ガルヴォルスLucifer

EPISODE2 Mixture of nightmare-

第4章

 

 

 ハルとアキ、そしてミナの行方を追っていた早苗。その途中で、彼女の携帯電話が鳴り出した。

「もしもし・・姉さん・・寧々さんと紅葉さんが・・!?

 電話の相手、佳苗からの連絡に早苗が驚く。彼女にも寧々と紅葉がミナを探しに出たことが知らされた。

“ゴメン、早苗・・すっかり押し切られちゃったよ・・”

「今更悔いても仕方がないわよ・・」

 謝ってくる佳苗に、早苗が肩を落とす。

「姉さんはそこにいて。ユウジさんとユウマくんを放ってもおけないし、ミナさんたちが帰ってきたときに誰もいなかったらいけないし・・」

“分かった・・ミナちゃんや寧々ちゃんたちによろしくね・・”

 佳苗との連絡を終えて、早苗は携帯電話をしまった。

「こうなったら急いでミナさんを見つけないと・・途中で寧々さんたちと合流できればいいけど・・」

 焦りと一途の願いを胸に秘めて、早苗は走り出した。寧々、紅葉と合流するため、彼女はあえて車を使わずに捜索を行った。

 その途中、早苗の携帯電話が鳴り出した。彼女は電話を取り出して、刑事からの連絡を受けた。

「はい、どうしたの・・・!?

“またガルヴォルスが起こしたと思われる事態が起こっています!現場に冷気と氷が散乱しています!”

 早苗の耳に刑事からの報告が入ってくる。

「もしかして、そこにミナさんが・・・分かったわ!私もそっちに行く!」

 ミナがいることを予感して、早苗は現場に向かうことにした。現場に近づく彼女が、残っている冷気を感じ取っていく。

「氷を使うガルヴォルスの仕業ね・・」

 現場の状況に目を通して、早苗が呟く。しかしその場にミナの姿はなかった。

「ここの検証をお願い・・」

「了解しました。」

 近くの警官に声をかけてから、早苗は現場を離れてミナを探す。そして寧々、紅葉と連絡を取ろうと、彼女は携帯電話を取り出そうとした。

 そのとき、早苗の目に通りを歩いていくミナの姿が入ってきた。

「ミナさん!」

 早苗が呼びかけるが、ミナは聞こえていないのか、反応を見せずに歩き続ける。早苗はそんなミナを追いかけていく。

「ミナさん!止まって、ミナさん!」

 早苗がまた声をかけるが、それでもミナは止まらない。

「ミナさん、待ちなさい!」

 早苗が手を伸ばして、ミナの肩をつかんだ。すると振り向いたミナが、早苗に鋭い視線を向けてきた。

「ミナ・・さん・・!?

 睨んでくるミナの瞳に込められている殺気を感じて、早苗が緊迫を覚えて後ずさりする。

(ミナさん・・もしかして、暴走を・・・!?

「邪魔しないで・・お姉ちゃんに会いに行くんだから・・・」

 息をのむ早苗に、ミナが低く告げる。

「ミナさん・・ランさんを探して・・このことだけしか考えられなくて・・・」

 今のミナの心境を察して、早苗が当惑を募らせていく。ミナが前を向いて歩き出していく。

「ミナさん、待ちなさい!」

 早苗がミナを止めようとすると、ミナが背中から翼を広げてきた。その際の衝撃と突風に早苗があおられる。

「寧々さんと紅葉さんも、あなたのことを心配しているのよ!それにランさんはまだどこにいるのか分からないのよ!」

 早苗がさらに呼びかけるが、それでもミナは足を止めない。早苗はとっさに携帯電話を取り出して、寧々との連絡を取った。

「寧々さん、ミナさんを見つけたわ!でも暴走している!」

“ミナちゃんが!?分かりました!あたしたちも行きます!

 呼びかけた早苗に寧々が言葉を返す。さらに通りを進んでいくミナを、早苗はこのまま追いかけることにした。

 

 早苗からの連絡を受けて、寧々も紅葉も緊張を膨らませていた。

「ミナちゃんが暴走してるなんて・・・!」

「急いで見つけて止めないと・・ミナちゃん、このままじゃ自分でも分からないまま、誰かを・・!」

 不安をも膨らませていく寧々と紅葉。

「もう1度・・もう1度探してみるよ・・・!」

 寧々がミナを探そうと意識を集中する。彼女はミナの声、音、気配を感じ取ろうとしていた。

(今度こそ、ミナちゃんを見つけてみせる・・)

 ミナへの思いを膨らませていくと同時に、寧々は集中力を高めていく。そして彼女はついにミナの気配を感じ取った。

「いたよ・・間違いなくミナちゃんだよ・・・!」

「急いで行こう・・ミナちゃんに追いつかないと・・!」

 紅葉の声に寧々が頷く。2人がそれぞれヘッジホッグガルヴォルスとドッグガルヴォルスとなって、ミナのいる場所へ全速力で向かっていった。

 

 暴走に陥っているミナの気配を、ランも感じ取っていた。

「ガルヴォルスの力を使っているようだけど、安定していない・・もしかして、暴走・・・!?

 ミナの異変も感じ取って、ランは緊張を募らせていく。

「もしも暴走をしていて、見境なく力を振りかざしているんだったら、私が止めないと・・今の私なら、どんなことでも不可能じゃない・・・!」

 思い立ったランがミナを助けに向かっていく。彼女はミナの気配を頼りにして移動を行っていった。

 

 ミナを連れ戻そうとして、早苗は彼女を追っていく。そのミナの前に通報を受けた警官たちが駆けつけてきた。

「止まりなさい!我々の言うとおりにするんだ!」

「さもないと発砲することになるぞ!」

 警官たちが銃を構えて警告する。しかしミナは足を止めない。

「やめなさい、あなたたち!刺激してはダメよ!」

 そこへ早苗が声をかけて、警官たちを呼び止めた。彼女に言われて警官たちが銃を下げる。

「彼女を見張ることだけに集中して!刺激すれば被害を出しかねないわ!」

「尾原警部・・しかし、このまま放っておいても・・・!」

「そのために彼女を見逃さないようにするのよ・・・!」

 警官たちに指示を出して、早苗がさらにミナを追いかけていく。警官たちは困惑を感じながらも、彼女の指示に従うことにした。

(このまま刺激しないで見張るしかない・・そして寧々さんと紅葉さんに説得してもらうしかない・・)

 早苗が心の中で呟いていく。

(私自身でミナさんを説得させることができないなんて・・こうも情けないなんて・・・)

 同時に早苗は自分の無力さを痛感して、悔しさを感じていく。寧々と紅葉に頼るしかないことに、彼女は満足していなかった。

「や・・やはり止めなくては・・!」

 そのとき、警官の1人が再びミナに向けて銃を構えてきた。

「やめなさい!発砲すれば彼女の怒りを買うことに・・!」

 早苗が呼び止めようとするが、警官はついにミナに向けて発砲する。その銃声でミナが足を止めて、警官に振り向く。

「私はお姉ちゃんのところに行くの・・邪魔するなら容赦しない・・・!」

「逃げなさい!早く彼女から離れなさい!」

 冷徹に告げるミナと、警官たちに呼びかける早苗。ミナの背中から黒と白の翼が広がった。

「ミナさん、やめなさい!」

 早苗が呼び止めるが、ミナは翼をはばたかせて、突風を巻き起こす。強い風にあおられて、警官たちが吹き飛ばされていく。

「コイツ・・抵抗を・・!」

「撃たないで、死にたくなかったら!」

 警官がさらに発砲するのを早苗が呼び止める。彼女の声で警官がようやく思いとどまる。

「ミナさん・・せめて寧々さんと紅葉さんが来るまで待って・・!」

「寧々・・ちゃん・・・紅葉・・さん・・・」

 早苗が口にしたこの言葉で、ミナは初めてかすかに動揺を見せた。

「2人ともミナちゃんが心配で、今もあなたを探して向かっているのよ・・だから寧々さんと紅葉さんと会って・・・!」

 早苗がさらにミナに呼びかける。するとミナが頭を抱えて苦しんで、その場に膝をつく。

「私は・・お姉ちゃんに会いに行かないといけないのに・・・!」

「ミナさん、落ち着いて!・・寧々さんも紅葉さんももうすぐ来る・・お姉さんもあなたから離れたりしない・・・!」

 苦悩するミナに早苗が呼びかける。しかしミナは苦悩をさらに深めて、背中の翼をはばたかせていく。

「お姉ちゃん・・お姉ちゃんに会いたい・・会いたいよ・・・」

 ランへの思いを頼りにして、ミナが進もうとする。しかし苦悩を深めていく彼女は、立って歩くどころか前に進むこともままならなくなっていた。

「ミナさん・・そこまでランさんのことを・・・」

「ミナちゃん!」

 早苗がミナに戸惑いを感じていたところで、声が飛び込んできた。寧々と紅葉が駆けつけて、ミナの前に着地した。

「寧々さん!紅葉さん!」

「ミナちゃん・・・落ち着いて、ミナちゃん!」

 早苗が声を上げる前で、寧々がミナに呼びかける。しかしミナは苦悩のあまり、寧々と紅葉に気付いていない。

「帰ろうよ、ミナちゃん!佳苗さんもユウジさんも、ユウマくんも心配してるよ!」

「私は・・お姉ちゃんに会いに行かないと・・・!」

 寧々が呼びかけても、ミナはランを追い求めて進んでいこうとする。

「お姉ちゃん、早苗さんとみんなをお願い・・・!」

「寧々、何を・・まさか、寧々・・!?

 呼びかけてきた寧々に、紅葉が不安を覚える。

「ムチャよ、寧々!・・今のミナちゃんは暴走している!お姉さんを、ランさんに会うことしか考えられなくなって、邪魔をしようとするものを排除しようとする・・!」

「それでもミナちゃんをこのままにしておくなんてできないよ!このままじゃミナちゃん、取り返しのつかないことをしちゃうよ・・!」

 紅葉から呼び止められるも、寧々はミナを助けようとする。

「無意識に人殺しをしちゃったら、ミナちゃん、きっと後悔する・・ミナちゃんが絶望するなんてあたし、耐えられないよ・・・!」

 寧々が気持ちを噛みしめて、苦しみながら歩き出していくミナに駆け寄った。

「ミナちゃん、落ち着いて!1回家に帰ろう!ユウジさんもユウマくんも心配してるって!」

「家・・お姉ちゃんを家に連れ帰らないと・・お姉ちゃんが辛い思いをしているのに、私だけがいい思いをしているわけにいかない・・」

「ランさんのためだけに、他の大切な人を見捨てないで!あたしたち、ミナちゃんに帰ってきてほしいんだよ!」

「私は・・お姉ちゃんに会いたい・・放っておくなんてできない・・・!」

「今の、自分の力を暴走させているミナちゃんを見たら、ランさんがどんな気持ちになるか、ミナちゃんなら分かるはずだよ!」

「お姉ちゃんの気持ち・・お姉ちゃんを悲しませたくない・・・!」

 寧々が思いを込めて呼びかけても、ミナのランへの思いを加速させるばかりだった。

「今のミナちゃんじゃ、ランさんが喜ぶなんてことないって!」

「今の私じゃ、お姉ちゃんは喜ばない・・お姉ちゃんを安心させないと・・・!」

 どんなに呼びかけてもミナに伝わらないことに、寧々が感情を高ぶらせる。彼女がミナの前に回り込んで抱きしめてきた。

「放さないよ、ミナちゃん!どこまでもついていくんだから!ミナちゃんが立ち止まるまで!」

「邪魔しないで・・私とお姉ちゃんの邪魔しないで!」

 しがみつく寧々にミナが怒りをあらわにしてきた。彼女の背中から黒と白の翼がはためいて、激しい突風を巻き起こした。

「寧々!ミナちゃん!」

 紅葉が寧々とミナに呼びかけながら、早苗を守ろうとする。寧々は衝撃にあおられながらも、ミナを放さずにしがみついていく。

「放さない・・放したらミナちゃんは・・・!」

 声と力を振り絞った寧々。だが次の瞬間、彼女の左肩に切り傷がつけられた。

 ミナが放った衝撃波とかまいたちが、寧々の肩を切りつけてきた。傷ついた彼女の肩から鮮血があふれ出した。

「私はお姉ちゃんを助けに行きたいの!お姉ちゃんに何かあったら、私・・!」

「行かせない・・ミナちゃんが進もうとしているほうにランさんはいない・・誰もいない、心もない、悲しい場所だよ・・・!」

 さらにランを追い求めるミナを、寧々は力を振り絞って踏みとどまろうとする。

「お姉ちゃんがいないほうが・・私には悲しい!」

 ミナの放ったかまいたちが、彼女の激情とともに放たれた。体にさらに切り傷がつけられて、寧々が血とともに意識が吹き飛んだ。

 血をあふれさせながら、寧々が昏倒する。意識を失ったことで、彼女の姿がガルヴォルスから人に戻る。

「寧々!」

 紅葉が悲鳴を上げて寧々に駆け寄る。傷だらけの寧々だったが、命に別状はなく、傷もガルヴォルスとしての高い身体能力で徐々にふさがっていく。

「紅葉さん、寧々さんは大丈夫!?

 早苗も寧々と紅葉に駆け寄ってきて声をかけてきた。

「だんだんと回復していっているけど、休ませたほうがいいと思います・・・!」

「分かったわ・・すぐに病院を手配するわ・・・!」

 紅葉の言葉を受けて、早苗が部下の警官に呼びかけて救急車を手配させた。既にミナは歩き出していて、紅葉たちの前から姿を消していた。

「ミナちゃん・・・!」

 ミナが暴走したままでいることに、紅葉は歯がゆさを感じていた。

 

 ミナに異変が起きていると痛感して、ランも彼女を探して街を回っていた。彼女は鋭い感覚でミナを見つけ出そうとしていた。

(ミナ・・何があったの!?・・何も辛い思いをしていなければいいけど・・・!)

 ランがミナに対して不安を募らせていく。

 ランはミナと離れ離れにしていたことをずっと気にしてきた。それでも不条理に満たされた世界を変えなければならないと、彼女は言い聞かせてきた。

 それがミナのためになる。そうしなければミナがかわいそうで、自分自身さえも壊してしまうことになる。ランはそう自分に言い聞かせてきた。

(ミナ・・もう私は我慢しない・・ミナを助けるんだから・・・!)

 ミナを助けるために迷いを振り切ったラン。

「あなたたちはガルヴォルスの犯行の駆逐に当たって。私も動くわ。」

「分かりました、天上さん。」

 ランの呼びかけに黒ずくめの男の1人が答える。

「それと、横嶋レンジには十分注意を。企んでいる疑いがあるの。」

「はい。」

 ランからの呼びかけに男がさらに答える。彼ら黒ずくめの男たちと同時に、ランもミナを見つけ出すために動き出す。

(不幸中の幸いというところなのかな・・ミナ、私のいるほうに真っ直ぐ向かってきている・・・私がミナを助ける・・私の手で、直接・・・!)

 ミナへの思いに駆り立てられて、ランは走り出した。

 

 寧々の制止さえも振り切って、ミナはランを求めて歩き続けていた。感情と力を暴走させていた彼女は、まだ背中から白と黒の翼を生やしていた。

「お姉ちゃん・・行くからね・・待っていて・・お姉ちゃん・・・」

 ランへの思いだけを頼りに、ミナは夢遊病者のように歩き続けていく。そして彼女が人気のない広場に入ったときだった。

「ミナ!」

 そこへ聞き覚えのある声を耳にして、ミナが足を止めた。彼女の前に現れたのはランだった。

「お姉ちゃん・・・!」

「ミナ・・・よかった・・無事だったのね・・・!」

 戸惑いを見せるミナに、ランが安心と再会の喜びを覚える。彼女が今も目の前にいることを実感していたランだが、同時にガルヴォルスになって、今はその力を制御できていないことを不安視していた。

「よかった・・お姉ちゃん・・ケガもなく、元気そうで・・・」

「うん・・ミナ、少し落ち着いて・・私がついているから・・・」

 安心の表情を浮かべるミナに、ランが優しく声をかけていく。

「お姉ちゃん・・・落ち着いている・・っていえる気分じゃなくなっているかも・・お姉ちゃんにこうして会えて、落ち着いていられるなんてできない・・・」

「だったらその翼を消して・・これからは私が、ミナを守るから・・」

「翼・・・ダメ・・消せないよ・・・」

 ランに呼びかけられても、ミナは翼を消さない。翼はミナの意思に関係なく出ている状態になっていた。

「ミナ、もうあなたは力を使うことはないの・・力を使うのは私、手を汚すのも私・・ミナを守るのは私のやることだから・・」

「お姉ちゃん・・そんな・・お姉ちゃんばかり負担をかけるのは・・・」

「それでもいい・・ミナが幸せになってくれるなら・・・」

 困惑しているミナに、ランが気持ちを込めて呼びかける。

「でも・・それだとお姉ちゃんが辛い思いをしてしまう・・それじゃ、私の幸せにならない・・・」

「ミナ・・・!?

「そうなるぐらいなら・・私が・・お姉ちゃんと一緒の幸せをこの手で・・・!」

 困惑を覚えるランの前で、ミナが背中の翼を広げた。

「やめて、ミナ!あなたは力を使わなくていいの!」

「ダメ・・今度は私が、お姉ちゃんを守る!」

 ランの呼びかけも聞かずに、ミナが翼をはばたかせて飛び上がる。

「ミナ、止まって!・・止まれ!」

 ミナを呼び止めるランが、無意識に意思を強めた。強まった意思は彼女のガルヴォルスの力として発動される。

 突然ミナの手足と翼が凍り付いた。動きを止められたミナが落下する。

「いけない!・・ミナに力を・・・!」

 思わず力を使ってしまったことに、ランが動揺を覚える。彼女の動揺に反応するように、ミナを押さえていた氷が消失した。

「ミナは変わってしまった・・私がいけなかった・・ミナを守るために世界を変えようとしていたのに、私が離れていたから、ミナを暴走させてしまった・・・!」

 ランは絶望感を膨らませながら、ミナに近づいていく。

「私が・・ミナを守らないと・・これ以上ミナを変えてしまうのは・・絶対にダメ・・・!」

 ランがミナに向けて手を伸ばした。もうミナと離れたくないという気持ちが、今のランを突き動かしていた。

 だが次の瞬間、ミナが突然飛び起きて再び飛び上がった。絶望に駆り立てられていたランは、彼女追うことができなかった。

「私には・・ミナを止められない・・無理やり止めても、それはミナを傷つけることになる・・・!」

 自分ではミナを苦しさから助け出すことができないと思って、ランが体を震わせてその場に膝をつく。

「変わらないようにしないと・・氷とかに閉じ込めてしまっても、ミナは止まらない・・・!」

 ランがミナを助けるための方法を探して、思考を巡らせる。

(ミナをここまで追い込んだのは私・・でもそのきっかけを作ったのは、自分たちが正しいと思っているあの女たち・・・!)

 ランの頭の中に、高校でミナをいじめていたクラスメイトたちの姿がよみがえってきた。彼女たちのしてきたことがミナを苦しめ、ランに不条理への憎悪を植え付けることになった。

(あのときはみんな皆殺しにした・・命を奪うことしか、処罰する方法が浮かばなかったから・・でも今なら思いつける・・・)

 ところがランはミナを守り、彼女を追いこむ敵に殺されること以上の苦しさを与えようと考えるようになる。ミナを守りたいという思いが、ラン自身に邪な衝動を起こさせようとしていた。

 

 ミナに負傷されて意識を失った寧々。病院に運ばれた彼女は、病室のベッドの上で目を覚ました。

「あれ?・・ここは・・・?」

「気が付いたね、寧々・・」

 声を上げる寧々に、見守っていた紅葉が声をかけた。

「お姉ちゃん・・ここは・・病院・・・?」

「うん・・ミナちゃんの力にやられて意識を失って・・体のほうは無事とのことだよ。命に別状はないって・・」

 周りを見回す寧々に、紅葉が事情を説明する。

「ミナちゃんは?・・ミナちゃんは、どこ・・・!?

「ミナちゃんは・・あれから私たちの前から歩いて行って・・またどこにいるのか分からなくなってしまった・・」

 寧々がミナのことを聞くと、紅葉が表情を曇らせて答える。

「今、早苗さんや警察のみなさんが探しているけど・・寧々がやっと見つけられたミナちゃんだから・・・」

「そんな・・ミナちゃん・・・!」

 紅葉の話を聞いて、寧々がミナを心配して不安を感じていく。

「それならじっとしてなんていられない・・探しに行かないと・・!」

「ダメだよ、寧々!回復に向かってるといっても、まだ傷は残ってるんだから!」

 ベッドから起き上がろうとした寧々を、紅葉が呼び止める。

「どうしてもっていうなら、もうちょっとだけ休んでからにして・・ミナちゃんを見つけたのに、体が痛んで助けられなかったってことになるほうがよっぽど馬鹿馬鹿しいじゃない・・!」

「それは、そうだね・・ちょっとだけだよ、ホントに・・・」

 紅葉に呼びかけられて、寧々がベッドにもぐりこんだ。

「休んでいる間に、早苗さんがミナちゃんを見つけてくれるのを信じるしかない・・」

 紅葉が言いかけて、窓から夜の外を見つめる。外は今の深刻な事態がウソであるみたいに静かだった。

「お姉ちゃん・・ミナちゃんはもう、人の心を失っちゃったのかな・・ランさんを求めるあまり、そのことしか考えられなくなって・・・」

「そんなことないって・・ミナちゃんはまだ心を失ってないって・・私たちが信じてあげないと、ミナちゃんはそれこそ何も信じられなくなってしまうよ・・・!」

「お姉ちゃん・・・そうだよね・・こういうときこそ、あたしたちが信じてあげなくてどうするんだよね・・・」

「うん。ミナちゃんを信じて、自分を信じて、みんなを信じてチャンスを待つ。あたしもそばにいるから、もうちょっとだけ待ってみよう、寧々。」

 紅葉に言われて寧々はミナとまた会うときに備えて睡眠をとることにした。彼女が寝たところで、紅葉は1度病室の外に出た。

「紅葉ちゃん!」

 そこへ佳苗が駆け込んできて、紅葉に詰め寄ってきた。

「か、佳苗さん!?どうしてここへ・・!?

 息を乱している佳苗に、紅葉が驚きの声を上げる。

「紅葉ちゃん、大変!ユウマくんがいなくなっちゃったの!」

「えっ!?

 佳苗が言い出してきたことに、紅葉が一気に緊張を膨らませた。

「私とユウジさんが目を離した隙に抜け出しちゃったみたいなの・・きっとミナちゃんを探しに・・!」

「弱った・・寧々、今休んでる最中だし、ユウマくんを連れ戻すためだからって、引っ張り出すわけにいかないし・・・!」

 佳苗から事情を聞いて、紅葉が焦りを募らせていく。

「寧々から離れることもできないし・・どうしたら・・・!」

「紅葉ちゃんは寧々ちゃんのそばにいてあげて。私、できる限りユウマくんを探してみるから・・」

 不安を見せる紅葉に、佳苗が落ち着きを取り戻して呼びかけてきた。

「ユウマくんを探すのは、私がやる・・・!」

 すると紅葉が真剣な面持ちを見せて、佳苗に言いかけてきた。

「でも、それじゃ寧々ちゃんが・・・!」

「寧々には佳苗さんがついていてもらえますか?・・ガルヴォルスの私なら、ユウマくんやミナちゃんの居場所を見つけられるかもしれません・・」

「紅葉ちゃん・・・分かった。でもその前に早苗に連絡する。早苗も分かってたほうがいいから・・」

「ありがとうございます、佳苗さん・・・」

 申し出を受け入れた佳苗に、紅葉が感謝して頭を下げた。2人は1度病院の外に出てから、佳苗は携帯電話で早苗と連絡を取った。

「もしもし、早苗・・ユウマくんが飛び出して行っちゃったのよ・・!」

“えっ!?ユウマくんが・・!?”

 佳苗が切り出した話に、早苗が驚きの声を上げてきた。佳苗は早苗にさらに事情を話していった。

“分かったわ。姉さんは寧々さんを見てあげて。”

「うん。紅葉さんの気持ちに応えないと・・」

“紅葉さんに代わって。直接話をするから。”

 早苗に呼びかけられて、佳苗が紅葉に携帯電話を渡した。

“もしもし、紅葉さん。1度私と合流しましょう。ミナさんとユウマくんを探しに行くのはそれからに。”

「分かりました、早苗さん。すぐにそっちに行きます。」

 早苗の呼びかけに答えて、紅葉が佳苗に携帯電話を返した。

「それでは佳苗さん、寧々をお願いします・・・!」

「うん・・紅葉ちゃんこそ、2人をお願いね・・・!」

 紅葉は佳苗と声を掛け合ってから、早苗のところに向かって走り出していった。

 

 ミナのことを気にして、ユウマはユウジの家を飛び出していた。彼はミナを血眼になって探し回っていた。

(何でオレは、ミナのために必死になってるんだ・・アイツは勝手に姉を探しに飛び出していっただけなのに・・・!)

 今の自分の行動にユウマは不満を感じていた。

(オレはオレの納得できないことに反発していただけだ・・別にミナを助けたいとか、そんな気持ちになったわけじゃないのに・・・!)

 ユウマが走り続けながら思考を巡らせていく。

(オレが納得していないから・・本当にそれだけだ・・それだけなんだ・・・!)

 心の中で自分に言い聞かせながら、ユウマはさらに街の中を走っていく。そして街から外れた通りに差し掛かったときだった。

 ユウマの視界に、ゆっくりと歩いていくミナの姿が入ってきた。

「ミナ!」

 ユウマが声をかけるが、ミナは足を止めない。いら立ったユウマがミナの前に回り込んできた。

「おい、止まれよ!オレの声が聞こえないのか!?

 ユウマが怒鳴りかかると、ミナがようやく足を止めた。

「いい加減にしろよ・・勝手に出てって、オレを不愉快にさせやがって・・・!」

「ユウマ・・・」

 怒号の声を振り絞るユウマに、ランへの思いに突き動かされていたミナが動揺をあらわにしていた。

 

 

第5章へ

 

作品集に戻る

 

TOPに戻る

inserted by FC2 system