ガルヴォルスinデビルマンレディー 第14話「恐怖」

 

 

 和海たちの乱入で、研究施設内は混乱していた。

 困惑して逃げ惑う人、消火器を受けて身動きが取れなくなってしまった人。

 その中で、和海たちは思考を巡らせていた。金属化しているたくみとジュンをどうやって助け出すのか。

「そうだ!夏子さんから、ここについて聞かされていたんだった!」

 そのとき、彩夏が夏子から聞いた話を思い返していた。それは、この施設に関する必要な情報だった。

(たしか、この機械のこのスイッチとメーターで、たくみさんとジュンさんが元に戻るって・・)

 聞かされた通りに、実験室の隣の研究室にある機械を操作していく彩夏。

(このスイッチを入れてから、このメーターをゆっくりと下に下げていく。あと、あの筒の締め具合を緩めるメーターを操作して・・)

 研究員である父親の影響からか、記憶力と機械いじりには自信がある彩夏。次々とスイッチとメーターを適確に操作していく。

 そして押すべき最後のスイッチを押すと、振動が起こって筒の拘束が緩む。

「これで出せるはずですよ。」

「たくみ!」

 安堵する彩夏の視線の先で、たくみとジュンが倒れる。和海たちが彼らの金属化した体を受け止める。

「たくみ!ジュンさん!しっかりして!」

「大丈夫。今はまだ金属になってるけど、硬質化させる電磁波が届かなくなったから、すぐに元に戻るって。」

 たくみたちに呼びかえる和海に声をかける彩夏。未だに金属化が解けない2人だが、電磁波が及ばなくなれば元に戻ると夏子に聞かされていた。

「とにかく、早くここを出よう。警備の人とか来ちゃうよ。」

 和美の言葉を受けて和海が頷く。たくみは和海が、ジュンは和美がそれぞれ運び、彩夏と美優とともに研究室を出て行った。

 

 研究室を出てから数分後、金属になっていたたくみとジュンの体が、元の人間の色を取り戻した。その直後に、2人は意識を取り戻した。

「こ、ここは・・・?」

「あっ!ジュンちゃん!気がついたんだね!」

 呟きをもらすジュンに、和美が喜びの声を上げる。たくみも頭に手を当てながら、自分の意識を確かめている。

「オレたちは・・確か、アスカとかいう女と巨大な怪物にやられて、研究室で実験のために金属にされたんだった・・・元に戻ってるのか・・・?」

「うん。私たちが助けに来たんだよ。なっちゃんにここのことを聞いてね。」

「なっちゃんに?」

 和海はたくみたちに事のいきさつを話した。

 何者かに2人が連れ去られたこと。そのことで夏子が助けを求めてきたこと。そして決死の覚悟で研究施設に入り込み、2人を助け出したこと。

「そうだったのか・・・ありがとな、みんな・・」

「気にしなくていいよ。私たちがそうしたかったから、そうしただけだよ。」

 たくみがすまなそうに言うと、和海が笑顔でそれを迎え入れた。ジュンも和美も、彩夏も美優もそれに微笑んでいる。

「何だよ・・オレの受け売りじゃねぇかよ・・・」

「そのくらい、私はたくみが好きなんだよ・・」

 照れ隠しにいうたくみに、再び満面の笑顔を見せる和海。嬉しさを隠したいあまり、たくみは思わず赤面していた。

「とにかく、早くここを出ましょう。夏子さんも心配してますし。」

 ジュンがたくみたちに呼びかける。たくみと和海は彼女の言葉に頷き、さらに歩を進めた。

 そして彼らは施設の外に出ることができた。

「あともう少しで出られるわ。」

「この調子なら戦わずに出れそうね。」

 ジュンが呟き、和美が笑みをこぼす。

「そこまでだ!」

 そのとき、軍服に身を包んだ男たちがいっせいに現れ、たくみたちを取り囲む。彼らは武装した銃を集中させていた。

「ヤ、ヤバイよ・・」

「た、たくみ・・・」

「くそっ!ここまで来て・・・!」

 動揺する和海と和美。毒づくたくみ。

「まさか逃亡を図るとはな。だがこれまでだ。他の連中もどうやらガルヴォルスかビーストのようだな。お前たちも研究材料にしてやるから、ありがたく・・」

 そのとき、指揮官と思われる男の言葉をさえぎって、突然爆発と轟音が巻き起こった。

「な、何だ!?」

 突風にあおられながら、たくみたちが驚く。揺らめく噴煙の中から、巨大な角が現れてきた。

 たくみたちを地に伏した巨大な怪物が、再び姿を現した。理性を失い、見境をなくしている怪物が、本能的に力を持っていると感じたたくみたちを視認し、荒々しい吐息をもらす。

「な、何なの、アイツ!?」

 驚愕する和美。

「危ない!」

 ジュンの叫びに、全員がそこから回避する。その直後に、怪物が前足を勢いよく叩きつけてきた。

「これじゃ戦いは避けられそうもないよ!」

「気をつけろ!そいつの体はとても硬い!オレの剣も受け付けなかったんだ!」

 叫ぶ和美。たくみがみんなに注意を促す。

 怪物はさらなる咆哮を上げて、前足を下ろして地面を揺らす。

「とにかく、ヤツの顔を狙うんだ!もうそこしか狙うところはねぇ!」

 たくみが指示を送った直後、怪物が再び突進してくる。

「うわっ!」

「キャッ!」

 その強烈な突進でたくみ、和海、彩夏、美優が弾き飛ばされ、ジュンと和美が突進に巻き込まれた。

「タッキー!ジュンちゃん!」

 倒された和海が、怪物に引き込まれたジュンと和美に向かって叫ぶ。彩夏と美優は反対の建物に叩き込まれて、出てくる気配がない。

「和海、オレがジュンとタッキーを助ける!お前は・・・」

 指示を送ろうとしたたくみが、途中で言葉を止める。彼の眼前に、悪魔の姿をした1人の男が立っていた。

 たくみに復讐心をたぎらせるビースト、鬼塚蓮である。

「よく無事でいてくれたな。オレは嬉しいぜ。」

「そうかい?オレはあんまり嬉しくないけどな。」

 笑みを見せる蓮に、呆れ気味のたくみが目じりの辺りを指でかく。

「たくみ、彩夏ちゃんと美優ちゃんの姿が見えないの!」

「何だって!?」

 そこへ和海が声を上げ、たくみが振り向く。

「建物の中を見てみたんだけど、大きな穴があって・・多分、そこに落ちたんだと思う!」

 和海に言われてたくみは少し不安になる。だが、彩夏はビースト、美優はガルヴォルスである。人を超えたその能力で、必ず無事で入るはずだ。

「和海、お前はジュンとタッキーを助けて、彩夏ちゃんたちを探してくれ。」

「たくみは?」

 和海が問いかけ、たくみは眼前の悪魔をじっと見据える。

「オレは、アイツとケリをつける。」

 真剣な眼差しのたくみを見つめる和海。過去の因果、宿命、決意、それらを秘めた彼の心境に、和海は小さく頷いた。

「分かったわ、たくみ。ジュンさんたちは私に任せて。」

「ああ。任せた。」

 了解した和海に、たくみは笑みを浮かべてジュンたちを任せた。彼女が駆け出し、蓮の横をすり抜けていった。しかし蓮は彼女に眼もくれず、ひたすらたくみを見据えていた。

「あくまでオレが狙いってわけか。」

「そうだ。貴様はオレの人生を崩壊させた敵。それ以外の何者でもない。邪魔をしない限り、他の連中などどうでもいい。」

 蓮が背中の悪魔の翼を大きく広げる。

「貴様の息の根を止める。それが、今のオレの全てなんだよ!」

 蓮が復讐心に駆られて哄笑を上げる。その姿を、たくみは哀れむような表情で見つめている。

「こうして戦えるのが、オレにはいい気分だぜ。」

「ホントに、そう思ってるのか・・・?」

 たくみの顔に紋様が浮かぶ。そして彼の姿が悪魔に変貌する。

 

 一方、ジュンと和美は怪物の突進に巻き込まれて別の施設の近くまで吹き飛ばされていた。

 2人とも肩で息をしていて、唸り声を上げている怪物を見据えていた。

「このままじゃやられちゃうよ!ジュンちゃん!」

 和美が視線で指示を送り、ジュンはそれに頷く。そして彼女たちは全身に力を込める。

 髪は大きく揺らめき、半壊していた衣服も完全に引き裂かれる。やがて2人の姿が獣に、悪魔に変貌した。

 怪物はさらなる咆哮を上げ、2人に突っ込んでくる。ビーストとなった2人に対し、本能的に敵対しようとしていた。

(あのビーストの体は鋼鉄並み。狙うなら・・・!)

 ジュンは獣としての眼光を光らせ、背中の翼を広げて飛び上がった。怪物の突進をかいくぐり、その頭部に爪を突き立てる。

 しかしそれはフェイクだった。そこへ和美が飛び込み、怪物の右目に悪魔の爪を突き刺した。

 眼を潰され、怪物が絶叫を上げる。遠近感が取れなくなり、さらに見境をなくして暴れだす。

「今だよ、ジュンちゃん!」

「うん!」

 和美の声を受けて、ジュンが怪物にとどめを刺そうとさらに飛びかかった。

 そのとき、そこへ数本の刃が飛び込んできた。

「うあっ!」

「ジュンちゃん!」

 突き飛ばされるジュン。叫ぶ和美。

 近くの建物の壁に叩き込まれるジュンに、和美は駆け寄った。

「ふう。まだ生きててくれたんだ。よかった、よかった。」

 その傍らで安堵していたのは、水色の髪の少年、桐也だった。

「あなた、あのときのガルヴォルス・・」

「いろいろ話は聞いてるよ。不動ジュン、滝浦和美。どっちも悪魔の姿をしたデビルビーストなんだったね。」

 無邪気な子供の笑みを見せる桐也。その顔に紋様が浮かぶ。

「ビーストとガルヴォルス、どっちが強いのかな?」

 その姿が白い毛に覆われた獣に変わる。桐也がジュンと和美に向けて右手を伸ばす。

 その瞬間に2人が回避行動を取る。そこに桐也が放った氷の刃の群れが飛び込んでくる。

「さて、まずはジュンから遊び相手になってもらおうかな。」

 桐也が体勢を整えたジュンに狙いを定める。刃を放った右手から、今度は冷たい吹雪を放つ。

「うわっ!」

 吹雪をかけられたジュンが、建物の壁に叩きつけられる。

「ジュンちゃん!」

 和美がジュンに駆け寄ろうとする。しかしそこへ怪物が割り込んでくる。

「邪魔しないで!」

 苛立った和美が、鋭い爪を怪物に突きつけた。

 

 桐也が放つ猛吹雪。それは建物内の地下駐車場に吹き飛ばされたジュンの手足を凍りつかせ、彼女を壁に張り付けにした。

 凍らされた手足から感覚が奪われていく。同時に意識ももうろうとなって、眼も虚ろになっていた。

「なかなかの格好だね。張り付けにするのが十字架だったら、もっといい感じになってたんだけどね。」

 満身創痍の彼女を、桐也がまじまじと見つめる。

「まぁいいや。これで鬼ごっこは終わりだよ。次はじっくりといじめタイムといくかな。」

 そういって桐也は右手をかざし、氷の刃を作り出した。そしてそれを使って、ジュンの体を突き始めた。

「うはぁっ!ああぁっ!」

 刃を体に突き立てられて、ジュンが苦痛を感じ悲鳴を上げる。その様子を見て桐也が微笑む。

「それっ!もっといくよ!」

 桐也はさらに刃を突きつけ押し込む。その拍子で張り付けに使っていた壁が崩壊し、ジュンがその崩壊にのまれていく。

「あら?ちょっとやりすぎちゃったかな?さて、次はどんなゲームをしようか。おっと、その前にジュンを引っ張り出さないとね。」

 桐也は遊び心を保ちながら、ジュンが埋もれているだろう、壁の瓦礫に手を伸ばす。そのとき、

 

     ドクンッ!

 

 そのとき、桐也は強い胸の高鳴りに襲われる。思わず自分の胸に手を当てる桐也が、その拍子で人間に戻る。

「な、何だ・・・この胸の・・・!?」

 驚きのあまり眼を見開く桐也。彼はふと振り向くと、そこにはアスカ蘭の姿があった。

 アスカは妖しくも苛立ちのこもった笑みを浮かべて、桐也を見つめていた。

「何しに来たんだ、アスカ?・・僕に何をしたんだよ!?」

 桐也がアスカに向かって叫ぶ。無邪気な少年の顔が、憤怒の表情に変わる。

「あまりジュンを傷つけてほしくないものね、桐也くん。彼女は私だけのものなんだから。」

「イヤだね、イヤだねぇ。後からやってきて横取りする気かい?」

 桐也があざけるように首を横に振る。

「僕は面白いゲームをさせてくれるって言うから、君の誘いに乗ったんだよ。不動ジュンは君じゃなく、僕の獲物なんだよ。」

「それはどうかしら?」

  ピキッ ピキッ

「えっ!?」

 アスカが微笑んだ直後、桐也の着ていた衣服が引き裂かれる。さらけ出された彼の体が白い石に変わっていた。

「ちょっといたずらがすぎたようね。あなたにはお仕置きをさせてもらうわ。」

 笑みを強めるアスカ。頬を赤らめた桐也が、さらなる怒りをこみ上げる。

「僕に・・僕に何をしたんだ!?僕にこんなことをして・・・!」

  ピキキッ パキッ

 桐也にかけられた石化が彼の下半身を包み、さらに上半身に及び始めた。

「僕は強いんだ・・僕は1番強いガルヴォルスなんだ・・僕がこんなくだらないやられ方をするなんて・・・!」

 必死に抗う桐也。だが、石化に蝕まれた体は彼の言うことを聞いてくれない。

 アスカはそんな彼にゆっくりと近づいていく。

「確かにこんなんじゃ、屈辱的なのもムリはないわね。でも恥じることはないわ。なぜなら・・」

 桐也の頬に手を当てるアスカの両肩の辺りに、小さな天使の姿が現れる。幻ではないかと見間違うような、小さくかわいらしい天使だった。

「私は神なのだから。」

「神・・・!?」

 アスカの言葉に桐也が疑問符を浮かべる。

「神の前には、悪しき魂も力も無力になる。あなたは相手する人を間違えたのよ。ジュンを狙わなければ、あなたのすきなゲームが存分にできたのにね。」

「き、君は、何を・・・!?」

「あなたは私のもの。失意と快楽の中で、穏やかに眠りなさい。」

 そういってアスカは、困惑する桐也に口付けを交わす。魔性の口付けが、ガルヴォルスの少年の心を静めていく。

  パキッ ピキッ

 桐也の石化が全身を包み、首筋に達し始める。彼の中にある戦慄と理性が徐々に失われていく。

(僕は・・もっともっと楽しみたいのに・・・)

  ピキッ パキッ

 アスカが口付けをやめた直後、桐也の唇が石に変わる。

   フッ

 そしてその瞳に亀裂が入り、桐也は裸の石像と化した。

「そう。これこそが、今ある唯一の、ガルヴォルス、デビルビースト、双方の力を完全に抑え込む術。研究と対策の練り上げは今も進められているが、それまでに彼らの牙が人間を滅ぼさないとも限らない。」

 アスカは再び桐也の石の頬に手を当て、その手のひらを見つめる。

「神である私が、彼らの凶暴性を抑える。それが、彼らと人間との共存にもつながる。誰かが述べたような綺麗事の実現となるのよ。」

 物言わぬ桐也を優しく抱きとめるアスカ。彼女の背中から、天使のような白い翼が広がる。

「恐怖と不安が消えない限り、共存は決して望めないものよ。」

 白い翼が微笑むアスカと桐也を包み込む。そして霧散するように翼が散ると、2人の姿はそこから消えていた。

 

 怪物の突進に弾き飛ばされ、建物への衝突の直後にその中の穴に落下した彩夏と美優。

「お姉ちゃん・・・」

「美優、大丈夫?」

 不安の声をもらす美優に、彩夏が声をかける。美優はそれに小さく頷く。

 2人が落ちたのは、先程とは別の研究室と思しき場所の扉の前だった。他の場所とは違い、ここは人が訪れた形跡が少なかった。

「みんな、大丈夫かな?」

「心配ないと思うよ。たくみさんもジュンさんもタッキーもおーちゃんも、みんなしっかりしてるから。」

 たくみたちの安否を心配する美優。しかし彩夏の言葉に励まされて、彼女は笑顔を取り戻した。

「それより、ここって・・・」

「・・・?」

 彩夏はこの研究室を知っていた。しかし美優は知らず、無言のまま疑問符を浮かべている。

 彩夏はゆっくりとその扉に手を当て、徐々に力を入れて開く。真っ暗だったその研究室が、外の光を受け入れて照らされる。

 彼女はその中も覚えがあった。幼いときに父親が忘れ物をしたときに、1人で何とかここを訪れたのだった。

 そこで父親をはじめ、他の研究員たちに優しくされたことから、彼女はこの場所を覚えていたのだった。

 彼女は安堵していた。薄暗く、あまり使われていなかったが、あのときの研究室と変わってなく、懐かしさを感じていた。

 しかし彼女が足を止め、笑みが消える。

「こ、これって・・・!?」

 彩夏は研究室の突き当たりを見て愕然となった。美優も同様の表情を見せる。

 その壁に張り付けにされていたのは、2人の父親だった。

 

 

次回予告

第15話「父親」

 

久しぶりに父親と再会した彩夏と美優。

しかし眼の前にいるその人は、もはや父親ではなかった。

狂気に駆られた肉親に戸惑う2人。

そして、それを見つめるアスカの微笑。

恐るべき陰謀が幕を開ける。

 

「父さんは死んだ・・・あの人に殺されたのよ・・・!」

 

 

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