ガルヴォルスLucifer
EPISODE1 –Awakening of darkness-
第6章
寧々たちがユウマの家でミナと再会する少し前のことだった。
ミナの通う高校、その教室には生徒たちのほとんどが登校してきていた。
「ミナのヤツ、来ないわね。もしかして私たちが怖くなって、家に閉じこもってるとか?」
「そんなことしても逆効果だって、アイツも分かってるはずよ。」
「アイツの姉ちゃんも逮捕されたみたいだし。もうアイツを助けてくれるヤツは出てこないわね。」
「出てきてもムダよ。全部あたしらの都合のいいようになるんだから。」
クラスメイトたちが教室で笑い声を上げる。
「それじゃ、授業が終わったらミナの家に行こうよ。引きこもってるアイツをかわいがってやろうよ。」
「それも面白そうね。この際たっぷりと楽しませてもらうことにしようか。」
クラスメイトたちが放課後にミナの家に行こうとした。彼女たちはさらにミナへのいじめを強めようとしていた。
「ね、ねぇ、あれ・・」
そのとき、教室にいた生徒たちがざわめき始めた。クラスメイトたちも窓から校庭を目にした。
正門から入って校庭を歩いていたのはランだった。
「アイツ・・・!?」
「捕まったはずのアイツが、何で・・・!?」
連れて行かれたはずのランがまた学校に現れたことに、クラスメイトたちは目を疑った。
「あんなのが好き勝手にさせておいていいはずがないわ!」
「とにかく警察に連絡よ!また連れて行ってもらって・・!」
クラスメイトの1人が携帯電話を取り出して、警察に通報しようとしたときだった。突然教室の中に強い風が吹き込み、そのクラスメイトの体が切り裂かれた。
「キャアッ!」
教室にいた女子数人が悲鳴を上げる。切り裂かれたクラスメイトから血が飛び散り、机や椅子、床や天井に降りかかった。
この残酷な瞬間を目の当たりにして、生徒たちが恐怖を膨らませて教室から、さらに校舎から逃げ出していく。彼らは学校の敷地から飛び出そうとした。
だがその生徒数人が突然体をバラバラにされた。この瞬間を目の当たりにして、生徒たちが絶望して外に出ることもしなくなってしまう。
「私が念を込めておいたわ・・その境を出入りしようとすると、今みたいに切り刻まれることになる・・」
ランが低い声音で、校庭の隅にいる生徒たちに言いかける。
「誰にも邪魔させない・・誰も逃がさない・・ミナを追い込んでおきながら、全く反省せず、それが正しいことだと思い込んでいるお前たちを、私は許さない・・・」
「許さない?・・アンタが悪いんじゃないの!自分のことを棚に上げて、八つ当たりなんて!」
目つきを鋭くするランに、クラスメイトの1人が怒鳴ってきた。だが彼女も突然体を切り刻まれて、血しぶきを上げながら昏倒した。
「何よ・・何なのよ、コレ!?」
「もしかして、アンタの仕業なの・・何をしたっていうのよ!?」
驚愕と恐怖を膨らませていくクラスメイトたち。彼女たちのいる教室に向かって、ランがゆっくりと歩いてくる。
「私は力を手に入れたのよ・・どんな不条理でも抑えることのできない力をね・・」
「何ワケ分かんないこと言ってるのよ!?」
「特別に教えておくわ。分かりやすく言えばかまいたち。風と真空の刃物で切り裂いた・・」
ランが語りかける話に、クラスメイトたちが怒鳴りかかる。しかしランは表情を変えない。
「私がちょっと力を込めるだけで、アンタたちは一瞬で、簡単に命を奪われるのよ・・」
「アンタ、調子に乗ってんじゃねぇよ・・何でもできるって、思い上がってんじゃねぇよ!」
クラスメイトたちがランに苛立ちを見せて、詰め寄ろうとした。だがランにつかみかかる前に、彼女たちの体が突然宙に浮かんだ。
「えっ!?なっ!?」
「どうなってるのよ!?・・これもアンタの仕業なの!?」
さらに声を荒げるクラスメイトたち。宙に浮かんだまま身動きが取れない彼女たちを見て、ランはようやく笑みを浮かべた。
「今まで散々ミナをいじめてきたアンタたちが、今度は一方的にいじめられるのよ・・」
「バカ言わないで!こんなことをして、ただで済むと思ってんの!?」
「そう・・ただで済むと思い込んでいたのよ、アンタたちは・・・」
さらに怒鳴るクラスメイトたちに、ランは冷たい視線を送っていた。
「自分たちは正しい・・自分には強い権力者である親がついている。もしも周りが止めたりしようとしたら、権力を使って排除してくれる・・権力があれば、できないことは何もないと勘違いしている・・」
「何言ってんのよ・・正しいのは私たちに決まってんのよ!アンタも十分自覚できてるでしょ!?」
言葉を投げかけていくランだが、クラスメイトたちは考えを変えようとしない。宙に浮いていたクラスメイトたちが、突然床に落とされた。
「親が親なら子も子、ということなのね・・もう愚の骨頂ね・・」
ランがため息をつくと、クラスメイトの1人に向けて鋭い視線を向ける。次の瞬間、そのクラスメイトの左腕が突然切り落とされた。
「ぐあぁっ!」
激痛を痛感して、クラスメイトが絶叫を上げる。
「お前たちが頼りにしている権力なんて、本当は大したものではないのよ。簡単に吹いて飛ぶほどに・・」
「許さない・・パパがアンタなんか捕まえて、絶対に死刑に・・!」
あざ笑ってくるランに言い返した瞬間、クラスメイトの右腕も切り落とされた。
「ああぁぁーー!痛い!痛い!」
さらなる激痛に襲われて、クラスメイトたちが悶絶する。
「死刑になるのはお前たちも含めた世界そのもの・・もう私が裁くしかないのよ・・」
「アンタ・・ここまで悪者になると逆に笑えるわね・・誰の目から見ても、アンタは悪者なんだよ!」
「本当に愚かなのね・・どこまで行っても自分たちは正しい。自分たちに逆らうのは悪者・・死なないと・・ううん、死んでも分からないとはこのことね・・・」
考えを変えないクラスメイトに、ランがため息をつく。
「これだけやられても、ミナがどんな思いをしてきたのか、考えようともしない・・つくづく嫌気がさす・・」
ランが冷徹に告げると、クラスメイトの体を強く踏みつけた。
「ぐあぁっ!助けて!パパ、助けて!」
「今度は親に助けを求めるとはね・・自分の力で何もしようとしない・・そんな今が当然だと思い込んでいる・・もう、救いようがないわ・・」
助けの声を上げるクラスメイトに、ランがさらに冷たく言いかける。次の瞬間、そのクラスメイトが首を切られて、頭が血まみれの床を転がる。
「いやぁ・・やめて・・助けて・・・!」
残ったクラスメイトたちがランに助けを請う。
「何でもするから助けて!ほしいものがあればあげるから!」
「助けて?・・そう言って助けを求めてきたミナやみんなに、アンタたちは何をしたの・・?」
ランはそのクラスメイトたちに冷たい視線を向ける。
「もう、アンタたちに残されているのは、地獄に落ちることだけ・・」
ランが言い終わった瞬間、残されたクラスメイトたちが体を切り刻まれた。教室中にさらに血が飛び散った。
「もう遅いのよ・・アンタたちも、私も、何もかも・・・」
ランは逃げ出していった生徒たちを追って、教室を出た。生徒たちも教師たちも、ランが張り巡らせた見えない壁のために、学校の外から出られなくなっていた。
「アンタたちも同罪よ・・ミナが辛い思いをしていたのに、助けなかった・・怖かった、敵わないなんて言い訳にしかならない・・」
ランは目つきを鋭くして、背中から黒と白の翼を広げた。風の刃が学校にいる生徒や教師たちを狙って放たれ、的確に向かっていった。
学校中に断末魔の叫びが響き渡った。
「これで・・この学校からミナをいじめる人はいなくなった・・・」
ランは微笑んで学校を後にした。校舎や校庭にはいくつもの傷が刻まれ、事切れた生徒や教師たちの血が飛び散っていた。
連絡を受けて学校に駆けつけた早苗。既に学校は警察が来ていて、立ち入り禁止にしていた。
「状況は・・?」
「まさに見るも無惨ですよ。我々も何人かが気分を悪くしています・・」
早苗の声に、刑事の1人が気まずい表情を浮かべて答える。
「学校に来ていた生徒と教師、関係者は全員死亡。体を切断されて、ほとんどが即死のようです・・そうしようと考えるだけでもむごいことですが、そもそも人間業じゃない・・」
刑事が事件の残酷さに歯がゆさを覚える。
(そう・・これは普通の人間ではなく、ガルヴォルスの仕業・・それに、もしかしたら、ランさんが・・・)
早苗が心の中で不安を呟いていく。彼女はこの学校襲撃がランの仕業でないかと睨んでいた。
「引き続き調査をお願いします。すぐに戻ります。」
「了解しました、尾原警部。」
早苗が言いかけると、刑事が敬礼を送る。早苗は1度、近くで待っているミナ、寧々、紅葉、佳苗のところへ戻っていった。
「あの・・学校は・・・?」
「行かないほうがいいわ・・未成年にはとても見せられたものではないから・・・」
ミナが不安を浮かべながら言いかけると、早苗が深刻な面持ちを浮かべて言いかける。
「学校に来ていた生徒、教師、関係者、全員が殺されていた・・被害者以外に、学校には誰もいなかった・・」
「犯人はもう学校から出ていった・・しかもその人がガルヴォルスである可能性が高い・・・」
早苗の話に佳苗が続ける。2人の話を聞いて、ミナが不安を募らせていく。
「もしかして・・私を狙って・・・!?」
「それはないわ。あなたを狙うために、あなたが通う学校の人を無差別に殺す必要はないわ・・」
恐る恐る問いかけたミナに、早苗が冷静に答える。
「むしろ逆ではないかと思う・・ミナさんを苦しめている学校の人たちを皆殺しにしようとして・・」
「それじゃ、ホントに・・お姉ちゃんが・・・!?」
早苗が続けて口にした言葉を聞いて、ミナがさらに不安を見せる。
「落ち着いて、ミナちゃん・・ランちゃんの仕業と決まったわけじゃないって・・」
「ううん・・きっとお姉ちゃんだよ・・お姉ちゃん、私が学校でいじめられてるって知ったから・・」
佳苗が呼びかけるが、ミナは不安を消さない。
「お姉ちゃんを探さないと・・こんなことをしたって、私、全然嬉しくないよ・・・」
「待って、ミナちゃん・・落ち着いてったら・・!」
「もしかしたら、私がお姉ちゃんに助けを求めたから、お姉ちゃんは変わってしまった・・!?」
寧々が呼びかけるが、ミナは悪い事態を思い浮かべるばかりになっていた。
「落ち着きなさい、ミナさん・・ランさんのためにも、あなたが冷静にならないと・・」
早苗がミナを抱き寄せて呼びかける。我に返ることがないまま、ミナは突然意識を失ってしまった。
「ミナちゃん!」
「いけないわ・・ショックが大きすぎている・・見境をなくしてしまっている・・」
声を上げる寧々と、ミナを心配する早苗。
「私もランさんを探しに行かないといけないのに・・」
「・・早苗さん、行ってください・・ミナちゃんはあたしたちが見ているから・・!」
深刻な面持ちを見せる早苗に、寧々が呼びかけてきた。
「もう絶対に離れ離れにならない・・あたし、ミナちゃんと一緒にいるよ・・・!」
「寧々さん・・・ありがとう、寧々さん・・紅葉さんもそばにいてあげて・・」
寧々に感謝の言葉をかけてから、早苗が紅葉にも呼びかける。紅葉も真剣な表情を見せて頷いた。
「私も早苗と一緒にランさんを探すわ・・寧々ちゃん、紅葉ちゃん、ミナちゃんをお願いね・・!」
「分かりました、佳苗さん・・ランさんをお願いします・・」
佳苗も呼びかけると、紅葉が頭を下げる。彼女たちに微笑みかけてから、早苗と佳苗は走り出していった。
「ミナちゃん・・・」
眠り続けている間もランを思って不安になっているミナを見て、寧々は戸惑いを感じていた。
学校が襲われたことは、良夫の耳にも届いていた。娘までも殺されたことに、良夫は耳を疑っていた。
「そんなバカな話、絶対にありえません・・私の子が、殺されるなど・・・!?」
「しかし、お嬢様は間違いなく学校に登校されました・・鑑定が困難ですが、被害者となっている可能性が・・」
苛立ちを募らせている良夫に、議員が報告を続けていく。すると良夫が激高して、議員の胸ぐらをつかみあげる。
「真偽を徹底的に調べ上げなさい!そして疑いようのない事実ならば、犯人を確実に捕獲して、私の前に連れてきなさい!私自ら断罪します!」
「は、はい・・分かりました・・!」
怒鳴りかかる良夫に、議員が声を振り絞って答える。良夫が手を放して、床にしりもちをついた議員が咳き込む。
「早く行きなさい!それとも処分がお望みですか!?」
「は、はい!」
良夫に再び怒鳴られて、議員が慌てて立ち上がって部屋を飛び出した。
(簡単に地獄へは逝かせませんよ・・地獄のほうが甘いと思えるほどに苦しみを味わわせてやりますよ・・・!)
娘を殺した犯人に対して、良夫は激しい憎悪を膨らませていた。
ミナを連れて1度ユウマの家に戻ってきた寧々と紅葉。意識を失っているミナを見て、ユウマが目つきを鋭くする。
「何があったんだ・・学校に行ったんだよな・・・!?」
ユウマが問いかけると、紅葉が小さく頷いた。
「学校が襲われて、生徒も先生も殺されていた・・助かったのはあなたやミナちゃんのように、学校に行かなかった人だけかもしれない・・」
「学校の連中が・・・!?」
紅葉が話した言葉に、ユウマが耳を疑う。
「もしかしたら、学校の生徒のあなたも狙われるかもしれない・・だからミナちゃんと一緒にいたほうがいいかもしれないよ・・」
「お前たちと一緒にいろというのか?・・騒がしくされるのは不愉快だ・・」
紅葉が呼びかけるが、ユウマは聞き入れようとしない。
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!アンタもミナちゃんも危なくなってるんだよ!」
「危ないものは入れないようにしてきた・・やっぱり、コイツを家に入れるべきじゃなかった・・オレがこんなことをしなければ、こんな危険に巻き込まれることはなかった・・!」
「本気でそう思ってるの!?・・ミナちゃんに何かあってもいいっていうの・・!?」
「そういって自分の思い通りにしようとするのが悪い考えだと、お前たちはいつまでたっても分からないのかよ!?」
頑ななユウマに対して、寧々が不満をあらわにしようとする。ユウマにつかみかかろうとした寧々だが、紅葉に止められる。
「ここで争っていたって何にもならない・・今はミナちゃんを守ってあげないと・・・」
「お姉ちゃん・・・でも・・・!」
呼びかける紅葉に寧々が困惑を見せる。
「・・お・・おねえ・・ちゃん・・・」
そのとき、意識を失っていたミナが目を覚ました。
「ミナちゃん・・大丈夫・・・!?」
「お姉ちゃんを探さないと・・お姉ちゃんが・・・!」
心配の声をかける寧々だが、ミナはランを探そうとする。彼女はまだランを探すことしか考えていなかった。
「ミナちゃん、行かないで・・ランさんは、ミナちゃんのお姉ちゃんは絶対に見つかるから・・・!」
「おねえ・・・寧々、ちゃん・・・」
悲痛さを込めて呼びかける寧々に抱き寄せられて、ミナがようやく我に返った。
「寧々ちゃん・・紅葉さん・・本藤くん・・・私・・・」
ミナが寧々たちを見回して、困惑を膨らませていく。
「何で・・何でどいつもこいつも、オレにイヤなものを見せつけたり押し付けたりしてくるんだよ・・どうして自分が正しいみたいなことを考えるんだよ・・・!?」
ユウマがミナたちの前で不満の声を上げる。
「本藤くん・・ごめんなさい・・・私のせいで・・本藤くんに迷惑をかけて・・・」
ミナがユウマに向けて謝ってきた。彼女の目には涙が浮かび上がってきていた。
「邪魔なら出ていくよ・・もうこれ以上、本藤くんに迷惑をかけられない・・」
「いや、ここにいていい・・責任を感じさせているような気分にさせてる気がして、いい気がしないからな・・」
引き下がろうとするミナにユウマが憮然とした態度を見せた。
「でも、本藤くん・・・」
「オレがまたイヤな気分になる前にハッキリさせろ・・どっちつかずは不愉快にさせるだけだ・・」
戸惑いを見せるミナに、ユウマがさらに言いかける。
「それとオレのことは“ユウマ”でいい・・」
「・・それじゃ、私のことも“ミナ”でいいよ・・改めてよろしくね、ユウマくん・・」
「フン・・とりあえず入れ、ミナ・・」
「うん・・・」
ユウマに呼びかけられて、ミナは微笑んで小さく頷いた。
「あたしたち、話に置いてかれてるよね・・・」
「2人が分かりあえて受け入れてくれたのはいいんだけど・・・」
2人の会話から外されてしまい、寧々も紅葉も唖然となるしかなかった。
良夫を追い求めて街を歩いていた小夜と白夜。襲い掛かってくるガルヴォルスだけでなく、良夫の命令で動いていた警察をも切り裂いてきた2人は、人込みに紛れていた。
「あの人もこの大勢の中で私たちを狙おうとはしないのね・・」
「隠しきれないと思っているのか・・何にしてもオレには関係のないことだ・・」
冷静に声を掛け合っていく小夜と白夜。人込みにいても、2人は感覚を鈍らせることなく周囲に注意を向けていた。
「もう少しでこの街の大きなビルにたどり着く・・どのビルにいるとしても・・」
「しらみつぶしにしていく・・ヤツがオレを狙っているなら、向こうから出てくるだろう・・」
ビル地帯を見上げる小夜と白夜。2人の前には何棟もの高いビルがそびえ立っていた。
「ランさんを探していたら、あなたたちを見つけるとはね・・」
そこで声をかけられた小夜と白夜。2人が振り返った先に、早苗と佳苗がいた。
「あなた・・あのときの警部・・・」
小夜が目つきを鋭くして刀を構える。
「待って・・私たちは今は、あなたたちに何かするつもりはないわ・・」
早苗が声をかけると、小夜は構えを解いた。
「私たちはランさん・・ミナさんのお姉さんを探しているの・・あなたたちが追い求めている上層部の策略で、ミナさん共々危険にさらされているの・・」
「ミナのことなら分かっている・・彼女のお姉さんまで・・・」
早苗の話を聞いて、小夜が戸惑いを覚える。
「ランさんは上層部の手から脱して、1人行動している・・それも、ガルヴォルスとなっている可能性が高い・・」
「そう思うのが妥当だろうな・・普通の人間がヤツらから逃げられたら奇跡だ・・」
早苗の言葉に続けたのは白夜だった。
「もしも見かけたら覚えておく。だがオレはあくまで、上層部を叩き潰すために行動する・・」
「本当なら見逃してはいけないところだけど、今は頼れる人は1人でも頼りたいところだから・・」
自分の意思を口にする白夜に、早苗も自分の考えを口にしていく。
「私を探す必要はないよ・・」
そこへ声がかかり、小夜たちが振り返る。現れたのはランだった。
「ランさん・・・!」
「ランちゃん、やっと見つかった・・どこに行ってたのよ!?ミナちゃん、心配してたんだから!」
早苗が当惑を浮かべ、佳苗がランに心配の声を上げる。
「ミナを心配させてしまったのはごめんなさい・・早く帰って、ミナを安心させないと・・」
ミナのところへ帰ろうとするラン。だが彼女の様子が変だと、早苗は直感していた。
「待って・・」
早苗が声をかけると、ランは足を止めた。
「ランさん、大丈夫?・・ミナさんから話は聞いているわ。捕まって、体も心も辛いはず・・どうやって抜け出したのは分からないけど、あなたは疲れているのだからムリはしないほうがいいわ・・」
「うん・・私は捕まったけど、何とか抜け出すことができた・・」
「どうやって抜け出したか、教えてもらえるかな?あなたが入れられていた留置場は、建物がほとんどなくなっていて、そこにいた人はあなたを除いて死亡していたわ・・」
「うん・・私は生きていられたみたいね・・・」
「あなた、ガルヴォルスに・・常人を大きく超えた力を手に入れたのではないわよね・・・!?」
ランを問い詰めていく早苗。彼女に言われてランが笑みをこぼす。
「その力って、このことですか・・・?」
ランは目つきを鋭くして言いかけると、背中から黒と白の翼を広げた。その姿を見て早苗と佳苗が目を見開き、小夜と白夜が目つきを鋭くする。
「あなた・・やはりガルヴォルスになっていたのね・・・!」
小夜がランに対して身構える。しかしランは落ちつきを崩さない。
「これはミナを苦しめるものを消すための力・・もうミナにイヤな思いはさせない・・・」
「そのために警察や、関係のない人まで手にかけたというの・・・!?」
ミナを守ろうとするランに、早苗が憤りを覚える。
「そんなことをして、ミナさんが喜ぶと思っているの!?・・あなたは、ミナさんと一緒に平穏に暮らしていきたいんじゃなかったの!?」
「そのためにやっていることよ・・そうさせているのは向こうなのよ・・・」
声を上げる早苗だが、ランは態度を変えない。
「向こうが勝手に私たちの生活をムチャクチャにした・・それなのに、悪いことをしたのに反省せず罰せられず、正しいことにされている・・そんな馬鹿げたことが許されている現実は、変えないといけない・・」
「それは私も同じ考えよ・・でもだからって、人の命を奪っていいことにはならないのよ・・・!」
「その言葉、私たちを陥れた人たちに言って、分かってもらえたの・・?」
呼びかける早苗にランが逆に問いかける。
「自分が何をしても正しいことにしてしまえばいい。たとえ人殺しでも・・連中はそうとしか考えていない。全く悪いと思っていないのよ・・」
「ランさん・・・!」
「そんな連中に何もしないで、私を悪く思うのは、本当に馬鹿げてる・・・」
困惑を覚える早苗に、ランが不満を口にしていく。
「私はミナを苦しめるものを全部つぶす・・邪魔をするなら、関係ない人でも容赦しないわ・・・」
「お前が敵視している相手が上層部の連中ならば、それは聞けないな・・」
ランの言葉に言い返してきたのは白夜だった。
「オレは上層部を叩き潰すために行動している。お前も上層部を狙っているなら、獲物を横取りさせるつもりはない・・」
「あなたたちの都合を考えるつもりはない・・私は、ミナを苦しめるものを、この世界から消す・・・」
「都合を考えるつもりがないのはこっちだ。上層部を叩くのはオレだ。」
対峙するランと白夜。白夜が右手を握りしめて、臨戦態勢を取る。
「だったら私、容赦しない・・・!」
ランが白夜に向けて翼をはばたかせる。真空の刃が白夜に放たれたが、割って入った小夜が刀で弾いた。
「白夜に牙を向くなら、私も容赦しない・・!」
「あなたも私の邪魔をするの・・だったらあなたも・・・」
「先に仕掛けたのはあなたのほうよ・・あなたが手を引けばそれで終わるのよ・・」
「あなたたちが邪魔をしてくるからじゃないの・・邪魔をしなければ、私も何もしない・・・」
声を掛け合うも、互いに引こうとしない小夜とラン。
「いい加減にしなさい、あなたたち!」
そこへ早苗がランと小夜たちの間に割って入ってきて、呼び止めてきた。
「ランさん、今はミナさんのところへすぐに戻るときでしょう!?小夜さんと白夜くんも、戦う相手が違うでしょう!?自分の目的と状況を見誤らないで!」
「オレの戦う相手は間違っていない。オレの敵はオレを追い込もうとするもの全て・・アイツも例外ではない・・」
呼びかける早苗だが、白夜は考えを変えない。
「ミナのところに行きたいのに、その人たちが邪魔をしている・・それを排除するのは当然でしょ・・・」
ランも引き下がろうとせず、小夜と白夜に敵意を向けていた。
「あなたもどいて・・さもないと、命を落とすことになる・・・」
「そうはいかないわ・・あなたがやろうとしていることが、ミナさんに辛い思いをさせることになるのが分からないの!?」
呼びかけてくるランに、早苗がさらに言葉を返していく。
「分かっていないのはそっちよ・・私とミナが、どれほどの理不尽を強いられて、苦しい思いをしてきたのかを・・」
「だからこそよ・・これ以上あなたたちがイヤな思いをしないためにも・・!」
「イヤな思いをしないために、私は戦う・・敵をこの世界から消す・・・」
早苗の言葉にも耳を貸さず、敵意を向けるラン。彼女は翼を出したまま、早苗たちの前から去っていく。
「待ちなさい、ランさん!そこへ行くの!?」
「もちろんミナのところよ・・ミナを安心させないと・・・」
早苗に返事をして、ランは改めてミナのところに向かう。早苗も佳苗もランを追いかけることができなかった。
「ランちゃん・・・」
「完全にのみ込まれてしまっている・・ミナさんへの思いと、ガルヴォルスの力に・・・」
変わり果てたランに、佳苗も早苗も困惑を隠せなくなっていた。
「戦いは避けられたということか・・ならばオレもここにいつまでもいる必要はないな・・」
白夜が1度力を抜いて、小夜を連れて離れようとする。
「私たちは上層部を叩く・・それが罪だとしても、アイツらにいいように振り回されるよりはいい・・」
「小夜さん、白夜くん・・あなたたち・・・!」
「私たちは戦う・・たとえ罪の十字架を背負うことになっても・・・」
戸惑いを見せる早苗に決意を告げて、小夜は白夜とともに去っていく。2人もランも止めることができず、早苗は歯がゆさを感じていた。