ガルヴォルスLucifer
EPISODE1 –Awakening of darkness-
第4章
警察に不当に逮捕され、留置場に入れられていたラン。彼女は格子を叩いて声を張り上げていた。
「お願い!ここから出して!私は何も悪くないじゃない!」
「往生際が悪いぞ!自分のしたことを罪とも思わないとは・・これでは会心は望めないな・・!」
叫んでいるランに、見張りをしている警官が声を上げる。
「大人しくしていろ。これ以上叫んだり暴れたりすると撃つぞ。正当防衛で片付くがな。」
警官がランをあざ笑いながら、そばの椅子に腰を下ろした。絶望感にさいなまれて、ランが膝をついた。
(どうして・・どうして私たちがこんな思いをしなくちゃならないの・・・!?)
ランが心の中でこの非情な現実を呪う。
(私たちは単に幸せに過ごしたかった・・私はミナを守りたかっただけ・・それなのに、どうしてこんなことになるの・・・!?)
徐々に不条理への憎悪を膨らませていく。その激情が彼女自身を震わせていく。
(もしも神様がいるなら助けて・・私とミナを、今すぐ助けて・・・!)
助けを強く求めていくラン。彼女は震えている自分の体を抱きしめていた。
(助けて・・助けて・・助けて・・助けてよ・・・!)
激情に駆られていく彼女の頬に、異様な紋様が浮かび上がった。
「助けて!」
次の瞬間、ランの背中から翼が生えてきた。天使が生やしているような形だったが、右が黒、左が白となっていた。
光を宿した翼が広がったことで、ランを閉じ込めていた格子が壊された。
「な、何だ!?」
この騒音を耳にして、警官たちが駆けつけてきた。警官たちは立ち上がったランの様子に目を疑った。
「何だ、これは!?・・翼・・!?」
「撃て!ここから出させるな!」
警官たちが驚愕を抱えたまま、ランに向けて銃を構えて発砲する。だがランが広げていた翼を振りかざして、弾丸を弾き飛ばす
「バカな!?全然効かない・・!?」
「私たちを陥れた罪は重いわよ・・・」
さらに愕然となる警官たちに、ランが低く告げる。恐怖と激高に突き動かされるように、警官が目を見開く。
「ふざけるな!罪を犯したのはお前!自分の犯罪を棚に上げて、私たちを犯罪者扱いするとは!」
警官が再び発砲しようとした。だが次の瞬間、黒と白の翼が翻って、警官たちを通り抜けた。
「あくまで自分たちが正しいと言い張るなら、その思い上がりで怒りを買うことも覚悟できているのでしょう・・・!?」
ランが再び低く告げた直後だった。彼女に銃口を向けていた警官たちが、突然体を切り裂かれた。
言葉も出せずに血しぶきをあふれさせながら倒れていく警官たち。ランは翼をはばたかせて、降りかかった返り血を振り払う。
「帰らないと・・ミナのところへ・・・」
ミナへの思いに突き動かされるように、ランは留置場から出ていく。外に出た彼女を、駆けつけてきた別の警官たちが取り囲んできた。
「動くな!」
「おとなしくしろ!」
警官たちが銃や警棒を構えるが、ランは足を止めようとしない。
「邪魔をしないで・・私は帰りたいだけなの・・・」
「撃て!狙撃してでもこれ以上行かせるな!」
前進するランに向けて、警官たちが一斉に発砲する。だがランの翼が弾丸を全て弾き飛ばした。
「バ、バカな・・!?」
「どうして・・私とミナの邪魔をするの・・・!?」
愕然となる警官たちに向かって、ランが翼をはばたかせて羽根を飛ばす。羽根の1本1本が警官の体に突き刺さり、確実に命を奪っていく。
「こんなことをしなければ、長生きできたのよ・・私も本当の殺人者にならなくて済んだのよ・・・」
ランは低く呟くと、再び歩き出していく。
「でももう私に迷いはない・・ミナを守るためなら、私はどんなことだってする・・・」
ランの心に迷いはなかった。彼女はミナを守るためにどんなことにも手を染めることもいとわなかった。
1度早苗と佳苗の暮らしているマンションにやってきたミナ。佳苗からの連絡を受けて、寧々と紅葉もやってきた。
「お邪魔します、佳苗さん・・ミナちゃん・・・」
佳苗に挨拶すると、紅葉がミナの後ろ姿を見て戸惑いを覚える。ランと離れ離れになって、さらに危険な状況に置かれているミナの気持ちを、紅葉は察していた。
「それにしても・・この前来たときも思ったけど・・全然片付いてないね・・・」
「コラ、寧々・・!」
周りを見回す寧々を紅葉が注意する。
「いいのよ、寧々ちゃん、紅葉ちゃん。ホントに生活感が取り戻せてなくて・・まぁ、私も早苗もこういう職業だからねぇ・・」
すると佳苗が2人に照れ笑いを見せた。どう反応したらいいのか分からず、寧々も紅葉も苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ミナちゃんも窮屈だよね・・ゴメンね、ホント・・」
「いえ・・そんなことないです・・・」
謝ってくる佳苗にミナが笑みをこぼす。だがすぐにミナの表情が曇っていく。
「お姉ちゃん・・・大丈夫かな・・・」
「ミナちゃん・・・大丈夫、大丈夫・・早苗が必ず見つけ出すから、そしたら連絡が来るから・・」
不安を浮かべるミナに、佳苗が優しく声をかけていく。
「そうだよ、ミナちゃん・・いざとなったらあたしたちも頑張っちゃうから。」
「寧々ちゃん・・・ありがとう・・私と、お姉ちゃんのために・・・」
笑顔を見せてくる寧々に、ミナが涙ながらに感謝を口にする。
「いいって、いいって。ミナちゃんともランさんとももうお友達なんだから・・」
「こういうことが起こっているのに、私たちが何もしないわけにいかないでしょう・・」
寧々に続いて紅葉もミナを励ます。2人の優しさに触れて、ミナは笑顔を取り戻した。
「こ・・これは・・いったい・・・!?」
変わり果てた留置場を目の当たりにして、早苗が息をのむ。留置場は廃墟と化し、多くの警官たちが血まみれになって倒れていた。
「天上ランです・・彼女が牢屋を壊して、警備に当たっていた者も含めて、警官を・・・!」
遅れて駆けつけた刑事が、早苗に現状を口にしてきた。
「もっと監視と拘束を厳重にすべきだった・・このままでは市民にまで手をかけて・・・!」
歯がゆさを浮かべる刑事だが、突然早苗につかみかかられる。
「お、尾原警部、何を・・!?」
「そういう心のない言動が彼女のように暴走させて、このような事態を引き起こしていることを、肝に銘じておきなさい・・・!」
声を荒げる刑事に、早苗が鋭く言いかける。彼女は刑事から手を放すと、別の警官に歩み寄って声をかけた。
「天上ランさんの居場所はつかめているのですか?」
「いえ。この留置場から離れて、それからの居場所は不明です・・」
早苗の問いかけに警官が答える。
(ランさんはガルヴォルスになっている可能性が高い・・しかもその力を暴走させている・・見境なく誰かを襲ってしまう・・本当の犯罪者・・それ以上に・・・!)
最悪の事態が起こる不安を覚える早苗。
「街の警備を強化してください。見つけたらすぐに私に連絡してください。わずかでも危険を感じたらすぐに逃げなさい。決して発砲などで刺激しないように。」
「ですが、その間に天上ランが誰かを襲ったら・・!」
「市民を避難させなさい。私たち警察の目的は逮捕ではなく防衛よ。それを忘れないで・・」
警官に念を押してから、早苗はランを追って走り出していった。
「愚かなことですね。私たちの指揮に口をはさむようなマネをして・・」
そこへ1人の男が現れて、去っていた早苗をあざ笑う。白髪をオールバックにした長身の男である。
「犯罪者に感情移入してますね。常に冷静沈着なあなたが、浅はかなことで・・」
「これは権堂議長・・議長自ら赴かれるとは・・・!」
男、権堂良夫に刑事が頭を下げる。
「私個人の事情で出向くことになってね。便乗する形になってしまって悪いが、私も直接手を下すことになるかもしれません・・」
良夫は淡々と言いかけてから刑事たちに命令を下した。
「天上ランを見つけ次第射殺しなさい。彼女は予想以上に危険度が増しています。」
「はい。ですが尾原警部のことは・・?」
「彼女のことは無視するように。処分は私が進めておきますので。」
良夫の命令を受けて、刑事もランの追跡に向かった。
(私に刃向かうものは何であろうと容赦しません。天上ラン、あなたにも、あなたの妹にも・・)
心の中で呟く良夫が目つきを鋭くする。彼は自分たちのためにランとミナを排除することのためらいを持ってはいなかった。
ランの帰りと早苗からの連絡を待っていたミナたち。沈黙が漂う中、佳苗の携帯電話が鳴りだした。
「もしもし!・・早苗!」
佳苗が電話に出て声を上げる。相手は早苗だった。
“ランさんが連れて行かれた留置場に来たわ。でも留置場は破壊されていて、ランさんはいなくなっていたわ・・”
「えっ!?・・それで、ランちゃんは・・!?」
“分からない・・私だけでなく、彼女を連れて行った人たちも探し回っている・・姉さんたちも、できる限り外に出ないようにしたほうがいいわ・・”
「でも、急いでランさんを見つけ出さないと・・早苗、あなたにも危険が迫っていることは・・」
“分かっているわ。その危険の中でランさんを見つけ出せるのは、私しかいないのよ・・”
呼び止める佳苗だが、早苗はランを連れ戻すために危険に飛び込むこともいとわなかった。彼女が考えを変えないと思い知らされた佳苗は、ため息まじりに話を続けた。
「分かったわ・・でも次に戻るように私が行ったら、必ず聞いて戻ってきて・・」
「ミナちゃん!待って!」
佳苗が早苗に呼びかけていたところで、紅葉の声が上がった。ミナが突然部屋を飛び出してしまったのである。
「ミナちゃん!・・・早苗、大変!ミナちゃんが今出て行っちゃったよ!」
“何ですって!?・・分かったわ!ランさんだけでなく、ミナさんも見つけたらすぐに戻るように言い聞かせるから・・!”
「やっぱり私も探しに行くわ!ミナちゃんまで危険に飛び込ませるわけにいかないわ!」
早苗との連絡を終えて、佳苗は電話を切った。
「私がミナちゃんを探しに行くから、寧々ちゃんと紅葉ちゃんは・・!」
佳苗が振り返って寧々と紅葉に呼びかけた。だが部屋にはミナだけでなく、寧々の姿も消えていた。
「寧々ちゃん!?・・まさか寧々ちゃん、ミナちゃんを探しに出て行っちゃったんじゃ・・!?」
「いくらガルヴォルスだって言っても、寧々だってこんな危険に飛び込んで、無事で済むとは思えないわ・・!」
声を荒げる佳苗と紅葉。1度肩を落としてから、佳苗が真剣な面持ちを浮かべた。
「こうなったら・・紅葉ちゃんはここにいて・・もしかしたら、ミナちゃんと寧々ちゃんが戻ってくるかもしれないし・・」
「ううん・・佳苗さん、私も行きます・・!」
呼びかける佳苗だが、紅葉も外に出ようとしていた。
「何を言っているの、紅葉ちゃん・・・!?」
「こうなってしまったら、ここでじっとしているわけにはいかないですよ・・寧々かミナちゃんを見つけたらすぐにここに連れ戻しますから・・」
「紅葉ちゃんまで・・・しょうがないわね・・でも私と一緒に探しに行くわよ。絶対に離れ離れにならないでね・・」
「はい・・分かりました・・」
佳苗からの注意に紅葉が頷く。2人はミナ、ラン、寧々を探しに部屋を出て行った。
留置場からいなくなったランを追い求めて、ミナは街の中を走っていた。しかし夜でも人の多い街中からランを見つけ出すのは、極めて難しいことだった。
(お姉ちゃん・・どこにいるの、お姉ちゃん・・・!?)
ランを求めて必死になるミナ。彼女を突き動かしていたのは、ランへの思いだけだった。
「お姉ちゃん!」
「えっ!?」
ランと思って声をかけたミナだが、後ろ姿が似ていただけの別人だった。
「えっと、その・・・ごめんなさい!」
ミナは謝ってから再び走り出していった。彼女はさらにひたすらに、ランを求めて走り続けた。
「キャッ!」
そのとき、ミナがぶつかってしりもちをついた。彼女がぶつかってしまったのは警官だった。
「イタタ・・ご、ごめんなさい・・・!」
謝るミナだが、警官の姿を見て緊張を覚える。ランを連れて行った警察に対して、ミナは疑心暗鬼を感じるようになっていた。
「どうしたの、こんな時間に?君みたいな子がこんな時間に外を出歩いていると危ないよ。」
警官が心配の声をかけて、ミナに手を差し伸べてきた。だがミナには、自分を捕まえようとしているように直感した。
「イヤッ!」
悲鳴を上げて、ミナが立ち上がって警官から逃げ出していった。何事か分からず、警官は唖然となっていた。
(急がないと・・このままじゃ、お姉ちゃんが・・・!)
さらに不安と心配、焦りを膨らませていくミナ。息が切れそうになっても、彼女は走るのをやめようとしなかった。
「おやおやぁ?こんなところにかわいこちゃんがいるぜぇ・・」
街外れに出ようとしたところで、ミナは声をかけられて足を止めた。数人の男たちが現れて、彼女を取り囲んできた。
「ヘッヘッヘ。じっくりと遊んでやるぜ、オレらがな。」
「おいおい、独り占めは勘弁だぜ。オレの分も残しとけって。」
「ゆっくりじっくり、たっぷりと味わってやるぜ・・」
男たちが不気味な笑みを浮かべて、ミナに迫る。怖さを覚えるミナだが、ランへの思いが彼女を突き動かす。
「どいてください・・私、お姉ちゃんを探しているんです・・・!」
「へぇ、そうなの。でもダメー。」
声を振り絞るミナだが、男たちはあざ笑ってきた。
「お前がオレたちの遊び相手になることはもう決まってんだからさ・・!」
男たちの頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼らの変化を目の当たりにして、ミナが緊迫を膨らませる。
「さあ!存分に楽しませてくれよ!」
男たちが一斉に違った姿かたちのガルヴォルスへと変化した。ガルヴォルスたちに囲まれて、ミナは絶望を拭えなくなった。
「まずはどんなふうにやってやろうかな〜・・」
ガルヴォルスたちがゆっくりとミナに近づいていく。
(助けて・・私はお姉ちゃんに会いたいの・・だから、助けて・・・!)
心の中でひたすら懇願を募らせていくミナ。ガルヴォルスの1人が彼女を狙って右腕を振り上げた。
だが次の瞬間、そのガルヴォルスの右腕が切り裂かれた。あまりに一瞬に感じたため、彼は何が起こったのか分からなかった。
「ぐあぁっ!」
切られた右腕から激痛を感じて、ガルヴォルスが絶叫を上げる。他のガルヴォルスたちも何が起こったのか分からず、緊張を隠せなくなっていた。
「自分たちのために関係のない人を弄ぶガルヴォルス・・」
ミナとガルヴォルスたちの前に現れた制服姿の少女。それは刀を下げた小夜だった。
「そんなのが、私たちのように不条理に振りまわれる人を増やすことになるのよ・・・」
「小夜さん・・・」
低い声音で言いかける小夜を目にして、ミナが戸惑いを覚える。
「その刀・・噂のあの小娘がここに出てくるとは・・・!」
ガルヴォルスたちが小夜を見て息をのむ。
「この小娘・・よくもオレの腕を!」
腕を切られたガルヴォルスが小夜に飛びかかる。だが次の瞬間、彼の体に鋭い爪が突き刺さった。
「ぐあっ!」
絶叫を上げたガルヴォルスが崩れ落ちるように倒れた。ウルフガルヴォルスとなった白夜が、ガルヴォルスを仕留めたのである。
「くだらない野心でオレたちをどうにかできると思わないことだな・・」
白夜が低く告げて、ガルヴォルスたちに鋭い視線を向ける。
「小夜さん、白夜さん・・ありがとうございます・・・」
「夜に1人でこんなところで何をしていた・・・?」
感謝の言葉をかけたミナに、白夜が問いかけてきた。
「あの・・お姉ちゃんが、大変なんです・・私を助けただけなのに、連れて行かれて一方的に悪者にされて・・・」
「一方的に・・ガルヴォルスではないの・・・!?」
説明をしたミナに小夜が問いかける。
「はい・・黒い服を着た、警察の人・・・」
「もしかしたら、上層部が何かしたんじゃ・・!?」
「可能性がないとはいえないが、普通であるはずのお前たちを・・どういうつもりだ・・・?」
ミナの言葉に、小夜に続いて白夜も疑問の声を投げかけていた。
「テメェら、オレたちを無視してんじゃねぇぞ!」
そこへガルヴォルスたちが怒鳴り声を上げて、小夜たちに向かって飛びかかってきた。すると白夜が彼らに対してため息をついた。
「さっさと尻尾巻いて逃げていれば、多少長生きできたかもしれないのに・・」
白夜が素早く動いて爪を振りかざす。小夜も目つきを鋭くして、ガルヴォルスたちに向けて刀を振りかざす。
次々に体を切り裂かれて鮮血をまき散らしていくガルヴォルスたち。彼らは息をつく暇もないまま事切れて、全員崩壊を起こして消滅していった。
「もしもお前の姉が上層部に捕まったとしたら、何かされている可能性が高いだろう・・ただで帰すようなことをする連中ではないからな・・」
白夜が落ち着きを見せて、ミナに言いかける。するとミナが首を横に振ってきた。
「もしかしたら・・お姉ちゃん、ガルヴォルスっていうのになっているかもしれない・・」
「ガルヴォルスって・・ガルヴォルスになって、自力で脱出したかもしれないというの・・・!?」
ミナの話を受けて、小夜が緊張を膨らませた。
「私も同じことをしたことがあるから、その可能性は否定できないわね・・」
「お姉ちゃんが・・お姉ちゃんがどこにいるのか、分かりますか!?・・あなたたちになら、お姉ちゃんの居場所が分かるんじゃないかって・・!」
呟きかける小夜にミナが問いかける。
「確かにオレたちは感覚が高いが、ガルヴォルスの気配に限られる。ガルヴォルスになったのならともかく、普通の人間の気配は弱すぎてつかめない・・」
白夜が冷淡な態度を変えずにミナに答えていく。
「それにガルヴォルスであっても、気配を消すことに長けている者もいる。うまく気配を消されては、オレでも探せるという確証はない・・」
「そうですか・・お姉ちゃんに何かあったら・・・」
白夜の話を聞いて、ミナが不安とランへの思いを募らせていく。
「お前たち、ここで何をしている!?」
そこへ警官たちが現れて、ミナ、小夜、白夜を取り囲んできた。
「普通の警官・・」
「上層部の言いなりになっている連中だな・・哀れなことだ・・」
小夜が呟き、白夜が警官たちに対してため息をつく。
「お前は姉か仲間を探せ。ここでじっとしているつもりはないんだろう?」
白夜が警官たちに目を向けたまま、ミナに呼びかける。
「ここにいては何もできないまま捕まるか、犬死するだけだ。さっさと行け。」
「ですが、それでは2人が・・・!」
白夜の言葉を素直に聞き入れずにいるミナ。
「私は何度も地獄を潜り抜けてきた・・今度も生き残るから、私たちのことは気にしなくていいわ・・」
「小夜さん・・・」
小夜にも声をかけられて、ミナが戸惑いを覚える。彼女は迷いを振り切ろうとしながら、遠くを見据えた。
「今よ!走って!」
小夜が声を上げたのを合図に、ミナが走り出した。次の瞬間、銃を構えた警官たちに、小夜と白夜が素早く斬りかかった。
「お前たち、おとなしく・・!」
呼びかけた他の警官も白夜の爪に切り裂かれる。
「おい、待て!」
ミナを追いかけようとした警官が、小夜に後ろから刀に貫かれた。警官たちは小夜と白夜によって全員倒れた。
「呪うなら、不条理に踊らされて、それに気づくこともできなかった自分の愚かさを呪うんだな・・」
動かなくなった警官たちを見下ろして、白夜が皮肉の言葉を投げかけた。
「ミナちゃんは追いかけなくていいの・・?」
「オレたちと一緒にいるほうが、アイツにとっては危険だろう・・あの小娘たちや女刑事たちに任せるほうがいいだろう・・」
小夜がミナの心配をするが、白夜は賛同しない。
「オレたちはオレたちの敵を倒すだけだ・・オレたちを弄ぶ不条理を振り払うだけだ・・」
「そうね・・私たちは敵を倒すだけ・・その道を、私たちは選んだのだから・・・」
2人はミナを追おうとせず、自分たちを陥れようとする敵を狩るために動き出した。今までそうしてきたように。
小夜と白夜に助けられて、ミナは再びランを追い求めて走り出した。しかしミナにはランをすぐに見つけ出せる力も技術も持ってはいなかった。
(お姉ちゃん、どこなの!?・・ここまで探したのに、どうして見つからないの・・・!?)
ランを見つけられない現実を理不尽に感じて、ミナが自分の体を震わせていた。
「お姉さんでも探しているのかな?」
1度立ち止まって呼吸を整えていたところで、ミナが声をかけられる。彼女の前に現れたのは白髪の男。
「あなたは・・・?」
ミナが恐る恐る振り返って声をかける。
「お初にお目にかかります。私は権堂良夫と申します。私と一緒に来ていただけるなら、私もお姉さんを探すのをお手伝いいたします。」
男、良夫が笑みを見せて、ミナに手を差し伸べる。だがミナは不安を感じずにいられなかった。
「どうしたのですか?怖いことはありませんよ。」
「もしかして・・あなたが、お姉ちゃんを・・・!?」
ミナが口にした言葉を聞いて、良夫が笑みを消す。ミナは良夫がランを陥れた人たちの1人であると直感していた。
「家族というのは、時として恐ろしくなるものですね。姉が体感した危険を、妹も察知するとは・・」
「あなたが・・あなたがお姉ちゃんを・・・!」
呟きかける良夫にミナが憤りを覚える。気弱だった彼女にとって、ここまで激しい怒りを覚えたのは初めてだった。
「返して!お姉ちゃんは私を助けただけ!何も悪いことなんてしてないよ!」
「いや、君たちは大罪を犯した。反抗という大罪を。私と、私の娘に対しての・・」
声を張り上げるミナに言い返して、良夫が銃を取り出して構えた。銃口を向けられて、ミナが緊迫を膨らませる。
「私たちに刃向かうことは許されません。私たちがこの国を動かしている。それだけの権力を私たちは持っているのです。」
「それで何で私たちが、こんな思いをしなくちゃならないの・・普通に暮らしていたのに、何で私たちにこんなひどいことができるの!?」
淡々と語りかける良夫に、ミナが悲痛の叫びを上げる。次の瞬間、良夫の構えていた銃が火を噴き、弾丸がミナの顔の横を通り過ぎた。
「私たちは国のために尽力しているのです。その私たちに刃向かうことは、この国、果ては世界をも敵に回すことと同じです。」
良夫がミナに向けて言いかける。彼女を見ている彼の目つきが鋭くなっていた。
「あなたは疑問を感じていたはずです。なぜ公にいじめが行われていたのに、救いの手が一切差し伸べられなかったのか・・」
「えっ・・・!?」
良夫が投げかけた言葉に、ミナは耳を疑った。
「全ては私たちの手引きだ。教師、親、警察、全て私の鶴の一声で導かれていった。もっとも、拒んだ人がいなかったわけではないが、あなたたちと同じ運命を辿ることになりました。」
良夫が不敵な笑みを浮かべて、ミナに狙いを定める。
「私がここであなたを葬っても、私は罪に問われません。なぜなら私たちがルールなのですから。」
「そんなムチャクチャなルール、あるわけないよ!」
良夫の言葉に言い返してきたのはミナではなかった。突然良夫が横から突き飛ばされて、銃を手放してしまう。
飛び込んできたのは寧々だった。ガルヴォルスの中でも感覚が、特に嗅覚が優れていた彼女は、ミナの居場所を突き止めてこの場に駆けつけたのだった。
「ミナちゃん、大丈夫!?ケガとかしてない!?」
「寧々ちゃん・・・うん、大丈夫・・小夜さんと白夜さんが助けてくれたから・・・」
心配の声をかけてきた寧々に、ミナが安堵の笑みを見せる。
「小夜さんと白夜さんが!?・・うまく助けてくれたんだね・・・」
ミナの話を聞いて、寧々も安堵を覚える。
「それで、2人は・・?」
「ガルヴォルスと、警官を・・・」
「・・・ミナちゃんはみんなと合流して・・お姉ちゃんでもランさんでも、早苗さんでも佳苗さんでもいいから・・・」
「寧々ちゃん・・・」
呼びかけてくる寧々に、ミナが戸惑いを浮かべる。2人の会話を聞いていた良夫が、笑みを浮かべてきた。
「逃げられると思っているのですか?仮に逃げられても、どこへ逃げても、あなたたちは私たちの手の中です。」
「そんなことはない!アンタなんかに、あたしたちは捕まんないよ!」
淡々と言いかけてくる良夫に、寧々が強気に言い放つ。
「それは自分がガルヴォルスだからですか?」
「ガルヴォルスのことを知ってる!?・・まさか・・!?」
良夫が投げかけた言葉を聞いて、寧々が緊張を募らせる。良夫の顔に異様な紋様が浮かび上がった。
続いて良夫の姿が異形の怪物へと変化した。全身黒ずくめの人型の怪物である。
「人の力を超越しているのは、自分たちだけだと思わないことです。」
良夫は落ち着きを保ったまま、ミナと寧々に敵意を向けてきていた。