ガルヴォルスLord 第9話「狙われた異端者」

 

 

 1日の仕事を終えて、帰り支度を始めようとしていたライ。そこへレナが歩み寄り、沈痛の面持ちを見せてきた。

「どうしたんだよ?いつも威勢のいいお前が、らしくない顔して・・」

 憮然とした態度を見せるライに、レナは作り笑顔を見せて答える。

「この前はありがとう、ライ・・あの時、私もルナもどうにもならなくなってた・・ライが何とかしてくれなかったら、どうなってたか・・・」

 レナはケンジについて言いかけていた。だがライは憮然さを崩さない。

「オレは別に何もしてない。そんなオレに感謝しても文句を言っても、何の意味もないぞ。」

「それでもあなたは、私やお姉ちゃんのために立ち上がってくれた・・・」

 そこへ声をかけてきたのはルナだった。ルナはライとレナに微笑みかけていた。

「ごめんなさい、ライさん、お姉ちゃん・・・そして、ありがとうね・・・」

「だから、オレは何もしてないって。まったく、姉妹揃って・・」

 ルナからも謝罪と感謝を言われて、ライが肩を落とす。

「ところで、カナメはどうしたんだ?」

「カナメ?少し早めに切り上げて、1人で街に出かけて行ったわよ。」

 ライが唐突に問いかけると、レナが一瞬きょとんとなりながら答える。様々な葛藤にさいなまれる中、ライはカナメを気にかけていた。

 

 この日の店の仕事を終えたカナメは、1人で街に繰り出していた。賑わいを見せている雑踏の中で、彼女は心の揺さぶりを感じていた。

 人間に対する不信感。それはレナとルナとの交流で少しずつ緩和されてきている。しかし完全に消化されたわけではない。

 またいつどこかで、自分の気持ちを裏切られてしまうかもしれない。カナメは常に不安を抱えて日常を過ごしていた。

(レナやルナのおかげで、私は大分落ち着けるようになった・・でも、まだ心のどこかで、人間を信じきれない気持ちがある・・・)

 カナメが胸中でその不安を振り返る。そのとき、彼女の脳裏にライの姿がよぎり、彼女は当惑を覚える。

(・・どうして、ライのことを考えるのよ・・・確かに彼は、心の中に優しさを持ってることは分かった。でも普段は周りを突き放すような態度ばかり取ってる・・何を考えているのか、今でも分からない・・・)

 カナメはいつしか、ライに対して一途の想いを抱くようになっていた。だがその気持ちが不安定であったため、彼女自身はそれを認めたくなかった。

 様々な感情が心の中で渦巻き、カナメは自分の気持ちに答えを出せないでいた。

 

 ガルヴォルスの引き起こす事件は後を絶たない。その奇怪な事件に対して、警察も警戒を強めていた。

 その中でパトカーにてパトロールを行う2人の女性警官。裏通りに差し掛かったところで、彼女たちは道端でうずくまっている1人の少年を発見する。

 その黒髪の少年を気に留めて、女性警官たちはパトカーを止める。そしてその1人が降りて、少年のところに歩み寄る。

「どうしたの、ボク?何かあったの?」

 女性警官が声をかけるが、少年はうずくまったまま答えない。

「具合でも悪い?どこか痛いところとかあるの?」

 さらに女性警官が言いかけるが、少年はそれでも答えない。やがてもう1人の女性警官が駆け寄ってきた。

「どうしたの?」

「うん・・それが、こうしたまま全然答えなくて・・」

 疑問を投げかけあう2人の女性警官。そのとき、少年がついに小さく顔を上げ、重く閉ざしていた口を開いた。

「お前たち、警察なの・・・?」

「えっ?えぇ、そうだけど・・・?」

 呟くように言いかける少年に、女性警官たちは当惑しながら答える。すると少年がおもむろに立ち上がってきた。

「警察はみんなの味方なんかじゃない・・悪い人・・・」

 怒りを込めて言葉をかける少年の頬に異様な紋様が浮かび上がる。その変化に女性警官たちが驚愕を見せる。

「この子、まさか・・・!?

 彼女たちが声を荒げた瞬間、少年の姿がアルマジロと酷似した怪物へと変化する。彼女たちがとっさに拳銃を引き抜き、少年の動きを規制しようとする。

 そんな彼女たちに向けて、少年が口から何らかの液体を吐き出してきた。液体は女性警官の1人に命中し、その拍子でもう1人がしりもちをつく。

 液体を浴びた女性警官の体が白くなり、動かなくなる。その光景にもう1人の女性警官が恐怖を覚え、ついに拳銃を少年に向けて発砲する。

 だが弾丸が命中したにもかかわらず、少年は平然としていた。その反応に女性警官は絶望にさいなまれた。

「警察なんて、僕がみんな・・・!」

 少年は怒りをあらわにすると、その女性警官に向けて液体を吹きかける。断末魔の悲鳴を上げて、彼女は固まり、命を落とした。

 ガルヴォルスから人間の姿に戻った少年。彼の心には悲痛さが重く沈んでいた。

「あなた・・・」

 そのとき、背後から声をかけられ、少年が驚きを覚えながら振り返る。その先にはカナメの姿があった。

(見られた・・・!?

 自分が今行った行為を見られたことに、少年は切迫した心境に陥る。だがカナメは取り乱す様子を見せず、少年をじっと見つめていた。

「あなたも、ガルヴォルスなのね・・・」

「えっ・・・!?

 予想していなかった言葉をかけられ、少年は驚きを覚える。

「もしかして、あなたも・・・!?

 少年が問いかけると、カナメは意識を集中する。彼女の頬に紋様が現れ、そしてすぐに消える。

「今はここにいないほうがいい。離れましょう。」

「う、うん・・」

 カナメに言われるままに、少年は場所を移動する。その場にはプラスティック液を浴びて固まった女性警官たちだけが取り残されていた。

 

 警官を襲った少年を連れて街の郊外の裏路地に入り込んだカナメ。呼吸を整えたところで、彼女は少年に眼を向けた。

「ここまでくれば大丈夫でしょう・・・」

「・・・どうして、僕を助けてくれたの・・・?」

 安堵するカナメに、少年が戸惑いを浮かべて問いかけてきた。

「やっぱり、僕と同じガルヴォルスだから・・・?」

「・・そうかもしれないわね。それじゃ理由にならない?」

 逆にカナメに問い返されて、少年がさらに当惑を見せる。意地悪なことをしたと思いつつ、カナメは話を続ける。

「何となくだったけど・・あなた、私と同じ感じがしたから・・・」

「僕と、同じ感じ・・・?」

「ガルヴォルスになって、何か憎しみを抱いている。なのにどこか心が残って悩みを持っているというのかな・・・」

 自分でも言っていることが分からなくなり、思わず照れ笑いを浮かべるカナメ。彼女の気持ちが分かったような気がして、少年は安堵の笑みをこぼした。

「そういえば自己紹介がまだだったね。私は白雪カナメ。あなたは?」

「僕はショー。田丸(たまる)ショー。」

 互いに自己紹介をするカナメと少年、ショー。カナメと気持ちが通じていると感じて、ショーは自分の気持ちを告げることを決めた。

「カナメさん、僕は警察がイヤなんだ・・・」

「警察が?」

 ショーが切り出した話にカナメが眉をひそめた。

 

 パトロール中の警官との連絡が取れなくなり、警察は事件性を感じていた。その警官たちの指揮を、リオンは行っていた。

「2人はBB地区をパトロール中に連絡が取れなくなっています。裏通りから移動した形跡は見られません。」

「そうか・・おそらく何らかの事件に巻き込まれたと見たほうがいいだろう。最悪、ガルヴォルスの仕業であることも念頭においたほうがいい。」

 部下の女性刑事、会川(あいかわ)ミミからの報告を受けて、リオンが注意を促す。

「BB地区、及びそこから半径10キロに捜査網を敷く。レーダーを所持して警戒に当たるように。」

「了解。ですが、そこまでする必要はまだ・・」

「もしも犯人がガルヴォルスなら、甘く見ないほうがいいわ。ガルヴォルスは、備わっている力そのものが狂気になりうるのよ。」

 疑問を覚えているミミに、リオンは真剣な面持ちで言いかける。その忠告にミミは固唾を呑んだ。

「分かりました・・これより部隊をまとめて警戒に当たります・・」

 ミミは困惑を浮かべたまま部屋を後にする。1人だけとなったところで、リオンは不敵な笑みを浮かべた。

(ガルヴォルスは所詮は畜生。殺したって罪にはならない・・そうよ。ガルヴォルスなんて、この世に存在してはならないのよ・・・!)

 ガルヴォルスに対する憎悪を募らせるリオンの顔には、普段見せていない狂気に満ちた笑みが浮かび上がっていた。

 

 ショーから事情を聞いたカナメ。ショーは両親を失い、その裏に警察があることを理解していた。

 ショーの父親もガルヴォルスであり、母親もこのことを知っていた。それでも父は人間として生きようとしており、母もそれを受け入れていた。

 だがある日、警察隊が突然ショーに家に突入し、父に銃口を向けた。それは父がガルヴォルスであり、それを処置しようとしてのことだった。

 その行為がショーは信じられなかった。なぜ警察が父に対して問答無用で銃を向けるのか、理解できなかった。

 母が事情説明を求めるが、警察はガルヴォルスを危険視してのことと述べるばかりだった。しかし母もショーも納得できるわけがなかった。

 その疑問を無視して、警察は容赦なく銃の引き金を引いた。父はとっさにかわしたが、警察はさらに彼を追い込んでいく。

 そして、放たれた拳銃の弾丸が、父を庇った母の胸を撃ち抜いた。その瞬間に、父もショーも眼を疑った。

 愕然となった父にも、警察の非情の弾丸が貫いた。息絶えた父の体が固まり、そして崩壊して崩れ去った。

 一瞬にして両親を亡くし、絶望感にさいなまれるショー。2人の命を奪いながら、顔色ひとつ変えずに平然としている警察。

 怒りを覚えたショーが涙ながらに警察を指揮している女性に詰め寄った。だが女性はショーに鋭く冷たい視線を向けてきた。

 鷹が獲物を狙うような彼女の眼つきと怒りを込めた言葉に、ショーは怒りをかき消されてすくみ上がってしまった。

 それから女性は警察を引き連れてショーの家を去っていった。怒り、悲しみ、恐怖に駆られ、ショーはしばらくその場を動くことができなかった。

 

「あなたにも、そういうことがあったのね・・・」

 ショーの話を聞いたカナメが沈痛の面持ちを浮かべる。

「警察なんて信じらんないよ・・・だって、みんなを守ってくれて、悪い人を捕まえるはずなのに、何の悪いことをしていない僕のパパとママを・・・!」

「それでさっきも、警官を襲っていたのね・・親を殺した警察が許せないから・・・」

「こうして警官や刑事を襲ってれば、あの女も必ず姿を見せるはず。僕みたいなガルヴォルスを恨んでるみたいだからね。」

 ショーが口にしたこの言葉にカナメは当惑を覚える。自身もガルヴォルスでありながらガルヴォルスを憎んでいるウルフガルヴォルス。その存在が彼女の心を揺さぶっていたのだ。

「それで、その女性が誰なのか、分かってるんだよね・・・?」

「うん・・警察の中でも割と有名な人みたいだから・・・名前は、樋口リオン・・」

「樋口リオン・・話は聞いたことがある。かなり優秀の警部みたいだけど・・」

 ショーが口にした「リオン」という名前に、カナメは眉をひそめる。

 そのとき、カナメは周囲から戦慄を覚え、緊迫を覚える。

「どうしたの?」

「近くに誰かいる。それも1人や2人じゃなく、しかも普通じゃない・・・」

 ショーが訊ねると、カナメは周囲を警戒しながら小さく答える。十分に用心しながら、カナメはショーを連れてこの場を離れた。

 しばらく小さな歩道を進んだところで、2人は足を止めた。カナメが再び周囲を見回すと、その先に1人の薄汚れた青年の姿があった。

「人間だ・・人間の女と子供・・・切り刻んでやる・・切り裂いてズタズタに・・・!」

 不気味な笑みを浮かべる青年の顔に紋様が浮かび上がる。

「あなた、まさか・・!?

 眼を見開くカナメの前で、青年がムカデの怪物へと変身する。センチビードガルヴォルスが咆哮を上げて、2人に襲い掛かる。

「ショーくん、下がっていて!」

 カナメがショーに呼びかけて、センチビードガルヴォルスに向かって駆け出す。彼女の姿が変貌し、スワンガルヴォルスとなる。

 センチビードガルヴォルスが振り下ろしてきた爪を、カナメは跳躍してかわす。そしてすかさずに羽根の矢を放ち、青年を射抜く。

 高出力で放たれた矢は、青年の息の根を一瞬にして止めていた。人間の姿に戻った青年が崩壊し、姿を消した。

 狂気に囚われたガルヴォルスを倒したカナメが人間の姿に戻る。だが彼女は緊迫を消していなかった。

 青年は死ぬ直前、カナメにとって意味深な言葉を残していた。

“・・カオリさん・・カナエさん・・・”

 その言葉にカナメは当惑を覚えていた。そこへショーは近づき、彼女におもむろに声をかけた。

「どうしたの、カナメさん・・・?」

「えっ?・・う、ううん、何でもない・・・」

 ショーの声に我に返り、カナメが作り笑顔を見せて弁解した。

 そのとき、突如警官たちが続々と姿を現し、カナメとショーを取り囲んできた。そのただならぬ事態にショーは不安を覚え、カナメが戦慄を募らせる。

「ガルヴォルスを発見しました。これより確保します。」

 その中の1人が他の警官と連絡を取り合っていた。

(見られた・・今の戦いを・・!)

 その言葉にカナメが固唾を呑む。ガルヴォルスである自分を狙って警察が動き出したのだと、彼女は察していた。

「相手はガルヴォルスよ!殺しても構わないわ!」

 そこへ警官たちに呼びかけて、1人の女性が姿を見せる。その姿にショーが眼を見開く。

「カナメさん、この人がリオンだよ!」

「えっ・・!?

 ショーの言葉にカナメが眼つきを鋭くする。警官を指揮するリオンが、2人を見据えて指示を出す。

「その子もガルヴォルスよ。躊躇せずに撃ちなさい。」

「ですがリオンさん、相手はまだ子供・・」

「ガルヴォルスは普段は人の形を取っているのよ!外見に惑わされれば、致命傷を受けることになるわよ!」

 ミミが口を挟むが、リオンが鋭く言い放って一蹴する。

「ショーくん!」

 カナメがショーを連れてこの場を離れようとするが、警官は完全に2人を包囲していた。

「カナメさん・・・」

「大丈夫!あなたは私が守ってみせるから・・・!」

 不安を口にするショーに呼びかけるカナメの頬に紋様が浮かび上がる。変貌を遂げた彼女の姿に、警官たちが動揺を覚える。

「ためらわないで!すぐに撃ちなさい!」

 そこへリオンの檄が飛び、警官たちは迷いを振り切って拳銃の引き金を引く。同時にカナメが背中から翼を広げ、ショーを抱えて飛翔する。

 警官たちが放つ銃の弾丸をかいくぐり、その場から離れるカナメたち。

「追いなさい!決して逃がしてはダメよ!街に入り込まれたら終わりよ!」

 リオンの呼びかけを受けて、警官たちが2人を追いかける。一抹の疑問を感じながら、ミミもそれに続いた。

(人間とガルヴォルス。絶対に和解することはできないのよ。絶対に生かして帰さないわよ!)

 いきり立ったリオンが、カナメとショーを追って駆け出していった。

 

 スワンガルヴォルスとなって警察の包囲網をかいくぐったカナメ。彼女はショーを連れて、人気のない河川敷に降り立った。

「大丈夫、ショーくん!?

「うん・・でも、どうして僕を・・・?」

 半ば呆然となっているショーに、カナメは微笑んで答える。

「私もいろいろあったから・・あなたを放っておけなくなったのよ・・・」

「カナメさん・・・」

 カナメの言動を優しさと感じて、ショーは安堵の微笑みを浮かべた。

 そこへ2人を追ってきた警官たちが駆け込んできた。緊迫を募らせるカナメとショーに向けて、警官たちが銃を構える。

 ショーを守るため、警官たちを手にかけることも辞さない。カナメがそう決断しようとしたときだった。

 突如その警官たちに向けて一条の刃が飛び込んできた。その一閃に警官の数人の体が断裂し、血飛沫を上げてその場に崩れ落ちた。

 その光景にカナメと警官たちが驚きを覚える。

「全く、何やってるのよ、カナメ。」

 そこへかかってきた声に、カナメがさらに驚きを覚える。彼女たちの前に突如2人の少女が降り立ち、警察の前に立ちはだかった。

 

 

次回

第10話「謀られる正義」

 

「カオリ・・カナエちゃん・・・」

「久しぶりだね、カナメ。」

「あなたの力を、みんなのために貸してほしいのです。」

「ためらう必要は何もないのよ、カナメ。」

「ガルヴォルスは全員、オレが片付ける・・・!」

 

 

作品集

 

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