ガルヴォルスLord 第15話「HOWLING」
様々な感情と交錯を繰り返してきたライとカナメ。2人はその感情を最大限に高めて、ついに対峙しようとしていた。
「カナメ、オレはお前の正体を知る前からも、ガルヴォルスに肩入れしてるお前に我慢がならなかった。それはお前がガルヴォルスだったから・・お前たちガルヴォルスを野放しにしたら、みんなが傷つくことになる。だからお前を倒して、オレはみんなの幸せを守る・・・!」
「ライ、私はあなたと分かり合えると思っていた。自分と同じ感じがしていたから・・でもそれは違った・・私はあなたを倒さなければならない。あなたを倒さなければ、私たちに未来はない・・・!」
ライとカナメが互いに対しての憤りを口にする。
「カナメ、オレはお前を・・」
「ライ、私はあなたを・・」
その怒りを膨らませるライとカナメの頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「絶対許さない!」
体の奥から叫び出す2人がガルヴォルスに変身する。ウルフガルヴォルスのライと、スワンガルヴォルスのカナメ。2人の宿命が今、真っ向からぶつかろうとしていた。
カナメを止めることができなかったルナは、それでもカナメを連れ戻したいと街を歩き回っていた。そこで彼女は、同じくライを止められなかったレナと会う。
「お姉ちゃん!」
「ルナ!?・・あなた、ここで何をやってるのよ・・・!?」
呼びかけてくるルナに、レナが驚きを覚える。
「カナメさんが心配になって・・お姉ちゃん、ライさんはどうしたの・・・!?」
「ライは・・カナメのところに行ったわ・・ガルヴォルスであるカナメを、絶対に倒すんだって・・」
レナが話した言葉にルナは驚愕して眼を見開く。
「いけない・・このままじゃライとカナメ、戦っちゃう・・・!」
かつてない不安を覚えたレナが、ライとカナメを探って周囲を見回す。
「もうムリだよ・・私でもお姉ちゃんでも、ライさんとカナメさんを止められない・・・」
そこへルナの声がかかり、レナが足を止める。
「ルナ・・・」
「だって私やお姉ちゃんがどんなに呼びかけても、2人とも、戦うことに歯止めがかからなくなってる・・・」
「それでも、私たちは止めないといけないのよ・・あなたも分かってるはずよ。このままライとカナメが戦うことがどういうことなのか。それが私やあなた、カイリさんを悲しませることを・・」
ライとカナメの和解を諦めず、ルナに呼びかけるレナ。
「絶対に止めるわよ、ルナ。私と、あなたのためにも・・・!」
「お姉ちゃん・・・うんっ!」
レナに励まされて、ルナは流れる涙を拭って頷く。2人はライとカナメを追って街を駆け出した。
互いに向けての憎悪を膨らませて、その怒りを力に変えるライとカナメ。2人が繰り出した拳がぶつかり合い、広場にも衝撃を与えていた。
その衝撃の相殺と反発で弾かれ、ライとカナメが距離を置く。それでも2人が放つ鋭い視線はぶつかり合っていた。
「カナメ・・お前がオレや、みんなの幸せを無茶苦茶にした・・お前を倒さなければ、またみんなが傷つくことになるんだ!」
「あなたもずい分勝手なことを言うのね・・あなたがいるから、何もかもが無茶苦茶になるんじゃないのよ!・・あなたさえ、あなたさえいなければ!」
込み上げてくる感情を叫びにするライとカナメ。カナメが背中から翼を広げて、羽根の矢をライに向けて放つ。
ライは跳躍してその矢の群れをかわす。だが彼が飛び上がった上空には、飛翔したカナメが待ち構えていた。
「ぐっ!」
腹部に拳を叩き込まれて、ライがうめく。カナメは間髪置かずにライを背後から抱え、反転して急降下する。
(このままだと頭から突っ込む!)
毒づいたライがカナメに向けて肘打ちを繰り出す。そしてライが爪を突き出し、その刃がカナメの右のわき腹をかすめる。
だがカナメも負けじと翼を羽ばたかせる。その翼から繰り出された一閃が、ライが突き出していた左腕に傷を付ける。
「ぐあっ!」
痛みに顔をゆがめるも、ライはカナメに向けて足を突き出す。一蹴を受けて突き飛ばされたカナメが地面を横転する。
2人とも地面に落下し、仰向けに倒れ込む。2人の体は傷だらけで疲弊していたが、怒りと激情に駆り立てられている2人はその痛みさえ歯止めにはならなかった。
「負けねぇ・・オレはここで倒れるわけにはいかないんだよ・・何もかも奪っちまうガルヴォルスをこのままのさばらせるわけにはいかねぇんだよ!」
「のさばってるのは、身勝手な人間のほうよ・・あんなのがいるから、誰もが辛い思いをするのよ・・・!」
言い放つライと言い返すカナメ。2人が見せ付けているのは、自身の防衛。失いたくないという感情を互いが受け入れられず、ぶつかり合っていた。
「私は、いつしか信じるようになっていた・・あなたを・・あなたの中にある優しさを・・・」
カナメが突如言いかけた言葉に、ライが眉をひそめる。
「私が落ち着きを取り戻して、心の傷を癒せると思えるようになっていたのは、あなたのおかげ。そう思ってた・・・でも、あなたはやはり、私たちを傷つけるだけの存在でしかなかった・・・!」
悲痛さのあまり、カナメの眼から涙があふれ出す。
「あなたも私もみんな、平穏に暮らしてた・・ショーくんだって、そんな平穏を望んでただけ・・それなのに、あなたはそんなあの子の心まで・・・!」
「ふざけるな!アイツはガルヴォルス!人間を食い物にしてる連中の1人じゃないか!そんなヤツを、受け入れられるはずがないだろ!」
「どうして・・どうしてあなたはそこまでガルヴォルスを憎むの!?・・ガルヴォルス全員が、あなたを傷つけてるわけじゃないでしょ!」
「どこまで言い逃れをするつもりだ!お前もアイツも、叩き潰されなくちゃならないんだよ!」
「ライ!」
ライの言動に耐えかねて、カナメが怒りの叫びを上げる。彼女の足元に衝撃が走り、粉塵を巻き上げる。
「もう私は、あなたが死ぬことに何の悔いもない・・私はどんなことをしてでも、敵として立ち塞がるあなたを、殺す!」
カナメがライに向けて鋭く言い放つ。彼女の心の中には、もはや彼に対する殺意しかなかった。
「ついに本性を表したようだな・・だが、滅びるのはお前のほうなんだよ・・・ガルヴォルスは、オレが全員叩き潰す!1人も生かしておかねぇ!」
ライも怒りをあらわにして、全身に力を込める。その中の一瞬に、彼の体を火花が飛び散った。
持てる力の全てを右手に収束させるライとカナメ。そして2人は同時に飛び出していく。
力の限り拳を繰り出すライとカナメ。2人の拳がぶつかり合い、凄まじい衝撃と轟音を轟かせる。
それでも2人の力は衰え留まることはなく、さらに力が増していく。互いへの憎悪と殺意だけが、2人を突き動かしていた。
(私は失いたくない・・ショーくんの気持ちも、みんなのいる場所も・・・!)
カナメの心に大切なものがよぎってくる。ショー、カイリ、レナ、ルナ。
(えっ・・・)
そしてライの顔が脳裏をよぎった瞬間、カナメは困惑を覚える。拒んでいるはずなのに、憎んでいるはずなのに、なぜか引き込まれてしまう。カナメはそのライの面影を振り払うことができなかった。
それが彼女全体に及んでしまっていた。
カナメの体から力が抜ける。その一瞬の油断で、彼女はライに一気に追い込まれてしまった。
爆弾の爆発のような衝撃と閃光が大地と空を揺るがした。まばゆい光の中、ライとカナメが力なく吹き飛ばされていた。
街の郊外で巻き起こった轟音と閃光。街の人々が足を止めてその方向に眼を向け、レナとルナもそれを見つめていた。
「お姉ちゃん、あれってもしかして・・・!?」
「多分、カナメとライだわ・・行ってみるわよ、ルナ・・・!」
声を荒げるルナにレナが呼びかける。2人はそこにライとカナメがいると考えて、その場所へと駆け出していった。
(カナメ、ライ、バカなマネしないでよね・・ルナやみんなのことを思っているなら・・・!)
2人の激しい力の衝突で、巻き起こった爆発。吹き飛ばされたライとカナメが力なく横転する。
力を使い果たし傷ついたカナメが、ガルヴォルスの姿を保てなくなり、人間に戻る。体が疲弊しており、彼女は立ち上がることもままならなくなっていた。
(ダメ・・体が思うように動かない・・全然、力が入らない・・・)
重く感じる体に焦りを覚えるカナメ。戦うどころか、立ち上がることも難しくなっていた。
(でも、これだけのエネルギーの暴発。ライだって全然無事であるはずが・・・)
カナメは思考を巡らせながら、ライのいる場所を探る。周囲は巻き上がっている砂塵で視界がさえぎられている。
だが砂塵の中にある影を目撃して、カナメは眼を疑った。彼女の前に現れたのは、ガルヴォルスの姿を保っているライだった。
「どうして!?・・あなたも、無事では済まないはずなのに・・・!?」
カナメはライが立っていることが信じられなかった。これまでの戦いは明らかに拮抗したものだった。
「もしかして、そこまで追い込まれてしまっていたの・・私は・・・!?」
完全に動揺にさいなまれてしまったカナメ。彼女の中の殺意と戦意は揺さぶられてしまっていた。
心身ともに疲弊しきっていたカナメの前に、ライが立ちはだかった。
「これで終わりだ・・もう逃がさない、ためらわない!この手で、お前の息の根を止めてやる!」
眼を見開いて叫ぶライが、大きく拳を振り上げる。どうすることもできず、カナメは死を覚悟した。
そのとき、ライの体を数本の触手が貫いた。彼の体から鮮血が、口から吐血がもれる。
「えっ・・・!?」
「バ、バカな・・・これは・・・!?」
この瞬間に眼を疑うカナメとライ。触手が引き抜かれ、ライが血だらけになりながらその場に倒れ込む。
その背後にはバットガルヴォルスとなっているカオリと、リーチガルヴォルスとなって触手を伸ばしてきていたカナエの姿があった。
「カオリ・・カナエちゃん・・・」
「本当にしょうがないわね、カナメは。いつからそんなにやわになっちゃったのよ。」
驚きを浮かべているカナメに、カオリが悠然とした態度で声をかけてくる。
「もう大丈夫だよ、カナメ。後は私たちが、この裏切り者を始末してあげるからね。」
「お、お前ら・・・!」
笑顔を冷淡なものにするカナエに、ライが鋭い視線を向ける。だが彼の体は傷だらけで、思うように動けなくなっていた。
「私の友達にずい分ひどいことをしてくれたね。どんな風にやっつけてやろうかな。」
「勝手なことぬかすな・・オレは、お前たちなんかにやられるわけにはいかねぇんだよ・・・!」
無邪気に言ってみせるカナエに、ライが声を振り絞って言い放つ。そこへバットガルヴォルスとなったカオリが腕を振りかざし、かまいたちを放ってきた。
横転してその刃を何とかかわすライ。だが体の傷ついた彼に向かってカオリが飛びかかり、爪を突き出してきた。
その爪を体に突き刺さられ、ライがうめく。体から血があふれ、ライがひざをつく。
「悪あがきはやめてよね。あなたはカナメとの戦いでボロボロになってるの。私とカナエまで相手にできる体力は残ってないわ。」
「そうそう。けっこう意地っ張りみたいだけど、諦めも肝心だよ。」
カオリとカナエがライに向けて冷淡に告げる。だがライはカオリに鋭く視線を向けるばかりだった。
「何度も言わせるな・・オレはここで倒れるわけにはいかない・・お前たちガルヴォルスを全員、叩き潰すまでは・・・!」
「ここまで強情だとある意味感心してしまうわね・・でも同時に・・!」
ライの態度をあざ笑うカオリ。傷のあるライの体に一蹴を見舞う。
「ぐあっ!」
「イライラして我慢がならなくなるのよね!」
うめくライに言い放つカナメ。苦痛にさいなまれたライの姿が人間に戻る。
「今度こそおしまいね。私がカナメの憎しみを断ち切ってあげるから。」
カオリが眼を見開いて、傷だらけのライに向けて爪を突き出してきた。
(オレは、こんなところで終わっちまうのかよ・・何もかも奪われたまま取り戻せず・・・姉さんも・・・!)
死に抗う感情を強めていくライ。だがその意思に反して、体が思うように動かない。
だがカオリが出した爪は空を切っていた。動けないでいたライを助けたのは、カナメだった。
「カナメ!?」
カオリがカナメの行動に眼を疑った。あれだけ敵視していたライを、カナメが横から飛び込んで助けたのだった。
「・・お、お前・・・どういうつもりだよ・・・!?」
「私・・・私は・・・!?」
困惑しながら問い詰めてくるライの前で、カナメは自分のしたことを受け入れられないでいた。なぜ自分がライを助けたのか、彼女自身分からなかった。
「これはどういうつもりなの、カナメ?今の今まで憎んでた相手でしょう?」
そこへカオリが鋭く声をかけてくるが、カナメは半ば混乱しており、答えることができない。
「もしかして、私たちを裏切るの・・・!?」
カオリがカナメに爪を向ける。そこでカナメはようやくカオリに眼を向ける。
「矛盾だらけだよ。ライといい、カナメといい。ガルヴォルスだとか人間だとかを省いても、殺したがってた相手に感情移入してる。本当、ムチャクチャだよ。」
「私も分からない・・どうしてこんなことをしてるのか・・でも、なぜか放っておけなくなってしまったのよ・・・」
冷淡に告げるカオリに、カナメは混乱しながら答える。するとカオリはため息をつく。
「本当に滑稽ね。呆れてものも言えない・・もういいわ。カナメも一緒に始末するから・・・!」
カオリがライとカナメに向けて爪を振りかざす。カナエはその様子を無邪気な笑顔を浮かべて見つめている。
そのとき、カオリが横から何かに突き飛ばされる。その瞬間にカナエが眼を疑う。
「誰!?」
カオリが振り返った先にいたのは、ローズガルヴォルスに変身しているレナだった。
「あなたは・・!」
「レナ・・・!?」
レナに眼を向けたカオリとカナメが声を荒げる。
「カナメ、ライと一緒にここを離れて!」
「でもレナ・・私・・・」
「ずべこべ言わずに早く行って!ここにいられると迷惑なのよ!」
困惑を浮かべるカナメを言いとがめて、レナがカオリを見据える。そこへルナがカオリとカナエが気付かないように、カナメに駆け寄ってきた。
「ここはお姉ちゃんに任せて、カナメさんもライさんも一緒に・・!」
ルナは呼びかけると、カナメを連れてこの場から離れようとする。だがそれを見逃すカナエではなかった。
体から触手を伸ばしてルナを狙うカナエ。それをかいくぐってルナは逃げるも、海岸線に追い詰められてしまう。
カナエが伸ばしてきた触手がルナとカナメが駆ける道に叩きつけられる。その衝撃で2人が離れ離れになる。
「追い詰めたよ。それじゃまずは裏切り者のカナメから。」
駆け込んできたカナエが、カナメの前に立ちはだかる。
「カナメさん!」
ルナが駆け寄ろうとするが、カナエが放った触手に行く手をさえぎられる。
「邪魔はさせないよ。カナメは私が始末するんだから。」
カナエはルナに向けて冷淡に告げる。そして改めてカナメにとどめを刺そうとする。
だが、動けないでいるカナメを救おうとしていたのはライだった。
「ライ・・・!?」
その瞬間にカナメは眼を疑った。ライは彼女を抱えて、この場から離れようとする。
「逃がさない!」
カナエがいきり立って触手を伸ばす。それが鞭のようにしなり、ライの背中を叩く。
「ぐっ!」
背中に苦痛を覚えてライがうめく。同時に体勢を崩され、崖から足を踏み外す。
カナメとともに海岸に落下していくライ。彼は無意識に彼女を守ろうと強く抱きしめていた。
「ライさん!カナメさん!」
崖下に眼を向けたルナが悲痛の叫びを上げる。ライとカナメは海岸の中に姿を消した。
次回
「本当は私、ライのことが、好きだったのかもしれない・・・」
「ライが、ほしくてほしくてたまらない・・・!」
「だから、もう好きにしていいよ・・・」
「オレは、ひとつの光を見つけたような気がする・・・」
「オレに、守りたいものができた・・・」