ガルヴォルスinデビルマンレディー 第5話「再会」

 

 

 長田和海と滝浦和美。

 それぞれバイト先と仕事先で出会い、いつしか意気投合の仲にまでなっていた2人。

 離れることになっても、互いに忘れないように心に留めていた。

 和海は和美が死んだと聞かされたとき、心の底から悲しんだ。ガルヴォルスの悲劇で親しい人を亡くし、彼女は打ちひしがれていたというのに。

 その悲しみと思いを胸に秘めて、彼女は生きていくと心に決めた。

 しかし和美は生きていた。友の生存に、和海は心底嬉しかった。

 今、思わぬ形で、2人は再会の抱擁をしていた。

「タッキー、生きてたんだね・・・」

「こんなところでおーちゃんにまた会えるなんてね・・」

 喜びのあまり、2人の眼には涙があふれていた。

 ところが、彩夏と美優は何事か分からず、ただただ呆然となっていた。

「かずみさん、これって、どういう・・・?」

「えっ?」

 彩夏が問いかけたが、和海と和美が同時に振り向く。2人とも「かずみ」という名前であることを思い出し、彩夏は困惑してしまう。

「あ、いや・・どちらもどちらですから・・どういったらいいのか・・・」

「あ・・・」

 彩夏の疑問に、2人とも返答に困ってしまった。しばし沈黙して考えた後、

「私はタッキー。」

「私はおーちゃん。」

「2人そろって、Wカズ。」

 和美と和海が決めポーズを織り交ぜて、改めて自己紹介をしてみせる。昔にやって見せたものである。

 これで当時は、同じ「かずみ」による混同は解消された。

「それじゃ、よろしくね、タッキー、おーちゃん。」

 2人の挨拶に笑顔で答えたのは美優だった。彼女は早速混同を抑えてくれたようだ。

 久しぶりにやったためか、和海も和美も照れ笑いを浮かべていたが、それが心からの笑顔へと変わっていった。

 

 夏子の取調べから解放されたたくみは、和海の行方を追ってバイクを走らせていた。そこへ所持している携帯電話のバイブレーションに気付き、たくみは道路の隅にバイクを止める。

 メットを外し、ジーンズのポケットから携帯電話を取り出し、受信欄を見て和海からの受信を確かめる。

「和海からか。」

 たくみは和海に電話をかける。

「もしもし?和海、どうした?」

“あっ!たくみ、すぐに来て!”

「なっ!?和海、何があった!?」

 たくみの耳に和海の慌しい声が聞こえてくる。彼女は喜びを込めていたのだが、彼には異様な事態を伝えることとなった。

“タッキーが・・タッキーが生きてたのよ!”

「えっ?」

 どういうことなのか分からず、たくみは疑問符を浮かべる。

「とにかく、今からそっちに行く。今どこだ?」

“街外れの通りの近くの家。一軒家だから分かると思うけど。”

「分かった。近くに来たらまた連絡する。それじゃ。」

 たくみは携帯電話を切ってポケットにしまい、メットを被って再びバイクを走らせた。

 

 再び走行して数分後、たくみは再びバイクを止めた。

 和海の指示した場所と思しき場所にたどり着き、周囲を見回した。そこで、指示通りの一軒家を発見する。

「もしかして、ここか・・?」

 外したメットをバイクの上に置き、その家に近づいた。

「たくみくん。」

 そこで声をかけられ、たくみが振り返る。丁度、ジュンもそこに到着していた。

「ちょっと迷ってる間に、追いつかれちまったな。」

 作り笑顔を見せるたくみ。彼はポケットに入れていた携帯電話を取り出す。

「一応確認しとかないとな。黙って入って、違ってたらいけねぇからな。」

 照れ笑いを浮かべて、すぐに真顔になるたくみ。その深刻さにジュンも笑みを消す。

「タッキーが、生きてたって・・」

「えっ!?和美ちゃんが!?」

 たくみの言葉に、ジュンは驚きを隠せなくなる。

「でも和美ちゃんはあのとき・・・」

「オレも詳しくは聞いてない。けど、アイツがウソや悪い冗談をいうとは思えないし・・とにかくもう1度連絡してみる。確認してみればはっきりすることだ。」

 たくみは携帯電話のボタンを指で押そうとする。

「あっ!たくみ!」

 そのとき、和海の声がかかり、たくみとジュンが彼女に振り向く。

「和海、無事だったか。」

「無事も何も、私は何もされてないよ。それより・・」

「それより、どういうことなんだ?」

 駆け寄ってきた和海に、たくみは先程の話を持ちかけた。

 滝浦和美が生きていた。

 彼女と面識のないたくみは釈然としない心境だったが、彼女と親しいジュンには喜ばしいことこの上なかった。

 和海が説明をしようとしたとき、玄関から2人の少女が姿を見せた。あのデビルビーストとガルヴォルスの姉妹だ。

 彼女たちに続いてもう1人、顔を出してきた少女がいた。

「こ、こんなことって・・・」

 その姿に、ジュンは歓喜を抑えることができなかった。そしてその少女も、ジュンの姿を見て、眼に涙を浮かべていた。

「和美ちゃん!」

「ジュンちゃん!」

 ジュンと和美が駆け出し、互いを抱きとめた。周りなど一切気に留めず、再会を心から喜んだ。

「和美ちゃん・・・ホントに生きてたんだね・・・」

「ジュンちゃんも無事でよかった・・・」

 互いを強く抱きしめる2人。その眼には大粒の涙があふれていた。

 その感動の場面に、和海と彩夏、美優も喜びを感じる。状況がうまくのみこめていなかったが、たくみも2人の再会を素直に喜んだ。

「とにかく中に入りましょう。いろいろ話もありますし。」

 家にみんなを招く彩夏。たくみたちも頷き、中に入った。

 

 彩夏と美優が紅茶を運んできた頃、たくみと和海、ジュンと和美はそれぞれ話を弾ませていた。

 和美が離れていた間のこと。たくみと和海との出会い。話すことが多すぎるほどなのに、それがうまく言葉にならない。

「とにかく、和美ちゃんが無事でよかったわ・・・」

「私もだよ、ジュンちゃん・・・」

 再会の感動がいまだ治まらない2人。そこへたくみが、抱えていた疑問を投げかけた。

「ところで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・?」

「えっ?えっと・・」

「オレはたくみ。不動たくみだ。」

 返答に困った和美に、たくみは自己紹介をした。

「不動?ジュンちゃんと同じ苗字・・」

「全くもって偶然が重なるもんだなぁ。“ふどう”に“かずみ”ときたもんだ。」

 ポツリと呟く和美に、たくみが気さくな笑みを見せる。

「それで、聞きたいことって?」

「ああ。ジュンさんから聞いたんだけど、アンタ、死んだって聞いてたんだけど・・」

 真剣に話を持ちかけるたくみに、周囲から笑みが消えた。テーブルに紅茶を置いた彩夏も美優も息をのむ。

「ジュンさんの話じゃ、眼の前でビーストに殺されたって・・・なのに、アンタは・・」

「たくみ・・!」

 話を聞こうとするたくみを和海が言いとがめる。

「けど、こういうことは早めに聞いておかないと、気分が悪くなっちまうだろ・・」

 不快感に顔を歪めるたくみに、和海は押し黙る。ジュンや和美にそのことを聞くのは、彼自身後ろめたさを感じていた。

「実はお父さんが・・・」

 話を切り出したのは彩夏だった。周囲の視線がいっせいに彼女に向く。

「お父さん?」

「うん。実は私のお父さん、デビルビーストを研究していた科学者だったの。」

「何だって!?」

 たくみが驚きの声を上げる。和海たちも動揺を隠せない。その様子をうかがいつつ、彩夏は話を続けた。

「倒れている和美さんをお父さんが偶然見つけて、そのときビースト測定器が反応して、それでビーストだって知ったの。でも、そのときにはもう息がなかったの。」

 その言葉に、ジュンは和美の自宅を思い出していた。

 彼女の両親がビーストに襲われて以来空き家になっていたが、ジュンは亡くなった彼女をその家に運び、その死を涙した。

 その衝撃的な出来事は、今でもジュンの心に深く刻まれている。

「その頃、お父さんは、ビーストの再生力について研究していたわ。何とか助けられないかという願いも込めて、和美さんにその蘇生を試みてみたの。」

「それで、私は生き返ることができたの。」

 彩夏の話に和美が続く。

「私はもちろん、おじさんも奇跡としか思えなかったよ。」

「それで蘇生は成功と見られたけど、その技術を狙って、他の学者がお父さんに押し問答になって・・そこでお父さんは、私たちの家から離れることにしたの。みんなに迷惑をかけたくないからって。私たちもそれに賛成して、お父さんを見送ったの。」

 彩夏と美優の父親の起こした奇跡の蘇生術。結果、和美を復活させることには成功した。

 しかし、それがきっかけで周囲の人々が彼に群がり、蘇生術を追い求めて酷な状況を引き起こすことにもつながった。

 奇跡の成功は、新たな火種をまく形となってしまった。

「何はともあれ、アンタが無事で、みんな喜んでるよ。まぁ、オレはアンタと会うのは今日が初めてなんだけどな。」

 正直な気持ちを口にし、照れ笑いを浮かべるたくみ。和海たちに再び喜びが浮かび上がる。

 周りがこうして幸せを感じあってほしい。それがたくみの願いだった。

 

 それからたくみたちは、和美、彩夏、美優を連れてマンションに戻った。今夜は彩夏たちは、ジュンの部屋に泊まることになった。

 ジュンと過ごしていた部屋。何も変わらない風景と面影。和美の眼に懐かしさが宿っていた。

 再び話を弾ませた後、彩夏と美優は眠りこけてしまっていた。たくみたちと出会い励まされたことに安心を感じたのだろう。

 それを見送り、たくみと和海も部屋に戻っていった。

 そして2人はベットに横になり、彼女の親友との再会を喜んだ。

「ホントによかったよ・・・タッキーが生きててくれたことが・・・」

「オレはアイツに会うのは今日が初めてだったけど・・お前の嬉しさ、しっかりと伝わってきているよ。」

 微笑む和海の肌を、たくみは優しく抱き寄せる。

「オレはお前を守りたい。それはオレの正直の、1番の願いだ。だけど、周りのヤツらが傷ついて、お前が傷つくのは辛い・・」

「ありがとう・・でも私は・・いつまでもあなたに守られてるわけじゃないよ。あなたを守る力を、今の私は持ってるから・・・」

 和海もたくみを抱きしめる。そして2人は互いの唇を重ねた。

 思いを交錯させ、愛を感じながら、2人は眠りについた。

 

 ジュンと和美も、たくみたちと同様に、裸でベットに横たわっていた。

「ジュンちゃん・・夢じゃないんだよね・・・わたし、またジュンちゃんと一緒になれたんだね・・・?」

「和美ちゃん・・・私も、これが夢じゃないって・・そう思いたい・・・」

 微笑む和美を、ジュンは眼に涙を浮かべながら抱きしめる。

「彩夏ちゃんたちと過ごしてたときも、ジュンちゃんに会いたいとは思ってた・・でも、あの子たちを放っておくこともできなかった・・・」

 沈痛の面持ちになる和美。ジュンはその困惑を察して、彼女の髪を優しく撫でる。

「たとえ離れてたって、私と和美ちゃんはちゃんとちながってるわよ。」

「うん、そうだね。」

 和美は頷くと、ジュンの涙を流す顔を見つめる。そしてその視線が、彼女の胸元に移る。

「きれいな体してるね。」

「和美ちゃんもね。」

「ううん。私はまだまだだよ。こんないい胸してないもん・・」

 和美がおもむろにジュンの胸に手を当てる。ジュンがその手の感触に気持ちを高まらせる。

「あたたかい・・ジュンちゃんの気持ちが伝わってくるみたい・・・」

「和美ちゃん・・・」

 小さく呟くジュンの胸に和美は寄り添った。まるで母親に甘える赤ん坊のように、親しんできた1人の女性に彼女は身を委ねていた。

 ジュンもその懐かしいぬくもりを感じていた。決して欠かしてはいけない大切な人のあたたかさ。

 ジュンは和美を強く抱きしめた。その抱擁に和美が戸惑う。

「ちょっと、ジュンちゃん・・?」

 思わず顔を赤らめる和美。しかしジュンは抱擁をやめない。

 自分の中にある喜び、悲しみ、苦しみ、その全てを伝えてあげたい。和美に対するジュンの思いは一途だった。

「和美ちゃん、私たち、これからはずっと一緒よ・・・」

「ジュンちゃん・・・?」

 突然のジュンの言葉に、和美は少し戸惑いを見せた。しかし彼女の気持ちを察して、すぐに笑みを見せる。

「もう絶対に、和美とは別れないから・・・」

 和美に見せるジュンの満面の笑顔。その頬には大粒の涙が流れていた。

 親友の生還と再会。ジュンにとって、これ以上の喜びはなかった。

 

 薄暗い洞窟内。月の明かりはおろか、日の光さえも届かないほどの暗闇が包み込んでいる。

 その中に、1人の少女がいた。彼女は両手両足を何かに縛られている状態で意識を失っていた。

 冷たい洞窟の空気を受けて、少女は眼を覚ました。流れゆくそよ風が、彼女の茶色がかった髪を揺らす。

「ここは・・どこ・・?」

 周囲を見回して、自分のいる場所を何とか探ろうとする少女。そこで彼女は異様な光景を目の当たりにする。

 夜目の利いてきた彼女の眼に、何体もの人の形をした像が並んでいた。何体かは糸のようなものが張り付いていた。

「これって・・!?」

「ここは私の裏アトリエだよ。」

 驚愕する少女に、落ち着きのある声がかかってきた。振り向くとそこには、紳士服に身を包んだ男が立っていた。

「あ、あなたはたしか・・・!?」

 眼の前に現れた男に、少女は見覚えがあった。いや、芸術に興味がある人ならば、まず彼の名前を知らない人はいないだろう。

 梶野精二(かじのせいじ)。日本をはじめ世界中でその才華を認められたカリスマデザイナーである。

 しかし、名声と芸術を賞賛された姿は、表の彼だった。

「ちょっと手荒なことをしてすまなかったね。でもあまり騒がれると困るからね。」

 梶野が悠然とした態度で、不敵な笑みを少女に見せる。その表情に、異様な形の紋様が浮かび上がる。

 そしてその姿が一変し、蜘蛛を思わせる怪物の姿になった。

「キャアアァァァァーーー!!!」

 怪物に変身した梶野に、少女は悲鳴を上げる。

「こういう姿は、あまり人前で見せたくないからね。でも私のこの力は、最高位の作品を作り出せるんだよ。」

 梶野の言葉の意味が分からず、少女は呆然となる。彼は蜘蛛の口から霧のようなものを噴射する。

 少女にかけられたその霧は、髪や体に付着していく。

「ちょっと、何、コレ・・!?」

 困惑する少女が、張り付いていく糸を振り切ろうとする。しかし、手足を弾力性のある糸に縛られていて、思うように動けない。

「やめて!あたしに何をしようと・・!?」

 声を荒げて問いかける少女に、梶野は再び不敵に笑う。

「言ったはずだよ。この力は最高の作品を作るためのものだって。君は私の作品として、これから生きていくんだ。」

「な、何を言って・・・ぁああぁぁぁ・・・」

 さらに驚愕する少女の抗いが次第に弱まっていく。梶野の吐く糸がさらに体にまとわりつき、その自由をさらに奪っていく。

「いや・・・やめて・・・たす・・け・・・て・・・・」

 糸は少女の体を覆いつくし、隙間なく包み込んでいく。微動だにしなくなった彼女の姿は、まるで石膏の像のようだった。

「また新しく、“白糸のオブジェ”が加わった。」

 微笑をもらす梶野が、人間の姿に戻る。

 指を鳴らすと、少女の手足を縛っていた糸が、弦のように断ち切られる。これで彼の力によって生み出される作品が完成する。

 梶野はガルヴォルスだった。蜘蛛の姿に変身できる彼は、知り合う女性たちをこの洞窟に誘い、糸を使って白い像にしていた。

「もう少し増えたら、よりすばらしいものを選別して、観衆に公表することにしよう。彼女たちも作品としての魅力をアピールできて、さぞ喜ぶことだろうね。」

 洞窟内に並ぶ少女の像たちを見渡して、梶野は満足げになって立ち去っていく。彼の芸術を際立たせる策略に、さらなる拍車がかかり始めていた。

 

 

次回予告

第6話「蜘蛛」

 

とあるプールパークを訪れたジュンと和美。

そこに現れた男、梶野。

最高位の芸術の奥に隠された白糸の罠。

ガルヴォルスの誘惑に引き寄せられていく和美。

親愛の友を救うため、ジュンが梶野の前に立ちはだかる。

 

「獣の娘か・・私の最高の作品とするにふさわしいな。」

 

 

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