ガルヴォルスLord 第14話「憎み合う2人」
互いの正体が露呈し、その事実を知って驚愕するライとカナメ。長い沈黙を破って、2人が声を振り絞る。
「ライが、ガルヴォルス・・・!?」
「まさか、お前がガルヴォルスだったなんてな・・・」
愕然となるカナメと、歯がゆさを募らせるライ。
「お前は、オレたちを騙してたのかよ・・・!?」
「あなたこそ、どうしてガルヴォルスを・・・!?」
互いに疑問を投げかけるライとカナメ。カナメの言葉に、ライが憤りをあらわにする。
「お前たちが、オレたちをムチャクチャにしたんじゃないか!お前たちガルヴォルスが、姉ちゃんを!」
「姉さん・・・!?」
ライの言葉にカナメが当惑する。ライがカナメに迫ろうとするが、体が疲弊していたために思うように前に進めなかった。
「カナメ!」
そのとき、ライとカナメの間に、ガルヴォルスとなっているカオリとカナエが飛び込んできた。
「あれは、あのときの・・・!」
ライが思い立つが、戦うことができず毒づく。カオリとカナエは満身創痍のカナメに歩み寄っていた。
「カナメ、しっかりしなさい!」
「とりあえずここから離れよう、お姉ちゃん。」
カナメに呼びかけるカオリと、心配の声をかけるカナエ。立ち尽くしているライを背にして、カオリとカナエはカナメを連れてこの場を離れた。
3人を見送ることしかできず、ライはこの場で絶叫を上げることしかできなかった。
カオリとカナエの介入で何とか危機を脱することができたカナメ。だが今の彼女は、体の疲れよりも心の傷のほうがひどかった。
「カナメ、大丈夫?ここまで来ればもう大丈夫よ。」
先ほどの場所からかなり離れた廃工場にて、カオリがカナメに声をかける。
「ライに、私がガルヴォルスであることを知られた・・・」
「ライ?カナメが働いてる店で一緒にいる男の人のこと?」
カナメの言葉にカオリが疑問を投げかけ、カナメが頷く。
「ライもガルヴォルスだった・・でもガルヴォルスをひどく憎んでる・・」
「何よそれ?ガルヴォルスなのにガルヴォルスを憎むなんて・・」
カナメが口にした言葉にカオリが呆れる。するとカナエも続けて呆れた素振りを見せて、カナメに言いかける。
「それでカナメ、これからどうするつもりなの?」
「分からない・・これからどうしたらいいのか・・・だた、これだけはハッキリしてる・・・」
カナメが沈痛の面持ちで言いかける。だがその表情が徐々に曇り、やがて冷淡なものへと変貌していく。
「・・ライを、倒さなくてはならない・・私たちのように苦しんでいるガルヴォルスを守るために・・・」
カナメは低く告げると、おもむろに1人でこの場を離れていく。
「ちょっと、カナメ・・・」
カナエが呼び止めようとするが、カナメはその声に耳を貸さずに立ち去ってしまった。
「カナメ、もう人を信じなくなったかな・・少なくとも、あのライって人を、ひどく憎んでるみたい・・・」
カナエが心配そうに呟く。その横でカオリは不満を感じていた。
「何か、納得がいかないわね・・・」
「えっ?」
カオリが口にした言葉にカナエが疑問を投げかける。
「人間を捨てたっていうより、ただ単に許せないものが許せないって言ってる感じがしてならないの。下手したら、私たちにまで敵に回しそうな気がするわ・・」
「そう?だったらちょっと困っちゃうね・・」
カオリの言葉を聞いて、カナエも肩を落とす。
「とにかく、私たちは私たちのやり方で行くわよ。それでもしカナメが・・・」
微笑みかけるカオリに、カナエも笑みをこぼして頷いた。
カナメの正体を知ったライは、苛立ちを隠せないまま店に戻っていた。彼の様子に、レナもルナもカイリも深刻さを感じていた。
カイリがおもむろに、そんなライに声をかけてみた。
「どうしたのかな、ライくん?何だか思いつめているみたいだけど・・」
カイリの問いかけに対しても、ライは憮然とした態度を見せたまま何も答えない。
「いつもいつもお節介ばかりで悪いと思っているけど、今回ばかりはどうも見過ごせないよ。だってライくん、いつにも増して思いつめているようだから・・」
「オレにいちいち構うな!」
カイリがさらに声をかけると、ライが怒りをあらわにして一蹴する。
「ライくん・・・」
その態度にカイリだけでなく、レナとルナも困惑を募らせる。
「アイツがオレたちを・・カナメを・・・!」
「カナメちゃん?」
ライの言葉にカイリが疑問を覚える。その言葉にレナが一抹の不安を覚えていた。
「ライ、ちょっと話、いい?そういう気分で関わりたくないのは分かるけど・・」
レナの持ちかけた言葉に腑に落ちない面持ちを見せるライ。だがレナが何かを知っていると思い、彼は彼女の話を聞くことにした。
「ルナ、カイリさん、ちょっと外すね・・」
レナはルナとカイリに言いかけると、ライを連れて店を出た。
レナがライとの話し合いの場として向かったのは、近くの公園だった。憮然とした態度を崩さないライに向けて、レナが声をかけた。
「ライ、もしかして、ライがそうして思いつめてるのは、やっぱりカナメが絡んでるの・・・?」
レナのこの問いかけにライが眼つきを鋭くする。それが図星であると察して、レナは話を続ける。
「ライ、カナメと何があったの?確かにあの子はいつも突っ張っていて、イヤになるくらいに生真面目だけど・・誰かを意味もなく傷つけるなんてことは・・」
「違う!」
レナが言いかけた言葉を、ライは怒号を発して一蹴する。
「アイツはお前たちが思ってるようなヤツじゃない・・アイツは、カナメは、ガルヴォルスだったんだよ・・・!」
ライが発した言葉に対し、レナはさほど驚きを見せなかった。そのことを不審に感じ、ライが眉をひそめる。
「もしかしてレナ、カナメがガルヴォルスだったってこと、知っていたんじゃ・・・!?」
「えぇ・・ルナも知ってる。カイリさんは話していないから分かんないけど・・」
レナが告白した言葉を受けて、ライの憤りの矛先がレナにも向けられた。だがレナはライに睨まれても動じる様子を見せない。
「ライがガルヴォルスが悪いヤツとして見てるのは分かってる。でも私にとって、私たちにとって、カナメは何があってもカナメなのよ。」
「何で・・何でそこまでアイツを庇うんだよ!・・アイツはガルヴォルスだっていうのによ・・・!」
「ガルヴォルスは、全員が“ホントのバケモノ”ってわけじゃないのよ・・・!」
怒りを募らせるライに弁解を入れるレナ。だがライの疑念は膨らむばかりだった。
「やっぱり・・アイツ、ずっとオレたちを騙してたのか・・・」
「違うって。カナメはあなたが思ってるような子じゃない。いつもは突っ張ってるけど、優しくていい子なんだから・・」
「お前もいい加減にしろ!アイツに肩入れしたって、不幸になるだけだ!」
弁解を続けようとするレナに、ライが怒号を発する。彼の言葉と態度に、レナはいたたまれない心境に駆り立てられる。
「どうしてそこまで、ガルヴォルスを憎んでるの?・・ここまで来たら、話をちゃんと聞かないと・・」
レナが問い詰めると、ライは歯がゆさを噛み締めたまま答える。
「オレはガルヴォルスに、何もかも奪われたんだ・・だからガルヴォルスを、どうしても許すわけにはいかないんだ・・・!」
「奪われた・・・」
ライが口にした言葉にレナが当惑を覚える。彼がガルヴォルスの被害者であり、その憎悪は計り知れないことを彼女は知ることとなった。
そのとき、ライとレナは周囲に不気味な気配が近づいてきているのを感じ取り、見回して警戒する。すると公園の入り口のほうから、カオリとカナエが姿を現した。
「お前たちは、カナメと一緒にいた・・・!」
「えっ・・・!?」
ライが言いかけると、レナが眉をひそめる。カオリは戦慄を募らせているライに眼を向けて微笑みかける。
「あなたが霧雨ライくんね?カナメから聞いてるよ。」
「やっぱりカナメか・・そのお前たちが、オレに何の用だ?」
ライが鋭く言い放つと、カオリは笑みを強めて答える。
「あなたのせいでカナメがイヤな思いをしてるのよねぇ・・だから・・」
言いかけるカオリの顔から笑みが消え、頬に紋様が浮かび上がる。
「私はあなたを仕留めてあげる・・・!」
いきり立ったカオリの姿がコウモリの姿をしたバットガルヴォルスとなる。その姿を目の当たりにして、ライの怒りはさらに膨らむ。
「どいつもこいつも・・どこまでオレやみんなを傷つければ気が済むんだよ・・お前らは!」
叫ぶライの姿もウルフガルヴォルスへと変貌を遂げる。ライは間髪置かずに飛びかかり拳を繰り出すが、カオリは飛翔してこれをかわす。
「ライも、ガルヴォルス・・・!?」
ライのガルヴォルスとしての姿を見て、レナが動揺を覚える。怒りに駆り立てられているライを見下ろして、カオリが笑みをこぼす。
「こうして見てるだけでも、ピリピリしてるのが丸分かりね。だけど・・」
カオリは右手を振りかざして、かまいたちを放つ。ライは横に飛び退いてその一閃をかわす。
だがその直後、急降下してきたカオリがライの懐に飛び込んできた。
「力任せじゃ、私たちには勝てないわよ。」
カオリは冷淡に告げると、右手を振り上げる。彼女の爪がライの体を切り裂いて傷を付け、鮮血が飛び散る。
「ぐっ!」
負傷して顔を歪めるライが後ずさりする。そこへカオリが足を突き出して追い討ちをかける。
傷口に一蹴を受けて倒れ込むライ。苦悶の表情を浮かべる彼の前にカオリが立ちはだかる。
「あなたに私は倒せない。私とカナエが組んだらなおさら。さて、終わりにするわね。」
「ふざけるな・・オレは、ここでくたばるわけにはいかないんだよ・・・!」
淡々と言いかけるカオリに怒りを見せつけ、ライが傷ついた体に鞭を入れて立ち上がる。
「けっこうタフなのね。でもこれで終わりであることに変わりはないのよ・・・!」
カオリは右腕を振り上げ、力を込める。この劣勢を跳ね除けようとするライだが、カオリたちを退けるだけの力は残っていない。
「待ちなさい!」
そこへかかってきた声にカオリが動きを止める。彼女とライ、カナエが振り向いた先には、頬に異様な紋様を浮かべているレナが立っていた。
「レナ・・・!?」
「あんまり私の前でふざけたことしないでもらいたいわね・・いくら温厚な私でも、黙ってはいないわよ!」
眼を疑うライの見つめる先で、言い放つレナの姿が変貌する。バラを彷彿とさせるロースガルヴォルスとなったレナが、カオリに眼を向ける。
「あなたもガルヴォルスだったなんてね。でもおかしいわね。ライくんはガルヴォルスでありながらガルヴォルスを敵としている。そんな人、守る必要なんてあるの?」
「人間もガルヴォルスも、私には関係ない。私たちを傷つけようとする人は、誰だろうと容赦しないわよ・・・!」
あざ笑ってくるカオリに、レナが鋭く言い放つ。レナが右手をかざすと、カオリが衝撃波に襲われる。
「えっ!?」
「お姉ちゃん!?」
虚を突かれて衝撃波に突き飛ばされるカオリと、その様子に驚くカナエ。レナの発した衝撃波が、カオリの速さを上回ったのだ。
「レナ、お前もガルヴォルス・・・!?」
ライが驚愕している眼前で、レナがカオリに向かって駆け出し、追い討ちを仕掛ける。レナが放った花びらの刃が、大木に叩きつけられたカオリの体に傷をつける。
「お姉ちゃん!」
姉の危機にカナエが飛び出す。彼女の姿も異様な怪物へと変わり、その体から触手が伸びる。
その触手がレナの右肩に突き刺さる。
「ぐっ!いきなり襲い掛かってくるなんて・・・!」
右肩を押さえて毒づくレナ。レナは花びらの刃を放って、カナエから伸びる触手を切り裂く。
レナは間髪置かずに両手をかざし、カオリとカナエに向けて衝撃波を放つ。先ほどよりも威力が高く、カオリとカナエが突き飛ばされて茂みの中に消えていった。
すぐに追いかけようと思ったレナだが、自分も負傷していたため、それを取りやめた。殺気も気配も感じられず、カオリとカナエもこの場から離れたものとレナは察した。
脱力したレナの姿が人間に戻る。ライも苛立ちを抱えたまま、人間の姿に戻った。
「まさか、お前もガルヴォルスだったとはな・・・ルナも知ってるのか・・・?」
ライが問いかけると、レナは無言で頷いた。
「どいつもこいつも、オレを騙していたってことなのかよ・・・ふざけんな・・ふざけんな!」
怒りをあらわにしたライが地面に拳を叩きつける。レナがライに振り返り、深刻な面持ちで声をかける。
「ガルヴォルスだから、私も倒すつもりでいるの?だったらひとつ忠告してあげる。」
レナは普段見せないような冷淡な口調でライに言いかける。
「私とルナは姉妹という関係では収まらないほど親密になってる。互いがいなければ生きていかれないくらいにね。もしもあなたが私の命を奪えば多分、いいえ必ず、ルナはあなたを憎んで、どんな手を使ってでもあなたを殺しに来るかもしれないわ。あなたがガルヴォルスを深く憎んでいるように。」
その忠告にライは言葉を詰まらせる。自分の憎悪がレナを殺せば、ルナに自分への憎悪を植えつけることになる。
「ルナは私やカナメと違って普通の人間よ。あなたに人間のルナを殺せるの?もしもそんなことをすれば、あなたがしていることはいいことには絶対にならない。ただの人殺しになるわ。」
「オレを追い込もうとでも言うのかよ・・そんなことでオレは・・・!」
「ならやってみなさい。でも私もただ黙ってやられるつもりはないけどね。」
いきり立つライだが、レナは毅然とした態度を崩さない。ここでレナと敵対し、命を奪えば、さらなる憎悪と悲しみの芽を生やすことになる。それはライにとってこの上ない絶望だった。
「オレはカナメのところに行く。アイツはオレたちを騙してきたバケモノだ・・・!」
「待って、ライ。何度も言うけど、カナメは・・」
「相手が誰だろうと邪魔はさせねぇ・・・カナメは、オレが倒す・・・!」
呼び止めようとするレナの言葉をライが一蹴する。
「邪魔するなら、たとえお前やルナが相手でも、迷わずに殺す・・邪魔するヤツは全員、オレがなぎ倒す!」
ライはレナに言い放つと駆け出し、公園を飛び出していった。怒りを抑えきれなくなっている彼をこれ以上止めることができず、レナは一抹の不安を抱えたままその場に立ち尽くしていた。
同じ頃、ルナはカナメが心配になり、店を飛び出していた。街中を駆け回って数十分後、ようやくカナメを見つけたルナは、彼女から事情を聞いた。ライがガルヴォルスであり、彼にカナメの正体が知られたことも。
「ライさんまでガルヴォルスだったなんて・・それも、他のガルヴォルスを恨んでいるなんて・・・」
ルナがカナメの話に沈痛の面持ちを浮かべる。
「それでカナメさん、これからどうするつもりなんですか・・・?」
「私としては、ガルヴォルスを倒そうとしているライを見過ごすことはできない・・私の手で、ライを・・・!」
「ダ、ダメですよ、カナメさん!ライさんを倒すなんて、そんなの絶対ダメです!」
カナメが告げた決意に対し、ルナが声を荒げて反論する。
「だってライさん、みんなに優しくしてくれてるじゃないですか・・たとえガルヴォルスであっても、ライさんは私たちの大切な人ですよ!」
「ライはガルヴォルスを敵としてる!だから私は、ライに負けるわけにはいかないのよ!それはルナちゃん、あなたを悲しませないためでもあるのよ・・・分かって・・・!」
ルナの弁解を受け入れず、カナメはあくまでライと対立することを決め込んでいた。
「もう分かり合うことはできないの・・またみんなで一緒に、楽しく過ごすことはできないの・・・!?」
ルナが悲しみをこらえることができず、眼から涙を流す。それでもカナメの心は変わらない。
「ゴメンなさい・・・でもこれは、これだけは、誰にも譲れないことなのよ・・・」
カナメはルナに言いかけると、ゆっくりを歩き出していった。その眼から一滴の涙があふれてきていたのをルナは見逃さなかった。
(もう、どんなことをしても止められないことなの・・どんなに言葉をかけても、力ずくでも・・・)
悲痛さを何とか押し留めようと、ルナは自分の胸に手を当てて、カナメが去っていくのを見送っていった。
街から離れた人気のない広場。そんぽ中央でライは立ち尽くし、空を見上げていた。
彼の心の中には、カナメに対する憎悪が渦巻いていた。彼女を倒さなければ、この先に進めず、奪われたものを取り戻すこともできない。彼はそう思っていた。
(もうお前たちの好きなようにはさせないぞ・・オレはお前たちを全員叩きのめすぞ、ガルヴォルス・・カナメ!)
怒りを膨らませるライが拳を強く握り締める。彼の中に渦巻いているガルヴォルスに対する憎悪は頂点に達していた。
そんな彼の前に現れた1人の少女。それはライの怒りの矛先にいるカナメだった。
「カナメ・・・」
ライはカナメに向けて鋭い視線を向ける。カナメもライに向けて鋭い視線を向けていた。
「私はあなたに、私の全てを奪われるわけにはいかないの。だから私は、全力であなたを倒すわ!」
「勝手なことぬかすな!お前たちのせいで、オレやみんながどれだけ傷ついたと思ってるんだ・・・!」
戦意と怒りを見せ付けあうカナメとライ。心の歯止めが利かなくなり、2人は感情の赴くままに戦いを切り出そうとしていた。
次回
「お前を倒して、オレはみんなの幸せを守る・・・!」
「あなたを倒さなければ、私たちに未来はない・・・!」
「カナメ、オレはお前を・・」
「ライ、私はあなたを・・」
「絶対許さない!」