ガルヴォルスLucifer

EPISODE2 Mixture of nightmare-

第2章

 

 

 ユウジのレストランでの仕事に徐々に慣れていくミナ。ユウマも同様に落ち着きを感じていっていた。

「ありがとうございました。またのご来店、お待ちしています。」

 食事を楽しんだお客に挨拶をするミナ。ユウジに言われた笑顔が,彼女からあふれていた。

「頑張っているね、ミナちゃん。ミナちゃんの笑顔でお客様も笑顔になっているよ。」

「ありがとうございます、店長。店長のおかげです。」

 優しく声をかけてきたユウジに、ミナが感謝する。

「ユウマくんも落ち着いてきているみたいだし、この調子で頑張っていこう、僕たちは。」

「はい。」

 ユウジの言葉にミナが笑顔で答えた。

 そのとき、レストランのドアが荒々しく開いて、ミナとユウジが振り向いた。1人の男がレストランに入ってきた。

「兄さん・・」

「えっ・・・?」

 ユウジが口にした言葉に、ミナが当惑を覚える。

「久しぶりだね、ユウジ。繁盛しているみたいじゃないか。」

 男がユウジに向けて悠然と声をかけてくる。

「実は資金不足に陥ってしまってね。悪いけど恵んでもらえないだろうか?」

 男がユウジにお金を渡すように言ってきた。男は人目をはばからずに強気な態度を見せていた。

「いいですよ、兄さん。ただそういった話は公の場でするのはお互いのためにならないのでは・・」

「オレに口答えするな。お前は兄であるオレの言うことを聞いていればいいんだから。」

 ユウジが投げかけた言葉を、男は冷徹にはねつける。身勝手な振る舞いをする彼に、ミナは困惑を募らせていく。

 そのとき、男が突然水をかけられた。顔やスーツをぬらされた男が苛立ちを膨らませる。

「ふざけたマネを・・何のつもりだ!?

 男が振り返って怒鳴りかかる。その先にいたのはユウマだった。

「手がすべって水をこぼしちまった・・」

 憮然とした態度を見せるユウマに、男がさらに苛立ちを募らせる。

「ユウジ・・こういう態度の悪い部下は、すぐにでも切り捨てたほうがお前のためだぞ・・・!」

 男はユウジに不満を言うと、いら立ったままレストランを出ていった。

「あんなふざけたヤツが、まだいるとはな・・」

 ユウマが憮然とした態度のまま、厨房に戻ろうとする。

「人に水をかけるのはよくないよ、ユウマくん。それも僕のお兄さんに向かって・・」

「兄弟や家族だから、何をやってもいいってことにならないだろうが・・」

 ユウジが笑みを見せたまま声をかけるが、ユウマは態度を変えずに歩いていった。

「ユウマ・・・」

 ミナがユウマに対して戸惑いを感じていた。

「さぁ、スマイルを忘れないようにね。お客様がお待ちですよ。」

 ユウジに優しく言われて、ミナも店員たちも仕事に戻っていった。

 

 それから仕事を続けて、休憩の時間を迎えたミナ。そこで彼女はユウジに声をかけた。

「あ、あの、店長・・あのとき来た人・・お兄さんって・・・」

 ミナに話を持ちかけられて、ユウジが振り向く。するとミナが動揺を覚える。

「す、すみません・・失礼でしたよね・・」

「ううん、大丈夫だよ・・僕もミナちゃんとユウマくんのことで、いろいろと聞いちゃったしね・・」

 慌てて謝るミナに、ユウジが笑顔を見せた。彼の笑顔を見て、ミナが少し安堵を感じた。

「僕の兄さんは特殊チームの指揮をやっているんだよ。日本を陰で支える黒子の仕事だけどね・・」

「日本を陰で支える・・?」

「この国の情勢を陰で支えて、悪化させないようにすること。国会の不祥事を暴く査察のようなこともしているとか・・詳しい話はしてもらえていないから、よくは分からないけどね・・」

 ユウジの話を聞いて、ミナは胸を締め付けられるような気分を覚えた。自分もランも世界の不条理に苦しめられていることを、ミナは改めて思い知らされた。

「・・ゴメン、ミナちゃん・・ミナちゃんたちには耳に入れたくない話だったね・・・」

「いいえ・・店長は・・ユウジさんは、私とユウマにここまで親切にしてくれたんですから・・・」

 申し訳ない気持ちを見せるユウジに、ミナが弁解を入れる。

「本当にゴメン・・僕に、兄さんに面と向かって言える力があれば、ミナちゃんたちも・・」

「ユウジさんは何も悪くないです・・逆です・・ユウジさんは、私とユウマを助けてくれた恩人です・・」

「ミナちゃん・・・そう言ってもらえて、僕のほうが励まされてしまったね・・」

 互いに安らぎを感じていくミナとユウジ。互いを知り、互いを励まそうとする気持ちに、2人とも勇気づけられていた。

「そろそろ休憩時間が終わるね。そろそろ戻ろうか。」

「はい。」

 ユウジとミナが仕事に戻ろうと部屋を出た。そこで2人はユウマが離れていくのを目にする。

「ユウマ・・・」

「盗み聞きされちゃったみたいだね・・でもユウマくんは、人のことをペラペラ話すような性格じゃないからね・・」

 戸惑いを覚えるミナの隣で、ユウジが苦笑いを見せる。2人は改めて仕事に戻っていった。

 

 この日の仕事が終わって、ミナとユウマはレストランを後にした。ユウジはまだレストランでの仕事があるため、2人は先に帰ることになった。

「あの、ユウマ・・ユウジさんのことなんだけど・・・」

「知らないぞ。知ったところで、オレに何かあるわけでもないだろ・・」

 ミナが聞くと、ユウマが憮然とした態度を見せた。

(ユウマ・・やっぱりユウジさんのこと、誰かに話すつもりなんてないみたい・・・)

 ユウマの性格を改めて理解して、ミナは微笑んでいた。

 そして2人がユウジの家の近くの通りに差し掛かったときだった。

「へぇー・・かわいい子みーつけたー・・」

 1人の男がミナとユウマの前に現れて、不気味な笑みを浮かべてきた。

「かわいい子はお持ち帰りしないと気が済まないんだよねー・・」

「あの・・私たちに何か・・・?」

 声をかけてくる男にミナが不安を見せる。するとユウマがミナの腕をつかんで歩き出す。

「さっさと帰るぞ・・ユウジを心配させるのはイヤなんだろ・・?」

 ユウマがミナを連れてこの場を離れようとする。だが男がミナの腕をつかんできた。

「行かないでー・・お持ち帰りしないと気が済まないって言ったよねー・・」

「イ・・イヤッ!」

 迫ってくる男に恐怖を感じて、ミナが男の手を振り払う。彼女はユウマと一緒に男から離れる。

「無理やり手を出してくる気か・・自分のためなら、他のヤツは知ったことかと思ってるのかよ!?

 ユウマが男に対して憤りをあらわにする。しかし男は不気味な笑みを浮かべるばかりである。

「だってお持ち帰りしたいんだもーん・・それの何が悪いんだよー・・」

 文句を言う男の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

(まさか・・・!?

 ミナが一気に緊迫を募らせる。男の姿が氷の塊のような怪物へと変わった。

「怪物!?

 ユウマも怪物、スノーガルヴォルスを目の当たりにして驚愕する。

(ガルヴォルスが現れた・・寧々ちゃんたちに知らせないと・・・!)

 ミナが寧々たちに連絡しようとした。

「さーてー・・しっかり凍らせて、そのかわいいのがいつまでも続くようにしないとねー・・」

 スノーガルヴォルスががミナとユウマに迫ってきた。するとユウマが苛立ちを見せて、スノーガルヴォルスに飛びかかった。

「ユウマ、ダメ!」

 ミナが呼び止めるが、ユウマがスノーガルヴォルスを突き飛ばそうとする。が、スノーガルヴォルスはびくともしない。

「邪魔しないでよねー・・お前に用はないんだよー・・」

 スノーガルヴォルスが文句を言って、ユウマを払いのける。突き飛ばされたユウマが倒れて動けなくなる。

「ユウマ!」

 ミナがユウマに駆け寄ろうとするが、スノーガルヴォルスが行く手を阻んできた。

「今度はお前だー・・氷漬けにしてあげるよー・・」

 迫り来るスノーガルヴォルスを前にして、ミナが後ずさりする。

(私たちが助かるためには、私が力を使うしかない・・でもユウマの前で力を使うなんて・・・!)

 ユウマがそばにいるため、ミナは立ち向かうことをためらっていた。

 ミナもガルヴォルスの1人である。だが彼女はガルヴォルスであることを、ユウマなどに知られたくないと思っていた。

「コイツ・・それで勝手ができると思ってるのか・・・!?

 ユウマが声を振り絞って、スノーガルヴォルスに呼びかけてきた。

「しつこいねー・・息の根止めちゃったほうがいいかなー・・」

 スノーガルヴォルスが不満を膨らませて、ユウマに狙いを戻す。

「やめて・・ユウマに手を出さないで・・・!」

 ミナが震えながら呼びかけるが、スノーガルヴォルスはユウマから手を引かない。

「気にしなくていいよー・・氷漬けになったら、お前は他のことを気にしなくなるからー・・」

 スノーガルヴォルスが右手を構えて、ユウマを手にかけようとする。

「やめて・・・!」

 声を振り絞るミナの頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼女の異変にユウマが目を疑う。

「ユウマに手を出さないで!」

 ミナの姿にも変化が起こった。彼女が背中から黒と白の翼を生やした異形の怪物へと変わった。

「へぇー・・お前もガルヴォルスだったんだー・・」

 スノーガルヴォルスがミナに視線を向ける。異形の怪物の姿となったミナを目の当たりにして、ユウマは驚愕を感じていた。

「だったら人の姿に戻してから、氷漬けにしないといけないねー・・」

 スノーガルヴォルスがミナに向けて息を吹きかける。それはまさに白く冷たい吹雪である。

 吹雪はミナを完全に包み込んだ。スノーガルヴォルスは彼女が凍りついたと思った。

 だが吹雪が消えたその場所にミナの姿はなかった。

「あれー・・?」

 スノーガルヴォルスがミナを探して周りを見回す。すると彼の視界に、さっきとは反対の場所にいたミナの姿が入ってきた。

「動くの速いよー・・凍らせられないじゃないかー・・」

 スノーガルヴォルスが不満を募らせて、ミナに向かって突っ込む。だがミナはスノーガルヴォルスの横をすり抜けた。

「またー・・いい加減逃げるのをやめてよー・・」

「もう逃げる必要ないよ・・あなたの息の根、止めたから・・・」

 さらに不満を言ったスノーガルヴォルスに、ミナが冷たく言い返した。

 次の瞬間、スノーガルヴォルスの体から鮮血があふれ出した。彼の体が切り刻まれて、血と肉の塊と化した。

 横をすり抜けた瞬間に、ミナは翼からかまいたちを発して、スノーガルヴォルスを切り刻んだのである。

 スノーガルヴォルスの死骸が砂のように崩壊して、風に流れて消えていった。

「ユウマ・・・」

 ミナがユウマに振り返って困惑を覚える。彼女の姿が天使のような怪物から人へと戻る。

「ミナ・・・お前も・・・!?

「ユウマ・・・私・・・!」

 目を見開いているユウマに、ミナが絶望感を膨らませていく。彼女は自分がガルヴォルスであることをユウマに知られてしまい、困惑を隠せなくなっていた。

「私・・・私・・・!」

 ミナがたまらずユウマの前から逃げ出していった。

「ミナ、待て!・・ぐっ・・・!」

 ミナを追いかけようとしたユウマだが、思うように体を動かせなかった。

(ミナ・・・!)

 ユウマは意識を保てなくなって、この場に倒れて動かなくなった。

 

 ユウマにガルヴォルスであることを見られて、ミナは怖くなって逃げ出してしまった。ユウマが警戒するか憎悪を向けてくるかしていると思って、ミナは不安を膨らませていた。

(ユウマに知られてしまった・・もうユウマは、私を受け入れようとしない・・・!)

 ユウマに嫌われてしまったと思い、ミナは絶望を深めていく。

(もう、私はあそこには帰れない・・ユウマのいる場所にはいられない・・・)

 ユウマと一緒にいられないと思って、ミナは逃げるように歩き出す。気持ちを落ち着けることができず、彼女は夢遊病者のように歩いていった。

 

「ユウマくん!ユウマくん、しっかりして!」

 意識を失っていたユウマは、呼びかけられて目を覚ました。彼のそばには寧々と紅葉がいた。

「お前たち・・・」

「ユウマ・・気が付いたんだね・・」

 声を上げるユウマに、寧々が安堵の笑みをこぼす。

「ミナちゃんはどうしたの?一緒じゃなかったの・・?」

「ミナ・・・そうだ・・アイツ、オレから逃げていった・・自分があのバケモノだってことを、オレに見られたって思って・・・!」

 紅葉が問いかけると、ユウマが気絶する前のことを思い出した。

「アイツ・・どこにいる・・・!?

「私たちが来たときには、ここにはユウマくんしかいなかったわ・・」

 周りを見回すユウマに紅葉が答える。

「ミナちゃん、どこに行っちゃったの・・・!?

 寧々がミナに連絡を取ろうと携帯電話を手にした。すると近くから着信音が鳴り出した。

「ミナちゃん、携帯落としてるよ・・」

 ミナの携帯電話を拾って、寧々が肩を落とす。

「お前ら、まさか知ってたんじゃないだろうな・・ミナのこと・・・!?

「うん・・ミナちゃんを不安にさせたりしたくなかったから、君にも誰にも言ってないんだけど・・」

 問い詰めてくるユウマに、寧々が正直に答える。

「きっとミナちゃん、自分がガルヴォルスだということを知られたら、ユウマくんに嫌われるんじゃないかって・・」

「ミナ・・そんなことないってのに・・・!」

 寧々の話を聞いて、ユウマがミナへの不満を噛みしめる。

「そんな勝手、オレは許さないぞ・・連れ戻してやる・・・!」

「待って、ユウマくん・・ミナちゃんがどこにいるのか分かんないのに・・!」

 ミナを探そうとするユウマを、紅葉が呼び止める。

「分かんないから探すのをやめるのか!?ミナを放っておくのかよ!?

「そうじゃない・・ミナちゃんの居場所は、私たちが探すから・・!」

 怒鳴りかかるユウマに紅葉が言い返す。

「お姉ちゃん、あたしがミナちゃんを探すよ・・・!」

 寧々が紅葉に言ってから、意識を集中する。

 寧々と紅葉もガルヴォルスである。寧々はガルヴォルスとしての高い感覚を駆使して、ミナの気配をつかもうとした。

「ダメ・・ミナちゃんを感じないよ・・」

 ミナの気配が弱いため、寧々は彼女を感じ取ることができない。

「もうちょっと時間を置いてから、また探したほうがいいかもしれない・・」

「お姉ちゃん・・・」

 紅葉に言われて寧々が落ち込む。2人ともミナを心配する気持ちは同じだった。

「ミナ・・・!」

 ミナが自分から離れていったことに、ユウマは憤りを感じていた。

 

 世界から不条理を完全に消し去ることを考えるラン。その矛先は国会や政治だけでなく、報道や芸能など、他面に渡って向けられていた。

「冗談じゃない!オレの司会のおかげで、番組の人気も視聴率もうなぎ上り!そのオレがなぜ追放されないとならないんだ!?

 TV局に来たランに、タレントが問い詰めてくる。そのタレントは自己満足かつ傍若無人な言動で有名だった。人気番組を増やしていた一方で、その態度や振る舞いを問題視もされていた。

 ランはその態度を改めさせようと忠告を送ったが、タレントは聞く耳を持たず、彼女が直接処分を下すこととなった。

「人気や視聴率のためなら何をやってもいいというの?あなたのそのやり方や態度が、いじめや犯罪につながっていくのよ。」

「そんなわけないだろ!番組の中のことだと、みんな分かってるさ!」

「番組の中のことだから、純粋に受け入れてしまう。あなたの自己満足な行いが、周囲を不快にさせるだけでなく、悪影響を及ぼすことになる・・自己満足になっているから、その誰にでも分かることが分からなくなっている・・」

「なってないって!なってたら人気も視聴率も取れないだろ!」

「それも操作していることも分かっているのよ。あなたたちらしいやり方というしかないわ。」

 タレントの言い分にランが呆れる。

「あなたは自分の言動が正しいものであると思い込み、さらに私たちからの再三の忠告も聞き入れなかった。もはや存在していることさえも、世界を乱すことにつながる・・」

「まさかオレに何かするつもりか?・・そんなことをすれば、お前たちは犯罪者になるぞ!」

「これは世界の罪を排除するための行為。この中で犯罪者なのはあなたたちのほうよ。」

 言い返すタレントに、ランが冷たく鋭い視線を送る。彼女が言葉通りに実行を起こすと、タレントは痛感させられる。

「連れて行きなさい。この人に自分の思い上がりを思い知らせるのよ。」

「はい。」

 ランの呼びかけに黒ずくめの男たちが答える。男たちがタレントたちを連行していく。

「放せ!こんなことをしてタダで済むと思ってるのか!?

「ここまでされても自分の罪を認めない・・今ここで処分を下したほうがいいと・・・!?

 不満を言い放つタレントに、ランが睨みつける。彼女に鋭い殺気を向けられて、タレントはようやく押し黙った。

(自分の罪の愚かさを思い知らされないと分からないなんて、みんなどうして・・・!?

 世界の不条理への憤りを募らせていくラン。彼女はひたすら不条理を世界から排除しようとしていた。

 

 ミナがいなくなってから一夜が明けた。思い当たる場所を探しても彼女を見つけられず、寧々と紅葉は早苗と佳苗に連絡を入れた。

「ミナちゃんが・・・!?

“はい・・行きそうなところを探し回ったけど、どこにもいなくて・・・!”

 早苗の携帯電話から寧々の声が聞こえてくる。

“これからも私たちはミナちゃんを探してみます・・このままじゃもしかしたら、ミナちゃん、暴走そちゃうんじゃ・・・!”

「分かったわ、寧々さん。私もミナさんの居場所を探してみるから。」

“早苗さん・・ありがとうございます・・”

「では私もそっちへ行くから、また後で連絡を入れるわ。」

 寧々との連絡を終えて、早苗が携帯電話をしまった。

「早苗、今の寧々ちゃんからの電話・・」

 佳苗が声をかけると、早苗が深刻な面持ちを見せてため息をついた。

「ミナさんがいなくなったわ・・ユウマくんに正体を知られて・・」

「ミナちゃんが・・ユウマくんや寧々ちゃんたちは・・?」

「3人とも一緒よ。ユウマくん、複雑な気分になってきているって・・」

 早苗の話を聞いて、佳苗も深刻さを覚える。

「ミナさんの居場所の手がかりを調べてから、私は寧々さんたちに会いに行ってくる。」

「なら私が先にみんなのところに行くわ。子供たちだけに大変なことをさせるわけにいかないからね。」

「姉さん・・分かった。寧々さんたちは姉さん、お願い。私もすぐに合流するから。」

「私たちがミナちゃんを支えてあげないとね・・」

 互いに声を掛け合って頷き合う早苗と佳苗。2人はミナのため、ユウマのために尽力することを決意していた。

 

 ユウマから逃げ出したミナは、1人街外れをさまよっていた。彼女は疲れて道の外れで眠っていた。

 ユウマに頼ることができないことに、ミナは苦しんでた。どうしたらいいのかも分からず、彼女はさらに苦しむばかりとなっていた。

(このまま帰っても、ユウマに嫌われてしまう・・このまま、ユウマと一緒にいないほうがいいのかも・・)

 ミナが心の中で不安を募らせていく。彼女は横たわったまま震えていく。

「あの・・・」

 ここで声をかけられて、ミナがふと顔を上げる。彼女の前に2人の男女がいた。

「どうしたんだ?・・何があったんだ・・・?」

 少年がミナに向けて問いかけてくる。するとミナがゆっくりと体を起こす。

「ちょっと・・イヤなことがあって・・といっても、私がいけないんです・・・」

 ミナが困惑を見せながら2人に答える。

「ホントに、何があったんだ?・・こんなに思いつめるのに、何もないなんてありえないだろう・・・?」

「気づいてしまいますか・・でも私に関わらないほうがいいです・・今の私に関わったら、私は無意識に誰かを傷つけてしまう・・あなたたちだって、きっと・・・」

 問いかける青年だが、ミナは不安を見せて話そうとしない。すると青年が肩を落としてきた。

「なら僕はムリには聞かない・・無理やりはイヤだよね・・・」

 青年が口にした言葉を聞いて、ミナが戸惑いを覚える。

「僕たちは行くよ・・いきなり声をかけて悪かったね・・・」

「あ、あの・・」

 立ち去ろうとした青年を、ミナが呼び止めた。

「私は天上ミナです・・あなたたちのお名前は・・?」

「僕は、伊沢ハル・・・」

「三島アキです・・・」

 互いに自己紹介をするミナと青年、ハルと少女、アキ。

「それじゃ、僕たちは行くよ・・君も僕たちとあんまり関わらないほうがいいかもしれない・・」

 ハルはミナに言いかけて、アキと一緒にこの場を離れた。ミナは2人に対して不思議な感覚を感じていた。

 そしてミナは知らなかった。ハルが不条理を振りまく国の上層部を次々に手をかけているガルヴォルスであることを。

(もしかしたら、お姉ちゃんと関わりがあるのかも・・・)

 ハルとアキがランと関わりがあるのではないかと思い、ミナは1度別れた2人を追いかけることにした。

 

 ミナの捜索を続ける寧々と紅葉。しかし2人ともミナの居場所も手がかりさえも見つけられないでいた。

「ミナちゃん、本当にどこに行っちゃったんだろう・・・!?

 不安を募らせていく紅葉。困惑している彼女たちをよそに、ユウマは憮然とした態度を見せてばかりいた。

「ちょっと、アンタも少しは探したらどうなの!?

「オレはずっとここにいる。アイツがオレといるのがイヤじゃないなら、自分からここに帰ってくるだろ・・」

 文句を言ってくる寧々だが、ユウマは態度を変えない。

「そういう冷めた感じは孤立の原因になると思うんだけど?」

 そんな彼に声をかけてきたのはユウジだった。

「ユウマくんだって、ミナちゃんのことは心配になっているはずだよ。」

「ならなぜオレから逃げた?・・アイツはオレから遠ざかった・・オレといることを怖がって、アイツはオレから離れた・・・!」

 言いかけるユウジに言い返すユウマが憤りを見せる。彼はミナが離れていったことに腹を立っていた。

「ビビッていないでさっさと帰れよ・・オレだけじゃなく、お前を心配してる連中まで怒らせるつもりかよ・・・!」

 ミナが早く帰ってくるように不満を募らせていくユウマに、寧々は呆れ、ユウジが苦笑いを浮かべていた。素直な態度を見せていないがユウマもミナを心配しているのだと、寧々たちは思った。

 そのとき、ユウジの家のインターホンが鳴った。

「もしかして、佳苗さんかな。」

 ユウジの代わりに寧々が玄関に向かった。ドアを開けた先に佳苗がいた。

「すごいわね、ミナちゃんとユウマくんが住んでるところ・・」

「やっぱり佳苗さんだぁ・・あたしも最初ここに来たときは、ホントにビックリしちゃいましたよ・・」

 驚きを感じている佳苗を、寧々が笑顔を見せて迎えた。

「話は早苗から聞いてる。ミナちゃんの居場所は・・まだ分かってないんだね・・」

 話を持ちかける佳苗に、寧々は小さく頷く。

「あ。あなたがミナちゃんや寧々ちゃんが話してた警部さんですね。」

 ユウジが顔を見せて、佳苗に挨拶をしてきた。

「あなたがユウジさんですね。ミナちゃんやみんながお世話になってます。」

「いえ、ミナちゃんとユウマくんのことは、本当に感謝しています。わざわざありがとうございます。」

 互いに感謝の意を示す佳苗とユウジ。

「ここで立ち話というのもなんですので、中へどうぞ。」

「ありがとうございます。お邪魔します。」

 笑顔で迎え入れるユウジの言葉に甘えて、佳苗は家に入っていった。

「本当にすごい家・・私たちの住んでるところとは全然違う・・」

「佳苗さんと早苗さんの部屋、散らかってるもんね・・警察だから仕方ないとこもあるけど・・」

 廊下と部屋を見回す佳苗に、寧々が苦笑いを見せて言いかける。

「ミナちゃんたちが来るまではきれいとは言えなかったですよ。使っていない部屋や場所にはほこりがたまってしまって・・」

 話を耳にしていたユウジも苦笑いを浮かべていた。

「ミナちゃんとユウマくんにはいつも助けられているよ、仕事でもここでも。」

「そんなことないですよ。私たちはユウジさんに助けられてばかりでしたよ・・」

 ミナたちへの感謝を示すユウジに、紅葉も感謝を投げかけた。

「ミナちゃん・・早く帰ってきて・・みんな心配してるんだから・・・!」

 ミナへの心配を膨らませて、寧々が声を上げる。すると佳苗が寧々の肩に手を乗せてきた。

「寧々ちゃんや私たちみんなの気持ち、絶対にミナちゃんに届くよ。」

「佳苗さん・・・うん。」

 佳苗に励まされて、寧々は落ち着きを取り戻して頷いた。彼女は改めてミナを信じることにした。

 

 世界への不条理に反発するハルとアキ。2人は街の中心部に向かって歩いていた。

 そのハルとアキをミナは追いかけていた。2人の行く先にランがいるのではと、彼女は思っていた。

(お姉ちゃん・・もうお姉ちゃんに頼るしかなくなっているよ・・・私、どうしたらいいの、お姉ちゃん・・・?)

 心の中でランに呼びかけるミナ。ユウマを頼れなくなったと思い、ミナはランにしか甘えられないと思っていた。

「ここにいたのか、伊沢ハル。」

 そのとき、声がかかってハルとアキが足を止めた。2人の前に現れた人物に、ミナは見覚えがあった。

 それはユウジの兄、横嶋レンジだった。

 

 

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