ガルヴォルスinデビルマンレディー 第11話「歌声」

 

 

「これ以上の暴挙はやめなさい!」

「なっちゃん!?」

 声を張り上げる夏子に、たくみと和海が驚く。周囲の人々が、夏子に鋭い視線を向ける。

「あなたたちが行っているこの行為は、人として恥ずべき行為よ!武器を置いてここから離れなさい!これ以上暴挙に踏み切るなら、暴力現行犯としてあなたたちを取り押さえます!」

 その視線に負けることなく、夏子は警告を促す。しかし人々の敵意は治まらない。

「何言ってんだ!?ガルヴォルスの味方すんのかい!?」

「そうだぜ!」

「邪魔すんなよ!」

 人々の憤りが夏子に叫ばれる。しかし再び、彼女の銃から響いた銃声に一瞬押し黙る。

「これが最後の警告よ。これ以上暴挙に出るなら、私たちは容赦なくあなたたちを拘束する!」

 夏子が強いた警告。しかし逆に人々の感情を逆撫でする結果となった。

「おい!もしかして、コイツもガルヴォルスなんじゃないのか!?」

「ああ!間違いねぇ!」

「仲間同士かばいあってるぜ!」

 あざ笑いを見せる人々が、夏子に向かってくる。彼女が銃口を向けても、その勢いは止まらない。

「なっちゃん!」

 和海が叫びながら駆け出すが、人々には追いつかない。

「やめろぉぉぉーーーー!!!」

 たくみが絶叫を上げて、悪魔の翼を大きく広げた。そして一気に夏子と人々の間に割り込む。

 そこへ男がバットを振り下ろしてくる。それを払いのけようと腕を振り上げる。

 しかし、その悪魔の爪がバットだけでなく、男の体をも切り裂いてしまう。

「うがあっ!」

 鮮血を噴き出しながら、男が絶叫を上げて倒れ込む。

「ちょっと、たくみ・・!?」

 その姿に驚愕する夏子が、思わず上げていた銃を下ろす。たくみの眼が異様なほどに紅く光っていた。本物の悪魔になったように。

 その眼光が次第に弱まっていき、たくみがその男を見下ろす。ガルヴォルスによって傷つけられたその体が固まり、そして砂のように崩れ去って風に流れていく。

 たくみの姿が悪魔から人間に戻る。愕然となる彼が、自分の手を見つめる。

 男を殺傷したその手には、紅い血が滴っていた。

「オレ・・・殺したのか・・・!?」

「たくみ・・・!?」

 振り返ってきたたくみに、夏子は動揺を隠せない。

「こ、殺しちまった・・!」

「おのれ、ガルヴォルスめ!」

 男が殺されたことに怒り、人々が戦意を失っているたくみに襲いかかる。

「たくみ!」

 そのとき、和海が天使の翼を広げた。その輝きに人々がいっせいに彼女に振り向く。

「長田さん・・・!?」

 そして夏子も。

「たくみ!なっちゃん!」

 和海は翼を羽ばたかせて空を飛び、人々の上を飛び越える。夏子はその声で我に返り、体を震わせているたくみをつかみかかる。

「長田さん!」

 夏子の声に和海が手を伸ばす。夏子がその手を取る。

 2人を抱えて、和海は全速力で街の空に消えていく。人々はただ、その飛び去る姿を見送るしかなかった。

 

 たくみたちは一路、自分の住居であるビルに戻っていた。それから和海からの連絡で、ジュン、和美、彩夏、美優もやってきていた。

 たくみは精神的な疲労で、ベットで眠っていた。その傍らで和海が見守っている。

 戦意のないガルヴォルスと人々をいさめるために、たくみはその修羅場に飛び込んだ。しかし人々の狂気は治まらず、逆にたくみはその人間を手にかけてしまった。

 普通の人間を殺してしまったことへの後悔と悲痛が、たくみを限りなく追い詰めてしまった。そのショックで、彼は和海と夏子に抱えられながら気絶してしまった。

 和海もその苦悩にさいなまれ、いても立ってもいられない気分だった。

 しばらく見守っていると、たくみが意識を取り戻した。

「あっ!たくみ・・」

 たくみがゆっくりと起き上がるのに気付いて、和海が声を上げる。たくみは頭に手を当てて、自分の気持ちを落ち着かせる。

「ここは・・・?」

 たくみがおぼろげな意識の中で、和海に声をかける。

「ここは私たちの部屋よ。みんな集まってきてるよ。」

「みんなが・・・?」

 たくみがベットから降り、部屋を出て行く。リビングにはジュンたちが集まっていて、彼の登場にいっせいに振り向く。

「た、たくみくん・・・」

「みんな・・来てたのか・・・?」

 沈痛な面持ちを向けてくるジュン。たくみも困惑の拭えない表情で、彼女たちに視線を巡らす。

「どうしたんだ、みんな・・・?」

 重く沈んだ空気を漂わせている部屋。たくみが緊迫しながらたずねる。

 ジュンの視線に合わせて、たくみと和海がTVを見つめる。

 TVは今、昼間の少年の主張によってもたらされた人々の暴挙について討論会を行っていた。

 ガルヴォルスへの敵意はさらに広がっていった。たとえ普通の人間でも、ガルヴォルスだという疑いがわずかでもかかれば、暴徒と化した人々の制裁を受け傷ついていく。

 ずるがしこい人間がそれを利用して、普段邪魔だと思っている身近な人を排除することまで起きていた。

 街は今、無法の荒野と化していた。

「なんてことだ・・・街が・・こんなことになってるなんて・・・!」

「この事態に私たちだけじゃなく、軍隊まで出て鎮圧を行っているけど、後味の悪い結末ばかりよ。」

 信じられない様子でTVを見るたくみに、夏子が補足を入れる。

「それでも、徐々によくなってはきてるけどね。」

 さらに付け加える。

「オレのせいだ・・・オレがいたせいで・・・」

 TVの向こうの悲惨な状況を知って、たくみが自分を責める。

「たくみ、何言ってるのよ!」

「そうだよ!たくみお兄ちゃんは、みんなのために頑張ったんだから!」

 和海と美優がたくみを弁解する。しかしたくみの悔やみは消えない。

「けどそれで、オレは人間を殺したんだ・・ビーストでもガルヴォルスでもない、悪いことをしているわけでもない人間をオレは・・・おい、見ろよ・・!」

 愕然を思わせる笑みを浮かべて、たくみが手のひらを見せる。男を殺めたその手は和海に拭いてもらったものの、まだその血が残っていた。

「あの人の血だ・・オレがそいつを殺したときについたものだ・・・憎いだろ、ガルヴォルスが・・デビルビーストが・・・」

 たくみの愕然さが次第に憤怒へと変わっていく。

「人間の進化なんて・・みんな滅びちまえばいいんだよ!」

 たくみはテーブルに思い切り拳を叩きつけた。そして憤慨の治まらないまま、1人部屋を出て行ってしまう。

「たくみ!」

 和海がそんなたくみを追いかける。ジュンたちが沈痛さを感じている中、夏子も2人に続いて外へ出て行った。

 

 ビルの屋上にやってきていたたくみ。打ちひしがれる思いを抱えて、1人夜の屋上に飛び出していた。

 そこへ和海が沈痛の面持ちで出てきた。

「和海・・・」

 たくみが振り返り、悲痛を感じている和海の顔をうかがう。

「たくみ・・わたし・・・」

 こみ上げてくる気持ちを抑えきれず、和海はたくみに駆け寄りすがりつく。たくみも彼女の想いを察し、彼女を優しく抱きとめる。

 感情のままに想ってくれる少女のぬくもりが伝わってくる。

「和海・・・ゴメン・・ゴメンな・・・」

「ううん・・いいよ、たくみ・・・」

 互いの傷を舐め合うように、互いの悲痛を確かめるたくみと和海。

 たくみは人間に追い詰められていくガルヴォルスの姿、人間を殺めた自分を深く気にかけていた。その悲しみと苛立ちをあんな形でぶつけてしまった。

 和海にはそんなたくみの気持ちを察していた。そしてジュンたちもそのことを分かってくれていると信じていた。

 そんな2人の姿を、夏子が出入り口で見つめていた。

 

 彩夏と美優は部屋のベランダから外を眺めていた。夜は昼の暴挙がウソのように静かになっていた。

「ねぇ、お姉ちゃん・・」

「ん?」

 美優が唐突に彩夏に声をかける。

「また、歌を歌ってほしいんだけど・・」

「え?歌?」

 美優が彩夏に歌をねだる。

 彩夏の歌唱力はすばらしいの一語だった。美優も彼女の父親も、そして和美もそれを認めていた。

 半年前まではよく美優にその歌声を聞かせていたが、ビーストやガルヴォルスの騒動でなかなか落ち着けず、しばらく歌うこともなくなっていた。

「でも、あまり歌ってないから、うまく歌えるかどうか・・」

「それでもいいよ。私はお姉ちゃんの歌が聴きたいだけなんだよ。」

 少し困った顔をする彩夏に微笑む美優。その笑顔に、彩夏は封印していた歌声を解いた。

「そうね・・・それじゃ、練習も兼ねて歌ってみるね。」

「うん。」

 彩夏はゆっくりと息を吸い、それを声にする。美優がそれに耳を傾ける。

 その歌声は水の流れのように滑らかで優しく、人の心を優しく包み込むようだった。美優にもそのあたたかさが伝わってくる。

 その声は、部屋の中にいるジュンと和美の耳にも届いていた。

「えっ・・この声・・・」

「ああ。これは彩夏ちゃんの声ね。聞くのは初めてだけど、とってもいい声ね。」

 彩夏の声に聞き惚れる和美。ジュンもその声にひかれていく。

「そうね。何だか、心が洗われるような気分になるわ。」

 思わず微笑むジュン。打ちひしがれていた2人の心が次第に和らいでいった。

 

 ゆっくりと姿を見せる夏子に、たくみと和海が振り返る。

「なっちゃん・・・」

「ごめんなさい・・あなたたちがそこまで辛い思いをしていたなんて・・・」

 当惑するたくみたちに謝罪する夏子。

 ガルヴォルスでもデビルビーストでもない彼女は、直接的にたくみたちの気持ちを知ることはなかった。人でないものの苦痛を、彼らを通じて彼女は密かに感じていたのだ。

「いいよ、気にしないで。なっちゃんもいろいろ頑張ってきてるんだもん・・私たちのことでこれ以上苦労をかけさせたくないよ・・」

 弁解しようとする和海が、困惑している夏子の手を取る。その手のあたたかさに、夏子がはっとなって和海の笑みを眼にする。

(この人たち・・体はガルヴォルスになっているはずなのに・・・こんなにもあたたかく感じるなんて・・・)

 人でないものでありながら、人以上にあたたかいぬくもりが伝わり、夏子の心も安らいでいく。

「そうだ!今度、私がなっちゃんのためにおいしいもの作ってあげるから。」

 和海が夏子のために腕によりをかけることを伝える。

「ケーキ以外だったらやめといたら?」

「それどういう意味?」

 からかうたくみに和海がムッとする。張り詰めた状況下にいるはずなのに、屈託のないやり取りをしている2人に、夏子は思わず笑みをこぼしていた。

「・・八宝菜よ・・」

「え?」

「八宝菜・・私の好物・・・」

 夏子がたくみたちに、自分の好きな食べ物を伝える。

「八宝菜かぁ。それならオレの腕の見せ所だな。」

「んもう・・!」

 活気のある笑みを見せるたくみ。自分が失敗という非があるため、和海は反論できずにふくれっ面になるしなかった。

 

 気持ちを落ち着かせたたくみたちが、部屋に戻ってきた。そこで彼らの耳にも、優しい歌声が届いてきた。

「この声・・・」

「きれい・・・誰が歌ってるんだろう?」

 その歌声に魅了される和海が部屋の中を見渡す。その声の主はジュンでも和美でもない。

 彼女たちはベランダのほうを見つめていた。そこには彩夏と美優がいた。

「もしかして・・」

 和海がゆっくりとベランダに近づいていく。彩夏が口を動かしているのが眼に入る。

 そのきれいな歌声を出しているのが彼女であると知り、和海はさらにその声に魅入られる。

 今はビーストになっているが、その歌声は人の心を優しく包み込むほどだった。それが彼女が人間であると思わせるには十分だった。

 やがてその歌が終わると、美優が満面の笑みを見せて拍手を送る。そして和海やジュンたちも拍手する。

「お姉ちゃんの歌、とってもよかったよ。全然間を空けてたとは思えないくらいだよ。」

「よかったよ、彩夏ちゃん。」

「こんなに歌がうまいなんて知らなかったよ。」

 美優、和美、和海がそれぞれ感動の反応を示す。その絶賛に照れ笑いする彩夏。

 彼女の歌声が、打ちひしがれていたたくみたちの心を癒すことになった。たくみは彼女に、心からの笑顔を送った。

 

 それから、ジュンと和美は自分たちの部屋に戻り、夏子も情報の整理のため警察署に戻った。彩夏と美優は雑談をしているうちソファーで眠ってしまったので、シーツをかけてそのままにした。ベットまで運ぼうとして起こしてしまったら逆効果だと思ったのだ。

 この日の夜も、たくみと和海は肌の触れ合いをしていた。和海のふくらみのある胸の乳房を優しく撫で回すたくみ。

 快感を覚え、顔を歪ませる和海。たくみはそのぬくもりを感じながら優しく微笑んでいた。

「彩夏ちゃんの歌・・とってもよかったな・・」

「そうだね・・少し前まで、私たちとっても辛かったのに・・あの歌を聴いたら、それが一気に消えてったみたいだよ・・」

 彩夏の歌声を改めて心に留めるたくみと和海。その声の力が、2人のかたくなになっていた心に安らぎを与えたのだ。

「これで、オレにも勇気が湧いてきた気がするよ。」

「え?たくみらしくないよ。勇気がないなんて・・」

「あ、ああ・・そうだな・・けど弱気になってたのは間違いないさ。それでもオレは、みんながオレたちをどう思おうと、オレは和海を守りたい。もちろんジュンやみんなも。」

「私もだよ、たくみ・・・私も私のこの力で、みんなを守ってあげたい。」

 互いの思いを伝える2人が唇を重ねる。互いの心が混じり合う感覚に包まれる。

 その間にも、たくみは和海の乳房を優しく撫でていた。

「ダメ・・たくみ・・・また・・出ちゃう・・・」

 快楽に包まれた和海が小さくあえぐ。たくみはそんな彼女の秘所に手を伸ばす。

「出ちまうなら出してもいいさ・・・後始末が大変だけどな・・」

 苦笑を浮かべるたくみ。和海が彼に体を委ねると、秘所に当てている彼の手に愛液があふれ出した。

 

 会議室に戻り、騒動の鎮圧と情報の整理を進めていた夏子。街の平和を保つため、彼女の戦いに、刑事の使命に終わりはない。

「いろいろ頑張ってるみたいね。」

 そこへ1人の女性が部屋に入ってきた。夏子よりも優雅さのあるスーツを着用した長い金髪の女性である。

 夏子は書類を書き留める手をひとまず休め、その女性に振り返る。

「気にしないでいいわ。ちょっと一言あなたに伝えておこうと思ってね。」

「はい、何でしょうか?」

 気遣う女性に、夏子は再び作業を開始しながらたずねる。

「今から街の人たちに呼びかけてくるわ。これ以上騒ぎが大きくなると収集がつかなくなる。」

「呼びかけって、何をです?」

「決まってるでしょ。ガルヴォルスに対する人間の暴挙をいさめるのよ。」

「しかし・・」

 簡単に聞き入れてくれるのかと思った夏子。すると彼女の肩を女性が優しく手を乗せる。

「ここは私に任せて。1人で抱え込むと体に毒よ。」

 そういって女性はきびすを返し、そのまま部屋を出て行こうとする。

「それでは・・よろしくお願いします、アスカさん。」

 夏子は人々との和解を任せ一礼する。現在、彼女の上司に当たる女性、アスカ蘭(らん)に向けて。

 

 

次回予告

第12話「因果」

 

一路、親戚夫婦の家に戻ってきたたくみたち。

さらなる安らぎを求めた彼らのつかの間の休息。

そんな彼の前に現れた1人の女性、アスカ蘭。

彼女の目論みとは何か?

ジュンの見せる驚愕の意味するものとは?

 

「あなたには、私たちに協力してもらうわ。」

 

 

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