ガルヴォルスLucifer
EPISODE1 –Awakening of darkness-
第3章
取り囲んで襲い掛かってきたガルヴォルスたちを、寧々と紅葉だけでなく、小夜も迎え撃った。彼女が引き抜いた刀が、ガルヴォルスの1人を切り裂いた。
「コイツ、人間の姿のままあのに、かなりの強さ・・・!」
「調子に乗りやがって・・痛い目にあわさねぇとな!」
いきり立ったガルヴォルスたちが小夜に向かって飛びかかる。そこへウルフガルヴォルスとなった白夜が飛び込み、ガルヴォルス2人の体に爪を突き立てた。
「ぐおっ!」
うめき声を上げるガルヴォルスたちが昏倒して、横たわったまま動かなくなる。着地した白夜が手を振って血を払う。
「お前たちのような連中はイヤというほど見てきている・・何度見ても反吐が出る・・」
「コイツ、言わせておけば・・!」
低く告げる白夜にいきり立って、ガルヴォルスたちが飛びかかる。
「身の程知らずなのも、お前たちのような連中にありがちな考え方だ・・」
白夜がため息をついてから、ガルヴォルスたちに爪を突き立てていく。小夜も刀を振りかざして、紅葉も背中から針を飛ばして、ガルヴォルスたちを仕留めていく。
紅葉たちの力にガルヴォルスたちは手も足も出なかった。
「くそっ!今回は見逃してやる!だがこの次はそうはいかないぞ!」
捨て台詞を吐いて逃げ出そうとするガルヴォルス。だが彼の体を小夜の刀が貫いた。
「私たちは、あなたたちを見逃すつもりは全くないわ・・・!」
小夜が低く告げて、刀をガルヴォルスから引き抜く。倒れるガルヴォルスから血しぶきが出て、小夜の体に降りかかる。
襲い掛かってきたガルヴォルスたちを全て打ち倒した紅葉たち。紅葉と白夜が人間の姿に戻って、ミナと寧々に振り返る。
「寧々、ミナちゃん、大丈夫・・?」
紅葉がミナと寧々に駆け寄って心配の声をかける。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん・・お姉ちゃんたちのおかげで、あのガルヴォルスたち、あたしたちに近づいてもこれなかったよ・・」
「うん・・・ありがとう、寧々ちゃん、紅葉さん・・小夜さんと白夜さんも・・・」
笑顔を見せる寧々と、感謝の言葉を口にするミナ。
「感謝されるいわれはない。敵を倒しただけのことだ・・」
「それでもありがとうと思っています・・みんなが助けてくれたから、私も無事でいられるんです・・・」
憮然とする白夜に、ミナはさらに感謝を見せる。彼女のこの頑なな意思に、白夜はため息をついた。
「もう行くぞ・・厄介事に巻き込まれるのは腑に落ちない・・」
白夜の呼びかけに小夜が頷く。2人がミナたちと別れて公園を離れようとした。
「紅小夜と日向白夜ね・・?」
そこへ声がかかり、小夜と白夜が足を止める。彼らの前に現れたのは早苗だった。
「早苗さん・・・」
「対策本部にあなたたちについて知らせがあったわ。指名手配されていると・・」
寧々が戸惑いを見せる前で、早苗が真剣な面持ちで小夜と白夜を問い詰めていた。
「あなたも私たちの敵なの?・・だったら、たとえガルヴォルスだろうと人間だろうと、容赦しない・・・!」
「待って!」
小夜が振り向いた刀を鞘から引き抜こうとしたとき、ミナが彼女と早苗の間に割り込んできた。
「何か悪いことをしたっていうんでしたら、それは間違いです!だって小夜さんも白夜さんも、私たちを助けてくれたんですから!」
「お前・・同じことを何度も・・・」
白夜がミナに対してすっかり呆れ果てていた。
「何か事情を知っていようと、何も知らされずに行動していようと、オレたちには関係ない。オレたちの行く手を阻もうとするなら、誰だろうと容赦はしない。」
「・・最初はあなたたちを捕まえようと思ってここまで来たけど、事情を聴いたほうがよさそうね。ミナさんのこともあるし・・」
冷徹に言いかけてくる白夜に対して、早苗は落ち着きを見せる。しかし白夜も小夜も、早苗への警戒を消さない。
「私たちは誰にも身を寄せるつもりはない・・かなりの疑心暗鬼を、私たちは植え付けられているから・・・」
「私はあなたたちを襲ってきたような無神経な人たちとは違う。独自にあなたたちのことを調べさせてもらったわ・・」
小夜が投げかける言葉に、早苗が真剣な表情のまま語りかけていく。
「紅小夜、ガルヴォルスの編成組織、クロスファングに拉致され、ガルヴォルスの遺伝子を移植された。自分の人生を狂わせたクロスファングへの復讐のために行動・・」
早苗の話を聞いて、小夜が目つきを鋭くする。
「日向白夜、家族を殺されたことでクロスファングに入隊。仇である小夜を追い求めて交戦を繰り返す。最終的に彼女の心身を掌握することで、復讐を果たす・・」
「オレたちのことを勝手に探りを入れて・・・」
さらに話を続ける早苗に、白夜が苛立ちを見せる。
「私はあなたたちを無慈悲に拘束や処置を行うつもりはない。話と状況次第で保護をすることも不可能ではないわ。」
「言ったはずよ。私たちには疑心暗鬼が植え付けられていると・・私たちは、誰の言葉にも引き寄せられたりしない・・・」
呼びかける早苗だが、小夜は白夜と同じく聞き入れようとしない。
「無理やり話を進めようというなら、私も白夜も容赦しない・・・!」
小夜が刀を構えて、すぐに鞘から引き抜けるようにする。白夜もすぐに攻撃に出れるように身構えていた。
「やめてください!」
そのとき、ミナが小夜たちに向けて悲鳴のように声を上げてきた。目から大粒の涙をこぼす彼女に、小夜も早苗も、寧々も紅葉も戸惑いを感じていた。
「どちらも私を助けてくれたいい人です・・その人たちが争うなんてこと、あっちゃいけないですよ・・・!」
涙ながらに呼びかけて、ミナが早苗と小夜たちの間に割って入る。彼女は危険であることも顧みずに、体を張って彼らを止めようとしていた。
「ミナちゃん・・そんなムチャして・・・」
意固地を見せるミナに戸惑いを募らせていく寧々。
「そういう寧々も、ガルヴォルスになる前からムチャばかりしてたじゃない・・」
「お姉ちゃん、ここでそのことを言わなくたって・・」
紅葉に注意されて寧々が落ち込む。2人のやり取りを見て、ミナと早苗が思わず笑みをこぼした。
「オレたちの目的は単刀直入に言えば自己防衛だ。オレたちを買い被っても何にもならないぞ・・」
白夜はミナたちに告げると、小夜を連れてこの場を離れていった。
「ちょっと、待ちなさい!」
早苗が呼び止めるが、小夜も白夜も止まることはなかった。
「ハァ・・・ミナさん、大丈夫?ケガとか違和感とかない・・?」
「早苗さん・・はい・・大丈夫です・・・」
心配の声をかける早苗に、ミナが笑みを見せて答える。だが緊張の糸が解けて心身の疲れが一気に出てしまったのが見え見えだった。
「とにかく、もう帰らないと・・お姉ちゃん、心配しているよ・・・」
ミナがランを気にして、慌てて家に帰ろうとする。だがすぐにふらついてしまい、彼女は早苗に支えられる。
「ムリをしないで、ミナさん・・自分で考えている以上に、あなたは疲れているのだから・・」
「でも・・お姉ちゃん、きっと私を心配して・・・!」
さらに心配の声をかける早苗だが、ミナはランを気がかりにしていた。彼女の頑なな意思に、早苗はため息をついた。
「ランさんにも事情を話したほうがいいかもしれないわね・・信じられないという反応が返ってくるのが普通だけど、ミナさんの姉であるランさんなら・・・」
渋々納得しようとする早苗。
「あたしも一緒に行きます・・あたしがミナちゃんをきちんと守れていれば・・・」
寧々も声を上げて、自分を責めていく。
「寧々さんのせいではないわ。もう夜も遅いから、あなたたちは帰りなさい・・」
「だけど・・・!」
「ミナさんを心配する気持ちは分かるけど、今夜は私に任せて・・」
早苗に言いとがめられて、寧々は彼女の言うことを聞くことにした。
帰りの遅いミナを、ランは心配していた。ミナの携帯電話とも連絡が取れず、ランは不安を募らせていた。
「ミナ・・・やっぱり、警察に連絡したほうが・・・!」
不安と心配が頂点に達して、ランが警察に連絡しようとした。
そのとき、家の玄関のドアが開いた音がした。ランが玄関に向かうと、ミナの他、彼女を保護した早苗、途中で2人と会って一緒に来た佳苗がいた。
「ミナ、心配したんだからね!・・・あなたたちは・・・!?」
ミナへの心配を見せてから、ランが早苗と佳苗に声をかけた。彼女は2人に対して警戒を見せていた。
「夜分に失礼します。警視庁の尾原早苗です。」
早苗が頭を下げて、警察手帳をランに見せた。
「連絡する前に警察がこっちに・・・って、そういうこと考えている場合じゃない・・どうして警察がミナを・・・!?」
ランが余計なことを頭から離して、早苗に問いかける。
「私が保護したんです・・と言いたいところなのですが・・ランさん、あなたにもお話しておかないといけないようです・・」
話を切り出してきた早苗に、ランが眉をひそめる。
「お姉ちゃん・・早苗さんと佳苗さんの話を聞いてあげて・・・」
ミナにも言われて、ランは早苗の話を聞くことにした。
早苗とミナはランにこれまで起こったことを話した。ガルヴォルスの存在、ミナがガルヴォルスに襲われたことを寧々と紅葉に助けられたこと、ミナが体感してきたことを打ち明けた。
「怪物が・・ホントに・・・!?」
「私も最初は信じられなかったけど・・本当のことなの、お姉ちゃん・・・」
困惑を隠せなくなっているランに、ミナも深刻な表情を浮かべて言いかける。
「ガルヴォルスは人類の進化。普段は普通の人と変わらないように見えても、怪物の姿となって襲い掛かってくる・・」
「そのガルヴォルスに、ミナが襲われたというの・・・!?」
「えぇ・・寧々さんと紅葉さんが助けてくれていますが、ランさんのほうでも気を付けてほしいのです・・・」
早苗の話を聞いて、ランが困惑する。ミナを心配しようとして、ランは胸を締め付けられるような気分に駆られていた。
「私は罪を犯すガルヴォルスから市民を守るために行動している。同時に罪のないガルヴォルスの保護も行っている・・正直、ミナさんをガルヴォルスの犯罪と争いにこれ以上巻き込みたくないと思っているから・・」
「でも、ガルヴォルスって、元々は人間なんですよね・・・?」
呼びかけてくる早苗に、ランが疑問を投げかけてきた。
「・・ガルヴォルスというのを考えると、人間って何だろうって思ってしまうわね・・・」
ランが投げかけた言葉を受けて、ミナが当惑を覚える。早苗も佳苗もランが指摘したことを気にかけていた。
「分かりました・・私たちも気を付けることにします・・」
「私たちも力になりますから・・何かありましたら、こちらか警察のほうに・・」
聞き入れたランに早苗が呼びかける。ミナは安心して、ふと笑みをこぼしていた。
「ミナさんも何かあったら、遠慮や我慢をしないですぐに知らせて。私たちや寧々さんたちでなくても、ランさんにでも・・」
早苗はミナにも言いかけてから、家を後にした。
「じゃあね、ミナちゃん♪」
「お姉さん、行きますよ。」
ミナとランに笑顔を振りまく佳苗だが、早苗に注意されて慌てて家を出た。最後で緊張感がなくなった早苗と佳苗に、ミナもランも苦笑いを浮かべていた。
「ゴメン、お姉ちゃん・・お姉ちゃんまで巻き込みたくなかったから・・・」
ミナが表情を曇らせて、ランに謝ってきた。するとランが肩を落としてきた。
「まさかミナに気を遣わされるなんてね・・それだけミナも成長しているってことかな・・」
「お姉ちゃん・・・お姉ちゃんにそう言ってもらえると、すごく嬉しいよ・・・」
ランに褒められて、ミナが笑顔を取り戻した。
「さぁ、遅くなったけどご飯にしましょう。ミナ、おなかすいているでしょう。」
「うん・・私も手伝うよ・・」
呼びかけてくるランにミナが頷いた。
そのとき、ミナの脳裏にユウマの顔が浮かんできた。
(ユウマくん・・今度は、ちゃんと話をしに行くから・・・)
ユウマへの思いを胸に秘めて、ミナは夕食の支度に向かった。
警視庁に戻ってきた早苗と佳苗。ミナの心配をする一方で、早苗は小夜と白夜のことも考えていた。
(紅小夜と日向白夜・・指名手配が言い渡されている2人だけど・・被害者なのはむしろその2人に思えてならない・・・)
小夜と白夜の情報を整理していく早苗。
(ガルヴォルスの遺伝子を植え付けられた小夜と、彼女の復讐に対して、さらなる復讐の道に足を踏み入れた白夜・・クロスファングの企みが、2人の人生を狂わせた・・・)
情報に目を通していくうちに、早苗の脳裏に一抹の不安がよぎってくる。
(寧々さんと紅葉さんが裕福さを失っていなかったから忘れていたのかもしれない・・心あるガルヴォルスは、悲劇を体感してきていることに・・・)
思わず腰を下ろしていた椅子から立ち上がる早苗。
「早苗、何か思いついたの・・・!?」
彼女の様子に気付いて、佳苗が声を上げる。
「思いついた、というよりも直感でしかないけど・・・」
早苗が真剣な表情を浮かべて、佳苗に自分の考えを口にする。
「もしかしたら、ミナさんかランさん、どちらかが、あるいは2人ともガルヴォルスになるかもしれない・・抜け出せない悲劇を体感して・・・」
「ち・・ちょっと、早苗・・考え過ぎだって・・ミナちゃんもランちゃんもいい子でしっかりしてるし・・」
「いい子でしっかりしているから、何かあったときに過ちに踏み込みやすいのよ・・・」
早苗が気落ちしないように気遣う佳苗だが、早苗は深刻さを募らせるだけだった。
「悪いけど、ミナさんとランさんの素性を、ある程度調べておいたほうがいいかもね・・・」
早苗がミナとランについて調べることにした。2人自身だけでなく、彼女たちの身の回りの人たちについても細大漏らさずに。
ランにガルヴォルスについて話してから一夜が明けた。ミナもランも普段と変わらない朝を迎えていた。
「お姉ちゃん・・あの・・その・・・」
ミナがランに声をかけるが、どんな言葉をかけたらいいのか分からずに口ごもってしまう。
「おはよう、ミナ・・今日も元気いっぱいの1日を過ごすわよ・・」
「お姉ちゃん・・・うん・・・」
ランから笑顔で挨拶をかけられて、ミナが安心の笑みを浮かべて頷いた。ミナは高校へ、ランは大学に行くために家を出る。
「それじゃミナ、何かあったら必ず連絡してね・・どんなに小さなことでもいいから・・・」
「お姉ちゃん・・・ありがとう・・そうするね・・・」
呼びかけるランにミナが頷く。2人はそれぞれの学校に向かって歩き出していった。
(今日こそ・・今日こそ本藤くんに会わないと・・・)
登校する途中、ミナはユウマに話をすることを心に決めていた。
学校についたミナだが、教室にはユウマの姿はなかった。彼がいないことに、ミナは辛さを感じていた。
「おやぁ?本藤くん、いないね〜。」
そのとき、ミナが後ろから声をかけられて緊張を覚える。彼女をいじめていたクラスメイトたちが現れた。
「もうナイト様がいなくて、助けてもらえないねぇ・・」
「これからは手厳しくいっちゃうから、覚悟してもらうわよ〜・・」
クラスメイトたちに睨みつけられて、ミナは恐怖を覚える。逆らうことも従うことも怖くなり、彼女は逃げ出して教室から飛び出す。
「待て!」
「コイツ、調子に乗りやがって!」
クラスメイトたちが苛立ちを浮かべて、ミナを追いかける。
(お姉ちゃん・・お姉ちゃんに連絡しないと・・・!)
ミナが慌ててランへの連絡を取る。なぜ自分が従わずに逃げ出してたのか、彼女自身分かっていなかった。
「助けて、お姉ちゃん!助けて!」
ミナがランに向けて助けを求めた瞬間だった。彼女が後頭部に衝撃を与えられて、前のめりに転んで倒れる。
追い付いてきたクラスメイトたちが、校舎から出たミナに石を投げてきた。石はミナの後頭部に当たったのである。
頭をぶつけられて、ミナは意識が安定しなくなり、立ち上がるどころか動くこともできなくなってしまった。
「あたしらから逃げて、ただで済むと思ってんの!?」
「ナイト様が出てきてから、ずいぶんと調子に乗るようになったじゃないかよ!」
倒れて動けなくなっているミナに、クラスメイトたちが怒鳴ってくる。
「2度と逆らえないように徹底しておかないとね・・」
「仮に使い物にならなくなったって、パパがもみ消してくれるわよ・・」
クラスメイトたちがあざ笑いながら、ミナに近づいていく。ミナは意識を揺さぶられていて、考えることもままならなくなっていた。
「何をやっているの!?」
そこへやってきたのはランだった。ミナからの助けを受けた彼女は、全力で高校に走り込んできた。
「アンタたち、ミナから離れなさい!今すぐ!」
ランが怒鳴って、ミナからクラスメイトたちを引き離す。
「いきなりしゃしゃり出て!」
クラスメイトの1人がランに向けて手を伸ばしてきた。だが目つきを鋭くしているランに両手で突き飛ばされる。
「アンタたち・・ずっとミナにひどいことしてきたわけじゃないわよね・・・!?」
「それが何?いつまでも辛気臭くしてるから、楽しく遊んであげたのよ。」
「褒められても、文句を言われる筋合いはないってこと。」
鋭くにらみつけてくるランだが、クラスメイトは悪びれる素振りも見せていなかった。
「自分が悪いことをしているって自覚はないの!?」
「悪いことなんてありはしないのよ。あたしらのやることにはな。」
憤りを募らせるランに、クラスメイトたちが不敵な笑みを見せる。
「あたしらは親がみんな政治家といったお偉いさんなんだよ。鶴の一声でどうにでもしてくれるんだよ。」
「だからあたしらが何をしようと、誰も文句は言えないんだよ!」
クラスメイトが怒鳴って、1人がランにつかみかかる。だがランに胸倉をつかまれて、勢い任せに投げ飛ばす。
「文句なら言ってやる!私が言ってやる!そんなくだらない理由や理不尽で、ミナを傷つけていいなんてこと、私が認めない!」
「こ、この!」
クラスメイトたちが飛びかかって、ランに襲い掛かる。しかしランは怒りのままに反撃して、クラスメイトたちを次々に突き倒していく。
「ミナに近づかないで・・これ以上はこんなもんじゃ済まさないから・・・!」
倒れているクラスメイトたちに鋭く言ってから、ランがミナを抱え上げる。
「ミナ!目を覚まして、ミナ!」
「お・・ねえ・・ちゃん・・・」
ランが呼びかけると、ミナが弱々しく声を上げてきた。
「ミナ・・保健室!保健室に運ぶから、先生を呼んできて!」
ミナの様子に胸を締め付けられるような気持ちを感じながら、ランが窓から様子を見ていた生徒たちに呼びかけた。彼女はミナを連れて保健室に向かった。
保健室のベッドに横たわったミナを、ランはたまらない気持ちで見守っていた。2人のいる保健室に、保健の先生と一緒にミナの担任が入ってきた。
「ごめんなさい・・ミナさんにしていた行為が、ここまでひどかったなんて・・・」
担任が謝るが、ランの憤りは治まらない。
「どうして何もしてくれなかったんですか・・・まさか全然気づかなかったなんて、バカなことを言うんじゃないですよね・・・!?」
「そんな・・もしもこんなことが起こっていると分かっていたら、すぐに問題解決に向けて行動していましたよ・・・」
「体も心もボロボロにされていくミナにも、そんないいわけができるの!?」
保健の先生が言葉を返すが、ランは怒鳴るばかりだった。
そのとき、黒のスーツを着た男2人が保健室に入ってきた。2人はランの前で足を止めて声をかけてきた。
「天上ランだな?暴力現行犯でお前を逮捕する。」
「えっ!?」
男たちの言葉にランは耳を疑う。
「何を言っているの!?悪いのはミナをいじめていたクラスの人たちでしょ!?私はミナを守っただけよ!」
「ウソをつくな。お前がこの学校の生徒に暴行を加えたことは分かっているんだ。」
ランが説明をするが、男たちは聞き入れようとしない。
「話は向こうで聞く。大人しく来るんだ。」
「待って!ミナを放っておくわけにいかない!ミナ!」
男に腕をつかまれるランが、ミナに向けて手を伸ばす。だがミナに手を届かせることなく、ランは男たちに連れ出されてしまった。
ミナが目を覚ましたのは、ランが逮捕されてしばらくたってからだった。担任からランのことを聞いたミナは、血相を変えて学校を飛び出した。
1度家に帰ったミナだが、ランは帰ってきていなかった。他に頼れるものを求めて、ミナは再び外を走り出した。
ミナが訪ねたのは警視庁。彼女はその受付に飛びついた。
「あ、あの、尾原警部はいますか!?緊急の用事なんです!」
「はい・・尾原早苗警部でしょうか?佳苗警部でしょうか?・・2人とも出ていまして・・」
受付の婦警がミナに困った顔を見せて答える。
「少しお待ちになってください。すぐに連絡しますので・・」
「あれ?ミナちゃん?」
婦警が連絡を入れようとしたところで、佳苗が戻ってきて声をかけてきた。
「佳苗さん・・佳苗さん!」
ミナが涙ながらに佳苗に飛びついてきた。
「ミナちゃん!?・・どうしたの、いきなり・・!?」
「佳苗さん・・・お姉ちゃんが・・お姉ちゃんが、警察に・・・!」
驚きながら声をかける佳苗に、ミナが自分たちに起こったことを話そうとする。すると佳苗がミナを静かにさせる。
「外で話を聞かせて・・早苗にも知らせるから・・・」
小声で呼びかけてくる佳苗に、ミナが無言で頷く。2人は1度警視庁を出て、外を歩いていく。
「ここまで来れば大丈夫ね・・あそこで話をしたら聞かれる危険があったから・・・」
「佳苗さん・・・?」
佳苗の呟きに疑問符を浮かべるミナだが、ランを気にして再び感情をあらわにした。
「それより大変なんです・・お姉ちゃんが連れて行かれて・・・お姉ちゃん、私を助けてくれただけなのに・・犯罪者扱いされて・・・!」
「もしかしたら・・・詳しく話してくれる・・・?」
再び呼びかけてくるミナに、佳苗が真剣な表情を見せた。ミナは佳苗に今日の自分たちの身に起きたことを打ち明けた。
「やっぱり・・そのクラスメイトが強い権力を持った親がいるなら、手回しをしてランちゃんを・・・!」
「そんな・・そんなことが許されるなんて・・・!?」
佳苗の話を聞いて、ミナが愕然となる。
「残念だけど、時に権力云々でどうにでもできてしまうのが現状よ・・」
そこへ連絡を受けてやってきた早苗が、話に加わってきた。
「おそらくランさんを連れて行った警察は、あなたをいじめていた子の親が動かした可能性が高い。あなたをいじめてランさんの怒りを買った事実をもみ消して、あたかもランさんが一方的に暴力を振るったと偽装して・・」
「ムチャクチャですよ、そんなの!そんなことで、お姉ちゃんが・・!」
「あなたやみんなのその避難の声も聞こうともしない。自分たちだけの判断で決められてしまう。そんな理不尽な現実が、今もまだ残っているのよ・・」
声を荒げるミナに、早苗が深刻さを込めて話を続ける。
「下手に行動を起こしたら、権力に踊らされて、自分たちも悪に仕立て上げられてしまう・・私たちも例外ではないわ・・」
「イヤ・・このままお姉ちゃんと会えないままなんて・・・!」
「落ち着いて、ミナさん・・ランさんの救出は私に任せて・・・」
「早苗さん・・・?」
「私なら上の人たちにある程度顔が利くわ。うまくランさんを連れ出せるかもしれない・・ううん、必ず連れ出してみせるわ・・」
困惑を募らせるミナに、早苗が決意を示す。
「だからあなたは姉さんと一緒にいて。何かあったら連絡するから・・」
「寧々ちゃんと紅葉ちゃんにも知らせておくわね。だからミナちゃん、今はこらえて・・!」
早苗に続いて佳苗もミナに呼びかけてきた。ミナは涙を流しながら、何とか2人の言うことを聞き入れた。
「ありがとう、ミナさん・・お姉さん、ミナさんを頼むわよ・・・!」
「姉として妹に危険なことはさせたくないんだけど・・ここはあなたに頼ることにするわ・・でもちょっとでも危険と思ったらすぐに逃げてきて・・いいわね・・・!」
「えぇ・・姉から妹への忠告、ありがたく受け取っておくわ・・」
佳苗の気持ちを受け取って微笑むと、早苗はランを探しに走り出していった。
「ミナちゃん・・とりあえず私たちのいるマンションに行こう・・寧々ちゃんと紅葉ちゃんも呼ぶから・・」
「佳苗さん・・・うん・・・」
佳苗に声をかけられて、ミナが小さく頷いた。2人も1度この場から離れていった。
(お姉ちゃん・・無事でいて・・・お願い・・・)
ランへの無事を心から願うミナ。今も彼女はランを助けたい一心を抱えていた。