ガルヴォルスLord 第22話「血塗られた決闘」

 

 

「悪いけど、あなたのおもちゃになるつもりはないわ・・ライも、私も!」

 いきり立ったカナメの頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼女はスワンガルヴォルスに変身し、背中から白い翼を広げる。

「そういえばあなたも、ガルヴォルスの1人だったわね。」

 カナメのガルヴォルスとしての姿を見つめて、マーブルが淡々と言葉をかける。

「私はあなたに、大切なものを奪われるわけにはいかない・・私自身も!」

「そう。でもそんなあなたをものにしたとき、その喜びも増してくるのよね。」

 言い放つカナメに対し、マーブルは妖しく微笑んで喜びを浮かべる。この期待をこらえきれず、彼女は自分の手の指を小さく舐める。

「さて、そろそろ始めましょうか。すぐにオブジェになってもいいんだけど・・」

 マーブルは言いかけると、突如指を鳴らした。その瞬間、カナメは戦慄を覚えてとっさに飛び退く。

 直後、上空から一条の稲妻が飛び込んできた。稲妻は床に衝突して弾けた。

「これは・・・あなた、これは・・・!?

「ウフフ。うまくかわしたご褒美に特別に教えてあげるわ。これが私のお気に入りの力、“石化の雷”よ。」

「石化の雷・・!?

 マーブルが口にした言葉にカナメが驚愕を覚える。

「文字通り、この雷を受けた子は快感の中でオブジェに変わる。身につけているものを一気に崩壊させて丸裸にしてね。」

「これでルナちゃんも石にされたというのね・・・」

 マーブルが打ち明けた能力にカナメが毒づく。

「それじゃ、どんどん行くとするわね。安心しなさい。今の反応を見て悟ったわ。あなたは一筋縄ではいかないってね。」

 眼を見開いたマーブルがカナメに向けて右手を掲げる。カナメはとっさに身構え、マーブルの手のひらから放たれた衝撃波を踏みとどまる。

(レナ以上の威力の衝撃波・・マーブル・・こんなに強い力を備えてるなんて・・・!)

 マーブルの力に毒づき、カナメが息を荒げる。一気に追い込まれた彼女を見つめて、マーブルが微笑みかける。

「たまには血で血を洗う争いをしてみるのも悪くないかも。」

 マーブルが眼を見開くと、カナメに向かって飛びかかっていった。

 

 突如行く手を阻んできたガルヴォルスたちと交戦するレナ。レナは一気にガルヴォルスたちを葬り去り、追い込んでいた。

 残る1体のガルヴォルスが壁にもたれかかる。その眼前にレナが立ちはだかり、不敵な笑みを浮かべる。

「ルナはどこにいるの?素直に教えてくれたら、これ以上は何もしないであげる。」

 ルナが問いかけるが、ガルヴォルスは唸り声を上げるばかりで答えない。

「あなたのようなのに聞いた私のほうがバカだったわね・・・」

 レナは低い声音で言いかけると、花びらの刃をガルヴォルスの喉元に突き刺した。鮮血をまき散らした怪物が事切れ、崩壊を引き起こして崩れ去る。

「別にあなたたちに聞かなくても、カナメと戦ってるマーブルの力が、こっちにもひしひしと伝わってきてるのよね・・・待ってなさい、ルナ。必ず助け出すから・・・!」

 眼つきを細めたレナが、ルナの救出のために廊下を駆け出していった。

 

 ウルフガルヴォルスとなり、カイリとの交戦を繰り広げるライ。カイリの脅威的な力に毒づきながらも、ライは負けじと押し進めていく。

「悪いが、ここでもたついてる場合じゃないんだ!一気にケリをつけてやる!」

 言い放ったライが、カイリに向かって拳を繰り出す。カイリは身を翻してその一撃をかわし、ライに向けて剣を振りかざす。

 ライはとっさに拳を突き出し、カイリの剣の刀身を跳ね返す。その反動でライとカイリが距離を置き、互いを見据える。

「君にすぐに勝利を明け渡すつもりはないよ。僕の力はまだまだこんなものではないよ。」

 カイリは低く告げると、剣を振りかざしてライを鋭く見据える。身構えてくるカイリに対し、ライは迎撃を図ろうとする。

 その直後、ライの視界からカイリの姿が消えた。突然いなくなったカイリに、ライは眼を見開く。

 その直後、ライはただならぬ気配を感じ取り、とっさに動く。今までいた場所に、一条の刃が飛び込んできていた。

 ライは後退しながら距離を置き、床から剣を引き抜くカイリを見据える。

「今の攻撃をかわすとは、君も相当のガルヴォルスということだね。」

「とんでもない底力だ・・もしもあのまま気付かなかったら、今頃真っ二つにされていてもおかしくなかった・・!」

 淡々と言いかけるカイリの力に、ライが毒づく。カイリの速さは今までと比べて格段に上がっていた。

「君は早期決着を図っているように見せかけて、実はまだ実力を出し切っていない。姉さんを追い込んだあの姿。あれこそが君の本当の力だということを、知らない僕だと思ったかい?」

 カイリが指摘してきた言葉にライは再び毒づく。

 雷獣態に変身すれば、カイリのこの速さにも十分対応できるだろう。だが体力の消耗が著しい雷獣態にここでなれば、マーブルと戦う余力を失うことになる。

「どうした?早期決着を望むなら、真の姿になって見せたらどうだい?それとも僕なんか真の力を発揮するまでもないということかい?」

 悠然と言いかけるカイリの表情が徐々に曇ってくる。

「・・僕を甘く見ていると、後悔することになるよ・・・!」

 カイリは低く鋭く告げると、ライに向かって飛びかかる。とっさに回避行動を取ろうとするライだが、カイリの速さをかわしきれず、突進を受けてしまう。

 壁に叩きつけられてうめくライ。そこへカイリが追撃のため、剣を突き出そうとしていた。

 ライはとっさに眼下の床に拳を叩きつけて、粉塵を巻き起こす。視界をさえぎられながらも、カイリは剣を突き立てる。

 だが剣は損壊した壁に突き刺さった。拳を床に叩きつけた反動で飛び上がり、回避も行っていたのだ。

 着地したライと剣を引き抜いたカイリが互いに向けて振り返る。2人は互いに対する歯がゆさを胸に秘めていた。

「どうして・・どうしてお前は、オレたちを裏切り、マーブルに味方するんだよ・・・」

 ライが突然かけてきた言葉にカイリが眉をひそめる。

「オレと・・いや、カナメ、レナ、ルナと過ごしてきた時間は、みんなウソだったっていうのかよ・・・!?

 憤りを噛み締めて、ライがカイリに問い詰める。するとカイリが抱えていた歯がゆさをあらわにして言い放つ。

「では君は、どうして姉さんの敵であろうとするのかな?カナメちゃんも、レナちゃんも・・」

「どうして?・・アイツが、オレの姉さんを、ルナを奪ったからだろうが!」

 言い放つカイリの言葉に、ライが怒号を言い放つ。

「アイツが姉さんをおかしくしなければ、オレはいつまでも平穏だった。アイツがルナに手を出さなければ、レナが戦いに出て行くこともなかった!オレたちの幸せを奪おうとするアイツのすることを、お前は正しいと思ってるのか!?

「当然だよ。僕は姉さんを心から慕っている。君と同じようにね。」

 憤りを膨らませるライにカイリが淡々と答える。その言葉にライは眼を見開く。

「姉さんはいつも僕に優しくしてくれた・・どんな辛い気持ちになったときでも、僕を優しく抱きしめて励ましてくれた・・姉さんがいなかったら、僕は多分生きていなかったかもしれない・・・」

「カイリ、お前・・・!?

「僕にとって姉さんは全て・・」

 困惑の色を浮かべるライに言いかけるカイリの笑みに狂気が満ちあふれてくる。

「姉さんを大切にしているこの気持ち、分からない君じゃないだろ!」

 姉に対する一途な想いを振りまきながら、カイリがライに問い詰める。ライは歯がゆさを浮かべながら、振り絞るように声をかける。

「確かにオレは姉さんを大切に思ってる・・けど、オレの姉さんとアイツは一緒じゃないんだよ!」

 鋭く言い放つライに、カイリが戸惑いを見せる。

「オレが大切にしてる人に、そんなふざけた考えはない・・みんな癖があるけど、自分だけが満足になろうとするヤツらじゃない!自分以外の誰かのために、全力で戦ってるんだよ!」

 カナメやレナを想い、切実に語りかけるライ。

「オレはみんなを守る・・奪われたものも取り戻す・・お前が立ちはだかるなら、オレは全力でお前を倒す!」

 決意を言い放ったライの体から稲妻があふれ出しほとばしる。

「こうなったなら力をセーブしようなんて甘い考えをしてる場合じゃない・・全ての力を出し切ってお前を倒し、その力を維持してやる!」

 叫ぶライの姿が雷獣態へと変化する。神々しい稲光を身にまとうライが、当惑を浮かべているカイリを鋭く見据える。

 眼にも留まらぬ速さで飛び出したライが、カイリの懐に一気に入り込んでくる。拳を腹部に叩き込まれて、カイリが顔を歪めて吐血する。

(速い!)

 胸中で毒づいたカイリが、体勢を整えて壁への衝突を免れる。だがライが一気に詰め寄り、すかさず一蹴を繰り出す。

 カイリは頭を下げて蹴りをかわすが、ライから放たれる覇気に追い込まれ、反撃に踏み込めずに後退を余儀なくされた。

(僕がここまで追い込まれるなんて・・これがライくんの底力ということなのか・・・!?

 ライの脅威を痛感しながらも、何とか意を決して反撃に転じるカイリ。速さを備えた一閃を繰り出すが、強化したライに軽々とかわされる。

 ライがカイリに一蹴を見舞い、上空に跳ね上げる。天井に足をつけて踏みとどまるカイリだが、そこへライが飛び込んできた。

 天井を突き破って上の階に飛び出すカイリとライ。攻撃を受けすぎたカイリは、もはや立っているのがやっとだった。

「僕の力が全く通じない・・だが、せめて姉さんのために、わずかでも時間を・・・!」

 満身創痍の体に鞭を入れて、カイリが剣を持つ手に力を込める。ライも力の消耗で息が上がり、余裕がなくなっていた。

「僕は姉さんが満足するなら、どんなことにも手を染めてやる!」

 普段見せないような激昂をあらわにして、ライを迎え撃つカイリ。ライは拳を握り締めて、カイリに向かって飛びかかる。

(どんなに速くても、僕を狙ってくることに変わりはない・・攻撃してくる瞬間を狙って、剣を振り下ろすだけ!)

 思い立ったカイリに向けて、ライが拳を繰り出す。カイリはそこを狙って、全力で剣を振り下ろす。

 剣と拳がぶつかり、激しく火花が散る。白んでいく廊下の真ん中で、ライがカイリの剣を打ち破る。

 ライの繰り出した拳は勢いが衰えることなく、カイリの体に叩き込まれる。突き飛ばされたカイリが、廊下を激しく横転する。

 完膚なきまでに打ちのめされ、うつ伏せに倒れ込んでいたカイリ。力を使い果たしたライもその場でひざを付くと、姿が人間へと戻る。

「こんな・・・これが・・ライくんの力だというのか・・・」

 脱力して人間の姿に戻ったカイリが毒づく。彼の見つめる先で、ライがゆっくりと前に進んでいた。

「どこに行こうというんだい・・・そんな体じゃ、まともに戦えないよ・・・」

「分かりきったこと聞くなよ・・アイツのところだ・・多分、カナメも一緒だろ・・・」

 笑みを作って言いかけるカイリに、ライは弱々しく答える。

「ムダだよ・・姉さんは誰にも止められない・・ましてや今の君はボロボロだ・・勝ち目なんてあるはずもないよ・・・」

「そんなの関係ない・・アイツを倒さないと、オレは何も取り戻せないんだ・・・」

 カイリの言葉を一蹴して、ライはさらに進んでいく。マーブルを倒すために、姉、アリサを取り戻すために、カナメを守るために。

「実に滑稽だね・・わざわざ姉さんのものになりに行くなんて・・いや、恐れずに立ち向かうところは、ライくんらしいというべきかな・・・」

 ライの行動に苦笑を浮かべるカイリ。もはや力を使い果たしていた彼は、ライを見送ることしかできなかった。

 

 マーブルの脅威的な力に、カナメは完全に追い込まれていた。あらゆる攻撃を跳ね返され、床や壁に叩きつけられていた。

 うつ伏せに倒れたカナメの前にマーブルが立ち、妖しく微笑んで見下ろしてくる。

「あなたが上位のガルヴォルスであることは認めるわ。でも上には上がいるものよ。」

 悠然と語りかけるマーブル。カナメが体に力を入れて、何とか立ち上がる。

「もうムリしなくていいわ。あなたはよくやった。あなたを責める人なんていないわ。」

「たとえみんなが許してくれても、私自身が許してくれない・・こんなところで、私は立ち止まるわけには・・・」

 マーブルの言葉に反論するカナメ。だが体が言うことを聞かず、カナメは前のめりに倒れてしまう。

 そんな彼女を、マーブルが優しく受け止める。

「私に全てを委ねなさい。そうすればあなたは、辛いのも悲しいのも感じる必要はなくなるから。」

 マーブルに耳元で囁かれて、カナメは一気に緊迫を覚える。危機感を浮かべながら、カナメは後ずさりする。

「ウフフ。まだまだかわいらしいところがあるのね。私は好きよ、そういうのも。」

 追い込まれているカナメを見つめて、マーブルがさらに微笑む。カナメは呼吸を整えながら、打開の糸口を必死に探っていた。

(真正面からの攻撃も速さも、羽根の矢も通じない・・念力が強力で、全てを跳ね返されてしまう・・・!)

 カナメがマーブルの脅威をひしひしと感じていく。

(もう小細工は意味がない・・力の全てを集中して、体を貫く・・・!)

 思い立ったカナメが、右手を強く握り締めて力を込める。

(せめてこの一瞬だけでいい・・ライのあの凄まじい力を・・・!)

 ライへの想いを胸に秘めたカナメが、マーブルに向かって飛びかかる。全ての力を注ぎこんだ右の拳を、マーブルに向けて繰り出す。

 マーブルは右手をかざして念力を発して、カナメの攻撃を受け止めようとする。だがこれまで受け止めてきたカナメの攻撃を、念力は防ぎきれなかった。そしてそのままカナメの拳は、マーブルの体に叩き込まれる。

 全てを賭けたカナメの一撃。だがマーブルは後ろに押され、口から吐血をあふれさせただけだった。

「今の一撃、私の体と心に激しく突き刺さったわ・・これだけの力を発揮できるなんて・・・」

 殴られた胸をさすって、感嘆の声を上げるマーブル。力を使い果たしたカナメが人間の姿に戻る。

「そんな・・私の力じゃ、マーブルに勝てないっていうの・・・」

 愕然の声を上げるカナメが脱力して、腕をだらりと下げる。その様子の彼女を見つめて、マーブルが笑みを強める。

「もう十分よ。休みなさい。私の中で永遠にね・・」

 マーブルは言いかけると、軽く右手を掲げる。カナメを石化しようと意識を集中していた。

 そこへ、カイリを退けて満身創痍の体を引きずってきたライがやってきた。彼の登場に気付いて、カナメとマーブルが視線を向ける。

「カイリを倒したというの・・あなたが・・・!?

 カイリが倒されたと思って驚愕を浮かべるマーブル。

「カナメ!?・・・やめろ、マーブル!カナメに手を出すな!」

 ライが眼を見開いて呼びかけるが、マーブルは妖しく微笑んでいた。

「残念だけど、カナメちゃんはもうすぐ私のものになるの。そしてあなたも、すぐに私のものにしてあげるから。」

「やめろってんだよ!カナメに何かしてみろ!そのときはお前を・・!」

 いきり立ったライの頬に紋様が走る。だが力を使い果たしていたライは、ガルヴォルスに変身することができなくなっていた。

「あなたはカイリとの戦いで、かなり力を使ってしまっている。それでここまで来れただけでも、すばらしいと褒めてあげたいくらいよ。」

「ふざけるな!・・オレはこれ以上、お前なんかのために絶望したくないんだよ!」

「そこで見ていてもらえる?大丈夫よ。すぐにあなたもオブジェにしてあげるから。」

 声を荒げるライに向けて言いかけると、マーブルは指を鳴らした。するとカナメの上空に稲光が出現する。

(くそっ!こんなところで疲れてる場合じゃないんだ!助けるんだ、カナメを!)

 満身創痍の体に鞭を入れて、必死に前進しようとするライ。その強い意思が、彼を再びウルフガルヴォルス雷獣態へと変化させた。

 疲弊しきって動けないでいるカナメに向けて稲妻が落ちる。ライはカナメに向けて突き進み、手を伸ばす。

 そして、ライがカナメを抱きしめたときだった。

 マーブルが放った稲妻がライとカナメに直撃した。強烈な閃光と刺激が、2人の心身を駆け巡っていく。

「イヤアッ!」

「ガ、ガハアッ!」

 強烈な衝撃にさいなまれて、カナメとライが悲鳴を上げる。その衝撃でライが人間の姿に戻る。

(な、何、この感じ!?体をムチャクチャにされているような・・!?

 マーブルの力におかしな気分を覚えるカナメ。稲妻の衝撃によって、ライとカナメの衣服が引き裂かれていく。

 やがて稲光が消失し、ライとカナメが姿を見せる。2人の衣服はほとんど崩壊し、その場で力なく立ち尽くしていた。

 2人の異変はそれだけではなかった。2人の体から人の色が失われてきていた。

「ウフフフ。これは思わぬ収穫というべきかしらね。」

 2人の姿を見つめて、マーブルが妖しく微笑む。彼女の見つめる先で、カナメは自身の異変を感じていた。

(何なの、この感じ・・・体に、力が入らない・・・)

 体に押し寄せてくる不思議な感覚に困惑するカナメ。彼女の体は彼女の言うことをまるで受け付けなくなっていた。

 そのとき、カナメは突如奇妙な高揚感に襲われる。マーブルの力で彼女の体が徐々に石へと変質し始めたのだ。

(何、この感じは!?・・体も心もヘンになりそう・・・!)

 押し寄せてくる快感と刺激に苦悶の表情を浮かべるカナメ。

(どういうことなの!?・・まるで、体中を触られてムチャクチャにされているみたいな・・・!)

 激しい刺激にさいなまれ、カナメは冷静さを保てなくなる。

 これがマーブルの石化に伴う効力だった。その体質を人のものから石へと変えていく。その変化により、人としてのあたたかさと石の冷たさが入り混じり、その人に強烈な快感をもたらすのである。

(ダメ・・このままでは出てしまう・・でも、我慢ができない・・・!)

 その快楽に耐えられなくなり、カナメの秘所から愛液があふれる。彼女の抑制をまるで受け付けず、愛液は彼女の意思に反してどんどんあふれていき、素足を伝って床にあふれていく。

(これが石化・・ライが言っていた、体も心もおかしくさせる石化・・・)

 胸中で呟きかけるカナメの思考が大きく揺さぶられる。

(ダメ・・このままでは飲み込まれる・・この気分に耐え切れない・・・)

 カナメが石化の快楽にさいなまれ、意識を失いそうになった。そのとき、ライがカナメを抱きしめ、その抱擁にカナメは自我を取り戻す。

「ライ・・・!?

 突然のことに戸惑うカナメ。彼女と同様に石化の快楽にさいなまれながらも、ライは彼女の呼びかける。

「カナメ、すまない・・お前を、守ることができなくて・・・」

「いいよ・・でもライ、どうして私を?・・私のために、あなたまで・・・」

「・・・耐えられなかったんだ・・お前が、アイツに奪われちまうことが・・・」

 振り絞るようにかけたライの言葉に、カナメは戸惑いを覚える。

「お前がどうかなっちまったら、オレもホントにどうかなっちまうんじゃないかって思って・・いても立ってもいられなかったんだ・・・」

「ライ・・・バカ・・私のために、自分までマーブルに・・・」

「失いたくなかったんだ、お前を・・・たとえ何を言われても、オレはお前が・・・」

「ライ・・・ありがとう・・・」

 ライの切実な想いを受け止めて、カナメは微笑んだ。そして2人は顔を近づけ、互いの唇を重ねた。

 石化によるものとは違う快楽が、カナメとライの中を駆け巡っていく。2人は互いの抱擁と口付けにかつてない安らぎを感じていた。

 そんな中、ライとカナメは自分たちが白んだ世界の中にいるような感覚を感じていた。互いを見つめている2人の顔にやわらかな微笑みが浮かび上がっていた。

 2人は改めて、このひと時の中で安らぎを感じていた。その心地よさに抱かれるように、2人はこの抱擁に身を委ねた。

 

 ライとカナメが抱き合っている間に、マーブルの力によって、2人の体は石化していっていた。もはや互いを抱き合っていること以外、2人は何も感じなくなっていた。

 崩壊した衣服は石の殻となって2人の素肌から剥がれ落ちる。完全に力を失った2人。カナメを支えているライの右手がだらりと下がる。

 そしてライとカナメは抱き合い唇を重ねたまま、微動だにしなくなる。2人の体が固まっていき、やがて2人の瞳から生の輝きが消える。

 マーブルの力にかかり、ライとカナメは一糸まとわぬ全裸の石像と化した。

「ウフフフ・・やった・・ついにやったわ・・・」

 込み上げてくる歓喜をこらえきれず、マーブルが笑みをこぼす。

「アハハハ・・やっと!やっとこの2人を私のものにしたわ!」

 その喜びをあらわにして、マーブルはライとカナメに駆け寄る。

「その体の中に秘められた輝きが、私の手の中にある・・・」

 マーブルはライとカナメの石の頬に手を当てて、2人を自分のものにしていることを実感する。そして彼女は視線を下に向け、床にあふれていた愛液に手を伸ばす。

 その愛液を指ですくい取り、口に運んで舐め取る。

「おいしい・・今まで感じた中で最高の喜びだわ・・・」

 かつてないほどの恍惚を堪能して、マーブルが吐息をもらす。そして彼女はライとカナメの石の体を優しく抱きしめる。

「もう絶対に放さない・・あなたたちももう、辛い思いをすることもない・・私が永遠の幸せを与え続けていくから・・・」

 マーブルは歓喜の笑みを崩さずに、ライとカナメに寄り添っていった。

 マーブルの毒牙にかかり、ライとカナメは一糸まとわぬ石像と化してしまった。

 

 

次回

第23話「支配の石化」

 

「もう、オレたちはアイツの手の中なんだよな・・・」

「あなたたちは私に抱かれて、永遠の快楽を楽しむのよ。」

「あ・・ああぁぁ・・・!」

「あなたたちは私の思うがまま・・」

「この時間まで、あなたたちはずっと、私のシナリオ通りに動いてたのよ・・・」

 

 

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