ガルヴォルスinデビルマンレディー 第13話「正義」

 

 

 怪物がたくみとジュンに狙いを定め、ものすごい勢いで突進してきた。

「くそっ!」

 たくみは舌打ちしながら、悪魔へと変身する。ジュンも悪魔に変身し、怪物の突進をかわす。

 しかし怪物は長い尻尾をジュンに叩きつけた。

「ぐっ!」

 尾の強い衝撃を受けて草原に叩き落されるジュン。怪物は間髪入れずに尻尾を彼女にさらに振り下ろす。

「ジュンさん!」

 たくみが出現させた剣を振りかざして、怪物に飛びかかった。そしてその怪物の体に剣を突き立てる。

 しかしたくみが振り下ろした剣は、怪物の皮膚を切り裂くどころか、鈍い音を立てて折れてしまった。

(何っ・・!?)

 たくみは思わず眼を疑う。怪物の皮膚は鋼鉄並みの強度を持っていた。

「ぐふっ!」

 怪物が頭を振ってきた。その巨大な角が体を切り裂き、たくみがうめいて叩き落される。

「た、たくみくん・・!」

 ジュンがたくみの落とされたほうに手を伸ばす。しかし力が入らず、人間の姿に戻った彼女はそのまま意識を失った。

 怪物に落とされたたくみも、人間の姿に戻っていた。戦意が感じられなくなり、怪物は先程の凶暴さがウソのように大人しくなっていた。首に付けられている制御装置の効果なのだろう。

「手荒になってしまったけれど、これであなたたちは・・・」

 意識を失ったたくみとジュンの姿を見下ろし、アスカは妖しく笑っていた。

 

 ガルヴォルスに変身したたくみの気配を、和海は感じ取っていた。

 彼女はすぐに家を飛び出し、その気配を探りながら田園の小道を駆け出した。

(たくみ、どこにいるの!?・・・イヤな予感がするよ・・・)

 一抹の不安を抱えながら、和海は周囲を見回した。

「おーちゃん!」

 そんな彼女を和美が追いかけてきた。和美もたくみとジュンのことが気がかりになっていた。

「たくみたちに何かあったのかもしれない。そんな気がしてならないの。」

 そわそわした面持ちで、和海たちは周囲を見回していく。

「あ、あれ!」

 そこで和美は、止まっているトラックを発見した。軍服に身を包んだ男たちにそのトラックに入れられているのは、

「た、たくみ!?」

「ジュンちゃん!」

 和海と和美は慌しくそのトラックに向かって駆け出した。しかし2人が追いつく前に、トラックはたくみとジュンを乗せて発進してしまった。

 トラックが止まっていた場所で、2人は足を止める。

 ここから攻撃することはできた。しかし安否の分からないたくみたちのいるトラックに、迂闊な攻撃はできなかった。

「たくみ・・ジュンさん・・・」

 和海は困惑の面持ちで、走り去るトラックを見送るしかなかった。

 

 たくみとジュンが眼を覚ますと、そこは暗く不気味な場所だった。両手と下半身に不快な感触が伝わり、それに拘束されて動けない状態にあった。

「ここはいったい・・・な、何だ、コイツは・・・!?」

 驚きを感じながらもがくたくみ。しかしその周りの物体を振り切ることができない。

 それは鉄の筒のようなものだった。それが縛り付けているのか絡み付けているのかして、たくみたちを捕らえているのである。

「ジュンさん!眼を覚ますんだ、ジュンさん!」

 たくみが大声でジュンを呼び覚まさせる。するとジュンは意識を取り戻し、ゆっくりと眼を開ける。

「ここは・・・?」

 ジュンもたくみと同じような反応を見せる。

「分からない・・・けど、オレたちはあのバケモノにやられて、そのまま気絶しちまったんだ・・・」

 たくみが周囲を見渡しながら、ジュンに説明する。が、ジュンも説明したたくみ自身も、どういう状況下にいるのかよく理解できていなかった。

 それでも何とか状況を把握しようとする。

 上半身は何も身に付けていない。鉄に取り込まれているものの、普段着用しているジーンズははいているようだ。

 ジュンも似たような状況下にあるようだった。

「とにかく、早くここから脱出して、外に出ないと・・・」

 たくみは満身創痍の体に力を入れ、ガルヴォルスへの変身を試みた。

「うがっ!」

 すると鉄の筒を伝って、強烈な電撃がたくみを襲った。その衝撃に集中力が乱れ、顔に浮かび上がっていた紋様が消えてしまった。

「たくみくん!」

「くっ・・なんて電撃だ・・・これじゃ力が・・!」

 ジュンが叫び、たくみが電撃の威力に顔を歪める。

「あまり暴れないほうがいいわよ。」

 突如発せられた声に、たくみとジュンに緊張が走る。その声は紛れもなく、彼らを連れ去った張本人、アスカ蘭だった。

「アスカ・・・」

「あなたたちを捕まえているその筒の檻は、体の変化が起こると電気ショックを起こるよう設定してあるわ。つまり、あなたたちはビーストやガルヴォルスに変身することはできない。」

 アスカが言い終わると、部屋の明かりがいっせいに照らし出した。突然の暗から明の変化に、たくみとジュンが眼を狭める。

 ここは灰色の鉄に囲まれた部屋で、たくみたちは鉄の筒に体の自由を奪われていた。その奥のガラスの先には、白い制服に身を包んだ研究員と思しき人たちが数人見られた。

「ようこそ。ここは私たちの本部の研究室よ。」

「研究室・・!?」

「ここであなたたちは、私たちの研究に協力してもらうわ。」

「アンタ、いったい何を企んでるんだ!?オレたちに何をするつもりなんだ!?」

「あんまり騒がしい人は、私は好きではないわ。」

 叫ぶたくみに、アスカが妖しく微笑む。

 するとたくみとジュンに、再び衝撃が襲った。痺れるような嫌悪感だったが、先程の電撃とは異なるものだ。

(な、何だ・・・この電気は・・体に力が入らない・・体の自由が・・・!)

 痛烈な振動に胸中でうめくたくみ。ジュンもその衝動に顔を歪めている。

 そのとき、2人は体に冷たいものを感じ始めた。たくみが視線を移すと、自分の体が鉄の筒と同じ灰色になり始めていた。

「な、何なんだよ、コレは!?」

 さらなる驚愕を見せるたくみ。変色はさらに彼らの体を駆け上っていく。

「今あなたたちに特殊な電気信号を送っているわ。それを受ければ、体の中の細胞が一時的に金属のように固くなり、固められたあなたたちは自由に動くことができなくなる。」

「な、何だとっ!?」

 うめくたくみが、体の金属化に不快感を感じ始める。まさに鉄になったように固く冷たくなっていく気分だった。

「こうする理由は2つ。1つは金属化させたほうが実験がしやすいため。もう1つはあなたたちの力の暴走を抑えるため。」

 アスカがたくみとジュンに淡々と説明していく。

 デビルビースト、ガルヴォルス双方において、窮地に立たされることによって獣の本能が活性化され、持てる力の暴走を引き起こす。まさに本物の獣になったかのように、見境をなくして牙を向く。

 それを阻止するためにも、こうした金属化の事前対策を打っておくのである。

 また、肉体の細胞を金属化させておけば、電気実験、細胞変化、脳内変化、神経伝達など、あらゆる実験がやりやすくなる。

「さぁ、ひとまず眠りなさい。私たち人間と、その進化の共存を実現するために。」

「ジ、ジュン・・・!」

「その肉体の解明こそが、共存の鍵になるかもしれないわ。」

 うめくジュンを、アスカは妖しく微笑んだ。

 金属化が首筋に達してきたとき、たくみとジュンの意識が薄らいできた。まぶたが重くなり、完全に視界が暗闇に包まれていく。

 そして意識が完全に失われたとき、2人の体は完全な金属と化した。アスカたちに弄ばれる、完全なる実験体に。

「これは、どういう・・・!?」

 実験室のガラスの奥の部屋。研究員が大きな動きを見せ始めたその場所で、夏子は驚愕を覚えていた。

 そこへ移動してきたアスカが、彼女の動揺をうかがって微笑む。

「あなたも来てたのね、夏子さん。」

「ア、アスカさん、これはいったい何ですか!?」

 動揺を隠せないまま、夏子がアスカに振り返る。

「ここはビースト、ガルヴォルスの調査を目的とした実験場。ここで彼らから様々な情報を収集するつもりよ。」

「彼らって・・・あっ!」

 夏子はガラス越しに見えるたくみとジュンの変わり果てた姿を目の当たりにする。2人とも鉄の筒に捕らえられ、体が金属のようになって動かなくなっていた。

「たくみ!ジュン!」

 夏子が叫ぶが、2人は全く反応しない。

「ムダよ。今の2人は全くの金属。呼びかけるだけ意味はないわ。」

「どういうことなんですか、アスカさん!?なぜ、たくみとジュンがこんなことに!?」

 夏子はたまらずアスカに問いつめた。しかしアスカは顔色を変えない。

「ビーストとガルヴォルスの早急の解明。その実験を行うに、彼らが最も適していると分析、判断したからよ。」

「そんなこと・・・」

「彼らの力で、人とその進化の間にある溝を埋めることができる。共存も十分可能になるはずよ。」

 悠然と語るアスカに、夏子は返す言葉が見つからず、腑に落ちない心地のまま研究室を出ようとする。

「助けるつもりなら、覚悟しておいたほうがいいわよ。」

 アスカのこの言葉に夏子が足を止める。

「あなたがこうしてデビルビースト対策本部を設立、指揮できるのは、私が助力したおかげでもあるのよ。果たして私がいなくても、あなたはその活動を維持できるの?」

 悠然な態度を崩さないアスカに言いとがめられる夏子。

 今まで彼女がビーストとガルヴォルスに関する調査を続けてこられたのは、アスカが力添えしてくれたおかげといっても過言ではない。

 もしこのままたくみたちを助ければ、アスカとの敵対は避けられなくなる。夏子は困惑を拭えないまま、研究室を出て行った。

 

 たくみとジュンが戻らないまま、和海たちは一路帰宅することにした。情報源があまりにも少ない彼女たちは、街に残った夏子の力を借りようと考えていた。

「刑事のなっちゃんなら、きっと力になってくれる。たくみたちがどこに連れて行かれたのかも分かるはずだから。」

 そんな期待を胸に秘めながら、和海はビルの近くまでやってきていた。そこで彼女たちは夏子の姿を目撃したのだった。

「あっ!なっちゃん!」

 和海は慌てて夏子に駆け寄った。その後を彩夏と美優も続く。

「夏子お姉ちゃん、大変なの!たくみお兄ちゃんとジュンお姉ちゃんが・・!」

「分かってるわ。」

「分かってるって・・!?」

 美優の言葉に夏子が頷き、彩夏が驚く。

「彼らはビーストとガルヴォルスの調査と実験のために利用されようとしているわ。このままじゃ2人とも危険よ。」

「そんな!?たくみが・・!」

「私には2人を助けることができない。あなたたちの力が必要なの。お願い、2人を頼む。」

「なっちゃん・・・」

 夏子の悲痛を込めた願いに、和海は戸惑った。

 いつも真剣で人に弱みを見せない彼女が、自分の無力さを悔やみ、和海たちの力を借りようとしている。相当辛いのだと和海は直感していた。

「なっちゃん、たくみとジュンさんはどこ!?私たち、2人を助けるために戻ってきたんだよ。」

「長田さん・・・分かったわ。すぐに出るわよ。準備して。」

 和海の言葉を受けて、夏子は彼女たちに指示を送った。

 

 一方、研究室ではアスカと研究員によって、たくみとジュンは様々な実験を受けさせられていた。

「脳内の電気信号の具合はどうだ?」

「細胞の崩壊過程を計測するんだ。」

「さすが人類の進化系。普通の人間を大きく超えるステータスだ。」

 その中でたくみとジュンは全く反応しない。体を金属質に変えられ、意識が完全に途切れてしまっていた。

「それじゃ、私は別の仕事があるから、ここは任せたわ。」

「了解しました。」

 アスカが言うと、研究員の1人が頷く。それを見てから、アスカは1人研究室を出て行った。

 

 和海たちが研究施設に侵入してきたのは、アスカが研究室を出た直後だった。

 夏子から施設に関することを聞いた彼女たちは、たくみとジュンのいる研究室を目指した。

 研究に深く関わっている夏子とは別行動を取ることとなった。彼女は和海たちのバックアップを引き受けた。

 施設前、施設内の警備を潜り抜け、さらに数人の研究員を気絶させ、その衣服を借りて彼らになりすまして施設を探り出した。

 そしてついに、たくみとジュンのいる研究室の前にたどり着いた。

「あっ、いた。」

 和海は小声で和美、彩夏、美優に合図を送る。

「どうするの?人がいっぱいいるよ。絶対見つかっちゃうよ。」

 美優が心配の声をもらすが、和海と和美は何かを狙う面持ちでいた。

「ここまで来たら後はもう強行突破するしかないよね、おーちゃん?」

「そうだね。」

 和美の言葉に和海は笑みをこぼして頷く。その2人の態度に、彩夏と美優は困惑するしかなかった。

「いい?覚悟を決めて。それじゃ行くよ。」

 和美が和海たちに号令を送る。

「1、2の、3!それっ!」

 和美がドアを開け放った直後、全員がいっせいに研究室に飛び込んだ。

「な、何だ、お前たちは!?」

 和海たちの突然の乱入に驚愕する研究員たち。

 和海と和美が研究員たちをかき分けて進み出る。彩夏と美優が、近くに設置されていた消火器を噴射して、研究員たちを撃退する。

「たくみ、しっかりして!」

 和海たちがたくみたちの体に駆け寄り呼びかける。しかし金属化したたくみとジュンは、意識がなく反応がない。

「どうしよう!?体が金属みたいになってて、全然動かないよ・・!」

 慌てる和海。たくみとジュンは鉄の筒に同化してしまったかのように取り込まれて、迂闊に外すことができなくなっている状態だった。

 和海の思考が大きく駆け巡り始めていた。

 

「何だとっ!?たくみをガルヴォルス調査の実験体にしただと!?」

 蓮がアスカに向かって叫ぶ。研究施設からバーにやってきた彼女の話を聞いて、ひどく憤慨していた。

 たくみを唯一の敵として認識している彼には、アスカのこの行動が不愉快なことに感じてならなかった。

「彼はガルヴォルスの中でも、最も実験に適していた。サンプルにするには丁度良かったのよ。」

「勝手なマネをしてくれるぜ!」

 蓮はテーブルに拳を叩きつけて、アスカに背を向ける。

「もういい!オレがそこに言って、ヤツを引きずり出して息の根を止めてやる!」

「待ちなさい、蓮。」

 バーを出て行こうとした蓮をアスカが呼び止める。その声に出入り口のところで蓮は足を止める。

「あなたは私の仲間。あなたもそれを承諾しているはずよ。」

「フンッ!ただ手を組んでいるだけの話だ!」

 言いとがめようとするアスカを鼻で笑う蓮。

「貴様はオレにたくみを倒すチャンスを与えてくれるというからここにいるんだ!貴様の飼い猫になったつもりはない!邪魔をするなら、貴様でも殺すぞ!」

「それなら僕も混ぜてよ。」

 そこへ近くの椅子に座っていた桐也が声をかける。

「貴様もオレがたくみを始末するのを邪魔するつもりか!?」

「いや。君がたくみくんを倒すのを、止めるつもりはないよ。ただ、他のは僕がみんなやっつけるから。例えば、不動ジュンさんとか。」

 怒る蓮を、好奇心旺盛な表情で見つめる桐也。彼も体を動かしたくて仕方がなくなっていた。

「そうかい。だったらせいぜい邪魔しないことだな。」

 蓮は怒りをわずかばかり抑えて、バーを出て行った。桐也も立ち上がってその後に続く。

 そんな少年の姿を、アスカは冷ややかな眼つきで見つめていた。

 

 

次回予告

第14話「恐怖」

 

たくみとジュンの救出に懸命の和海たち。

そんな彼女の前に立ちふさがる怪物の猛威。

桐也の襲撃。

蓮の復讐心。

ビーストとガルヴォルスの心の交錯。

満身創痍のたくみとジュンの安否は?

 

「ビーストとガルヴォルス、どっちが強いのかな?」

 

 

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