ガルヴォルスinデビルマンレディー 第15話「父親」

 

 

「そんな・・・これが、父さん・・・!?」

 彩夏が眼前にいる父親の姿に愕然となる。

 彼からは完全に生気が感じられず、まるで屍のように見えた。しかしビーストである彩夏、ガルヴォルスである美優には、彼がまだ生きていることが分かっていた。

 うつむいている彼の口からは、かすかだが吐息がもれていた。その小さな声を、2人は聞き逃さなかった。

「お父さん、起きて・・彩夏と美優だよ・・・」

 彩夏は何とか笑みを作って、父親に話しかける。彼女たちの声を、彼は必ず答えてくれる。

「・・・あや・・か・・・」

 父親が呟いたかすかな声が、彩夏と美優の鋭い耳に届いた。

「あっ!お父さん!」

 その声に美優が声を上げる。

「お父さん、待ちきれなくなっちゃって来ちゃった。ほとんど成り行きになっちゃったけど・・」

 父親に対して照れ笑いを見せる彩夏。

「あや・・か・・・にげ・・ろ・・・」

 父親のこの言葉に、彩夏と美優が眉をひそめる。

「お父さん、どうしたの!?今、助けるから!」

「来るなっ!」

 助けようと手を伸ばしかけていた美優に、父親が声を振り絞った。その声で彼女の手が止まる。

「お父さん、いったいどういう・・!?」

 彩夏の中に不安が広がりだしていた。この心配を抑えきれず、彼女は手を伸ばした。

 そのとき、拘束されていた父親の両手が、不気味にうごめき始める。それまで沈黙していた彼の口から、荒々しい吐息がもれる。

 獣のような絶叫を上げ、全身に力を込める父親。その光景に、彩夏と美優が信じられない面持ちになる。

「お・・とう・・さん・・・!?」

 彩夏が当惑のあまり、言葉を詰まらせる。父親の体が振動を起こし、両手両足を拘束している錠を強引に引き剥がす。

 激しい地響きを立てて着地する父親。その姿はまさに怪物、獣であった。

 変わり果てた父親の姿に、彩夏と美優は完全に言葉を失った。悲痛、困惑、疑念、全てが心と体を駆け巡り、混乱を引き起こしていた。

「彼があなたたちの父親、牧村博士であることは間違いないわ。」

 そのとき、彼女たちの背後から声がかかる。アスカ蘭が研究室の扉の縁に寄りかかりながら微笑んでいた。

 しかし彩夏と美優は、その声に反応を見せない。耳には届いてはいたが、頭には入っていなかった。

 父親は牙を光らせ、獣のものとなった大きな右手を振り上げた。そしてそれを困惑して動けない彩夏たちに振り下ろす。

 彩夏たちはその衝撃で、研究室の端の壁に叩きつけられる。強い衝撃に体が悲鳴を上げているはずだった。

 しかし今の彼女たちは、その体の痛みよりも心の痛みのほうが強かった。

 アスカがゆっくりと研究室に入り、昏倒している彩夏に近づいた。

「牧村博士にはビースト因子が投与されているわ。獣としての本能に目覚めた彼は、ビーストとして覚醒し、見境なくその牙で周囲を破壊する。」

「えっ・・・?」

 アスカの言葉の意味が分からず、彩夏がさらなる困惑に襲われる。

「先程まではあなたたちのことを覚えていたけど、今はもうただの獣。実の娘であるあなたたちにも、容赦なく襲いかかってくるわよ。」

 その言葉に彩夏が愕然となる。同時に父親が荒々しい咆哮を上げる。

 もはやそこにいるのは父親であって父親ではない。獣の本能に囚われた怪物でしかない。

 しかし彩夏はそれを認めたくはなかった。もし認めてしまえば、直接手をかけていなくても、父親を殺すことになってしまう。そう思えてならなかった。

「お父さん・・・お願い・・・眼を覚まして・・・」

 彩夏が悲痛の面持ちで声をかける。しかし、獣と化した父親に、もはや娘の声さえ聞こえなくなっていた。

 その鋭い爪が、容赦なく彩夏に振り下ろされる。彩夏は跳躍してそれをかわす。

「お父さん・・やめて・・お願いだからやめて!」

「ムダよ。いくらあなたや美優ちゃんが呼びかけても、もう牧村博士には届かない。」

 必死に叫ぶ彩夏に冷静に語りかけるアスカ。その間にも、父親の暴走は留まることを知らない。

 困惑する彩夏に、その太い腕が叩き込まれる。

「キャッ!」

 強い衝撃を受けた彩夏は、壁に叩きつけられる。壁が崩壊し、煙が漂う。

 その中で彩夏は立っていた。押し隠していたデビルビーストとしての猫耳が頭から見え、尻尾も外に出ていた。

 彼女のその姿を見た父親が、さらなる咆哮を上げる。同じ獣を目の当たりにしたことで本能が騒ぎ出したのか、凶暴性を増加させていた。

 そのとき、強烈な白い光が父親に向けて照らされた。その直後に、父親の右半身が凍り出す。

「この光は・・・美優!」

 彩夏は視線を移動させる。その先には、ガルヴォルスの姿に、白いオコジョになっていた美優が、白い光を放っていた。

「美優、何を・・!?」

「お姉ちゃん、もうお父さんはいないんだよね・・・眼の前にいるのは、お父さんじゃないんだよね・・・?」

 困惑する彩夏に物悲しい笑みを見せる美優。その眼には大粒の涙があふれていた。

 割り切るしかなかった。そうでもしなければ、父親まで悲しくなってしまう。そう割り切るしかなかった。

「お姉ちゃん、戦って!私たちのために、お父さんのためにも!」

 美優が悲しみを振り切って、彩夏に呼びかける。

 父親の願い。妹の思い。様々な思いにさいなまれ、彩夏は大きく息をついた。

 牙と爪を光らせ、彩夏は跳躍した。凍りつきかけていた体を大きく振動させて、父親も大きく腕を振り上げる。

 その腕をかいくぐって、爪を尖らせた手を構える。

(お父さん・・ゴメンね、助けられなくて・・・でも、これがお父さんの望んだことなんだね・・・)

 彩夏の顔には物悲しい笑みが浮かび、眼には大粒の涙があふれていた。

 彼女の爪が、父親ののど元を切り裂いた。絶叫を上げる怪物の首から、赤々とした血が飛び散り、彩夏にも降りかかる。

 父親はそのまま研究室の中心に倒れ込む。激しい轟音と煙を起こして、振動が室内を揺らす。

「あ・・ありが・・とう・・・み・・ゆう・・・あや・・・か・・・」

 小さく呟かれたその声に、彩夏と美優が顔を上げる。

「お、とうさん・・・」

 父親の口からのかすかな声に、彩夏は体を震わせた。最後の最後に、彼は怪物から人間へと戻ったのだ。

 その声を耳にした美優は、たまらずその場で泣き崩れた。

「凶暴化した牧村博士は沈黙した。あなたたちが殺したのよ。」

 そこへアスカが研究室に足を踏み入れ、心身ともに傷ついている姉妹を揶揄する。

「いくら心を失くしていたからとはいえ、彩夏さん、美優さん、あなたたちは実の父親を手にかけたのよ。」

「それは・・」

「そうよ。確かに・・」

 アスカの言葉に反論しようとした美優だが、彩夏がそれに同意してみせる。

「確かに、私がお父さんの命を奪った・・・でも!」

 彩夏の語気が強まり、アスカが眉をひそめる。

「私が殺す前に、お父さんは死んでた・・・お父さんは死んだ・・・あの人に殺されたのよ・・・!」

 彩夏が振り返り、アスカを鋭くにらみつけた。しかしアスカは動じず、笑みも崩さない。

「私が?」

「あなたがビースト因子を入れなければ、お父さんは人間のままでいられた・・・私がお父さんを殺すこともなかった!」

「奇麗事はやめなさい。現にあなたは父親を殺した。それは紛れもない事実・・」

 そのとき、アスカの言葉が途切れる。彼女の体が白く凍りついたのだった。

「美優・・・」

 彩夏が憤りを抑えて視線を移す。アスカを凍らせたのは、ガルヴォルスになった美優だった。

「お姉ちゃんは・・お父さんを思ってやったんだよ・・・誰も、お姉ちゃんを責めるなんてできないよ・・・」

 オコジョから人の姿に戻った美優が、彩夏を思う。

「美優・・・」

 彩夏は戸惑いを隠せなかった。父に想われ、妹にも想われて、悲しみと嬉しさが入り混じって、心は大きく揺れていた。

「それでも、事実をねじ曲げることはできない・・」

 その声に彩夏と美優が眼を見開いた。それはアスカの声だった。

 2人が振り向くと、白い氷に包まれていた彼女が、その氷の殻を打ち砕いていた。

「そんな・・・美優の氷から、こんな簡単に抜け出すなんて・・・!?」

 彩夏は驚愕を覚えていた。美優のガルヴォルスの力は、街規模を一瞬にして凍結させてしまうほど強力なものである。その氷をアスカは簡単に砕いてしまった。

 すかさず彩夏はアスカに飛びかかった。その鋭い爪が彼女に向けて振り下ろされる。

 しかしそこにアスカの姿はなかった。

「えっ!?いない!?」

 着地した彩夏が周囲を見回す。すると美優の眼前にアスカがいた。

(そんな・・・いつの間にこんなところに・・・普通の人間じゃないの・・・!?)

 振り向いた彩夏が動揺を浮かべる。それをアスカが妖しく微笑んで見つめる。

「私は神。あなたたちの動きや力は全て筒抜けよ。」

 そういってアスカが、困惑している美優に手を伸ばす。

「美優!」

 彩夏はたまらず飛び出していた。それを見たアスカは、伸ばしかけていた手を引き、再び姿を消した。

 勢いを止められず、彩夏は爪を引きながらも、そのまま美優を抱きとめる形となった。2回ほど回って飛び込みの勢いを止める。

「美優、大丈夫!?」

「うん。お姉ちゃんは?」

「私も平気だよ。」

 互いの無事を確認し、彩夏と美優が安堵する。そしてアスカの行方を求めて、研究室の出入り口に振り向いた。

 

    ドクンッ

 

 そのとき、2人は強い胸の高鳴りに襲われた。その弾みで、美優の姿がオコジョから人間に戻る。

「い、今のは・・・!?」

 彩夏が困惑して、自分の胸に手を当てる。

  ピキッ ピキキッ

「えっ!?」

 そのとき、彩夏と美優のスカートとジーンズが引き裂かれ、美優が声を荒げる。さらけ出された2人の下腹部が白く固まり、ところどころにヒビが入っていた。

「何なの、コレ!?・・・お姉ちゃん!」

 困惑する美優。

「う、動けない・・・コレって・・・!?」

 下腹部の自由が利かなくなったことを痛感する彩夏が顔を赤らめる。

「これで終止符が打てるわね。あなたたちの罪も悲しみも。」

 その声に彩夏と美優が振り向く。研究室の扉の前に、アスカが妖しく微笑みながら立っていた。

「あなた、私たちに何をしたの!?体が、石に・・・!」

 困惑を隠しきれない彩夏が問いかける。するとアスカは微笑を見せて答える。

「今、私はあなたたちの能力を完全に抑え込む力を使ったのよ。今のあなたたちは私のもの。このまま石化に包まれて楽になりなさい。」

 アスカが見守る中、彩夏と美優は体の中から湧き上がる気分に襲われる。今まで感じたことのないような、天にも昇るような感覚に。

  ピキキッ パキッ

 2人にかけられた石化はさらに広がっていく。それに連れて、快感が彼女たちの体を駆け巡っていく。

「なに・・体の中を流れるこの気分は・・・!?」

 彩夏が美優を抱きしめながら、その快楽を感じてあえぐ。波のように押し寄せる快感を、彼女たちははねのけることができない。

「フフフ、あなたたちはまだ感じたことがないようね。体が石になっていくことで、その石の体は冷たくなる。その冷たさが、人の持っている温かさが入り混じり、心地よくさせる不思議な気分を与えるのよ。」

 アスカがゆっくりと彩夏たちに近づく。その表情は相手に愛嬌を伝えるようなものだった。

「それは自分と自分以外の人との肌と肌の触れ合い。愛の形が成した安楽よ。」

「愛の・・・」

 困惑の消えない彩夏。

「お姉ちゃん・・・」

 その快楽をはねのけようと、美優が全身に力を込める。ガルヴォルスとなり、その力で石化を解けないものかと試みた。

 だが、石化が解けるどころか、浮かび上がっていた紋様がすぐに消えてしまった。

「変身、できない・・・」

「だから言ったでしょ?これはあなたたちの力を封じ込めるためのもの。その効果で、あなたたちはビーストやガルヴォルスになることはできない。」

 呼吸の荒くなる美優の頬を、アスカが優しく手を差し伸べる。彼女は抗いたかったが、石化していく体では叶わぬことだった。

「そして、こうしたらもっと気持ちよくなれると思うわ。」

「えっ!?な、何!?」

 アスカが彩夏と美優の下腹部に手を伸ばしてきた。まず、彩夏の秘所に手を当てる。

「うく・・うあぁ・・・ぁぁぁ・・・」

「お姉ちゃん!」

 今までにない刺激を感じて顔を歪める彩夏。それを見かねる美優。

 彼女たちの反応を確かめながら、アスカはさらに彩夏の石化した秘所を撫でる。石に変わり果てていても、感覚は失われてはいなかった。

「あはあぁぁ・・・イヤ・・胸が張り裂けそう・・・!」

「そう。そうやってあなたたちは感じて、心身ともに洗われるのよ。獣としての進化でけがれたその身体を、私の力が洗い流すのよ。」

「やめて!お姉ちゃんに触らないで!」

 満面の笑みを浮かべるアスカに、美優が悲痛の叫びを上げる。するとアスカが彼女に視線を移す。

「今度はあなたの番よ、美優ちゃん。」

「えっ・・・!?」

 微笑むアスカに動揺する美優。彩夏に触れていた手が、今度は美優の体に触れる。

「んあぁぁ・・・はぁぁ・・・!」

「み、美優・・・」

 今度は美優があえぎ出す。苦悶の表情を浮かべる彼女に、彩夏がたまらず声をもらす。

 彩夏に刺激を与えたアスカの手。石の秘所を撫でられて、美優が快楽に溺れ出す。

「やはり子供には刺激が強すぎたかもしれないわね。でも、あなたたちでも心地よくなれる。その反応からも、私はよく分かるわ。」

 微笑むアスカと困惑する彩夏の眼の前で、美優が顔を歪める。強い快感と刺激が彼女の心身を蝕んでいく。

  ピキッ ピキッ

 その間にも石化は進行し、彩夏と美優の上半身を白く冷たい石に変えていく。

「くあぁぁ・・・あはぁ・・・!」

 固まっていく自分の体に、彩夏と美優はさらなる快感を感じる。もはや自分の意識を保つことさえ困難だった。

「そんな・・・体が石になってくだけで、こんなにすごい気分になっちゃうなんて・・・」

「フフフフ、石化でさえ心地よくなってきてるようね。もう抗うことも苦しむことも、悲しむこともない。」

「やめて・・・」

「私に全てを委ねなさい。そうすればあなたたちは楽になれる。人々から迫害されることもなく、人々との共存も望める。」

「やめて・・・!」

 全てを見透かしたように語りかけるアスカ。必死に抗おうとする彩夏だったが、彼女の支配から逃れることができなかった。

「お姉ちゃん・・・」

「美優・・・」

「あなたたち姉妹は、これからずっと一緒にいられる。傷つくことも悲しむこともない。私が守ってあげる。」

 アスカの背中から天使の翼が広がる。両肩には小さな天使が止まっていた。

「神である私が、あなたたちの悲劇を終わらせる。

  パキッ ピキッ

 石化は彩夏と美優の両手両足を包み、顔にまで及び始めていた。2人は完全に脱力し、姉妹の互いの顔を見つめることしかできなくなっていた。

「美優、ゴメン・・・まも・・れ・・なく・・・て・・・」

「いいよ・・おねえ・・ちゃん・・・」

「み、ゆう・・・」

 力なく互いの顔を見つめ合う2人が、優しく抱きしめ合う。石と化していく体に、姉妹のあたたかな心が伝わっていく。

  ピキッ パキッ

 唇さえも石になり、声を発することもできなくなる。ビーストとして頭部に生えている猫耳も石となり、髪も固い白糸となっていた。

(タッキー、ジュンさん、おーちゃん、たくみさん、ゴメン・・・ごめんなさい・・・)

 思いを巡らせる彩夏。その眼には大粒の涙。

    フッ

 その瞳さえも亀裂が入り、2人から生気が完全に消失した。

「これでビーストとガルヴォルスの姉妹も、私のものとなった。これで手にすべき悪魔、残るは4人。」

 アスカが完全な石像となった姉妹に手を添えて微笑む。

「いえ、3人ね。」

 後々、自分の言葉に訂正を加える。

「もうすぐ、4人の悪魔のうち、1人が滅びる。今、2人が対峙し、牙を交える。」

 研究室の出入り口を見つめて、さらに笑みを強める。

「さて、次に手にするのは・・・」

 石化した2人の姉妹の石の体を優しく抱きとめて、次の標的を選別するアスカ。

 天使の翼が3人を包み込み、まばゆい光とともにこの研究室から消えていった。

 

 

次回予告

第16話「魔女」

 

凶暴性を見せ付ける怪物の脅威。

満身創痍となり追い詰められる和美。

そこへ駆けつける和海。

大切な人を守るため、内に秘めた憎悪を解放する。

Wカズの逆襲が始まる。

 

「ジュンちゃんを助けるため、私は心を凍らせて魔女になる!」

 

 

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