ガルヴォルスForce 第24話「フォース」
渚を逃がそうとする亮平に、時雨は行く手を阻まれる。
「どこまで邪魔をすれば気が済むんだ・・お前は!」
逃走していく渚を眼にしながら、時雨が亮平に怒号を上げる。だが亮平に完全に行く手を阻まれ、時雨は渚を見失ってしまった。
「魔女が・・・くそっ!」
悔しさをあらわにする時雨が、ようやく亮平を振り払う。だが今の時雨はそれが精一杯だった。力を使い果たした彼は、そのままその場に倒れこんでしまった。
「時雨さん・・・!」
倒れた時雨に亮平が困惑を浮かべる。だが同じく体力を激しく消耗していた彼も、立つこともできなくなり、その場に座り込んでしまった。
亮平に促される形で、渚は逃げ延びていた。だが彼女は押し寄せる頭痛に悩まされていた。
「何という不覚・・・敵と見なした男に助けられるとは・・・!」
亮平に助けられたことに、渚は憤りを感じていた。
「許さない・・・ヤツは、絶対に許してなるものか・・・!」
さらなる憎悪の高まりを抱える渚から、霧のようなオーラがあふれ出していた。
「お前だけは必ず始末してやるぞ・・東亮平!」
絶叫を上げた渚から閃光がほとばしる。光は彼女を狙って物陰に潜んでいた怪物たちを一瞬にして消し去った。
「もう誰の声にも耳を貸さない・・私の本能の赴くままに、私は戦う・・・!」
不気味な笑みを浮かべる渚が、ゆっくりと歩き出す。彼女の心は魔女に染め上がろうとしていた。
亮平は気絶した時雨を連れて、家に帰ってきていた。リビングに入ったところで、時雨は眼を覚ました。
「ここは・・・僕は・・・?」
「気が付いたみたいだね・・家の中だよ・・時雨さんを放っておくことができなかったから、ここまで運んできた・・」
当惑を浮かべる時雨に、亮平が微笑んで声をかける。だが時雨は亮平への懸念を募らせ、眉をひそめる。
「どうして僕を助けたんだ・・・もう、僕と君は敵同士なんだぞ・・・!」
「もう僕たちの戦いは終わった・・だから、時雨さんはもう、僕の敵じゃない・・・」
「違う!・・君は魔女を守ろうとしている・・だから君は、僕の敵だ!」
「今、僕たちにはやるべきことがある!・・僕には僕の・・時雨さんには時雨さんの・・・」
苛立ちを見せる時雨に対し、亮平は自分を抑えようとしていた。
「僕が渚ちゃんを連れ戻す・・それ以外に、僕が取れる選択肢はないんだ・・・」
「待て・・僕には、汐ちゃんを助けるために・・・!」
「時雨さんには、姉さんのそばにいてあげてほしいんだ・・・」
亮平が口にした言葉に、時雨が戸惑いを見せる。
「あんな姿にされてしまった姉さんのそばにいてほしい・・それが姉さんのためになり、時雨さんのためにもなるんだ・・・」
「亮平くん・・・君1人で、魔女と会うつもりなのか・・・!?」
時雨が投げかけた疑問に、亮平は小さく頷く。
「渚ちゃんはまだ救える・・救える可能性がゼロだって言われても、必ず連れ戻す・・・!」
「亮平くん・・・君はそこまで・・・」
「姉さんを頼む・・・僕は渚ちゃんを連れて、一緒に帰るから・・・」
困惑を見せる時雨に言いかけると、亮平は外に向けて歩き出す。玄関のドアを開けると、一気に加速して外に飛び出していった。
「亮平くん・・・」
動揺に包まれていた時雨は、亮平を追いかけることができなかった。彼が向かったのは汐の部屋。そこでは彼女が今も、全裸の石像として立ち尽くしていた。
「汐ちゃん・・これでよかったのか・・・?」
汐に向けておもむろに声をかける時雨。
“亮平を信じてあげて、時雨・・・”
「汐ちゃん・・・!?」
汐の声を耳にした気がして、時雨が声を荒げる。だがその声が聞き間違いであると、彼は実感した。
“あたしも亮平と渚ちゃんのこと、信じてるから・・・”
「汐ちゃん・・・それで君は、納得できるって言うのかい・・・!?」
“できるよ・・だって今までずっと暮らしてきたんだもん・・信じられるよ・・・”
汐の優しさを実感して、時雨は戸惑いを膨らませる。彼は想いの赴くまま、彼女の石の裸身を優しく抱きしめた。
「ここまできたら・・もう僕も信じるしかなくなるじゃないか・・・」
汐にすがりつく時雨が涙を流す。どうしたらいいのか分からなくなっていた時雨は、汐のそばにいること以外に、自分のすべきことを見出せなかった。
今度こそ渚を連れ戻そうと、亮平は躍起になっていた。彼は街の中を必死に駆け回って探していく。
(渚ちゃん・・どこにいるんだ・・・僕の前に出てきてくれ・・・)
渚との出会いを強く願う亮平。彼は人込みを抜けて、街外れに出てきていた。
そこで亮平は渚の気配を感じ取り、足を止めた。
(この近くに・・渚ちゃんがいる・・・!)
亮平は渚を求めて再び駆け出す。彼は人気のない草原にやってきた。
「渚ちゃん!どこにいるんだ、渚ちゃん!?」
呼びかけて周囲を見回す亮平。だが彼の前に現れたのは渚ではなく、大人数の怪物たちだった。
「バケモノ・・・僕の邪魔をしないでくれ・・・!」
いきり立った亮平が異形の姿に変身する。しかし怪物たちは引き下がる気配を見せない。
「すぐにオレの前から消えろ・・でないと、全員この手で倒してやる・・・!」
「オレたちを倒すだって・・?」
「ずい分と粋がってるなぁ・・」
言い放つ亮平を、怪物たちがあざ笑う。
「魔女を倒す前の行きがけの駄賃だ。肩慣らしにお前から始末してやる・・・!」
いきり立った怪物たちが亮平に飛びかかる。
「言っても分からないのか、お前たちは・・・!」
全身に力を込めた亮平が、怪物たちを迎え撃つ。彼の体が灰色へと変わっていく。
超人的な力を発揮した亮平に、怪物たちはなす術がなかった。多勢で押し寄せても、それを上回る亮平の力に返り討ちにされ、怪物たちの大半が鮮血をまき散らしながら絶命していった。
「つ、強い・・・!」
「魔女に迫る強さだ・・・!」
「こんなヤツがいたなんて・・・!」
亮平の発揮した力に畏怖を覚える怪物たち。鋭く見据える亮平に、怪物たちが思わず後ずさりしていく。
「こ、こんなことで怖気づいたら、魔女に勝てるはずもねぇ!」
「このまま尻尾巻いて逃げるくらいなら、アイツと戦ってくたばるほうがマシだ!」
怪物が恐怖を払いのけようとして、亮平に飛びかかる。だが、突如飛び込んできた閃光に巻き込まれ、怪物たちが消滅する。
眼を見開いた亮平が、光が飛んできたほうに振り返る。その先には全身に淡い光を宿した渚の姿があった。
「渚ちゃん・・・!」
「やってきたか、お前・・・今度こそ消し去ってやる・・私に未練がないように・・・!」
息を呑む亮平に、渚が不気味な笑みを浮かべる。彼女の登場に怪物たちが体を震わせる。
「現れたぞ・・魔女が・・・!」
「魔女を真っ先にやってやるぞ・・・!」
標的を渚に変えて、怪物たちが飛びかかる。だが渚の驚異の力に敵うはずもなく、彼女の放った閃光で全滅することとなった。
「これで邪魔者は消えた・・・これでお前を心置きなく倒すことができる・・」
渚が亮平に眼を向けて不敵な笑みを見せる。亮平は気負うことなく、真剣な面持ちを浮かべていた。
「もう逃がさない・・逃げる必要もない・・・ここで終止符を打つとしよう・・・」
「もうやめてくれ、渚ちゃん・・一緒に帰ろう・・・姉さんと時雨さんが待ってる・・・」
亮平が切実な思いで渚に呼びかける。だが渚はその呼び声を聞き入れようとしない。
「私はお前と運命を共にする気はない・・私はお前と一緒にいたくない・・・!」
「オレは!・・オレは一緒にいたい・・・!」
声を荒げる渚に、亮平も声を張り上げる。彼は怪物から人間の姿に戻る。
「僕は渚ちゃんと一緒にいたい・・・僕は渚ちゃんと一緒の時間を過ごしたい!」
「お前のその願いが叶うことはない・・私が拒絶するからだ・・・」
「僕は決めたんだ・・渚ちゃんと一緒に帰る・・渚ちゃんと一緒に、これからもたくさん思い出を作っていくって・・・!」
ひたすら自分の気持ちを口にしていく亮平。だが渚は頑なに亮平を拒む。
「何度も言わせるな・・私は魔女と忌み嫌われている存在・・私に迫るものは全て存在する・・・お前とて例外ではない・・・」
「違う!・・渚ちゃんの本当の気持ちを、僕はまだ聞いていない・・・!」
あざ笑ってくる渚だが、亮平は声を張り上げる。
「きちんと言ってほしい・・・渚ちゃんの、本当の気持ちを・・・!」
「しつこいぞ!私にお前が消えることに何の未練も・・・!」
呼び続けていく亮平に怒鳴る渚だが、激しい頭痛に襲われて顔を歪める。
「こ・・ここまで来て、また・・・!」
激痛に耐えることができず、渚がその場にひざを付く。その痛みの理由を悟っていたため、亮平は驚く様子を見せず深刻さを浮かべていた。
「渚ちゃんは、本当は僕と同じ気持ちなんだ・・それを否定しているから、辛くなっている・・そうじゃないのかい・・・?」
「違う・・・この苦しみは、お前が・・お前がいるから・・・!」
亮平の言葉を否定しようとする渚。だが言葉とは裏腹に、気持ちは亮平にひかれている。彼女はそれさえも拒もうとするが、その自分の想いに押しつぶされそうになっていた。
「僕はもう迷わない・・渚ちゃんが本当の気持ちを伝えてきてくれるまで、僕は戦い続ける・・たとえ渚ちゃんと戦うことになっても・・・!」
自分の想いを今度は体でぶつけようとする亮平が、異形の姿に変身する。
「戯言を・・結局はその姿、その力で私を葬るつもりのくせに・・・!」
憤慨した渚が亮平に向けて閃光を放つ。亮平は跳躍して光をかわす。
「オレが葬るのは渚ちゃんじゃない・・渚ちゃんの中にいる“魔女”だ・・・!」
「私は怪物たちが口にしている“魔女”そのものだ・・魔女を葬りたいのなら、私を葬るしかない・・・」
「オレはオレのこの想いを伝える・・・それは、渚ちゃんの中にいる魔女を追い出すことにもなるんだ!」
「どこまでもたわけたことを・・2度とその口を叩けないようにしてくれる!」
眼を見開いた渚が亮平に再び閃光を放つ。
「渚ちゃんを助けるために、オレは全力を出し切る!」
言い放つ亮平の体が灰色に変わる。全開となった彼が、自分が心から守りたいと思っている相手と一戦交えることとなった。
渚の放った閃光を、亮平は両手で受け止めて、上へと弾き飛ばす。立て続けに飛んできた光の弾を、亮平はさらに手で弾き飛ばしていく。
(赤の力と金色の速さを兼ね備えている・・それなのに、青のバランスも保っている・・・)
亮平の発揮した力に毒づく渚。彼女は両手に光をまとって、亮平に飛びかかる。
その光の打撃を受ける亮平だが、押されずに踏みとどまっている。
(しかも、緑の耐久力と自然治癒力まで備えている・・その能力の行使の制限も解除されている・・・)
警戒心を強めた渚は、攻を焦ることなく後退し距離を取る。
(4つの形態が全て、今のヤツの中に秘められている・・・4つの力を備えた存在・・まさにフォース・・・!)
亮平の発揮する能力に脅威を覚える渚。それぞれ特化した4つの能力を全て備えた存在、フォース。亮平は今、そのフォースとなっていた。
(魔女とフォースか・・お互い、厄介な相手ということか・・・)
この戦いの組み合わせに、渚は胸中で苦笑する。
(本当に厄介だ・・全く!)
込み上げてくる苛立ちに駆り立てられて、渚が亮平に閃光を放つ。だがこの光にも亮平は耐え抜いた。
「フォースは、私の力をも脅かすというのか・・・!?」
自分の力が打ち破られたことに、渚は愕然となる。亮平はフォースの力だけでなく、迷いのない強い意思も持っていた。
「もう容赦はしない・・私の行く手をさえぎる壁として、私は全ての力を使いきる!」
感情をむき出しにした渚が両手を掲げる。その両手に光が集束されていく。その度合いは今までの比ではない。
「これが私のお前への憎悪・・安息を求める私のお前への憎しみが、持てる以上の力を引き出すことができた・・・」
「渚ちゃん・・・!」
禍々しさを宿す渚の光に、亮平は息を呑む。彼は自分の存亡だけでなく、渚の安否に対しても危機感を募らせていた。
「これだけの力を凝縮させた光、お前は受け止めることができるか!?よけたならここから街に軽く届くぞ!」
「何だと!?・・・そこまでして、魔女はオレを打ち負かしたいというのか・・・!?」
哄笑を上げる渚に亮平が毒づく。
「そんなこと言われたら、よけずに受け止めるしかないじゃないか!」
「逃げずに戦おうとするお前の勇気は賞賛しよう!だがお前に残されている末路は破滅しかない!」
投げやり気味に言い放つ亮平に、渚が不敵な笑みを見せる。
「そんなことはない・・オレと君と一緒なら、どんな未来だって切り開くことができる・・そう信じてるんだ・・・!」
「そんなことを信じてもすぐに裏切られる・・私がこれで、粉々に打ち砕いてやる!」
信頼を寄せる亮平に、渚が閃光を解き放つ。亮平は全身に力を込めて、閃光を受け止めようとする。
「止めてやるさ!・・渚ちゃんが、これ以上辛くならないように!」
言い放つ亮平が選考を受け止める。だが光の威力は強く、亮平は徐々に押されていく。
(これが渚ちゃんのオレへの憎しみだっていうのか・・こんなハンパじゃないものだったのか・・・!?)
渚の憎悪に毒づく亮平。体への負担が回復力を上回り、彼の体から血が吹き出る。
(だけどオレは逃げられない・・渚ちゃんの気持ち、全部オレが受け止めてやる!)
亮平は決意を秘めて、全身に力を込める。彼は渚の閃光を抱え込み、締め付けていく。
「バカなヤツだ!私の力を押しつぶそうとでもいうのか!?そんなことで、私の力がつぶされるものか!」
渚が眼を見開いて高らかに言い放つ渚。
「押しつぶされたりしない!オレは渚ちゃんと一緒に帰るんだ!」
だが亮平は諦めずに、光を受け止める両腕に力を込めていく。
「ムダだ!私の最高の力を、打ち破ることなど・・!」
渚がその亮平の行為をあざ笑おうとしたときだった。突如彼女の眼から涙が流れてきた。
「どういうことだ・・・なぜ、涙が・・・!?」
この涙の理由が分からず、困惑する渚。涙を拭おうとする彼女だが、次から次へと涙があふれてくる。
「私は、悲しんでいるのか・・ヤツにこんなことをしている私自身を・・・」
込み上げてくる感情を抑えることができず、渚は体を振るわせる。
「私はいつしか欲していたのか・・フォースを・・あの男を・・・」
頑なになっていたはずの心が揺らぎ、渚に安らぎが戻っていく。
「亮平さん・・・」
「オレは、渚ちゃんを救ってみせる!」
亮平が全ての力を振り絞り、渚の放った閃光を締め付けてつぶした。同時に渚の心に優しさが戻っていた。
次回
「こんなこと、誰が望んでいたのだろう・・・」
「まるで恋愛ゲームの主人公になったような気分だった・・・」
「でももう、これは悲劇なんかじゃない・・・」
「この運命だったら僕は受け入れる・・・渚ちゃんと一緒なら、どこへだって・・・」