ガルヴォルスinデビルマンレディー 第9話「遊戯」

 

 

「さぁ、楽しいゲームを始めようか。」

 期待感を秘めた少年、桐也の顔に紋様が浮かび上がっていた。そしてその姿が白い毛皮に覆われた獣へと変わる。

「お前もガルヴォルスだったのか・・!」

 たくみが指摘すると、桐也が白い吐息とともに微笑をもらす。

「たくみ、いったいどうした・・・えっ!?」

 そこへたくみを心配した和海たちが、うずくまっている夏子の姿に驚愕する。夏子は右手を押さえて激痛にあえいでいた。

「な、なっちゃん、どうしたの!?」

 和海の叫びにたくみが振り向く。夏子の右腕が白く凍り付いていた。

「あのガルヴォルスにやられたんだ・・お前の力で何とかしてやってほしい。」

「うん。分かったわ。」

 和海が頷くと、たくみは視線を戻す。すると桐也が右手を振り上げて向かってきていた。

「それじゃ行くよ、不動たくみ!」

 桐也が飛び上がる。たくみが全身に力を込めて、再び悪魔に変身する。

 突っ込んできた桐也を押さえ、和海たちから守る。

「たくみ!」

「たくみさん!」

 和海と彩夏の声が響く。

「に、逃げろ!早く!」

 たくみが必死に呼びかけて、和海たちに夏子を逃がすよう促す。和海と彩夏が、苦悶の表情を浮かべている夏子の体を起こす。

「なっちゃん、大丈夫!?立てる!?」

 和海が呼びかけながら、彩夏と美優と協力して、夏子をこの場から避難させる。

「和美ちゃん、みんなをお願い。」

 ジュンが和美に呼びかけ、夏子たちと合流するよう促す。

「でも、ジュンちゃんは・・!?」

 和美の言葉を聞き、ジュンはたくみと桐也に向く。

「たくみくんを助けるわ。」

「・・分かった。たくみをお願いね。」

 ジュンにたくみを任せ、和美は夏子のところに向かった。ジュンも全身に力を入れ、ビーストへの変貌を遂げた。

 

 たくみは桐也を相手にしながら、できる限り人のいないところに移動していた。たくみの悪魔の剣と桐也の氷の刃が衝突する。

 桐也のガルヴォルスとしての能力は、あらゆる凍結の力である。しかしその力を制御し切れないあまり、触れただけで対象を凍てつかせてしまう。

 だが、その力は普通の人間やものに対して有効で、ガルヴォルスやデビルビーストにはさらに力を使わなければ効果はない。

 そして彼は空気中の水分を凍結、凝縮し、それを刃として具現化させていた。さらに力を注げば、刃を媒体にして相手を凍てつかせることも可能である。

「やっぱり。思ったとおり強いね。」

「ん?」

 微笑む桐也に眉をひそめるたくみ。

「やっぱり“悪魔”に丁度いい強さだよ。でも・・」

 桐也の背後に無数の氷の刃が出現する。

「なっ・・!?」

 驚愕するたくみ。そこへ桐也が力を入れ、たくみは突き飛ばされる。

「僕に叶うガルヴォルスはいない。僕は世界で1番強いんだよ。」

 桐也が悠然とした態度を見せると、宙に漂っていた氷の刃がたくみに向かって注がれる。

「しまっ・・!」

 たくみは刃の群れを受けることを覚悟し、腕を構えて守りに入る。

 そのとき、荒々しい烈風が吹きすさみ、襲いかかる氷の刃を弾き飛ばした。

「えっ?」

 桐也が何事かと声を上げる。たくみも守りに徹していた両腕を解放する。

 2人が上空を見上げると、そこには翼を大きく広げた悪魔の姿があった。

「な、何だ・・!?」

 さらなる驚愕を覚えるたくみの視線にさらされながら、悪魔はゆっくりと地上に降りていく。その悪魔を、桐也が呆れた様子で見つめる。

 悪魔はたくみを見上げると、その姿を変える。長い黒髪を首元の辺りでひとつにまとめている青年の姿に。

「お、お前は!?」

 青年の人間としての姿に、たくみは愕然となる。青年はそんなたくみを不敵に笑う。

「覚えていてくれたようだな、不動たくみ。」

「鬼塚蓮・・・」

 たくみは記憶を巡らせながら、青年の名を思い返し口にする。

「驚いただろ?オレがこんな姿になれると。」

「それはガルヴォルスじゃない。デビルビーストか。」

「ハハハ・・その通りだ。」

 たくみの指摘に微笑をもらす蓮。たくみも地上に降り、人間の姿に戻る。

「あのとき受けた屈辱、オレの中にずっと溜め込んでいたぞ。」

「屈辱?」

「おい、まさか、あのときのことを忘れたわけじゃないよな?」

 蓮の哄笑が皮肉めいたものへと変わる。

「お前があのときでしゃばらなかったら、オレの夢が絶たれることはなかった・・・」

「夢・・・!?」

「まだ思い出せないか?お前はオレの仕事先で、オーナーの決定に逆らった。」

 蓮の苛立ちのこもった言葉に、たくみは記憶を再び巡らせる。

「蓮の仕事先・・・あっ!オレの最初のバイト先か!」

 そしてついにひとつの記憶にたどり着く。

「そうだったか?とにかく、お前がオーナーに抗議したせいで、プロデュースを任されていたオレは責任を取らされ、店を辞めさせられた。」

 屈辱を拳を震わすことで表す蓮。

「お前さえいなければ、オレは国際スポーツ祭典のスポンサーの座をつかみ、世界から注目されていたはずだったんだ!」

 

 世界規模のスポーツの祭典。その主な構成を蓮は任されていた。

 作業は着々と進行し、あと一歩で世界から注目されるはずだった。

 彼がいなければ。

「何をやっているんだ!」

 蓮の耳にオーナーの怒鳴り声が聞こえてきた。慌しく、その声のしたほうに向かう。

「どうしました、オーナー!?」

 駆けつけた蓮の眼に飛び込んできたのは、紳士服を汚したオーナーと、そわそわしながら平謝りしているバイトの少年だった。

「すみません、すみません!本当にすみませんでした!」

「馬鹿者が!よそ見をしていて気付かなかっただと!?」

 ただ謝るばかりの少年だったが、オーナーの怒りは治まらない。

「お前はクビだ!2度と私の前に姿を見せるな!」

 クビを宣告され、愕然となる少年。

「ちょっと待ってください!」

 そんなオーナーに呼びかけたのは黒髪の少年、不動たくみだった。

「何だね、君は!?」

 たくみの登場にオーナーが眉をひそめる。

「彼は一生懸命謝っているんです!クビにすることはないでしょう!」

「ふざけるな!ほんの小さなミスでも致命傷になることがあるんだ!こんな気の抜けた態度を取るなら、クビにされて至極当然だ!」

 説得するたくみをオーナーは一蹴する。そのとき、たくみの中のわだかまりが一気にふくれ上がった。

「何が至極当然だ・・・!」

「ん?」

「おい、やめろ、不動!」

「これでもコイツは一生懸命やってるんだ!それなのに、1回の失敗でクビにしちまうなんて、あんまりだとは思わないのか!」

「やめろ、不動!」

 蓮は耐えかねてたくみを取り押さえる。しかしたくみの感情は治まらない。

 そしてオーナーの苛立ちも。

「鬼塚くん・・」

 オーナーの鋭い声に、蓮は愕然とした表情を見せる。

「君の企画部には、このような礼儀を知らない人間ばかりなのかね・・!?」

「い、いえ、そのようなことは・・」

「もういい!君たちには失望した・・祭典の構成は別の企画部に任せる。」

「そんな・・!」

「そして鬼塚くん、君は我々の企画部から追放する。」

 これが、蓮の世界に飛び出す夢が絶たれる瞬間だった。

 蓮はたくみ共々、働いていた企業を辞めさせられた。

 

 そして今、たくみと蓮は再会した。2人とも悪魔の姿となって。

 一方はガルヴォルスとして、一方はデビルビーストとして対面していた。

「あのとき、お前が感情に流され、オーナーに抗議しなければ、オレは世界に出ていたんだ。」

 怒りを押し殺して、たくみを睨みつける蓮。しかしたくみも黙ってはいなかった。

「オレはあんな不条理は許せなかった。そんなのを黙って見過ごすなんて、オレにはできない!」

「そのために、お前はオレの夢を潰したんだぞ!」

 抱えていた怒りを破裂させる蓮。

 和海が認めているたくみの態度が、逆に仇となったのだ。

 しかし、怒りに満ちていた蓮の剣幕が消え、不敵に笑ってみせる。

「だが、今となってはもうどうでもいいことだ。ビーストとなり、悪魔となったオレには些細なことにしかならない。」

 蓮の体が不気味にうごめき始める。

「今は悪魔として、不動たくみ、お前の命を奪いたい!」

「なっ!?」

「お前も悪魔になっていたのは正直驚いたぞ。だが、この世界に悪魔は1人で十分だ!」

 蓮の背中から悪魔の翼が広がる。鋭い眼。頭部から突き出た角。鋭い牙。まさに悪魔そのものだった。

 そしてその爪と牙を光らせ、蓮はたくみに飛びかかる。

「くそっ!」

 たくみも毒づきながら、ガルヴォルスへの変身を遂げて蓮を迎え撃つ。

 そこへ無数の氷の刃が飛び込み、たくみと蓮に割り込んだ。

「くっ!」

「桐也、言ったはずだ!邪魔をするなら貴様らでも容赦しないと!」

 憤慨する蓮を桐也はあざ笑う。

「邪魔?それはこっちのセリフだよ。不動たくみの相手をしてるのは僕なんだ。」

 桐也が右手を空にかざし、氷の刃を出現させる。

「ゲームはやっぱり楽しくなくちゃね。」

「貴様!」

 蓮の怒りの矛先が、今度は桐也に向けられる。飛び上がる悪魔に、桐也が刃を放つ。

 その群れをかいくぐり、鋭い爪を桐也に振りかざす。桐也はこれをかわし、空気中の水分を凍てつかせて氷の剣を作り出す。

「たくみくん!」

 ただ唖然と戦況を見守るだけとなってしまったたくみに、ジュンの呼び声がかかる。

「ジュンさん・・!」

 たくみがビーストとなっているジュンに振り返る。

「いったい、何がどうなってるの・・!?」

「分からない・・いきなり仲間同士で争い始めて・・・」

 状況がいまひとつのみ込めないたくみ。蓮も桐也も彼を意識しながらも、完全に彼のことは眼中になくなっていた。

「ときかく、今のうちにここから離れましょう!」

「えっ・・けど・・」

「今は夏子さんのことも気がかりだし、八嶋さんも気分がよくならないみたいなのよ。」

 ジュンのこの言葉に、たくみは蓮と桐也の動きをうかがいつつ頷く。夏子は和海の力で助けられているとは思っていたが、ジュンに従ってこの場を離れることにした。

 

 一方、夏子は和海たちの保護を受けていた。凍てついた夏子の腕を確認してから、和海はガルヴォルスの力を確認する。

 まばゆいばかりの光を放ちながら、彼女の背中から天使の翼が広がる。

「すごい・・・」

「これが・・おーちゃんの・・ガルヴォルスの力・・・」

 その輝きに、彩夏と和美が魅入られる。

 天使の翼が、凍てついた夏子の腕を優しく包み込む。すると彼女の苦悶の表情が徐々に和らいでいく。

 桐也に凍らされた腕が、次第に人のものへと戻っていく。

 水蒸気を発する腕の凍結が解かれ、和海の翼は霧散するように消える。

「これでもう大丈夫だよ。」

 笑顔を見せる和海。夏子が落ち着いた表情を見せて、体を起こす。

「長田さん・・あなたが助けてくれたの・・・?」

 夏子が周囲を見回すと、和海は小さく頷いた。

「これが私の力・・壊す以外にも、癒すこともできる・・・」

 自分の力について口にする和海。自分がガルヴォルスであることを明かす。

「そう・・あなたの力で、凍りついた私の手が戻ったのね・・たくみとジュンは!?」

 夏子はたくみたちのことを思い出し、和海たちにたずねる。

「たくみとジュンさんはあのガルヴォルスと戦ってるわ。武士さんは、あれから気分が悪いままで・・」

 和海の視線につられて夏子が振り向くと、武士は近くの草むらで嗚咽していた。美優も彼を心配してそばにいる。

「あの2人・・・くっ!」

 たまりかねた夏子は、疲れきった体を起こす。

「ちょっと、なっちゃん!」

 和海がそんな夏子を呼び止める。

「その体じゃムリだよ!まだ休んでおかないと!」

「そうはいかない!・・あの2人が必死に戦ってるのに、私が行かないわけにはいかない!」

 和海の制止を振り切って、たくみたちのところに向かおうとする夏子。彼女の中の正義感と刑事としての責務が彼女を突き動かしていた。

「だったら、私が行く!」

 そこへ奮い立ったのは和美だった。

「タッキー!?」

「ジュンちゃんたちを助けられるのは、今は私しかいないわ!おーちゃんはなっちゃんをお願い・・・えっ!?」

 駆けつけようとした和美の視線に、2人の悪魔の姿が飛び込んだ。たくみとジュンである。

「たくみ!」

「ジュンちゃん!」

 和海と和美が降り立ったたくみとジュンに駆け寄る。

「たくみ、あのガルヴォルスは!?」

 和海の問いかけに、人間の姿に戻ったたくみが、来た方向を見据える。

「オレにもよく分からないが、いきなり仲間割れを始めやがった。」

「仲間割れ?また誰か来たの?」

「ああ。しかもそいつは、オレのバイト先にいたヤツだ・・・」

「えっ・・!?」

 苛立つたくみに驚愕する和海。

「けどもう、以前のヤツじゃない。デビルビーストとなり、悪魔となってオレを狙ってきた。今はあのガキとなぜか争ってる。」

「おそらく、アンタを狙って争いになってるのよ。自分の獲物だって。」

 たくみの困惑に答える夏子。

「とにかく、ひとまずここから離れたほうがよさそうね。今は同士討ちをしてるけど、協力して攻められたら苦しいわ。」

「ああ。そうだな・・」

 夏子の案に同意し、行動に移すたくみたち。夏子と武士の介抱を行いながら、ひとまずたくみたちのビルに駆け込むことにした。

 

 打倒たくみを狙って、蓮と桐也は激しい空中戦を繰り広げていた。氷の刃を持った腕を押さえ、力比べに持ち込まれている。

「久しぶりの楽しいゲームなんだ。邪魔するなよ。」

「それはこっちのセリフだ!たくみはオレが倒す!」

 たくみを倒すことを巡って、蓮も桐也も意地になって引こうとはしない。ビーストとガルヴォルスの、悪魔と氷の力が衝突し、空を揺るがす。

「それまでよ!」

 そこへ声がかかり、蓮たちの注意がそれる。長い金髪の女性が2人を呼び止める。

「あなたたちがすることは、そんなことではないはずよ。」

「何をバカな!オレの目的は不動たくみ!その狙いは変わらん!」

「そう。じゃ、そのたくみくんはどこに行ったのかしら?」

「何っ!?」

 女性の言葉に、蓮は眼下の地上を見渡す。しかし、たくみの姿はどこにもなかった。

「あなたたちがそんなことをしている間に、彼はここから移動してしまったわよ。」

「ちっ!」

 妖しく微笑む女性の言葉を受け、蓮が舌打ちする。

「これまでだ。ここで貴様の相手をしていても意味はない。」

「そうかい?僕は君の相手もなかなかいいとも思えるけど。」

 戦意をそがれた蓮と、疑問符を浮かべる桐也がゆっくりと降下する。そして地上に足をつけた直後、それぞれ人間の姿に戻る。

「不動たくみ、今は逃がしたが必ず貴様を見つけ出し、オレが仕留めてやる。」

「そのことなんだけど、私にいい考えがあるのよ。」

 その言葉に、敵意を見せる蓮と桐也が注意を向ける。

「それって面白いの?」

 桐也が期待を込めて女性にたずねる。

「それはあなたの演技力にかかってるわね。引き受けてくれるわね、桐也?」

「内容次第だね。」

 無邪気に笑ってみせる桐也。女性は桐也から蓮に視線を移す。

「不動たくみや、その仲間を追い詰めて外に出させるのよ。」

「あぶり出しゲームか。それもなかなか面白いんだよねぇ・・」

「そうすれば、たくみくんはあなたの前に現れることになるわ、蓮。」

「ほう?・・・そいつは楽しみだな・・」

 不敵な笑みを見せる蓮。それを見た女性もさらに妖しく微笑む。

 たくみたちを追い詰める、恐怖の策略が開始されようとしていた。

 

 

次回予告

第10話「悪意」

 

たくみたちを追い詰める恐怖の策略。

悲劇の被害者を装う桐也。

ガルヴォルスの脅威が街を覆いつくす。

偽りの正義感に駆り立てられた人々。

敵を滅ぼし、あるいは敵に固められて敗れる。

正義という名の悪意が、たくみたちに牙を向く。

 

「ガルヴォルスは、人に危険と不幸を与えるだけの存在だよ。」

 

 

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