ガルヴォルスLord 第17話「共鳴する雷鳴」

 

 

 ほとばしる稲妻。神々しい輝き。

 脅威的な力を発揮する「雷獣態」へと変貌を遂げたライ。その姿にカナメ、カオリ、カナエが驚愕の色を隠せないでいた。

「な、何よ、あの姿は・・・!?

「わ、私の触手を、簡単に切り裂くなんて・・・!?

 カオリとカナエが声を荒げる。新たなる姿となっているライを見つめて、カナメが微笑みかける。

「ライ・・ゴメン・・・ありがとう・・・」

 弱々しくライに言いかけるカナメ。血の海から離れて足場に降り立つと、ライはカナメを下ろしてカオリとカナエを見据える。

「お前たち・・このまま終わらせると思うなよ!」

 ライは言い放つと、カオリに向かって飛びかかる。その速さは眼にも留まらぬ速さで、速さに自信のあるカオリでも反応できないほどだった。

 ライが繰り出した拳が、カオリの腹部に叩き込まれる。強烈な一撃による激痛で吐血し、カオリがうめく。

「お姉ちゃん!」

「うぐ・・私が反応できない・・・こんな速さ、あの人にはなかったはず・・・!」

 叫ぶカナエの前でカオリがうめく。そこへライが間髪置かずに飛びかかり、カオリに向けて一蹴を放つ。

 何とか飛翔と後退をして攻撃のダメージを軽減しようと考えたカオリだが、ライの攻撃はそれをさせる隙さえ与えなかった。

 いきり立ったカナエが、ライに向けて触手を伸ばす。だがライが振りかざした爪の一閃が、その触手を切り裂く。

 ライは今度はカナエに向かって飛びかかる。繰り出した右足が彼女に叩き込まれ、さらに左足の回し蹴りが繰り出される。

「カナエ!・・このっ!よくもカナエを!」

 憤ったカオリがライに向けてかまいたちを放つ。ライは全身に力を込めて電撃を発し、かまいたちを弾き飛ばす。

「な、何っ!?

 さらに驚愕するカオリに向かって、ライが素早く飛びかかる。彼が繰り出した一蹴で、彼女が跳ね上げられる。

 次々と繰り出される足の攻撃。その連続攻撃を、カオリは見切ることもできないでいた。

(こんなことって・・私が全然動きがつかめないなんて・・それに飛行能力があるわけでもないのにこの滞空時間・・こんなことって・・!)

 愕然さを膨らませるカオリが蹴り飛ばされ、地面に落下する。飛行しても安全ではなくなり、彼女は完全に追い込まれていた。

 疲れ果てた体に鞭を入れてカオリは立ち上がる。だがもはや戦うどころか、立っているのもままならなくなっていた。

「お姉ちゃん!」

 カナエがカオリに向けて悲痛の叫びを上げる。着地したライがカオリを見据えて、右手を握り締めて力を込める。

 その拳に稲光が宿る。この一撃を受ければ、間違いなく命はない。カオリはそう痛感していた。

「これで終わりにしてやる・・もうこれ以上、オレの大事なものを奪わせはしないぞ!」

 ライは言い放ってカオリに向かって飛びかかる。カオリにはこの攻撃を回避する力は残っていない。

 電撃を帯びたライの拳が繰り出される。だがその拳が叩き込まれたのはカオリではなかった。

「えっ・・・!?

 カオリは見つめる先の瞬間に眼を疑った。彼女の前にカナエが立っており、体を電撃を帯びた拳が貫いていた。

「カナエ・・・!?

「おねえ、ちゃん・・よかった・・無事、だったんだね・・・」

 驚愕するカオリに、カナエが微笑みかける。だがカナエの声は弱々しく、体からおびただしい血があふれ出してきていた。

「私も、お姉ちゃんをしっかり守れることが再確認できたから、とっても嬉しいよ・・・」

 カオリに向けて言いかけた瞬間、カナエの体が崩壊を引き起こした。ライの腕から彼女の体が崩れ去った。

「カナエ・・・カナエ!」

 妹の死にカオリが悲痛の叫びを上げる。人間の姿に戻った彼女が、カナエの亡骸に駆け寄る。

「カナエ!・・イヤ・・イヤよ・・カナエが、カナエが私の前からいなくなるなんて・・・!」

 砂になったその亡骸を握り締めて、カオリが涙を流す。ライが彼女をじっと見つめているところへ、カナメが歩み寄ってきた。

「カオリ・・・」

 カナメが沈痛の面持ちを浮かべながら、カオリに手を伸ばす。だがカオリはその手を振り払う。

「触らないで・・・裏切り者のあなたに、カナエを哀れむ資格はないわよ・・・!」

 カオリが低い声音でカナメに言い放つ。膨らんでいく彼女の憎悪が、ライに向けられる。

「お前が・・お前が・・・!」

 カオリの頬に紋様が走り、同時に怒りを爆発させるあまり、噛み切られた彼女の下唇から血がもれる。

「よくも・・よくもカナエを!」

 怒りの叫びを上げるカオリの姿がバットガルヴォルスへと変化する。彼女の体から強烈な風が巻き起こる。

「霧雨ライ、お前だけは絶対許さない!この手で必ず・・必ずお前を!」

 カオリは言い放つと、さらに風を巻き起こして飛び上がる、天井をぶち抜いて、彼女はその穴から外に飛び出していった。

「カオリ!」

 カナメが叫ぶがカオリは引き返してこなかった。歯がゆさを募らせるライが人間の姿に戻る。

 これまで自分が敵視してきたガルヴォルスを倒したにもかかわらず、喜ぶことができない。ライはこれまで感じたことのないわだかまりを感じていた。

「ライ・・ライ・・・!」

 そこへカナメに呼びかけられて、ライは我に返る。

「カナメ・・・」

「ライ、大丈夫?・・体は、何ともないの・・・?」

「あ、あぁ・・オレは、何ともない・・・」

 カナメの声にライは答える。だが困惑の色を隠せず、それを察知したカナメもまた困惑していた。

 

 ライの攻撃から辛くも逃れることができたカオリ。だが彼女は最愛の妹であるカナエを失い、深い悲しみにさいなまれていた。

「カナエが・・カナエが私を守るために・・・!」

 これ以上にない悲しみと絶望が、カオリの中に渦巻いていた。

「ゴメンね、カナエ・・私が、私が弱かったせいで、あなたを・・・!」

 押し寄せる自分の無力さ。それは徐々に、妹を手にかけた者への激しい憎悪へと変わっていった。

「霧雨ライ・・お前は私が殺す・・ただ殺すだけじゃ治まらない・・じっくりじっくり切り裂いて、存分に苦しめてから殺してやる・・・!」

 ライへの憎悪に駆り立てられたカオリの姿がバットガルヴォルスへと変貌する。憎悪の赴くまま、彼女は自身の力を暴走させた。

 

 洞窟から脱出したライとカナメは、近くの歩道に出た。街のあるほうへ歩いていくと、2人の前にルナが駆け込んできた。

「ルナちゃん・・・ルナちゃん!」

「あっ!カナメさん!ライさん!」

 カナメの呼びかけに気付いて、ルナも笑顔で声を返す。息を絶え絶えにしながら、彼女はライとカナメに駆け寄る。

「ライさん、カナメさん・・・よかった・・崖から落ちて、2人ともどうなったのか分からなくなっちゃったから・・・!」

「ルナちゃん・・・ゴメンね、いろいろ心配かけて・・・」

 涙を浮かべながらすがり付いてくるルナの頭を、カナメは優しく撫でる。

「大丈夫。私もライとも何ともなくなったから・・・本当に、大丈夫だから・・・」

「私もお姉ちゃんも信じてましたよ・・ライさんとカナメさん、必ず分かち合えるって・・・だって、今までずっと一緒に過ごしてきたんですから・・・」

 微笑みかけるカナメに、ルナが涙ながらに自分の心境を語る。自分たちを受け入れてくれていることに、ライも心の中で喜びを感じていた。

「ところで、レナはどうした?」

「お姉ちゃんは別のところを探しています。今、連絡を入れますね。」

 ライの問いかけにルナは答えて、自分の携帯電話を取り出した。

 

 街に戻ってきたライ、カナメ、ルナの前に、連絡を受けたレナが駆け込んできた。ルナのときと同様、レナも息を荒くしていた。

「レナ・・・」

「ハァ・・ハァ・・もうっ!今の今までどこにいたって言うのよ、カナメ!無事だっていうなら、連絡ぐらいしなさいよ!・・これだからあなたはダメなんだから。こんなときまで私やルナに心配させるんだから・・・」

 戸惑いを見せるカナメに、レナが呆れた素振りを見せて愚痴を言い放つ。

「ごめんなさい、レナ・・・私・・私は・・・」

「はいはい。言い訳はストップ。あなたに言い訳されると、かえって気分が悪くなるのよね。」

 謝るカナメの口元に指を当てて、レナはなおも憮然とした態度を見せる。

「もう、お姉ちゃん、あんまり言ったらカナメさんがかわいそうだよ・・」

 そこへルナが言いかけると、レナはため息をついてから、

「いいわ。ここまでにする。あんまりやっちゃうとルナにも、ライにも迷惑だからね・・」

 レナの言葉にルナが安心し、ライも安堵の吐息をついていた。

「ライ、私、ようやく気付いたかもしれない・・・自分自身の心に・・・」

「カナメ・・・」

「私が憎んでいたのは、“人間”じゃなかった・・・人間の心を持たない人だった・・そこには、人間もガルヴォルスも関係なかったのよ・・・」

 カナメの語る心境にライも、レナもルナも戸惑いを感じていた。

「もっと早く気付けばよかったかもしれない・・みんなのことを、信じてもよかったのかもしれない・・・」

「カナメ・・・お前・・・」

「ライ、私は勇気を持って立ち向かうよ・・自分に降りかかる不幸も、不条理も、跳ね除けてみせる・・・」

 カナメはそういうと、戸惑いを見せているライに寄り添う。その様子を目の当たりにしたレナが、手で自分をあおぐ。

「おやおや。2人ともそんなに熱くなっちゃったのかしらねぇ。」

「べ、別に、私たちはそういうのではないんだって・・」

 レナの言葉にカナメが弁解を入れるが、ひどく動揺しているのが見え見えだった。

 

 ライたちが帰ってくるのを願いながら、カイリは店で待っていた。

(きっとみんな無事に帰ってくる・・ライくんもカナメちゃんも、必ず仲直りするはず・・)

 無事帰還と和解を祈って、カイリは店の仕事に精を出すことにして、店内にいるウェイトレスたちに呼びかけた。

 そんな店に訪れた1人の少女。疲れ果てていたこの少女に、カイリは深刻さを感じ取った。

「どうしたんですか?こんなに傷だらけになって・・・」

 カイリがその少女に向けて声をかける。少女は冷淡な面持ちを浮かべて口を開く。

「霧雨ライの居場所・・今の私を不愉快にさせる・・・」

 低い声音で言いかける少女、カオリの頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「こんな場所、私が叩き潰してやるわ!」

 憤怒したカオリの姿がバットガルヴォルスに変わる。その異形の姿に、カイリや店内にいたウェイトレスや客たちが恐怖を浮かべる。

「バ、バケモノ!?

「だ、誰か早く警察に連絡を!」

 客たちが悲鳴混じりに声を上げる。カオリが右手を振り上げて、力を振り絞る。

 その右手を振りかざすと、強烈なかまいたちが放たれる。乱れ飛ぶ刃の群れを受けて、店内のウェイトレスや客たちを切り刻んでいく。

「キャアッ!」

「みなさん、物陰に隠れて!」

 悲鳴が上がる中、カイリが呼びかけながら、近くにいたウェイトレスを抱えて厨房に隠れる。食堂は一瞬に惨状の場と化した。

「クフフフ・・気分がいい。気分がいいよ・・こんな目障りなところ、思いっきり切り刻めるから!」

 その血みどろの食堂を目の当たりにして、カオリが哄笑を上げる。だが彼女は突然笑いを止めて、背後に気を向ける。

「まさかこんなに早く戻ってくるとは思ってなかったわ・・カナメ・・・」

 カオリは言いかけてから、背後に現れたライ、カナメ、レナ、ルナに振り返る。血だらけの店内を目の当たりにして、ライたちは驚愕する。

「カオリ・・あなたが、こんなことを・・・!?

 カナメが声を振り絞ると、カオリは笑みを浮かべて答える。

「そうよ。あなたたちのよりどころは、全部私が叩き潰してあげるわ。」

「どうして・・あなたは人間を見限っているけど、そこまで憎しみを見せ付ける人じゃなかったじゃない!」

「どうして?・・あなたたちの、霧雨ライのせいじゃない!お前がカナエを殺した!だから、お前の大切なものを、私が徹底的に潰してやるのよ!」

 悲痛の声を上げるカナメに、カオリが憤怒をあらわにして言い放つ。その言葉に、ライは強烈な不安に襲われる。

「オレのせいだっていうのかよ・・オレが、お前の妹をやったからだっていうのかよ・・・ふざけたことぬかすな!お前の妹はお前を庇って・・!」

「言い訳も何もかも聞きたくないわよ!カナエを殺した人の言うことなど、聞くつもりはないわ!」

 憤りを浮かべて反論するライだが、カオリはさらに怒りを膨らませてその言葉を一蹴する。

「次はカナメの家でも潰してみようかしらね。裏切り者のカナメにも、十分に苦しんでもらわないとね・・・!」

 カオリは言い放つと、ライたちの横をすり抜けて店を出て行く。地獄のような光景を見せる食堂を前にして、ライは罪悪感を感じていた。

「これが、オレの犯した罪だというのか・・あの女の心を、オレがぶち壊したから、みんなが傷ついて、死んで・・・!」

 ライは自分を責めていた。自分の行為がこのような悲惨な結果を招いたことに、彼は我慢がならなかった。

 彼はガルヴォルスへの復讐と全ての奪還のためにこれまで生きてきた。だが、悲劇を消すための戦いが逆に悲劇を生み出してしまい、彼は後悔の念を覚えていた。

「このままじゃ、カナメや私たちの家が危ない!」

「急がないと!カオリをこれ以上暴走させられない・・!」

 レナとカナメが言いかけて、カオリを追いかけようとする。

「待ってくれ・・・!」

 そのとき、ライが低い声音でカナメとレナを呼び止める。彼女たちはきょとんとなって彼に振り向く。

「ライ・・・」

「悪いが、ここはオレだけにやらせてくれ・・・!」

 ライの呼びかけにカナメたちが深刻な面持ちを見せる。

「ダメよ、ライ!あなただけで敵うかどうか・・それにあなた、あの新しい姿になったときに、体力を激しく消耗してるじゃない!」

 カナメがライの単独行動を止めようとする。ライが新たに変身した「雷獣態」は、驚異的な力を発揮できる代わりに、体力の消耗が激しく、長期の持続は困難なのである。

「ここは私にやらせて!カオリのことはよく知ってるし、彼女にこれ以上、あのようなことを・・!」

「あのようなことをさせたのは、結果的にオレだ。オレがアイツの妹を殺したことで、アイツにさらなる暴走を引き起こさせた・・だから、これはオレがけじめをつけることなんだ・・・!」

 カナメを言いとがめて、ライは自身の責任を口にする。彼の決心を目の当たりにして、カナメは沈痛さをあらわにする。

「分かったわ・・でも、私はあなたについていくから。あなたがどうしても危なくなったら、あなたの気持ちに関係なく飛び出すから・・・!」

「カナメ・・・すまない・・・」

 決意を告げて真剣な眼差しを向けるカナメに、ライは低く告げる。彼は彼女の横をすり抜けて、カオリを止めるべく歩き出した。

 

 空に舞い上がったカオリは、カナメの家の前にたどり着いた。憎悪に駆り立てられた彼女が、眼を見開いて不気味な笑みを浮かべる。

「次はここをムチャクチャにしてやるわ。見ていて、カナエ。私があなたの恨みを晴らしてあげるから・・!」

 カオリがかまいたちを放とうと、右腕を大きく振り上げる。

 そのとき、カオリは背後から迫ってくる気配を感じ取り、攻撃の手を止める。彼女が振り返った先には、ウルフガルヴォルスとなったライが飛び込んできていた。

 反応が一瞬遅れたカオリは、ライに突進されて地上に落下する。横転したところでライはカオリから離れ、彼女に眼を向ける。

「ついてこい!オレが徹底的に相手してやるよ!」

「やり逃げとはずい分かっこ悪いやり口じゃないのよ!」

 呼びかけるライと、あざ笑うカオリ。この場から離れるライを追って、カオリはいきり立って飛翔する。

 2人は人気のない草原にたどり着く。ライは足止めて振り返り、カオリを迎え撃つ。

 ライが繰り出した拳を、カオリは身を翻してかわす。

「その程度の速さで、私が負けるはずがないわよ!」

 あざ笑うカオリがライに向けて右手を振りかざす。爪による一閃が彼の頬をかすめる。

 ライはすかさず一蹴を繰り出し、カオリを突き飛ばす。一瞬顔を歪めるも、カオリは余裕を見せる。

「どうしたの!?あのとき私を追い込んだ姿になりなさいよ!私は全力のお前を徹底的に叩き潰したいのよ!」

 カオリが眼を見開いて呼びかけるが、ライは雷獣態への変身を行わない。

「それとも、その姿でも私に勝てるとでも思ってるの?私の自分甘く見られたものね。」

 さらに挑発を言い放つカオリだが、それでもライは変身しない。彼には雷獣態になって戦えるほど、体力が回復していなかった。

 それ以前に、ライはカオリに対して罪悪感を感じていた。今回降りかかった災厄は自分の行動が原因となっているのだと、彼は思っていた。

「こんな男に、カナエが殺されたっていうの!?・・許せない・・こんなの私は認めない!」

 怒りが頂点に達したカオリがかまいたちを放つ。よけようともしないライの体に、かまいたちが傷を付けていく。

 業を煮やしたカオリがライに向かって飛びかかる。迫ってくる彼女を見つめて、ライは思いを巡らせていた。

(これが、オレの犯した罪・・アイツは、オレの罪が現れたもの・・オレはこの罪を背負って、この心にけじめをつけるため、オレはこの勝負に打ち勝つ!)

 決意を秘めたライが拳を強く握り締める。カオリが一気に加速して、爪を振りかざした体勢のままライと衝突する。

 そんな2人を、遅れて駆けつけてきたカナメ、レナ、ルナが目撃する。なかなか動きを見せない2人に、カナメたちは息を呑む。

「ライ・・カオリ・・・」

 カナメが沈痛の面持ちでライとカナメを見据える。重苦しい静寂がしばらく続いたときだった。

 ライとカオリからおびただしい鮮血が吹き上がった。その瞬間にカナメとレナが眼を見開き、ルナが恐怖を覚える。

 その直後、カオリの体が崩壊を引き起こし、砂になって崩れていった。その亡骸を浴びるように受け止めていたライが、手の中にあるその亡骸をじっと見つめていた。

(これで、オレは本当によかったのだろうか・・これがまた、災厄を生み出すことになるんだろうか・・)

 自分がカオリに対して犯したことに対して、ライは苦悩していた。カオリへのこの行為が、彼女のためになるのか分からなくなっていた。

 そんな彼に、沈痛の面持ちを浮かべたカナメが歩み寄ってきた。

「カオリは多分、これで幸せになれたと思うわ・・」

 彼女がかけた言葉に、ライが眉をひそめる。

「カナエちゃんがいなくなって、カオリの心には大きな穴が開いた。カナエちゃんを失った悲しみに耐えられなくなって、カオリは周りに怒りをぶつけるしかなかった。結果的にカナエを殺してしまったライと、裏切り者の私に・・でもそれで、ライが気に病むことはないよ。むしろライは、カオリに幸せを与えたと思うよ・・」

「オレがアイツに、幸せを・・・!?

「怒りと憎しみに支配されて、それでもカナエちゃんのために何とかしようと思ってるカオリを救えるとしたら、カナエちゃんのところに送ってあげるしかない・・カナエちゃんと再会できて、カオリは幸せになれたと思うよ・・・」

 困惑を覚えるライに、カナメが励ましの言葉をかける。そしてライはおもむろに、カナメを優しく抱きしめた。

「アイツは、こんなオレを許してくれるだろうか・・アイツにとってオレは、幸せを運ぶ天使だったのだろうか・・・」

「分からない・・でもこれだけはいえる・・私は、そんなあなたを許す・・だから、こんな私を許してほしい・・・」

 涙ながらに言いかけるライとカナメ。彼女の言葉を受けて、ライは微笑んで、囁くように言いかけた。

「・・許す・・許すさ・・・」

 

 暗闇に包まれた一室。その中心で佇む1人の少女がいた。

 少女は一糸まとわぬ姿でその場に立ち尽くしていた。彼女の体は石のように固まってひび割れていた。にもかかわらず彼女は喜びの表情を浮かべていた。

「ウフフフ。あなたもずい分気持ちよくなってきたわね。」

 そこへ1人の女性が現れ、妖しい笑みをこぼしてきた。女性は少女の石の裸身を見つめて、さらに笑みをこぼす。

 少女の秘所から愛液があふれ出し、両足を伝って床に流れてきていた。その愛液を指ですくい取り、女性は口に運んで舐める。

「おいしい・・あなたの気持ちがいっぱいつまってて、私まで幸せになってきそうね。」

 女性が愛液の味を確かめて、感嘆の言葉を口にする。彼女の見つめる先で、少女の体は徐々に固まっていっていた。

 それでも少女は笑みと喜びを消さない。まるで石に変わっていく自分を快く思っているかのようだった。

「そうよ。そのまま永遠の喜びに浸るのが、1番の幸せなのよ。あなたにとっても、私にとっても。」

 女性が笑顔を見せると、少女の体が完全に石化に侵食された。彼女は一糸まとわぬ姿の石像となり、微動だにせずにその場に立ち尽くしていた。

「また1人、私のコレクションが増えたわね。やっぱり、美しい女性をこの手にするのは気分がいいわね。」

 女性が妖しく微笑んで、石化した少女の頬に手を添える。少女の表情と頬の丸みを確かめて、女性は喜びを募らせていく。

「この形、この表情、この感情。私の中の欲望の渇きを潤してくれる・・・」

 少女の腕、胸、下腹部、足へと手を滑らせていって、女性はその感触を存分に堪能する。

「でも、私の心を本当に満たしてくれるのは、やっぱりあの子になっちゃうのかしらね・・」

 女性は思考を巡らせて、おもむろに天井を仰ぎ見る。

「怒りと憎しみという絶望にさいなまれながら、それでも希望の光に執着する。それが私の欲望を大きくかき立ててくれる・・・」

 次の標的への期待に胸を躍らせて、女性が哄笑をもらす。彼女は自身の欲望を満たすため、行動を開始しようとしていた。

「そろそろ頃合ね。待っていなさい。すぐに私のものにしてあげるから・・霧雨ライ、白雪カナメ・・・」

 

 

次回

第18話「海辺の休日」

 

「海に行く!?

「たまにはこういうのも悪くないと思うわよ。」

「美女ばかり・・より取り見取りだなぁ・・」

「アイツは・・・!?

「私の力で、みんなを守ることができるのなら・・・」

 

 

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