!?・・お前のお姉ちゃんなら、お前のことをここまで心配させて、全然会いに行かないってことがあるのか・・・!?」
「それは・・・でも・・・」
ユウマが投げかける言葉を聞いて、ミナが困惑を膨らませていく。
「1度家に帰るぞ!どうしてもお姉ちゃんを探したいって言うなら、それからでもいいだろ・・!」
「でも、その間にお姉ちゃんに何かあったら・・・!」
「自分とお姉ちゃんが無事なら、オレたちがどうなってもいいのかよ!?いつから自分勝手なヤツになったんだ!?」
ランへの思いを募らせるミナに、ユウマが激高する。
「お前は他のヤツを見捨ててでも、お姉ちゃんのところへ行くつもりなのか!?」
「そんな・・私は・・私は・・・!」
ユウマに怒鳴られて、ミナはさらに苦悩して頭を抱える。ランとユウマたち、どちらを選べばいいのか分からなくなり、ミナは困惑を募らせてばかりとなっていた。
「1度家に帰ればお姉ちゃんを探しに行っても構わないっていうのに、それができないなんてバカなこと言い出すのかよ、お前は!?」
ユウマがさらに呼びかけると、ミナがふらついていく。
「お姉ちゃん・・お姉ちゃん・・・お姉ちゃん・・・!」
考えることがままならなくなって、ミナはまたランへの思いに突き動かされていく。彼女は意識がもうろうとしたまま、また歩き出していく。
「おい、ミナ!いい加減にしろ!」
ユウマが怒りを爆発させて、ミナに組み付いて止めようとする。
「放して・・私はお姉ちゃんを・・・!」
ミナが声と力を振り絞る。彼女の翼から放たれた衝撃波が、止めに入ったユウマの体に傷をつけた。
「うっ!」
体に激痛を覚えて顔を歪める。しかし彼はミナを放さない。
「そんなの理解力がないヤツだったのかよ・・お姉ちゃんのところへ行きたいなら、1度引き返せよ・・それともオレを連れて行ってみるか・・・!?」
「ユウマを・・お姉ちゃんのところへ連れて行く・・・ユウマくんと一緒に・・お姉ちゃんのところへ・・・」
ユウマが振り絞った言葉に、ミナが戸惑いを覚える。彼女はランとユウマ、どちらを優先させるべきなのか迷っていた。
「オレは・・自分勝手をされて、野放しにしてやれるほど・・バカでも能天気でもない・・だからお前をこのまま行かせない・・絶対に!」
ユウマがさらに感情をむき出しにして、ミナにしがみつく。心を揺さぶられていたミナは、強引にユウマを振り払うことができないでいた。
「放して・・放してくれないと、私・・・!」
「放さない・・放すのはオレにとってどうしても我慢できないことだから・・・!」
苦悩を強めていくミナに、ユウマが声を振り絞る。
「おい、コイツの姉ちゃん・・こんだけコイツを苦しめさせておいて、どこをほっつき歩いていたら気が済むんだ!?」
彼はランへの不満を口にしていた。自分を今心から思ってくれているのがユウマだと、ミナは思い知らされた。
「ユウマ・・・お姉ちゃん・・・私・・私は・・・!」
困惑を拭うことができなくなり、ミナがついにうずくまってしまう。彼女の背中から出ていた翼も霧のように消えていった。
「ミナ・・おい、ミナ!?・・だいじょ・・う・・・」
ミナに呼びかけたとき、ユウマも意識を保てなくなって倒れてしまった。
ミナとユウマを探して、気配の感じるほうへ走っていく紅葉。疾走する彼女が、倒れていたミナとユウマを発見した。
「いた!」
紅葉が着地してミナとユウマに駆け寄った。
「ミナちゃん!ユウマくん!2人ともしっかりして!」
紅葉が声をかけると、ミナもユウマも意識を失いながらも反応を見せていた。
「2人とも無事みたい・・ミナちゃんも、今は暴走が止まっているみたい・・・」
2人とも落ち着いてはいることに、紅葉は安堵を感じていた。
「ミナちゃんとユウマくんを連れて、早苗さんと合流しよう・・早苗さんの言葉を聞いて・・」
「やっと見つけたぞ、天上ミナ・・・!」
ミナとユウマを連れて行こうとしたところで、紅葉が声をかけられる。3人の前にレンジが現れた。
「あなたは・・・」
「その娘を置いていけ。オレはそいつに用があるんだ・・」
当惑を見せる紅葉に、レンジが冷徹に告げる。しかし紅葉はレンジからミナとユウマを守ろうとする。
「誰だか知りませんけど、2人はあなたには渡せません・・2人は私の知り合いの警察に見てもらいます・・」
「私に渡せと言っている・・言う通りにしろよ・・・」
紅葉が言いかけるが、レンジは聞く耳を持たずにミナの引き渡しを強要する。
「そいつはこの世界を乱す敵だ。自分の力を勝手気ままに振りかざして、何人もの人を殺してきた・・ヤツを野放しにするわけにはいかない・・・!」
「違う・・ミナちゃんは身勝手な人じゃない・・・!」
語りかけてくるレンジに、紅葉が憤りを感じて言い返す。
「ミナちゃんはランさんを、お姉さんを探していただけ・・その気持ちが悪い形で表れていただけで、本当は純粋なの・・そんなミナちゃんの気持ちを、一方的に押さえつけるわけには・・・!」
紅葉がミナの思いを口にしていたときだった。レンジが取り出した銃が轟音を上げて、弾丸が彼女の顔の横を飛んでいった。
「お前の話は聞いていない。天上ミナを渡せばいいんだよ・・」
冷徹に告げてくるレンジに、紅葉は一気に緊張を膨らませていく。
「今度は外さないぞ・・天上ミナを庇うなら、お前から始末するぞ。世界の敵の1人としてな・・」
レンジが紅葉に銃口を向ける。紅葉がミナとユウマを連れて逃げようとした。
次の瞬間、レンジが構えていた銃が彼に手から弾かれた。遅れて到着した早苗が発砲して、レンジの発砲を阻止したのである。
「早苗さん!」
早苗の登場に紅葉が声を上げる。早苗が彼女に微笑んで小さく頷いてから、レンジに鋭い視線を向ける。
「ここまでよ!銃刀法違反の現行犯として、あなたを取り締まるわ!」
「おいおい、銃を向ける相手が違うだろ。取り締まるのは天上ミナ。そこの小娘も公務執行妨害の罪人だ。」
早苗が呼びかけるが、レンジは紅葉たちに敵意を向けたまま、苛立ちを見せてきた。
「お前もコイツらを庇うようなことをすれば、犯罪者として処罰されることになるぞ。」
「犯罪者も重要参考人も公平に対処する。それが市民と法律のためにすべき配慮よ。」
「勘違いするな。国のための、世界のための法律だ。」
早苗の呼びかけも聞かずに、レンジは彼女にも敵意を向ける。
「オレたちの邪魔をするなら、お前も世界の敵だ・・!」
目つきを鋭くして声を振り絞るレンジ。異様な紋様が浮かび上がった彼を目の当たりにして、早苗も紅葉も緊張を膨らませる。
「あなた、まさかガルヴォルス・・・!?」
早苗が声を荒げると同時に、レンジがライオンガルヴォルスとなった。
「世界を敵に回すなら、この手で全員排除してやるぞ!」
レンジが全身に力を入れて、紅葉、ミナ、ユウマに迫る。
「早苗さん、ミナちゃんとユウマくんをお願いします・・・!」
「紅葉さん、あなたまさか・・!?」
ミナとユウマを託してきた紅葉に、早苗が当惑を覚える。
「私が食い止めている間に、2人を連れて行ってください・・・!」
紅葉はミナとユウマを早苗に預けて、レンジを見据える。彼女はきちんとミナたちを守れるように身構えていた。
「紅葉さん・・さっきも言ったけど、危なくなったら逃げなさい・・寧々さんやミナさん、あなたを大事に思っている人たちのために・・・!」
「分かっています・・早苗さんも、無事でいてください・・・!」
早苗からの言葉に紅葉が頷いた。早苗はミナとユウマを車に乗せる。
「貴様、犯罪者を、世界の敵を庇うつもりか!?」
「ミナちゃんもユウマくんも何も悪くない!みんなを追い込むようなことはさせない!」
早苗に敵意を向けるレンジを、紅葉が止めに入る。
「私の邪魔をした・・貴様も世界の敵だ!」
レンジが紅葉に向けて爪を振りかざす。紅葉が体から棘を出して、レンジの爪を弾く。
「違う・・あなたたちのような人を、ミナちゃんもランさんも、ユウマくんも許せないだけ・・・!」
「許せない?世界のために体を張っている我々を許せない?それは世界を許せないという愚かな発想だぞ!」
紅葉が言いかけると、レンジがいら立ってさらに爪を振りかざす。紅葉は後ろに飛んでレンジの爪をかわし、着地する。
「もうお前も排除しなければならないな・・安心するがいい。お前の妹とやらも後を追わせてやるさ・・!」
「誰にも手を出させない!寧々にもミナちゃんたちにも!」
あざ笑ってくるレンジに紅葉が言い放つ。彼女の言葉と態度に、レンジはさらにいら立つ。
「どいつもこいつも・・お前たちも、天上ランも!」
レンジがいきり立って紅葉に飛びかかる。彼の突進を受けて彼女が押されていく。
「何の力も権力もないくせにいい気になって!オレはそんな連中に身の程をわきまえさせてやるのだ!」
「そんな自分勝手・・さすがの私も腹が立ってきたよ・・・!」
哄笑を上げるレンジに、紅葉が憤りを募らせていく。
「私でも我慢がならないんだから、寧々だったら相当なものになると思うよ・・」
紅葉は皮肉を口にしてから、レンジに立ち向かう。彼女は体から棘を出して、レンジに向かって放つ。
だがレンジは拳を振るうことで衝撃波を放ち、棘を弾き飛ばした。
「えっ!?」
「オレに同じ手が通用すると思っていたか?浅はかなことだ・・」
驚きの声を上げる紅葉に、レンジが不敵な笑みを見せる。レンジが素早く飛び込んで、紅葉の体に拳を叩き込んだ。
「うっ!」
重みのある打撃を受けてうめく紅葉。怯む彼女にレンジがさらに拳を叩き込んでいく。
「どうした!?さっきのデカい態度はどうした!?」
言い放つレンジの前で、紅葉が倒れる。すぐに立ち上がることがままならなくなっている彼女を、レンジが見下ろす。
「まったく・・力も権力もないヤツがいい気になりやがって・・イライラするんだよ!」
レンジが怒号を放って、紅葉を蹴り飛ばす。彼女はその先の家の上を飛び越えて、姿が見えなくなってしまった。
「しまった・・勢い余って飛ばし過ぎた・・・!」
毒づくレンジが周りを見回すが、彼は紅葉を見失ってしまった。
「まぁいい・・アイツは邪魔者でしかないし、実力はオレが上だ。オレが始末してやらないと気が済まないのはあの姉妹、天上ランと天上ミナだ・・!」
ランとミナへの憎悪を募らせて、レンジはミナ、ユウマ、早苗を追っていった。
ミナとユウナを乗せて車を走らせる早苗。彼女は寧々と佳苗のいる病院に向かっていた。
(紅葉さんの気持ちをムダにしてはいけない・・私も、私のできることを・・・!)
2人を守ることを固く誓って、早苗は車を進めていく。
そのとき、1つの影が早苗の運転する車の前に飛び込んできた。早苗が急ブレーキをかけた車を、影が足で押さえて止めた。
「このオレから逃げられると思っていたのか?」
早苗たちの前に立ちふさがったのはレンジだった。彼の出現に早苗が緊張を膨らませる。
「紅葉さんは・・紅葉さんはどうしたの!?」
「あの小娘は逃がしちまった。だが痛めつけてやったから、しばらくは動けないだろうな。」
問いかける早苗に、レンジがあざ笑いながら答える。
「さて、これからが本番だ。天上ミナを始末して、天上ランに絶望を味わわせてやるぞ!」
レンジが目を見開いて、早苗の車を蹴り飛ばした。車がスピンして横の壁に叩きつけられ、早苗がうめく。
(ミナさん・・ユウマくん・・!)
負傷しながらも早苗はドアをこじ開けて、ミナとユウマを車から引きずり出した。
「ミナさん、ユウマくん、大丈夫!?」
早苗がミナとユウマに声をかける。彼女の前にレンジが近づいてきた。
「天上ミナを渡せ。そうすればお前とそこの小僧は見逃してやる・・」
「そうはいかないわ・・ミナさんは、私が保護する・・あの子を助けられなくて、みんなを助けられるはずがない・・・!」
冷徹に告げてくるレンジを、早苗は睨み返す。するとレンジがいら立ちを見せて、彼女を蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
痛烈な攻撃を受けて、うめく早苗が吐血する。傷ついた彼女をレンジがつかみ上げる。
「アイツを渡せば済むんだよ!おとなしく言うことを聞きゃそれで終わりなんだからよ!」
「そんな身勝手・・許されると思っているの・・・!?」
「何を言っている?オレは世界を守る立場にある!」
声を振り絞る早苗をレンジがあざ笑う。
「オレは世界のために、世界を乱そうとする敵を処罰している!それに逆らうことは、世界に逆らうことになる!それは実に滑稽なことだぞ!」
「滑稽なのはあなたのほうだよ・・・!」
レンジに言い返してきたのは早苗ではなかった。ミナが意識を取り戻して、声と力を振り絞って立ち上がってきた。
「ミナさん・・・気が付いたのね・・・!」
「天上ミナ・・・!」
ミナを見て早苗が声を上げて、レンジがいら立ちを見せる。
「あなたみたいに、自分たちのことしか考えないから、自分たちのものさしだけで決めつけるから、みんながイヤな思いをするんじゃない・・お姉ちゃんも、ユウマも・・・!」
「コイツ、好き勝手に言いおって・・!」
鋭い視線を向けてくるミナに、レンジがいら立ちを見せる。
「お前を処罰すれば、天上ランも絶望することになる!そしてアイツもすぐにお前の後を追わせてやるぞ!」
「お姉ちゃん!?・・あなた、お姉ちゃんを知っているの・・・!?」
言い放つレンジにミナが問いかける。しかしレンジは彼女を鼻で笑うだけだった。
「教えて・・お姉ちゃんはどこ・・どこにいるの・・・!?」
「フン。お前に教えてやると思っているのか?バカにしてくれるな・・」
頼み込んでくるミナをレンジはあざ笑う。
「お前にはもはや何の権利も資格もない。オレたちによって処罰される以外にな・・!」
「お姉ちゃんの居場所を教えて・・・私はもう、お姉ちゃんと離れたくないんだよ!」
目を見開くレンジに言い放つミナの頬に紋様が走る。彼女の姿が異形のものとなり、背中から白と黒の翼が生えた。
「ミナさん、待って!」
ミナがまた暴走したと思い、早苗が声を上げる。するとミナが彼女に振り向いてきた。
「大丈夫ですよ、早苗さん・・私、もう自分を見失っていないですから・・・」
「ミナさん・・・!?」
微笑みかけてきたミナに、早苗が驚きを覚える。ミナはガルヴォルスの力にのみ込まれて暴走してはいなかった。
「もちろんお姉ちゃんには会いたいです・・でも大切なのは、お姉ちゃんだけじゃないんです・・」
ミナは早苗に言いかけて、横たわっているユウマに目を向けた。
「ユウマくんの気持ちを無視してまで、お姉ちゃんに会いに行くのはどうかと思う・・・」
「ミナさん・・あなた・・大丈夫なのね・・・」
早苗が投げかけた言葉を受けて、ミナは小さく頷いた。彼女は浮かべていた笑みを消してから、レンジに視線を向ける。
「お姉ちゃんのいるところを教えて・・今度は私が、お姉ちゃんを助ける番だよ・・・!」
「天上ミナ・・どこまでもいい気になりやがって・・・!」
決意を口にするミナに、レンジがいら立ちを募らせる。
「お前はオレの手で始末して、天上ランに地獄の苦しみを与えるための決め手にしてやるよ!」
レンジが飛かかり、ミナに爪を振りかざす。ミナは素早く動いて爪をかわす。
ミナはユウマを抱えて早苗のそばに駆け寄った。
「ミナさん・・・!」
「早苗さん、立てますか?・・私があの人をやっつけますから・・・」
戸惑いを見せる早苗に、ミナが真剣な面持ちで言いかける。
「でも、ミナさんが・・・!」
「大丈夫です・・もう自分の力に振り回されないです・・振り回されたくないです・・イヤなものにも、私自身の力にも・・・」
「ミナさん・・・これだけは約束して・・分かっていると思うけど・・・すぐに帰ってきなさい・・病院に、寧々さんも待っているから・・・!」
「早苗さん・・・はい!」
早苗の言葉にミナが笑みを見せて頷いた。早苗はユウマを連れてこの場を離れていく。
「私はあなたを許さない・・私を追い込んで、お姉ちゃんを苦しめようとして、関係ないユウマや早苗さんまで傷つけた・・・!」
「フン!世界を乱そうとしているヤツが、世界のために戦っている我々に説教をするとは・・まさに滑稽!」
怒りを見せるミナにレンジが嘲笑を送る。彼が飛びかかって、ミナの首をつかんできた。
「2度とそのふざけた口が叩けないようにしてやる!死にざまを見せられれば、天上ランには効果的だからな!」
「そんなことはさせない・・そんなことにもならない・・・!」
言い放つレンジに逆らうミナ。彼女がレンジがつかんできている両手を引き離そうとする。
「私たちは・・今度こそ幸せになる・・誰にも、私たちの幸せの邪魔はさせない!」
思いを言い放つミナが、背中から白と黒の翼を広げた。翼から衝撃波が放たれて、レンジが吹き飛ばされる。
「うっ!」
空中に大きく跳ね飛ばされるレンジだが、体勢を整えてから着地する。
「幸せだと?・・そんなもの、世界の敵であるお前たちに許されるはずがない!」
レンジがミナに対して苛立ちを募らせていく。
「私は許さんぞ!お前たちを許せば、世界は乱れる!」
「世界をムチャクチャにしてるのは、あなたたちのほうじゃない!」
互いに怒りの言葉を言い放つレンジとミナ。
「もうお姉ちゃんがイヤな思いをさせるわけにいかない・・もうあなたたちのような人が好き勝手にさせちゃいけないんだよ!」
「生意気な口をまだ叩くか!」
叫ぶミナにレンジが怒号を放つ。彼が一気にスピードを上げて、ミナの注意を乱そうとする。
「いくら力を見せつけようと、我々の持つ力に抵抗することもできない!お前も世界の力の前に屈するんだよ!」
レンジが言い放って、ミナの隙を狙って爪を振りかざしてきた。だが彼の右手がミナにつかまれた。
「何っ!?オレのハイスピードを止めただと!?」
「それでも抵抗する・・抵抗しないと、私たちは幸せになれない!」
驚愕するレンジに言い放つミナ。彼女が力を込めて、レンジの右腕が強く締め付けられた。
「ぐあぁっ!」
右腕に激痛を感じてレンジが悶絶する。うずくまりかける彼の前に、ミナが近寄ってくる。
「私たちの幸せを壊すあなたたちを、私は絶対に許さない!ここで息の根を止める!」
「息の根を止める?ハッ!それは人殺しという、明快な重罪だ!人殺しをするとは、お前は体も心もバケモノだな!」
「あなたのほうが全然バケモノだよ・・人を人と思わない考えとやり方を持つあなたが、人間であるはずがない・・・!」
レンジの嘲笑を一蹴して、ミナが右手を握りしめて力を込める。苛立ちを募らせると同時に、レンジは危機感を感じていた。
「お前などにやられはしない・・やられるものか!」
レンジは叫ぶと同時に素早く動いて、ミナから逃走する。
「逃がさない!」
ミナも背中の翼をはばたかせて、レンジを追っていった。
佳苗の見守る病室で眠りについていた寧々。長い睡眠を経て、彼女が意識を取り戻した。
「寧々ちゃん・・気が付いたんだね・・・!」
「佳苗さん?・・・あたし・・・」
喜びを見せる佳苗に、寧々が当惑を見せる。
「よかったよ、寧々ちゃん・・ミナちゃんを止めようとして傷ついて、意識を失って・・私たちでこの病院に運んだんだよ・・」
「そうだったんですか・・・ごめんなさい、あたしのために・・・」
事情を説明する佳苗に、寧々が感謝の言葉をかける。
「ミナちゃんは?・・ミナちゃんはどうしたの・・・!?」
寧々が真剣な面持ちを見せて、佳苗に問いかけた。
「分からない・・今は早苗と紅葉ちゃんが探している・・・」
「そうですか・・・だったら、あたしも・・・!」
佳苗の話を聞いた寧々がベッドから起き上がろうとするが、体を駆け巡る痛みを感じて顔を歪める。
「ダメだって、寧々ちゃん!まだ回復したわけじゃないんだから!」
「それでも・・ミナちゃんが・・お姉ちゃんが・・早苗さんが・・・!」
佳苗が止めようとするが、寧々は思いとどまろうとしない。
「もしも早苗さんに何かあったら、佳苗さんはじっとしていられますか・・・!?」
「それは・・・」
寧々に問い詰められて佳苗が口ごもる。その間に寧々がベッドから起きて病室を飛び出していった。
「待って、寧々ちゃん!こうなったら私も行くよ!」
佳苗も慌ただしく病室を出て、寧々を追いかけていく。2人は病院を飛び出すと、寧々が感覚を研ぎ澄ませてミナや紅葉たちの気配を感じ取ろうとする。
「この感じ・・・お姉ちゃん・・・!」
寧々の感覚が紅葉を感じ取った。
「紅葉さんがいたんだね・・・!?」
「うん・・お姉ちゃんのところへ行ってきます・・もしかしたら、みんながいるかもしれない・・・!」
佳苗の問いに答える寧々の頬に紋様が走る。彼女はドッグガルヴォルスとなって、紅葉を感じたほうに振り返る。
「寧々ちゃん・・危なくなったら絶対に戻るようにね・・本当なら今ここであなたを止めたいところなんだから・・・」
「佳苗さん・・・ごめんなさい・・・ありがとうね・・・」
注意を呼びかける佳苗に謝意を見せてから、寧々は駆け出していった。
レンジに突き飛ばされて、紅葉は裏路地の小さな道に転げ落ちていた。彼女は体に痛みを感じながら起き上がる。
「こ・・こんなところまで飛ばされてしまった・・・!」
周りを見回して自分のいる場所を把握する紅葉。彼女は飛ばされて落下した衝撃で、ガルヴォルスから人の姿に戻っていた。
「急いで戻らないと・・早苗さんたちが危ない・・・!」
レンジが早苗たちを追っていると思い、紅葉がその方向へ向かおうとした。
そのとき、紅葉のいる裏路地に足音が響いてきた。彼女は緊張を感じて注意力を高める。
「誰かが近づいてくる・・この感じ、すごく息が詰まる・・・!」
緊張を膨らませて、紅葉が警戒を強めていく。足音はだんだんと彼女に近づいてくる。
「ミナを守るための力・・同時に愚かな人たちに罰を与えるための力・・・」
目の前に現れた人物に、紅葉は驚愕を覚える。彼女の前に現れたのはランだった。
「ランさん・・・!?」
ランの登場に紅葉は驚きと困惑を隠せなくなる。足を止めたランが、彼女に目を向けて妖しく微笑んできた。